トップ :: E 固定構造物 :: E04 建築物




【発明の名称】 柱梁接合部
【発明者】 【氏名】北岡 聡

【氏名】金子 悦三

【要約】 【課題】接合部の構造が大幅に簡略化でき、施工性、経済性にも優れた柱梁接合部を提供する。

【解決手段】鉄骨造または鉄骨鉄筋コンクリート造の柱を構成するH形鋼の強軸方向に鉄骨梁2を溶接してなる柱梁接合部について、ウェブの板厚t1 とフランジの板厚t2 の関係が、1.1≦(t1 /t2 )≦2.0であるH形鋼を用いる。また、このH形鋼からなる柱鉄骨1と鉄骨梁2の交差域である接合部パネルについて、スチフナーやダブラープレート等の補強材は設けない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 鉄骨造または鉄骨鉄筋コンクリート造の柱を構成するH形鋼の強軸方向に鉄骨梁を溶接してなる柱梁接合部であって、柱を構成する前記H形鋼としてウェブの板厚t1 とフランジの板厚t2 の関係が、1.1≦(t1 /t2 )≦2.0であるH形鋼を用い、かつ、スチフナーやダブラープレート等の補強材がないことを特徴とする柱梁接合部。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本願発明は、鉄骨造(S造)や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の柱梁接合部の構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】鉄骨造または鉄骨鉄筋コンクリート造の柱を構成する柱鋼材としてH形鋼を用いる場合において、広く一般的に用いられている柱鉄骨と鉄骨梁の接合構造を、図3(鉄骨造の場合)および図4(鉄骨鉄筋コンクリート造の場合)に例示する。
【0003】従来、鉄骨造または鉄骨鉄筋コンクリート造の柱を構成する柱鋼材としてH形鋼を用いる場合、柱鉄骨1の強軸方向に鉄骨梁2を溶接してなる柱梁接合部では、鉄骨梁2のフランジ2aから作用する応力に対して、柱鉄骨1のウェブ1bの局部耐力が不足することから、鉄骨梁2から柱鉄骨1への応力伝達が十分に行われるように、鉄骨梁2のフランジ2aが接合される位置に、水平スチフナー13を設けている。
【0004】さらに、接合部パネルの早期降伏を許容しない設計とした場合には、鉄骨梁2から作用する曲げ応力に対して、接合部パネルのせん断耐力が不足することから、接合部パネル(柱鉄骨1と鉄骨梁2との交差域)にダブラープレート14や斜めスチフナー15等の補強材を設けている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】鉄骨造や鉄骨鉄筋コンクリート構造の柱を構成する柱鋼材としてH形鋼を用いる場合、柱梁接合部は、上述のように、補強材の加工、溶接施工に多くの手間を要し、製作コストが高くなる他、構造的にも複雑となり、合理的な設計が難しくなる。
【0006】また、上記補強材の溶接施工は、溶接欠陥や熱影響による母材の劣化といった柱梁接合部の耐力および変形性能に深刻な影響を与える欠陥を発生させる可能性が高い。このようなことから、スチフナーやダブラープレート等の補強材がない柱梁接合部が望まれている。
【0007】本願発明は上述のような従来技術における課題の解決を図ったものであり、接合部の構造が大幅に簡略化でき、施工性、経済性にも優れた柱梁接合部を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】本願の請求項1に係る発明は、鉄骨造または鉄骨鉄筋コンクリート造の柱を構成するH形鋼の強軸方向に鉄骨梁を溶接してなる柱梁接合部であって、柱を構成する前記H形鋼として、ウェブの板厚t1 とフランジの板厚t2 の関係が、1.1≦(t1 /t2 )≦2.0であるH形鋼を用い、柱梁接合部にスチフナーやダブラープレート等の補強材がないことを特徴とするものである。
【0009】すなわち、接合部パネルについて、鉄骨梁の梁フランジが接合される位置の水平スチフナーや、接合パネル内のダブラープレートや斜めスチフナー等の補強材は設けないものとする。ここで、柱を構成するH形鋼の強軸方向に鉄骨梁を溶接というのは、鉄骨梁の接合に用いられる従来の接合構造を適用できることを意味しており、フランジとウェブをともに溶接接合する場合(工場溶接の場合は、通常、フランジを突合せ溶接し、ウェブを隅肉溶接する)や、フランジを溶接接合し、ウェブを接合金物を利用して接合する場合等も含まれる。
【0010】本発明において、柱に用いるH形鋼を、ウェブの板厚t1 とフランジの板厚t2 の関係が、1.1≦(t1 /t2 )≦2.0にあるH形鋼に限定した理由を以下に示す。表1〜3は、現在、一般に広く使用されている圧延H形鋼の形状、およびそのウェブの板厚t1 とフランジの板厚t2 の関係を示したものである。
【0011】
【表1】

