| 【発明の名称】 |
アルミ合金製内燃機関用ピストン |
| 【発明者】 |
【氏名】宮坂 一
【氏名】松川 治明
【氏名】高田 亮太郎
【氏名】丸井 勇治
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| 【要約】 |
【課題】ピン孔にかかる応力集中を緩和することができ、かつピン孔の耐面圧を高く設定することができるアルミ合金製内燃機関用ピストンを提供する。
【解決手段】アルミ合金製内燃機関用ピストン10は、ピストンピン40を挿入する一対のピン孔21,31を備え、ピン孔21,31を、ピストンピン40に接触させる円筒孔22と、ピストンピン40には接触させぬように円筒孔22,32の端からピストン10の中心に向って拡径する円錐孔23,33とから構成し、円錐孔23,33並びに円筒孔22,32に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で陽極酸化皮膜50を形成し、陽極酸化皮膜50の微細な孔に潤滑剤を含浸させた部材である。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ピストンピンを挿入する一対のピン孔を備えたアルミ合金製内燃機関用ピストンにおいて、前記各ピン孔は、ピストンピンに接触させる円筒孔と、ピストンピンには接触させぬように円筒孔の端からピストンの中心に向って拡径する円錐孔とからなり、前記円錐孔並びに円筒孔に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で陽極酸化皮膜を形成し、陽極酸化皮膜の微細な孔に潤滑剤を含浸させたことをことを特徴とするアルミ合金製内燃機関用ピストン。 【請求項2】 前記円筒孔に陽極酸化皮膜の厚さを薄くし、この薄い陽極酸化皮膜と円筒孔の厚い陽極酸化皮膜をテーパで結ぶことを特徴とする請求項1記載のアルミ合金製内燃機関用ピストン。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はアルミ合金で鋳造した内燃機関用のピストンに関する。 【0002】 【従来の技術】内燃機関用のピストンは、例えば内燃機関の膨張工程の際にピストンに混合気の燃焼圧がかかりピストンピンが変形してピンボス部に応力が集中する。この応力集中に対応するために、ピンボス部の肉厚を大きく設定する必要がある。ピンボス部の肉厚を大きく設定すると、ピストンの軽量化が図り難く、自動車の燃費やエンジン出力を向上させることが難しい。そこで、ピンボス部の応力集中を緩和する内燃機関用のピストンとして、特開平11−303993号公報「内燃機関用ピストン」が提案されている。この技術を、次図で詳しく説明する。 【0003】図15は従来の内燃機関用ピストンの断面図である。ピストン110は、図示せぬピストンピンを挿入する一対のピンボス部111,111にピン孔112,112を備え、ピン孔112,112にコンロッド側から面取り面113,113を形成し、面取り面113,113の内側にコニカル面(すなわち、円錐面)114,114を形成したものである。 【0004】図示せぬピストンピンは両端をピン孔112,112で支持し、中央に集中荷重(コンロッドの押し引きによる。)が作用する二点支持梁であるから、中央が最大たわみとなるように上下に曲がる。このため、コニカル部114,114を設けることにより、ピストンピンの曲がりを妨げないように配慮すれば、ピストンピン並びにピンボス部111,111に発生が予想される応力集中を回避することができる。これがコニカル面114,114を設けた理由である。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかし、コニカル面114,114を設けたために、ピストンピンがピン孔112,112に接触する領域が小さくなる。領域の小さなピン孔112,112にピストンピンから矢印の如く荷重がかかり面圧が高くなり、そのことがピストン100の耐久性を高める妨げになる。 