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【発明の名称】 トロイダル型無段変速機の変速比調整方法
【発明者】 【氏名】酒井 弘正

【要約】 【課題】トロイダル型無段変速機の組み付け精度や加工精度のバラツキに起因する変速比のバラツキを抑制する。

【解決手段】通常の変速制御で使用する通常制御用斜面と、この通常制御用斜面の両側で、急傾斜で形成された衝突防止用斜面を備えたプリセスカムで、実変速比のフィードバックを行うトロイダル型無段変速機で、ステップモータを最Lo指令位置から書体値αだけHi側へ送った位置で、傾転角θが所定の調整範囲となるように調整する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 入出力ディスクに挟持されて傾転自在なパワーローラを回転自在に支持するとともに、軸まわりに回動可能かつ軸方向へ変位可能なローラ支持部材と、前記ローラ支持部材を軸方向へ駆動する油圧シリンダへの油圧を制御する変速制御弁と、車両の運転状態に応じた目標値に基づいて前記変速制御弁を駆動するアクチュエータと、前記ローラ支持部材に配設されて軸回りに回動可能なプリセスカムと、前記プリセスカムに形成されて、通常の変速制御で使用する第1のカム面と、この第1カム面の少なくとも一方の端部で、ローラ支持部材の回転角または実際の変速比が予め設定した限界値または限界値近傍の値を超えた領域で、前記第1カム面に比して急傾斜で形成された第2のカム面と、このプリセスカムの第1または第2のカム面に当接して揺動自在なフィードバックリンクを介して前記変速制御弁へローラ支持部材の実際の回転角を伝達するフィードバック手段とを備えたトロイダル型無段変速機の変速比を調整する際に、前記フィードバックリンクが第1カム面と摺接可能な変速比を、前記アクチュエータに指令する調整用目標値として設定してから、実際の変速比が予め設定した範囲となるように前記フィードバック手段を調整することを特徴とするトロイダル型無段変速機の変速比調整方法。
【請求項2】 前記調整用目標値は、フィードバックリンクが第1カム面と摺接可能な変速比のうち、第1のカム面と第2のカム面が切り替わる最大変速比近傍に設定されたことを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機の変速比調整方法。
【請求項3】 前記調整用目標値は、第1のカム面と第2のカム面が切り替わる最大変速比から、予め設定した量だけ変速比の小側に設定されたことを特徴とする請求項2に記載のトロイダル型無段変速機の変速比調整方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両などに採用されるトロイダル型無段変速機の変速比調整方法の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から車両用の変速機として、トロイダル型の無段変速機が知られており、このような無段変速機の変速制御装置としては、例えば、本願出願人が提案した特開平11−13850号公報に開示されるなどが知られている。
【0003】これは、入出力ディスクに挟持、押圧されるパワーローラの傾転角(≒実変速比)を、パワーローラを支持するトラニオンに設けたプリセスカム、フィードバックリンク及び変速リンクを介して変速制御弁にフィードバックしている。
【0004】また、変速リンクの一端には、ステップモータなどのアクチュエータを連結し、ステップモータが変速指令に応じて変速制御弁を駆動すると、トラニオンを支持する油圧シリンダが作動して、パワーローラが傾転する。そして、上記フィードバック機構が変速制御弁を駆動して、ステップモータの指令値である目標変速比へ向けて、実変速比が一致するまで変速が行われる。
【0005】また、上記のようなトロイダル型無段変速機では、トラニオンの傾転角が、予め設定した最大値または最小値を超えないように規制するストッパを設けているが、トラニオンが所定の傾転角範囲を超えようとすると、ストッパに衝突してトラニオンに損傷を与える恐れがある。
【0006】そこで、本願出願人が提案した特開平5−26317号公報のように、パワーローラの傾転角をフィードバックするプリセスカムに、衝突防止用の斜面を設けたものが知られている。
