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【発明の名称】 |
軸受装置 |
| 【発明者】 |
【氏名】松井 雅人 |
【課題】温度変化による回転性能の低下を減少せしめる定位置予圧を用いた軸受装置を提供する。
【解決手段】軸、回転体、ビッカース硬さ1000Hv以上の表面硬度を有する転動体を有する軸受とから成る軸受装置であって、各構成要素は、その線膨張係数がそれらの平均値に対して、0.7倍以上1.3倍以下となる材料により構成されるものとする。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸の軸方向に隔置して内輪内径が嵌合された2個以上の軸受と、前記軸受の外輪外径と嵌合されたハウジングとを構成要素とし、前記軸受の内輪と外輪とは転動体を介して相対的に回動可能で、軸方向に定位置予圧が付与された軸受装置において、前記転動体の表面硬度はビッカース硬さHv1000以上であり、前記内輪、外輪、転動体、軸、ハウジングの各々の線膨張係数は前記各々の線膨張係数の平均値に対して0.7倍以上1.3倍以下の範囲にあることを特徴とする軸受装置。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、予め設定されている予圧の変化を低減せしめた軸受装置に関し、特に情報機器等に用いられる光ディスク装置或いは磁気ディスク装置等ドライブ装置として好適なスピンドルモータ回転部、ビデオテープレコーダのモータ回転部、工作機械用主軸、自動車用デフピニオン等に利用される軸受装置に関する。 【0002】 【従来技術】磁気ディスクドライブ、レーザビームプリンタ、計算機用ファンモータ等の事務用転がり軸受装置に関し、具体例として、磁気ディスクドライブ用スピンドルモータに用いた場合を図2に示す。図に示すスピンドルモータ用軸受装置は、ディスク10を支持すると共にマグネット9を有するハウジング1と、モータ台座7に固定された軸5及びステータ8と、軸5に対してハウジング1を回動可能に支持し且つ内輪4、外輪2及び転動体3から成る軸受とから構成されている。 【0003】更に、一対の内輪4を軸方向端面同士が近づき合うように押圧して、軸受装置に軸の振動の防止及び剛性の向上を目的とした予圧の付加、即ち定位置予圧を行っている。定位置予圧の与え方としては、締まりばめ、接着剤、間座等による方法があり、図に示す場合に於いては、内輪4と軸5を接着剤による固定とし更に外輪2とハウジング1とを締まりばめとする、或いは内輪4と軸5とを締まりばめとし更に外輪2とハウジング1とを接着剤による固定とする、内輪4と軸5及び外輪2とハウジング1とも接着剤による固定とする等の方法がある。 【0004】当該軸受装置に於いては、低トルク、高回転精度、低振動、高信頼性、静粛性、耐久性等の要求から、実公平6ー26742、特開平4ー165937に開示されるような、内輪4及び外輪2を鋼製とし、転動体3をセラミックスとする構成が開示されている。これは、密度の小さいセラミックスを転動体に用いることにより軸受装置回転時に生じる遠心力を抑えることが可能であること、及び転動体と内輪及び外輪との接触が異種材料となることで融着摩耗が避けられ面あれを抑えられることとに着目し、上記性能を得ようとするものである。 【0005】通常、軸受の温度上昇が小さい条件下で用いられる場合には、予圧の変化は小さく従って問題は生じない。しかし、モータの高速回転により生じる軸受自体の発熱、或いは軸受を含む装置自体の発熱によって周囲温度は変化し、軸受装置の各種部材の熱膨張が生じ、結果として予圧の変化が生じる。 【0006】予圧が増大する場合には、軸受に於ける摩擦トルクの上昇による軸受装置の寿命の低下等が生じる。また、予圧が減少する場合には、軸受の剛性が低下する等の問題が生じた。このため、従来は軸受間にバネを挿入する定圧予圧等を行うことで上記予圧の変化への対処を行っていた。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】しかし上述の予圧変化に対する対策として、バネを挿入する定圧予圧に関しては、軸受装置を含む装置自体が小型化し、バネを挿入するスペースが無くなってきており、実用上対応が困難になってきている。