【0006】そこで、本発明の目的は、ピン孔にかかる応力集中を緩和することができ、かつピン孔の耐面圧を高く設定することができるアルミ合金製内燃機関用ピストンを提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明の請求項1は、ピストンピンを挿入する一対のピン孔を備えたアルミ合金製内燃機関用ピストンにおいて、前記各ピン孔は、ピストンピンに接触させる円筒孔と、ピストンピンには接触させぬように円筒孔の端からピストンの中心に向って拡径する円錐孔とからなり、前記円錐孔並びに円筒孔に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で陽極酸化皮膜を形成し、陽極酸化皮膜の微細な孔に潤滑剤を含浸させたことをことを特徴とする。 【0008】応力集中を避けるためにピン孔に円錐孔を形成した結果、円筒孔の面圧が増大するが、この円筒孔に格別の耐面圧処理を施す。すなわち、円筒孔に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で陽極酸化皮膜を形成し、陽極酸化皮膜の微細な孔に潤滑剤を含浸させた。ふっ化物には陽極酸化皮膜を平坦にする作用があり、りん酸塩には陽極酸化皮膜の微細な孔の孔径を大きくする作用がある。このため、平坦な陽極酸化皮膜で円筒孔の耐面圧を高め、平坦な陽極酸化皮膜の微細な孔に多量の潤滑剤を含浸させことで円筒孔の摺動抵抗を減らす。 【0009】請求項2は、円筒孔に陽極酸化皮膜の厚さを薄くし、この薄い陽極酸化皮膜と円筒孔の厚い陽極酸化皮膜をテーパで結ぶことを特徴とする。円筒孔の薄い陽極酸化皮膜と厚い陽極酸化皮膜とをテーパで結ぶことで円錐孔を形成する。これで、ピン孔に陽極酸化皮膜を形成するとき、同時に円錐孔を形成して、円錐孔を工具で切削する工程を省く。 【0010】 【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。図1は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストン(第1実施の形態)の斜視図である。アルミ合金製内燃機関用ピストン10は、Si(シリコン)系アルミニウム合金で形成した部材であって、ピストン頭部12にピストンリング溝13,14及びオイルリング溝15を形成し、オイルリング溝15の下側に一対のスカート部17,17を形成し、一対のスカート部17,17の間に左右のピンボス部20,30(奥側のピンボス部30は図2に示す)を形成し、ピンボス部20,30にピストンピン40を挿入するピン孔21,31(ピン孔31は図2に示す)を備えた部材である。42はコンロッドである。 【0011】図2は図1の2−2線断面図である。アルミ合金製内燃機関用ピストン10は、左右のピンボス部20,30のピン孔21,31を、ピストンピン40に接触させる円筒孔22,32と、ピストンピン40には接触させぬように円筒孔22,32の端からピストン10の中心11に向って(すなわち、コンロッド42に向って)拡径する円錐孔23,33とからなり、円錐孔23,33並びに円筒孔22,32に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で特殊な陽極酸化皮膜50を形成し、陽極酸化皮膜50の微細な孔に潤滑剤を含浸させたものである。特殊な陽極酸化皮膜50及び潤滑剤については図4でさらに詳しく説明する。 【0012】図3は図2の3部拡大図であり、ピン孔31に円筒孔32及び円錐孔33を備え、円錐孔33とピンボス部30の端部35との間に面取り面36を備えた状態を示す。円筒孔32、円錐孔33及び面取り面36は、表面に特殊な陽極酸化皮膜50を均一に形成し、陽極酸化皮膜50の微細な孔に潤滑剤を含浸させたものである。なお、この図では、円筒孔32とピストンピン40との間の隙間を大きくして示したが、現実には円筒孔32とピストンピン40との間の隙間は殆どない。 