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【発明の名称】 アルミ合金製内燃機関用ピストン
【発明者】 【氏名】宮坂 一

【氏名】松川 治明

【氏名】高田 亮太郎

【氏名】丸井 勇治

【要約】 【課題】燃焼室内からクランクケース内に洩れるブローバイガスの量を大きく減らすことができるアルミ合金製内燃機関用ピストンを提供する。

【解決手段】アルミ合金製内燃機関用ピストン10は、複数本のリング溝12,14,15のうち、燃焼室に一番近いトップリング溝12に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で陽極酸化皮膜50を形成し、陽極酸化皮膜50の微細な孔に熱硬化性樹脂を含浸させた。従って、トップリング溝12のシール性を高めることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数本のリング溝を備えたアルミ合金製内燃機関用ピストンにおいて、前記リング溝のうち、燃焼室に一番近いトップリング溝に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で陽極酸化皮膜を形成し、陽極酸化皮膜の微細な孔に潤滑剤を含浸させたことを特徴とするアルミ合金製内燃機関用ピストン。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はアルミ合金で鋳造した内燃機関用のピストンに関する。
【0002】
【従来の技術】自動車の内燃機関の性能を向上させるために、ピストンリング溝及びピストンリング間の隙間のシール性を高めることにより、燃焼室内からクランクケース内に洩れるブローバイガスの量を減少させたピストンが知られている。このピストンに関しては、例えば実公昭47−15522号公報「ピストン」が提案されている。この技術を、次図で詳しく説明する。
【0003】図12は従来のピストンの断面図である。アルミ合金製のピストン120は、トップリング溝121に陽極酸化皮膜122を形成し、陽極酸化皮膜122の微細な孔に4ふっ化エチレン樹脂を含浸させたものである。4ふっ化エチレン樹脂を含浸させることで、トップリング溝121に燃焼生成物が付着することを防止する。このため、トップリング溝121及びトップリング125間の隙間のシール性を高めることができる。従って、例えばエンジンの圧縮工程でピストン120が矢印aの如く上昇する際に、トップリング125はピストン120及びシリンダ127間の隙間をシールし、かつトップリング溝121及びトップリング125間の隙間をシールする。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、アルミ合金にはSi粒子(図示しない)が含まれており、このSi粒子がトップリング溝121の表面に露出していると、Si粒子に陽極酸化皮膜122を形成することはできない。陽極酸化皮膜122はSi粒の部分が凹んだ状態になり、陽極酸化皮膜122の皮膜面が凹凸状になる。このため、トップリング溝121の皮膜面にトップリングが接触しても皮膜面とトップリングとの間に隙間ができてしまい、トップリング溝121及びトップリング125間の隙間のシール性が低下する。従って、燃焼室内からクランクケース内に矢印bの如く洩れるブローバイガスの量を大きく減らすことはできない。
【0005】そこで、本発明の目的は、燃焼室内からクランクケース内に洩れるブローバイガスの量を大きく減らすことができるアルミ合金製内燃機関用ピストンを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明の請求項1は、複数本のリング溝を備えたアルミ合金製内燃機関用ピストンにおいて、前記リング溝のうち、燃焼室に一番近いトップリング溝に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で陽極酸化皮膜を形成し、陽極酸化皮膜の微細な孔に潤滑剤を含浸させたことを特徴とする。
【0007】トップリング溝に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で陽極酸化皮膜を形成し、陽極酸化皮膜の微細な孔に潤滑剤を含浸させた。ふっ化物には陽極酸化皮膜を平坦にする作用があるので、トップリング溝の壁面を平坦にして、トップリング溝及びトップリング間の隙間のシール性を確保する。加えて、りん酸塩には陽極酸化皮膜の微細な孔の孔径を大きくする作用がある。このため、平坦な陽極酸化皮膜の微細な孔に多量の潤滑剤を含浸させることが可能になる。潤滑剤は燃焼生成物を付着させない性質を備えているので、トップリング溝に燃焼生成物が付着することを防ぐ。