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【発明の名称】 スクロール圧縮機
【発明者】 【氏名】鵜飼 徹三

【要約】 【課題】スクロール圧縮機構に設けられる油戻し孔の改善を図ってオイル循環率を低下させ、空気調和装置の信頼性を向上させる。

【解決手段】固定スクロール22および旋回スクロール23を偏心させて噛み合わせ、固定スクロール22と旋回スクロール23との間に形成される複数の密閉空間を被搬送流体の圧縮室とするスクロール圧縮機構を備えるスクロール圧縮機において、旋回スクロール23の端板23aの中央近傍に端板23aの両側面間を貫通する油戻し孔35を形成するとともに、旋回スクロール23の渦巻状ラップ23bの壁面に沿って油戻し孔35に連続する溝36を形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 端板の一側面に渦巻状ラップが立設された固定スクロールおよび旋回スクロールを偏心させて噛み合わせ、前記固定スクロールと旋回スクロールとの間に形成される複数の密閉空間を被搬送流体の圧縮室とするスクロール圧縮機構を備えるスクロール圧縮機であって、前記旋回スクロールの端板に該端板の両側面間を貫通する孔が形成されるとともに、前記旋回スクロールの渦巻状ラップの壁面に沿って前記孔に連続する溝が形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】 前記溝の長さが、前記旋回スクロールの渦巻状ラップの高さの1/4以上に設定されていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】 前記溝が、前記旋回スクロールの渦巻状ラップの非インボリュート部に形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】 前記溝が形成された渦巻状ラップの壁面から前記端板の一側面に開口する前記孔の内周面までの間隔が、前記固定スクロールの渦巻状ラップの厚さの1/2以下に設定されていることを特徴とする請求項1、2または3記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】 前記溝の深さが、前記旋回スクロールの渦巻状ラップの厚さの1/2以下に設定されていることを特徴とする請求項1、2、3または4記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】 前記溝が、前記孔をその形成方向に沿って断面視すると該孔の内周面よりも深く形成されていることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】 前記溝が前記孔の内周面の一部をなすように形成され、前記孔の内部には該孔の内径を縮小するオリフィスが挿入されていることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載のスクロール圧縮機。
【請求項8】 前記孔の内径が、0.5mm以下に設定されていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載のスクロール圧縮機。
【請求項9】 前記孔の内径が、圧縮機を次の条件回転数:700〜1200r.p.m.、圧縮比:18/3で運転したときの当該圧縮機のオイル循環率が1%以下となる大きさに設定されていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等の車両用空気調和装置に具備される冷媒循環用のスクロール圧縮機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の車両用空気調和装置に具備されるスクロール圧縮機は、エンジンからベルトおよびクラッチを介して駆動力を受け、エバポレータで車室内の熱を奪って気化した低温・低圧の冷媒ガスを吸入、圧縮し、高温・高圧となった冷媒ガスをコンデンサに送り込む役目を果たしている。
【0003】従来のスクロール圧縮機の一例を図7に示す。このスクロール圧縮機は横置きタイプであり、円筒形状のハウジング1と、ハウジング1内に設置されたスクロール圧縮機構2と、フレーム3に回転自在に支持されるとともにスクロール圧縮機構2に一端を連結された回転シャフト4と、回転シャフト4の他端に連結されたプーリ5とを備えている。
