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【発明の名称】 ピストン
【発明者】 【氏名】立石 幸男

【氏名】白水 佐京

【要約】 【課題】オイル消費量およびブローバイガスを抑えることができ、しかも圧力リング自身が抱えていた凝着や、軽負荷高回転時のフラッタリングによるブローバイガス量の急増を低減できるピストンを提供することを目的とする。

【解決手段】トップリング22にストレート合口を用い、トップランド溝下のセカンドランド31に、トップリング溝近くで径方向に寸法大にして下方にいくに従いその寸法を小にする断面略くさび状の環状溝34を形成した。ストレート合口は、高圧側の燃焼ガスを低圧側に積極的に逃がすので、セカンドランド31に貯蔵されたオイルが下方に降り、オイルパンに戻る。この結果、オイル消費量低減、ブローバイガスの低減を両立できるピストンが得られる。トップリング22にストレート合口を用いることで、凝着や、ブローバイガスの急増も防止できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 トップリングにストレート合口を用い、トップランド溝下のランドに、トップリング溝近くで径方向に寸法大にして下方にいくに従いその寸法を小にする断面略くさび状の環状溝を形成したことを特徴とするピストン。
【請求項2】 トップリングにストレート合口を用い、トップリング溝下のランドに、ランドが階段状になるように、オイルリングに近づくにつれ径が大きくなる環状溝を形成したことを特徴とするピストン。
【請求項3】 圧力リングを一本の前記トップリングのみから構成することを特徴とする請求項1または2に記載のピストン。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関用ピストンに関し、特にトップリング溝下のランドに改良を加えたピストンに関する。
【0002】
【従来の技術】内燃機関のピストンは、その外周面にトップリングおよびセカンドリングの二本の圧力リングを装着し、この圧力リングの下方にオイルリングを装着した三本リング構成によって、燃焼室の気密性とオイルの燃焼室への漏れを防いでいる。最近、エンジンの小型化のために、あるいはフリクションロスを小さくするために、一本の圧力リングおよび一本のオイルリングからなる二本リング構成のピストンが増えてきている。
【0003】一般に、二本リング構成のピストンにおいては、燃焼室へのオイルの上がり(オイル消費)と、燃焼ガスの吹き抜け(ブローバイガス)とを抑えるのが難しくなる。また、更なるフリクションの低減を図るためには各リングの張力を下げなければならず、オイル消費量を低減するのが一層厳しくなる。このような二本リング構成のピストンにあっても、オイル消費量およびブローバイガスを低減することができるピストンとして、図7に示すようなトップリング1のシール性を高めた往復動内燃機関用ピストンが知られている(実公平1−22916号公報参照)。この往復動内燃機関用ピストンは、トップリング1にいわゆるダブルラップ合口構造を用いている。ダブルラップ合口構造は、図8に示すように、一方の合口端部の外周面2と燃焼室側に面する側に寄った隅部に、該側面3と外周面2および合口隅部とに開放された凹部4を有し、他方の合口端部には前記凹部4に収容されて着座する凸部5を有する構造になっている。
【0004】図7に示すように、高圧側の燃焼室からの燃焼ガスは、リング溝上側壁面6とトップリング1の上側面1aとの間の隙間7を通過してトップリング1の背後空間に流入し、また合口部間隙8に流入するが、低圧側に面するトップリング1の下側面1bがリング溝の下側壁面9に密着し、かつ、もともとトップリング1は外側に張力を持っていてシリンダ10に密着しているので、高圧側の燃焼ガスが低圧側に流入することが抑制される。
【0005】また、燃焼室へのオイルの上がりを防止するピストンとして、図9に示すようなハイトップリングピストンが知られている(実用新案登録第2579740号公報参照)。このハイトップリングピストンは、ピストン11のセカンドランド12の形状を工夫し、トップリング溝13近くで径方向に寸法大にして下方にいくに従いその寸法を小にする断面略くさび状の環状溝を形成している。ピストン11に沿って上方に向かって流れてくるオイルは、この環状溝に溜まる。すなわち、オイルは、環状溝の直線状傾斜14に沿って溝底へ向かい、そこで径方向の溝底壁15に行く手を阻まれ、上方にいきにくくなる。一方、トップリング16から漏れた燃焼ガスが上方から吹き抜けたときに、その直線状の傾斜した壁に沿った燃焼ガスの流れによってセカンドランド12に溜めたオイルが下方に降り、オイルパンに戻る。