トップ :: F 機械工学 照明 加熱 武器 爆破 :: F16 機械要素または単位;機械または装置の効果的機能を生じ維持するための一般的手段

【発明の名称】 転がり軸受
【発明者】 【氏名】池田 憲文
【氏名】山本 豊寿
【氏名】大堀 學
【課題】特に予圧を負荷して使用される小径転がり軸受の音響劣化、予圧抜け、耐衝撃性の向上を図る。

【解決手段】例えば常温における線膨張係数が6.0×10-6/K〜12.5×10-6/Kであるようなジルコニアを主成分とするセラミックスで転動体を構成することにより、音響劣化を抑制防止できるのは勿論、軸受使用中の熱膨張量を内輪・外輪と同等にして予圧変化を抑制防止し、更にジルコニア系セラミックスのヤング率が比較的小さいことから衝撃荷重による軌道面への圧痕の発生を抑制防止して耐衝撃性の向上を図る。また、転動体の製造法を限定して、断面空孔率を0.7以下とすることにより音響特性を向上する。更に、軌道輪の熱処理を限定して、耐衝撃性を向上する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 内輪と外輪との間に複数の転動体を配設して構成される転がり軸受において、前記転動体が、ジルコニアを主成分とするセラミックス材料で構成されることを特徴とする転がり軸受。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ビデオテープレコーダ(VTR)のビデオヘッドシリンダやハードディスクドライブ(HDD)のスピンドルに用いられるような、転動体にセラミックス材料を用い、二つの軸受間に予圧を負荷して使用される小径の転がり軸受に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、VTRやHDD等の情報記録装置は、小型化が進む一方で再現画像の繊細さ、情報記録容量の高密度化が望まれ、ビデオヘッドシリンダやHDDスピンドルの主軸に使用される転がり軸受にも、小径化、高速回転化、低トルク化、高回転精度化の要求が益々厳しくなる傾向にある。転がり軸受として、低トルク化、高回転精度化を実現するためには、例えば封入されるグリースの粘度を下げたり、その封入量を減少させたりといった対策が採られる場合が多い。しかし、これらの対策は、一方で内輪・外輪と転動体との間の潤滑油膜形成を阻害する場合があり、振動による油膜切れによって生じるフレッチングや、微小焼付きによる音響寿命劣化を生じやすくなる。そこで、従来のこれらの用途で用いられる転がり軸受には、軸受鋼よりも耐焼付性に優れ、回転寿命の長い窒化珪素を転動体として用いたハイブリッド型転がり軸受が用いられている。
【0003】また、回転精度要求を達成するための軸受組合せ構造として、対向する軸受間に予圧を負荷した組合せ軸受ユニットが用いられている。図1は、転動体Fが玉である転がり玉軸受の一例であるが、二つの軸受A間に設けられたハウジングBの凸部Cが各軸受Aの外輪Dを位置決めし、内輪Eを基準圧力で抑えながら固定することにより、軸受間に予圧を負荷する構造となっている。装置構造によっては、内輪と外輪とが逆の場合もある。このように軸受間に予圧を負荷することにより、主軸の剛性向上、振れ回り減少、共振周波数の回避等の効果があり、前述のように回転精度要求の高い軸受ユニットでは、予圧負荷は回転性能維持のために必要不可欠となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、転動体を窒化珪素で構成した場合、それを装置に組み込んで使用すると予圧が減少して、主軸の回転精度が劣化することがある。これは、転動体に用いられる窒化珪素の使用温度範囲における線膨張係数が1×10-6〜2×10-6/K程度と、内輪・外輪を構成する軸受鋼の12.5×10-6/Kや、ステンレス鋼の10.5×10-6/Kに比較して非常に小さいことに原因がある。即ち、軸受回転時の温度上昇による内輪・外輪の熱膨張量に対して、転動体の熱膨張量が小さく、軸受の内部すきま量が増加するため、もともと軸受間に負荷してある予圧荷重が減少し、場合によっては完全な予圧抜けになることもある。この予圧抜けにより、軸の剛性低下、軸芯の振れ回り増大、軸の共振周波数変化などの回転性能劣化を引き起こすのである。