【0007】これは、図9に示すように、パワーローラを支持する端部にはプリセスカム2が配設され、フィードバックリンク54の係合部材と摺接するプリセスカム2のカム面には、通常変速制御域で用いる低いフィードバックゲインに応じた緩やかな傾斜角度の通常制御用斜面20の両側に、通常変速制御域よりも高いフィードバックゲインを付与するため、急角度の傾斜に設定された衝突防止用斜面21、21が形成される。
【0008】そして、通常制御用斜面20と衝突防止用斜面21、21との境界は、変速比が大となるLo側には凹状の屈曲部23が形成され、また、変速比が小となるHi側には凸状の屈曲部22が形成される。
【0009】通常の変速制御では、これら屈曲部22、23の間で変速を行い、これら屈曲部に対応した所定の最Lo(最大)変速比から最Hi(最小)変速比の間で、実変速比に応じたフィードバックを行う。
【0010】一方、パワーローラの傾転角が、屈曲部22、23に対応した最Loまたは最Hi変速比を超えようとすると、衝突防止用斜面21に入ってフィードバックゲインが急増し、トラニオンがストッパと衝突する以前に、パワーローラの過大な傾転を抑制することができるのである。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来例のトロイダル型無段変速機を組み立てる際には、プリセスカム2のカム面に形成した衝突防止用斜面21の開始位置の加工精度のバラツキや、トラニオンとプリセスカム2の回転方向の組み付け精度のバラツキなどにより、図9に示したカム面のうち、フィードバックゲインが増大した衝突防止用斜面21を、通常の変速制御で使用するものがある。
【0012】ここで、組み立て時には、パワーローラの傾転角、すなわち、実際の変速比と、変速機構を駆動するステップモータのステップ数との関係が、図10に示すように、予め設定したノミナル値(設計値)へ近づくように調整する必要があるが、変速制御の初期状態である停車時や発進時には、変速比が最Lo位置に設定されるため、この初期状態で各トロイダル型無段変速機のバラツキを抑制するのが望ましく、したがって、この最Lo位置でステップモータのステップ数と、パワーローラの傾転角(実変速比)の調整を行うことになる。
【0013】加工精度や組み付け精度のバラツキによって、通常の変速制御で用いる領域に衝突防止用斜面21を含んでいると、図10に示すように、ステップモータの最Lo指令位置では、パワーローラの傾転角(≒変速比)がプリセスカム2の衝突防止用斜面21に入ってしまうため、フィードバックゲインのゲインの高い領域で調整することになる。
【0014】傾転角θに対するフィードバックゲインが高い衝突防止領域(傾転角θが衝突防止用斜面21の範囲)において、図10に示すように、ノミナル値を挟んだバラツキ上限と下限に対して、傾転角θを予め設定した調整範囲内に調整する場合、フィードバックゲインが低い通常変速制御領域(傾転角θが通常制御用斜面20の範囲内)よりも大きな調整量が必要になる。
【0015】これは、フィードバックゲインが高い領域では、微少な傾転角変化でも大きなバルブ変位を発生するため、大きな調整量を必要とし、これは、図中衝突防止領域においては、ステップモータのステップ数の変化に対する傾転角θの変化が通常変速制御領域よりも小さいことからも解る。
【0016】しかしながら、上記従来のトロイダル型無段変速機の変速比調整方法にあっては、ステップモータのステップ数が最Lo指令位置で傾転角θの調整を行うため、フィードバックゲインの低い通常変速制御領域においては、ステップモータのステップ数に対する傾転角θのバラツキが大きくなってしまい、変速制御の精度が低下するという問題があった。
【0017】例えば、調整前のステップモータのステップ数とパワーローラの傾転角の関係が、図10に示したように、上記衝突防止用斜面21の開始位置のバラツキや、プリセスカム2の回転方向のバラツキ、プリセスカム2の高さ方向の寸法精度のバラツキなど、加工精度や組み付け精度のバラツキの上限値と下限値が、ノミナル値を挟んで設定されている。
【0018】なお、この図10において、傾転角θの大側が変速比のHi側(小側)で、傾転角θの小側が変速比のLo側(大側)である。
【0019】変速比の調整(傾転角θの調整、以下同様)を行うステップ数が最Lo指令位置において、この最Lo指令位置に対応する傾転角θは、バラツキ上限では最Lo傾転角よりもHi側の通常変速制御領域にあり、バラツキ下限では最Lo傾転角よりも更にLo側の衝突防止領域に入っている。