このため、トップリング溝を平坦に維持してトップリング溝及びトップリング間の隙間のシール性を確保する。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。図1は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストンの断面図である。アルミ合金製内燃機関用ピストン10は、Si(シリコン)系アルミニウム合金で形成した部材であって、ピストン頭部11に複数本のリング溝(トップリング溝12,セカンドリング溝14及びオイルリング溝15)を形成し、オイルリング溝15の下側に一対のスカート部17,17を形成し、一対のスカート部17,17の間に一対のピンボス部18,18(手前側のピンボス部18は図示しない)を形成した部材である。
【0009】図2は図1の2部拡大図であり、アルミ合金製内燃機関用ピストン10の複数本のリング溝(トップリング溝12、セカンドリング溝14、オイルリング溝15)のうち、燃焼室20に一番近いトップリング溝12に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で特殊な陽極酸化皮膜50を形成し、図3に示すように陽極酸化皮膜50の微細な孔52・・・・・・は複数個を示す)に潤滑剤(熱硬化性樹脂)54・・・を含浸させた状態を示す。
【0010】図3は図2の3部拡大図であり、トップリング溝12(図2に示す)に形成した特殊な陽極酸化皮膜50を示す。なお、潤滑剤54として熱硬化性樹脂を使用した例を説明する。特殊な陽極酸化皮膜50は、膜厚t1が略一定で皮膜面50aを平坦に形成し、皮膜面50aに微細な孔52・・・・・・は複数個を示す。以下同様。)を備えたものである。孔52・・・は孔径d1が比較的大きい孔である。このため、孔52・・・に十分な量の潤滑剤(熱硬化性樹脂)54を含浸することができ、含浸した熱硬化性樹脂54を孔52・・・内に確実に固着することができる。
【0011】以下、図4で普通の陽極酸化皮膜の形成方法を比較例として説明する。図4(a)〜(c)は内燃機関用ピストンのトップリング溝に普通の陽極酸化皮膜を形成した比較例を示す。
(a)は、硫酸電解液で生成した普通の陽極酸化皮膜を示す。母材としてのアルミ合金製内燃機関用ピストン100のトップリング溝102にSi粒111・・・が分布し、そのうちの表面近傍のSi粒112・・・が陽極酸化皮膜113に悪影響を及ぼして、陽極酸化皮膜113が全体的に凹凸となっている。
【0012】(b)は、(a)の拡大図であり、たまたま表面に出ていたSi粒115の部分には陽極酸化皮膜を形成できずに大きな窪みD1となり、また、表面にごく近いSi粒116の部分には陽極酸化皮膜117が形成できたけれども、膜厚は周囲の陽極酸化皮膜113と比べると小さく、窪みD2ができている。すなわち、Siを含むトップリング溝102を硫酸電解液で陽極酸化処理をしても、平坦な陽極酸化皮膜113が得られないことが分かった。また、硫酸電解液では、微細な孔118・・・の孔径をd2とすると、d2は一般的に15nm程度と小さいことが分かった。
【0013】(c)は、液状の熱硬化性樹脂を微細な孔118・・・に含浸させ、含浸した液状の熱硬化性樹脂を加熱して硬化樹脂119・・・に変えた状態を示す。しかし、(b)に示すように陽極酸化皮膜113に窪みD1,D2が発生して陽極酸化皮膜113を平坦に生成することが困難であり、トップリング溝の壁面は凹凸状になる。従って、トップリング溝及びトップリング間の隙間のシール性を高め難い。加えて、(b)に示すように陽極酸化皮膜113に発生した微細な孔118・・・の孔径d2が小さいので陽極酸化皮膜113に樹脂119を十分に含有することができない。このため、ブローバイガスを付着させないという硬化樹脂119の性質を十分に活用することができない。従って、トップリング溝にブローバイガスが付着することを十分に防ぐことはできない。
【0014】以下、図3の断面拡大図に示した特殊な陽極酸化皮膜を形成する方法を説明する。図5は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストンの特殊な陽極酸化皮膜処理方法を説明するフローチャートであり、図中ST××はステップ番号を示す。
ST10;アルミ合金製内燃機関用ピストン(すなわち、Si系アルミニウム合金としてのAC8Cアルミニウム合金製ピストン)のトップリング溝を脱脂する。トップリング溝以外をマスクする。なお、アルミ合金製内燃機関用ピストンの全表面に陽極酸化皮膜を形成する場合はマスクをしない。
ST11;りん酸塩としてのりん酸3ナトリウム及びふっ化物としてのふっ化カリウムの混合水溶液中で電気分解して、トップリング溝に特殊な陽極酸化皮膜を生成する。この陽極酸化皮膜の表面に微細な孔が生成する。
