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【発明の名称】 |
転がり軸受及びその製造方法 |
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【氏名】田中 進 【氏名】山村 賢二 【氏名】大堀 學 |
【課題】振動や衝撃荷重或いは高速連続運転に対する耐久性及びその他の諸特性に優れた転がり軸受を安価に提供する。
【解決手段】例えば、内輪1及び外輪2及び複数の転動体3から構成される転がり軸受において、少なくとも内輪1,外輪2は軸受鋼から構成されるとともに、軌道面下2%Da(Da:転動体直径)深さにおける硬さがHRC62以上であり、表面及び芯部までの残留オーステナイト量が2vol%を超えないものとした。これにより、振動や衝撃荷重或いは高速連続運転に対する耐久性等の特性を向上でき、しかも低コストである。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 外輪と内輪及び複数個の転動体から構成されるか、又は外輪と軸体及び複数個の転動体から構成される転がり軸受において、少なくとも前記軌道輪は軸受鋼から構成されるとともに、軌道面下2%Da(Da:転動体直径)深さにおける硬さがHRC62以上であり、表面及び芯部までの残留オーステナイト量が2vol%を超えないことを特徴とする転がり軸受。 【請求項2】 前記転動体がセラミックス製、または5重量%以上のCrを含有する鋼製で且つその表面に少なくとも硬さHv900以上の窒化層を有することを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。 【請求項3】 請求項1記載の転がり軸受の製造方法であって、少なくとも軌道輪に焼入れ硬化処理を施す工程と、引き続いて機械的表面硬化処理を行う工程と、その後焼戻しを施す工程と、さらに研削仕上げ加工を施す工程とを備えたことを特徴とする転がり軸受の製造方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、転がり軸受に係り、特に、ハードディスクドライブ装置(以下HDDと略す)やビデオテープレコーダー(以下、VTRと略す)、ディジタルオーディオテープレコーダー(以下、DATと略す)等の情報機器における回転支持部分に用いるのに好適な転がり軸受、HDD等の構成部品の一部であるスイングアームの揺動運動部分に用いるのに好適な転がり軸受、あるいはファンモータ,クリーナモータ,車両のターボチャージャー等のように、静粛性が要求される機器に用いるのに好適な転がり軸受に関する。 【0002】 【従来の技術】転がり軸受は、軌道輪と転動体との間で転がり運動をして接触応力を繰り返し受けるため、これらの材料には硬くて負荷に耐え、転がり疲労寿命が長く、滑りに対する耐摩耗性が良好であること等が要求される。そこで、一般的にはこれらの材料として、軸受鋼であれば日本工業規格のSUJ2が、ステンレス鋼であれば日本工業規格のSUS440Cあるいは13Cr系のマルテンサイト系ステンレス鋼が、さらに肌焼鋼であれば同じく日本工業規格のSCR420相当の鋼材を焼入れあるいは浸炭または浸炭窒化処理したもの等が使用されており、転がり疲労寿命を確保するべく焼入・焼戻しが施されてHRC58〜64の硬度とされている。 【0003】特にHDDやVTR等の情報機器あるいはファンモータ等に使用される玉軸受の場合も、その軸受材料には高炭素クロム軸受鋼であるSUJ2またはマルテンサイト系ステンレスであるSUS440Cや0.7C−13Crステンレス等の材料が使用されることが多く、必要とされる硬さや耐摩耗性を得るために焼入・焼戻しが施され、軌道輪の硬さは上記と同じくHRC58〜64(Hv651〜793)とされている。しかして、この場合は、トルクや音響,騒音の低減等に対する要求が非常に厳しいため、極めて高精度に仕上げ加工が施されている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、近年、情報機器の小型化による可搬性の向上や高性能化等に伴い、様々な問題が浮き彫りになってきている。すなわち、■機器の小型化に伴ない搬送中の落下や振動にさらされる機会が増え、また■HDDの高性能化に伴なって内蔵スピンドルモータの回転数が飛躍的に大きくなっていることから、機器に組み込まれた玉軸受がわずかではあるが損傷を受けたり、軸受耐久性が不十分であったりすると、機器全体の性能や耐久性を劣化させる原因となり得ることが分かってきた。例えば機器に落下衝撃が加えられた場合や、あるいは軸受が高速で回転作動して温度上昇した後に静置されたような場合に、特に小型の玉軸受は接触楕円が小さいこともあって、軌道面が微小な永久変形をきたし、その結果音響劣化や回転トルクむらが発生して、玉軸受を組み込んだ機器の性能が劣化するのである。 【0005】このような問題は、特開平7−103241号や特開平8−312651号に記載されているように、鋼中に内在する残留オーステナイトの降伏応力が低く、且つ残留オーステナイトが熱的に不安定であるために発生すると考えられている。