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【発明の名称】 作用力変換機構およびこれを用いた駆動力伝達装置
【発明者】 【氏名】市川 和之

【要約】 【課題】ボールネジ構造の作動力変換機構において、ボール、ネジ部材およびナット部材間に与圧を付与して、ボールとボール溝間のガタを無くす。

【解決手段】ボールネジ構造の作動力変換機構におけるネジ部材31およびナット部材32は複数条のボール溝31c,31d,31e,31f、32c,32d,32e,32fを備え、ネジ部材31におけるボール溝31c,31d,31e,31fのリード角のトラック中心線L1とナット部材32におけるボール溝32c,32d,32e,32fのリード角のトラック中心線L2とを互いに異なる角度に設定することにより、ボール33、ネジ部材31およびナット部材32間に与圧を付与して、ボール33とボール溝間のガタを無くす。
【特許請求の範囲】
【請求項1】外周に周方向へ傾斜して延びるボール溝を有するネジ部材と、内周に周方向へ傾斜して延びるボール溝を有し前記ネジ部材の外周に同心的かつ相対回転可能に嵌合するナット部材と、同ナット部材と前記ネジ部材の両ボール溝間に介在するボールを備え、同ボールと前記ボール溝の作用にて、前記両部材を相対回転させる回転力とこれら両部材を軸方向へ相対移動させる軸力とを変換する作用力変換機構であり、前記ネジ部材および前記ナット部材は複数条のボール溝を有し、かつ、前記ネジ部材におけるボール溝のリード角のトラック中心線と前記ナット部材におけるボール溝のリード角のトラック中心線とが互いに異なる角度に設定されていることを特徴とする作用力変換機構。
【請求項2】請求項1に記載の作用力変換機構において、前記ネジ部材におけるボール溝のトラック中心線と前記ナット部材におけるボール溝のトラック中心線とは、これらネジ部材およびナット部材の軸方向の中央部で交差していることを特徴とする作用力変換機構。
【請求項3】請求項1または2に記載の作用力変換機構において、前記ネジ部材および前記ナット部材の各ボール溝は螺旋状溝の一部で構成されていて、これら各ボール溝には1または複数のボールが介在していることを特徴とする作用力変換機構。
【請求項4】請求項1または2に記載の作用力変換機構において、前記ネジ部材および前記ナット部材のいずれか一方のボール溝は螺旋状溝の一部で構成され、かつ、前記ネジ部材および前記ナット部材のいずれか他方のボール溝はトーラス状溝の一部で構成されていて、これら各ボール溝には1または複数のボールが介在していることを特徴とする作用力変換機構。
【請求項5】請求項1,2,3または4に記載の作用力変換機構において、前記ネジ部材および前記ナット部材は軸方向の寸法が同一であることを特徴とする作用力変換機構。
【請求項6】請求項1,2,3,4または5に記載の作用力変換機構を用いた駆動力伝達装置であり、互いに同軸的かつ相対回転可能に位置する外側回転部材と内側回転部材間に配設されたクラッチ機構およびパイロット機構間に前記作用力変換機構を配設して、前記パイロット機構からの入力としての回転力を前記クラッチ機構側へ軸力として出力し同クラッチ機構の作動を制御するように構成したことを特徴とする駆動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、作用力変換機構およびこれを用いた駆動力伝達装置に関する。
【0002】
【従来の技術】作用力変換機構の一形式として、外周に周方向へ傾斜して延びるボール溝を有するネジ部材と、内周に周方向へ傾斜して延びるボール溝を有しネジ部材の外周に同心的かつ相対回転可能に嵌合するナット部材と、ナット部材とネジ部材の両ボール溝間に介在するボールを備え、同ボールとボール溝の作用にて、これら両部材を相対回転させる回転力とこれら両部材を軸方向へ相対移動させる軸力とを変換する作用力変換機構がある。
【0003】当該作用力変換機構は、構造的にはボールネジ機構として知られていて、実用新案登録第2519936号公報に示されているように、駆動力伝達装置を構成するクラッチ機構とパイロット機構間に配設されて、パイロット機構からの入力としての回転力をクラッチ機構側へ軸力として出力し同クラッチ機構の作動を制御すべく機能する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、当該ボールネジ機構(作用力変換機構)は1条のネジ構造にて構成されているもので、ボールがネジ構造を構成する両溝(ボール溝)から抜出るのを防止するため、ボールが循環するための循環機構を設けたり、ボール溝を長くしたりしている。このため、ボールネジ機構の構造が複雑になり、かつ、軸方向に長くなって大型化する。
