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【発明の名称】 トルクヒンジ構造体及び携帯用事務機器
【発明者】 【氏名】釆女 正人

【氏名】林田 高章

【要約】 【課題】安定した摩擦力を長期に亙って維持する。

【解決手段】軸部材10の径大部11の面粗度を、表面加工によって軸方向は0.15〜0.30μmに、周方向は0.05〜0.20μmの範囲に仕上げ、真円度をP−P<2.5μm、最大深さV<1.0μmにする。樹脂材料(PC、PAR、PPS等)を用いて、軸回動支持部材20を、軸部材10に対して一体成形で組付ける。樹脂材料の成形収縮の締め代による発生応力により、樹脂製の軸回動支持部材20が軸部材10に密着する。軸部材10の周方向の面粗度が小さく、真円度がよく、特に、最大深さが小さいため、磨耗が少なく長期間に亘って安定した摩擦力を維持できる。軸方向の面粗度が周方向の面粗度より0.1〜0.2μm大きいため、必要な摩擦力を設定でき、回動の初動時にひっかかりが小さく、スティックスリップも生じない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 回動中心となる回転軸を有する軸部材と、該軸部材を前記回転軸で相対的に回動角自在に支持する軸回動支持部材とからなり、前記軸回動支持部材が前記軸部材の前記回転軸周で相対的に回動自在に設けられ、前記回転軸を内包し、該回転軸の外側に一体成形された樹脂製部材によって前記軸回動支持部材を構成し、前記樹脂製部材の成形収縮に基づく締め代による発生面圧を利用し、前記軸部材と前記軸回動支持部材との間で面摩擦抵抗を発生するようにしたトルクヒンジ構造体において、JISB7451に規定された測定方法によって計測し、JISB0621に規定された真円度の定義に従った表現方法で表示するところの、前記回転軸の外周における基準中心円に対する遠心側最大変位位置と内側最大変位位置との差によって決まる値P−Pが、P−P<2.5μm、且つ、前記回転軸の外周における真円に対する前記内側最大変位位置の深さの値Vが、V<1μmとなるように真円度を設定したことを特徴とするトルクヒンジ構造体。
【請求項2】 回動中心となる回転軸を有する軸部材と、該軸部材を前記回転軸で相対的に回動角自在に支持する軸回動支持部材とからなり、前記軸回動支持部材が前記軸部材の前記回転軸周で相対的に回動自在に設けられ、前記回転軸を内包し、該回転軸の外側に一体成形された樹脂製部材によって前記軸回動支持部材を構成し、前記樹脂製部材の成形収縮に基づく締め代による発生面圧を利用し、前記軸部材と前記軸回動支持部材との間で面摩擦抵抗を発生するようにしたトルクヒンジ構造体において、前記回転軸の外周面における周方向の面粗度をJISB0651に示す測定方法によって計測し、JISB0601に規定する定義に従った表示方法で示すところのRaとし、このRaを0.05〜0.20μmの範囲に設定したことを特徴とするトルクヒンジ構造体。
【請求項3】 前記回転軸の外周面における周方向の面粗度Raを0.05〜0.20μmの範囲に設定したことを特徴とする請求項1記載のトルクヒンジ構造体。
【請求項4】 前記回転軸の外周面における軸方向の面粗度Raを0.15〜0.30μmの範囲に設定したことを特徴とする請求項1記載のトルクヒンジ構造体。
【請求項5】 前記回転軸の外周面における軸方向の面粗度Raを0.15〜0.30μmの範囲に設定したことを特徴とする請求項2又は3に記載のトルクヒンジ構造体。