そこで玉軸受に必要な硬さを保持しながら、且つ残留オーステナイトを低減化するために、SUJ2であれば焼入後にサブゼロ処理するか、または220〜240℃程度の比較的高い温度で焼戻しするなどして、可能な限り残留オーステナイトを低減化したりもしくは完全に消失させて、上記要因による音響劣化を防止するような対策が施されている。 【0006】しかし、情報機器の可搬性がより高まってきたこともあって、落下衝撃に対する耐久性への要求はさらに厳しくなりつつあり、今まで以上の対策が必要となってきた。一方、可搬性が高まったことによって振動に曝される機会も増え、その結果、転がり軸受の転動体と内輪あるいは外輪との接触面において微小な振動や揺動によるフレッチングが発生し、音響劣化するという問題も浮き彫りになってきている。しかるに、前記特開平7一103241号,特開平8一312651号は、落下衝撃または高温静置による音響劣化に主眼を置いたものであって、振動や揺動によるフレッチングに関してはまったく考慮なされていない。また、実際問題として、HDDやVTR等の情報機器その他静粛性が求められる機器に使用される比較的小型の転がり軸受においては、潤滑面での対策がなされているだけで、材料面ではこれといった対策は実施されていなかった。 【0007】そこで、本願発明者らは、上記問題点を改善するために、まず、従来の転がり軸受の落下衝撃による音響劣化について詳細に調査を行なった。その結果、音響劣化の主要因が内輪あるいは外輪の転動体位置に生成するブリネル圧痕に起因するものであり、内輪及び外輪の落下衝撃による耐久性を高めることが最も効果的であるとの結論を得た。 【0008】また一方、本願発明者らは、機器の微小振動や揺動による音響劣化の要因についても詳細に調査し、この場合には、その主原因が転動体の著しい損傷によるものであることを突き止めた。すなわち、SUJ2等の一般軸受鋼からなる従来の転動体は、図1に示すように、内輪、外輪との接触部において振動や揺動による著しいフレッチング摩耗痕(図1の横縞模様)が生じ、転動体精度が著しく劣化することによって音響劣化を招くのである。 【0009】このフレッチングという問題に対して、最近では窒化ケイ素等のセラミックスボールの適用可否が検討されている。セラミックスボールは摺動性が良好であることに加えて、非常に硬度も高いため、極めて損傷を受けにくい。それゆえ、転動体をセラミックスボールにすることで、フレッチング耐久性に関しては鋼球に比較して格段に向上するのである。さらに、転動体にセラミックスボールを使用すると、高速連続運転時の音響耐久性においても非常に優れている。 【0010】しかしながら、セラミックスボールはコストが非常に高いばかりか、一般に、弾性係数が鋼と比較して著しく大きい。そのため、従来の転がり軸受の転動体のみをセラミックスとした場合には、鋼球に比較して大きな接触面圧を受け、その結果衝撃荷重によって軌道輪に前記圧痕の形成が起こり易くなって音響劣化しやすいという不利な点もある。また、線膨張係数が鋼球に比べて著しく小さいため、定位置予圧の場合に、機器が動作した際の温度上昇により与圧抜けが生じて剛性が低下するといった問題点も有している。 【0011】そこで、本発明は、前記諸問題を解決すべく開発されたものであり、振動や衝撃荷重あるいは高速連続運転に対する耐久性及びその他の諸特性に優れた玉軸受を安価に提供することを目的とするものである。 【0012】 【課題を解決するための手段】初めに、本願発明をなすに至った経緯を説明する。本願発明者らは、落下衝撃による音響劣化の主要因が、内輪あるいは外輪の転動体位置に形成されるブリネル圧痕にあることを明らかにした。そこで、本願発明者らは内輪及び外輪の衝撃荷重に対する耐久性を高めることを目的に鋭意検討を行なった。その結果、焼入れ硬化処理に引き続いて、表面層をショットピーニングなどの機械的硬化方法により強加工し、さらにその後、所望の温度で焼戻しを行ない、表面から芯部に至るまで残留オーステナイトを2vol%以下まで低減することによって、耐落下衝撃性を飛躍的に高め得ることを突き止めた。 【0013】ショットピーニング加工は、従来、表面硬度を高め且つ残留圧縮応力を付与し、疲れ寿命等を改善することを目的に実施されるのが一般的であって、その具体例として、特許2921112号,特許2949794号等がある。しかし、これらの発明にあっては、軌道輪の表面硬さ及び残留圧縮応力を共に高めて転がり寿命を改善することに主眼を置いており、静粛性に対する考慮が全くなされていない。 【0014】また、特開平5−195069号及び特開平5−195070号には、前記発明と同様にショットピーニング加工により軌道輪の表面硬さ及び残留圧縮応力を高め、さらに靭性,表面硬さ又は残留圧縮応力を考慮して、表面の残留オーチステナイト量を前者では0〜10vol%、後者では10〜30vol%と規定することで、転がり軸受の疲れ寿命を改善する発明がなされている。しかし、これらの発明もやはり前記発明と同様、転がり寿命を改善することに主眼を置いており、静粛性に対する考慮が全くなされていない。 【0015】これに対して、本願発明者らは、まずショットピーニング加工による残留オーステナイトの誘起変態作用(加工誘起マルテンサイト組織になる)に着目し、静粛性が要求される転がり軸受の耐久性を高めることができないか鋭意検討した。