【0005】また、転動体に窒化珪素を用いた場合のもう一つの問題として、軸受の耐衝撃性劣化が挙げられる。即ち、軸受に外部から過大な衝撃が加わった場合、応力の集中する転動体と内輪・外輪との接触部に微小圧痕が生じる場合がある。この圧痕の発生は軌道面上で生じるため、軸受の音響、振動性能を著しく劣化させ、ひいてはVTRやHDD自体の性能をも阻害する。これは、転動体として用いられる窒化珪素は、軸受鋼やステンレス鋼に比べて剛性が高く、弾性変形もし難いため、軌道面の圧痕発生の原因となる応力集中を顕著にし、圧痕を生じ易くするのである。
【0006】本発明は前記諸問題を解決すべく開発されたものであり、前記従来の窒化珪素を転動体に用いた転がり軸受に見られる予圧抜け及び圧痕発生を抑制防止し、回転性能の劣化並びに音響、振動性能の劣化を防止することができる転がり軸受を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】而して、本発明に係る転がり軸受は、内輪と外輪との間に複数の転動体を配設して構成される転がり軸受において、前記転動体が、ジルコニアを主成分とするセラミックス材料で構成されることを特徴とするものである。また、前記転動体の0℃〜100℃における線膨張率が6.0×10-6/K〜12.5×10-6/Kであることが望ましい。
【0008】以下に、本発明の詳細を説明する。まず、本発明の転がり軸受の転動体に用いるジルコニアを主成分とするセラミックス材料について説明する。これは、加水分解法、熱分解法、共沈法等で得られたジルコニア粉末若しくはジルコニア化合物粉末を原材料として、金型成形や造粒成形により球形としたものを常圧、加圧、またはHIP焼結して得られる。このとき、原材料にはカルシア(CaO)、イットリア(Y2 3 )、マグネシア(MgO)、セリア(CeO)等の安定化剤が添加される。これらの代表例としては、部分安定化ジルコニア(PSZ)や正方晶安定化ジルコニア(TSZ)が挙げられるが、何れも高靱性で軸受の転動体としては望ましい。また、導電性を付与する目的で、窒化チタン(TiN)や炭化チタン(TiC)、鉄や鉄系酸化物(Fe2 3 、FeO)等の導電性物質を添加することもある。これら導電性ジルコニアは、PSZ、TSZ同様に強靱な性質を持ち、転動体として好適に用いることができる。
【0009】これらのPSZ、TSZ、導電性ジルコニア等のジルコニア系セラミックスは金属に比較して高融点、高硬度を有し、鉄鋼材料との焼付き性にも優れるため、鋼製転動体で問題となったフレッチングや、微小焼付きによる音響寿命劣化の問題は、窒化珪素と同様に改善できる。特に、導電性ジルコニアは導電性を有し、静電気を帯電し難いため、転動体材料としては特に望ましい。これは、静電気を帯電した転動体は大気中の異物を収集し易いため、軸受内部汚染の一因となる場合があるが、導電性ジルコニアを用いることによりこれを回避することができる。また、導電性ジルコニアを組み込んだ軸受は、軸受が支持する回転体の帯電も速やかに接地することができる。
【0010】ジルコニア系セラミックスは、母材の線膨張係数が9×10-6/K程度であるため、添加剤を加えて強靱性、導電性を付与した場合でも、軸受の内輪・外輪を構成する軸受鋼やステンレス鋼に近い線膨張率を容易に得ることができる。即ち、ジルコニアを主成分とするセラミックス材料であれば、材料強度、焼付き性等の要求性能を劣化させることなく、軸受の内輪・外輪との線膨張率差が小さい材料を設計することができる。従って、転動体として前記ジルコニア系セラミックスを用いることにより、窒化珪素を転動体として用いた転がり軸受で問題と考えられた、温度上昇による予圧抜けの問題を抑制防止することができる。このとき、予圧抜けを効果的に防止するためには、前記ジルコニア系セラミックスの中でも0℃〜100℃の線膨張係数が6.0×10-6/K〜12.5×10-6/Kとしたものが望ましい。これに対し、軸受鋼の転動体を基準として設計された軸受ユニットに、線膨張係数が6.0×10-6/K未満の材料を転動体として用いる場合には、当該軸受ユニット性能に重大な影響を及ぼすほどの予圧抜けを生じる可能性がある。一方、前記軸受に線膨張係数が12.5×10-6/Kを超える材料を転動体に用いた場合、温度上昇により予圧を増加させる方向に作用するため、軸受のトルク増大、寿命劣化を引き起こす。
