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【発明の名称】 増圧ピストン装置
【発明者】 【氏名】永江 禎範

【氏名】杉原 正英

【要約】 【課題】窒素酸化物の発生を抑制することができる増圧ピストン装置を提供すること。

【解決手段】ハウジング50内において大径プランジャ(プランジャ)81が摺動変位自在に設けられ、大径プランジャ81の前面側は、大径プランジャ81を変位させる作動油(作動流体)が導入される大径プランジャ作動室(作動流体室)9とされ、大径プランジャ81の背面側は、大径プランジャ作動室9内の作動油の圧力に対抗する作動油(背圧流体)が導入される背圧室101Aとされている。そして、ハウジング50には、背圧室101Aに開口し、作動油が供給・排出される第1の背圧流体通路90,91および連通油路(第2の背圧流体通路)92が設けられ、第1の背圧流体通路90,91は、大径プランジャ81の変位に応じて開放・閉塞される構成とされている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ハウジングと、該ハウジング内において軸線方向に摺動変位自在に設けられたプランジャとを備え、該プランジャの前面側は、該プランジャと前記ハウジングとの間に位置して該プランジャを変位させる作動流体が導入される作動流体室とされ、該プランジャの背面側は、該プランジャと前記ハウジングとの間に位置して前記作動流体室内の作動流体の圧力に対抗する背圧流体が導入される背圧室とされ、前記ハウジングには、前記背圧室に開口し、背圧流体を、前記背圧室に供給または排出するための第1の背圧流体通路および第2の背圧流体通路が設けられ、前記第1の背圧流体通路は、前記プランジャの変位に応じて該プランジャにより流路が開放・閉塞される構成とされていることを特徴とする増圧ピストン装置。
【請求項2】 請求項1記載の増圧ピストン装置において、前記第2の背圧流体通路には、背圧流体の排出圧力に対して圧力損失を生じさせる圧損発生手段が設けられていることを特徴とする増圧ピストン装置。
【請求項3】 請求項1または2に記載の増圧ピストン装置において、前記第2の背圧流体通路には、該第2の背圧流体通路を通過して排出される背圧流体の排出流量を調整する流量調整手段が設けられていることを特徴とする増圧ピストン装置。
【請求項4】 請求項1から3いずれかに記載の増圧ピストン装置において、前記プランジャは前記軸線周りに回転自在とされ、該プランジャには、前記ハウジング内壁に当接した状態で摺動する摺動部と、前記ハウジング内壁から離間している離間部と、該摺動部及び離間部との境界としての段部を備え、該段部が前記プランジャの変位に伴い移動することにより前記第1の背圧流体通路の開口部を通過して該開口部を開放・閉塞する構成とされ、さらに、前記段部は、前記プランジャの回転角度に応じて、前記第1の背圧流体通路の開口部とのプランジャ軸方向における距離が異なる構成とされていることを特徴とする増圧ピストン装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ディーゼル機関燃料噴射装置等に用いられる増圧ピストン装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の蓄圧、増圧ピストン方式の燃料噴射装置の概略系統を図8に示した。図において、1はポンプ本体、2は燃料吐出プランジャ(後述する大径プランジャ8よりも小径とされている。以下小径プランジャと呼ぶ)、Aは小径プランジャ2により燃料が増圧されるプランジャ室、3はプランジャ戻しばね、4はプランジャ室Aに燃料を供給する燃料給油室、5はプランジャ室Aから燃料が吐出される吐出弁、6は噴射管、7は燃料弁、8は大径プランジャ、9は加圧された作動油(作動流体)が導入されて大径プランジャ8に圧力を作用する大径プランジャ作動油室(作動流体室)、Bは背圧室、10は背圧室に開口する連通路である。