【0020】ここで、変速比の調整は、ステップ数が最Lo指令位置のときに、傾転角θが最Loを中心とした所定の調整範囲(最Lo変速比の許容誤差範囲)となるように、変速制御弁を調整することで行われる。
【0021】この変速制御弁の調整は、図10において、傾転角θとステップ数の特性をステップ数方向(横軸方向)に平行移動し、最Lo指令位置における傾転角θを調整範囲内に入れることである。
【0022】調整範囲の最大値を最Lo傾転角+β、最小値を最Lo傾転角−βとすると、バラツキ上限のものは、調整範囲の最大値へ入れるための調整量は図中aとなり、調整範囲の最小値へ入れるためには調整量bとなる。
【0023】また、ノミナルのものは、調整範囲の最大値へ設定するためには、調整量dとなり、調整範囲の最小値へ設定するためには調整量cとなり、同様に、バラツキ下限のものは、調整範囲の最大値へ入れるために調整量はfとなり、調整範囲の最小値へ入れるためには調整量eとなる。
【0024】上記調整量a〜fによって、ステップ数の最Lo指令位置で各特性を調整した結果は、図11のようになり、最Lo指令位置では所定の調整範囲に調整したのにもかかわらず、通常の変速制御領域である図中Aのステップ数では、傾転角θが最小(変速比は最大)となるバラツキ上限+調整量bと、傾転角θが最大となるノミナル+調整量dとの間には、調整範囲よりもはるかに大きなバラツキYが生じて、調整前よりも通常変速制御領域における傾転角θのバラツキが拡大して、プリセスカム2による傾転角のフィードバックの精度が低下してしまい、変速制御が困難となる場合があった。
【0025】そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、トロイダル型無段変速機の組み付け精度や加工精度のバラツキに起因する変速比のバラツキを抑制し、変速制御の精度を確保することを目的とする。
【0026】
【課題を解決するための手段】第1の発明は、入出力ディスクに挟持されて傾転自在なパワーローラを回転自在に支持するとともに、軸まわりに回動可能かつ軸方向へ変位可能なローラ支持部材と、前記ローラ支持部材を軸方向へ駆動する油圧シリンダへの油圧を制御する変速制御弁と、車両の運転状態に応じた目標値に基づいて前記変速制御弁を駆動するアクチュエータと、前記ローラ支持部材に配設されて軸回りに回動可能なプリセスカムと、前記プリセスカムに形成されて、通常の変速制御で使用する第1のカム面と、この第1カム面の少なくとも一方の端部で、ローラ支持部材の回転角または実際の変速比が予め設定した限界値または限界値近傍の値を超えた領域で、前記第1カム面に比して急傾斜で形成された第2のカム面と、このプリセスカムの第1または第2のカム面に当接して揺動自在なフィードバックリンクを介して前記変速制御弁へローラ支持部材の実際の回転角を伝達するフィードバック手段とを備えたトロイダル型無段変速機の変速比を調整する際に、前記フィードバックリンクが第1カム面と摺接可能な変速比を、前記アクチュエータに指令する調整用目標値として設定してから、実際の変速比が予め設定した範囲となるように前記フィードバック手段を調整する。
【0027】また、第2の発明は、前記第1の発明において、前記調整用目標値は、フィードバックリンクが第1カム面と摺接可能な変速比のうち、第1のカム面と第2のカム面が切り替わる最大変速比近傍に設定される。
【0028】また、第3の発明は、前記第2の発明において、前記調整用目標値は、第1のカム面と第2のカム面が切り替わる最大変速比から、予め設定した量だけ変速比の小側に設定される。
【0029】
【発明の効果】したがって、第1の発明は、変速比を調整する前のアクチュエータの指令値または駆動量と変速比(≒ローラ支持部材の回転角で、パワーローラの傾転角という)の関係は、第1カム面の端部に形成された第2カム面の開始位置のバラツキや、プリセスカムの回転方向の組み付け精度のバラツキ、プリセスカムの高さ方向の寸法精度のバラツキなどを含んでいるため、アクチュエータに指令する目標値を、第1のカム面と第2のカム面が切り替わる最大変速比または最小変速比に設定すると、上記バラツキによってフィードバックリンクが第2カム面と摺接する場合があり、このまま変速比の調整を行うと、最大変速比または最小変速比では、予め設定した範囲に収まるものの、通常の変速制御範囲では、実際に設定される変速比のバラツキが、予め設定した範囲よりもはるかに大きくなってしまう場合があるが、アクチュエータに指令する調整用の目標値を、上記バラツキを加味して、必ず第1カム面でフィードバックリンクが摺接する変速比として変速比を予め設定した範囲内に調整することで、通常変速制御範囲の任意の目標値において、変速比のバラツキを、ほぼ予め設定した範囲と同等にすることができ、トロイダル型無段変速機の変速制御の精度を確保できる。
