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【発明の名称】 クラッチピストン機構
【発明者】 【氏名】笠原 文明

【氏名】應矢 敏明

【要約】 【課題】長寿命、メンテナンスフリー等のこの種の機構に対する要求性能を満たしながら、従来に比してクラッチピストンを軽量化することのできるクラッチピストン機構を提供する。

【解決手段】クラッチプレート8aを押圧すべく、クラッチピストン1の周囲に突出形成されたフランジ部11の端面部11aが、少なくともその最内周部位を含む領域においてラッチプレート8aに当接して押圧するように構成することで、クラッチプレート8aの押圧動作時にクラッチピストン1に作用する応力を低い側で安定させ、クラッチピストン1の薄肉化と軽量化を図る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリンダ孔内に軸方向に摺動可能にクラッチピストンが配置されているとともに、そのクラッチピストンの周囲に円環状に突出形成されたフランジ部の端面部によりクラッチプレートを押圧するように構成されたクラッチピストン機構において、上記クラッチピストンのフランジ部の上記端面部が、少なくともその最内周部位を含む領域において上記クラッチプレートに当接して押圧するように構成されていることを特徴とするクラッチピストン機構。
【請求項2】 上記クラッチピストンがプレス成形品であり、そのフランジ部の上記端面部が、内周側ほど上記クラッチプレートに接近した錐面によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のクラッチピストン機構。
【請求項3】 上記クラッチピストンがプレス成形品であり、そのフランジ部の上記端面部が、少なくともその最内周部位を含む領域が上記クラッチプレートに当接して押圧するように機械加工による追加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載のクラッチピストン機構。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等の自動変速機に設けられて、クラッチプレートを押圧して変速動作を行うためのクラッチピストン機構に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車等の自動変速機には、一般に、油圧により動作するクラッチピストン機構が設けられ、このクラッチピストン機構のピストンによってクラッチプレートを押圧して変速動作を行うようになっている。
【0003】この種のクラッチピストン機構においては、通常、シリンダ孔内に軸方向に摺動可能に設けられ、かつ、リターンスプリングによってクラッチプレートから離隔する向きに付勢された金属製のクラッチピストンを、油圧によってクラッチプレート側に移動させ、そのクラッチピストンを金属製の環状体であるクラッチプレートに当接させてこれを押圧するように構成されている。
【0004】クラッチピストンとしては、一般にプレス成形品が用いられ、従来、図8に断面図を示すような形状のものが用いられている。この例におけるクラッチピストン81は、その一端部の周囲に円環状に突出するフランジ部82が形成され、そのフランジ部82の端面部をクラッチプレート83に当接させて、クラッチプレート83を図中下方に押圧してクラッチをON/OFFするようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、クラッチピストン機構は、自動車等の自動変速機における重要保安部品であり、その要求性能として、10年保証やメンテナンスフリーといった長寿命化が求められている。
【0006】図8に示した従来のクラッチピストンにおいては、全体がプレス成形品であってそのフランジ部82の端面部についてもプレス仕上げとなっているため、クラッチプレート83に対する当接位置、つまりクラッチプレート83の押圧力支持位置がプレス加工による成形精度に起因してばらつく。この押圧力支持位置が変化すると、クラッチピストン81に作用する応力分布に差が生じることが、有限要素法によるシュミレーション並びに実験の双方によって確認できている。
【0007】クラッチピストン81の動作時に作用する応力分布のばらつきは、製品寿命に大きな差が生じる原因となるため、その設計に当たっては、製造工程における成形のばらつきを考慮して、安全を見た設計とならざるを得ない。その結果、従来のこの種のクラッチピストン機構においては、クラッチピストンの板厚の増加による重量増大、並びにそれに伴う応答性の低下、および、高強度材料(一般に難加工材料である)の使用によるクラッチピストンのプレス精度の低下に伴う製品精度の低下、といった種々の弊害が生じている。
【0008】本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、長寿命、メンテナンスフリーといったこの種の機構に対する要求性能を満たしながら、従来に比して軽量で高精度のクラッチピストン機構の提供を目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明のクラッチピストン機構は、シリンダ孔内に軸方向に摺動可能にクラッチピストンが配置されているとともに、そのクラッチピストンの周囲に円環状に突出形成されたフランジ部の端面部によりクラッチプレートを押圧するように構成されたクラッチピストン機構において、クラッチピストンのフランジ部の上記端面部が、少なくともその最内周部位を含む領域において上記クラッチプレートに当接して押圧するように構成されていることによって特徴づけられる(請求項1)。