同時に、特殊なバネを用いること等によるコスト上昇も避けられず、定位置予圧のみによる対応が求められている。 【0008】また、所定の条件下での運転を前提とした設計を行う上で、従来は、例えば「転がり軸受実用ハンドブック(エッシュマン他著、吉武立雄訳、1996年、初版、工業調査会)P107」に述べられているように、温度飽和時に於いては内輪の方が外輪よりかなり高い温度となっているとされていた。そのため、例えば「新版転がり軸受(光洋精工社偏、1995年、初版、工業調査会)p234」に述べられているように、転動体を線膨張係数の小さいセラミックスとすることにより、温度上昇による内部の隙間変化を抑えて予圧変化を小さくする方法、或いは、特公平4−57891、特開平8−303476等の内輪の温度上昇への対応を開示する多数の特許等に述べられた方法が有効な対策であるとされていた。 【0009】しかしながら、磁気ディスク装置、レーザプリンタ等の事務機用軸受装置を含む装置は一般に密閉されていることが多く、上記発熱による装置の温度上昇はある一定の温度で飽和し、内輪と外輪の温度差は上述のように大きくはならない。 【0010】このため、従来どうり内輪の温度上昇が外輪よりかなり大きくなることを前提に設計した軸受装置は、使用時に於ける温度上昇によって隙間等が増大し、予圧が低下して回転性能に不具合を生ずる現象が起こっている。特に、静粛性及び耐圧痕性に優れたSi3N4製のセラミック球を用いた軸受装置に於いてこの現象は顕著に現れており、従来の対処方法を有効とする理論とは実際上異なった現象が生じていた。 【0011】また、軸受装置は、軸と内輪内径及び回転体と外輪外径のはめあいが両方とも締まりばめ或いは両方とも接着として構成される、或いは片方が接着で片方が締まりばめとして構成されるように、少なくとも隙間ばめとならない状態で取り付けられ、且つ定位置予圧を付加した状態で用いられる。上記予圧低下による回転性能の不具合は、回転体をアルミハウジングとし且つこれに外輪外径を接着して用いる場合に顕著に見られた。 【0012】本発明は、上記問題を考慮し、定位置予圧を用いた軸受装置であって、温度変化による回転性能上の不都合を解消する、新たな予圧対策を講じた軸受装置の提供を目的とする。 【0013】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明に係る軸受装置は、軸と、回転体と、転がり軸受とを有し、転がり軸受は表面硬度がビッカース硬さHv1000以上である転動体を有すると共に軸に対して内輪内径がはめ合わされ且つ外輪外径に対して回転体をはめ合わせることにより回転体を軸に対して相対的に回動可能に支持しており、軸方向に定位置予圧を付与された状態で2個以上用いられた軸受装置に於いて、少なくとも内輪、外輪、転動体、軸及び回転体のそれぞれの線膨張係数はそれらの平均値に対して、0.7倍以上でかつ1.3倍以下(以下「0.7乃至1.3倍」と記す。)の範囲にあることを特徴としている。 【0014】更に本発明に係る軸受装置は、上記2つ以上の外輪に於ける対向する端面の間に間座を挿入することにより、或いは2つ以上の内輪に於ける対向する端面の間に間座を挿入することにより定位置予圧を付与する場合には、間座の線膨張係数は、間座を含めた各構成要素の線膨張係数の平均値の0.7乃至1.3倍の範囲にあることを特徴としている。 【0015】また、軸及びハウジングと軸受とは、各材料に対して要求される耐食性等の性質が異なるため、実際には各々異なる材料を用いることがある。このような場合にも、要求特性を満たし、且つ各構成要素の線膨張係数がその平均値の0.7倍以上1.3倍以下の範囲とする。 【0016】更に転動体に関しては、内輪及び外輪との融着等を防止するために接触する表面同士を異なる材質とすることが好ましく、且つ転動体自身の表面硬度を上げる必要がある。従って、上記範囲に転動体の線膨張係数を含めるために軸受鋼やステンレス鋼等の金属素材を用いる場合には、表面処理等により表面硬度を増加させる必要がある。