【0030】また、第2または第3の発明は、アクチュエータの調整用目標値を、最大変速比近傍または最大変速比から予め設定した量だけ変速比の小側とすることにより、通常変速制御範囲の全域で変速比のバラツキが大幅に変動するのを抑制でき、変速制御の精度を確保することが可能となり、アクチュエータへの指令値に対するフィードバック量が過大になるのを防いで、トルクシフトの補償等を精度よく行うことができ、さらに、変速比の制御精度は、変速比の大側の方が、発進時の動力性能等に与える影響が大きく、また、レーシングセレクト(Nレンジでエンジン回転を上げてからDレンジへ切り換える急発進)やエンジンストールなどでは、変速比が最Lo(最大変速比)を超えて、トラニオンがストッパに衝突するのを防ぐ必要があるため、変速比の調整を最大変速比側で行うようにしたため、発進時の動力性能を確保しながら、大側の変速比で発生しやすいトラニオンとストッパの衝突を回避して、変速制御の精度とトロイダル型無段変速機の耐久性を確保することができる。
【0031】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0032】図1〜図5において、入出力ディスク5、6の対向面にはパワーローラ3、3が狭持され、パワーローラ3はトラニオン4(ローラ支持部材)に軸支されており、トラニオン4の下部に設けた軸部4Aは油圧シリンダ1に連結されて軸方向(図中Z軸方向)へ駆動されるとともに、軸まわりで回動自在に支持されて、パワーローラ3の傾転角(≒変速比、以下同様)を連続的に変更する。
【0033】パワーローラ3を支持する複数のトラニオン4のうちの一つの軸部4Aには、前進用のプリセスカム2と後進用のプリセスカム2Rを一体的に配設し、前進用の変速制御弁7と後進用の変速制御弁7Rを平行して配置したものである。
【0034】トラニオンの軸部4Aの下端には、軸方向変位及び軸まわり変位(傾転角)を前進用フィードバックリンク54と後進用フィードバックリンク154へそれぞれ伝達するためのプリセスカム2、2Rが一体的に形成されて、このプリセスカム2に形成された傾斜面が、フィードバックリンク54、154に設けた係合部材55a、155aを案内する。
【0035】なお、前進用のプリセスカム2には、前記従来例と同様に、通常の変速制御で用いるフィードバックゲインの低い(カム面の傾斜が小)通常制御用斜面20(第1カム面)と、この通常制御用斜面20の両側には、屈曲部22、23を介してフィードバックゲインの高い(カム面の傾斜が大)衝突防止用斜面21、21(第2カム面)が形成され、トラニオン4がストッパ10、11(図1参照)に衝突するのを抑制する。
【0036】ここで、ストッパ10は、トラニオン4の回転角(=パワーローラ3の傾転角θ)が通常変速制御領域よりも、さらにLo側になったときにトラニオン4を係止する一方、ストッパ11は、トラニオン4の回転角が通常変速制御領域よりも、さらにHi側になったときにトラニオン4を係止する。
【0037】そして、上記屈曲部22は、通常変速制御で使用する変速比のHi側の限界値、すなわち、最Hi変速比に対応する一方、屈曲部23は、通常変速制御で使用する変速比のLo側の限界値、つまり、最Lo変速比に対応する。
【0038】フィードバックリンク54は、一端でプリセスカム2と係合する一方、他端で変速リンク9と係合する、図中X軸方向に延設されたアーム55と、同じくZ軸方向に延設されたアーム56を筒状部材57により一体的に結合したL字状の部材で形成され、アーム55の端部にプリセスカム2と係合する係合部材55aを突設する一方、アーム56の下端には変速リンク9の係合部90と係合するボール58が固設される。なお、係合部90はX−Y平面内でほぼコの字状に形成され、内周でボール58と摺接する。
【0039】そして、フィードバックリンク54は、筒状部材57の内周に挿通された揺動軸60で、Y軸回りに揺動自在に支持されて、他端に設けたボール58を図中X軸方向へ変位させる。