【0013】円錐孔33は、軸方向の長さLを1〜5mmに設定し、かつ半径方向の高さHを1〜30μm(0.001〜0.03mm)に設定した。長さLを1mm以上に設定することで、ピストンピン40が弾性変形したときの逃げを十分に確保するようにした。また、長さLを5mm以下に設定することで、円筒孔32の領域を所定量確保して、円筒孔32でピストンピン40を支えることができるようにした。 【0014】高さHを1μm以上に設定することで、ピストンピン40が弾性変形したときの逃げを十分に確保するようにした。また、高さHを30μm以下に設定することで、円錐孔33の傾斜角θを小さく抑え、ピストンピン40がピン孔31に非接触となる非接触開始点37(すなわち、円筒孔32と円錐孔33との境界点)での応力集中を緩和するようにした。 【0015】このように、応力集中を緩和することにより、ピンボス部30の肉厚tを小さく抑えることができ、ピストンの軽量化を図ることができる。なお、領域Eは、ピストンピン40が弾性変形したときに、ピストンピン40がピン孔31に接触しない領域(円錐孔33及び面取り面36の領域)を示す。 【0016】図4は図3の4部拡大図であり、この図では理解を容易にするために特殊な陽極酸化皮膜50の皮膜面50aを上向きにして説明する。なお、潤滑剤54として熱硬化性樹脂を使用した例を説明する。特殊な陽極酸化皮膜50は、膜厚t1が略一定で皮膜面50aを平坦に形成し、皮膜面50aに微細な孔52・・・(・・・は複数個を示す)を備えたものである。孔52・・・は孔径d1が比較的大きい孔である。このため、孔52・・・に十分な量の潤滑剤(熱硬化性樹脂)54を含浸することができ、含浸した熱硬化性樹脂54を孔52・・・内に確実に固着することができる。 【0017】このため、熱硬化性樹脂54を陽極酸化皮膜50の微細な孔52・・・に固着させることで、特殊な陽極酸化皮膜50で耐摩耗性を高めるとともに、潤滑剤で摺動抵抗を減らすことができる。加えて、特殊な陽極酸化皮膜50は、皮膜面50aを平坦にすることで耐面圧を高めることができる。 【0018】以下、図5で普通の陽極酸化皮膜の形成方法を比較例として説明する。図5(a)〜(c)は内燃機関用ピストンのピン孔に普通の陽極酸化皮膜を形成した比較例を示す。(a)は、硫酸電解液で生成した普通の陽極酸化皮膜を示す。母材としてのアルミ合金製内燃機関用ピストンのピン孔100にSi粒101・・・が分布し、そのうちの表面近傍のSi粒102・・・が陽極酸化皮膜103に悪影響を及ぼして、陽極酸化皮膜103が全体的に凹凸となっている。 【0019】(b)は、(a)の拡大図であり、たまたま表面に出ていたSi粒105の部分には陽極酸化皮膜を形成できずに大きな窪みD1となり、また、表面にごく近いSi粒106の部分には陽極酸化皮膜107が形成できたけれども、膜厚は周囲の陽極酸化皮膜103と比べると小さく、窪みD2ができている。すなわち、Siを含むアルミニウム合金製ピストンのピン孔100を硫酸電解液で陽極酸化処理をしても、平坦な陽極酸化皮膜が得られないことが分かった。また、硫酸電解液では、微細な孔108・・・の孔径をd2とすると、d2は一般的に15nm程度と小さいことが分かった。 【0020】(c)は、液状の熱硬化性樹脂を微細な孔108・・・に含浸させ、含浸した液状の熱硬化性樹脂を加熱して硬化樹脂109・・・に変えた状態を示す。樹脂は摩擦抵抗が小さいので、陽極酸化皮膜103,107に硬化樹脂109・・・を含浸させることで、ピストンピンに対するピン孔100の摺動抵抗は比較的小さくなる。 【0021】しかし、(b)に示したように、陽極酸化皮膜103に窪みD1,D2が発生して陽極酸化皮膜103を平坦に生成することが困難である。従って、ピン孔の耐面圧を十分に高めることはできない。また、陽極酸化皮膜103に発生した微細な孔108・・・の孔径d2が小さいので陽極酸化皮膜103に樹脂109を十分に含有することができない。