【0005】なお、当該ボールネジ機構の軸方向の長さを短くするにはボール溝のリード角を小さくすればよいが、ボール溝のリード角を小さくすると、ネジ部材とナット部材を軸方向へ相対移動させる出力が小さくなって、当該出力を駆動源とする装置のおける作動応答性を低下させることになる。
【0006】かかる問題に対処すべく、本出願人は特願平11−096908号出願にて、複数条のネジ構造により構成したボールネジ機構を提案している。当該ボールネジ機構においては、各ボール溝に介在するボールを1または複数の少ない個数としても、ネジ部材とナット部材間が安定した状態を呈する。このため、当該ボールネジ機構によれば、各ボール溝に介在させるボールの個数を低減し得て、軸方向の長さを短縮して小型を図ることができるとともに、各ボール溝に介在するボールの循環機構も不要となって、より簡単な構造とすることができる。
【0007】本発明者は、上記した先願に係るボールネジ機構についてさらに詳細に検討したところ、当該ボールネジ機構においては、各ボール溝がネジ部材の外周やナット部材の内周を1回転していないことから与圧を付与することができず、このため、下記に示す課題があることを知った。
【0008】すなわち、当該ボールネジ機構においては与圧を付与することができないことから、ネジ部材とナット部材間の相対回転が正転、逆転の回転方向変更時に、ボールとボール溝間に隙間が生じて応答性が低下し、また、トルクの無負荷時のボールの位置が固定できずに騒音の原因となり、さらにまた、騒音低減に対処するためにボールの個数が制限され、かつ、ネジ部材およびナット部材の軸方向の厚みが制限されることになる。
【0009】従って、本発明の目的は、当該ボールネジ機構を構造体とする作用力変換機構において、与圧を付与することができる構造に構成することにより、上記した各問題を解消することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は作用力変換機構に関し、当該作用力変換機構は、外周に周方向へ傾斜して延びるボール溝を有するネジ部材と、内周に周方向へ傾斜して延びるボール溝を有し前記ネジ部材の外周に同心的かつ相対回転可能に嵌合するナット部材と、同ナット部材と前記ネジ部材の両ボール溝間に介在するボールを備え、同ボールと前記ボール溝の作用にて、前記両部材を相対回転させる回転力とこれら両部材を軸方向へ相対移動させる軸力とを変換する作用力変換機構である。
【0011】しかして、本発明に係る作用力変換機構においては、前記ネジ部材および前記ナット部材は複数条のボール溝を有し、かつ、前記ネジ部材におけるボール溝のリード角のトラック中心線と前記ナット部材におけるボール溝のリード角のトラック中心線とが互いに異なる角度に設定されていることを特徴とするものである。
【0012】このような各ボール溝は、前記ネジ部材および前記ナット部材の各ボール溝を螺旋状溝の一部で形成することにより、または、前記ネジ部材および前記ナット部材のいずれか一方のボール溝を螺旋状溝の一部で構成し、かつ、前記ネジ部材および前記ナット部材のいずれか他方のボール溝をトーラス状溝の一部で形成することにより構成される。
【0013】また、本発明は上記した本発明に係る作用力変換機構を用いた駆動力伝達装置であり、当該駆動力伝達装置は、互いに同軸的かつ相対回転可能に位置する外側回転部材と内側回転部材間に配設されたクラッチ機構およびパイロット機構間に前記作用力変換機構を配設して、前記パイロット機構からの入力としての回転力を前記クラッチ機構側へ軸力として出力し同クラッチ機構の作動を制御するように構成したことを特徴とするものである。
【0014】
【発明の作用・効果】本発明に係る作用力変換機構においては、ネジ部材が有する各ボール溝のリード角のトラック中心線と、ナット部材が有する各ボール溝のリード角のトラック中心線とが互いに異なる角度に設定されているため、リード角のトラック中心線が互いに異なる角度の両ボール溝に介在するボールには、異なる角度差に応じた与圧が作用する。