そして、ショットピーニングにより軌道輪の表面層を強加工し且つ残留オーステナイトの低減化を図り、さらにその後、所定の温度で焼戻しを行ない、表面から芯部に至るまで残留オーステナイトを2vol%以下とすることで、飛躍的に落下衝撃あるいは高温静置に対する音響耐久性を高めることが可能であることを見極め、請求項1記載の本願発明をなすに至った。 【0016】さらに、本願発明者らは、上記落下衝撃や高温放置による音響劣化を防止することにとどまらず、振動や揺動によるフレッチング損傷による音響劣化についても詳細に検討を行なった。そして、その主要因が転動体損傷であることをつきとめた。転動体損傷は、転動体にセラミックスボールを使用することで、飛躍的に改善できるのであるが、大幅なコストアップを招くのに加えて、線膨張係数、弾性係数等の物性の違いにより、かえって、予圧抜けによる剛性の低下あるいは落下衝撃の際の耐久性低下など、鋼球の場合より不利になる場合もある。 【0017】そこで本願発明者らは、鋼製転動体の表面に摺動性に優れる適当な改質層を形成させることによって、極めて静粛性が要求される玉軸受に関し、軸受性能を飛躍的に高めることができないか鋭意検討した。表面改質法には、蒸着やめっき等があるが、これらにより得た改質被膜は、摺動性には優れるが、転動体の表面に均一な改質層を形成させるのは非常に困難である。さらに、母材と被膜との界面強度が不足するため、容易に被膜の剥離,脱落が生じる可能性があり、高いせん断応力を受ける転動部材としては信頼性に欠けるという問題があり好ましくない。そこで、本願発明者らは、鋼製部品の他の表面改質法の一つである窒化処理の適用可否を検討した。窒化処理は、塩浴窒化,ガス窒化,イオン窒化処理など、摺動性の要求される機械部品の表面処理法として古くから利用されており、一般に、所望の形状に加工された製品を500〜600℃程度の温度に保持し、表面から窒素を拡散浸透させ硬化させる方法である。 【0018】表面に形成された窒化層は、デポジットした改質層と異なり拡散浸透させたものであるため、より高い界面強度を有するものと考えられる。しかし、高いせん断応力を受ける転動部品の場合、窒化層よりも一層深いところで大きなせん断応力を受けるためその適用は容易ではなく、これまで、基本的には軸受以外の各種機械部品に摺動性を付与することを目的に実施されているにすぎない。 【0019】転がり軸受その他の転動部品に対する具体的な適用例としては、特開平6−341442号,特開平10−131970号などがある。特開平6−341442号では、機械部品の少なくとも一つを塩浴窒化して、その表面に硬さがHv654〜Hv830で、厚さが5〜20μmの化合物層を形成することにより、耐食性に優れ、洗濯機用のローラークラッチに好適に使用できる転がり軸受を提案している。特開平10−131970号では、前記特開平6一341442号と同様に、一般軸受鋼からなる構成部品の少なくとも一つに窒化処理を施して耐食性改善を図るとともに、さらに、表面層における窒化物の平均粒子径を1μm以下に限定することによって耐焼付性を向上させ、自動車のエンジンのウオーターポンプ等の補機に好適に使用できる転がり軸受を提案している。 【0020】しかし、これらは耐食性や耐焼付性に主眼を置いたものであり、転がり軸受において必要不可欠であるせん断応力に対する芯部硬度などの考慮がほとんどなされていないうえ、HDD等の情報機器用玉軸受に特有の問題及びその解決方法にも触れられていない。したがって、情報機器用玉軸受として適用するには極めて不十分な内容となっている。特に、特開平10−131970号にあっては、窒化層の深さに関する言及がない。表面に関しても、窒化処理したままの所謂研削仕上げが施されていないものと推察されることから、静粛性の要求される情報機器用の玉軸受としては到底使用できない。 【0021】そこで、本願発明者らは、窒化処理技術を転がり軸受の転動体に応用し、セラミックスボールを使用した転がり軸受(以下、ハイブリッド軸受と記載する)同様、音響耐久性,耐フレッチング性を高め、しかもハイブリッド軸受の短所である、耐衝撃性,予圧抜けなどの問題を解決できないか鋭意検討を行なった。その結果、所定の軸受用鋼を母材とし、転動体の表面層に硬さが好ましくはHv1100以上の窒化層を設け、さらに、窒化層下地の硬度及び窒化層厚さ等の最適化を図ることで、極めて静粛性,耐フレッチング性,耐衝撃性等に優れる情報機器用転がり軸受を提供できることを見極め、請求項2記載の本願発明をなすに至った。 【0022】ここに、本発明に係る請求項1記載の転がり軸受は、外輪と内輪及び複数個の転動体から構成されるか、又は外輪と軸体及び複数個の転動体から構成される転がり軸受において、少なくとも前記軌道輪は軸受鋼から構成されるとともに、軌道面下2%Da(Da:転動体直径)深さにおける硬さがHRC62(Hv741)以上であり、表面及び芯部までの残留オーステナイト量が2vol%を超えないことを特徴とする。 【0023】また、本発明に係る請求項2記載の転がり軸受は、請求項1記載の発明である転がり軸受において、その転動体がセラミックス製、または5重量%以上Crを含有する鋼製で且つその表面に少なくとも硬さHv900以上の窒化層を有することを特徴とする。