従って、陽極酸化皮膜103に樹脂109を含浸させても摩擦抵抗を所望の値まで小さくすることはできない。 【0022】以下、図4の断面拡大図に示した特殊な陽極酸化皮膜を形成する方法を説明する。図6は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストン(第1実施の形態)の特殊な陽極酸化皮膜処理方法を説明するフローチャートであり、図中ST××はステップ番号を示す。 ST10;アルミ合金製内燃機関用ピストン(すなわち、Si系アルミニウム合金としてのAC8Cアルミニウム合金製ピストン)のピンボス部のピン孔を脱脂する。ピンボス部のピン孔以外をマスクする。なお、アルミ合金製内燃機関用ピストンの全表面に陽極酸化皮膜を形成する場合はマスクをしない。 ST11;りん酸塩としてのりん酸3ナトリウム及びふっ化物としてのふっ化カリウムの混合水溶液中で電気分解して、ピン孔に特殊な陽極酸化皮膜を生成する。この陽極酸化皮膜の皮膜面に微細な孔が生成する。 【0023】ST12;ふっ素樹脂を含有する液状の熱硬化性樹脂を準備し、この液状の熱硬化性樹脂を陽極酸化皮膜の微細な孔に含浸させる。 ST13;微細な孔に含浸した液状の熱硬化性樹脂を加熱することにより硬化させる。これで、本発明に係るアルミニウム合金製ピストンの陽極酸化処理が完了する。以下、Si系アルミニウム合金の陽極酸化処理方法のST10〜ST13を図7〜図8で詳しく説明する。 【0024】図7(a),(b)は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストン(第1実施の形態)の特殊な陽極酸化皮膜処理方法の第1説明図である。(a)は、ST10(脱脂)後の状態を示す図であり、アルミ合金製内燃機関用ピストンのピンボス部30のピン孔31を脱脂した状態を示す。ピンボス部30のピン孔31の近傍にはアルミニウムにSi粒55,56,57が分散している。 【0025】(b)は、ST11(特殊な陽極酸化皮膜処理)後の状態を示す図であり、りん酸3ナトリウム及びふっ化カリウムの混合水溶液中で電気分解して陽極酸化皮膜50を生成した状態を示す。りん酸3ナトリウムの腐食作用でピン孔31((a)に示す)が溶解して、Si粒55,56,57が露出する。露出したSi粒55,56,57がふっ化カリウムの作用で溶解して小さくなる。 【0026】このため、ピン孔31にSi粒55,56,57が存在するにも拘らず、陽極酸化皮膜50が良好に成長する。この結果、陽極酸化皮膜50の皮膜面50aが揃うので、面粗度は小さくなり、膜厚t1はほぼ一定となる。また、電解液にはりん酸3ナトリウムを含むため、りん酸3ナトリウムの孔径を大きくする作用で、微細な孔52・・・の孔径d1は略100nmと十分に大きくなる。 【0027】図8(a),(b)は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストン(第1実施の形態)の特殊な陽極酸化皮膜処理方法の第2説明図である。(a)は、ST12(樹脂含浸処理)後の状態を示す図であり、ふっ素樹脂を含有する液状の熱硬化性樹脂53を準備し、この液状の熱硬化性樹脂53を陽極酸化皮膜50の孔52・・・に含浸した状態を示す。孔52・・・の孔径d1が100nmと大きいので、多量の熱硬化性樹脂53を孔52・・・内に含浸させることができる。なお、熱硬化性樹脂53は溶媒希釈しなくても液状をなす樹脂である。 【0028】(b)は、ST13(樹脂硬化処理)後の状態を示す図であり、オーブンのコイル58から矢印の如く熱を伝えることにより液状の熱硬化性樹脂53を加熱する。液状の熱硬化性樹脂53が硬化して熱硬化性樹脂54となる。これで、図4に示す特殊な陽極酸化皮膜50に熱硬化性樹脂53を含浸させた状態になる。 【0029】本発明によれば、ふっ化カリウムにはSiを溶解する作用と増膜作用とがある。このため、陽極酸化皮膜50の皮膜面50aを平坦にすることができるので、耐面圧を十分に高めることができる。