【0015】このため、本発明に係る作用力変換機構によれば、ネジ部材とナット部材間の相対回転が正転、逆転の回転方向変更時にもボールとボール溝間に隙間が生じることがなくて作動の応答性がよく、また、トルクの無負荷時のボールの位置が固定されて騒音の発生が防止される。なお、騒音の発生を防止する特別の手段を採る必要がないことから、採用するボールの個数が制限されることはなく、また、ネジ部材およびナット部材の軸方向の厚みが制限されるようなこともない。
【0016】本発明に係る作用力変換機構においては、ネジ部材におけるボール溝のトラック中心線とナット部材におけるボール溝のトラック中心線とを、これらネジ部材およびナット部材の軸方向の中央部で交差させるように構成することができる。これにより、作用力変換機構の無負荷時には、ボールは自動的にセンタリングされて位置が固定され、作動の応答性が一層よくなり、かつ、騒音の発生を一層効果的に防止できる。また、このように構成することにより、作動力変換機構をサブアッセンブリ化することができて、駆動力伝達装置等各種の機器類への組付け性を向上させることができる。この場合、ネジ部材およびナット部材を軸方向に同一の寸法とすることが好ましい。
【0017】また、本発明に係る駆動力伝達装置によれば、当該作用力変換機構に起因して、作動の応答性がよく、かつ騒音の発生が防止される。また、当該作用力変換機構は、従来の駆動力伝達装置の作用力変換機構として採用しているカム機構に比較して軸方向および/または径方向に小型に形成することができるため、駆動力伝達装置の小型化を図ることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図面に基づいて説明するに、図1には本発明の一例に係る駆動力伝達装置Aが示されている。当該駆動力伝達装置Aは、本発明の一例に係る作動力変換機構Bを採用しているもので、図2には当該作動力変換機構Bが示されている。駆動力伝達装置Aは、図5に示すように、前輪駆動をベースとする四輪駆動車における後輪側への駆動力伝達経路に配設されて、後輪側への駆動力の伝達を制御する。
【0019】当該四輪駆動車において、トアランスアクスル12はトランスミッション、トランスファおよびフロントディファレンシャルを一体に備えるもので、エンジン11の駆動力をトランスアクスル12のフロントディファレンシャル13を介して、両アクスルシャフト14a,14aに出力して左右の前輪14b,14bを駆動させるとともに、第1プロペラシャフト15側に出力させる。第1プロペラシャフト15は、駆動力伝達装置Aを介して第2プロペラシャフト16に連結されており、第1プロペラシャフト15と第2プロペラシャフト16がトルク伝達可能に連結された場合には、駆動力はリヤディファレンシャル17に伝達され、リヤディファレンシャル17から両アクスルシャフト18a,18aへ出力されて左右の後輪18b,18bを駆動させる。
【0020】駆動力伝達装置Aは、第1プロペラシャフト15と第2プロペラシャフト16間に配設されているもので、図1に示すように、アウタケース20a、インナシャフト20b、メインクラッチ機構20c、およびパイロットクラッチ機構20dを備えるとともに、本発明の一例に係る作用力変換機構Bを備えている。
【0021】駆動力伝達装置Aを構成するアウタケース20aは、有底筒状のハウジング21aと、ハウジング21aの後端開口部に螺着されて同開口部を覆蓋するリヤカバー21bとにより構成されている。ハウジング21aは、非磁性材料であるアルミ合金にて形成されている。また、リヤカバー21bは磁性材料である鉄製の内外両筒部21b1,21b2と、両筒部21b1,21b2間に位置して溶接等により固着された非磁性材料であるステンレス製の中間筒部21b3にて形成されている。
【0022】インナシャフト20bは、リヤカバー21bの中央部を液密的に貫通してアウタケース20aのハウジング21a内に同軸的に挿入されていて、軸方向を規制された状態で、ハウジング21aとリヤカバー21bに回転可能に支持されている。インナシャフト20bには、第2プロペラシャフト16の先端部が挿入されて、トルク伝達可能に連結される。なお、アウタケース20aを構成するハウジング21aの前端部には、第1プロペラシャフト15がトルク伝達可能に連結されている。