【0012】
【表2】

【0013】
【表3】

表1の細幅系列や表2の中幅系列は、主に曲げ応力を受ける梁等に用いられており、ウェブの板厚t1 とフランジの板厚t2 の比t1 /t2 は、0.54〜0.72となっている。これは、フランジを厚くし、ウェブを薄くすることで、曲げ剛性および曲げ耐力の対重量率が良くなることに起因している。
【0014】表3の広幅系列は、主に柱やブレース等に用いられており、ウェブの板厚t1とフランジの板厚t2 の比t1 /t2 が、0.61〜0.70にあるものと、ウェブとフランジが同厚のものとの2通りの形状がある。特に、ウェブとフランジが同厚のものは、材軸方向に大きな圧縮力を受ける部材に適した断面となっている。
【0015】いずれの場合においても、現状の圧延H形鋼では、ウェブの板厚がフランジの板厚以下となっている。本発明は、柱を構成するH形鋼の強軸方向に鉄骨梁を溶接してなる柱梁接合部について、構造の単純化の面からその見直しを行い、柱に用いるH形鋼のウェブを厚くすることで、水平スチフナーおよびダブラープレートや斜めスチフナー等の接合部パネルの補強材を用いずに柱梁接合部を構築することを目的としたものであり、このためには、柱鉄骨のウェブの板厚t1 をどの程度とすれば良いかが問題となる。
【0016】そこで、鉄骨造建物の実施設計において、柱鋼材として一般に広く採用されている圧延H形鋼の全般を対象としてケーススタディーを行った。具体的には、表1に示す柱鉄骨(F値3.3tf/cm2 =324N/mm2 )と鉄骨梁(F値2.4tf/cm2 =235N/mm2 )の組合せについて、水平スチフナーを省略し、かつ、接合部パネルのダブラープレートや斜めスチフナー等の補強材を省略するために、柱鉄骨のウェブに必要となる厚みTを算定しており、その結果を表4に示す。
【0017】
【表4】

