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【発明の名称】 重防食ポリウレタン被覆鋼材
【発明者】 【氏名】吉崎 信樹

【氏名】原田 佳幸

【氏名】山中 晋太郎

【要約】 【課題】重防食被覆鋼矢板構造物が海中部の厳しい腐食環境に数10年さらされた場合、防食被覆が施されていない爪部分や被覆下端部の鋼材に腐食が生じ、被覆の接着劣化が生じる場合があった。厳しい腐食や波といった環境においても補修の必要性が少なく接着劣化が問題とならない製品が望まれていた。

【解決手段】ポリウレタン樹脂の成形性に優れた特性を利用することで、あらかじめ分割可能な固定構造を鋼材に溶接し、製造時にポリウレタン被覆内部に取り込むことで、被覆と鋼材の接着力が劣化した場合でも被覆と鋼材に浮きの発生を防止する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 下地処理を施した鋼材表面に防食ポリウレタン層を塗装したポリウレタン重防食被覆鋼矢板において、分割可能な構造材を鋼材表面に溶接して樹脂を固定する構造を被覆内部に持つことを特徴とする重防食ポリウレタン被覆鋼材。
【請求項2】 請求項1の分割可能な構造材として、鋼矢板との溶接にスタッドボルトを用い、押さえ板を介してナットで固定する構造を被覆内部に持つことを特徴とする重防食ポリウレタン被覆鋼材。
【請求項3】 請求項1の被覆を固定する内部構造が鋼矢板のフランジ、あるいは爪端部に沿って直線状に、また、被覆下端部に沿って直線上に配置されていることを特徴とする重防食ポリウレタン被覆鋼矢板。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は鋼矢板で港湾・河川の桟橋や護岸などの激しい腐食環境のために外面防食が必要とされる場合に、長期の防食性を確保する重防食被覆鋼矢板に関し、端部からの被覆の接着劣化が生じた場合でも被覆の剥離が進行しないため、補修の必要が無く、信頼性の高い長期使用に適した重防食被覆鋼矢板に関する。
【0002】
【従来の技術】外面防食が必要とされる鋼矢板において数十年に及ぶ長期耐久性が必要とされる場合、電気絶縁性、耐薬品性等の種々の防食性に優れ、安価な樹脂であるポリオレフィン、あるいはポリウレタンといった樹脂を被覆材として使用した重防食被覆鋼矢板が製造されている。特に数十年に渡る長期防食性と耐衝撃性を確保するため、厚みとしては数mm程度に積層した被覆が一般的に用いられる。重防食被覆では、特開平3−23527号公報に示される様な特殊な鋼材の下地処理、プライマー処理に防食被覆を組み合わせることで、長期の接着耐久性を確保している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】重防食被覆鋼矢板構造物が海中部の厳しい腐食環境に数10年さらされた場合、防食被覆が施されていない爪部分や被覆下端部の鋼材に腐食が生じ、被覆の接着劣化が生じる場合があった。しかしながら、重防食被覆は接着力は低下しても、被覆が鋼材に密着した状態では完全に被覆部分の鋼材の腐食抑制が可能である。一方、水中で鋼材と被覆の接着力が低下し、浮きが生じた場合でも、その浮きが数mmの程度の少ない範囲であれば、防食被覆自体の厚みが数mmに及ぶため、水、酸素、イオン等の腐食を促進する物質の供給が少ないために腐食速度は極めて小さく、防食機能自体は大きく損なわれることがないといった優れた特徴がある。従って、接着力劣化が生じたとしても、防食被覆を固定することにより防食機能維持が可能である。