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の往復動内燃機関用ピストンにあっては、トップリング1にダブルラップ合口を用いているので、シール性を高めることはできるが、合口部、特に凸部5の強度の問題から圧力リングの厚さを薄くすることができず、それに伴いトップリング1自身の重量を軽くすることができず、軽負荷運転時に高速回転側においてフラッタリング、すなわちトップリング1のバタツキを起こしてしまい、この結果、ブローバイガスが増えてしまうという問題がある。また、重さが原因でトップリング1がピストンと凝着してしまうという難点も抱えていた。さらに、トップリング1にダブルラップの合口を形成するのは加工が困難であるという問題もあった。
【0007】そこで、本発明は、オイル消費量およびブローバイガスを抑えることができ、しかも圧力リング自身が抱えていた凝着や、軽負荷高回転時のフラッタリングによるブローバイガス量の急増を低減できるピストンを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】以下、本発明について説明する。上記課題を解決するために、本発明者は、鋭意研究を重ねた。その結果、従来、オイル消費量およびブローバイガスを低減するために、トップリングにダブルラップ合口を用いてシール性を重視していたが、オイル消費量を低減するためには、むしろトップリングの合口を開いて高圧側の燃焼室から積極的に燃焼ガスを低圧側に逃がし、ランドにたまったオイルを燃焼ガスによってオイルパンに戻した方が良いことを知見した。具体的には、本発明は、トップリングにストレート合口を用い、トップランド溝下のランドに、トップリング溝近くで径方向に寸法大にして下方にいくに従いその寸法を小にする断面略くさび状の環状溝を形成したことを特徴とするピストンにより、上述した課題を解決した。ここで、ストレート合口とは、圧力リングの両方の合口部をリングの周方向と直交する方向に切断したままの合口をいい、両方の合口端面が平面形状となる。また、ランドとは、2本構成のリングの場合、トップリングとオイルリング間のピストンと、シリンダーとに挟まれた隙間(セカンドランド)をいい、3本構成のリングの場合、トップリングとセカンドリング間のピストンと、シリンダーとに挟まれた隙間(セカンドランド)、および/または、セカンドリングとオイルリング間のピストンと、シリンダーとに挟まれた隙間(サードランド)をいう。
【0009】この発明によれば、ランドにオイルを貯蔵する体積を確保することができる。ストレート合口は、高圧側の燃焼ガスを低圧側に積極的に逃がすので、ストレート合口を通過し、くさび状の傾斜した壁に沿った燃焼ガスの流れによって、ランドに貯蔵されたオイルが下方に降り、オイルパンに戻る。また、ランドに体積を持たせることによって、トップリングの挙動も良くすることができる。この結果、オイル消費量低減、ブローバイガスの低減を両立できるピストンが得られる。さらに、トップリングにストレート合口を用いることで、トップリングの厚さを薄くすることができ、それに伴いトップリング自身の重量を軽くすることができ、トップリングとピストンとの凝着や、軽負荷高回転時のフラッタリングによるブローバイガスの急増も防止できる。
【0010】また、本発明は、トップリングにストレート合口を用い、トップリング溝下のランドに、ピストンが階段状になるように、オイルリンングに近づくにつれ径が大きくなる環状の溝を形成したことを特徴とするピストンにより、上述した課題を解決した。
【0011】オイル消費量を低減するためには、ランドのオイルを貯蔵できる体積をなるべく大きくすることも重要な要素である。本発明によれば、ランドにピストンが階段状になるようにオイルリンングに近づくにつれ径が大きくなる環状の溝を形成したので、くさび状の環状溝と同様な形状効果が得られ、しかもくさび状の環状溝よりもオイルを溜める容積を増やすことができる。
【0012】さらに、本発明は、圧力リングを一本の前記トップリングのみから構成することを特徴とする。
【0013】一本の圧力リングおよび一本のオイルリングからなるいわゆる二本構成のリングに本発明を適用すると、低フリクション、オイル消費量低減、ブローバイガスの低減の三つを並立することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の第1の実施形態におけるピストン29を示す。このピストン29は、トップランド21近くに位置する一本の圧力リングとしてのトップリング22と、その下段に位置する一本のオイルリング23とを有する。