【請求項6】 請求項1から5のいずれかに記載のトルクヒンジ構造体を、ディスプレイを回動可能に支持するために用いたことを特徴とする携帯用事務機器。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、ラップトップ型のノートパソコンなどの携帯用事務機器の開閉蓋やディスプレイを揺動支持するために用いられるヒンジを始め、その他、任意の開閉角度での途中停止を含む各種の蓋部材を開閉させるのに適したトルクヒンジ構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、蓋部材等を任意の角度まで回転させて停止、固定するためのトルクヒンジにおける回転トルク抑制のための摩擦構造としては、金属製の回転軸を内包するように樹脂のモールド一体成形によって回動自在に支持するものがある。こうしたものは、金属製の回転軸と樹脂とが面摩擦抵抗を持ちつつ相対回転自在とされることにより、回転軸が任意の角度に回転及び固定自在とされる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このような構造のトルクヒンジにおいては、回転軸とこれを内包する樹脂との界面の接触状況の関係が適切でないと、回転トルクのばらつきが大きく、また、回転中にスティックスリップが発生し異音が出たり、あるいは耐久性が低く摩耗によりトルクが保持できなくなるといった問題があった。こうした問題を解決するために、従来より、回転軸の面粗度など表面加工に関する研究が行われているが、それらは、いずれも、金属製の回転軸の軸方向の面粗度に関する考察のみであり、回転軸の周方向に関しては、ほとんど研究が行われていなかった。これは、回転軸等の回転体の製造では、切削、研磨などが回転加工によって日常的に行われているため、回転軸の真円度及びその周方向の面粗度に関する考察がほとんど行われていなかったものと見られる。本願発明者は、金属製の回転軸とそれを内包する樹脂との関係について、研究を重ねた結果、トルクを長期間に亙って維持でき、トルクヒンジの耐久性を向上させるためには、これまで考察対象外であった回転軸の真円度及び回転軸の周方向と軸方向の面粗度の両者の値に適正な関係があることを見い出した。
【0004】本発明は、蓋部材等を開閉した場合に、任意の角度で容易に固定させることができる安定した摩擦力を長期に亙って維持するトルクヒンジ構造体を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、請求項1では、回動中心となる回転軸を有する軸部材と、該軸部材を前記回転軸で相対的に回動角自在に支持する軸回動支持部材とからなり、前記軸回動支持部材が前記軸部材の前記回転軸周で相対的に回動自在に設けられ、前記回転軸を内包し、該回転軸の外側に一体成形された樹脂製部材によって前記軸回動支持部材を構成し、前記樹脂製部材の成形収縮に基づく締め代による発生面圧を利用し、前記軸部材と前記軸回動支持部材との間で面摩擦抵抗を発生するようにしたトルクヒンジ構造体において、JISB7451に規定された測定方法によって計測し、JISB0621に規定された真円度の定義に従った表現方法で表示するところの、前記回転軸の外周における基準中心円に対する遠心側最大変位位置と内側最大変位位置との差によって決まる値P−Pが、P−P<2.5μm、且つ、前記回転軸の外周における真円に対する前記内側最大変位位置の深さの値Vが、V<1μmとなるように真円度を設定したことを特徴とする。
【0006】請求項2では、回動中心となる回転軸を有する軸部材と、該軸部材を前記回転軸で相対的に回動角自在に支持する軸回動支持部材とからなり、前記軸回動支持部材が前記軸部材の前記回転軸周で相対的に回動自在に設けられ、前記回転軸を内包し、該回転軸の外側に一体成形された樹脂製部材によって前記軸回動支持部材を構成し、前記樹脂製部材の成形収縮に基づく締め代による発生面圧を利用し、前記軸部材と前記軸回動支持部材との間で面摩擦抵抗を発生するようにしたトルクヒンジ構造体において、前記回転軸の外周面における周方向の面粗度をJISB0651に示す測定方法によって計測し、JISB0601に規定する定義に従った表示方法で示すところのRaとし、このRaを0.05〜0.20μmの範囲に設定したことを特徴とする。請求項3は、請求項1において、前記回転軸の外周面における周方向の面粗度Raを、0.05〜0.20μmの範囲に設定したことを特徴とする。