【0023】メインクラッチ機構20cは湿式多板式の摩擦クラッチであり、多数のクラッチプレート(インナクラッチプレート22a、アウタクラッチプレート22b)を備え、ハウジング21a内の奥壁側に配設されている。摩擦クラッチを構成する各インナクラッチプレート22aは、インナシャフト20bの外周にスプライン嵌合して軸方向へ移動可能に組付けられ、かつ、各アウタクラッチプレート22bはハウジング21aの内周にスプライン嵌合して軸方向へ移動可能に組付けられている。各インナクラッチプレート22aと各アウタクラッチプレート22bは交互に位置していて、互いに当接して摩擦係合するとともに互いに離間して自由状態となる。
【0024】パイロットクラッチ機構20dは電磁式クラッチであり、電磁石23、摩擦クラッチ24、アーマチャ25、およびヨーク26にて構成されている。電磁石23は環状を呈し、ヨーク26に嵌着された状態でリヤカバー21bの環状凹所21cに嵌合されている。ヨーク26は、リヤカバー21bとはわずかな隙間を保持した状態で回転可能に組付けられている。
【0025】摩擦クラッチ24は、複数のアウタクラッチプレート24aとインナプレート24bとからなる湿式多板式の摩擦クラッチであり、各アウタクラッチプレート24aはハウジング21aの内周にスプライン嵌合して軸方向へ移動可能に組付けられ、かつ、各インナクラッチプレート24bは後述する作動力変換機構Bを構成するナット部材32の外周にスプライン嵌合して軸方向へ移動可能に組付けられている。
【0026】アーマチャ25は環状を呈するもので、ハウジング21aの内周にスプライン嵌合して軸方向へ移動可能に組付けられていて、摩擦クラッチ24の前側に位置して対向している。
【0027】作動力変換機構Bは、メインクラッチ機構20cとパイロットクラッチ機構20d間に配設されているもので、構造的にはボールネジ機構であって、図1および図2に示すように、ネジ部材31と、ナット部材32と、複数のボール33を備えている。ネジ部材31は、リング状を呈するもので、リング状本体31aの内周にスプライン31bを備えるとともに、リング状本体31aの外周に4条のボール溝31c,31d,31e,31fを備えている。ナット部材32は、リング状を呈するもので、リング状本体32aの外周にスプライン32bを備えるとともに、リング状本体32aの内周に4条のボール溝32c,32d,32e,32fを備えている。
【0028】当該作動力変換機構Bにおいては、ネジ部材31と、ナット部材32と、複数のボール33とを互いに組付けたサブアッセンブリの状態で、インナシャフト20b上にスプライン嵌合することにより組付けられていて、メインクラッチ機構20cの後側にてインナシャフト20b上にスプライン嵌合させたピストン27の後側に位置している。なお、ナット部材32のスプライン32bには、パイロットクラッチ機構20dを構成する摩擦クラッチ24のインナクラッチプレート24bがスプライン嵌合している。
【0029】このように構成した駆動力伝達装置Aにおいては、パイロットクラッチ機構20dを構成する電磁石23の電磁コイルが非通電状態にある場合には磁路は形成されず、摩擦クラッチ24は非係合状態にある。このため、パイロットクラッチ機構20dは非作動の状態にあって、作動力変換機構Bにおいては、ナット部材32はボール33を介してネジ部材31と一体回転可能であり、メインクラッチ機構20cは非作動の状態にある。このため、車両は二輪駆動である第1駆動モードを構成する。
【0030】一方、電磁石23の電磁コイルへの通電がなされると、パイロットクラッチ機構20dには電磁石23を基点として循環する磁路が形成されて、電磁石23はアーマチャ25を吸引する。このため、アーマチャ25は摩擦クラッチ24を押圧して摩擦係合させる。この結果、パイロットクラッチ機構20dにパイロットトルクが発生し、作動力変換機構Bにおいては、ネジ部材31とナット部材32間に相対回転が発生して、ボール33とボール溝31c,32c、ボール33とボール溝31d,32d、ボール33とボール溝31e,32e、ボール33とボール溝31f,32fの作用により、ネジ部材31およびナット部材32は軸方向に相対移動する。
【0031】ネジ部材31およびナット部材32の軸方向の相対移動により、ピストン27はネジ部材31およびナット部材32のいずれか一方により押動されて、メインクラッチ機構20cを摩擦クラッチ24の摩擦係合力に応じて摩擦係合させ、アウタケース20aとインナシャフト20b間でトルク伝達が生じる。これにより、車両は第1プロペラシャフト15と第2プロペラシャフト16が非直結状態と直結状態間での四輪駆動である第2の駆動モードを構成する。この駆動モードでは、車両の走行状態に応じて、前後輪間の駆動力分配比を100:0(二輪駆動状態)〜50:50(直結状態)の範囲で制御することができる。