【0003】11は吐出始めロジック弁、12は作動油路、13はロジック弁連通油路、14は後述の蓄圧器22と吐出始めロジック弁11とを結ぶ油路、15は吐出始めロジック弁11と後述のスプール管制弁19とをつなぐ油路、16は吐出終わりロジック弁、18は吐出終わりロジック弁16から後述の作動油タンク24へ通じる排油管、19は図示しないコントローラにより機関のクランク(不図示)の回転と同期して駆動されるスプール管制弁であり、20は後述の蓄圧器22からスプール管制弁19への油路で、21はスプール管制弁19からの排油管である。また、22は蓄圧器、23は高圧の作動油を蓄圧器22に供給する油圧源装置、24は作動油タンク、25は作動油タンク24から連通路10を経て背圧室Bに図示省略のポンプ等を介して作動油が供給され、または背圧室Bから作動油タンク24に作動油が排出される作動油管、26は燃料タンク、27は燃料供給装置、28は燃料供給管である。
【0004】本噴射装置の動作について述べる。プランジャ室Aには、燃料供給装置27、燃料供給管28、燃料給油室4を経て燃料が充満されている。また、背圧室Bには作動油管25を介して作動油タンク24の作動油が充満されている。今、スプール管制弁19が、吐出始めロジック弁11の大径側油路15に作用している蓄圧器22からの高圧が閉じられるように作動すると、大径側油路15が排油管21に通じ圧力が下がる。蓄圧器22からの圧力は、吐出終わりロジック弁16の大径側油路17に作用しロジック弁16は閉じ側に大きな力を受ける。
【0005】油路15の油圧が抜けるので油路14の蓄圧器からの高圧の作動油はロジック弁11を押し開けて開状態とし、油路12を経て大径プランジャ作動室9に入り、大径プランジャ8を上方に押し上げる。大径プランジャ8により小径プランジャ2が押し上げられるとプランジャ室A内の燃料は増圧され、吐出弁5を押し開け、噴射管6を通り、燃料弁7から噴射される。また、同時に背圧室B内の作動油も加圧されて連通路10、作動油管25を介して排出される。所定の燃料噴射を終えたところでスプール管制弁19が戻ると油路15に蓄圧器22の高圧がかかり、ロジック弁11が閉じると同時に油路17が排油管21に通じ、圧力が抜けロジック弁16が開く。これにより油路12及び大径プランジャ作動油室9の高圧油が抜け小径プランジャ2,大径プランジャ8はプランジャ戻りばね3により下方に戻され、燃料の圧送を終える。
【0006】このときの噴射圧力と大径プランジャ8の変位と、クランク回転角との関係を図9に示した。大径プランジャ作動室9の圧力が大径プランジャ8に作用すると、背圧室Bの作動油が速やかに連通路10から排出されるので、プランジャ室Aの噴射圧の上昇が早く、その後はプランジャ室A圧力と大径プランジャ作動室9の圧力とがバランスするので定圧の噴射となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】このように、従来の噴射装置においては、噴射圧力プロフィールがほぼ矩形となる。このような矩形の噴射圧力であることは、噴射初期から高圧であるので噴射期間が短くなり、燃料消費量(燃費)が少ないエンジン性能を得ることができる。しかしながら、燃焼圧力の上昇、燃焼温度の上昇があり、排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)排出量が多くなる欠点がある。そのため地球環境の維持、規制を受ける排ガス対策の面からは良好な噴射特性とはいえないという問題がある。
【0008】上記事情に鑑み、本発明においては、窒素酸化物の発生を抑制することができる増圧ピストン装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の増圧ピストン装置は、ハウジングと、該ハウジング内において軸線方向に摺動変位自在に設けられたプランジャとを備え、該プランジャの前面側は、該プランジャと前記ハウジングとの間に位置して該プランジャを変位させる作動流体が導入される作動流体室とされ、該プランジャの背面側は、該プランジャと前記ハウジングとの間に位置して前記作動流体室内の作動流体の圧力に対抗する背圧流体が導入される背圧室とされ、前記ハウジングには、前記背圧室に開口し、背圧流体を、前記背圧室に供給または排出するための第1の背圧流体通路および第2の背圧流体通路が設けられ、前記第1の背圧流体通路は、前記プランジャの変位に応じて該プランジャにより流路が開放・閉塞される構成とされていることを特徴とする。