【0015】ST12;ふっ素樹脂を含有する液状の熱硬化性樹脂を準備し、この液状の熱硬化性樹脂を陽極酸化皮膜の微細な孔に含浸させる。
ST13;微細な孔に含浸した液状の熱硬化性樹脂を加熱することにより硬化させる。これで、本発明に係るアルミニウム合金製ピストンの陽極酸化処理が完了する。以下、Si系アルミニウム合金の陽極酸化処理方法のST10〜ST13を図6〜図7で詳しく説明する。
【0016】図6(a),(b)は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストンの特殊な陽極酸化皮膜処理方法の第1説明図である。(a)は、ST10(脱脂)後の状態を示す図であり、アルミ合金製内燃機関用ピストン10のトップリング溝12の表面13を脱脂した状態を示す。トップリング溝の壁面近傍にはアルミニウムにSi粒55,56,57が分散している。
【0017】(b)は、ST11(特殊な陽極酸化皮膜処理)後の状態を示す図であり、りん酸3ナトリウム及びふっ化カリウムの混合水溶液中で電気分解して陽極酸化皮膜50を生成した状態を示す。りん酸3ナトリウムの腐食作用でトップリング溝12の表面13((a)に示す)が溶解して、Si粒55,56,57が露出する。露出したSi粒55,56,57がふっ化カリウムの作用で溶解して小さくなる。
【0018】このため、トップリング溝12の表面13にSi粒55,56,57が存在するにも拘らず、陽極酸化皮膜50が良好に成長する。この結果、陽極酸化皮膜50の皮膜面50aが揃うので、面粗度は小さくなり、膜厚t1はほぼ一定となる。また、電解液にはりん酸3ナトリウムを含むため、りん酸3ナトリウムの孔径を大きくする作用で、微細な孔52・・・の孔径d1は略100nmと十分に大きくなる。
【0019】図7(a),(b)は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストンの特殊な陽極酸化皮膜処理方法の第2説明図である。(a)は、ST12(樹脂含浸処理)後の状態を示す図であり、ふっ素樹脂を含有する液状の熱硬化性樹脂53を準備し、この液状の熱硬化性樹脂53を陽極酸化皮膜50の孔52・・・に含浸した状態を示す。孔52・・・の孔径d1が100nmと大きいので、多量の熱硬化性樹脂53を孔52・・・内に含浸させることができる。なお、熱硬化性樹脂53は溶媒希釈しなくても液状をなす樹脂である。
【0020】(b)は、ST13(樹脂硬化処理)後の状態を示す図であり、オーブンのコイル58から矢印の如く熱を伝えることにより液状の熱硬化性樹脂53を加熱する。液状の熱硬化性樹脂53が硬化して熱硬化性樹脂54となる。これで、図3に示す特殊な陽極酸化皮膜50に熱硬化性樹脂54を含浸させた状態になる。
【0021】本発明によれば、トップリング溝12に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で陽極酸化皮膜50を形成し、陽極酸化皮膜50の微細な孔52・・・に潤滑剤54・・・を含浸させた。ふっ化物には陽極酸化皮膜50を平坦にする作用があり、図2に示すトップリング溝12の壁面(すなわち、陽極酸化皮膜50の皮膜表面50a)を平坦にする。
【0022】また、りん酸塩には陽極酸化皮膜50の微細な孔52・・・の孔径d1を大きくする作用がある。このため、平坦な陽極酸化皮膜50の微細な孔52・・・に多量の熱硬化性樹脂54・・・を含浸させることが可能になる。熱硬化性樹脂54は燃焼生成物を付着させない性質を備えているので、図2に示すトップリング溝12に燃焼生成物が付着することを防ぐ。従って、トップリング溝12の皮膜表面50aを平坦に維持する。
【0023】さらに、熱硬化性樹脂54に含有したふっ素樹脂は、耐摩耗性や耐熱性に優れており、熱硬化性樹脂54を耐摩耗性や耐熱性に優れた樹脂にすることができる。従って、熱硬化性樹脂54を、例えば100℃〜300℃以上の高温において使用することができるので、ピストンのような高温状態で使用する部材に好適である。
【0024】
【実施例】本発明に係る実施例及び比較例を表1、表2及び図8、図9に基づいて説明する。
共通条件:供試材 AC8C(JIS H 5202 アルミニウム合金鋳物)
成分は表1に示すが、約10%のSiを含む鋳物である。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】実施例:アルミ合金製内燃機関用ピストンのトップリング溝を脱脂した後、0.4モル/lりん酸3ナトリウム及び0.125モル/lふっ化カリウムの混合電解液で、電解液温度を22℃、電圧を70Vとして30分間電気分解して、トップリング溝に特殊な陽極酸化皮膜を生成した。特殊な陽極酸化皮膜の微細な孔は孔径d1(図7(a)参照)が100nmと大きく、陽極酸化皮膜の表面最大粗さRmaxは2〜3μmと平坦である。なお、Rmaxは、JIS B 0601で定義する表面粗さの最大高さであるが、便宜上「表面最大粗さRmax」を表記した。