【0010】ここで、本発明においては、以上の構成を実現するより具体的な構成として、クラッチピストンをプレス成形品とし、そのフランジ部の上記端面部を、内周側ほどクラッチプレートに接近する向きに傾斜した錐面によって形成する構成(請求項2)を採用することができる。
【0011】また、他の構成として、クラッチピストンを上記と同様にプレス成形品とするとともに、そのフランジ部の上記端面部を、少なくともその最内周部位を含む領域がクラッチプレートに当接して押圧するように機械加工による追加工を施した構成(請求項3)を採用することもできる。
【0012】本発明は、クラッチプレートに対するクラッチピストンの当接位置(押圧力支持位置)を安定させることにより、クラッチピストンの動作時に作用する応力分布のばらつきをなくすことで、所期の目的を達成しようとするものである。
【0013】すなわち、周囲にクラッチプレートを押圧するためのフランジ部が形成されたクラッチピストンにおいては、その動作時、つまりクラッチプレートの押圧動作時における耐圧性は、クラッチプレートに対する当接位置(押圧力支持位置)がフランジ部の内周側に近づくほど向上することが、本発明者らによる構造解析によって確かめられた。そこで、本発明においては、クラッチピストンのフランジ部が、その最内周部位を含む領域においてクラッチプレートに対して当接してこれを押圧するように構成することで、クラッチピストンの動作時における応力分布を、耐圧性が高くなる状態で安定させる。これにより、応力分布のばらつき分の安全を見越した設計が不要となり、従来に比して肉厚を薄くすることができるとともに、プレス加工が容易で精度を出しやすい比較的低強度の材料を用いることができ、これにより、軽量かつ高精度のクラッチピストンが得られる。
【0014】そして、この種のクラッチピストンがプレス成形品であることを勘案した場合、上記のようにフランジ部の最内周部位を含む領域をクラッチプレートの押圧力支持位置とする構成を実現する具体的な構成の一つは、請求項2に係る発明のように、フランジ部のクラッチプレートに向く端面部を、内周側ほどクラッチプレートに接近した錐面によって形成する構成であり、他の一つは、請求項3に係る発明のように、フランジ部のクラッチプレートに向く端面部に機械加工による追加工施す構成であり、これらのいずれの構成においても、クラッチプレートへの押圧支持位置を安定してフランジ部の最内周部位を含む領域とすることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態の構成を示す要部断面図で、図2はそのクラッチピストン1のフランジ部11の近傍の拡大図である。
【0016】全体として偏平な略環状をしたクラッチピストン1は、ハウジング2に形成されたシリンダ孔3内に軸方向(図中上下方向)に摺動可能に設けられている。シリンダ孔3内には、ハウジング2に固定されたスプリング支持プレート4が臨んでおり、このスプリング支持プレート4に一端が保持されたリターンスプリング5によって、クラッチピストン1は図中上方に付勢されている。
【0017】スプリング支持プレート4の外周にはシール部材4aが固着されており、このシール部材4aはクラッチピストン1の裏面側(図中下面側)の内周面に全周にわたって接触している。また、クラッチピストン1の表面側(図中上面側)の外周および内周には、シリンダ孔3に対して摺動接触するシール部材1aが固着されており、これらの各シール部材4aおよび1aによって、シリンダ孔3内は、クラッチピストン1よりも上方の圧力室Aと、クラッチピストン1とスプリング支持プレート4の間に形成された油室Bに仕切られた状態となっている。そして、ハウジング2には、圧力室Aおよび油室Bをそれぞれ外部に対して連通させるためのポート6およびポート7が形成されている。以上の構成により、通常はリターンスプリング5の付勢力によって図示のようにシリンダ孔3内の上限に位置しているクラッチピストン1は、ポート6を介して圧力室A内に圧油を供給することによって、リターンスプリング5の付勢力に抗して図中下方に移動するようになっている。
【0018】さて、クラッチピストン1はプレス成形体であって、その周囲に円環状に突出形成されたフランジ部11を有している。そして、このフランジ部11に対向して、クラッチプレート8aおよびクラッチディスク8bからなるクラッチ8が配置されており、クラッチピストン1が油圧により図中下方に移動したとき、フランジ部11の下端面11aがクラッチプレート8aを下方に押圧するようになっている。クラッチプレート8aはハウジング2に対して例えばスプライン結合によって図中上下方向に変位自在に支持されており、このクラッチプレート8aが図中下方に押圧されることにより、クラッチディスク8bに対して摩擦係合されてクラッチ8が繋がった状態となる。
【0019】クラッチピストン1の周囲から円環状に突出したフランジ部11は、当該クラッチピストン1の中心軸Cに対して直角とはなっておらず、図2に示すように、その外周ほどクラッチプレート8aから離隔するような角度に成形されている。これにより、フランジ部11の下端面11aは、その内周側ほどクラッチプレート8aに接近する円錐面を形成している。このフランジ部11の中心軸Cに対する直角からの逸脱角度θは、クラッチピストン1のプレス成形工程におけるフランジ部11の角度成形誤差に比して充分に大きな角度に設定されている。