【0040】このボール58は、車両の前進時に油圧シリンダ1への作動油の吸排を行う変速制御弁7と、ステップモータ50とを連結する変速リンク9の一端に形成された係合部90に係合する。
【0041】一方、変速リンク9の他端には、減速機構51を介してアクチュエータとしてのステップモータ50により軸方向へ駆動されるスライダ52に突設したピン52aと係合する係合部91が形成される。
【0042】さらに、変速リンク9の途中の所定の位置では、連結部材53のピン53aを介して変速制御弁7の内周を摺動するスプール8のロッド80が連結される。
【0043】図1、図3、図4に示すように、ロッド80の端部に設けたネジ部80aが、連結部材53に形成したネジ穴に螺合するとともに反対側へ貫通し、この貫通したネジ部80aに螺合したロックナット53cによって、ロッド80と連結部材53が結合され、連結部材53から突設したピン53aを介して変速リンク9とロッド80が揺動可能に連結される。
【0044】なお、連結部材53を貫通したネジ部80aの端面には、図1、図3に示すように、レンチと係合可能な孔部80bが形成され、変速比の調整(傾転角θの調整、以下同様)時にはロックナット53cを緩めてから、この孔部80bへレンチを差し込んで回転させることにより、ネジ部80aを介して連結部材53に螺合したロッド80及びスプール8が軸方向へ変位し、スプール8と連結部材53の相対位置関係を変更することで調整が行われる。孔部80bは、例えば、6角穴などで形成される。
【0045】さらに、連結部材53と変速制御弁7を収装するバルブボディ70との間には、変速リンク9の係合部90、91とボール58やピン53aとのガタ、あるいはフィードバックリンク54のガタを排除してフィードバック制御を正確に行うため、連結部材53と平行してスプリング81が配設される。
【0046】図4において、パワーローラ3がLo側へ傾転すると、トラニオンの軸部4Aに取り付けられたプリセスカム2も図中Lo側へ回動して係合部材55aを下降させる一方、プリセスカム2がHi側へ回動すると係合部材55aを上昇させ、他端のボール58と連結した変速リンク9はパワーローラ3の傾転に応じて図中LoまたはHi側へ駆動される。
【0047】したがって、ステップモータ50が図示しないコントローラからの目標変速比に応じてスライダ52を伸縮駆動すると、変速リンク9の一端の変位に応じてスプール8が移動し、変速制御弁7の供給圧ポート17Pをポート17Hまたはポート17Lに連通させて、油圧シリンダ1のHi側またはLo側の油室に圧油を供給してトラニオン4を軸方向へ駆動する。
【0048】パワーローラ3はトラニオンの軸方向変位に応じて傾転して変速比を変更し、この傾転運動はトラニオン4の軸部4A、プリセスカム2、フィードバックリンク54を介して変速リンク9の他端に伝達され、目標変速比と実際の変速比が一致すると、スプール8はポート17H、17L及び供給圧ポート17Pを封止する中立位置に復帰する。
【0049】このとき、パワーローラ3の傾転角が、通常の変速制御で使用する最Lo変速比から最Hi変速比の間にあれば、フィードバックリンク54はプリセスカム2の通常制御用斜面20と摺接して、低いフィードバックゲインで変速リンク9を駆動する一方、最Lo変速比または最Hi変速比を超えたときには、フィードバックリンク54が衝突防止用斜面21と摺接して、高いフィードバックゲインで変速リンク9を駆動して、油圧シリンダ1へ供給する油圧の立ち上がりを高めて、トラニオン4がストッパ10、11に衝突するのを防止する。
【0050】一方、後進用の後進用のフィードバックリンク154は、揺動軸60を介して一端を後進用変速制御弁7Rのスプール8Rに連結し、他端に設けた係合部材155aによって後進用プリセスカム2Rと摺接して、後進時ではプリセスカム2R、フィードバックリンク154及び変速制御弁7Rによって前進時と同様に油圧の制御が行われる。
【0051】次に、組立後の変速比の調整は、トロイダル型無段変速機を運転しながら、変速制御弁7のスプール8と変速リンク9を連結部材53で行われる。
【0052】トロイダル型無段変速機を運転した状態で、ステップモータ50のステップ数を最Lo指令位置からHi側へ向けて予め設定したステップ数α(例えば、10ステップなど)まで送った後に、図6に示すように、傾転角θ(または実変速比)が予め設定した最Lo+αからのバラツキを測定する。