【0004】ハウジング1は、フレーム3と蓋部6とで閉塞状態とされ、スクロール圧縮機構2とフレーム3との間に形成された吸入キャビティ7には冷媒ガスの吸入口7aが設けられ、スクロール圧縮機構2と蓋部6との間に形成された吐出キャビティ8には冷媒ガスの吐出口8aが設けられている。
【0005】スクロール圧縮機構2は、ハウジング1に固定された固定スクロール9と、フレーム3と固定スクロール9との間で公転旋回可能に支持されるとともに回転シャフト4の先端に設けられた偏心ピン4aを嵌合され、回転シャフト4の回転に伴って公転旋回する旋回スクロール10と、旋回スクロール10の公転旋回運動を許容しつつもその自転を阻止する自転阻止機構11とを備えている。
【0006】固定スクロール9は、端板9aと、端板9aの一側面に立設された渦巻状ラップ9bとを備えている。また、旋回スクロール10は、端板9aに対向状態に配された端板10aと、端板10aの一側面に立設されて渦巻状ラップ9bと噛み合わされた渦巻状ラップ10bとを備えている。
【0007】固定スクロール9と旋回スクロール10とは、互いに所定の距離だけ偏心した状態で、渦巻状ラップ9aと渦巻状ラップ10aとの互いの側面が複数個所で線接触するように180度の位相差をもって噛み合わされており、渦巻状ラップ9aと渦巻状ラップ10aとの間には複数の圧縮室Pが形成されている。
【0008】端板9aには、その中央部に吐出ポート12がハウジング1の軸方向に貫通状態に形成され、その外側面には吐出ポート12を開閉する吐出弁12aが設けられている。
【0009】上記のような構成のスクロール圧縮機においては、プーリ5を介して得られたエンジンの駆動力によって回転シャフト4が回転し、旋回スクロール10が自転阻止機構11によって自転を阻止された状態で固定スクロール9に対して公転旋回運動を行う。
【0010】このとき、旋回スクロール10の公転旋回運動に伴い、低温・低圧の冷媒ガスが吸入口7aを通じて吸入され、固定スクロール9と旋回スクロール10との間に形成される圧縮室Pにおいて次第に圧縮される。そして、圧縮室Pがスクロール圧縮機構2の中央に接近し吐出ポート12に連通すると、冷媒ガスは圧縮室Pから吐出ポート12に流入する。さらに圧縮が進み、吐出ポート12内の圧力が所定の大きさに達すると吐出弁12aが開かれ、高温・高圧となった冷媒ガスが吐出口8aから外部に排出される。
【0011】上記のようなスクロール圧縮機においては、冷媒ガスとともにオイル(潤滑油)を循環させることによって圧縮機内の各摺動部に潤滑油を供給している。ところで、オイルの量は各摺動部の作動を円滑に行うためには多いほどよいのであるが、冷媒ガスとともに循環するオイルの量が増加することは冷媒性能の点からは好ましくない。そこで、従来の圧縮機では、冷媒ガスとともに循環するオイルの量(オイル循環率:オイルの重量流量/(冷媒+オイルの重量流用)で表される)を適当な量に保つための機構が設けられている。
【0012】そのひとつとして、図8に示すように、旋回スクロール10の端板10aの中央近傍に吸入キャビティ7に連通する油戻し孔13を形成し、容積が縮小する過程にある高圧の圧縮室Pから低圧の吸入キャビティ7に向けて液化したオイルの一部を戻すことが行われている。圧縮室Pには、容積縮小過程において固定側、旋回側の渦巻状ラップ9b,10bの表面に付いたオイルが集まり易いので、このオイルの一部を吐出キャビティ7に戻すことでオイル循環率の調整が図られるのである。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】ところで、車両用空気調和装置に具備されるスクロール圧縮機には、図示した横置きタイプのスクロール圧縮機が採用されるのが一般的であるが、横置きスクロール圧縮機はオイル溜まりが圧縮室に近い位置に設けられていること等から、オイルが冷媒ガスとともに循環し易い。そこで、オイル循環率を低く保つために様々な技術が開発されているが、十分な効果を生むまでには至っていないのが現状である。
