| 【発明の名称】 |
無段変速機用ベルト |
| 【発明者】 |
【氏名】大薗 耕平
【氏名】金原 茂
|
| 【要約】 |
【課題】金属エレメントの加工コストを増加させることなく、該金属エレメントの傾きによる金属リング集合体の耐久性低下を防止する。
【解決手段】金属ベルトがドリブンプーリを離れるときに金属エレメント32が金属リング集合体31に対して進行方向前方に倒れるため、リングスロット35のサドル面44の進行方向後端aが金属リング集合体31の内周面に強く当接して集中応力σHが発生し、金属リング集合体31の寿命を短くする。これを防止するために、サドル面44の進行方向後端aの曲率半径rを進行方向前端bの曲率半径rよりも大きくして前記集中応力σHを緩和する。金属エレメント32をファインブランキング加工により形成する際に、サドル面44の進行方向後端aの曲率半径は打ち抜きだれによって自動的に大きくなるため、特別の機械加工が不要である。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 無端状の金属リング(33)を複数枚積層した金属リング集合体(31)と、金属リング集合体(31)が嵌合するリングスロット(35)を有する多数の金属エレメント(32)とから構成され、ドライブプーリ(6)およびドリブンプーリ(11)に巻き掛けられて両プーリ(6,11)間で駆動力の伝達を行う無段変速機用ベルトにおいて、金属リング集合体(31)の内周面が当接するリングスロット(35)のサドル面(44)は、金属エレメント(32)の進行方向後方側の角部の半径が進行方向前方側の角部の半径よりも大きいことを特徴とする無段変速機用ベルト。 【請求項2】 金属エレメント(32)は金属板材(52)を打ち抜き加工して形成されるものであり、前記進行方向後方側の角部は打ち抜き加工時に打ち抜きだれにより生じることを特徴とする、請求項1に記載の無段変速機用ベルト。 【請求項3】 前記無段変速機用ベルトは車両の無段変速機(T)に使用されるものであり、金属エレメント(32)の前記進行方向は車両の前進走行時における進行方向であることを特徴とする、請求項1に記載の無段変速機用ベルト。
|
【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、無端状の金属リングを複数枚積層した金属リング集合体と、金属リング集合体が嵌合するリングスロットを有する多数の金属エレメントとから構成され、ドライブプーリおよびドリブンプーリに巻き掛けられて両プーリ間で駆動力の伝達を行う無段変速機用ベルトに関する。 【0002】 【従来の技術】図8に示すように、金属リング集合体31にリングスロット35を嵌合させて支持された金属エレメント32が進行方向前方に傾くと、サドル面44の進行方向後端aが金属リング集合体31の内周面に当接するため、その部分に大きい応力σH(ヘルツ応力)が発生して金属リング集合体31の耐久性に悪影響を与える問題がある。前記金属エレメント32の進行方向前方への傾きは、金属エレメント32がプーリとの接触面において受ける接線方向の摩擦力Fと、金属エレメント32相互間の押し力Eとにより発生するもので、この傾向はドリブンプーリの出口部分において特に顕著なものとなる。以下、その理由を説明する。 【0003】図7から明らかなように、前記接線方向の摩擦力Fにより発生する矢印M方向のモーメントは、金属エレメント32を揺動中心C回りに進行方向前方に倒すように作用する。一方、金属エレメント32間の押し力Eにより発生する半径方向の摩擦力μEは、金属エレメント32に矢印M′方向のモーメントを発生させ、このモーメントは金属エレメント32を揺動中心C回りに進行方向後方に倒すように作用する。 【0004】図10(A)に示すように、ドライブプーリ6あるいはドリブンプーリ11の出口部分において、金属エレメント32がプーリ6,11から受ける接線方向の摩擦力Fが大きくなり、その値はプーリ6,11が変形して軸推力が集中する等の理由により、接線方向の摩擦力Fがプーリ6,11の巻き付き域の全域に亘り平均的に分布したと仮定したときの値の4倍に達することが知られている。