一方、りん酸3ナトリウムには微細な孔52・・・の孔径を大きくする作用がある。このため、陽極酸化皮膜50の微細な孔52・・・を大きな孔径d1にすることができる。従って、陽極酸化皮膜50に多量の熱硬化性樹脂54を含浸させることができるので、摺動抵抗を減らすことができる。 【0030】さらに、熱硬化性樹脂54に含有したふっ素樹脂は、耐摩耗性や耐熱性に優れており、熱硬化性樹脂54を耐摩耗性や耐熱性に優れた樹脂にすることができる。従って、熱硬化性樹脂54を、例えば100℃〜300℃以上の高温において使用することができるので、ピストンのような高温状態で使用する部材に好適である。 【0031】 【実施例】本発明に係る実施例及び比較例を表1、表2及び図9に基づいて説明する。 共通条件:供試材 AC8C(JIS H 5202 アルミニウム合金鋳物) 成分は表1に示すが、約10%のSiを含む鋳物である。 【0032】 【表1】
【0033】 【表2】
【0034】実施例:アルミ合金製内燃機関用ピストンのピンボス部のピン孔を脱脂した後、0.4モル/lりん酸3ナトリウム及び0.125モル/lふっ化カリウムの混合電解液で、電解液温度を22℃、電圧を70Vとして30分間電気分解して、ピン孔に特殊な陽極酸化皮膜を生成した。特殊な陽極酸化皮膜の微細な孔は孔径d1(図8(a)参照)が100nmと大きく、陽極酸化皮膜の表面最大粗さRmaxは2〜3μmと平坦である。なお、Rmaxは、JIS B 0601で定義する表面粗さの最大高さであるが、便宜上「表面最大粗さRmax」を表記した。 【0035】次に、生成した陽極酸化皮膜を10mmHgの減圧状態で、パーフロロオクチルエチルメタクレート(熱硬化性樹脂)液中に5分間浸漬した後、大気開放して98℃の温水に10分間浸漬した。温水から取り出した後、オーブンで5分間加熱してパーフロロオクチルエチルメタクレートを硬化した。この結果、面圧30kgf/cm2で摩擦係数μを0.006と小さくすることができた。なお、摩擦係数μについては図9のグラフで詳しく説明する。なお、パーフロロオクチルエチルメタクレートの化学式は以下の通りである。 【0036】 【化1】
【0037】比較例:アルミ合金製内燃機関用ピストンのピンボス部のピン孔を脱脂した後、15%硫酸の電解液で、電解液温度を0℃、電圧を15Vとして20分間電気分解して、アルミニウム合金製ピストンの表面に普通の陽極酸化皮膜を生成した。普通の陽極酸化皮膜の微細な孔は孔径d2(図5(b)参照)が15nmと小さく、陽極酸化皮膜の表面最大粗さRmaxは12〜13μmと凸凹である。 【0038】次に、生成した陽極酸化皮膜を10mmHgの減圧状態でパーフロロオクチルエチルメタクレート液中に5分間浸漬した後、大気開放して98℃の温水に10分間浸漬した。温水から取り出した後、オーブンで5分間加熱してパーフロロオクチルエチルメタクレートを硬化した。この結果、面圧30kgf/cm2で摩擦係数μは0.07であった。この摩擦係数μは実施例の0.006と比較して大きい。なお、摩擦係数μについては図9のグラフで詳しく説明する。 【0039】図9は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストン(第1実施の形態)の特殊な陽極酸化皮膜の摩擦係数を示すグラフであり、縦軸は摩擦係数μを示し、横軸は面圧kgf/cm2を示す。実線は実施例のグラフを示し、破線は比較例のグラフを示す。実施例おいて、摩擦係数μは、面圧10kgf/cm2のとき0.013、面圧20kgf/cm2のとき0.008、面圧30kgf/cm2のとき0.006、面圧40kgf/cm2のとき0.008、面圧50kgf/cm2のとき0.006である。実施例によれば、面圧が10〜50kgf/cm2の範囲で摩擦係数μを0.013以下に小さくすることができる。従って、摺動抵抗を十分に減少させることができる。 