【0014】本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、オイル循環率を調整する油戻し孔に着目し、その改善を図ってオイル循環率を低い値に保つことでスクロール圧縮機の信頼性を向上させ、さらに当該スクロール圧縮機を具備する空気調和装置の信頼性を向上させることを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するための手段として、次のような構成のスクロール圧縮機を採用する。すなわち、請求項1記載のスクロール圧縮機は、端板の一側面に渦巻状ラップが立設された固定スクロールおよび旋回スクロールを偏心させて噛み合わせ、前記固定スクロールと旋回スクロールとの間に形成される複数の密閉空間を被搬送流体の圧縮室とするスクロール圧縮機構を備えるスクロール圧縮機であって、前記旋回スクロールの端板に該端板の両側面間を貫通する孔が形成されるとともに、前記旋回スクロールの渦巻状ラップの壁面に沿って前記孔に連続する溝が形成されていることを特徴としている。
【0016】このスクロール圧縮機においては、固定スクロールと旋回スクロールとの間に形成される圧縮室がその容積を縮小する過程で、双方の渦巻状ラップ間に集まるオイルが溝に流れ込む。溝に流れ込んだオイルは孔を通じて圧縮室から回収される。ここで、圧縮室内のオイルは固定スクロールと旋回スクロール双方の渦巻状ラップの壁面に沿って集まるので、渦巻状ラップの壁面に沿って溝を形成することでオイルの回収率が高まる。
【0017】請求項2記載のスクロール圧縮機は、請求項1記載のスクロール圧縮機において、前記溝の長さが、前記旋回スクロールの渦巻状ラップの高さの1/4以上に設定されていることを特徴としている。
【0018】このスクロール圧縮機において、圧縮室内のオイルは固定スクロールと旋回スクロール双方の渦巻状ラップ間のラップ長さ方向に広がって集まる。ラップ長さは渦巻状ラップの高さにほぼ等しいので、溝の長さを渦巻状ラップの高さの1/4以上に設定することで、ラップ長さ方向に広がるオイルを集め易くなり、オイルの回収率がさらに高まる。
【0019】請求項3記載のスクロール圧縮機は、請求項1または2記載のスクロール圧縮機において、前記溝が、前記旋回スクロールの渦巻状ラップの非インボリュート部に形成されていることを特徴としている。
【0020】このスクロール圧縮機において、端板の中央に近い渦巻状ラップは、スクロール圧縮機構の構造上、非インボリュート曲線をなして形成されており、この部分では固定スクロールと旋回スクロール双方の渦巻状ラップは微小な隙間をあけた状態となり摺接するには至らない。そこで、この非インボリュート部に溝を形成することで、固定スクロール側の渦巻状ラップと溝との摺接が起こらなくなり、騒音の発生や振動が抑制される。
【0021】請求項4記載のスクロール圧縮機は、請求項1、2または3記載のスクロール圧縮機において、前記溝が形成された渦巻状ラップの壁面から前記端板の一側面に開口する前記孔の内周面までの間隔が、前記固定スクロールの渦巻状ラップの厚さの1/2以下に設定されていることを特徴としている。
【0022】このスクロール圧縮機において、渦巻状ラップの先端面には、相対する端板との隙間をシールするチップシールが渦巻状ラップの配設方向に配設されているが、渦巻状ラップの壁面から孔の内周面までの間隔を固定スクロールの渦巻状ラップの厚さの1/2以下に設定することで、孔の開口に摺接するチップシールの損傷が防止される。
【0023】請求項5記載のスクロール圧縮機は、請求項1、2、3または4記載のスクロール圧縮機において、前記溝の深さが、前記旋回スクロールの渦巻状ラップの厚さの1/2以下に設定されていることを特徴としている。
【0024】このスクロール圧縮機においては、溝の深さを旋回スクロールの渦巻状ラップの厚さの1/2以下に設定することで、渦巻状ラップに撓みが生じ難くなる。
【0025】請求項6記載のスクロール圧縮機は、請求項1、2、3、4または5記載のスクロール圧縮機において、前記溝が、前記孔をその形成方向に沿って断面視すると該孔の内周面よりも深く形成されていることを特徴としている。
【0026】このスクロール圧縮機においては、溝を深く形成することで溝の容積が増し、オイルが一時的に溜め置かれるので、オイルの回収率が高まる。なお、孔の内径は、冷媒ガスの漏れが起こらずかつオイルの流通が良好に行われる大きさに設定することが望ましいので溝の大きさに合わせる必要はない。