【0015】図2は、トップリング22のストレート合口を示す斜視図である。この図に示すように、トップリング22の一部は切断され、ストレート合口が形成される。ストレート合口とは、トップリング22の両方の合口端部24,24がトップリング22の周方向と直交する方向に切断したままになっているものをいう。すなわち、両方の合口端面25,25は、ダブルラップ合口のように凹凸を有することなく、平面形状となっている。ダブルラップ合口のトップリングの場合、凹凸を形成しなければならないのでその製造に困難が伴なうが、ストレート合口のトップリング22の場合、トップリング22を切断したままで良いのでその製造が極めて容易になる。
【0016】図3は、トップリング22をピストン29に装着した状態のストレート合口を示す。両方の合口端部24,24の間には、トップリング22の熱膨張を考慮して僅かな隙間25が開けられる。図1および図3に示すように、高圧側の燃焼室からの燃焼ガスは、隙間25を通過して低圧側に流入する。また、燃焼ガスは、リング溝上側壁面26とトップリング22の上側面との間の隙間27を通過してトップリングの背後空間に流入し、低圧側に面するトップリング22の下側面22bをリング溝の下側壁面28に密着させる。このため、燃焼ガスがトップリング22の背後空間からトップリング22の下側面22bを通過して低圧側に流入することが防止される。
【0017】図1に示すように、トップリング22とオイルリング23間のピストン29と、シリンダ30に挟まれた隙間31(以下セカンドランド31という)には、トップリング溝近くで径方向に寸法大にして下方にいくに従いその寸法を小にする断面略くさび状の環状溝34が形成される。環状溝34は、セカンドリング溝の上方でピストン外周面に収まれんとする直線部32を有する。環状溝34の上面は半径方向内方へと平坦面となっている。
【0018】このように、くさび状の環状溝34を形成することで、セカンドランド31にオイルを貯蔵する体積を確保することができる。そして、ピストン29の軸方向にピストン29に沿って流れてくるオイルは、環状溝34の直線状の傾斜に沿って溝底に向かい、そこで、径方向の溝底壁33に行く手を阻まれ上方にいきにくくなり、セカンドランド31に溜まる。セカンドランド31に貯蔵されたオイルは、ストレート合口を通過すると共にくさび状の傾斜した壁に沿った燃焼ガスの流れによって下方に降り、オイルパンに戻る。また、セカンドランド31に体積を持たせることによって、圧力変動を少なくし、トップリング22の挙動も良くすることができる。この結果、トータル的にオイル消費量低減、ブローバイガスの低減を両立できるピストン29が得られる。さらに、トップリング22にストレート合口を用いることで、トップリング22の厚さを薄くすることができ、それに伴いトップリング22自身の重量を軽くすることができ、トップリング22とピストン29との凝着や、軽負荷高回転時のフラッタリングによるブローバイガスの急増も防止できる。
【0019】図4は、本発明のピストンと従来のピストンとでブローバイ量を比較した実験データである。ピストンには、■トップリングにストレート合口を用い、セカンドランドにくさび状の環状溝を形成したもの(くさび形状+ストレート合口)、■トップリングにダブルラップ合口を用い、セカンドランドにくさび状の環状溝を形成したもの(くさび形状+ダブルラップ合口)、■トップリングにストレート合口を用い、セカンドランドに環状溝を形成しない通常のもの(STDピストン+ストレート合口)の3種類のタイプを用意した。また、各ピストンで軽負荷運転(NLD)と最大負荷(WOT)の2種類の運転を行っている。この図に示すように、くさび形状+ダブルラップ合口の場合、軽負荷運転時に5500rpmを超えた高速回転側においてブローバイガス量が急増する。これは、トップリングのフラッタリング、すなわちトップリングのバタツキが原因であると思われる。これに対し、本発明のピストンくさび形状+ストレート合口の場合、STDピストン+ストレート合口の場合と略同様に、ブローバイガス量を回転数によらず略一定の値に低減することができる。
【0020】図5は、本発明のピストンと従来のピストンとでオイル消費量を比較した実験データである。ピストンには、上述の3種類のピストンを用いている。この図に示すように、STDピストン+ストレート合口の場合のオイル消費量が7500回転の軽負荷運転(NLD)で74.8g/h,7500回転のフルロード(FULL)で42.5g/hとなり、くさび形状+ダブルラップ合口の場合が7500回転のNLDで14.5g/h,7500回転のFULLで7.7g/hとなるのに対し、くさび形状+ダブルラップ合口の場合が7500回転のNLDで9.8g/h,7500回転のFULLで13.3g/hとなる。オイル消費量については、くさび形状+ストレート合口の場合とくさび形状+ダブルラップ合口の場合とで互いに善し悪しがあるが、総合としてくさび形状+ストレート合口の組み合わせが最も良い。
