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【発明の名称】 圧縮機の構成部品における皮膜形成方法
【発明者】 【氏名】杉浦 学

【氏名】岩間 和明

【氏名】磯村 直彦

【氏名】河内 繁希

【氏名】粥川 浩明

【氏名】小鉄 泰生

【氏名】吉田 貴司

【氏名】馬場 敬明

【要約】 【課題】構成部品の被加工面に対する金属材料皮膜の形成技術としての汎用性に優れると共に、作業現場での作業環境の良好維持、並びに、作業の手間、時間及びコストの効果的な削減が可能となる皮膜形成方法を提供すること。

【解決手段】斜板10のシューとの摺接面30Bよりも軟質な金属材料からなる供給体40を準備する。供給体40を回転させた状態で斜板摺接面30Bに圧接させ、供給体40から斜板10に金属材料の一部を転移させる。斜板10を回転させて、供給体40と斜板摺接面30Bとの間に同摺接面30Bの周方向への相対移動を生じさせ、供給体40から環状の斜板摺接面30B全体に金属材料を順次転移してゆく。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧縮機の構成部品の被加工面に金属材料よりなる皮膜を形成するための皮膜形成方法であって、前記構成部品よりも軟質な金属材料よりなる供給体を構成部品の被加工面の一部に圧接させ、さらには供給体と被加工面とを同被加工面の延在方向に相対移動させることで、供給体がその金属材料の一部を被加工面上に順次転移させて、被加工面全体に皮膜を形成することを特徴とする圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項2】 前記供給体は柱状をなし、その先端平面を以って構成部品の被加工面の一部に当接する構成である請求項1に記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項3】 前記供給体は円柱状をなし、その円筒面を以って構成部品の被加工面の一部に当接する構成である請求項1に記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項4】 前記供給体は円柱状をなすとともに先端面が凸円錐面よりなり、供給体は円錐端面を以って構成部品の被加工面の一部に当接する構成である請求項1に記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項5】 前記皮膜形成中において供給体は、その柱状の中心を通る軸線を中心として回転される請求項2〜4のいずれかに記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項6】 前記構成部品の被加工面は一軸線を中心としたこの一軸線に直交する環状の面であり、供給体と被加工面とは、構成部品から見て供給体が一軸線の周りを公転することで、被加工面の周方向に相対移動される請求項1〜5のいずれかに記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項7】 前記皮膜形成中において構成部品は、一軸線を中心として回転される請求項6に記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項8】 前記被加工面に対する皮膜形成は、複数の供給体を用いて行われる請求項1〜7のいずれかに記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項9】 前記構成部品は被加工面を複数有しており、複数の供給体がそれぞれ対応する被加工面に対して皮膜形成を行なう請求項1〜8のいずれかに記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項10】 前記皮膜形成中において供給体と構成部品との当接部分を、金属材料の酸化を不活性化させる不活性ガス雰囲気中におくようにした請求項1〜9のいずれかに記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項11】 前記供給体を構成する金属材料は、構成部品を構成する金属材料よりも低融点である請求項1〜10のいずれかに記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項12】 前記構成部品は鉄系材料により構成され、前記供給体はアルミニウム系材料又は銅系材料により構成されている請求項1〜11のいずれかに記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項13】 前記圧縮機は斜板式圧縮機であって、構成部品はこの斜板式圧縮機に用いられる斜板である請求項1〜12のいずれかに記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【請求項14】 前記斜板にはシューを介してピストンが連結されており、このシューとの摺接面が被加工面をなす請求項13に記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、圧縮機の構成部品の被加工面に金属材料よりなる皮膜を形成するための皮膜形成方法に関する。