また図10(B)に示すように、金属エレメント32間の押し力Eは、ドライブプーリ6の出口部分において大きな値を持つが、ドリブンプーリ11の出口部分において0になる。従って、金属エレメント32を進行方向前方に傾ける接線方向の摩擦力Fが最大であり、且つ金属エレメント32の進行方向前方への傾きを抑制する押し力Eが0になる位置、即ちドリブンプーリ11の出口部分において金属エレメント32は進行方向前方に最も傾き易くなる。 【0005】このような理由からドリブンプーリ11の出口部分において金属エレメント32が進行方向前方に大きく傾くと、金属エレメント32のリングスロット35のサドル面44の進行方向後端aが金属リング集合体31の内周面に強く当接し(図8参照)、その部分に発生する応力σHによって金属リング集合体31の疲労寿命が短くなる問題がある。 【0006】金属リング集合体の内周面が当接するサドル面の形状に特徴を有する金属エレメントとして、実開昭59−79653号公報、実開昭63−17353号公報、特開平6−10993号公報、実開昭60−107444号公報に記載されたものが公知である。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】上記実開昭59−79653号公報に記載されたものは、金属エレメントのサドル面の進行方向両端部に滑らかな面取りを施しており、上記実開昭63−17353号公報に記載されたものは、金属エレメントのサドル面の進行方向中央部に階段状の凸部を形成し、この凸部の頂面に金属リング集合体の最小巻き付き半径に等しい半径の円弧面を形成している。上記構成の目的は明記されていないが、無段変速機用ベルトのプーリへの巻き付き部において、サドル面の進行方向両端部と金属リング集合体の内周面との強い当りの緩和を意図したものと思われる。これらのものは、サドル面の形状が進行方向前後で対称であるため、ドリブンプーリの出口部分においてサドル面の進行方向後端部と金属リング集合体の内周面とが当接して発生するヘルツ応力を有効に緩和することは困難である。 【0008】また上記特開平6−10993号公報、実開昭60−107444号公報に記載されたものは、金属エレメントのサドル面の進行方向後側が進行方向前側よりも低くなるように前後非対称形状に構成したものであり、その目的はピッチングモーメントによる金属エレメントの前後方向の倒れを防止することとされている。これらのものは、サドル面の形状が複雑であるために加工コストが嵩むという問題がある。 【0009】本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、金属エレメントの加工コストを増加させることなく、該金属エレメントの傾きによる金属リング集合体の耐久性低下を防止することを目的とする。 【0010】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、無端状の金属リングを複数枚積層した金属リング集合体と、金属リング集合体が嵌合するリングスロットを有する多数の金属エレメントとから構成され、ドライブプーリおよびドリブンプーリに巻き掛けられて両プーリ間で駆動力の伝達を行う無段変速機用ベルトにおいて、金属リング集合体の内周面が当接するリングスロットのサドル面は、金属エレメントの進行方向後方側の角部の半径が進行方向前方側の角部の半径よりも大きいことを特徴とする無段変速機用ベルトが提案される。 【0011】上記構成によれば、ドリブンプーリを離れた金属エレメントが進行方向前方側に倒れたとき、リングスロットのサドル面の進行方向後方側に位置する半径が大きい方の角部が金属リング集合体の内周面に押し付けられるので、その金属リング集合体の内周面に発生するヘルツ応力を最小限に抑えて該金属リング集合体の耐久性を高めることができる。 【0012】また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、金属エレメントは金属板材を打ち抜き加工して形成されるものであり、前記進行方向後方側の角部は打ち抜き加工時に打ち抜きだれにより生じることを特徴とする無段変速機用ベルトが提案される。 