【0028】次に、生成した陽極酸化皮膜を10mmHgの減圧状態で、パーフロロオクチルエチルメタクレート(熱硬化性樹脂)液中に5分間浸漬した後、大気開放して98℃の温水に10分間浸漬した。温水から取り出した後、オーブンで5分間加熱してパーフロロオクチルエチルメタクレートを硬化した。この結果、面圧30kgf/cm2で摩擦係数μを0.006と小さくすることができた。なお、摩擦係数μについては図8のグラフで詳しく説明する。なお、パーフロロオクチルエチルメタクレートの化学式は以下の通りである。
【0029】
【化1】

【0030】比較例:アルミ合金製内燃機関用ピストンのトップリング溝を脱脂した後、15%硫酸の電解液で、電解液温度を0℃、電圧を15Vとして20分間電気分解して、アルミニウム合金製ピストンのトップリング溝に普通の陽極酸化皮膜を生成した。普通の陽極酸化皮膜の微細な孔は孔径d2(図4(b)参照)が15nmと小さく、陽極酸化皮膜の表面最大粗さRmaxは12〜13μmと凸凹である。
【0031】次に、生成した陽極酸化皮膜を10mmHgの減圧状態でパーフロロオクチルエチルメタクレート液中に5分間浸漬した後、大気開放して98℃の温水に10分間浸漬した。温水から取り出した後、オーブンで5分間加熱してパーフロロオクチルエチルメタクレートを硬化した。この結果、面圧30kgf/cm2で摩擦係数μは0.07であった。この摩擦係数μは実施例の0.006と比較して大きい。なお、摩擦係数μについては図8のグラフで詳しく説明する。
【0032】図8は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストンの特殊な陽極酸化皮膜の摩擦係数を示すグラフであり、縦軸は摩擦係数μを示し、横軸は面圧kgf/cm2を示す。実線は実施例のグラフを示し、破線は比較例のグラフを示す。実施例おいて、摩擦係数μは、面圧10kgf/cm2のとき0.013、面圧20kgf/cm2のとき0.008、面圧30kgf/cm2のとき0.006、面圧40kgf/cm2のとき0.008、面圧50kgf/cm2のとき0.006である。実施例によれば、面圧が10〜50kgf/cm2の範囲で摩擦係数μを0.013以下に小さくすることができる。従って、摺動抵抗を十分に減少させることができる。
【0033】一方、比較例において、摩擦係数μは、面圧10kgf/cm2のとき0.06、面圧20kgf/cm2のとき0.069、面圧30kgf/cm2のとき0.069、面圧40kgf/cm2のとき0.062、面圧50kgf/cm2のとき0.054である。比較例によれば、面圧が10〜50kgf/cm2の範囲で摩擦係数μは0.054以上になり、実施例の摩擦係数μ0.013より大きくなる。従って、摺動抵抗を十分に減少させることはできない。
【0034】図9は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストンの特殊な陽極酸化皮膜の耐面圧を示すグラフであり、縦軸は耐面圧kgf/cm2を示し、横軸は温度℃を示す。実線は実施例のグラフを示し、破線は比較例のグラフを示す。ここで、耐面圧の測定方法について説明する。先ず、ピストン母材と同じ材質のアルミ合金片に特殊な陽極酸化皮膜を形成した試験片と、ピストンリングと同じ材質で形成した加圧部材とを準備する。この試験片を、加熱炉を備えた油圧加振機にセットし、試験片の特殊な陽極酸化皮膜に加圧部材で荷重をかけ、この荷重を所定の周波数で変化させて片振り圧縮試験を行い、規定時間後の摩耗量を測定し、この摩耗量に基づいて特殊な陽極酸化皮膜の耐面圧を求めた。なお、普通の陽極酸化皮膜の耐面圧も同様に求めた。
【0035】一般に、ピストンの温度分布はトップランドが最も高く略300℃になる。実施例によれば、陽極酸化皮膜50の皮膜面50aを平坦にできるので陽極酸化皮膜50の耐面圧を高めることができる。具体的には、温度が300℃まで上がっても耐面圧を略29kgf/cm2に高めることができる。これに対して、比較例によれば、陽極酸化皮膜113の皮膜面が凹凸状になり、耐面圧は凹部で規定される。従って、陽極酸化皮膜113の耐面圧を高め難い。具体的には、温度が300℃まで上がると耐面圧は略19kgf/cm2まで下がる。以下、陽極酸化皮膜の耐面圧を高くした効果を図10で説明する。