特に、斜板式圧縮機に用いられる斜板の表面にシューとの接触摺動性を改善するための皮膜を形成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】斜板式圧縮機の内部機構を構成する摺動部材間の潤滑は、通常、その内部に保持された潤滑オイルを圧縮機の運転に伴って流通するガス(例えばフロンガス等の冷媒ガス)でミスト化し、そのミスト化したオイルを各摺動部位に搬送することでまかなわれている。但し、圧縮機を運転停止状態で長時間放置した後に再起動するような場合には、摺動部位に付着していた潤滑オイルが冷媒ガスによって洗い流されていることが多い。
【0003】このため、圧縮機の起動後で冷媒ガスが圧縮機に帰還してオイルのミスト化がすすむまでの期間(1分程度)が、圧縮機の運転中にもかかわらず潤滑が必要な摺動部位がオイル不十分な状態に陥る期間となる。それ故、このようなオイル不十分な期間においても摺動部位における最低限の潤滑を確保するために、各種摺動部材の表面にコーティングを施す(皮膜を形成する)技術が従来より提案されている。
【0004】そして、斜板式圧縮機の斜板の表面(具体的にはシューとの摺接面)にコーティングを施す技術に限ってみても種々の態様がある。特許文献のみならず製品(斜板)に実用化されているコーティング技術としては、スズ等の電解又は無電解メッキや、銅系又はアルミニウム系合金等の溶射技術がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、スズ等の電解又は無電解メッキでは数μm程度の極薄の皮膜を形成する分にはさほどの困難はないが、数十μm以上といった比較的厚膜な皮膜を形成するのは必ずしも容易ではない。又、メッキを実現するためには母材金属と付着金属との電気化学的関係が問題となり常に採用できる手法ではない。
【0006】他方、粉末状の金属材料等を溶融状態として火炎と共に被加工面に吹き付ける溶射技術によれば、厚膜化とか電気化学的相性といった点での困難はあまりないが、それでも以下の(イ)及び(ロ)に掲げるような作業上の問題を本質的に内在している。
【0007】(イ)多くの場合、溶射を施す前に、構成部品の被加工面に対しショットブラスト等による事前の粗化処理を行う必要がある。かかる前処理の手間が必要なこと及び粗化処理に用いる硬質粒子(副材料)の費用がかかることは、溶射加工における時間とコストを上昇させる一因となっている。又、粗化処理時にはかなりの騒音が発生し、作業環境を悪化させている。
【0008】(ロ)溶射に際しては、溶射加工の不要な部分へのマスキングを行う必要があり、そのことが時間とコストを更に上昇させる一因となっている。このように溶射技術は、金属被加工面に対する金属皮膜の形成技術としては高い汎用性を備えるものの、上述のように作業現場での作業環境の悪化、並びに、作業の手間、時間及びコストといった面で多くの問題を残している。
【0009】本発明の目的は、構成部品の被加工面に対する金属材料皮膜の形成技術としての汎用性に優れると共に、作業現場での作業環境の良好維持、並びに、作業の手間、時間及びコストの効果的な削減が可能となる構成部品における皮膜形成方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために請求項1の発明では、圧縮機の構成部品の被加工面に金属材料よりなる皮膜を形成するための皮膜形成方法であって、前記構成部品よりも軟質な金属材料よりなる供給体を構成部品の被加工面の一部に圧接させ、さらには供給体と被加工面とを同被加工面の延在方向に相対移動させることで、供給体がその金属材料の一部を被加工面上に順次転移させて、被加工面全体に皮膜を形成することを特徴としている。
【0011】この方法によれば、前記構成部品と供給体と圧接条件や、供給体と被加工面との相対移動速度等を調節することにより、構成部品の被加工面よりも軟質な金属材料の一部を供給体側から被加工面上に適度に転移させ、構成部品の被加工面上に所望の膜厚の金属材料皮膜を簡便かつ低コストで形成することができる。
【0012】請求項2の発明では請求項1において、前記供給体は柱状をなし、その先端平面を以って構成部品の被加工面の一部に当接する構成であることを特徴としている。