【0004】しかしながら、特開平10−192778号公報に示される様に打鋲による補修では、打鋲自体の防食性と防食樹脂にポリウレタンを用いた場合には、鋲の貫通性が悪く、また被覆自体の損傷が発生し易いことから、打鋲が困難であるといった問題があった。また、補修には多額の費用を要するため、厳しい腐食や波といった環境においても補修の必要性が少なく接着劣化が問題とならない製品が望まれていた。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は下地処理を施した鋼材表面に防食ポリウレタン層を塗装したポリウレタン重防食被覆鋼矢板において、分割可能な構造材を鋼材表面に溶接して樹脂を固定する構造を被覆内部に持つことを特徴とする被覆を固定する内部構造を有する重防食ポリウレタン被覆鋼矢板である。ポリウレタン樹脂は、前述の理由により打鋲が困難ではあるが鋼矢板被覆上での成形性に優れる。この特性を利用することで固定構造を製造時にポリウレタン被覆内部に取り込むことで、被覆と鋼材の接着力が劣化した場合でも、被覆と鋼材に浮きが発生することが無く、また、固定構造もポリウレタン樹脂によって防食されるため、腐食によって固定機能が損なわれることが無く、安定した長期防食性を有するポリウレタン防食被覆鋼矢板を提供出来る。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明の樹脂を固定する固定構造としてはボルトとナットを用いる。しかしながら、同じように塗装前後で分割して塗装の問題にならないような機能を持つ固定構造であれば構わない。例えば、T字上のはめ込み構造で板を固定する等のポリウレタン塗装前にマスキングが可能で、その後に被覆の剥離を防止する板を固定出来る機能を持つ構造であれば良い。固定構造としてボルトとナットを用いた場合の本発明の1例を固定部分の断面図として図1に示す。本発明は、図1の断面図に示すが如く、鋼矢板1に溶接固定されたボルト5、ナット6、押さえ板7により鋼矢板防食用のポリウレタン被覆3を固定する構造を有し、また、固定構造であるボルトとナットを防食するためのポリウレタン被覆4を有する重防食ポリウレタン被覆鋼材である。また、長期耐久性確保のために、鋼材には下地処理、及びプライマー処理2を施すことが望ましい。
【0007】被覆を固定する構造を鋼矢板に適用する場合、爪方向の被覆端部に対しては、図2の断面図に示すように山面への被覆においてはフランジ端部、谷面への被覆においては、先端の爪部、あるいは図3に示すようにフランジの爪に近い部分に長さ方向に直線的に配置する。被覆を固定する機能からはボルトに代表される溶接固定構造のピッチは狭い方が良いが、作業が繁雑になるため20〜50cm程度が適当である。また、被覆下端部の剥離抑制のため、下端部のフランジ、ウエブに沿って、直線的に配置する。山及び谷のフランジ、ウェブの下端部の固定を行った例の模式図を図4に示す。
【0008】
【実施例】(実施例1)FSP−VL型の長さ10mの鋼矢板を2本用いて、それぞれ山、谷の図4に相当するフランジ被覆端部に25cmピッチで6Mのボルトをアークスタッド溶接した。また、被覆下端部のウェブに2カ所と左右のフランジにさらに1カ所ずつのボルトを溶接した。溶接後のボルト高さは10mm程度に調整した。この後、ボルト下端部に隙間を開けてボルトに鋼製マスキングカバーを固定した。鋼矢板表面には下地処理としてグリッドブラスト処理を施し、スケール等を除去した後、クロム酸シリカ系のクロメート処理剤を塗布、乾燥して下地処理を行った。