【0013】上記構成によれば、金属エレメントのサドル面の進行方向後方側に位置する半径が大きい方の角部は、金属板材を打ち抜き加工して金属エレメントを形成するときの打ち抜きだれとして生じるので、特別の加工を施すことなく前記半径が大きい角部を形成することができる。 【0014】また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記無段変速機用ベルトは車両の無段変速機に使用されるものであり、金属エレメントの前記進行方向は車両の前進走行時における進行方向であることを特徴とする無段変速機用ベルトが提案される。 【0015】上記構成によれば、車両が前進走行する頻度は後進走行する頻度に比べて圧倒的に高いため、金属エレメントの進行方向を車両の前進走行時における進行方向に一致させることにより、半径が大きい方の角部を車両の前進走行時に金属リング集合体の内周面に押し付けて該金属リング集合体の耐久性を高めることができる。 【0016】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。 【0017】図1〜図11は本発明の第1実施例を示すもので、図1は無段変速機を搭載した車両の動力伝達系のスケルトン図、図2は金属ベルトの部分斜視図、図3はファインブランキング装置の全体図、図4は金属リングに作用する引張応力の分布を示す図、図5は金属リングの自由状態および巻付状態を示す図、図6は最内層の金属リングに作用するトータルの応力の分布を示す図、図7は直立状態の金属エレメントの側面図、図8は傾斜状態の金属エレメントの側面図、図9はサドル面の進行方向前後端に作用するピーク荷重を示すグラフ、図10は金属エレメントがプーリから受ける接線方向の摩擦力Fおよび金属エレメント間の押し力Eの分布を示す図、図11はドリブンプーリの出口付近における金属エレメントの傾きを示す図である。 【0018】尚、本実施例で用いる金属エレメントの前後方向、左右方向、半径方向の定義は図2に示されている。半径方向はその金属エレメントが当接するプーリの半径方向として定義されるもので、プーリの回転軸に近い側が半径方向内側であり、プーリの回転軸に遠い側が半径方向外側である。また左右方向は金属エレメントが当接するプーリの回転軸に沿う方向として定義され、前後方向は金属エレメントの車両の前進走行時における進行方向に沿う方向として定義される。 【0019】図1は自動車に搭載された金属ベルト式無段変速機Tの概略構造を示すもので、エンジンEのクランクシャフト1にダンパー2を介して接続されたインプットシャフト3は発進用クラッチ4を介して金属ベルト式無段変速機Tのドライブシャフト5に接続される。ドライブシャフト5に設けられたドライブプーリ6は、ドライブシャフト5に固着された固定側プーリ半体7と、この固定側プーリ半体7に対して接離可能な可動側プーリ半体8とを備えており、可動側プーリ半体8は油室9に作用する油圧で固定側プーリ半体7に向けて付勢される。 【0020】ドライブシャフト5と平行に配置されたドリブンシャフト10に設けられたドリブンプーリ11は、ドリブンシャフト10に固着された固定側プーリ半体12と、この固定側プーリ半体12に対して接離可能な可動側プーリ半体13とを備えており、可動側プーリ半体13は油室14に作用する油圧で固定側プーリ半体12に向けて付勢される。ドライブプーリ6およびドリブンプーリ11間に、左右の一対の金属リング集合体31,31に多数の金属エレメント32を支持してなる金属ベルト15が巻き掛けられる(図2参照)。それぞれの金属リング集合体31は、12枚の金属リング33を積層してなる。 【0021】ドリブンシャフト10には前進用ドライブギヤ16および後進用ドライブギヤ17が相対回転自在に支持されており、これら前進用ドライブギヤ16および後進用ドライブギヤ17はセレクタ18により選択的にドリブンシャフト10に結合可能である。ドリブンシャフト10と平行に配置されたアウトプットシャフト19には、前記前進用ドライブギヤ16に噛合する前進用ドリブンギヤ20と、前記後進用ドライブギヤ17に後進用アイドルギヤ21を介して噛合する後進用ドリブンギヤ22とが固着される。 【0022】アウトプットシャフト19の回転はファイナルドライブギヤ23およびファイナルドリブンギヤ24を介してディファレンシャル25に入力され、そこから左右のアクスル26,26を介して駆動輪W,Wに伝達される。 