【0011】また、前述のように転動体として用いる材料の剛性は、軸受の耐衝撃性を支配する要因となる。このため、耐衝撃性を向上させるためにはヤング率の小さい材料を転動体として用いる必要がある。ここで、ジルコニア系セラミックスは、汎用で用いられている構造用セラミックスの中でも特にヤング率の小さい材料である。一方、従来技術で転動体として用いられている窒化珪素セラミックスのヤング率は320GPaと大きく、内輪・外輪と転動体との間の接触面積が大きくなるため、衝撃荷重に対して微少圧痕がつき易く、軸受の耐衝撃性が問題となる場合がある。これに対して、ジルコニア系セラミックスのヤング率は殆どが210GPa程度で、軸受鋼の208GPa、ステンレス鋼の200GPaと同程度であり、窒化珪素に比較して非常に小さい。また、TiNを添加した導電性ジルコニアはやや大きいヤング率を示すが、それでも300GPa以下と窒化珪素に比較して小さく、当該窒化珪素を転動体に用いる転がり軸受に比較して耐衝撃性の向上が期待できる。つまり、ジルコニア系セラミックスを転動体として用いると、窒化珪素を転動体として用いた場合で問題となった軸受の耐衝撃性劣化を抑制防止することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明する。まず、内輪・外輪が軸受鋼で構成される外径13mm、内径5mm、幅4mm、玉数8個の転がり玉軸受において、表1に示すような転動体材料を変化させた実施例及び比較例を作製した。なお、保持器は冠型ナイロン系樹脂保持器、グリースにはNS7を用いた。
【0013】
【表1】

【0014】これらの試験軸受に対し、雰囲気温度70℃、アキシャル荷重98N、回転速度10000rpmの条件で音響試験を行った。試験は、初期音響が同程度の各軸受を前記条件で300時間回転させ、試験終了後、アンデロンメータで音響測定を行い、各軸受の音響劣化を評価した。試験結果を図2に示す。縦軸のアンデロン値は、転動体が軸受鋼SUJ2で構成される比較例1を1としたときの比で表す。同図から明らかなように、実施例1〜3のジルコニア系セラミックス材料を転動体に用いた軸受は、比較例1、2の鋼製転動体を用いた軸受よりも遙かに軸受音響の劣化が少ない。
【0015】次に、予圧変化量について、前記図1と同様の構造の軸受ユニットに前記試験軸受を組み込み、加振しながら加熱して、主軸の共振周波数を測定することによって評価した。試験結果を図3に示す。縦軸は、転動体が軸受鋼SUJ2で構成される比較例1の20℃における予圧量を1としたときの比で表す。同図から明らかなように、窒化珪素を転動体として用いた比較例3の軸受は、80℃付近でほぼ予圧が完全に0になったのに対して、ジルコニア系セラミックス材料を転動体に用いた実施例1〜3の軸受では、予圧変化が非常に小さい。
【0016】次に、耐衝撃性について、衝撃荷重による圧痕で生じる軸受音響レベルの変化から評価した。衝撃荷重を段階的に増加しながら各軸受の音響レベルを測定し、音響レベルが急激に上昇したときの衝撃荷重を圧痕発生荷重とした。試験結果を図4に示す。縦軸は、転動体が軸受鋼SUJ2で構成される比較例1の限界荷重を1としたときの比で表す。同図から明らかなように、窒化珪素を転動体として用いた比較例3の軸受に比べて、ジルコニア系セラミックス材料を転動体に用いた実施例1〜3の軸受では圧痕発生荷重が大きく、衝撃荷重に対して圧痕を生じ難いことが分かる。