【0013】この方法によれば、供給体(先端平面)と構成部品(被加工面)とが面接触することとなる。従って、供給体と被加工面とが同被加工面の延在方向に相対移動されると、被加工面上の或る点により供給体端面に描かれる軌跡は一線状となる。つまり、この一線状の長さの分だけ、被加工面上の或る点と供給体端面の接触期間が確保されている。このため、供給体から被加工面に対して確実に金属材料を転移させることができ、ひいては金属材料皮膜の形成を安定して行い得る。
【0014】請求項3の発明では請求項1において、前記供給体は円柱状をなし、その円筒面を以って構成部品の被加工面の一部に当接する構成であることを特徴としている。
【0015】この方法によれば、供給体(円筒面)と構成部品(被加工面)とが線接触することとなる。従って、供給体と構成部品との接触面圧を高めることができ、供給体の金属材料を良好な圧力で以って構成部品に対して押し付け転移させることができる。このようにして得られた皮膜は、構成部品の被加工面に対する密着性が良好となる。
【0016】請求項4の発明では請求項1の発明において、前記供給体は円柱状をなすとともに先端面が凸円錐面よりなり、供給体は円錐端面を以って構成部品の被加工面の一部に当接する構成であることを特徴としている。
【0017】この方法によれば、供給体(円錐端面)と構成部品(被加工面)とが線接触することとなる。従って、供給体と構成部品との接触面圧を高めることができ、供給体の金属材料を良好な圧力で以って構成部品に対して押し付け転移させることができる。このようにして得られた皮膜は、構成部品の被加工面に対する密着性が良好となる。
【0018】請求項5の発明では請求項2〜4のいずれかにおいて、前記皮膜形成中において供給体は、その柱状の中心を通る軸線を中心として回転されることを特徴としている。
【0019】この方法によれば、供給体端面上の或る部位が軸線周りにおいて順次位置変化され、ひいては金属材料の構成部品への転移に基づく供給体の消耗が均一になされる。従って、供給体が完全に消耗されるまでの間中、被加工面に対する皮膜形成を安定して行い得る。
【0020】請求項6の発明では請求項1〜5のいずれかにおいて、前記構成部品の被加工面は一軸線を中心としたこの一軸線に直交する環状の面であり、供給体と被加工面とは、構成部品から見て供給体が一軸線の周りを公転することで、被加工面の周方向に相対移動されることを特徴としている。
【0021】この方法によれば、本発明の手法上の要点である「供給体と被加工面とを同被加工面の延在方向に相対移動させること」を極めて円滑に行ない得る。請求項7の発明では請求項6において、前記皮膜形成中において構成部品は、一軸線を中心として回転されることを特徴としている。
【0022】この方法によれば、例えば供給体を回転(自転)させることを必須とした場合において(例えば請求項5)、構成部品を回転させずに、供給体を自転させつつ構成部品の一軸線周りで公転させるような、構成や調整が複雑となりがちな多軸機構を必要としない。
【0023】請求項8の発明では請求項1〜7のいずれかにおいて、前記被加工面に対する皮膜形成は、複数の供給体を用いて行われることを特徴としている。この方法によれば、一つの被加工面に対して同時に複数箇所で金属材料転移を行なうことができ、皮膜の迅速な形成を達成し得る。
【0024】請求項9の発明では請求項1〜8のいずれかにおいて、前記構成部品は被加工面を複数有しており、複数の供給体がそれぞれ対応する被加工面に対して皮膜形成を行なうことを特徴としている。
【0025】この方法によれば、構成部品を皮膜形成装置に対して一回セットするだけで、複数の被加工面のそれぞれに対して皮膜を形成することができ、迅速な皮膜形成や省労力化等に貢献される。
【0026】請求項10の発明では請求項1〜9のいずれかにおいて、前記皮膜形成中において供給体と構成部品との当接部分を、金属材料の酸化を不活性化させる不活性ガス雰囲気中におくようにしたことを特徴としている。
【0027】この方法によれば、供給体から構成部品への金属材料の転移(密着)を阻害するこの金属材料の酸化を抑制することができ、得られた皮膜は密着性が高く剥がれ難いものとなる。
【0028】請求項11及び12の発明は、本発明の構成を出願時点において判明している好ましい態様に限定するものである。すなわち、請求項11の発明では、前記供給体を構成する金属材料は、構成部品を構成する金属材料よりも低融点である。また、請求項12の発明では、前記構成部品は鉄系材料により構成され、前記供給体はアルミニウム系材料又は銅系材料により構成されている。
【0029】請求項13の発明では、前記圧縮機は斜板式圧縮機であって、構成部品はこの斜板式圧縮機に用いられる斜板であることを限定するものである。より好ましくは、請求項14で限定するように、前記斜板にはシューを介してピストンが連結されており、このシューとの摺接面が被加工面をなしている。本件の方法は、斜板においてシューとの摺接面への皮膜形成方法として極めて優れた適性を有している。
【0030】