また、弾性係数が大きく転動体の剛性の向上が可能なセラミックスを用いる場合には、その線膨張係数を上記範囲に含められるものとする必要がある。 【0017】より具体的には、軸受装置は耐食性が要求されることから、軸及び回転体(ハウジング)の内の少なくとも一方は、ステンレス鋼若しくはステンレス鋼に準じた耐食性を有する材料を用いることが要求される。この場合、転動体用材料として最も普及している材料であるSi3N4は、線膨張係数が約2.6×10-6(1/K)(以下において線膨張係数の単位は省略する。)であるために上記条件を満足することが難しく、これに変えて線膨張係数が約10.5×10-6のジルコニア、約7.9×10-6のアルミナ等を用いて上記条件を満足する、さらにはそれぞれの線膨張計数をそれらの平均値に対して0.7乃至1.2倍の範囲とすることが好ましい。 【0018】或いは、上記条件を満足するために、転動体用の材料として、線膨張係数が約12.6×10-6の軸受鋼或いは肌焼鋼、或いは約10.1×10-6のマルテンサイト系ステンレス鋼を用いる場合には、転動体表面にクロム処理等の硬質被膜処理、窒化処理、セラミックコーティング等を施して、転動体の表面硬度をHv1000以上とすることが好ましい。 【0019】更にハウジングに関しては、現在主として用いられている線膨張係数約23.7×10-6のアルミ合金に変えて、線膨張係数が約9.0乃至16.8×10-6であるマルテンサイト系ステンレス鋼、低炭素鋼、中炭素鋼或いはオーステナイト系ステンレス鋼を用いて上記条件を満足する、さらにはそれぞれの線膨張係数をそれらの平均値に対して0.7乃至1.2倍の範囲とすることが好ましい。 【0020】 【作用】従来、使用時に於いては内輪の方が外輪よりかなり温度が高くなると言われてきたが、実際には当該理論に基づいた設計による軸受装置に於いては予圧の変化による不具合が多く見られ、当該理論が実際と異なると考えられる。即ち、温度上昇が飽和した後は、軸、回転体及び軸受内輪、外輪及び転動体の温度差は小さくなる。 【0021】従って、線膨張係数が小さいSi3N4セラミック球を転動体に用いた場合には、温度上昇によって軸受隙間は増大し、予圧抜けが生じる。更にアルミハウジングに外輪を接着した場合には、線膨張係数の大きいアルミハウジングは大きく熱膨張し、更に接着された外輪を設計値以上にハウジング側に引っ張ることで、軸受隙間は更に増大すると考えられる。 【0022】ここで、軸及びハウジング(回転体)の線膨張係数も含めて予圧の変化について検討し、以下の結果が得られた。即ち、内輪、外輪、転動体、軸及びハウジングの線膨張係数をそれぞれαi、αo、αr、αs、αhとし、且つこれらの平均値である(αi+αo+αr+αs+αh)/5をαxとしたとき、各線膨張係数αi、αo、αr、αs、αhは、それぞれ以下の条件0.7≦αi/αx≦1.30.7≦αo/αx≦1.30.7≦αr/αx≦1.30.7≦αs/αx≦1.30.7≦αh/αx≦1.3を満足するものとする。より好ましくは各線膨張係数をそれらの平均値に対して0.7乃至1.2倍の範囲とすることが望ましいことが明らかとなった。 【0023】以上の条件の算出について以下に説明する。軸受に於ける内輪、外輪及び転動体、更に軸及びハウジングを含めた組合せに於いて、それぞれの線膨張係数の関係が次のものとなると仮定して、その場合の温度変化に対する予圧の変化を計算した例を図1に示す。 条件1:αh/αr=2、αi/αr=αo/αr=αs/αr=1条件2:αh/αr=αi/αr=αo/αr=αs/αr=1条件3:αh/αr=0.5、αi/αr=αo/αr=αs/αr=1【0024】線膨張係数が全て等しい条件2に於いては、予圧は温度変化にかかわらず一定の値を示し、線膨張係数が一部異なる条件1及び3に於いては、温度変化に伴って予圧が変化している。尚、本計算例は、ハウジングの線膨張係数のみを異ならせているが、当該計算は実際に用いられる各部材それぞれの線膨張係数を変えて予圧の変化を求めることが可能である。 【0025】つぎに上述の計算方法について、図2に示す軸受装置に於ける深溝玉軸受を例として以下に説明する。