【0017】次に、本発明の転がり軸受の第2実施形態について説明する。この実施形態では、前記ジルコニア系セラミックス材料を主成分とする軸受部材のうち、特に転動体は、金型プレス法や造粒法で一次成形したものを加圧雰囲気又は常圧雰囲気で焼結し、二工程以上の研磨工程を経て要求精度を満たす球体に仕上げた。ここで、一次成形体を得る方法として、金型若しくは硬質ゴム型を用い、一方向加圧によって製造した場合、一次成形体密度が低く、内部に相当量の空孔が存在しているので、焼結時に加圧焼結する必要がある。即ち、金型若しくは硬質ゴム型を用いた一方向加圧で、球体又は金型合わせ部に所謂耳がある球体の一次成形体を常圧で焼結した場合、粉体粒子間の摩擦や内部圧力の均衡等により、成形体全体に十分な加圧力が生じない場合がある。このため、一次成形体内部に相当量の空孔が存在している。このような密度の低い成形体を常圧で焼結しても、内部に空孔が残存するので、この焼結体を軸受用転動体として加工すると、内部空孔が表面に露出して、軸受の音響特性に悪影響を及ぼすことがある。また、一次成形密度の低い成形体を常圧下で焼結しても、疎な部分での粒界拡散が十分行われず、粒界強度が得られない場合があり、転動体加工時に結晶粒界で粒子脱落が生じ、必要とされる最終精度が得られない場合がある。これに対し、HIP法によって焼結された焼結体は、一次焼結体の内部空孔を焼結圧力によって排除することができ、粒界反応も促進するため、粒界強度も得られる。従って、金型若しくは硬質ゴム型を用いた一方向加圧で成形された一次成形体でも、殆ど空孔がなく、加工精度の高い軸受用転動体を得ることができる。
【0018】また、一次成形を造粒成形法で行うことにより、高い成形体密度の一次成形体を得ることができる。転動造粒法は、金型若しくは硬質ゴム型による一方向加圧と異なり、粒体を運動させながら雪だるま式に粒径を大きくする成型方法である。前述のように、一方向加圧では粉体粒子間の摩擦や内部圧力の均衡等により一次成形体密度が制限されるが、転動造粒法では粉体の凝集によって球体が成形されるため、最終的に密度の高い一次成形体を得ることができる。こうして得られた密度の高い一次成形体をHIP法により焼結することで、真密度でほぼ100%で空孔のない焼結体を得ることができる。また、転動造粒法によって得られた一次成形体であれば、常圧で焼結しても、残留する空孔は微少である。従って、ジルコニアを主成分とする転動体は、転動造粒法によって一次成形されたものが望ましい。
【0019】このようにして得られた実施例及び比較例の転がり軸受に対して音響試験を行った。転がり軸受の諸元は、内輪及び外輪が軸受鋼で構成される外径13mm、内径5mm、幅4mm、玉数8個の転がり軸受であり、表2に示すように、転動体の成形方法及び焼結方法を変えて実施例及び比較例の転がり軸受を作製した。
【0020】
【表2】

【0021】これら実施例及び比較例の転動体の切断面を図5に示す。これらは、φ2mmのジルコニア球を切断し、φ38.1mm(1.5インチ)のベークライト樹脂にそれぞれ10球ずつ埋め込んだものを、#1000程度のSiCペーパで、露出断面径が1.8mm程度となるまで粗研磨し、9μmのダイヤモンド遊離砥粒を用いて面圧約5Paで約30分研磨し、粒径0.3μmのアルミナ遊離砥粒を用いて面圧約11kPaで約2時間仕上研磨をした。これらの代表的な中心部を金属顕微鏡(200倍)で観察したものである。そして、断面空孔率を前記表2に合わせて示す。断面空孔率は、前記研磨によって得られた切断面について、金属顕微鏡(500倍)を用いて空孔の最も多く存在する視野(130μm×100μm)を探索し、その画像を画像解析装置にて欠陥部の面積比を算出した。画像処理する際は、空孔の円相当径が1μm以上を閾値とし、それ以下の空孔は無視した。測定は夫々10個ずつ行い、その平均を代表値とした。前述した推奨される成型方法及び焼結方法である実施例4(造粒成形ーHIP焼結、図5a)、実施例5(造粒成形ー常圧焼結、図5b)、実施例6(金型成形ーHIP焼結、図5c)は、何れも、内部に殆ど空孔がなく、粒子脱落等も観察されない。これに対して、比較例4(金型成形ー常圧焼結、図5d)は、結晶粒界部分に空孔が観察される。これらの空孔は、焼結時から残存していた空孔と、サンプル研磨時に粒子脱落によって生成された空孔の両方が考えられる。
【0022】転動体に用いたジルコニアはイットリウム部分安定化ジルコニアで、保持器はナイロン系樹脂保持器、グリースには、基油にエステル油を用いたリチウム石鹸系のものを用いた。なお、転動体には、前記一般的なイットリウム部分安定化ジルコニアに代えて、TiN若しくはFe化合物を添加した導電性ジルコニアでもよく、混合比を特に限定するものではないが、ジルコニアに50%以下のアルミナを混合した複合材料を用いることで、望ましい転動体とすることができる。また、保持器はナイロン系樹脂の他に、フッ素系樹脂でもよい。また、潤滑には、フッ素オイルを内・外輪又は転動体の表面にプレーティングしたものでもよい。