【0010】この増圧ピストン装置においては、背圧流体流路が2カ所設けられており、そのうち第1の背圧流体通路はプランジャの変位により開放・閉塞される。このため、作動初期においては第2の背圧流体通路のみが開放され、その後プランジャが所定距離変位したときに第1の背圧流体通路が開放されるようにすることで、背圧流体の排出量を経時的に変化させることができる。具体的には、第2の背圧流体通路から排出される背圧流体量が小さくなるよう設定しておけば、作動の初期においては背圧流体が緩やかに排出されて背圧室の圧力が高くなり、作動室の圧力に対抗することができるので、プランジャの急激な変位を抑えることができる。その後第1の背圧流体通路が開放されることで背圧流体がスムーズに排出されて背圧室の圧力が低下し、プランジャの変位速度を高めることができる。このように運転することにより、プランジャにより増圧される燃料の圧力を制御し、作動初期には燃料の噴射圧力を抑え、その後噴射圧力を上昇させることができる。
【0011】請求項2に記載の増圧ピストン装置は、請求項1記載の増圧ピストン装置において、前記第2の背圧流体通路には、背圧流体の排出圧力に対して圧力損失を生じさせる圧損発生手段が設けられていることを特徴とする。
【0012】このような増圧ピストン装置においては、第2の背圧流体通路に設けられた圧損発生手段により、背圧流体が緩やかに排出されるので、作動の初期においてプランジャの急激な変位をより効果的に抑えることができる。
【0013】請求項3記載の増圧ピストン装置は、請求項1または2に記載の増圧ピストン装置において、前記第2の背圧流体通路には、該第2の背圧流体通路を通過して排出される背圧流体の排出流量を調整する流量調整手段が設けられていることを特徴とする。
【0014】このような増圧ピストン装置においては、流量調整手段により背圧流体の排出流量が調整されるので、背圧流体の排出流量を小さく設定して背圧流体の圧力損失を大きくすれば、作動初期においてプランジャの変位速度がより効果的に抑えられ、初期において燃料の噴射圧力を抑えることができる。また、背圧流体の排出流量を大きく設定して背圧流体の圧力損失を小さくすれば、背圧室の背圧流体が速やかに排出されるので作動初期からプランジャの上昇速度を上げることができ、作動初期から燃料噴射圧力を上昇させることができる。
【0015】請求項4記載の増圧ピストン装置は、請求項1から3いずれかに記載の増圧ピストン装置において、前記プランジャは前記軸線周りに回転自在とされ、該プランジャには、前記ハウジング内壁に当接した状態で摺動する摺動部と、前記ハウジング内壁から離間している離間部と、該摺動部及び離間部との境界としての段部を備え、該段部が前記プランジャの変位に伴い移動することにより前記第1の背圧流体通路の開口部を通過して該開口部を開放または閉塞する構成とされ、さらに、前記段部は、前記プランジャの回転角度に応じて、前記第1の背圧流体通路の開口部とのプランジャ軸方向における距離が異なる構成とされていることを特徴とする。
【0016】この増圧ピストン装置においては、プランジャの回転角度を変化させると段部と開口部との距離が変化する。この距離が長いと、プランジャがより大きく変位しないと第1の背圧流体通路が開口しないため、背圧流体の排出が緩やか、すなわち、プランジャの変位が緩やかな期間が長くなり、上記距離が短いと、背圧流体の排出が緩やかな期間が短くなる。さらに、プランジャの回転角度により、第1の背圧流体通路の開口部が常に開放されている状態とすることもできる。この場合、作動初期からプランジャの上昇速度が大きくなるため、燃費のよい運転を行うことができる。
【0017】
【発明の実施の形態】次に、本発明の一実施形態として示した増圧ピストン装置について図面を参照して説明する。本例の増圧ピストン装置はディーゼル機関に用いられるものである。なお、本実施形態において、従来と同一の構成については同一の符号を用い、その説明を省略する。図1および図2において、符号50はハウジングであり、ハウジング50には大径プランジャ81が上下運動自在に設けられている。大径プランジャ81は、図1に示したように下部に設けられた大径部81a、後述の背圧室連通油路101Bを構成する小径部81b、上部に設けられ背圧油を外部に漏らさないシール機能を有するガイド部81cとからなる。