【0023】而して、エンジンEの駆動力はクランクシャフト1、ダンパー2、インプットシャフト3、発進用クラッチ4、ドライブシャフト5、ドライブプーリ6、金属ベルト15およびドリブンプーリ11を介してドリブンシャフト10に伝達される。前進走行レンジが選択されているとき、ドリブンシャフト10の駆動力は前進用ドライブギヤ16および前進用ドリブンギヤ20を介してアウトプットシャフト19に伝達され、車両を前進走行させる。また後進走行レンジが選択されているとき、ドリブンシャフト10の駆動力は後進用ドライブギヤ17、後進用アイドルギヤ21および後進用ドリブンギヤ22を介してアウトプットシャフト19に伝達され、車両を後進走行させる。 【0024】このとき、金属ベルト式無段変速機Tのドライブプーリ6の油室9およびドリブンプーリ11の油室14に作用する油圧を、電子制御ユニットU1 からの指令で作動する油圧制御ユニットU2 で制御することにより、その変速比が無段階に調整される。即ち、ドライブプーリ6の油室9に作用する油圧に対してドリブンプーリ11の油室14に作用する油圧を相対的に増加させれば、ドリブンプーリ11の溝幅が減少して有効半径が増加し、これに伴ってドライブプーリ6の溝幅が増加して有効半径が減少するため、金属ベルト式無段変速機Tの変速比はLOWに向かって無段階に変化する。逆にドリブンプーリ11の油室14に作用する油圧に対してドライブプーリ6の油室9に作用する油圧を相対的に増加させれば、ドライブプーリ6の溝幅が減少して有効半径が増加し、これに伴ってドリブンプーリ11の溝幅が増加して有効半径が減少するため、金属ベルト式無段変速機Tの変速比はODに向かって無段階に変化する。 【0025】図2に示すように、金属板材から打ち抜いて成形した金属エレメント32は、概略台形状のエレメント本体34と、金属リング集合体31,31が嵌合する左右一対のリングスロット35,35間に位置するネック部36と、ネック部36を介して前記エレメント本体34の上部に接続される概略三角形のイヤー部37とを備える。エレメント本体34の左右方向両端部には、ドライブプーリ6およびドリブンプーリ11のV面に当接可能な一対のプーリ当接面39,39が形成される。また金属エレメント32の進行方向前側および後側には、該進行方向に直交するとともに相互に平行な前後一対の主面40,40が形成され、また進行方向前側の主面40の下部には左右方向に延びるロッキングエッジ41を介して傾斜面41が形成される。更に、前後に隣接する金属エレメント32,32を結合すべく、イヤー部37の前後面に凹凸部43が形成される。 【0026】次に、図3に基づいて金属エレメント32を打ち抜き加工するファインブランキング装置の構造を説明する。 【0027】ファインブランキング装置51は金属板材52から金属エレメント32を打ち抜き加工するもので、金属板材52の下面を支持する固定の下側ダイ53と、シリンダ54,54で昇降して金属板材52の上面を押圧可能な上側ダイ55と、下側ダイ53の凹部に昇降自在に収納されてシリンダ56で上向きに付勢されたカウンターパンチ57と、上側ダイ55の凹部に収納されてシリンダ58で昇降するパンチ59とを備える。上記構造のファインブランキング装置51による金属エレメント32の打ち抜き加工は、以下のような手順で行われる。先ず金属板材52を下側ダイ53上に載置した状態でシリンダ54,54を伸長駆動して上側ダイ55を下降させ、下側ダイ53および上側ダイ55間に金属板材52を挟持する。続いて、シリンダ58を伸長駆動してパンチ59を下降させると、パンチ59およびカウンターパンチ57間に挟持された金属板材52の一部がシリンダ56による反力を受けながら下降し、下側ダイ53および上側ダイ55との間に発生する剪断力で金属エレメント32が打ち抜かれる。図3には金属エレメント32が打ち抜かれる途中の状態が示されており、その金属エレメント32は下向きになった進行方向後面側が下側ダイ53およびカウンターパンチ57に対向している。 【0028】上記金属エレメント32の打ち抜き加工の過程で、下側ダイ53およびカウンターパンチ57の境界部に臨む金属エレメント32の周縁部(○で囲った部分)に打ち抜きだれが発生し、その断面は鋭いエッジを持たない円弧形状となる。