【0007】請求項4は、請求項1において、前記回転軸の外周面における軸方向の面粗度Raを0.15〜0.30μmの範囲に設定したことを特徴とする。請求項5は、請求項2又は3において、前記回転軸の外周面における軸方向の面粗度Raを0.15〜0.30μmの範囲に設定したことを特徴とする。請求項6の携帯用事務機器は、請求項1から5のいずれかに記載のトルクヒンジ構造体を、ディスプレイを回動可能に支持するために用いたことを特徴とする。
【0008】
【発明の作用・効果】本発明では、回転軸を内包する軸回動支持部材は、樹脂製部材によって回転軸の外側に一体成形されて構成される。一体成形の処理は、予め配置された軸部材が高温の金型内に樹脂性部材を押し込むモールド一体成形などして行われる。従って、一体成形後、軸部材及び樹脂製部材の温度が低下すると、樹脂製部材は収縮して締め代による応力が発生して軸部材に対して密着する。成形収縮の締め代により軸部材に密着した軸回動支持部材は、軸部材の回転力に対して密着面で摩擦力を発生し、軸部材が軸回動支持部材との摩擦力に対して大きな力で外部より回転トルクを受けた場合には、軸部材が軸回動支持部材に対して、相対的に回転し、摩擦力より小さな回転トルクに対しては回転せず、摩擦力によって任意の回動角度を維持する。このように、本発明では、軸部材と軸回動支持部材とが、一体成形によって組み付けられるため、安価に製造できる。
【0009】回転軸の外周表面は、引き抜き加工や切削加工などによって、円筒形状に仕上げられるが、本願発明者の研究、考察により、その際、真円に対して内側最大変位位置の深さの値V、すなわち、真円に対する窪みが1μm以上であったり、回転軸の外周における基準中心円に対する遠心側最大変位位置と内側最大変位位置との差によって決まる真円度「P−P」が2.5μm以上であると、トルク保持率が急激に低下し耐久性が損なわれることが分かった。請求項1では、回転軸の外周に関して、V<1μm、P−P<2.5μmと、真円度が高くなるように成形されることが要求されているため、品質管理において、この条件が維持できるように仕上げることによって、耐久性に優れたトルクヒンジ構造体を提供することができる。
【0010】回転軸の周方向の面粗度Raは、上述の請求項1のように、真円度が高くなるほど小さくなるが、回転軸の表面の仕上がり面に周方向の凹凸が全くないと、一体成形される樹脂との密着性が強くなり、樹脂との当接面で凝着が生じる恐れがある。そこで、請求項2、3では、回転軸の周方向の面粗度Raを0.05〜0.20μmとなるように表面加工を行うようにする。これにより、回転軸の周面の滑らかさを確保しつつ、樹脂との凝着を防止できるため、回転軸の周面と樹脂との当接面に適度の潤滑性を確保でき、回動時に異音などが発生することがない。
【0011】請求項4、5では、回転軸の軸方向の面粗度Raを0.15〜0.30μmに設定して、軸部材の周方向の面粗度Raより大きくして、差を与えているため、必要な摩擦力を容易に設定することができ、回動中にスティックスリップによる異音の発生を防止できるとともに、回動による摩耗を抑制することができるため、長期間に亙って、任意の回動角度で軸部材を停止維持させることができる。尚、周方向の面粗度を軸方向の面粗度に対して小さくすることは、軸部材の外周面の表面加工の各種研磨加工において、実現可能である。請求項6では、携帯用事務機器において、摩耗が少なく安定したトルクの保持ができるため、蓋等に搭載されるディスプレイを長期間に亙って任意の回動角度に支持することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明のトルクヒンジ構造体1を、図に基づいて以下に説明する。図1に示すトルクヒンジ構造体1は、携帯用事務機器としてのノート型パソコンなどにおいて、液晶ディスプレイが搭載された蓋の開閉用に用いられるもので、液晶ディスプレイの表示角度を調節するために、蓋を任意の開閉角度で固定するためのものである。トルクヒンジ構造体1は、パソコンの蓋部材に取り付けられて、蓋部材とともに一体回動する軸部材10と、蓋部材を開閉させるために軸部材10をパソコンの本体側で回動自在に支持する軸回動支持部材20とからなる。この場合、軸部材10の軸回動支持部材20に対する回動変位は相対的であるので、軸回動支持部材20が軸部材10に対して回動可能に支持されるように構成することも可能である。