【0018】101Aは背圧流体としての作動油が導入される背圧室で、大径部81aが上下に摺動することによりその体積が変動するようになっている。101Bは小径部81bとハウジング50との隙間に形成された背圧室連通油路であり、ガイド部81cと同径となっており、図のように大径プランジャ81が下端にある場合にはガイド部81cの下部が嵌合されるようになっている。90は背圧逃がし室であり、ガイド部81cより大径とされている。ガイド部81cが上昇した際に、背圧逃がし室90と背圧室101Aとが背圧室連通油路101Bによって連通されるようになっている。また、92は背圧室連通油路101Bに開口する連通油路(第2の背圧流体流路)であり、その途中には内径が絞られた絞り孔(圧損発生手段)92aが設けられている。91は背圧逃がし室90に開口する背圧逃がし孔である。背圧逃がし室90および背圧逃がし孔91により第1の背圧流体流路が構成されている。261,262はそれぞれ背圧逃がし孔91、連通油路92につながる戻り油路で、油路260につながり作動油タンク24に戻る構造になっている。
【0019】本噴射装置の作動について述べる。なお、図3に、本例によって得られる噴射圧モードを示した。まず、プランジャ室Aには、燃料供給装置27、燃料供給管28、燃料給油室4を経て燃料が充満されている。また、背圧室101Aには連通油路92、油路260を介して作動油タンク24の作動油が充満されている。今、スプール管制弁19が、吐出始めロジック弁11の大径側油路15に作用している蓄圧器22からの高圧が閉じられるように作動すると、大径側油路15が排油管21に通じ圧力が下がる。蓄圧器22からの圧力は、吐出終わりロジック弁16の大径側油路17に作用しロジック弁16は閉じ側に大きな力を受ける。
【0020】油路15の油圧が抜けるので油路14の蓄圧器からの高圧の作動油(作動流体)はロジック弁11を押し開けて開状態とし、油路12を経て大径プランジャ作動室(作動流体室)9に入り、大径プランジャ81が上昇圧力を受ける。このとき、背圧室101A、背圧室連通油路101Bに存在している作動油は、大径ピストン81の圧力を受けて連通油路92から排出される。しかし、連通油路92には絞り孔92aが設けられているため、圧損が生じて作動油が急激には排出されず、その結果背圧室101Aの圧力が上昇し、大径プランジャ81はその上昇速度が抑えられつつ緩やかに上昇する(図3T1)。なお、この時はまだ背圧逃がし室90および背圧逃がし孔91はガイド部81c下部により閉塞されている。
【0021】大径プランジャ81がそのまま上昇を続け、ガイド部81cの下縁が背圧逃がし室90の下端より上昇すると、背圧室101Aの油圧は背圧室連通油路101B、背圧逃がし室90を経て背圧逃がし孔91から作動油タンク24へと逃げるため、背圧室101Aの圧力が下がる。すると背圧室101Aの油圧による抑制がなくなるため、大径プランジャ81の上昇速度が上がり、噴射圧が高くなる(図3T2)。所定の燃料噴射を終えたところでスプール管制弁19が戻ると油路15に蓄圧器22の高圧がかかり、ロジック弁11が閉じると同時に油路17が排油管21に通じ、圧力が抜けロジック弁16が開く。これにより油路12及び大径プランジャ作動油室9の高圧油が抜け小径プランジャ2,大径プランジャ81はプランジャ戻りばね3により下方に戻され、燃料の圧送を終える(図3T3)。
【0022】以上のように作動初期に大径プランジャの上昇速度が抑制されるので、噴射の初期に圧力が低く、後期に圧力が高くなるモードが実現できる。これにより初期燃焼量を抑え、燃焼ガス温度を高くすることのない燃焼が確保でき、窒素酸化物(NOx)の排出が少ないディーゼル機関を供給できる。
【0023】次に、本発明の第2の実施形態について説明する。上記第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を用い、その説明を省略する。図4において、ハウジング50の連通油路92の下方に、背圧室連通油路101Bと連通油路92とを連通する連通油路93が設けられている。図のように、連通油路93は、連通油路92の絞り孔92aより下流側に開口している。この連通油路93内部には弁96(流量調整手段)が設けられ、ねじ97により開閉が行われるようになっている。