図7に示すように、一般に金属エレメント32を打ち抜き加工した後にバレル加工等によりバリの除去を行う結果、金属エレメント32のリングスロット35のサドル面44の進行方向両端部のうち、前記打ち抜きだれが発生しない進行方向前端bの曲率半径rはバリの除去に伴う面取り加工によって0.02mm程度になるのに対し、前記打ち抜きだれが発生する進行方向後端aの曲率半径rは0.04mm程度の大きな値を持つようになる。 【0029】図4は、車両が最高速度走行状態(TOP状態)にあって、ドライブプーリ6の有効半径がドリブンプーリ11の有効半径よりも大きくなった状態を示しており、同図における金属ベルト15の厚さは該金属ベルト15の張力に起因する最内層の金属リング33の引張応力の大小を模式的に表している。金属ベルト15がドリブンプーリ11からドライブプーリ6に戻る戻り側の弦部(A領域)において前記応力は一定値σTLOW であり、金属ベルト15がドライブプーリ6からドリブンプーリ11に送り出される往き側の弦部(C領域)において前記応力は一定値σTHIGHである。A領域の応力σTLOW はC領域の応力σTHIGHよりも小さく、金属ベルト15がドライブプーリ6に巻き付く部分(B領域)において、その入口側から出口側にかけて応力はσTLOW からσTHIGHまで増加し、金属ベルト15がドリブンプーリ11に巻き付く部分(D領域)において、その入口側から出口側にかけて応力はσTHIGHからσTLOW まで減少する(図6の鎖線参照)。 【0030】金属リング33には前記張力に基づく引張応力に加えて、曲げに基づく引張応力および圧縮応力が作用する。図5に示すように自由状態の金属リングは円形であるが、使用状態の金属リングは前記A領域〜D領域を有する形状に変形する。戻り側弦部(A領域)および往き側弦部(C領域)では自由状態でR0 であった曲率半径が∞に増加し、大径側のドライブプーリに巻き付くB領域では自由状態でR0 であった曲率半径がRDRに減少し、小径側のドリブンプーリに巻き付くD領域では自由状態でR0 であった曲率半径がRDNに減少する。 【0031】このように金属リング33の曲率半径が増加するA領域およびC領域では、該金属リング33の内周面に引張曲げ応力が作用し、外周面に圧縮曲げ応力が作用する。一方、金属リング33の曲率半径が減少するB領域およびD領域では、該金属リング33の内周面に圧縮曲げ応力が作用し、外周面に引張曲げ応力が作用する。即ち、金属リング33の内周面には、その2つの弦部(A領域およびC領域)に一定の引張曲げ応力σVSTが作用し、曲率半径が大きい方のドライブプーリ6に巻き付くB領域では比較的に小さな圧縮曲げ応力σVDRが作用し、曲率半径が小さい方のドリブンプーリ11に巻き付くD領域では比較的に大きな圧縮曲げ応力σVDNが作用する。 【0032】図6のグラフは最内層の金属リング33の内周面の張力に基づいて作用する応力と、曲げに基づいて該金属リング33の内周面に作用する応力とを加算したトータルの応力の変化を示している。同図において、領域Dの末端(金属エレメント32がドリブンプーリ11を離れる部分)において、大きな集中応力σHが作用しているのが分かる。この集中応力σHは、図7および図8で説明したように、金属エレメント32がドリブンプーリ11を離れる部分で進行方向前側に倒れ、サドル面44の進行方向後端aが最内層の金属リング33の内周面に強く当接するために発生するものであって、円柱の一部と見做せるサドル面44の進行方向後端aと、平面と見做せる最内層の金属リング33の内周面との当接により発生するヘルツ応力である。 【0033】図9(A)および図9(B)は、金属エレメント32のサドル面44の進行方向後端aおよび進行方向前端bにそれぞれ荷重センサを設け、前記進行方向後端aおよび進行方向前端bが最内層の金属リング33から受ける荷重の変化を検出したものである。図9(A)に示すサドル面44の進行方向後端aでは、ドライブプーリ6の入口付近に荷重ピークPDRが認められ、かつドリブンプーリ11の出口付近に荷重ピークPDNが認められる。一方、、図9(B)に示すサドル面44の進行方向前端bでは、ドライブプーリ6の入口付近だけに荷重ピークPDRが認めらる。 