【発明の実施の形態】以下、本発明を空調装置に用いられる容量可変型の斜板式圧縮機の斜板における皮膜形成方法において具体化した第1〜第6実施形態について説明する。なお、第2〜第6実施形態においては第1実施形態との相違点についてのみ説明し、同一又は相当部材には同じ番号を付して説明を省略する。
【0031】(第1実施形態)
・斜板式圧縮機図1に示すように斜板式圧縮機は、シリンダブロック1と、その前端に接合されたフロントハウジング2と、シリンダブロック1の後端に弁形成体3を介して接合されたリヤハウジング4とを備え、これらは複数の通しボルト(図示略)により相互に接合固定されて圧縮機のハウジングを構成する。
【0032】前記ハウジング内には、クランク室5、吸入室6及び吐出室7が区画されている。シリンダブロック1には複数のシリンダボア1a(一つのみ図示)が形成され、各ボア1aには片頭型のピストン8が往復動可能に収容されている。吸入室6及び吐出室7は、弁形成体3に設けられた各種フラッパ弁を介して各ボア1aと選択的に連通可能となっている。
【0033】前記クランク室5内には駆動軸9が回転可能に支持され、又、カムプレートたる斜板10が収容されている。斜板10の中央部には挿通孔10aが貫設され、この挿通孔10aに駆動軸9が挿通されている。この斜板10は、ヒンジ機構13及びラグプレート11を介して駆動軸9に作動連結され、駆動軸9と同期回転可能かつ駆動軸9の軸線方向への摺動を伴いながら駆動軸9に対し傾動可能となっている。
【0034】そして、前記斜板10の外周部が前後一対のシュー20A,20Bを介して各ピストン8の端部に摺動自在に係留されることで、全てのピストン8が斜板10に作動連結されている。駆動軸9とともに所定角度に傾斜した斜板10が回転すると、各ピストン8が斜板10の傾角に対応したストロークで往復動され、各ボア1aでは、吸入室6(吸入圧Ps領域)からの冷媒ガスの吸入、吸入冷媒ガスの圧縮、吐出室7(吐出圧Pd領域)への圧縮済み冷媒ガスの吐出が順次繰り返される。
【0035】斜板10は、傾角減少バネ14によってシリンダブロック1に接近する方向(傾角減少方向)に付勢されている。ただし、例えば駆動軸9上に固定されたサークリップ15で斜板10の傾角減少方向への傾動を規制することで斜板10の最小傾角θmin(例えば3〜5°)が制限される。他方、斜板10の最大傾角θmaxは、例えば斜板10のカウンタウェイト部10bがラグプレート11の規制部11aに当接することで制限される。
【0036】斜板10の傾角は、斜板回転時の遠心力に基づく回転運動のモーメント、傾角減少バネ14の付勢作用に基づくバネ力によるモーメント、ピストン8の往復慣性力によるモーメント、ガス圧によるモーメント等の各種モーメントの相互バランスに基づいて決定される。ガス圧によるモーメントとは、シリンダボア1aの内圧とピストン8の背圧にあたるクランク室5の内圧(クランク圧Pc)との相互関係に基づいて発生するモーメントであり、クランク圧Pcに応じて傾角減少方向にも増大方向にも作用する。
【0037】図1の斜板式圧縮機では、詳述しない制御弁16を用いてクランク圧Pcを調節することで前記ガス圧によるモーメントを適宜変更し、斜板10の傾角を最小傾角θminと最大傾角θmaxとの間の任意の角度θに設定できるようになっている。
【0038】・斜板上記構成の圧縮機において皮膜形成の対象となる構成部品は、例えば斜板10である。図1及び図4に示すように、斜板10の外周部のフロント側及びリヤ側にはそれぞれ環状の摺接面30A,30Bが形成されている。フロント側及びリヤ側の環状摺接面30A,30Bは、前記一対のシュー20A,20Bとそれぞれ摺接する。
【0039】斜板10には、斜板回転時の遠心力に基づく回転運動のモーメントを適正に発生させるために比較的重い鉄系材料(例えばFCD700等の鋳鉄)が用いられる。他方、シュー20A,20Bには、その機械的強度等を配慮して同じく鉄系材料(例えば軸受鋼)が用いられる。同種の金属材料からなる二つの部材(この場合は斜板10とシュー20A,20B)を過酷な条件で摺接させると、いわゆる「ともがね現象」による焼き付きを生じてしまうので、この実施形態では、図4に示すように斜板10の少なくとも前記摺接面30A,30B上に、シュー20A,20Bとの接触摺動性を改善するための摺動層としての皮膜31A,31Bが形成されている。故に、本実施形態では斜板10の摺接面30A,30Bが被加工面となる。