【0023】軸受初期音響測定にはアンデロンメータを使用し、軸受回転時のラジアル方向振動について中周波数帯と高周波数帯の二乗平均値を測定した。回転条件は、軸方向荷重3kgf、回転数1800rpmである。測定は、サンプル各10個について行い、それぞれ回転開始後30秒〜60秒の平均値を記録した。音響評価結果を図6に示す。評価は、事前に測定したスチールボール組込み軸受(標準品)の音響測定値を1として、標準化した。同図から明らかなように、前記金型成形ー常温焼結のジルコニア球を組込んだ比較例4の軸受は、表面に露出した微小空孔の影響で軸受回転音が全体的に大きく、サンプル間のばらつきも大きい。これに比較して、実施例4〜実施例6は、何れも音響値が小さく、サンプル間でまとまっている。特に、造粒成形法で一次成形体を作製し、HIP焼結した実施例4が最も低く安定した軸受初期音響特性を示した。
【0024】次に、前記表2に示す断面空孔率と前記音響値(アンデロン値)との関係を図7に示す。断面空孔率が0.1%〜0.7%の実施例4〜実施例6は、何れもスチールボール組込み軸受よりも低い初期音響値を示している。これに対して、断面空孔率が1.3%であった比較例4の軸受は、初期音響値が1.29と高い。このことから、転動体の断面空孔率は0.7%以下であることが望ましい。なお、この実施形態では、断面空孔率を調査し、断面空孔率が0.7%以下であることが望ましいとしたが、前述したように、加工工程で内部空孔が表面に露出すること、空孔の存在はほぼ同方性を有するので、完成品表面の空孔率に置き換えることも可能であり、そのようにすれば軸受特性を非破壊的に調べることができる。
【0025】次に、本発明の転がり軸受の第3実施形態について説明する。この実施形態では、ジルコニアを主成分とするセラミックスとアルミナとを複合したものについて説明する。表3に数例を挙げる。また、表3には純アルミナの特性も併記した。
【0026】
【表3】

【0027】ジルコニアにアルミナを添加して焼結すると、ジルコニア粒子の粒成長を抑制し、組織を緻密化するため、高強度、高靱性の焼結体を得られることが知られている。また、アルミナ添加量の増加に伴い、密度が小さくなるため、軸受全体を軽量化することができ、高速回転時の遠心力による回転ぶれを抑制することができる。更に、原料粉末としてのアルミナ粉末は、ジルコニア粉末に対して安価で、原料費を低減できるというメリットもある。また、線膨張率がジルコニア素材と大きく変わらないため、前述した予圧抜けの問題もない。一方、アルミナの添加量が多くなると、ヤング率が増加するという問題点がある。前述のように、転動体材料のヤング率の増加は、転動体と内・外輪の転走面接触部との圧痕発生臨界荷重を低下させ、軸受ユニットに衝撃が加わったときに圧痕が発生しやすくなる、所謂耐衝撃性の低下につながる。
【0028】しかしながら本出願人は、一方で、特開平7−103241号公報に記載されるように、内・外輪を構成する鋼中の残留オーステナイトなどの軟質相は降伏応力が低く、衝撃によって圧痕が発生すると考え、玉軸受に必要な硬さを保持しながら、且つ残留オーステナイトを低減するために、SUJ2であれば焼入後、サブゼロ処理するか、或いは220〜240℃程度の比較的高い温度で焼戻しするなどして、可能な限り残留オーステナイトを低減化若しくは消失せしめ、衝撃荷重による音響劣化を防止する改良を行ってきた。また、代表的に2%Da(軌道輪の軌道表面からの深さが転動体直径の2%に相当する長さの意)位置における軌道面の最大剪断応力位置での窒素量を制御する浸炭窒化処理を開発し、それを内・外輪に施すことで、高ヤング率の材料を転動体として使用しても耐衝撃性に優れた軸受を得ることができることを見出している。