【0027】請求項7記載のスクロール圧縮機は、請求項1、2、3、4または5記載のスクロール圧縮機において、前記溝が前記孔の内周面の一部をなすように形成され、前記孔の内部には該孔の内径を縮小するオリフィスが挿入されていることを特徴としている。
【0028】このスクロール圧縮機においては、孔と溝とを一括形成し、そのあと孔にオリフィスを挿入することで、溝を孔の内周面よりも深くして所望の大きさに形成することが可能である。孔については、オリフィスの口径を適切な大きさに設定しておけば冷媒ガスの漏れが起こらずかつオイルの流通が良好に行われるようになる。
【0029】請求項8記載のスクロール圧縮機は、請求項1、2、3、4、5、6または7記載のスクロール圧縮機において、前記孔の内径が、0.5mm以下に設定されていることを特徴としている。
【0030】このスクロール圧縮機においては、孔の内径を0.5mm以下に設定することで冷媒ガスの漏れが起こらずかつオイルの流通が良好に行われるようになる。
【0031】請求項9記載のスクロール圧縮機は、請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載のスクロール圧縮機において、前記孔の内径が、圧縮機を次の条件回転数:700〜1200r.p.m.、圧縮比:18/3で運転したときの当該圧縮機のオイル循環率が1%以下となる大きさに設定されていることを特徴としている。
【0032】このスクロール圧縮機においては、当該圧縮機を自動車のアイドリング時の作動状態とみなせる条件で作動させたときにオイル循環率が1%以下となるように孔の内径を決定することにより、不安定になり易いアイドリング時においても空気調和装置の作動状態が安定する。
【0033】
【発明の実施の形態】本発明に係るスクロール圧縮機の第1実施形態を図1ないし図3に示して説明する。図1は、車両用空気調和装置に具備される横置きスクロール圧縮機(以下、単に圧縮機と呼称する)を示している。図に示す圧縮機は、円筒形状のハウジング14と、ハウジング14内に設置されたスクロール圧縮機構15と、フレーム16に回転自在に支持されるとともにスクロール圧縮機構15に一端を連結された回転シャフト17と、回転シャフト17の他端に連結されたプーリ18とを備えている。
【0034】ハウジング14は、フレーム16と蓋部19とで閉塞状態とされ、スクロール圧縮機構12とフレーム16との間に形成された吸入キャビティ20には冷媒ガス(被搬送流体)の吸入口20aが設けられ、スクロール圧縮機構12と蓋部19との間に形成された吐出キャビティ21には冷媒ガスの吐出口21aが設けられている。
【0035】スクロール圧縮機構15は、ハウジング14に固定された固定スクロール119と、フレーム16と固定スクロール22との間で公転旋回可能に支持されるとともに回転シャフト17の先端に設けられた偏心ピン17aを嵌合され回転シャフト17の回転に伴って公転旋回する旋回スクロール23と、旋回スクロール23の公転旋回運動を許容しつつもその自転を阻止する自転阻止機構24とを備えている。
【0036】固定スクロール22は、端板22aと、端板22aの一側面に立設された渦巻状ラップ22bとを備え、渦巻状ラップ22bの先端面にはチップシール25が嵌装されている。
【0037】端板22aには、その中央部に吐出ポート26がハウジング14の軸方向に貫通状態に形成され、その外側面には吐出ポート26を開閉する吐出弁27が取り付けられている。
【0038】ハウジング14と渦巻状ラップ22bとの間には、吸入キャビティ20と連通する吸入通路28が形成され、固定スクロール22と旋回スクロール23との間に形成される圧縮室Pに接続されている。
【0039】旋回スクロール23は、端板22aに対向状態に配された端板23aと、端板23aの一側面に立設されて渦巻体19bと噛み合わされた渦巻状ラップ23bとを備え、渦巻状ラップ23bの先端面にはチップシール29が嵌装されている。
【0040】端板23aには、その外面に円筒形状のボス30が軸線を同じくして立設されており、ボス30の内部には、ブッシュ31が旋回軸受32を介して回転可能に嵌装されている。また、ブッシュ31には、その内部に軸線から偏心した貫通孔31aが形成されている。