【0013】軸部材10は、図2に示すとおり、SUS材(ステンレス)、鋼等の金属製の円柱形状の棒素材の中間部を径大部11(例えば、直径5mm)として、その両端側を径大部11より小径の径小部12、13(例えば、直径4mm)として成形し、さらに、一方の径小部13の先端に、蓋部材と嵌合するためのほぞ部14を形成したものである。
【0014】軸回動支持部材20は、図3に示すように、軸部材10の径大部11の外側に覆い被さるようにして密着して形成された樹脂製部材で、軸部材10を予め金型内に配置しておき、樹脂材料を射出成形することによって軸部材10とともにモールド一体成形して形成されたものである。尚、ここでは、金型温度を165℃前後に設定して、モールド一体成形を行っている。
【0015】このトルクヒンジ構造体1は、上述のとおり、蓋部材をパソコン本体に対して任意の角度に設定する必要があるため、軸回動支持部材20と軸部材10とに加わる相対的なトルクが所定トルク以下の場合には、その相対角度を維持し、所定トルク以上の場合には、円滑な回動を確保する必要がある。具体的には、1〜20kgf・cm程度の安定した摩擦トルクを必要とし、耐久回数は、5万回程度が要求され、この耐久回数使用時に、トルク保持率は初期トルクの80%以上であることが条件となる。尚、トルク保持率は、以下の式で定義される。
トルク保持率(%)=(熱劣化および耐久後トルク/初期トルク)×100【0016】上記条件を満足するための軸部材10の径大部11の軸方向の面粗度(表面粗さ)Raを見つけるべく、面粗度Raを変えて試験を行った結果を、図4に示す。図4に示したとおり、所望の耐久回数使用時にトルク保持率が80%以上であるためには、面粗度Raが0.02〜0.08μmでは細かすぎて満足できないが、0.15〜0.30μmでは満足できる。また、面粗度Raが細かいと、トルクのばらつき自体が多くなるとともに、操作中(回転中)にスティックスリップが発生し、きしみ音のような異音が発生するという問題も明らかとなった。この場合、面粗度RaはJISB0651に示す測定方法によって計測し、JISB0601に規定する定義に従った表示方法で示した。
【0017】また、面粗度Raが図4に示すように0.35μm以上になると、回動初動時のひっかかりが大きく、またスティックスリップが大きいとともに、耐久回数1000回程度で樹脂製部材である軸回動支持部材20の摩耗が大きくなり、収縮により発生した締め代による発生応力を保持できなくなり、トルク保持率が著しく低下する。上記の試験結果から、軸回動支持部材20によって回動支持される軸部材10の径大部11の軸方向の面粗度Raは、0.15〜0.30μmが適していることが明らかとなった。
【0018】軸回動支持部材20としてPAR(ポリアリレート)樹脂を使用し、軸部材10の径大部11を直径5mm、径小部12を直径4mmとした場合の回動角度とトルクについて、軸部材10の径大部11の表面の軸方向の面粗度Raを0.18μmに仕上げた本実施例の場合を図5に示し、比較のため、図6には面粗度Raを本発明より大きい0.75μmに仕上げた場合について、図7には面粗度Raを本発明より小さい0.02μm、0.04μmに仕上げた場合についてそれぞれ示す。
【0019】比較例のように軸方向の面粗度Raが0.75μmの場合には、図6のXで示すとおり、初動時のひっかかりが大きく、また、Yで示すとおり、スティックスリップが大きいのに対し、本発明のように面粗度Raが0.18μmの場合には、図5に示すとおりこれらをほとんど認識できない程度に小さくなっていることが分かる。反対に、比較例のように面粗度Raを0.02、0.04μmにした場合は、図7のZに示すとおり、回動時のスティックスリップが大きくなっていることが分かる。