さらに、請求項3記載の発明は、請求項1記載の転がり軸受の製造方法に係り、少なくとも軌道輪に焼入れ硬化処理を施す工程と、引き続いて機械的表面硬化処理を行う工程と、その後焼戻しを施す工程と、さらに研削仕上げ加工を施す工程とを備えたことを特徴とする。 【0024】以下、本発明の転がり軸受の構成部材における数値限定の臨界的意義について説明する。 [軌道輪:材料及び製造方法について]本発明の転がり軸受において、軌道輪の母材となる軸受用鋼としては、完成品硬度がHRC58以上を満足できるものであれば、SUJ2、SUJ3等の高炭素クロム軸受鋼をはじめ、クロム鋼やクロム・モリブデン鋼等の肌焼き鋼を浸炭あるいは浸炭窒化したもの、さらには、前記高炭素クロム軸受鋼を浸炭窒化したものであっても良い。 【0025】以下、高炭素クロム軸受鋼を使用した場合の、軌道輪の製造方法について説明する。本発明の軌道輪は、上記軸受鋼を用いて所定の形状に加工された後、焼入れ硬化処理、好ましくはサブゼロ処理される。引続いて、機械的表面硬化処理としてのショットピーニング加工が施されて形成される。ショットピーニングは表面層を強加工することに加え、残留オーステナイトを加工誘起マルテンサイト組織に変える誘起変態に寄与し、この作用で落下衝撃に対する耐久性を飛躍的に向上させる効果がある。なお、機械的表面硬化処理としては、ショットピーニングと同様の作用が得られるものであれば、例えば、水ジェットを利用したウオーターピーニング加工も利用できる。 【0026】こうしたピーニング加工を施した後、220〜320℃程度の温度で焼戻しを行なう。これは以下の理由による。ピーニング加工を行なった後は、残留オーステナイトが加工誘起変態して表面硬度が上昇するのに加え、極めて高い残留圧縮応力が付与されることになる。これをそのまま研削仕上げ加工すると、部分的に研削取りしろが異なることに起因して応力バランスが崩れる結果、真円度等の要求精度が達成できなくなったり、或いは軸受が高温静置された際に、特に転動体との接触位置において残留圧縮応力が開放されることによる音響劣化が生じる場合がある。 【0027】また、ピーニング加工を行なった後は、表面層の残留オーステナイト量が加工誘起変態により著しく低下するのであるが、その効果が不十分な場合は、まだ多量の残留オーステナイトが含まれたままとなる。さらに芯部の残留オーステナイト量に至ってはほとんど変化しない。転がり軸受の場合、表面からかなり深い位置まで接触応力を受けるのであって、表面層のみの残留オーステナイトを低減するだけでは、落下衝撃あるいは高温放置に対する音響劣化防止効果が小さい。したがって、ショットピーニング加工した後に、引続き温度220℃以上で焼戻しを行ない、表面から芯部に至まで残留オーステナイトを2vol%以下、好ましくは1vol%以下、できれば0%まで低減する必要がある。もっとも、必要以上に焼戻温度をあげて硬さを低下させると、落下衝撃に対する耐久性が次第に低下するから、焼戻温度の上限は320℃とする。かくして、焼戻しを温度220〜320℃の範囲で行ない、転動面下2%Da深さにおける硬さが少なくともHRC62以上を満足するものとしている。より好ましい形態としては、転動面下2%Da深さにおける窒素濃度を0.1%以上とすると良い。 【0028】上記焼戻処理後に、研削仕上げ加工を施す。なお、以上の工程は高炭素クロム軸受鋼を焼入れ硬化した場合を例示したものであるが、高炭素クロム軸受鋼を浸炭窒化処理した後に同様の処理を施すと、浸透した窒素の効果によりさらに耐久性が向上する。 [転動体:材料について]転動体に窒化ケイ素やジルコニア等のセラミックス球を使用すると、フレッチング耐久性、高速連続運転時の音響耐久性等が格段に向上するから、特に、これらの特性が要求される場合には、セラミックス球が好適に使用できる。ただし、前記したようにセラミックスはコストが著しく高いばかりか、セラミックスの線膨張係数は鋼と比較して著しく小さいため、転がり軸受が定位置予圧で使用される場合には、予圧抜けによる剛性の低下が問題となる。また、弾性係数に関しても、鋼と比較するとセラミックスの方が著しく大きいため、同じ落下衝撃が加わった際により大きな接触応力を受けることになり、ブリネル圧痕が形成されやすいから鋼球に比較して不利である。 【0029】本発明の転がり軸受にあっては、勿論セラミックス製の転動体を用いてもよい。しかし、特に好ましいのは、転動体が所定の鋼から構成され、かつその表面に摺動性に優れる窒化層を付与したものであり、以下、その場合の詳細について説明する。転動体の母材となる軸受用鋼としては、Crを少なくとも5重量%(以下、同1)以上、好ましくは8%以上含有する高Cr鋼が良く、静粛性の観点からさらに好ましくは、炭素とCr含有量との関係が、C%≦−0.05Cr%+1.41を満たす鋼である。この条件を満足すると、窒化の際表面に生成する窒化層が、微細なCr窒化物等の析出などによって非常に高硬度となる結果、摺動性,耐フレッチング性等が極めて向上する。