【0024】まず、弁96が閉じているときの動作について述べる。このときは第1の実施形態と同一である。すなわち、スプール管制弁19が作動すると大径プランジャ81が上昇圧力を受ける。背圧室101A、背圧室連通油路101Bに存在している作動油は連通油路92から排出される。しかし、連通油路92には絞り孔92aが設けられているため、圧損が生じて作動油が緩やかに排出され、その結果背圧室101Aの圧力が上昇し、大径プランジャ81はその上昇速度が抑えられつつ緩やかに上昇する。
【0025】そのまま上昇を続け、ガイド部81cの下縁が背圧逃がし室90の下端より上昇すると、背圧室101Aの油圧は背圧室連通油路101B、背圧逃がし室90を経て背圧逃がし孔91から作動油タンク24へと逃げるため、背圧室101Aの圧力が下がる。すると背圧室101Aの油圧による抑制がなくなるため、大径プランジャ81の上昇速度が上がり、噴射圧が高くなる。所定の燃料噴射を終えたところでスプール管制弁19が戻ると小径プランジャ2,大径プランジャ81はプランジャ戻りばね3により下方に戻され、燃料の圧送を終える。
【0026】次に弁96が開いたときの作動について述べる。大径ピストン作動油室9に油圧が作用すると、背圧室101Aの作動油は連通油路93から連通油路92、戻り油路262に速やかに排出されるので、大径プランジャ81は上昇速度が抑制されることなく急激に上昇する。このため初期においても高圧噴射が行われる(図9参照)。
【0027】以上のように弁96を閉じると噴射初期に大径プランジャ81の上昇速度が抑制されるので、噴射の初期に圧力が低く、後期に圧力が高くなるモードが実現でき、図3に示したものと同様の噴射モードが得られる。すなわち初期燃焼量を抑え、燃焼ガス温度を高くすることのない燃焼が確保でき、窒素酸化物(NOx)等の排出が少ないディーゼル機関を供給できる。また、弁96を開くと、図9で示した従来の噴射モードと同様に、初期においても高圧の噴射が達成できる。これにより、より燃費のよい機関とすることができる。
【0028】この弁96の開閉は例えば機関負荷に応じて制御することにより機関性能をあらゆる負荷で最適に保つことができる。すなわち高負荷域においては弁96を閉じて運転することにより噴射初期に緩やかな圧力上昇を得て、後期に高圧噴射を行い、低公害燃焼を行う。低負荷域においては排ガス成分中のNOx排出量(排出絶対量)が少ないので、弁96を開くことで、初期から高圧噴射を行い、より燃費のよい機関として運転することができる。もちろん、弁96の開度を調整することにより、上記図3と図9に示された噴射モードの中間状態を任意に選択することができ、あらゆる負荷において最適な機関性能を発揮する運転が可能となる。なお、弁96の開度調整は、図示しないアクチュエータ等でねじ97を回転することにより行い、アクチュエータの作動はコントローラ等で自動制御されるようにするのが好ましい。
【0029】次に、本発明の第3の実施形態について説明する。上記第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を用い、その説明を省略する。図5において、符号50’はハウジングであり、ハウジング50’には大径プランジャ81’が上下運動自在に設けられている。大径プランジャ81’は、図5に示したように下部に設けられた大径部81a、後述の背圧室連通油路101Bを構成する小径部(離間部)81b、上部に設けられ背圧油を外部に漏らさないシール機能を有するガイド部(摺動部)81c’とからなる。ハウジング50’にはピニオン120が自転自在に設けられている。ガイド部81c’には上下方向に沿って溝122が設けられ、ピニオン120に対して軸方向にのみ移動自在にスプライン嵌合している。また、ピニオン120はハウジング50’に設けられたラック121と噛み合っており、ラック121は図上奥行き方向に移動自在に設けられている。ラック121が移動することにより、ピニオン120が回転し、ピニオン120とともに大径プランジャ81’が回転するようになっている。