【0040】一方、比較例において、摩擦係数μは、面圧10kgf/cm2のとき0.06、面圧20kgf/cm2のとき0.069、面圧30kgf/cm2のとき0.069、面圧40kgf/cm2のとき0.062、面圧50kgf/cm2のとき0.054である。比較例によれば、面圧が10〜50kgf/cm2の範囲で摩擦係数μは0.054以上になり、実施例の摩擦係数μ0.013より大きくなる。従って、摺動抵抗を十分に減少させることはできない。 【0041】次に、アルミ合金製内燃機関用ピストン10の作用を説明する。図10(a),(b)は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストン(第1実施の形態)の作用説明図である。(a)の圧縮工程において、コンロッド42の押上げ力F1がピストンピン40の中央に作用して、ピストンピン40は両端支持の状態で中央が上方に弾性変形する。このとき、領域Eはピストンピン40と接触しないので、ピストンピン40が弾性変形した際に、ピストンピン40の弾性変形を領域Eで逃がしてピン孔21,31にかかる応力集中を緩和する。 【0042】加えて円筒孔22,32に陽極酸化皮膜50を形成し、この陽極酸化皮膜50を平坦にすることで耐面圧を高め、平坦な陽極酸化皮膜の微細な孔に多量の潤滑剤を含浸させことで摺動抵抗を減らす。このように、ピン孔21,31にかかる応力集中を緩和し、かつ円筒孔22,32の面圧を高めるとともに摺動抵抗を減らすことで、ピンボス部20,30の肉厚tを薄くしてピストン10の軽量化を図る。 【0043】(b)の膨張工程において、混合気の燃焼圧F2がピストンピン40の両端に作用する。ピストンピン40の中央にコンロッド42を取り付けてあるので、ピストンピン40は両端のみが下向きに弾性変形する。このとき、(a)で説明したように領域Eはピストンピン40と接触しないので、ピストンピン40が弾性変形した際に、ピストンピン40の弾性変形を領域Eで逃がしてピン孔21,31にかかる応力集中を緩和する。 【0044】加えて円筒孔22,32に陽極酸化皮膜50を形成し、この陽極酸化皮膜50を平坦にすることで耐面圧を高め、平坦な陽極酸化皮膜の微細な孔に多量の潤滑剤を含浸させることで摺動抵抗を減らす。このように、ピン孔21,31にかかる応力集中を緩和し、かつ円筒孔22,32の面圧を高めるとともに摺動抵抗を減らすことで、ピンボス部20,30の肉厚tを薄くしてピストンの軽量化を図る。 【0045】次に、第2実施の形態および第3実施の形態について説明する。なお、第1実施の形態と同一部材については同一符号を付して説明を省略する。図11は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストン(第2実施の形態)の断面図である。アルミ合金製内燃機関用ピストン60は、ピン孔62の面取り面63の陽極酸化皮膜50の厚さを薄くし、円筒部64の陽極酸化皮膜50を厚くし、薄い陽極酸化皮膜50と厚い陽極酸化皮膜50をテーパで結ぶことにより陽極酸化皮膜50で円錐孔65を形成したものである。 【0046】ピン孔62に陽極酸化皮膜50を形成するときに、同時に円錐孔65を形成することができるので、円錐孔65を工具で切削する工程を省くことができる。なお、陽極酸化皮膜50の微細な孔には、第1実施の形態と同様に潤滑剤(熱硬化性樹脂)を含浸させている。円錐孔65は、第1実施の形態と同様に、軸方向の長さLを1〜5mmに設定し、かつ半径方向の高さHを1〜30μm(0.001〜0.03mm)に設定した。これにより、第1実施の形態と同様の効果を得ることができる。 【0047】次に、第2実施の形態の作用を説明する。図12(a),(b)は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストン(第2実施の形態)の陽極酸化皮膜処理工程説明図である。(a)において、ピンボス部61のピン孔62を脱脂する。次に、陰極筒体67に絶縁性筒体68を嵌め込み、この陰極筒体67をピン孔62に差し込む。