【0040】各皮膜31A,31Bは、斜板10の母材やシュー20A,20Bを構成する鉄系材料とは種類の異なる金属材料からなっている。皮膜31A,31Bを構成する金属材料としては、例えば珪素含有のアルミニウム合金やアルミニウムと珪素との金属間化合物(以下両者を含めて「Al−Si系金属材料」と呼ぶ)があげられる。アルミニウム系材料としてのAl−Si系金属材料では、珪素含有量に応じて材料としての硬度や融点等の物性が種々変化するが、ここで使用するAl−Si系金属材料は、珪素含有量が10〜20重量%(好ましくは約17重量%)のものである。かかるAl−Si系金属材料からなる皮膜31A,31Bを形成することで、前記ともがね現象による焼き付きが防止されるのみならず、斜板10とシュー20A,20Bとの接触摺動性が改善される。即ち、皮膜31A,31Bの形成によって、斜板10とシュー20A,20Bとの間にはオイルレス環境下においても一定の潤滑性が確保される。
【0041】なお、斜板10やシュー20A,20Bに用いられている鉄系材料が非常に硬くて融点も千数百度以上と比較的高いのに対し、皮膜31A,31Bを構成する前記Al−Si系金属材料は、前記鉄系材料に比して相対的に柔らかくかつ融点も600〜700℃程度と前記鉄系材料に比して低い。Al−Si系金属材料の前記鉄系材料との物性上の差異が接触摺動性の改善に寄与していることは間違いないが、それに留まらず、以下に説明する皮膜形成方法を採用する上でも両者の物性上の差異が重要な意味を持つ。
【0042】・皮膜形成方法次に、構成部品としての斜板10のリヤ側摺接面(被加工面)30Bへの皮膜形成手順について具体的に説明する。
【0043】まず、図2に示すような供給体40を一つ準備する。この供給体40はその全体が前記Al−Si系金属材料からなると共に、円柱状をなしている。その円柱状の供給体40の一端面41(平面)は、斜板10の環状面である摺接面30Bの幅(環状面を構成する外形線の半径と内形線の半径との差)とほぼ同じ直径を有する円となっている。
【0044】図3に示すように、斜板10を回転保持機構51(二点鎖線で概念的に示す)にセットすると共に、供給体40をスライド・回転保持機構52(二点鎖線で概念的に示す)にセットする。回転保持機構51は第1モータM1に作動連結されており、この第1モータM1の駆動力に基づいて保持した斜板10を軸線Lを中心として回転させる。斜板10を回転保持機構51にセットした状態では、環状の摺接面30Bは前記軸線Lを取り囲むと共にその軸線Lに直交する面として存在する。更に摺接面30Bの一部は、供給体40の端面41から離間した状態でそれに対向する。
【0045】他方、スライド・回転保持機構52は前後スライド手段53に及び第2モータM2に作動連結されており、この前後スライド手段53の動作により、保持した供給体40を斜板10に対して接近、圧接および離間させるとともに、第2モータM2の駆動力に基づいて、供給体40を円柱状の中心(芯)を通る軸線L’を中心として回転させる。供給体40をスライド・回転保持機構52にセットした状態では、円柱状の供給体40の軸線L’と前記軸線Lとは偏心関係にあり、供給体40を斜板10に向けて前進させたときに、その端面41が斜板10の環状摺接面30Bの一部に対して、その外形線に内接するとともに内形線に外接する位置で接合可能となっている(図2において二点鎖線(41)で示す状態)。
【0046】そして、前記斜板10及び供給体40をそれぞれの機構51,52にセットした後、第2モータM2及びスライド・回転保持機構52により供給体40を所定の回転数(例えば1500rpm)で回転させる。つまり、供給体40を自転させる。供給体40の回転を維持しながら、前後スライド手段53によってスライド・回転保持機構52と共に供給体40を斜板10に向けて前進(接近)させる。そして、端面41が摺接面30Bに接合した後も供給体40を当該摺接面30Bに押し付けることにより、供給体端面41の斜板摺接面30Bに対する押圧力を増して所定圧力(例えば18MPa)に到達させる。つまり、供給体端面41を斜板摺接面30Bに対して所定圧力で圧接する。
【0047】この供給体端面41と斜板摺接面30Bとの圧接状態で、第1モータM1及び回転保持機構51により斜板10を所定の回転数(例えば1rpm)で回転させる。つまり、供給体40を、斜板10上の或る位置から見て軸線L周りでゆっくりと(供給体40の自転と比較して)公転させる。言い換えれば、供給体40と斜板摺接面30Bとを、同摺接面30Bの延在方向(周方向)に相対移動させる。
【0048】従って、主として供給体40の高速回転により、圧接状態にある供給体端面41と斜板摺接面30Bとの間で摩擦発熱が生じ、この摩擦発熱により供給体40の端面41付近が軟化して摺接面30に転移される。さらには斜板10の回転に応じて、斜板摺接面30Bにおける供給体端面41の圧接位置が、環状摺接面30Bの周方向に順次連続的に変化することで、軟化した供給体40の端面41付近が擦り切られるようにして、摺接面30Bにおける供給体40との圧接跡に順次取り残されてゆく。