【0030】また、図5および図6において、110はガイド部81c’の下部に設けられたリードである。このリード110は、ガイド部81c’を切り欠くことによって形成され、背圧室連通油路101B内壁に対して所定寸法離間した小径部81bと、ガイド部81c’の外周面との間に形成された壁部(段部)110aを備えている。なお、壁部110aは、大径プランジャ81’の軸線方向に対して斜めに、略らせん状に形成されている。リード110により背圧室連通油路101Bがガイド部81c’側に部分的に延びた状態とされている。また、ハウジング50’には、ガイド部81c’に臨む開口部103aを有する背圧逃がし孔(第1の背圧流体通路)103が設けられており、ガイド部81c’の回転角度により、リード110に対する開口部103aの相対位置が変わるものである。すなわち、図7に示すように、ラック121によりピニオン120を回転させると、大径プランジャ81’が軸周りに回転し、図の(a)〜(d)に示すように、背圧逃がし孔103開口部103aの開口位置が変化する。(a)の状態では初期においては背圧逃がし孔103は閉塞されており、大径プランジャ81’が上昇すると背圧逃がし孔103が開口するようになっている。(d)では当初から背圧逃がし孔103が開口している。
【0031】次に、本例の噴射装置の動作について説明する。まず、初期において背圧逃がし孔103が閉塞されている状態とされている場合(図7(a))の作動について述べる。このときは第1の実施形態と同一である。すなわち、プランジャ室Aには、燃料供給装置27、燃料供給管28、燃料給油室4を経て燃料が充満されている。また、背圧室101Aには連通油路92、油路260を介して作動油タンク24の作動油が充満されている。この状態で、背圧逃がし孔103は、ガイド部81c’によって閉塞されている。今、スプール管制弁19が、吐出始めロジック弁11の大径側油路15に作用している蓄圧器22からの高圧が閉じられるように作動すると、大径側油路15が排油管21に通じ圧力が下がる。蓄圧器22からの圧力は、吐出終わりロジック弁16の大径側油路17に作用しロジック弁16は閉じ側に大きな力を受ける。
【0032】油路15の油圧が抜けるので油路14の蓄圧器からの高圧の作動油はロジック弁11を押し開けて開状態とし、油路12を経て大径プランジャ作動室9に入り、大径プランジャ81’が上昇圧力を受ける。このとき、ピニオン120は、大径プランジャ81’のガイド部81c’にスプライン嵌合しているため、大径プランジャ81’のみが上昇し、ピニオン120はその位置が変わらない。そして、背圧室101A、背圧室連通油路101Bに存在している作動油は、大径ピストン81の圧力を受けて連通油路92から排出される。しかし、連通油路92には絞り孔92aが設けられているため、圧損が生じて作動油が緩やかに排出され、その結果背圧室101Aの圧力が上昇し、大径プランジャ81’はその上昇速度が抑えられつつ緩やかに上昇する。
【0033】そのまま上昇を続け、背圧逃がし孔103が開口すると、背圧室101Aの油圧は背圧室連通油路101Bを経て背圧逃がし孔103から作動油タンク24へと逃げるため、背圧室101Aの圧力が下がる。すると背圧室101Aの油圧による抑制がなくなるため、大径プランジャ81’の上昇速度が上がり、噴射圧が高くなる。所定の燃料噴射を終えたところでスプール管制弁19が戻ると油路15に蓄圧器22の高圧がかかり、ロジック弁11が閉じると同時に油路17が排油管21に通じ、圧力が抜けロジック弁16が開く。これにより油路12及び大径プランジャ作動油室9の高圧油が抜け小径プランジャ2,大径プランジャ81’はプランジャ戻りばね3により下方に戻され、燃料の圧送を終える。
【0034】図7(b)あるいは(c)に示すような状態では、上記と同様に大径プランジャ81’が作動するものの、リード110の壁部110aによって、ガイド部81c’の下縁部が背圧逃がし孔103に到達するまでの大径プランジャ81’の作動寸法が少なくなる。これにより、背圧逃がし孔103の開口タイミングが図7(a)の場合よりも早くなり、噴射圧の高まるタイミングも早められることとなる。