一方、上記関係式を満足しないと、凝固過程で長径10μmを超える粗大な共晶炭化物が生成して素材の線引き時に断線の問題が生じたり、仕上げ加工の際にこれら共晶炭化物が仕上げ加工精度を阻害して目標精度が得られなくなるなどの問題が生じる場合がある。含有する炭化物の大きさは5μm以下が良い。 【0030】また、窒化処理によって転動体芯部は非常に高い温度で焼戻しを受けることになり幾分軟化する。この芯部の軟化を抑えるために、炭素と窒素との総含有量を0.45%以上とする。より好ましくは、0.05%以上窒素を合金化したものを使用すると、より軟化を抑えることができ、さらに炭化物の微細化にも寄与する。また、上記成分に加えてMo,V,W,Nb,Al,Si等の窒化物形成元素を複合的に添加すると、これらの微細な窒化物が析出して、より耐久性が向上するため、コストが許される範囲で添加してもよい。 [転動体:製造方法及び完成品品質について]続いて、転動体の製造方法について説明する。 【0031】まず、冷間で引抜加工された線材を用い、ヘッダーによる冷間加工あるいは切削加工とフラッシング等により素球を製作し、これを焼入れした後、サブゼロ処理,焼戻しを行ない、荒研削加工を行う。次いで、後述の半加工球を作製するのであるが、その際取り扱い上の表面キズ発生の防止対策として、予めバレルあるいはボールピーニング等の機械的硬化加工により表面硬度を高めておくと良い。これらの機械的硬化方法は、鋼中の残留オーステナイトをマルテンサイトへ誘起変態させることにも寄与し、振動体起因の耐衝撃性低下を抑制する作用もある。 【0032】その後、目標寸法、すなわち完成品寸法に設定取りしろを加算した寸法まで研削加工を行なう(以下、これを半加工球と称する)。設定取りしろとは、具体的には目標とする精度まで仕上げ加工を行なう際の必要取りしろを指すが、もちろん窒化処理による膨縮量も含めたものを指す。この半加工球の精度は、真球度3.0μm以下、好ましくは1.0μm以下であることが好ましい。その理由は次の通りである。 【0033】窒化層は、一般には処理物の形状にならった形で生成する。そのため、真球度3.0μmを超える転動体に窒化層を設けると、それを仕上げ加工するときに不均一に研削されることになって窒化層厚さが不均一となる。と同時に、窒化処理によって生じた内部応力のバランスもくずれ、精度を出すために研削に長時間を要したり、場合によっては目標精度が達成できなくなるのである。 【0034】窒化処理として、一般的にはガス窒化,塩浴窒化,イオン窒化等があげられるが、イオン窒化は量産性に欠け、且つ処理物の形状等の影響も強く受けて球体表面に均一な窒化層を形成させることができない。また、一般のガス窒化、塩浴窒化は処理温度が480〜600℃と比較的高く、その際、芯部は焼戻し作用により軟化する。ところが、転がり軸受の転動体は荷重が加わると深さ方向に大きなせん断応力を受けることになるから、これに対処するには窒化層の下地の硬度も極めて重要である。にもかかわらず、一般の窒化方法では窒化処理温度が高いから、母材に十分な耐熱性がなくて芯部が著しく軟化した場合には、表面の窒化層を支える下地の強度が不足して、転がり軸受が高い接触応力を受けた際に表面窒化層の破損を招くことがある。そこで、芯部硬度をHRC57以上確保しておくことが好ましい。 【0035】また、窒化処理温度が高いと、窒化処理後において真球度、直径相互差等が大きく低下し、やはり前述のように鋼球の精度及び諸機能において不具合を生じる。したがって、窒化処理温度は好ましくは450℃以下、さらに好ましくは420℃以下とする。また、窒化層は処理温度が低いほど緻密であり、粗悪なポーラス層は生成しない。そのため、ラップ仕上げ後の表面粗さやウェービネス等も向上する傾向にある。 【0036】本発明の転がり軸受の場合、具体的には次に記載した窒化方法が好適に利用できる。一般のガス窒化の場合は、処理温度を低くすると、アンモニアガスの反応性が低下する。加えて、Crを多量に含有する鋼の場合には、表面層に緻密なCr酸化層が形成されており、これが窒化を阻害し均一な窒化層を形成できなくなる場合がある。また、塩浴窒化の場合は、基本的には塩浴の融点が高いため、処理温度を下げることには限界がある。 【0037】そこで、本発明の窒化プロセスとしては、例えば、Nv窒化プロセス(大同ほくさん株式会社の商品名)が好適に使用できる。この処理は、窒化処理の前処理として、例えばNF3(三フッ化窒素)等のフッ素系ガスを用いて250〜400℃程度でフッ化処理を行なうプロセスと、NH3ガスによる窒化処理を行なうプロセスとからなっている。フッ化処理により、窒化反応を阻害するCr酸化層が除去されて表面層にごく薄いフッ化層が形成され、表面が極めて活性化する。そのため、その後の窒化処理を400℃程度の低い温度で行っても、非常に均一な窒化層を形成させることが可能となるのである。その結果、表面に生成した窒化層は非常に緻密なものであって、かつ窒化処理後に転動体の精度が劣化することも抑えられ、その後の仕上げ加工が比較的容易に行えるというメリットもある。 【0038】もっとも、上記プロセスはあくまで例示であって、塩浴窒化であっても、塩浴の組成によってはその融点を420〜430℃とすることは一応可能であるので、処理温度が450〜480℃程度の低温塩浴窒化であっても良い。