【0032】また、電磁石23の電磁コイルへの通電電流を所定の値に高めると電磁石23のアーマチャ25に対する吸引力が増大し、アーマチャ25は強く吸引されて摩擦クラッチ24の摩擦係合力を増大させ、ナット部材32およびネジ部材31間の相対移動を増大させる。この結果、ネジ部材31およびナット部材32のいずれか一方のピストン27に対する押圧力が高められて、メインクラッチ機構20cを結合状態とする。このため、車両は第1プロペラシャフト15と第2プロペラシャフト16が直結状態の四輪駆動である第3の駆動モードを構成する。
【0033】なお、作用力変換機構Bの作動時におけるピストン27に対する押圧部材は、ネジ部材31およびナット部材32のいずれかであるが、ネジ部材31およびナット部材32の相対回転の回転方向により異なり、例えば、両部材31,32の相対回転が正転方向である場合にはネジ部材31がピストン27側へ移動してピストン27を押圧し、かつ、両部材31,32の相対回転が逆転方向である場合にはナット部材32がピストン27側へ移動してピストン27を押圧する。
【0034】しかして、作用力変換機構Bにおいては、ネジ部材31およびナット部材32の各ボール溝31c〜31f、および各ボール溝32c〜32fは螺旋状溝の一部で構成されていて、互いに対向する両ボール溝31c,32c、両ボール溝31d,32d、両ボール溝31e,32e、両ボール溝31f,32fは対をなしている。これらの各対の両ボール溝には、図2および図3に示すように、3個のボール33を介在させている。対をなす3個のボール33同士は同一対の両ボール溝に介在し、かつ、各対のボール33群は互いに異なる対の両ボール溝に介在している。
【0035】図3は、作用力変換機構Bの一部(ボール溝31c,32c対の部位)を模式的に示すもので、同図(a)は模式的な部分平面図、同図(b)は図(a)の矢印b−b方向の模式的な断面図、同図(c)は図(a)の矢印c−c方向の模式的な断面図であり、これらの図面に基づいて予圧発生メカニズムを説明する。
【0036】図3において、L1は3個のボール33の中心を通る中心線(リード角θ:基準トラック中心線と称する)であり、これに対して、ネジ部材31におけるボール溝31cのトラック中心線L2はリード角(θ−α)に設定され、かつ、ナット部材32におけるボール溝32cのトラック中心線L3はリード角(θ+α)に設定されている。これにより、両ボール溝31c,32c間に介在するボール33には、各ボール溝31c,32cの中央部へ押動させる矢印方向の力が作用し、この力が総合してボール33に対する予圧として機能する。この予圧発生メカニズムは、他のボール溝対31d,32d、31e,32e、31f,32fでも同様であり、全てのボール溝対に介在するボール33に予圧が付与される。
【0037】このように構成した作用力変換機構Bにおいては、ネジ部材31が有する各ボール溝31c〜31fのトラック中心線L2と、ナット部材32が有する各ボール溝32c〜32fのトラック中心線L3とが互いに異なるリード角(θ−α),(θ+α)に設定されているため、各ボール溝対31c,32c〜31f,32に介在するボール33には、異なる角度差に応じた与圧が付与される。
【0038】このため、当該作用力変換機構Bによれば、ネジ部材31とナット部材32間の相対回転が正転、逆転の回転方向変更時にもボール33と各ボール溝対31c,32c〜31f,32f間に隙間が生じることがなくて作動の応答性がよく、また、トルクの無負荷時のボール33の位置が固定されて騒音の発生が防止される。なお、騒音の発生を防止する特別の手段を採る必要がないことから、採用するボール33の個数が制限されることがなく、また、ネジ部材31およびナット部材32の軸方向の厚みが制限されるようなこともない。
【0039】また、当該作用力変換機構Bにおいては、ネジ部材31におけるボール溝31c〜31fのトラック中心線L2とナット部材32におけるボール溝32c〜32fのトラック中心線L3とを、ネジ部材31およびナット部材32の軸方向の中央部で交差させるように構成しているため、作用力変換機構Bの無負荷時には、ボール33は自動的にセンタリングされて位置が固定され、作動の応答性が一層よくなり、かつ、騒音の発生を一層効果的に防止できる。また、このように構成することにより、作動力変換機構Bをサブアッセンブリ化することができて、各種の機器類、例えば当該駆動力伝達装置Aへの組付け性が向上する。