【0009】この後、プライマーとしてイソシアネート末端プレポリマーによる1液の湿気硬化型のウレタン樹脂に顔料として、焼成カオリンクレー微粉末、防錆顔料を添加したものを塗料として30〜60μm膜厚となるようにスプレー塗布して硬化させた。次いで、次いでその表面にカオリンクレー微粉末を含有するポリブタジエンポリオールの主剤とクルードMDIの硬化剤の2液硬化ウレタンエラストマーをミキサーで混合してスプレー塗装を行い、3mm厚みの従来のポリウレタン重防食樹脂被覆を行い、ポリウレタン樹脂硬化後にボルトのマスキングカバーを取り外した。ボルトに押さえ板を通し、ナットで固定した後、その表面に直線状にポリウレタン防食層の塗装を6mm程度行い、本発明の実施例である樹脂を固定する構造を被覆内部に持つことを特徴とする山、谷面に被覆を行った重防食ポリウレタン被覆鋼矢板を製造した。防食層が接着劣化した状態を再現するには10年以上の長期の試験が必要となるため、ここでは比較試験用に模擬的に接着劣化を再現するために、以下に下地処理として、クロメート処理、及びプライマー被覆を行わない状態で被覆鋼矢板を製造した。
【0010】(実施例2)実施例1と同様の方法により下地処理、プライマー処理を行わないことにより、防食層と鋼材の接着力低下を加速させた本発明の重防食ポリウレタン被覆鋼矢板を製造した。
【0011】(比較例1)実施例1と同様の方法で山または谷の鋼矢板に、接着劣化を加速させるために下地処理を行わないで、ポリブタジエンポリオールの主剤とクルードMDIの硬化剤の2液硬化ウレタンエラストマーをミキサーで混合してスプレー塗装を行い、3mm厚みのポリウレタン被覆鋼材を作成した。この鋼矢板のフランジ部分をFRPのあて板の上から打鋲をフランジに沿って行い、鋲打ちこみ後に露出している鋲の頭の部分を粘土状のエポキシ樹脂とプラスチックキャップにより防食した。これは、特開平10−192778号公報の従来の重防食被覆鋼矢板を補修したものに相当する。ただし、数カ所でポリウレタンの割れ発生が見られたのと、また、打鋲をウェブ部にも試みたが鋼材厚みが厚いために鋲が鋼材を貫通せず、鋲をウェブに打つことは出来なかった。
【0012】(比較例2)実施例1と同様の方法でボルトを溶接しない山、谷の鋼矢板に、下地処理を行わないで、カオリンクレー微粉末を含有するポリブタジエンポリオールの主剤とクルードMDIの硬化剤の2液硬化ウレタンエラストマーをミキサーで混合してスプレー塗装を行い、3mm厚みのポリウレタン防食被覆が強固に鋼材と接着しない樹脂被覆鋼材を作成した。上記の方法により作成した山及び谷をセットとした被覆鋼矢板を海岸に5年間曝露した。海洋曝露試験後にポリウレタン被覆を除去して鋼材表面と鋲、あるいは溶接したボルトの腐食を調査した。その結果を表1に示す。ボルトがポリウレタン被覆で全面覆われている実施例1では腐食が見られなかったのに対して、比較例2の鋲の場合は、波の影響によりキャップがはずれる場合があり、腐食が進行していた。また、比較例1の製造過程からわかるようにウェブの鋲止めは鋼材の厚みが増えると不可能であった。また、裸鋼矢板での5年間の水中部の平均腐食量は0.15mm/yであったのに対して、実施例2の被覆鋼矢板では、接着力低下が生じている状態でも被覆下部に厚み測定可能な腐食は発生しておらず、防食機能を維持していた。
【0013】
【表1】

【0014】
【発明の効果】本発明の分割可能な固定構造を被覆内部に設けたポリウレタン被覆鋼材は、従来の重防食ポリウレタン被覆鋼材に比較して、長期の塩水環境の使用における防食層の剥離を抑制することが出来る生産性に優れた固定構造を内部に持つ。また、その固定構造自体が防食被覆で覆われていることから、長期使用においても腐食問題が発生しにくい。この結果、鋼矢板のように被覆端部を有する被覆鋼材において、被覆の接着力低下が生じても補修の必要がほとんど無く、長期の使用が可能である。
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成12年5月17日(2000.5.17)
【代理人】 【識別番号】100074790
【弁理士】
【氏名又は名称】椎名 彊
【公開番号】 特開2001−323431(P2001−323431A)
【公開日】 平成13年11月22日(2001.11.22)
【出願番号】 特願2000−144710(P2000−144710)