【0020】以上の本発明の実施の形態によると、クラッチピストン1が下降したときには、このクラッチピストン1のプレス成形精度に起因してフランジ部11の中心軸に対する角度に多少の誤差が生じていても、常にフランジ部11の最内周部位がクラッチプレート8aに当接してこれを押圧することになる。ここで、クラッチピストン1のクラッチプレート8aに対する当接・押圧位置が、フランジ部11の内周側となるほど、後述するようにクラッチピストン1の耐圧性が向上し、従って、以上の実施の形態によれば、プレス加工精度に影響されることなく、常にフランジ部11の最内周部位がクラッチプレート8aに当接するため、その状態での応力分布に従って、クラッチピストン1の肉厚並びに材料を用いた設計を行うことができ、プレス加工精度のばらつきに起因するクラッチプレート8aに対する当接位置の変化分を見越した設計をしていた従来のこの種のクラッチピストンに比して軽量化並びに高精度化を図ることができる。
【0021】次に、本発明の他の実施の形態について述べる。図3はそのクラッチピストン1のフランジ部11の近傍の断面図である。この例における特徴は、フランジ部11のクラッチプレート8aへの対向面である下端面11aに、機械加工、例えば研削加工や旋盤加工等、による追加工を施すことにより、フランジ部11の下端面11aの最内周部位を含む全面を、クラッチプレート8aの表面と平行な平坦面としている。図3において、Δで示されている部分が追加工による削除部分を示している。
【0022】ここで、機械加工による追加工で平坦化する領域は、以上のようにフランジ部11の下端面11aの全面とするほか、図4に要部断面図を示すように、フランジ部11の最内周部位から所定寸法だけ外周側に広がる領域のみとし、それより外周側の領域については、クラッチプレート8aから遠ざかるように、プレス成形工程において意識的に後退させた構成を採用してもよい。なお、この図4においても、追加工による削除部分はΔで示されている。
【0023】以上の図3および図4に示す実施の形態においても、クラッチピストン1は、常に最内周部位を含む一定領域において安定してクラッチプレート8aに当接するため、先の実施の形態と同等の作用効果を奏することができる。
【0024】次に、以上の各実施の形態の有効性を実証するため、クラッチピストン1のフランジ部の端面形状を変化させ、その耐圧性を実験により調査した結果について言及する。この実験においては、図5に示すように、プレス成形により製造されて、そのフランジ部11が成形工程におけるスプリングバック等によって、外周側が一定の若干角度だけクラッチプレート8a側に接近するように傾斜した従来品であるクラッチピストン1をテストピースとして用いた。そして、そのフランジ部11の端面部を研削加工により追加工してクラッチプレート8aと平行な平坦面を形成するとともに、その追加工時における研削代δを種々に変化させ、それぞれのテストピースについて実際のクラッチピストン機構を模した実験装置に組み込み、図6に示すように、クラッチプレートに見立てた固定面Fに対してフランジ部11の端面部を種々の圧力のもとに押しつけ、図6においてαで示される最も変形しやすい部位における永久変形の有無を調査した。
【0025】調査結果を〔表1〕に示す。この〔表1〕において、○は永久変形が無かったことを示し、×は永久変形が有ったことを示している。ここで、固定面Fの押圧時における固定面Fに対する当接位置は、従来品である研削代0のテストピースが、図9にそのフランジ部近傍の拡大断面図を示すように直径DP の位置であり、研削代0.20mmのテストピースが、図2に示すように、それよりも内側の直径DA の位置であった。
【0026】
【表1】

【0027】この〔表1〕から明らかなように、研削代を多くして固定面Fに対する当接位置がフランジ部11の端面部の内周側となるほど、永久変形が生じにくく、耐圧性が向上することが確かめられた。
【0028】また、従来品である研削代0のテストピースと、研削代0.2mmのテストピースについて、有限要素法を用いた構造解析により、種々の圧力による押圧動作時において発生する最大応力を調査した結果を図7にグラフで示す。このグラフにおいて、YPはクラッチピストン1の材質として多用されている自動車用高張力鋼板の降伏応力を表している。このグラフからも明らかなように、クラッチピストン1の押圧力支持位置がフランジ部11の内周側となるほど、降伏応力の発生圧力並びに永久変形の発生圧力が大きくなり、本発明の構成による耐圧性の向上効果を確認することができた。
【0029】
【発明の効果】本発明によれば、クラッチピストンにフランジ部を形成し、そのフランジ部の端面部によりクラッチピストンを押圧するように構成されたクラッチピストン機構において、クラッチピストンのフランジ部の端面部の少なくとも最内周部位を含む領域でクラッチプレートを押圧するように構成しているから、クラッチプレートの押圧時にクラッチピストンに作用する応力が低い側で安定し、従来のようにプレス成形精度に起因する応力分布のばらつき分の安全を見越した設計が不要となる結果、安定した性能および寿命を確保しながら、従来のこの種のクラッチピストンに比してその肉厚を削減して重量を軽減することが可能となり、応答性の向上、自動車の燃費の向上、対環境性の向上、並びに車のトータルバランスの向上を達成することができる。また、応力分布のばらつきを抑えて作用応力を低減できるために、比較的低強度の加工しやすい材料を選定することが可能となり、プレス加工の容易化とその精度の向上を図ることができる。
【出願人】 【識別番号】000001247
【氏名又は名称】光洋精工株式会社
【出願日】 平成11年11月5日(1999.11.5)
【代理人】 【識別番号】100090608
【弁理士】
【氏名又は名称】河▲崎▼ 眞樹
【公開番号】 特開2001−132775(P2001−132775A)
【公開日】 平成13年5月18日(2001.5.18)
【出願番号】 特願平11−315958