【0036】図10は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストンの第1作用説明図であり、(a)は実施例を示し、(b)は比較例を示す。(a)において、エンジンの膨張工程でピストン10が矢印■の如く下降する。このときのピストン10の温度は略300℃である。トップリング22がシリンダ28に接触しているので、トップリング22がトップリング溝12の上壁(陽極酸化皮膜50の皮膜面50a)に当って上壁を押圧する。陽極酸化皮膜50は、図9に示すように温度300℃において、耐面圧が十分に高いので、トップランド26の厚さHを小さく抑えても、トップリング溝12の隅部12aから亀裂が発生することはない。
【0037】(b)において、エンジンの膨張工程でピストン100が矢印■の如く下降する。このときのピストン100の温度は略300℃である。トップリング104がシリンダ107に接触しているので、トップリング104がトップリング溝102の上壁(陽極酸化皮膜113の皮膜面113a)に当って上壁を押圧する。陽極酸化皮膜113は、図9に示すように温度300℃において、耐面圧を高めることはできない。このため、トップランド105の厚さを(a)と同様にHに設定すると、トップリング溝102の隅部102aから亀裂106が発生する。従って、トップランド105の厚さをHより大きなH1に設定する必要がある。以下、(a)のトップランド26の厚さHを小さく抑えた効果を図11で説明する。
【0038】図11は本発明に係るアルミ合金製内燃機関用ピストンの第2作用説明図である。図10(a)で示したようにトップリング26の厚さHを小さくできる。ここで、トップリング26の厚さH及びトップリング26とシリンダ28との隙間Sで規制される領域E(以下、「デッドスペースE」という)を小さくできる。このため、エンジンの圧縮工程においてピストン10が上死点に到達したときにデッドスペースEに溜まる燃焼生成物の量を減らすことができる。従って、デッドスペースEから矢印■の如く流れるブローバイガスを減らすことができる。
【0039】また、陽極酸化皮膜50の皮膜面50aが平坦で、かつ平坦な陽極酸化皮膜50に多量の熱硬化性樹脂54(図3に示す)を含浸させた。このため、トップリング溝12の皮膜面50aに燃焼生成物が付着することを防ぐ。従って、トップリング溝12の皮膜面50aを平坦に維持して、トップリング溝12及びトップリング22間の隙間のシール性を確保することができる。従って、矢印■の如く流れたブローバイガスを矢印■の如く殆ど流れないようにすることができる。この結果、クランクケース側に洩れるブローバイガスの量を減少させることができるので、自動車の内燃機関の性能を大きく高めることができる。
【0040】なお、前記実施の形態では、りん酸塩としてりん酸3ナトリウムを使用した例を示したが、その他にりん酸ナトリウムなどを使用してもよい。また、ふっ化物としてふっ化カリウムを使用した例を示したが、その他にふっ化ナトリウムなどを使用してもよく、アルカリ金属系ふっ化物であれば同等の作用効果がある。
【0041】さらに、液状の熱硬化性樹脂としてパーフロロオクチルエチルメタクレート液を使用した例を説明したが、ふっ素を含んだその他の熱硬化性樹脂を使用してもよい。なお、潤滑剤として熱硬化性樹脂を使用した例を説明したが、光硬化性樹脂などのその他の樹脂を使用しても同様の効果を得ることができる。また、光硬化性樹脂は、例えば紫外線硬化性樹脂や可視光硬化性樹脂が該当する。
【0042】
【発明の効果】本発明は上記構成により次の効果を発揮する。請求項1は、トップリング溝に、りん酸塩並びにふっ化物を混合した電解液で陽極酸化皮膜を形成し、陽極酸化皮膜の微細な孔に潤滑剤を含浸させた。ふっ化物には陽極酸化皮膜を平坦にする作用があり、トップリング溝の壁面を平坦にすることができる。このため、トップリング溝及びトップリング間の隙間のシール性を確保することができる。
【0043】加えて、りん酸塩には陽極酸化皮膜の微細な孔の孔径を大きくする作用がある。このため、平坦な陽極酸化皮膜の微細な孔に多量の潤滑剤を含浸させることができる。潤滑剤は燃焼生成物を付着させない性質を備えているので、トップリング溝に燃焼生成物が付着することを防ぐことができる。従って、トップリング溝の壁面を平坦に維持して、トップリング溝及びトップリング間の隙間のシール性を確保することができる。この結果、燃焼室内からクランクケース内に洩れるブローバイガスの量を減少させることができるので、自動車の内燃機関の性能を大きく高めることができる。
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【出願日】 平成12年3月24日(2000.3.24)
【代理人】 【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
【公開番号】 特開2001−271704(P2001−271704A)
【公開日】 平成13年10月5日(2001.10.5)
【出願番号】 特願2000−85049(P2000−85049)