【0020】表1に、軸方向の面粗度Raに対する回転に必要なトルク、スティックスリップ、初動時のひっかかりの値を整理して示す。
【表1】

【0021】以上は、軸部材10の径大部11の軸方向の面粗度Raとトルク保持率とに関する研究、考察であるが、さらに、本願発明者は軸部材10の径大部11の真円度及び周方向の面粗度Raに注目して、トルク保持率を長期間に亙って維持するための研究、考察を行った結果、以下に示すような事実が明らかになった。
【0022】真円度とトルク保持率との関連を考察するに当たって、本願発明者は、軸部材10の径大部11の外周における真円S(例えば、目標軸径を有する真円)に対する内側最大変位位置、すなわち、真円Sに対する最大深さ(へこみ)Vと、基準中心円としての真円Sに対する遠心側最大変位位置値、すなわち、真円Sに対する最大高さPに注目した。研究、考察を行った結果、トルク保持率が長期間に亙って維持されるためには、最大深さVを、V<1μm、最大高さPと最大深さVとの差として表される真円度「P−P」を、P−P<2.5μmとすることで、長期間に亙って安定したトルク保持率が確保されることを見い出した。
【0023】図8では、上記の研究結果を導き出すために用いた真円度の計測方法の模試図を(a)に、外周における真円に対する最大高さP及び最大深さVとの関係を(b)にそれぞれ示す。なお、測定にあたっては、JISB7451に規定された測定方法によって計測し、JISB0621に規定された真円度の定義に従った表現方法で表示した。表2に、本発明を導き出すために用いた試料における各測定値を示す。表2において、ヒンジ型Noは成形用金型の番号を示し、試料Noは各金型における試料番号を示すもので、3種類の金型について、計9種類の試料を成形したことを示している。
【表2】

【0024】図9に上記測定による各測定値とトルク保持率との関係を示す。図9(a)では、最大高さPと最大深さVとの差として表される真円度「P−P」とトルク保持率との関係を示す。図9(a)で明らかなように、用いた金型に関係なく、真円度「P−P」とトルク保持率との間には、真円度「P−P」の値が小さい場合には、トルク保持率の値が小さく、真円度「P−P」の値が大きいほど、トルク保持率が大きくなることが分かる。この結果から、最大高さPから最大深さVまでの差が小さく真円度が優れたものほど、トルク保持率が小さくできることが分かる。
【0025】図9(b)では、最大高さPとトルク保持率との関係を示す。図9(b)で示されるとおり、最大高さPの値とトルク保持率とには、相関は見られず、最大高さPを抑えるだけでは、トルク保持率を向上させることができないことが分かる。これは、軸部材10における最大高さPは、各加工工程においてチッピングとして生じたものであり、周方向の極く限られた部分のみに存在するもので、面摩擦抵抗に対して継続的に影響を及ぼすことがないためであると考えられる。
【0026】図9(c)では、最大深さVとトルク保持率との関係を示す。図9(c)で示されるとおり、最大深さVの値とトルク保持率とには、上記の(a)に示した真円度「P−P」とトルク保持率との相関よりも、更に明確な相関が見られ、外周における最大深さVとしてのくぼみの大きさが、トルク保持率に対して最も大きな影響を与えることが分かる。特に、最大深さVが1μm以下である場合には、トルク保持率は著しく小さくなり、最大深さVを1μm以下にすることで優れた耐久性が確保されることが分かる。これは、軸部材10の外周面におけるくぼみは、軸方向及び周方向にある程度の長さを有して存在するため、欠落容積が大きいからであると考えられる。
【0027】表3に、上記真円度「P−P」、最大深さVを、軸部材10の径大部11の軸方向及び周方向の面粗度Raと合わせて、トルク保持率への影響を調べた結果を示す。
【0028】
【表3】