【0034】ドライブプーリ6の入口付近の荷重のピークPDRは、サドル面44の進行方向前端bおよび進行方向後端aに両方に発生するもので、その原因は金属エレメント32がローリングした状態でドライブプーリ6に噛み込まれるためと考えられる。一方、ドリブンプーリ11の出口付近の荷重ピークPDNは、サドル面44の進行方向後端aだけに発生するもので、その原因は金属エレメント32がドリブンプーリ11の出口付近で進行方向前方に倒れるためと考えられる。 【0035】次に、金属エレメント32がドリブンプーリ11を離れる部分において、最内層の金属リング33が金属エレメント32のサドル面44の進行方向後端aから受ける集中応力σHについて考察する。 【0036】集中応力σHの値を幾何学的に確定することはドリブンプーリ11および金属エレメント32の摩擦作用中心が不明確である等の様々な要因により非常に困難であるが、kを実験定数(サドル面応力集中実験定数)として、次式により推定することができる。 【0037】σH=p*(k*e/q) ここで、e,p,qの定義は以下のとおりである(図8参照)。 【0038】e;金属エレメント1個当たりの伝達力(kgf/個) p;平均サドル面圧縮応力(kg/mm2 ) q;金属エレメント1個当たりの軸推力(kgf/個) 上式において、集中応力σHは、平均サドル面圧縮応力p、金属エレメント1個当たりの伝達力eおよび実験定数kの増加に伴って増加し、金属エレメント1個当たりの軸推力qの増加に伴って減少すると仮定した。また実験定数kはサドル面44の進行方向後端aの曲率半径rの影響によるヘルツ面圧の増大に比例する係数であるので、cを比例定数として、k=c*(1/r)1/2で表される。 【0039】本実施例では進行方向後端aの曲率半径rが打ち抜きだれによって0.04mmに増加しており、前記進行方向後端aの曲率半径rが0.02mmのものと比較すると、実験定数kの値は約70%に減少する。即ち、サドル面44の進行方向後端aの曲率半径rを例えば2倍に増加させれば、実験定数kの値を減少させて最内層の金属リング33が金属エレメント32のサドル面44の進行方向後端aから受ける集中応力σHを約70%に減少させることができる。 【0040】このように、サドル面44の進行方向後端aの曲率半径を進行方向前端bの曲率半径よりも大きく設定することにより、最内層の金属リング33が金属エレメント32のサドル面44の進行方向後端aから受ける応力を減少させ、金属リング集合体31全体としての寿命を延長することができる。即ち、図6において、集中応力σHが減少することにより応力振幅σaが減少する一方、応力中心σmは増加するが、応力振幅σaの減少量と応力中心σmの増加量とは等しいので、金属材料の一般的な特性からして疲労寿命に関しては有利な変化であり、これにより最内層の金属リング33の疲労寿命を延長することができる。しかも曲率半径が大きいサドル面44の進行方向後端aを金属エレメント32のファインブランキング加工と同時に形成することができるので、特別の機械加工が不要になって加工コストの削減に寄与することができる。 【0041】次に、図12および図13に基づいて本発明の第2実施例を説明する。 【0042】図3および図12を比較すると明らかなように、図12に示す第2実施例では金属エレメント32が表裏反転した状態でファインブラキング加工される。即ち、図8に示すように、第1実施例の金属エレメント32はロッキングエッジ41を進行方向前方に向けており、また第2実施例の金属エレメント32はロッキングエッジ41を進行方向後方に向けている点で相違しているが、第2実施例のものも進行方向後端aの曲率半径が打ち抜きだれにより増加しており、従って第1実施例のものと同じ作用効果を発揮することができる。 【0043】ところで、図1に示す金属ベルト式無段変速機Tは、車両の前進走行時にも後進走行時にも金属ベルト15が同一方向に回転するが、図14に示す第3実施例の金属ベルト式無段変速機Tは、車両の前進走行時と後進走行時とで金属ベルト15の回転方向が反対になる。 