予圧をかける前のラジアル隙間をδr(mm)、深溝玉軸受の内輪4に予圧をかけたときの内輪4の外輪2に対するアキシアル方向の相対変位量をδa(mm)とする。更に、ΔT(℃)の温度上昇をしたときの内輪軌道面に於ける溝底部のアキシアル方向変位をδai(mm)、ラジアル方向変位をδri(mm)とし、且つ外輪軌道面に於ける溝底部のアキシアル方向変位をδao(mm)、ラジアル方向変位をδro(mm)とし、且つ転動体の膨張量をδDa(mm)とする。 【0026】ここでΔTの温度上昇後のラジアル隙間をδrnとすると、以下の式が成り立つ δrn=δr+δro−δri−2×δDa ・・・・・・(1) ここで、初期予圧Faの値は、アキシアル方向の変位δaと以下の関係にある。 δa=(C/sinβ)×(Q2/Da)1/3 ・・・・・・(2) Fa=Qzsinβ ・・・・・・・・・・・・・・・・・(3) ここで、Cは材料、寸法及び形状によって決められる定数を、βは予圧荷重が加えられた状態での接触角を、Da(mm)は転動体径を、Q(kgf)は転動体荷重を、zは転動体の数をそれぞれ表す。 【0027】予圧が変化する要因としては、1)温度上昇によってラジアル隙間が変化する、或いは2)温度上昇によってシャフトとハウジングのアキシアル方向変位に差が生じることがあげられる。すなわち、上記アキシアル変位量δaの3/2乗に比例する転動体荷重が負荷され、この転動体荷重に比例した予圧が発生する。更に予圧のかかっていないときのラジアル隙間とアキシアル隙間との関係から、ΔTの温度上昇前のアキシアル隙間Δa、温度上昇後のアキシアル隙間Δan、更に上記2)に起因するアキシアル方向の内外輪の相対変位量δacは、以下の式により表される。 Δa=2×(re+ri−Da)1/2×δr1/2 ・・・・・・・(4) Δan=2×(re’+ri’−Da’)1/2×δrn1/2 ・・(5) δac=δao−δai ・・・・・・・・・・・・・・・・(6) ここで、ri、reは内輪及び外輪の溝曲率半径、ri’、re’、Da’は線膨張係数を加味することにより得られる、温度上昇後に於ける内輪及び外輪の溝曲率半径及び転動体径をそれぞれ表す。 【0028】更に、温度上昇により生じた内輪及び外輪の相対的なアキシアル方向変位δadは、次式により示される。 δad=Δan−Δa−δac ・・・・・・・・・・・・・(7) (2)式の初期予圧設定隙間δaに対して、(7)式を用いて温度上昇により生じるアキシアル方向変位δadを求めることにより、温度上昇後に於ける有効隙間が定まる。得られた有効隙間の値を(2)式に代入することにより温度上昇後の転動体荷重Q’を求め、更にこれを(3)式に代入することにより有効予圧荷重Fa’が得られる。ここで(7)式に於けるδadが初期アキシアル方向変位δaより大きくなる場合には、有効予圧荷重Fa’=0となり、予圧抜けとなる。 【0029】以上に述べた計算例及び計算式等は、説明の簡略化のために、内輪、転動体、及び外輪に関するラジアル方向及びアキシアル方向の変位と予圧荷重との関係についてのみを示すものである。しかしながら、実際には、軸、ハウジングあるいはその他の構成要素の熱による変形も考慮する必要があり、以下の実施例において示す内容はこれらを考慮した上で上記各計算式等を用いて得られたものである。すなわち、以上の計算式等を用いることによりアキシアル隙間及び予圧の熱に対する変化をあらかじめ推定することが可能であり、更にこの計算結果に基づき予圧変化を減少せしめる材料を選択することも可能である。 【0030】 【実施例】以下に、本発明の効果に関して、従来技術との比較も含めて実施例として説明する。以下に図示する内容は、図2に示した磁気ディスクドライブ用スピンドルモータに用いる軸受に関して、上記計算式を用いることにより得られているものである。尚、本発明は例として示す磁気ディスクドライブ用スピンドルモータに用いられる深溝玉軸受だけでなく、内輪、外輪及び転動体とから成る軸受と軸とハウジングとから構成される軸受装置であれば、例えばアンギュラ玉軸受、円錐ころ軸受或いはスラスト玉軸受等の軸受に対しても同様の傾向を示す結果が当然に得られる。 