【0029】そこで、前記表1に示すセラミックス材料で転動体を作製すると共に、通常の浸炭窒化処理を施したSUJ2製の内・外輪と、前記軌道面の最大剪断応力位置、つまり前記軌道輪の軌道表面からの深さが2%Da位置における窒素量を増加させるように、浸炭窒化処理時のアンモニアガス量がコントロールされた特殊熱処理を施したSUJ2製の内・外輪とを作製し、前記転動体と組み合わせて、下記表4に示す実施例及び比較例の転がり軸受を作製した。
【0030】
【表4】

【0031】実施例7〜実施例12及び比較例7に使用したセラミックス材料はアルミナとジルコニアを複合焼結させたもので、それぞれヤング率が異なる。例示すると、日本特殊陶業株式会社製のアルジル(I)、アルジル(II)、サンゴバン・ノートン株式会社製のAZー67、AZー93等が挙げられる。軸受は、外径13mm、内径5mm、幅4mmで、各転動体は全てJIS等級でG10以下までラップ加工してあるが、特に高精度を要求される用途の場合には、転動体の精度はG3以下が好ましい。
【0032】内・外輪には軸受用鋼を用いた。全ての実施例の内・外輪には830±30℃で浸炭窒化処理を施し、その後、サブゼロ処理した。浸炭窒化時の雰囲気中のアンモニアガス量は1〜5vol%とし、内・外輪表面の最大剪断応力位置として、代表的な前記2%Da位置の窒素(N)量が0.05〜0.5%となるように調整した。その後、組織安定化のために270±20℃で焼戻し、仕上加工を施した。本熱処理条件によって、軌道面は残留オーステナイト1%以下、硬度Hv750以上である。また、軸受使用時の最大剪断応力位置は、使用条件、軸受設計諸元により変化するので、軌道面からの深さの代表位置である前記2%Da位置の窒素量を前述のように限定した。更に、軸受の耐衝撃性を向上させるために、この2%Da位置で残留オーステナイト0%、硬度Hv770以上、窒素濃度0.1〜0.4%を好ましい数値とした。前述のように、最大剪断応力位置での窒素濃度の高い方が耐衝撃性に対しては好ましいが、窒素濃度が高くなると表面の硬度が増し、軸受の仕上加工が困難になる。なお、焼戻し後にショットピーニングなどによって表面に圧縮残留応力を付加してもよい。ちなみに、残留オーステナイト量はX線回折法によって測定し、前記2%Da位置での窒素濃度はEPMAにより断面窒素濃度分布を測定することで求めた。保持器には樹脂製保持器を用い、軸受の潤滑には内部防錆油及び鉱油系グリースを使用した。
【0033】耐衝撃性評価は、軸受に最初1.2kgf、次に5kgf、それ以後は0.5kgfずつ増やしながら純アキシャル荷重を負荷し、試験前に比較してアキシャル振動加速度(G値)が20mG増加したところを耐衝撃荷重とし、実施例12の耐衝撃荷重を1とした標準値で評価し、基準値を下回るものを使用負荷とした。結果を、転動体素材のヤング率で整理して図8に示す。同図から明らかなように、通常の熱処理が施された内・外輪(比較例5〜比較例7)を用いた場合、転動体のヤング率が340GPaのAZ3を用いると基準値を下回った。一方、前述した特殊熱処理を施した内・外輪(実施例7〜実施例12)を用いた場合、転動体のヤング率が370GPaのAZ4(実施例10)でも基準視を下回ることなく、使用可能であることが分かる。
【0034】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の転がり軸受によれば、例えば常温における線膨張係数が6.0×10-6/K〜12.5×10-6/Kであるようなジルコニアを主成分とするセラミックスで転動体を構成することにより、窒化珪素転動体を用いた転がり軸受の問題点であった予圧抜け及び圧痕発生を抑制防止し、回転性能の劣化並びに音響、振動性能の劣化を防止することができる。
【出願人】 【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
【出願日】 平成12年4月27日(2000.4.27)
【代理人】 【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也 (外2名)
【公開番号】 特開2001−12475(P2001−12475A)
【公開日】 平成13年1月16日(2001.1.16)
【出願番号】 特願2000−126760(P2000−126760)