その結果、表面層にはHv900以上、好ましくはHvll00以上の窒化層が形成される。当該窒化層には(Fe、Cr)2-4N、CrN、Cr2N等の微細な窒化物が多量に析出して、耐久性が飛躍的に向上する。特に好ましくは、Hv1200〜1400程度とするのが良い。なお、Hv900未満では表面硬度不十分のため、転がり軸受の静粛性,耐フレッチング性を高めることができない。 【0039】また、転動体の窒化層厚さが転動体直径Daの1.5%未満では、落下衝撃の際にこの転動体に起因する音響劣化が生じる場合がある。一方、窒化層厚さが転動体直径Daの6%を超えると、窒化層が厚すぎて処理時間が長くなりコストアップするのみならず、処理後のボール品質が粗悪なものとなって仕上げ加工に苦労したり、目標精度が達成できなくなったりする。したがって、転動体の窒化層の厚さは、転動体直径Daの1.5%〜6%とするのが好ましい。 【0040】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図2は、本発明の転がり軸受の一実施形態の断面図である。この転がり軸受は、外径面に軌道溝1aを有する内輪1と、内径面に軌道溝2aを有する外輪2との間に、複数個の転動体3を備えて構成されており、転動体3は、保持器4により円周等配に保持されている。 【0041】このJIS呼び番号695の玉軸受を実施例及び比較例の試験体として、軸受の静粛性及び各種耐久性の評価を行った。軸受に組み込まれる転動体3は、SUJ2製,セラミックス製,窒化球の3種類とし、すべて等級3以上までラップ加工されたものを使用し、保持器4はプラスチック保持器とし、潤滑には内部防錆油及び鉱油系グリースを使用した。 【0042】試験体軸受の製作:(実施例の軌道輪)まず、軌道輪である内輪1,外輪2にはSUJ2を用い、切削加工により所定形状,寸法に加工した。その後、次の二通りに分けて熱処理を施した。 (1)820〜860℃で油焼入れし、引続いて−90℃で20分間のサブゼロ処理を行った。 【0043】(2)820〜860℃で浸炭窒化焼入れし、引続いて−90℃で20分間のサブゼロ処理を行なった。次に、以下の条件でショットピーニング加工を行なった。ショットピーニング加工には、直圧式ノズル型ショットピーニング装置を用いた。ショット粒として平均粒径0.3mm、平均硬さHRC60の鋼球を使用し、ショット投射速度50〜120m/s、カバレージは100〜300%の条件で行なった。 【0044】さらに引続いて、(1)の場合には220〜240℃、(2)の場合には260〜280℃で、それぞれ2時間焼戻しを行なった。 (比較例の軌道輪)実施例と同様に製作した軌道輪に対して、次の条件に分けて熱処理を施した。 条件1;820〜860℃で油焼入れし、160〜180℃で焼戻しを行なった。 【0045】条件2;820〜860℃で油焼入れした後、−90℃で20分間サブゼロ処理し、その後160〜180℃で2時間焼戻しを行なった。 条件3;820〜860℃で油焼入れした後、−90℃で20分間サブゼロ処理し、その後220〜240℃で2時間焼戻しを行なった。 条件4;820〜860℃で油焼入れ、あるいは−90℃で20分間のサブゼロ処理後にショットピーニングを行ない、その後160〜320℃の範囲内の種々の温度で焼戻しを行ない、硬さ,残留オーステナイトを種々異なるように調整した。 【0046】(実施例,比較例の転動体)転動体には、実施例,比較例とも、従来と同じSUJ2製の球、Si3N4セラミックス製の球を使用した。実施例の転動体には、その他に、本願発明の最も好ましい形態である窒化球も使用した。当該窒化球の材料には、炭素と窒素の総含有量が0.55〜0.75%、クロム含有量が12〜13.5%のマルチンサイト系ステンレス鋼を使用した。この材料を用いてまず素球を作製し、これに焼入れ,サブゼロ処理,焼戻しを施した。次いで粗研削加工を行なった後、ボールピーニング加工を行ない、引き続いて真球度1.0μm以下まで仕上げ加工してから、窒化処理,仕上加工(ラップ仕上げ)を行なった。 【0047】その窒化処理については、410〜440℃×24〜48時間のNv窒化プロセス(前出)により行なった。その結果得られた窒化層の表面硬さはHv1200〜1400程度であり、窒化層厚さは転動体直径Daの2〜5%、芯部硬さはHRC59.7であった。なお、表面硬さは、荷重100gで転動体表面を直接ビッカース硬度計により測定した。芯部硬さは、ボールを熱可塑性樹脂に包埋して切断して窒化層が完全になくなる断面が得られるまで研磨して芯部のビッカース硬度を荷重100gで測定した値を、ロックウェルC度に換算した。また、窒化層厚さは、前記樹脂包埋転動体を適当な断面径まで研磨してから、マーブル試薬でエッチングを行ない、観察面の転動体断面径およびその断面径におけるエッチング面に明瞭に観察される窒化層厚さをそれぞれ顕微鏡で測定して、幾何学的に真の窒化層厚さを算出することで求めた。図3は、このようにして測定された窒化球転動体の断面図の一例を示したものであり、緻密な窒化層が均一に形成されていることが観察される。 【0048】試験方法:上述のようにして形成した軌道輪,転動体を用いて軸受を組み立て、得られた軸受完成品の品質及び耐久性を評価した。 (軸受完成品品質);転動面下2%Da深さにおける硬さ(荷重100gでビッカース硬度測定後、ロックウェル硬度に換算)、及び表面と芯部との残留オーステナイト量をX線回折により測定した。また、浸炭窒化したものについては、上記測定結果に加えて、転動面下2%Da深さにおける窒素濃度をEPMAにより測定した。 【0049】(耐久性評価);音響耐久性,フレッチング耐久性,耐衝撃性及び高温静置耐久性等について評価した。まず、試験体玉軸受を予圧11.76N(1.2kgf)、回転数1800rpmで作動させたときのアキシャル振動加速度(G値)を測定することで初期音評価を行なってから、以下の各種評価試験に供した。 【0050】■音響耐久性評価は、予圧11.76N、回転数7200rpm、温度80℃で1000時間回転作動させた後、再度、アキシャル振動加速度(G値)を測定し、初期値からの音響劣化量を求め、比較例B−1を1としたときの比で示した。したがって、その比の数値が小さいほど音響耐久性に優れている。 ■フレッチング耐久性評価は、下記条件で揺動試験を行なって初期値からの音響劣化量を求め、比較例B−1を1としたときの比で示した。したがって、音響耐久性の評価結果と同様、その比の数値が小さいほどフレッチング耐久性に優れている。 【0051】 予圧 : 11.76N揺動条件 : 2°、27Hz揺動回数 : 10万回■耐衝撃性評価は、玉軸受に11.76Nの予圧をかけた状態で、アキシャル方向に30cm〜lm程度の高さから落下試験を行ない、試験前に対するG値上昇量を測定することで行なった。なお、軸受は外輪回転で、ハブを含めた総重量は35gとし、ハブに取り付けた加速度ピックアップにより、落下時の加速度を測定した。試験前に比較してG値が5mG増加した加速度を求め、比較例B−1との加速度比により評価した。したがって、その比の数値が大きいほど、耐衝撃性に優れている。 【0052】■高温静置耐久性は、玉軸受に11.76Nの予圧をかけた状態で、100℃に150時間保持した後、再度、アキシャル振動加速度(G値)を測定し、初期値からの音響劣化量を求め、比較例B−1を1としたときの比で示した。したがって、その比の数値が小さいほど高温放置耐久性に優れている。 試験結果:試験の結果を表1に示す。 【0053】なお、表中には、軸受完成品品質として、転動面下2%Da深さにおける硬さ(荷重100gでビッカース硬度測定後、ロックウェル硬度に換算)、及び表面と芯部の残留オーステナイト量をX線回折により測定した値を記載した。また、浸炭窒化したものについては、上記測定結果に加えて、転動面下2%Da深さにおける窒素濃度をEPMAにより測定した結果も示した。 【0054】 【表1】
【0055】表1の試料No.A−1〜A−4は、軌道輪がショットピーニング加工を施したもの、転動体がSUJ2鋼球である場合の実施例である。A−5〜A−7は、ショットピーニングを施した軌道輪にSi3N4セラミックス球を組み合わせた場合の実施例である。A−8〜A−10は、ショットピーニングを施した軌道輪に本願発明の最も好ましい形態である窒化球を組み合わせた場合の実施例である。 【0056】これに対して、試料No.B−1〜B−3は転動体が従来と同じSUJ2の場合の比較例であるが、転動体がSUJ2の場合の実施例A−1〜A−4と比較すると、すべての評価項目で実施例の方が優れており、特に、落下衝撃に対する耐久性(耐衝撃性)については実施例の方がかなり勝っている。また、比較例B−4〜B−7は、軌道輪にショットピーニングを施したものであるが、表面あるいは芯部の残留オーステナイト量が実施例に比較して多いか、または転動面下2%Da深さにおける硬さHRC62以上が満足されていない。そのため、A−1〜A−4の実施例と比較すると、やはり耐衝撃性が劣る。 【0057】また、比較例B−8〜B−9は、転動体がSi3N4セラミックス球の場合の比較例であるが、窒化珪素の弾性係数が鋼球よりも大きいため、比較例B−1〜B一7と比較しても、落下衝撃に対する耐久性が劣っている。これに対して、転動体がSi3N4セラミックス球である実施例A−5〜A−7は、ショットピーニングと焼戻しによる組合わせ効果によって軌道輪の耐衝撃性が飛躍的に向上したため、転動体が鋼球の場合の比較例B−1と比較しても、落下衝撃に対する耐久性が向上した。また、この場合には、Si3N4セラミックスの摺動性が極めて優れることから、音響耐久性、耐フレッチング性に関しても格段に優れている。また、比較例B−8〜B−9の場合、Si3N44セラミックスの線膨張係数が鋼と比較すると著しく小さいということから、予圧抜けによる剛性が低下するといった問題点も有しており、特に、定位置予圧で使用される場合には軸受周りでの対策を講じる必要がある。 【0058】実施例A一8〜A−10は本願発明における最も好ましい形態例であるが、転動体が基本的には鋼をベースとした窒化鋼球とされたため、予圧抜けによる剛性低下という問題は解決できる。また、表1からも明らかなように、窒化層が摺動性に優れ、転動体の損傷が極めて抑制されることから、音響耐久性、耐フレッチング性に関しても格段に優れている。また、衝撃荷重が大きくなってくると、転動体にも損傷が見られる場合があるが、本実施例A一8〜A−10の窒化球の場合、落下衝撃に対する耐久性はSUJ2鋼球より優れるため、耐衝撃性の点でも非常に有利である。 