【0031】又、以下の実施例に示される線膨張係数は、あくまでも一実施例として用いた数値であり、実際の軸受装置に本発明を用いる上で、各構成要素の材料特性はこの数値に限定されるものではない。更に、以上の軸受に間座を用いた場合に関しても、構成要素として間座が増えるのみであって、この線膨張係数を考慮することにより、以下に述べる間座を用いない軸受装置の場合と同様の傾向を有する結果が当然に得られる。 【0032】図に示す軸受装置に於いては、一対の内輪4を軸方向端面同士が近づき合うように押圧して予圧を与えている。予圧の与え方としては、締まりばめ、接着剤、間座などによる方法があるが、この場合は、内輪4と軸5を接着剤により固定し且つ外輪2とハウジング1とを締まりばめとする、内輪4と軸5とを締まりばめとし且つ外輪2とハウジング1とを接着剤により固定する、或いは内輪4と軸5及び外輪2とハウジング1とを共に接着剤により固定する、等がある。 【0033】従来は、ハウジングには線膨張係数が23.7×10-6のアルミ合金を、軸、内輪及び外輪には線膨張係数が10.1乃至12.5×10-6の軸受鋼、低・中高度鋼、或いはステンレス鋼を、更に転動体には線膨張係数が2.6×10-6のSi3N4から成るセラミック球を用いた構成となっている。 【0034】これに対して、ハウジングにはアルミ合金を、軸には線膨張係数が10.1×10-6のマルテンサイト系ステンレス鋼を、内輪及び外輪には線膨張係数が12.5×10-6の軸受鋼を用い、転動体の材質のみをSi3N4或いは軸受鋼とした場合について、雰囲気温度の上昇に対する予圧の変化を計算により求めた結果を図3に示す。 【0035】尚、計算に於いては、内輪、外輪、転動体、軸及びハウジングは一様に温度上昇するとし、軸受は内径φ4mm、外径φ9mm、軸受幅2.6mmで、内輪と軸及び外輪とハウジングが接着剤により固定されている。また、20℃に於ける予圧設定量を1とし、温度が変化した場合の予圧の値を相対比率で示している。 【0036】図に示すように、何れの転動体に関しても温度上昇に伴って予圧は減少しているが、Si3N4から成る転動体に関しては40℃に於いて予圧抜けが生じているのに対して、軸受鋼から成る転動体に関しては60℃に於いて予圧抜けが生じている。尚、図示はしていないが、内輪及び外輪にステンレス鋼を用いた場合についても、同様に温度上昇に伴って予圧は減少し、且つ軸受鋼から成る転動体の場合の予圧抜けとなる温度の方がSi3N4から成る転動体の場合の予圧抜けとなる温度より高くなっている。 【0037】しかしながら、図3に示す場合に於いては、予圧抜けの防止はできていないことが明らかである。そこでハウジングを、線膨張係数13.5×10-6を有する材料である低、中炭素鋼(クロムモリブデン鋼或いはニッケルクロムモリブデン鋼等の線膨張係数11乃至15×10-6を有する合金鋼を含む)とした場合に於ける、温度変化に対する予圧の変化を求めた結果を図4に示す。 【0038】図4によれば、温度上昇に伴い、やはり予圧は減少の傾向を示している。しかしながら、ハウジングに線膨張係数のより小さい材料を用いることにより、図3に於いては40℃で予圧抜けを生じていたSi3N4から成る転動体を有する軸受装置の予圧抜け温度は、50℃まで上昇している。更に、線膨張係数がSi3N4より大きい7.9×10-6を有するアルミナ或いは軸受鋼を転動体に用いた場合は70℃に於いても予圧抜けを生じていない。 【0039】即ち、使用時に於ける軸受装置の温度上昇が70℃までであれば、ハウジングに低、中炭素鋼を用い、且つ転動体にアルミナ或いは同等の線膨張係数10.9×10-6を有するジルコニア等の大きな線膨張係数を有するセラミックスを用いることにより予圧抜けを防止できる。尚、転動体は、回転時の静粛性及び耐面あれ等の要求から、セラミックス球と同等の機能を有する必要があるが、転動体の表面硬度をビッカース硬さHv1000以上とすることでこれを得ることが可能である。このため、転動体に軸受鋼を用いる場合には、クロム処理等の硬質被膜処理、表面窒化処理、或いはセラミックコーティング等を施すことでHv1000以上とすることが望ましい。 【0040】図3及び4に示されるように、いずれの場合も温度上昇に伴い予圧が減少するが、ハウジングの線膨張係数によって予圧の減少の割合が異なる。