【0053】ここで、変速比の調整を行うステップ数最Lo+α指令位置は、αステップだけ最Lo指令位置よりも変速比のHi側(傾転角θの大側)で、図6に示すように、バラツキ下限が通常変速制御領域となる値であり、かつ、変速比のLo側に設定する。
【0054】そして、傾転角θのバラツキが、最Lo+αを中心として予め設定した調整範囲±β以内となるように、スプール8と連結部材53の相対位置関係を修正する。
【0055】すなわち、スプール8のロッド80を連結部材53に締結しているロックナット53cを緩めてから、ネジ部80aの端面に形成された孔部80bへレンチなどを係合させて、連結部材53内周のネジ穴に螺合したロッド80を回転させることで、連結部材53とスプール8の相対位置関係を変更し、ステップ数が最Lo+α指令位置における傾転角を調整する。
【0056】そして、ネジ部80aを傾転角θのずれに応じて回転させた後には、再びロックナット53cを締結して、調整作業を終了する。
【0057】ここで、調整前のステップモータのステップ数とパワーローラの傾転角θの関係が、図6に示したように、上記衝突防止用斜面21の開始位置のバラツキや、プリセスカム2の回転方向のバラツキ、プリセスカム2の高さ方向の寸法精度のバラツキなどの加工精度や組み付け精度のバラツキの上限値と下限値が、ノミナル値(設計値)を挟んで設定されている。
【0058】なお、この図6において、傾転角θの大側が変速比のHi側(小側)で、傾転角θの小側が変速比のLo側(大側)である。
【0059】傾転角θ(≒変速比)の調整を行うステップ数が最Lo+α指令位置において、このステップ数に対応する傾転角θは、バラツキ上限では最Lo+α傾転角よりもHi側の通常変速制御領域にあり、バラツキ下限においても最Lo+α傾転角よりも若干Hi側の通常変速制御領域に入っている。
【0060】ここで、変速比の調整は、ステップ数が最Lo+α指令位置のときに、傾転角θが最Lo+αを中心とした所定の調整範囲±β(最Lo+α傾転角の許容誤差範囲)となるように、上記したように変速リンク9の連結部材53を調整することで行われる。
【0061】この連結部材53の調整は、図6において、スプール8と連結部材53の相対位置関係を修正して、傾転角θとステップ数の特性をステップ数方向(横軸方向)に平行移動し、最Lo+α指令位置における傾転角を調整範囲±β内に入れることである。
【0062】調整範囲の最大値を最Lo+α傾転角+β、最小値を最Lo+α傾転角−βとすると、バラツキ上限のものは、調整範囲の最大値へ入れるための調整量は図中aとなり、調整範囲の最小値へ入れるためには調整量bとなる。
【0063】また、ノミナルのものは、調整範囲の最大値へ設定するためには、調整量dとなり、調整範囲の最小値へ設定するためには調整量cとなり、同様に、バラツキ下限のものは、調整範囲の最大値へ入れるために調整量はfとなり、調整範囲の最小値へ入れるためには調整量eとなる。
【0064】上記調整量a〜fによって、ステップ数の最Lo+α指令位置で各特性を調整した結果は、図7のようになり、傾転角θの調整を最Lo指令位置よりもαステップだけ変速比のHi側(傾転角θは大側)で、バラツキ下限が通常変速制御領域となる値としたため、調整位置である最Lo+α指令位置よりもさらにHi側の、通常変速制御領域である図中Aのステップ数では、傾転角θが最小(変速比は最大)となるバラツキ下限+調整量eと、傾転角θが最大となるバラツキ上限+調整量aとの差(すなわち、傾転角のバラツキ)は図7に示すXとなって、調整範囲である最Lo+α指令位置±βに近似したものとなり、通常変速制御領域における傾転角のバラツキXを、前記従来例に比して大幅に低減することができる。
【0065】すなわち、前記従来例のように最Lo指令位置で傾転角の調整を行った場合では、図11に示したように、通常変速制御領域となる値での傾転角のバラツキYが、調整範囲よりもはるかに大きなものとなってしまうのに対し、本発明によれば、通常変速制御領域の任意のステップ数において、傾転角のバラツキXは、ほぼ調整範囲と同等となって、変速制御の精度を確保できる。
【0066】また、調整位置である最Lo+α指令位置よりも、変速比のLo側の最Lo指令位置においても、最Lo傾転角のバラツキは、図7のように調整範囲と同等に維持することができ、通常変速制御領域の全域で傾転角のバラツキが大幅に変動するのを抑制でき、変速制御の精度を確保することが可能となり、ステップモータ50への指令ステップ数に対するフィードバック量が過大になるのを防いで、トルクシフトの補償等を精度よく行うことができるのである。