【0041】固定スクロール22と旋回スクロール23とは、互いに所定の距離だけ偏心した状態で、渦巻状ラップ22bと渦巻状ラップ23bとの互いの側面が複数個所で線接触するように180度の位相差をもって噛み合わされている。また、この状態で、渦巻状ラップ22bおよび渦巻状ラップ23bのチップシール25,29がそれぞれ旋回側端板23aおよび固定側端板22aの内面に密接し、渦巻状ラップ22bと渦巻状ラップ23bの中心に対して点対称の位置関係となる複数個所に密閉空間となる圧縮室Pが形成されている。
【0042】回転シャフト17は、フレーム16の内周面に設けられた軸受33に軸支され、先端には軸線から所定量偏心された偏心ピン17aが上端に突出状態に設けられている。偏心ピン17aは、ブッシュ31の貫通孔31aに摺動嵌合され、ブッシュ31を回転可能に支持している。
【0043】プーリ18は、回転シャフト17の他端にマグネットクラッチ34を介して連結されている。マグネットクラッチ34は、エンジンと圧縮機との間の駆動力の伝達および遮断を行うものである。
【0044】上記のように構成された圧縮機においては、まず、プーリ18を介して得られたエンジンの駆動力によって回転シャフト4が回転し、その回転が偏心ピン17aを介して旋回スクロール23に伝達される。そして、旋回スクロール23が自転阻止機構24によって自転を阻止された状態で固定スクロール22に対して公転旋回運動を行う。
【0045】このとき、旋回スクロール23の公転旋回運動に伴い、低温・低圧の冷媒ガスが吸入口20aを通じて吸入され、固定スクロール22と旋回スクロール23との間に形成される圧縮室Pにおいて次第に圧縮される。そして、圧縮室Pがスクロール圧縮機構15の中央に接近し吐出ポート26に連通すると、冷媒ガスは圧縮室Pから吐出ポート26に流入する。さらに圧縮が進み、吐出ポート26内の圧力が所定の大きさに達すると吐出弁27が開かれ、高温・高圧となった冷媒ガスが吐出口21aから外部に排出される。
【0046】続いて、本発明の特徴的な部分について説明する。旋回スクロール23の端板23aの中央近傍には、図2に示すように、端板23aの両側面間を貫通して吸入キャビティ20に連通する断面円形の油戻し孔35が形成されている。さらに、旋回スクロール23の渦巻状ラップ23bの壁面には、油戻し孔35に直線的に連続する溝36が渦巻状ラップ23bの高さ方向に形成されている。
【0047】油戻し孔35の内部には、小孔37a(内径l)を有するオリフィス37が挿入されており、油戻し孔35をその形成方向に沿って断面視すると、溝36の底面は、オリフィス37を挿入されることでその内径を小孔37aにまで狭められた油戻し孔35の内周面よりも深くなっている。
【0048】端板23aの中央に近い渦巻状ラップ23bは、スクロール圧縮機構15の構造上、非インボリュート曲線をなして形成されている。この非インボリュート部23cでは、固定スクロール22と旋回スクロール23双方の渦巻状ラップ22b,23bは微小な隙間をあけた状態となり摺接するには至らない。そこで、図3に示すように、油戻し孔35は非インボリュート部23cをなす渦巻状ラップ23bの壁面に重なるように形成され、油戻し孔35に連続する溝36は渦巻状ラップ23bの壁面に沿って形成されている。
【0049】溝36の長さ(渦巻状ラップ23bの高さ方向に沿う長さ)L1は、渦巻状ラップ23bの高さAの1/4以上に設定されている。また、溝36の深さL2は、渦巻状ラップ23bの厚さ(歯厚)Bの1/2以下に設定され、溝36が形成された渦巻状ラップ23bの壁面から端板23aの一側面に開口する油戻し孔35の内周面までの間隔L3は、固定スクロール22の渦巻状ラップ22bの厚さ(歯厚)Cの1/2以下に設定されている。
【0050】また、小孔37aの内径lは0.5mm以下に設定されている。これは、当該圧縮機を自動車のアイドリング時の作動状態とみなせる条件(回転数:700〜1200r.p.m.、圧縮比:18/3)で運転したときにオイル循環率が1%以下となるように得られた大きさである。