【0021】図6は、本発明の第2の実施形態のピストン41を示す。このピストン41は、セカンドランド42が階段状になるように環状溝43が形成されている点で上記第1の実施形態のピストン29と相違する。トップリング44は、上記第1の実施形態のピストン29と同様にストレート合口を有する。環状溝43は、オイルリング45に近づくにつれて径が大きくなる。この環状溝43によってピストン41には二段以上の階段、この実施形態では二段の階段が形成される。階段を形成するピストン41の外周面46a,46b,46cの断面形状は、直線でピストン41の中心線と略平行である。一方、階段を形成するピストン41の側面47a,47bの断面形状は、直線でピストン41の中心線と略直交する。そして、側面47a,47bおよび外周面46a,46b,46cは、ピストン41の下方に向かうにしたがい径が大きくなっている。すなわち、外周面は、図中46cの部分で径が最小であり、46bで次に大きな径になり、46aでさらに大きな径を持つ。46aの径は、トップリング溝直下部48の径と同じ径かそれ以下である。また、トップリング溝直下部48においては、ピストン41の外径が最大で、かつその外周面の断面がピストン41の中心線と平行になっている。なお、外周面46a,46b,46cと側面47a,47bとが交差する角は、必要に応じて面取りされてもよいし、円弧状に形成されてもよい。
【0022】ここで、階段状の環状溝43を形成した場合と、くさび状の環状溝34を形成した場合とを比較する。上述のように、くさび状の環状溝34は、トップリング溝近くで径方向に寸法大にして下方にいくに従いその寸法が小になっている。階段状の環状溝43の傾斜はくさび状の環状溝34の傾斜と略一致する。そして、階段を形成する外周面46bと側面47bとが交差する点Pは、くさび状の環状溝43上に略位置する。環状溝43を階段状にする場合は、くさび状にする場合に比べ、セカンドランド42のスペースを図中Sの部分だけ大きくすることができ、セカンドランド42に容積を持たせることができる。これにより、限られたセカンドランド42にオイルを溜めておく容積を大きくとることができる。しかも、くさび状の環状溝34と略同様に、セカンドランド42に溜めたオイルを下方に降ろすことができる燃焼ガスの流れを生じさせることができるので、セカンドランド42に溜まったオイルを下方のオイルパンに戻すことができる。
【0023】なお、本発明は、ブローバイガス低減のためにトップリング22,44の合口を狭めても効果を発揮する。より一層オイル消費量の低減、ブローバイガスが図れる。また、上記の各実施形態では、二本構成のリングのピストンについて説明したが、本発明は、二本リング構成に限られず、二本の圧力リングと一本のオイルリングとからなる三本リング構成にも適用することができる。三本リング構成に適用した場合も、上記二本構成のリングのピストンと略同様な作用効果を奏する。
【0024】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、トップリングにストレート合口を用い、トップランド溝下のランドに、トップリング溝近くで径方向に寸法大にして下方にいくに従いその寸法を小にする断面略くさび状の環状溝を形成したので、ランドにオイルを貯蔵する体積を確保することができる。ストレート合口は高圧側の燃焼ガスを低圧側に積極的に逃がすので、ストレートト合口を通過すると共にくさび状の傾斜した壁に沿った燃焼ガスの流れによって、ランドに貯蔵されたオイルが下方に降り、オイルパンに戻る。また、ランドに体積を持たせることによってトップリングの挙動も良くすることができる。この結果、オイル消費量低減、ブローバイガスの低減を両立できるピストンが得られる。さらに、トップリングにストレート合口を用いることで、トップリングの厚さを薄くすることができる。二本リング構成で最も重大な課題である従来技術のダブルラップジョイントでは、これ以上の薄幅化は切片部の折損強度の低下から不可能であるが、本発明の如くストレート合口を用いることで更なる薄幅化が可能となった。それに伴いトップリング自身の重量を軽くすることができ、トップリングとピストンとの凝着や、軽負荷高回転時のフラッタリングによるブローバイガスの急増も防止できる。
【出願人】 【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
【出願日】 平成12年1月28日(2000.1.28)
【代理人】 【識別番号】100083839
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 泰男
【公開番号】 特開2001−214805(P2001−214805A)
【公開日】 平成13年8月10日(2001.8.10)
【出願番号】 特願2000−24710(P2000−24710)