【0067】さらに、変速比の制御精度は、変速比のLo側の方が、発進時の動力性能等に与える影響が大きく、また、レーシングセレクト(Nレンジでエンジン回転を上げてからDレンジへ切り換える急発進)やエンジンストールなどでは、変速比が最Loを超えて、トラニオン4がストッパ10に衝突するのを防ぐ必要がある。
【0068】このため、変速比の調整をLo側で行うようにしたため、発進時の動力性能を確保しながら、Lo側で発生しやすいトラニオン4とストッパ10の衝突を回避して、変速制御の精度とトロイダル型無段変速機の耐久性を確保することができるのである。
【0069】ここで、上記図1、図4に示した、前進側と後進側のフィードバックリンク554、154及び変速リンク9による変速比調整の一例を、以下に示す。
【0070】まず、トロイダル型無段変速機の変速比を検出するため、トラニオン4の回転角、換言すれば、パワーローラ3の傾転角θを検出する回転角センサを配置する。なお、回転角センサは、例えば、図示しないケーシングのプラグを取り外し、トラニオン4の上端と結合したロッド等の回転角を測定するセンサで構成される。
【0071】次に、入力軸を原動機に連結して、所定の回転数N1で駆動するとともに、変速制御弁7への供給圧が所定値P1となるように油圧制御装置(例えば、デューティソレノイド)を駆動する。
【0072】図示しないマニュアル弁をDレンジにセットしてから、図1に示した、ステップモータ50を所定の最Lo指令位置へ駆動する。このとき、ステップモータ50は、図示しないストッパなどによって最Lo位置を超えないように係止される。
【0073】そして、この最Lo指令位置から、Hi側へ向けて所定のステップ数αだけ駆動する。
【0074】この状態で、傾転角θが図6に示したように、最Lo+αに対応した値を挟んで、±βの範囲となるように、変速リンク9の連結部材53を、上記したように調整する。
【0075】連結部材53での調整後に、回転角センサの出力をリセットしてから、ステップモータ50をLo側に所定のステップ数γだけ駆動する。ただし、γ<αで、後進用の変速比に応じたステップ数である。
【0076】次に、マニュアル弁をRレンジに切り換えてから、後進用の傾転角θとなるように、図1、図4に示した後進用フィードバックリンク154とスプール8Rの相対位置関係を調整して、前進側及び後進側の変速比の調整を終了する。
【0077】なお、上記実施形態において、変速リンク9を介してステップモータ50、変速制御弁7及びフィードバックリンク54を連結した一例を示したが、本願出願人が提案した特開平7−293654号公報などに開示されるように、変速リンク9を廃止してもよい。
【0078】これは、図8に示すように、ラックアンドピニオン101を介してステップモータ50に駆動されるスプール108と、このスプール108の外周とバルブボディ170の内周で摺動自在なスリーブ109を設け、プリセスカム2に摺接するフィードバックリンク54’でスリーブ109を駆動するようにしたものである。
【0079】この場合では、揺動自在なフィードバックリンク54の端部に螺合したネジ153が、スプリング181に抗してスリーブ109を駆動するもので、ネジ153をフィードバックリンク54’に固定するロックナット153cを緩めることで、上記と同様に通常変速制御領域に設けた調整位置で、スリーブ109と、スプール108の相対位置関係を修正することで、パワーローラ3の傾転角を調整することができる。
【0080】また、上記実施形態に示したトロイダル型無段変速機を、変速比無限大無段変速機に適用した場合でも、上記と同様の調整により、変速制御の精度を確保することができる。
【出願人】 【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
【出願日】 平成11年9月1日(1999.9.1)
【代理人】 【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜 (外1名)
【公開番号】 特開2001−65676(P2001−65676A)
【公開日】 平成13年3月16日(2001.3.16)
【出願番号】 特願平11−247179