表3から明らかなとおり、周方向の面粗度Raが0.17μm以下のものであっても、最大深さVが1μm以上であると、トルク保持率が急激に低下することが分かる(試料No1,2,4,5,9,10,13)。また、試料No7のものは、最大深さVが1μm以下であるが、周方向の面粗度Raが0.05μm以下の小さい値であるため、軸回動支持部材20の樹脂と凝着しやすく、軸部材10の回動時に異音が発生するため適さない。
【0029】次に、以上の真円度及び面粗度Raを確保するための、軸部材10の表面加工方法について説明する。各種の加工法の違いによる軸部材10の仕上がり仕様を、軸方向と周方向の各面粗度Raについて、図10及び図11に示す。ここでは、図10(a)にフィルム研磨、図10(b)にバレル研磨、図10(c)に化学研磨、図11(a)に化学研磨、図11(b)に転写転造、図11(c)に転造のみをそれぞれ示す。図10、図11に示すとおり、表面加工を施すことで、いずれの加工方法を用いた場合でも、軸方向の面粗度Raに対して周方向の面粗度Raを0.1〜0.2μm程度小さくすることができる。
【0030】特に、図10(a)に示したフィルム加工と、図11(b)に示した転写転造では、周方向の面粗度Raを軸方向の面粗度Raに対して明らかな差を生じさせることができ、このように、周方向の面粗度Raを0.05〜0.20μmに小さく仕上げることで、トルク保持率を小さくでき、長期間に亙る安定したトルク保持率を確保することができるとともに、同時に、軸方向の面粗度Raを周方向の面粗度Raより0.1〜0.2μm程度大きくすることによって、安定したトルクを確実に発生させることができる。
【0031】次に、上記の表面加工を含め、軸部材10の成形加工について簡単に説明する。加工方法としては、塑性加工と切削加工とがある。
[1]塑性加工塑性加工を行う場合には、冷間鍛造、温間鍛造、熱間鍛造、鋳造法などの加工時に、真円度「P−P」が、P−P<6〜7μmとなるように引き抜き加工工程を行い、その後、2段以上の円筒研削及びセンタレス研磨を施す。切削、研磨では、1段目に加工時のP−Pの2〜3倍を研磨する荒研削を施し、2、3段目には、真円度「P−P」、最大深さVを、P−P<2.5μm、V<1μmに仕上げるための上記各仕上げ研磨工程を施す。
【0032】[2]切削加工切削加工を行う場合には、切削加工により真円度「P−P」をP−P<3〜4μmを確保し、その後、センタレス研磨、円筒研削、フィルム研削などの表面加工によって真円度「P−P」を2.5μmに仕上げる。
【0033】上記のように表面加工を施された軸部材10を回転摺動させる軸回動支持部材20に用いられる樹脂材料としては、軸部材10に対して安定した摩擦力を確保するために、トルクヒンジ構造体1を使用温度範囲(例えば、−20〜80℃)における曲げ弾性率(GPa)の変化の割合が小さい樹脂を用いている。これは、種々の樹脂について、トルク保持率と曲げ弾性率保持率との関係を調べたところ、図12に示すとおり、トルク保持率が80%以上となる樹脂材料では、曲げ弾性率保持率が80%以上であることに基づくもので、曲げ弾性率保持率が高い(使用温度範囲内における曲げ弾性率の変化の割合が小さい)樹脂材料を用いることで、高いトルク保持率を実現できるからである。
【0034】図13、図14に、周囲の環境温度と樹脂製部材の曲げ弾性率との関係を示す。図13に示すPAR(ポリアリレート)では、実際に機器等が使用される周辺の環境温度範囲内では、曲げ弾性率が大きく変化しないため、軸回動支持部材20として適しているが、図14に示すような一般の結晶性樹脂では、使用温度範囲内で温度によって曲げ弾性率が大きく変化する。このため、こうした一般の結晶性樹脂では、使用温度が変化した場合に軸部材10に対して適切な摩擦力を与えることができず、軸回動支持部材20には適していないことが分かる。