【0051】なお、油戻し孔35および溝36は次のようにして形成される。まず、旋回スクロール23を整形する一方の型に端板23aの他側面側から所定の位置を貫く直径2L3の棒状部を設けておき、整形の時点でオリフィス37挿入前の油戻し孔35と溝36とを一括して形成する。そして、整形後に端板23aの他側面側から油戻し孔35の内部にオリフィス37を挿入するのである。
【0052】上記のように構成されたスクロール圧縮機においては、容積縮小過程にある高圧の圧縮室Pから低圧の吸入キャビティ7に向けて液化したオイルの一部を戻すのに際し、固定スクロール22と旋回スクロール23との間に形成される圧縮室Pがその容積を縮小する過程で双方の渦巻状ラップ22b,23b間に集まるオイルが溝36に流れ込み、油戻し孔35を通じて圧縮室Pから回収される。このとき、圧縮室P内のオイルは渦巻状ラップ22b,23b間のラップ長さ方向に広がって集まるので、一方の渦巻状ラップ23bの壁面に沿って溝36が形成されることでオイルの回収率が高まる。しかも、ラップ長さは渦巻状ラップ22b,23bの高さにほぼ等しいので、溝36の長さL1が渦巻状ラップ23bの高さAの1/4以上に設定されることで、オイルの回収率がさらに高まる。
【0053】端板23aの中央に近い渦巻状ラップ23bの非インボリュート部23cに溝36が形成されることで、溝36と渦巻状ラップ22bとの摺接が起こらないので、騒音の発生や振動が抑制される。
【0054】溝36の深さL2が、旋回スクロールの渦巻状ラップの厚さBの1/2以下に設定されることで、渦巻状ラップに撓みが生じ難くなる。また、渦巻状ラップ23bの壁面から油戻し孔35の内周面までの間隔L3が渦巻状ラップ22bの厚さCの1/2以下に設定されることで、油戻し孔35の開口に摺接する固定スクロール22側のチップシール25の損傷が防止される。
【0055】油戻し孔35の内径(この場合は小孔37aの内径)は冷媒ガスの漏れが起こらずかつオイルの流通が良好に行われる大きさに設定されることが望ましいが、溝36が深く形成されることでその容積が増し、オイルが一時的に溜めおかれるので、オイルの回収率が高まる。油戻し孔35と溝36とを一括形成し、そのあと油戻し孔35にオリフィス37を挿入することで、溝36を油戻し孔35の内周面よりも深く形成することは可能である。
【0056】さらに、油戻し孔35の内径が0.5mm以下に設定されることで、冷媒ガスの漏れが起こらずかつオイルの流通が良好に行われる。例えば、自動車のアイドリング時と見なせる条件で圧縮機を作動させたときにも、当該圧縮機のオイル循環率が1%以下となって安定した作動状態が得られる。
【0057】したがって、上記のように構成されたスクロール圧縮機によれば、オイル循環率を低い値に保つとともに圧縮機自体の耐久性を向上させることができ、結果的に当該スクロール圧縮機を具備する空気調和装置の信頼性を向上させることができる。
【0058】次に、本発明に係るスクロール圧縮機の第2実施形態を図4および図5に示して説明する。なお、本実施形態におけるスクロール圧縮機の全体構成は上記第1実施形態において説明したものと同様であるので、以下ではその特徴的な部分についてのみ説明する。
【0059】本実施形態において、端板23aには内径lの油戻し孔38が形成されており、渦巻状ラップ23bには油戻し孔38と軸線を一致させるようにして断面円弧状の溝39が形成されている。油戻し孔38の内径は当初から0.5mm以下に設定されて形成されている。また、溝39は渦巻状ラップ23bの高さ方向の全域にわたって形成されており、油戻し孔38をその形成方向に沿って断面視すると、溝39の底面は油戻し孔38の内周面よりも深く形成されている。
【0060】油戻し孔38および溝39は次のようにして形成される。まず、旋回スクロール23を整形する一方の型に端板23aの他側面側から所定の位置を貫く直径lの棒状部を設け、他方の型には端板23aの一側面側から同じく所定の位置を貫く直径l'(>l)の棒状部を設けておき、整形の時点で油戻し孔38と溝39とを一括して形成するのである。
【0061】上記のように構成されたスクロール圧縮機においては、溝39の長さが渦巻状ラップ23bの高さに一致しており、渦巻状ラップ22b,23b間のラップ長さ方向に広がるオイルがラップ長さの全域で捕らえられるので、オイルの回収率がさらに高まる。これにより、オイル循環率を低い値に保つことができる。