【0049】斜板10が少なくとも1回転すれば、環状摺接面30B全体に対して供給体40からの金属材料転移が一通り行われ、この摺接面30B全体には必要膜厚(例えば50μm)に後加工での削り代(例えば20〜50μm)を加味した膜厚(例えば70〜100μm)のAl−Si系金属材料からなる皮膜31Bが形成される。摺接面30B全体に皮膜31Bが形成された後には、スライド・回転保持機構52と共に供給体40が斜板10から後退(離間)される。
【0050】前記皮膜31Bの必要膜厚は、上述した方法によって形成された皮膜を、後加工として切削加工あるいは研磨加工を施すことにより調節される。なお、斜板10のフロント側摺接面30Aに対しても、供給体40を用いた前記と同様の手順でのAl−Si系金属材料からなる皮膜31Aが形成される。
【0051】上記構成の本実施形態においては、次のような効果を奏する。
・本実施形態の皮膜形成方法によれば、簡便な手順で短時間のうちに、斜板10の摺接面30A,30Bに対してAl−Si系金属材料からなる皮膜31A,31Bを効率的に形成することができる。
【0052】・既存の溶射技術とは異なり、斜板10の摺接面30A,30Bに対して特段の前処理を必要としない。このため、作業に必要な手間、時間およびコストを大幅に低減することができる。
【0053】・斜板10に対する供給体40の圧接時に特に大きな騒音を発することも無い。このため、騒音等による作業環境悪化の心配がない。
・この方法では、摺接面30A,30Bに対する皮膜31A,31Bの付与は、第一義的には圧接転移による物理接着であり、厳格な化学的親和性が要求されないため、皮膜の形成技術としての汎用性に優れている。
【0054】・この方法によれば、皮膜31A,31Bの摺接面30A,30Bに対する密着性が格段に向上する。その理由は定かではないが、斜板10に供給体40を圧接するときの押圧力とその時に発生する摩擦熱の影響で、供給体40側の金属材料が原子レベルで斜板10の内部に一部拡散し、斜板10の摺接面30A,30Bと皮膜31A,31Bとの接触域にミクロな拡散層が結果的に形成されるためと考えられる。
【0055】・この方法によれば、摺接面30A,30Bの一部に圧接転移した供給体40の金属材料を、擦り切るような形で供給体40から確実に断ち切って、摺接面30A,30Bにおける供給体40との圧接跡に確実に取り残しておくことができる。従って、供給体40から所定量の金属材料を確実に摺接面30A,30Bへ転移させることができ、環状摺接面30A,30B全体に所望の厚みの皮膜31A,31Bを得ることができる。
【0056】・この方法によれば、皮膜形成中において供給体40(先端平面41)と斜板摺接面30A,30Bとは、面接触となっている。従って、供給体40と斜板摺接面30A,30Bとが相対移動されると、摺接面30A,30B上の或る点により供給体端面41に描かれる軌跡は一線状となる。つまり、この一線状の長さの分だけ、斜板摺接面30A,30B上の或る点と供給体端面41の接触期間が確保されている。このため、斜板摺接面30A,30Bに対して確実に金属材料を転移させることができ、ひいては金属材料皮膜31A,31Bの形成を安定して行い得る。
【0057】・皮膜31A,31Bの形成中において供給体40は、回転(自転)しつつ斜板摺接面30A,30Bに圧接される。従って、供給体端面41において、斜板摺接面30A,30Bの外周側及び内周側に当接する部位が軸線L’周りにおいて順次入れ替わり、金属材料の斜板10への転移に基づく供給体40の消耗が、供給体端面41において均一になされる。その結果、供給体40が完全に消耗されるまでの間中、斜板摺接面30A,30Bに対する皮膜形成を安定して行い得る。つまり、例えば供給体40を自転させない場合、斜板摺接面30A,30Bの外周側と内周側との間の周速差から、供給体端面41において斜板摺接面30A,30Bの外周側に対応する部位と内周側に対応する部位との間で摩耗量に差が生じるのである。
【0058】また、供給体40の回転は高速でなされており、この供給体40の高速回転を主たる要因として金属材料が昇温軟化される。従って、例えば、供給体40を低速で回転させ、大重量の(言い換えれば軸振れが生じ易い)斜板10を高速で回転させる場合と比較して、斜板10の回転軸線Lの安定化、ひいては皮膜形成の安定化を図り得る。
【0059】・皮膜31A,31Bの形成中において斜板10は軸線Lを中心として回転され、この斜板10の回転によって、供給体40と斜板摺接面30A,30Bとが同摺接面30A,30Bの周方向に相対移動される。従って、例えば、後の別例において述べるように、斜板10を回転させずに、供給体40を自転させつつ斜板10の軸線L周りで公転させるような、構成や調整が複雑となりがちな多軸機構を必要としない。
【0060】・この方法によれば、供給体40として単なる円柱状のものを採用することができる。円柱状の供給体40は、例えば現在の市場において金属組織が均一なものを安価に入手することができ、これは良質な皮膜31A,31Bを安価に得ることにつながる。