【0040】当該作用力変換機構Bにおいては、各ボール33と各ボール溝対31c,32c〜31f,32f間の与圧によって発生する反力を考慮すると、各ボール溝対31c,32c〜31f,32fを4条以上の偶数条とすることが好ましく、当該作用力変換機構Bにおいては、各ボール溝対31c,32c〜31f,32fを4条に設定している。
【0041】図4には、当該作用力変換機構Bに、図3に示す予圧付与手段とは異なる与圧付与手段を採用した状態を模式的に示している。当該予圧付与手段においては、ネジ部材31におけるボール溝31c〜31fのトラック中心線L2と、ボール溝31c〜31fと対をなすナット部材32におけるボール溝32c〜32fのトラック中心線L3との関係が、第1対の両ボール溝31c,32c(c)では、いずれかのトラック中心線L1を基準として他方のトラック中心線L2を増加側(反時計方向矢印+)に偏倚させ、これに隣合う第2対の両ボール溝31d,32d(d)では、いずれかのトラック中心線L2を基準として他方のトラック中心線L3を減少側(時計方向矢印−)に偏倚させ、これに隣合う第3対の両ボール溝31e,32e(e)では、いずれかのトラック中心線L2を基準として他方のトラック中心線L3を増加側(反時計方向矢印+)に偏倚させ、かつ、これに隣合う第4の対の両ボール溝31f,32f(f)では、いずれかのリード角のトラック中心線L2を基準として他方のトラック中心線L3を減少側(時計方向矢印−)に偏倚させている。
【0042】このように構成した作用力変換機構Bにおいては、ネジ部材31が有する各ボール溝31c〜31fのトラック中心線L2と、ナット部材32が有する各ボール溝32c〜32fのトラック中心線L3とが互いに異なるリード角に設定されているため、リード角が異なるボール溝対31c,32c〜31f,32fに介在するボール33には、リード角度差に応じた与圧が付与される。このため、図3に示す予圧付与手段を採用した場合と同様の作用効果を奏するが、さらに下記のごとき作用効果を奏する。
【0043】すなわち、当該作用力変換機構Bにおいては、図4に模式的に示すように、各ボール33に対しては細矢印で示すように与圧が付与さるととともに、各ボール33群間では太矢印で示すように互いに対向する反力が生じる。この場合、当該作用力変換機構Bにおいては、ネジ部材31におけるボール溝31c〜31fのトラック中心線L2と、ボール溝31c〜31fと対をなすナット部材32におけるボール溝32c〜32fのトラック中心線L3との関係が、第1対の両ボール溝31c,32c(c)では、いずれかのトラック中心線L2を基準として他方のトラック中心線L3を増加側(反時計方向矢印)に偏倚させ、これに隣合う第2対の両ボール溝31d,32d(d)では、いずれかのトラック中心線L2を基準として他方のトラック中心線L3を減少側(時計方向矢印)に偏倚させ、これに隣合う第3対の両ボール溝31e,32e(e)では、いずれかのトラック中心線L2を基準として他方のトラック中心線L3を増加側(反時計方向矢印)に偏倚させ、かつ、これに隣合う第4の対の両ボール溝31f,32f(f)では、いずれかのトラック中心線L2を基準として他方のトラック中心線L3を減少側(時計方向矢印)に偏倚させている。
【0044】このため、隣接する対のボール33群間においては、(c),(d)間では互いに反する小さい反力が、(d),(e)間では互いに反する大きい反力が、(e),(f)間では互いに反する小さい反力が、(f),(c)間では互いに反する大きい反力がそれぞれ発生することになり、ボール33群の全体としての拘束力が高くなるという利点がある。
【0045】なお、当該作動力変換機構Bにおいては、ネジ部材31およびナット部材32の一方のボール溝を螺旋状溝の一部で構成し、かつ、ネジ部材31およびナット部材32の他方のボール溝をトーラス状溝の一部で構成するようにすることができる。
【出願人】 【識別番号】000003470
【氏名又は名称】豊田工機株式会社
【出願日】 平成11年9月16日(1999.9.16)
【代理人】 【識別番号】100064724
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 照一 (外1名)
【公開番号】 特開2001−82571(P2001−82571A)
【公開日】 平成13年3月27日(2001.3.27)
【出願番号】 特願平11−262441