【0035】以上の観点から、軸回動支持部材20として用いるのに適した樹脂材料の具体例としては、PAR(ポリアリレート)、PC(ポリカーボネイト)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PES(ポリエーテルサルホン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などが挙げられる。
【0036】次に第2実施例について説明する。第2実施例では、軸回動支持部材20に用いられる樹脂材料として、上述のPAR(ポリアリレート)、PC(ポリカーボネイト)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PES(ポリエーテルサルホン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などの単一材料ではなく、これらにフッ素系樹脂、オレフィン系樹脂等の有機系の摺動剤を10wt%以内で添加して用いる。また、カーボン、カーボン繊維、二硫化モリブデン、チタン酸カリウムなどの無機系摺動剤を10wt%以内で添加してもよい。樹脂材料にPTFEを3wt%添加した場合を図15に、添加しない場合を図16にそれぞれ示す。添加した場合には、初動時に滑らかに回動を開始することが分かる。また、これによって、軸部材10と軸回動支持部材20との摩擦に伴って発生する摩擦粉を著しく低減させることができる。図17に、これらの摺動剤を添加した場合の耐久性について、添加しないものと比較して示す。図から明らかなとおり、摺動剤を添加した場合には、トルク保持率の低下の度合いが著しく小さくなっており、長寿命のヒンジとすることができる。
【0037】次に、第3実施例について説明する。第3実施例では、軸回動支持部材20の強度を向上させるために、ミネラル、カーボン繊維、ガラス繊維などを40wt%以内で添加する。
【0038】以上のとおり、本発明では、軸部材10の軸方向の面粗度Raを、0.15〜0.30μmに仕上げているため、スティックスリップの発生や初動時のひっかかりがなく、安定した摩擦力を維持することができる。また、軸部材10の周方向の面粗度Raを軸方向の面粗度Raより0.1〜0.2μm程度小さくして0.05〜0.20μmに仕上げ、且つ、真円度「P−P」及び最大深さVをそれぞれ2.5μm、1μm以下に設定して、表面加工を行っているため、トルク保持率を小さくすることができ、長期間に亙って、安定したトルクを確保することができる。従って、蓋部材等の開閉において、蓋部材を容易に任意の開閉角度で固定することができる。また、軸回動支持部材20を軸部材10とモールド一体成形によって組付けているため、製造コストの低減を図ることができる。また、軸回動支持部材20として成形される樹脂材料として、使用温度範囲における曲げ弾性変化率が小さい材料を用いているため、種々の使用環境においても、安定した摩擦力を維持することができるため、蓋部材等を備えた機器の使い勝手をよくすることができる。
【0039】上記実施例では、面粗度Raを設定するために、表面加工を施した例を示したが、軸部材の加工時に表面加工ができる工程(一例、転造加工)を設け、軸部材の軸方向の面粗度Ra、及び周方向の面粗度Raを0.15〜0.30μm及び0.5〜0.20μmに直接仕上げてもよい。上記実施例では、軸部材の表面処理を行わないものを示したが、防錆及び耐久性向上のための表面処理として、膜厚5〜15μmのNi−Pメッキ、或いは硬質Crメッキなどを施した後に、各研磨による表面加工を施してもよい。上記実施例では、ノート型パソコンなどの蓋部材を例に挙げたが、開閉される蓋状の部材であれば、複写機の蓋、便器の蓋等他のものでもよい。
【出願人】 【識別番号】000210986
【氏名又は名称】中央発條株式会社
【出願日】 平成11年12月24日(1999.12.24)
【代理人】 【識別番号】100080045
【弁理士】
【氏名又は名称】石黒 健二
【公開番号】 特開2001−182420(P2001−182420A)
【公開日】 平成13年7月6日(2001.7.6)
【出願番号】 特願平11−368026