【0061】(第2実施形態)図5に示すように、本実施形態においては、一つの斜板摺接面30B(30A)に対する皮膜31B(31A) の形成に際し、軸線L周りの同一円周上に所定間隔をおいて配置された複数(本実施形態においては3個)の供給体40を用いている。
【0062】この方法によれば、少なくとも斜板10が1/3回転すれば、環状摺接面30B(30A)全体に対して供給体40からの金属材料転移を一通り行なうことができ、斜板摺接面30B(30A)に対して短時間で皮膜31B(31A)を形成することができる。なお、複数の供給体40とは3個に限定されるものではなく、3個以外の例えば2、4、5或いは6個であってもよい。
【0063】(第3実施形態)図6に示すように、本実施形態においては、一対のスライド・回転保持機構52つまり一対の供給体40を用いることで、フロント側及びリヤ側の斜板摺接面30A,30B(複数の被加工面)に対する皮膜形成を同時に行なうようにしている。
【0064】この方法によれば、回転保持機構51に対して斜板10を一回セットするだけで、フロント側及びリヤ側の斜板摺接面30A,30Bのそれぞれに対して同時に皮膜31A,31Bを形成することができる。従って、回転保持機構51における、斜板10のフロント側とリヤ側との入換作業を省いて、迅速な皮膜形成や省労力化等に貢献される。
【0065】また、前記フロント側のスライド・回転保持機構52とリヤ側のスライド・回転保持機構52は、それぞれ他方のスライド・回転保持機構52と同一軸線L’上において供給体40を保持する構成である。従って、一方の供給体40の斜板10に対する押圧力を、他方の供給体40が斜板10を介した反対側において直接受承することになり、この供給体40の圧接に起因した斜板10(摺接面30A,30B)の変形が抑制される。これは、均一な膜厚の皮膜31A,31Bを得ることにつながるし、斜板摺接面30A,30Bに対する供給体40の押圧力(所定圧力)を高く設定することができて、ひいては密着性の高い皮膜31A,31Bを得ることにもつながる。
【0066】(第4実施形態)図7に示すように本実施形態においては、皮膜形成中において供給体40と斜板10との当接部分を、不活性ガス雰囲気中に置いている。この不活性ガスは、供給体40から斜板10に転移しようとする金属材料の酸化を不活性化させるためのものである。不活性ガスとしては、例えば二酸化炭素、窒素或いはアルゴン等が挙げられる。不活性ガスは、ボンベ54に高圧貯溜されているものが、このボンベ54の内圧を適宜解放することによって、ノズル55を介して所定箇所に吹き付けられる。
【0067】この方法によれば、供給体40から斜板10への金属材料の転移(密着)を阻害するこの金属材料の酸化を抑制することができ、得られた皮膜31A,31Bは密着性が高く剥がれ難いものとなる。
【0068】なお、供給体40と斜板10との当接部分は、不活性ガスが吹き付けられることで冷却されてしまう。このため、両者40,10の摩擦による発熱ひいては金属材料の転移が阻害される。この問題を解消するためには、供給体40の斜板10に対する押圧力を高く設定したり、特に供給体40の回転速度を上げる等して、発熱エネルギーを増大させなくてはならず、皮膜形成のためにエネルギーを多く消費することとなる。また、供給体40の斜板10に対する押圧力の過大な増大は、斜板10に変形を生じさせて皮膜31A,31Bの安定形成を阻害する。
【0069】そこで、本実施形態の変形例として、不活性ガスを予加熱して吹き付けるようにすれば、供給体40と斜板10との摩擦発熱が、不活性ガスの吹き付けによって阻害されることを抑制でき、ひいては皮膜形成を省エネルギーでかつ安定して行い得る。
【0070】(第5実施形態)図8に示すように、本実施形態においてスライド・回転保持機構52は、軸線L’が斜板10の回転中心軸線Lに対して垂直となるように供給体40を保持する構成である。従って、スライド・回転保持機構52が前進すると、それに保持された供給体40は、円筒面42を以って斜板摺接面30B(30A)の一部に当接することとなる。
【0071】この方法によれば、皮膜形成中において供給体40(円筒面42)と斜板10(摺接面30A,30B)とは、線接触することとなる。従って、供給体40と斜板10との接触面圧を高めることができ、供給体40の金属材料を良好な圧力で以って斜板10に対して押し付け転移させることができる。このようにして得られた皮膜31A,31Bは、斜板摺接面30A,30Bに対する密着性が良好となる。
【0072】(第6実施形態)図9に示すように、本実施形態において供給体端面41は、軸線L’を中心とした凸円錐面よりなっている。また、スライド・回転保持機構52は、供給体40の凸円錐面41の頂角Γに対応した角度((180°−Γ)/2)だけ、回転中心軸線L’が斜板10の回転中心軸線Lに対して傾斜するように供給体40を保持する構成である。