【0062】また、上記第1実施形態のように油戻し孔35にオリフィス37を挿入しなくても、所望の大きさの油戻し孔38が形成されるので、旋回スクロール23の加工コストを安価に抑えることができる。
【0063】本発明に係るスクロール圧縮機の第3実施形態を図6に示す。本実施形態においては、内径lの油戻し孔40と溝41とが段差をもたず連続して形成されている。また、油戻し孔40の内径は当初から0.5mm以下に設定されており、溝41も油戻し孔40と同じ曲率の凹曲面をなして形成されている。
【0064】上記のように構成されたスクロール圧縮機においては、溝41がオイルを回収するのに十分な大きさとはならない場合があるが、旋回スクロール23の加工段階で油戻し孔40、溝41を形成する手間があまりかからないため、加工コストの削減が可能である。
【0065】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る請求項1記載のスクロール圧縮機によれば、固定スクロールと旋回スクロールとの間に形成される圧縮室がその容積を縮小する過程で、双方の渦巻状ラップ間に集まるオイルが溝に流れ込み、孔を通じて圧縮室から回収されるが、圧縮室内のオイルは固定スクロールと旋回スクロール双方の渦巻状ラップの壁面に沿って集まるので、渦巻状ラップの壁面に沿って溝を形成することでオイルの回収率が高まる。したがって、オイル循環率を低い値に保つことができ、これによって結果的に空気調和装置の信頼性を向上させることができる。
【0066】請求項2記載のスクロール圧縮機によれば、溝の長さを渦巻状ラップの高さの1/4以上に設定することで、渦巻状ラップ間のラップ長さ方向に広がるオイルを集めやすくなり、オイルの回収率がさらに高まるので、オイル循環率を低い値に保つことができる。
【0067】請求項3記載のスクロール圧縮機によれば、端板の中央に近い渦巻状ラップの非インボリュート部に溝を形成することで、固定スクロール側の渦巻状ラップと溝とのの摺接が起こらなくなり、騒音や振動の発生を抑えることができ、これによって圧縮機の耐久性を向上させることができる。
【0068】請求項4記載のスクロール圧縮機によれば、渦巻状ラップの壁面から孔の内周面までの間隔を固定スクロールの渦巻状ラップの厚さの1/2以下に設定することで、孔の開口に摺接するチップシールの損傷が防止されるので、圧縮機の耐久性を向上させることができる。
【0069】請求項5記載のスクロール圧縮機によれば、溝の深さを旋回スクロールの渦巻状ラップの厚さの1/2以下に設定することで、渦巻状ラップに撓みが生じ難くなるので、圧縮機の耐久性を向上させることができる。
【0070】請求項6記載のスクロール圧縮機によれば、溝を深く形成することで溝の容積が増し、オイルが一時的に溜め置かれることでオイルの回収率がさらに高まるので、オイル循環率を低い値に保つことができる。
【0071】請求項7記載のスクロール圧縮機によれば、孔と溝とを一括形成し、そのあと孔にオリフィスを挿入することで、溝が孔の内周面よりも深く所望の大きさに形成される。これにより溝の容積が増し、オイルが一時的に溜め置かれることでオイルの回収率がさらに高まるので、オイル循環率を低い値に保つことができる。
【0072】請求項8記載のスクロール圧縮機によれば、孔の内径が0.5mm以下に設定されることで冷媒ガスの漏れが起こらずかつオイルの流通が良好に行われるようになるので、オイル循環率を低い値に保つことができる。
【0073】請求項9記載のスクロール圧縮機によれば、当該圧縮機を自動車のアイドリング時の作動状態とみなせる条件で作動させたときにオイル循環率が1%以下となるように孔の内径を決定することにより、不安定になり易いアイドリング時においても空気調和装置の作動状態を安定させることができる。
【出願人】 【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
【出願日】 平成11年9月2日(1999.9.2)
【代理人】 【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴 (外3名)
【公開番号】 特開2001−73973(P2001−73973A)
【公開日】 平成13年3月21日(2001.3.21)
【出願番号】 特願平11−249321