表4から明らかなように、柱鉄骨のウェブに必要となる厚みTは、いずれも柱鉄骨のウェブの実際の板厚t1 を大きく上回っており、柱鉄骨として前記従来の圧延H形鋼を用いて、柱梁接合部を無補強とした場合には、梁が十分な耐力を発揮する以前に、柱梁接合部の局部降伏もしくは接合部パネルのせん断降伏が起こり、地震時に梁から柱鉄骨への応力伝達が十分行われない。
【0018】また、図5は、柱鉄骨に用いるH形鋼のフランジの幅厚比B/t1 と、柱梁接合部において梁降伏が保証されるのに必要な柱鉄骨のウェブの必要厚みTとフランジの板厚t2 との比T/t2 との関係を示すグラフであるが、図5から明らかなように、梁のフランジが十分な耐力を発揮するために柱鉄骨のウェブに必要となる厚みTは、圧延H形鋼の形状寸法によらず、フランジの板厚t2 との関係が概ね1.0≦T/t2 ≦2.0の範囲にある。
【0019】上記解析は、鉄骨造の柱と梁からなる架構の柱梁接合部について行ったものであるが、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱と梁からなる架構の柱梁接合部についても、柱梁接合部における柱鉄骨と鉄骨梁間の応力伝達性能の観点から、その柱鉄骨と鉄骨梁の接合部分に対し、鉄骨造の柱と梁からなる架構の柱梁接合部と同等の性能が要求される。
【0020】上記解析の結果を踏まえ、かつ、架構を構成する鋼材の形状寸法や実降伏点のばらつきを考慮すれば、特に、柱鉄骨として用いるH形鋼のウェブの板厚t1 とフランジの板厚t2 の比は、1.1以上とすべきであると考えられる。一方で、柱鉄骨として用いるH形鋼のウェブの板厚t1 とフランジの板厚t2の比が2.0以上となると、H形鋼自体の重量が大きくなりすぎることから、接合パネルに補強材がないことを特徴とする本発明の柱梁接合部に用いる柱鉄骨としては不適当となる。
【0021】
【発明の実施の形態】図1は、本願発明の一実施形態を示したものであり、工場等に広く採用されている一方向をブレース構造とし、他方向をラーメン構造とした鉄骨構造建物における柱梁接合部を示している。
【0022】図中の符号1は、H形鋼からなる柱鉄骨を示し、この柱鉄骨1として、ウェブの板厚t1 とフランジの板厚t2 の関係が、1.1≦(t1 /t2 )≦2.0にあるH形鋼を用いている。この柱鉄骨1のフランジ1aに対して、H形鋼からなる鉄骨梁2のフランジ2aおよびウェブ2bを溶接接合することにより、柱鉄骨1と鉄骨梁2の接合構造を剛接合とし、柱鉄骨1の強軸方向に、柱鉄骨1と鉄骨梁2からなるラーメン架構が構成される。
【0023】一方、柱鉄骨1の弱軸方向には、ブレース材を配することから、柱鉄骨1のウェブ1bにガセットプレート7を溶接接合し、このガセットプレート7に対して、H形鋼からなる鉄骨梁3のウェブ3bの部分だけをボルト16を用いて結合することにより、柱鉄骨1と鉄骨梁3の接合構造をピン接合としている。
【0024】上記柱鉄骨1と鉄骨梁2の接合構造においては、柱鉄骨1のウェブ1bの板厚t1 が十分に大きいことから、柱鉄骨1と梁フランジ2bの接合位置には、水平スチフナー等の補強材がない。また、柱鉄骨1のウェブ1bの板厚t1 が十分に大きいことから、接合部パネル(柱鉄骨1と鉄骨梁2との交差域)には、ダブラープレート、斜めスチフナー等の補強材がない。
【0025】図2は、本願発明の他の実施形態を例示するものであり、マンション等に広く採用されている、一方向に鉄筋コンクリート造の耐震壁を配し、他方向をラーメン構造とした鉄骨鉄筋コンクリート構造建物における柱梁接合部を示している。図中、符号4は、鉄骨鉄筋コンクリート柱を示す。この鉄骨鉄筋コンクリート柱4の柱鉄骨1として、ウェブの板厚t1 とフランジの板厚t2 の関係が、1.1≦(t1 /t2 )≦2.0にあるH形鋼を用いている。
【0026】この柱鉄骨1のフランジ1aに対して、H形鋼からなる鉄骨梁2のフランジ2aおよびウェブ2bを溶接接合することによって、柱鉄骨1と鉄骨梁2の接合構造を剛接合としている。一方、柱鉄骨1の弱軸方向には、鉄筋コンクリート造の耐震壁を配することから、柱鉄骨1のウェブ1bにガセットプレート7を溶接接合し、このガセットプレート7に対して、H形鋼からなる鉄骨梁3のウェブ3b部分だけをボルト16を用いて結合することにより、柱鉄骨1と鉄骨梁3の接合構造をピン接合としている。
【0027】上記の状態から、柱鉄骨1および鉄骨梁2、3の周囲には、主筋8、10を各々配し、また、主筋8、10の周囲に、帯筋9およびあばら筋11を各々配した後に、型枠を組んでコンクリート12を打設する。このコンクリート12が硬化して鉄骨鉄筋コンクリート柱4および鉄骨鉄筋コンクリート梁5、6が形成され、柱鉄骨1の強軸方向に、鉄骨鉄筋コンクリート柱4と鉄骨鉄筋コンクリート梁5からなるラーメン架構が、また、柱鉄骨1の弱軸方向に、鉄骨鉄筋コンクリート柱4と鉄骨鉄筋コンクリート梁6および鉄筋コンクリート造の耐震壁からなる架構が構成される。
【0028】上記鉄骨鉄筋コンクリート柱4と鉄骨鉄筋コンクリート梁5の接合構造においては、図1に示した鉄骨造建物における実施形態の場合と同様に、柱鉄骨1のウェブ1bの板厚t1 が十分に大きいことから、柱鉄骨1と梁フランジ2bの接合位置には、水平スチフナー等の補強材がない。
【0029】また、柱鉄骨1のウェブ1bの板厚t1 が十分に大きいことから、接合部パネルには、ダブラープレート、斜めスチフナー等の補強材がない。加えて、上記鉄骨鉄筋コンクリート柱4と梁5の接合構造においては、強固な接合構造が得られ、応力伝達機構も明確であり、かつ、柱と梁の接合構造が簡略化されることから、図示した実施形態では、柱梁接合部の内において、柱主筋8を取り巻く帯筋9を省略し、さらに柱梁接合部の構造を簡略化して、施工性を高めている。ただし、設計に応じて、通常の場合と同様に、柱梁接合部内に柱帯筋を配筋する場合もある。
【0030】
【発明の効果】本願発明に係る柱梁接合部は、柱を構成するH形鋼として、ウェブの板厚t1とフランジの板厚t2 の関係が、1.1≦(t1 /t2 )≦2.0であるH形鋼を用いることから、梁フランジが接合される位置の水平スチフナーがなく、また、接合部パネルについて、ダブラープレートや斜めスチフナー等の補強材もない。
【0031】すなわち、本願発明に係る柱梁接合部では、別途補強することなく、十分な剛性、耐力を有することから、材料費、施工費を含めたコストを削減することができる。また、本願発明の柱梁接合部には、水平スチフナー等の補強材がなく、その溶接施工がないことから、溶接欠陥や熱影響による母材の劣化といった柱梁接合部の耐力および変形性能に深刻な影響を与える欠陥を回避することができる。また、柱を鉄骨鉄筋コンクリート造とする場合においては、スチフナー等の補強材がないことから配筋作業が容易となる。
【0032】加えて、柱鉄骨に用いるH形鋼を、ウェブの板厚t1 とフランジの板厚t2 との関係が、(t1 /t2 )≦2.0にあるH形鋼であることから、上記効果を維持しつつ、鋼材重量およびコストの増大を抑えることができ、架構全体としての経済性を確保することができる。
【出願人】 【識別番号】000002118
【氏名又は名称】住友金属工業株式会社
【出願日】 平成12年2月1日(2000.2.1)
【代理人】 【識別番号】100070091
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 知 (外1名)
【公開番号】 特開2001−214514(P2001−214514A)
【公開日】 平成13年8月10日(2001.8.10)
【出願番号】 特願2000−24030(P2000−24030)