これで、絶縁性筒体68を領域E1に配置し、陰極筒体67を領域E2に配置する。この状態でピン孔62を、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液に漬けて、ピンボス部61を陽極に接続する。 【0048】ピンボス部61と陰極筒体67との間に電流を流す。陰極筒体67からピン孔62の領域E2向って多量の電流が矢印■の如く流れる。一方、領域E1への電流の流れは絶縁性筒体68で遮られて、絶縁性筒体68を回避した電流のみが領域E1に向けて矢印■の如く流れる。 【0049】(b)において、領域E2は陽極酸化皮膜50が厚くなり、円筒孔64を形成する。一方、領域E1は陽極酸化皮膜50がテーパ面になり陽極酸化皮膜50で円錐孔65を形成する。このため、円錐孔65を工具で切削する必要がないので、ピストン60を手間をかけないで製造することができる。 【0050】図13は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストン(第3実施の形態)の断面図である。アルミ合金製内燃機関用ピストン70は、ピン孔72の表面に析出するSi粒子73の析出量を変えることにより、陽極酸化皮膜50の厚さを調整して陽極酸化皮膜50で円錐孔74を形成したものである。 【0051】すなわち、Si粒子73は電流を通さないので、Si粒子73・・・の析出量が多いと陽極酸化皮膜50が薄くなり、Si粒子73・・・の析出量が少ないと陽極酸化皮膜50が厚くなる。これを利用して、ピン孔72の面取り面75の陽極酸化皮膜50の厚さを薄くし、円筒部76の陽極酸化皮膜50を厚くし、薄い陽極酸化皮膜50と厚い陽極酸化皮膜50をテーパで結ぶことにより、陽極酸化皮膜50で円錐孔74を形成する。 【0052】ピン孔72に陽極酸化皮膜50を形成するときに、同時に円錐孔74を形成することができるので、円錐孔74を工具で切削する工程を省くことができる。なお、陽極酸化皮膜50の微細な孔には、第1実施の形態と同様に潤滑剤(熱硬化性樹脂)を含浸させている。円錐孔74は、第1実施の形態と同様に、軸方向の長さLを1〜5mmに設定し、かつ半径方向の高さHを1〜30μm(0.001〜0.03mm)に設定した。これにより、第1実施の形態と同様の効果を得ることができる。 【0053】ここで、Si粒子73の析出量を調整する方法について説明する。アルミ合金製の鋳物を鋳造する際に、溶湯の表面を急冷するとSi粒子73・・・が表面に析出し難いことが知られている。従って、アルミ合金製内燃機関用ピストン70を鋳造する際に、例えばピン孔72を成形するための鋳抜きピンを冷却しておくことで、ピン孔72の領域E2においてSi粒子73・・・が表面に析出することを抑えることができる。 【0054】次に、第3実施の形態の作用を説明する。図14(a),(b)は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストン(第3実施の形態)の陽極酸化皮膜処理工程説明図である。(a)において、先ず領域E2のSi粒子73・・・の析出量を抑えたアルミ合金製内燃機関用ピストン70を準備する。次に、ピンボス部71のピン孔72を脱脂した後、ピン孔72に陰極筒体78を差し込む。この状態でピン孔72を、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液に漬けて、ピンボス部71を陽極に接続する。 【0055】ピンボス部71と陰極筒体78との間に電流を流す。Si粒子73・・・の析出量が少ないピン孔72の領域E2向って多量の電流が矢印■の如く流れる。一方、Si粒子73・・・の析出量が徐々に多くなる領域E1に向けて少量の電流が矢印■の如く流れる。 【0056】(b)において、領域E2は陽極酸化皮膜50が厚くなり、円筒孔64を形成する。一方、領域E1は陽極酸化皮膜50が面取面75で薄くなり、円筒孔76から面取面75に向ってテーパ面になり、陽極酸化皮膜50で円錐孔74を形成する。