【0073】この方法によれば、皮膜形成中において供給体40(凸円錐面41)と斜板10(摺接面30A,30B)とは、線接触することとなる。従って、供給体40と斜板10との接触面圧を高めることができ、供給体40の金属材料を良好な圧力で以って斜板10に対して押し付け転移させることができる。このようにして得られた皮膜31A,31Bは、斜板摺接面30A,30Bに対する密着性が良好となる。
【0074】また、供給体40の端面41を斜板摺接面30A,30Bに対して線接触させる構成により、例えば面接触させる場合(例えば第1実施形態)と比較して、供給体40(円柱)として太いもの言い換えれば金属材料を多く有するものを採用することができた。従って、一つの供給体40によって、より多くの斜板10に対して皮膜形成を連続的に行い得る。別の見方をすれば、供給体40の消耗交換による皮膜形成作業の中断をトータルとして少なくすることができ、多数の斜板10に対する皮膜形成を効率良く行い得る。
【0075】なお、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で、以下の態様でも実施できる。
・上記第1〜第4実施形態を変更し、供給体40として角柱状のものを用いること。
【0076】・上記各実施形態を変更し、供給体40を回転させずに斜板10を高速で回転させること。このようにすれば、皮膜形成装置は回転機構を一つのみ備えるだけでよく、皮膜形成装置の構成の簡素化や調整作業の簡略化を図り得る。
【0077】・上記各実施形態を変更し、供給体40を低速で回転させ斜板10を高速で回転させること。つまり、供給体40の昇温軟化を、主として斜板10の高速回転に期待すること。
【0078】・上記各実施形態を変更し、斜板10を回転させずに、軸線L’を中心として自転する供給体40をさらには軸線Lを中心として公転させること。
・供給体40を予め加熱して昇温軟化させた状態で、上述した皮膜形成に供すること。このようにすれば、供給体40の昇温軟化を摩擦発熱にそれ程期待しなくとも良く、供給体40から斜板摺接面30A,30Bへの金属材料転移を速やかに行なうことができ、皮膜31A,31Bの短時間形成に貢献される。また、このような手法を採用した時、皮膜31A,31Bの斜板摺接面30A,30Bに対する密着性が格段に向上するという効果が発見された。
【0079】・供給体40として、アルミニウム系材料に代えて、銅系材料を使用しても良い。
・鉄系材料ではなく、アルミニウム系材料よりなる斜板10においてその皮膜形成方法に具体化すること。
【0080】・本発明の皮膜形成方法が適用可能な部位は、斜板10の摺接面30A,30Bに限られるものではなく、斜板摺接面30A,30Bと接するシュー20A,20Bの平端面側に、本件方法によって同様のAl−Si系金属皮膜を形成してもよい。この場合、シュー20A,20Bが構成部品となる。
【0081】・固定スクロール部材と可動スクロール部材とを備えたスクロール型圧縮機において、構成部品としての各スクロール部材の端面部に皮膜を形成する際に、本件方法が用いられてもよい。
【0082】上記実施形態から把握できる技術的思想について記載する。
(1)請求項1〜14のいずれかに記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法において、構成部品の被加工面上に形成された金属材料からなる皮膜は、その構成部品と他部品との接触摺動性を改善するためのものであること。
【0083】(2)前記不活性ガスは、予加熱した状態で供給体と構成部品との当接部分に供給される請求項10に記載の圧縮機の構成部品における皮膜形成方法。
(3)前記請求項1〜14の皮膜形成方法を請求項13又は14との関係で斜板式圧縮機用の斜板の製造方法として把握すること。本件の方法は、皮膜付き斜板の製造方法として極めて優れた適性を有する。
【0084】
【発明の効果】以上詳述したように本発明の方法によれば、圧縮機の構成部品の被加工面に対する金属材料皮膜の形成技術としての汎用性に優れると共に、作業現場での作業環境の良好維持、並びに、作業の手間、時間及びコストの効果的な削減が可能となるという優れた効果を奏する。
【出願人】 【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機製作所
【出願日】 平成12年2月29日(2000.2.29)
【代理人】 【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣 (外1名)
【公開番号】 特開2001−132639(P2001−132639A)
【公開日】 平成13年5月18日(2001.5.18)
【出願番号】 特願2000−54273(P2000−54273)