実際のハウジングの線膨張係数が、ラジアル隙間及びアキシアル隙間に対してどのように影響するかを、計算により求めた結果を図5に示す。 【0041】図5に示す結果は、内輪及び外輪に軸受鋼(線膨張係数12.5×10-6)、軸にマルテンサイト系ステンレス鋼(線膨張係数10.1×10-6)を用いることとし、ハウジングの線膨張係数をマルテンサイト系ステンレス鋼、低、中炭素鋼(線膨張係数13.5×10-6)、オーステナイト系ステンレス鋼(線膨張係数16.8×10-6)、銅合金(線膨張係数20.5×10-6)、アルミ合金(線膨張係数23.7×10-6)と変化させ、軸とハウジングとの線膨張係数の差を横軸としている。 【0042】更に転動体に関しても、その材質をSi3N4、アルミナ、ジルコニア、軸受鋼と変化させ、各材質について図中に示している。尚、図中縦軸は、温度を20℃から70℃に上昇させた場合に於けるラジアル隙間及びアキシアル隙間変化量について、ハウジングに低、中炭素鋼を用い且つ転動体材料にアルミナを用いた場合に於けるラジアル隙間の変化量を1として、各条件に於ける変化量を相対値で示したものである。 【0043】図5に示されるように、ラジアル隙間の変化量は、軸とハウジングとの線膨張係数の差が大きくなるにつれて増加している。又、ラジアル隙間の変化量は、転動体の線膨張係数が小さいものを用いた場合ほど増加している。尚、アキシアル隙間に関しては、図2に示される構造からも理解できるように、実際の温度に依存する隙間の変化量は、計算を行った各条件全てに於いて、ラジアル隙間の変化量に対して非常に小さく、ほぼ同じ特性を示している。 【0044】更に、先に示した計算方法により、図中のそれぞれの場合に於ける予圧の変化量を求めることが可能である。このように、ラジアル隙間の変化量が図5に於ける相対変化量1までを、実際の軸受に於けるラジアル隙間の変化量の許容範囲とすることにより予圧抜けの防止をより確実なものとすることが可能である。又、この条件を満たす範囲に於いて、転動体の材質等を選定することが可能となる。尚、上記許容範囲を満たす組合せは、内輪、外輪、転動体、軸及び回転体のそれぞれの線膨張係数がそれらの平均値に対して、0.7乃至1.3倍の範囲にあるという条件も満足している。 【0045】図5に於いて、ラジアル隙間の変化量が最も小さくなる組合せは、軸及びハウジングともにマルテンサイト系ステンレス鋼を用いた場合である。そこで、この組合せに於ける温度変化に伴う予圧の変化を、材質の異なる転動体について求めた結果を図6に示す。尚、転動体の材料としては、Si3N4、アルミナ、ジルコニア及び軸受鋼を用い、縦軸に示す値は20℃における予圧の値を1として相対値として示している。 【0046】図に示されるように、軸及びハウジングともにマルテンサイト系ステンレス鋼を用いた場合には、予圧抜けは生じていない。又、各構成要素の線膨張係数が近い値となるように転動体の材質を選択することにより、温度上昇に伴う予圧変化を低減することが可能である。更に、転動体材質を軸受鋼或いはジルコニアとすることで予圧の温度依存性を、温度上昇に伴って予圧が大きくなる正の依存性とすることも可能となる。 【0047】更に、図3、4及び6等の個々の計算によるデータを用いて、温度70℃に於ける予圧量を、各構成要素の線膨張係数の平均値αxに対してそれぞれ構成要素となる材料の線膨張係数の比率の組み合わせ(各構成要素に於ける最小の線膨張係数を平均値αxで除した値から最大の線膨張係数を平均値αxで除した値までの範囲。)との関係で整理して図7に示す。図7から、予圧の値を正とする、即ち予圧抜けを生じさせないための条件としては、各構成要素の線膨張係数をその平均値で除した値を0.7乃至1.3倍の範囲とすることが有効であり、予圧の著しい低下を防止するためには0.7乃至1.2倍の範囲とすることがより望ましいことが分かる。 【0048】尚、軸受装置に於ける予圧の付与方法としては、上述の方法の他に、図8に示すように間座6を用いる方法もある。間座を用いた場合には、間座6が熱膨張することによるラジアル隙間の増加についても考慮する必要がある。