【0059】落下衝撃に対する耐久性である耐衝撃性に関しては、特に、軌道輪を浸炭窒化したものでその効果が大きかった。ここで、ショットピーニングを行なうことによって耐衝撃性が向上する要因としては、やはり残留オーステナイトが加工誘起変態によって減少した影響が大きいと考えられるが、残留オーステナイトを0としたものでも、ショットピーニングの有無によって耐衝撃性が大きく異なる。これは、ショットピーニングによる強加工の影響で転位密度が増し、その雰囲気場に炭素や窒素等の侵入型元素が集まってきて転位を固着させる効果、いわゆる歪み時効による効果により、降伏応力が上昇するためと考えられる。 【0060】しかし、ショットピーニングを行なったものでも、その程度によっては残留オーステナイトを完全に分解させることにならないばかりか、芯部の残留オーステナイトは全く分解しないので、残留オーステナイト量に対する考慮がなされない場合には落下衝撃に対する耐久性を向上させる効果が小さい。すなわち、ショットピーニングと最適な温度における焼戻しとを組合わせ、表面から芯部に至るまで残留オーステナイトをほぼ0とした場合に限り、耐衝撃性を大きく改善できるのである。すなわち、表面も芯部も残留オーステナイトを小さくすることで降伏点が上昇し、結果として落下衝撃に対する耐久性が向上する。また耐圧痕性も増す。 【0061】ただし、焼戻し温度が必要以上に高い場合には、次第に軟化してきて耐衝撃性は低下する。したがって、HRC62以上を満足できる範囲で焼戻しを実施する方が良い。また、浸炭窒化処理することにより好ましい結果が得られるのは、固溶窒素が転位をより固着させるのに加え、炭窒化物がより効果的に転位のピン止めに作用するためではないかと考えられる。しかして、本願発明者らが詳細に検討を行なったところ、軌道輪において、転動体径Daの2%深さにおける窒素濃度を少なくとも0.1重量%以上(最表面においては、それより若干大きい)確保しないと、その効果は非常に小さかった。より好ましくは、転動体径Daの2%深さにおける窒素濃度を少なくとも0.3重量%以上とするのが良い。 【0062】図4は、表面あるいは芯部の残留オーステナイト量と落下衝撃に対する音響耐久性(即ち耐衝撃性)との関係を示したものである。この結果から、ショットピーニング加工により耐衝撃性が向上していることが確認できる。しかし、ショットピーニング加工後においてまだ多量の残留オーステナイトを含有している場合にはその効果が小さい。ショットピーニング加工後に焼戻しを行なうことによって、表面から芯部に至るまで、残留オーステナイトを2%以下とした場合に耐衝撃性向上効果が大きいことが明らかである。 【0063】図5は、表面及び芯部の残留オーステナイト量が共に1%以下であるものについて、硬さと落下衝撃に対する音響耐久性(耐衝撃性)との関係を示したものである。硬さがHRC62以上を満足したもので特に耐衝撃性に効果があることがわかる。これは言い換えれば前記したショットピーニングの効果でもある。また、ショットピーニング加工を施したものであっても、硬さがHRC62以上を満足しないものは、実施例に比較して劣っている。また、本願発明の特に好ましい形態である窒化球と組合わせた実施例においては、転動体に起因する音響劣化が抑制されたことで、特に耐衝撃性が優れていることが確認できる。 【0064】なお、本発明は、外輪と内輪及び複数個の転動体から構成される転がり軸受のみならず、外輪と軸体及び複数個の転動体から構成される転がり軸受即ち軸体が直接に転動体と接して内輪として機能するように構成される転がり軸受にも、好適に適用することができる。 【0065】 【発明の効果】以上説明したように、本発明の転がり軸受は、軌道輪に対してピーニング加工による強加工と最適な温度での焼戻しを行なうことにより、飛躍的に落下衝撃あるいは高温静置に対する耐久性を高め、これに摺動性に優れる転動体を組み合わせることにより、さらにフレッチング耐久性,音響耐久性をも一般軸受よりも高めることができるという多大なる効果を奏する。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000004204 【氏名又は名称】日本精工株式会社
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| 【出願日】 |
平成12年4月6日(2000.4.6) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100066980 【弁理士】 【氏名又は名称】森 哲也 (外2名)
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| 【公開番号】 |
特開2001−289251(P2001−289251A) |
| 【公開日】 |
平成13年10月19日(2001.10.19) |
| 【出願番号】 |
特願2000−105324(P2000−105324) |
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