【0044】即ち、エンジンEにより駆動されるインプットシャフト3の外周に支持されたドライブプーリ6は、フォワードクラッチ61を介してインプットシャフト3に結合可能であり、かつ遊星歯車機構62およびリバースブレーキ63を介してインプットシャフト3に結合可能である。ダブルピニオン式の遊星歯車機構62は、インプットシャフト3と一体のサンギヤ64と、ドライブプーリ6と一体のプラネタリキャリヤ65と、インプットシャフト3に相対回転自在に支持されたリングギヤ66と、プラネタリキャリヤ65に支持されてサンギヤ64およびリングギヤ66に噛合するプラネタリギヤ67…とから構成されるもので、前記リバースブレーキ63はリングギヤ66をケーシングに結合可能である。ドリブンプーリ11が設けられたドリブンシャフト10は、発進用クラッチ68および減速ギヤ列69を介してディファレンシャル25に接続される。 【0045】而して、車両の前進走行時にはフォワードクラッチ61が係合してドライブプーリ6をインプットシャフト3に結合するため、ドライブプーリ6はインプットシャフト3と同方向に回転する。一方、車両の後進走行時にはリバースブレーキ63が係合して遊星歯車機構62のリングギヤ66をケーシングに結合するため、インプットシャフト3と一体のサンギヤ64の回転に伴って、プラネタリキャリヤ65がドライブプーリ6と共にインプットシャフト3の回転方向に対して逆方向に回転する。 【0046】このように、第3実施例の金属ベルト式無段変速機Tは、車両の前進走行時と後進走行時とで金属ベルト15の回転方向が反対になるため、車両の前進走行時に金属エレメント32の進行方向前端bの曲率半径よりも進行方向後端aの曲率半径を大きく設定しても、車両の後進走行時に金属ベルト15の回転方向が反対になるために効果を発揮できなくなる。しかしながら、車両が後進走行する頻度は前進走行する頻度に比べて遙に小さいため、車両の前進走行時の金属エレメント32の進行方向を基準として該金属エレメント32の進行方向前端bの曲率半径よりも進行方向後端aの曲率半径を大きく設定すれば、車両の走行時間の大部分において本発明の効果を発揮することができる。 【0047】以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。 【0048】例えば、実施例では曲率半径が大きいサドル面44の進行方向後端aを金属エレメント32のファインブランキング加工と同時に形成しているが、それを機械加工によって別途形成することも可能である。 【0049】 【発明の効果】以上のように請求項1に記載された発明によれば、ドリブンプーリを離れた金属エレメントが進行方向前方側に倒れたとき、リングスロットのサドル面の進行方向後方側に位置する半径が大きい方の角部が金属リング集合体の内周面に押し付けられるので、その金属リング集合体の内周面に発生するヘルツ応力を最小限に抑えて該金属リング集合体の耐久性を高めることができる。 【0050】また請求項2に記載された発明によれば、金属エレメントのサドル面の進行方向後方側に位置する半径が大きい方の角部は、金属板材を打ち抜き加工して金属エレメントを形成するときの打ち抜きだれとして生じるので、特別の加工を施すことなく前記半径が大きい角部を形成することができる。 【0051】また請求項3に記載された発明によれば、車両が前進走行する頻度は後進走行する頻度に比べて圧倒的に高いため、金属エレメントの進行方向を車両の前進走行時における進行方向に一致させることにより、半径が大きい方の角部を車両の前進走行時に金属リング集合体の内周面に押し付けて該金属リング集合体の耐久性を高めることができる。
|
| 【出願人】 |
【識別番号】000005326 【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
|
| 【出願日】 |
平成11年7月5日(1999.7.5) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100071870 【弁理士】 【氏名又は名称】落合 健 (外1名)
|
| 【公開番号】 |
特開2001−21007(P2001−21007A) |
| 【公開日】 |
平成13年1月26日(2001.1.26) |
| 【出願番号】 |
特願平11−190053 |
|