従って、線膨張係数の平均値αxは、間座の線膨張係数を含めた上で求める必要があり、同時に間座の線膨張係数自体も平均値の0.7乃至1.3倍の範囲、より好ましくは0.7乃至1.2倍の範囲とする必要がある。 【0049】本発明は、荷重負荷状態が磁気ディスクドライブ装置に於けるスピンドル軸受のように縦型のモータに用いられる場合、即ち回転体の重量が重力によってスラスト荷重として作用し、アキシアル方向の負荷がラジアル方向の負荷より大きくなる場合に特に有効である。 【0050】例えば図2に示すスピンドルモータに於いて、当該軸受装置はスラスト荷重を支持するように、又軸受剛性が最適値を得られるように接触角β1及びβ2(β1及びβ2が等しい場合を含む。)を構成するように設計されている。しかしながら、温度上昇によって軸受隙間が大きくなると、回転体の重量による下向きの力によりその変化した隙間に応じて該接触角も変化し、更に軸受の上側の接触角β1と下側の接触角β2との変化量もそれぞれ異なる。 【0051】軸受の回転精度は、軸受剛性、即ち接触角の変化により変わるため、軸受の上側と下側とでの初期に設定した回転精度が変化することになる。磁気ディスクドライブ装置は、特に回転精度が要求される回転体の1つであり、上下の接触角の変化の差をできるだけ小さくできるという点で、本発明は有効である。 【0052】尚、本発明は、ノートパソコン或いは携帯用ビデオレコーダ等を低温雰囲気下で用いた場合に、磁気ディスク用スピンドル軸受或いはビデオレコーダシリンダ用スピンドル軸受等に異常摩耗が発生している。本発明は温度上昇に伴う予圧抜け対策を基に為されたものであるが、この対策としても効果的である。 【0053】従来の軸受装置に見られた上記低温時に於ける異常摩耗は、雰囲気温度の低下により予圧が増加し、転動体と軌道面との接触面圧pとすべり速度vの増加によるpv値の増加、及び低温による潤滑剤の流動性の低下により生じると考えられる。このうち滑り速度vについては、上記用途が縦型スピンドルであることが加速要因となっている。 【0054】横型でラジアル荷重のみが負荷されている場合には、すべりは差動すべりだけであるが、縦型スピンドルに於いてはアキシアル荷重が負荷されているために、すべりにスピンすべりが加わり、このことがpv値を大きくする加速要因となっている。この対策としては、接触面圧pはスラスト荷重に比例するため、上記図3、4、6から明かのように、低温となるほどに予圧は大きく変化している。従って、この予圧の変化量を小さく抑えることにより、接触面積pの増加を抑えることも可能である。 【0055】即ち、低温時に於ける予圧の増加を防止する上でも、線膨張係数に着目して軸受装置の各構成要素を選択し、各構成要素の線膨張係数をその平均値で除した値を0.7乃至1.3倍の範囲とすることが効果的であり、予圧の著しい変化を防止するためには0.7乃至1.2倍の範囲とすることがより効果的である。 【0056】 【発明の効果】本発明の実施により、軸受装置を使用する際に於ける環境温度が変化した場合に於いても、予圧抜け或いは予圧増加による異常摩耗を防止し、且つ回転精度を維持しうる軸受装置の提供が可能となる。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000004204 【氏名又は名称】日本精工株式会社
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| 【出願日】 |
平成11年6月24日(1999.6.24) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100064447 【弁理士】 【氏名又は名称】岡部 正夫 (外11名)
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| 【公開番号】 |
特開2001−12464(P2001−12464A) |
| 【公開日】 |
平成13年1月16日(2001.1.16) |
| 【出願番号】 |
特願平11−178299 |
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