【0035】次に、初期状態において既に背圧逃がし孔103がリード110に開口している場合(図7(d))の作動について述べる。大径ピストン作動油室9に油圧が作用すると、背圧室101Aの作動油は背圧逃がし孔103から連通油路92、戻り油路262に速やかに排出されるので、大径プランジャ81’は上昇速度が抑制されることなくスムーズに上がる。このため初期においても高圧噴射が行われる。
【0036】以上のように背圧逃がし孔103を閉じると噴射初期に大径プランジャ81’の上昇速度が抑制されるので、噴射の初期に圧力が低く、後期に圧力が高くなるモードが実現でき、図3に示したものと同様の噴射モードが得られる。すなわち初期燃焼量を抑え、燃焼ガス温度を高くすることのない燃焼が確保でき、窒素酸化物(NOx)等の排出が少ないディーゼル機関を供給できる。
【0037】背圧逃がし孔103の開口タイミングは、例えば機関負荷に応じて制御することにより機関性能をあらゆる負荷で最適に保つことができる。すなわち高負荷域においては初期状態で背圧逃がし孔103が閉となるように運転することにより噴射初期に緩やかな圧力上昇を得て、後期に高圧噴射を行い、低公害燃焼を行う。低負荷域においては排ガス成分中のNOx排出量(排出絶対量)が少ないので、初期状態で背圧逃がし孔103が開となるようにして初期から高圧噴射を行い、より燃費率のよい機関として運転することができる。
【0038】また、大径プランジャ81’の回転角度を制御することにより、図7(a)(b)に例示された背圧逃がし孔103の開口部103aと壁部110aとの距離dを調整することができ、背圧逃がし孔103の開口タイミングを変更することができる。この距離dが小さいほど、図3のT1を短くすることができ、上記図3と図9に示された噴射モードの中間状態を任意に設定することができ、あらゆる負荷において最適な機関性能を発揮する運転が可能となる。
【0039】なお、大径プランジャ81’の回転は、図示しないアクチュエータ等でラック121を駆動させることによって行う。このアクチュエータの作動はコントローラ等で自動制御される。このとき、大径プランジャ81’の回転と上下とを同時に行うことも可能であり、これによってよりきめ細かい制御が可能となるのである。
【0040】
【発明の効果】以上のように、本発明においては以下の効果を有する。請求項1または2に記載の増圧ピストン装置は、背圧流体流路が2カ所設けられており、そのうち第1の背圧流体通路はプランジャの変位により開放・閉塞される。このため、作動初期においては第2の背圧流体通路のみが開放され、その後プランジャが所定距離変位したときに第1の背圧流体通路が開放されるようにすることができる。このため、作動初期においてはプランジャの急激な変位を抑えることができるので、燃焼温度の上昇が防止されてNOx排出量が抑えられる。
【0041】請求項3記載の増圧ピストン装置は、流量調整手段により背圧流体の排出流量が調整されるので、背圧流体の排出流量を小さく設定して背圧流体の圧力損失を大きくすれば、作動初期においてプランジャの変位速度を抑えることができてNOx発生量が抑えられ、背圧流体の排出流量を大きく設定して背圧流体の圧力損失を小さくすれば、背圧室の背圧流体が速やかに排出されるので作動初期からプランジャの変位速度を上げることができ、より燃費のよい運転を行うことができる。
【0042】請求項4記載の増圧ピストン装置は、プランジャの回転角度を変化させると段部と開口部との距離が変化する。これにより、作動初期の背圧流体の排出が緩やかな期間を調整することができる。すなわち、この期間が長いとプランジャの変位速度が抑えられてNOx発生量を抑えることができ、この期間を短くすると燃費のよい運転を行うことができる。
【出願人】 【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
【出願日】 平成11年10月13日(1999.10.13)
【代理人】 【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴 (外3名)
【公開番号】 特開2001−115922(P2001−115922A)
【公開日】 平成13年4月27日(2001.4.27)
【出願番号】 特願平11−291649