このため、円錐孔74を工具で切削する必要がないので、ピストン70を手間をかけないで製造することができる。 【0057】なお、前記実施の形態では、りん酸塩としてりん酸3ナトリウムを使用した例を示したが、その他にりん酸ナトリウムなどを使用してもよい。また、ふっ化物としてふっ化カリウムを使用した例を示したが、その他にふっ化ナトリウムなどを使用してもよく、アルカリ金属系ふっ化物であれば同等の作用効果がある。 【0058】さらに、液状の熱硬化性樹脂としてパーフロロオクチルエチルメタクレート液を使用した例を説明したが、ふっ素を含んだその他の熱硬化性樹脂を使用してもよい。なお、潤滑剤として熱硬化性樹脂を使用した例を説明したが、光硬化性樹脂などのその他の樹脂を使用しても同様の効果を得ることができる。また、光硬化性樹脂は、例えば紫外線硬化性樹脂や可視光硬化性樹脂が該当する。 【0059】前記実施の形態では、ピン孔の全周に円錐孔を形成した例について説明したが、図11(a),(b)で示したようにピストンピンは中央が上方に(ピストン頭部側に)弾性変形するので、ピン孔全周のうちのピストン頭部側の領域(例えば、120°の範囲))にのみ円錐孔を形成しても、前記実施の形態と同様の効果を得ることができる。 【0060】 【発明の効果】本発明は上記構成により次の効果を発揮する。請求項1は、ピストンピンが接触しない円錐孔をピン孔に形成することで、ピストンピンが弾性変形したときの逃げを確保することができる。このため、弾性変形したピストンピンをピン孔に強く押し付けることを防いで、ピン孔にかかる応力集中を緩和することができる。 【0061】応力集中を緩和するためにピン孔に円錐孔を形成した結果、円筒孔の面圧が増大するが、この円筒孔に格別の耐面圧処理を施す。すなわち、円筒孔に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で陽極酸化皮膜を形成し、陽極酸化皮膜の微細な孔に潤滑剤を含浸させた。ふっ化物には陽極酸化皮膜を平坦にする作用があり、りん酸塩には陽極酸化皮膜の微細な孔の孔径を大きくする作用がある。このため、平坦な陽極酸化皮膜で円筒孔の耐面圧を高めることができ、平坦な陽極酸化皮膜の微細な孔に多量の潤滑剤を含浸させことで円筒孔の摺動抵抗を減らすことができる。このように、ピン孔の応力集中を緩和し、かつ円筒孔の面圧を高めるとともに摺動抵抗を減らすことで、ピンボス部の肉厚を薄くして、ピストンの軽量化を図ることができる。 【0062】請求項2は、円筒孔の薄い陽極酸化皮膜と厚い陽極酸化皮膜とをテーパで結ぶことで円錐孔を形成することができる。ピン孔に陽極酸化皮膜を形成する際に、同時に円錐孔を形成して、円錐孔を工具で切削する工程を省くことができる。従って、ピストンを手間をかけないで簡単に製造することができる。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000005326 【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
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| 【出願日】 |
平成12年3月23日(2000.3.23) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100067356 【弁理士】 【氏名又は名称】下田 容一郎
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| 【公開番号】 |
特開2001−271705(P2001−271705A) |
| 【公開日】 |
平成13年10月5日(2001.10.5) |
| 【出願番号】 |
特願2000−83013(P2000−83013) |
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