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【発明の名称】 エアバッグ用の織布とその製造方法
【発明者】 【氏名】曽木 秀仁

【氏名】有馬 良広

【要約】 【課題】製織後の精錬工程を省略して、エアバッグ用織布を安価に提供する。

【解決手段】サイジングしない糸を用いてウォータジェット織機により製織した生機に、精錬工程を施すことなく、樹脂を塗布してエアバッグ用の織布を得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 サイジングしない糸を用いてウォータジェット織機により製織した生機に、精錬工程を施すことなく、樹脂を塗布してなるエアバッグ用の織布。
【請求項2】 請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、前記の糸は、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン46、ポリエステルおよびアラミドよりなる群から選択された少なくとも一種の繊維を用いて紡糸したものであることを特徴とするエアバッグ用の織布。
【請求項3】 請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、前記の生機の織り構造は、平織、あや織りおよびバスケット織りよりなる群から選択された一種であることを特徴とするエアバッグ用の織布。
【請求項4】 請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、塗布する樹脂がシリコーン樹脂またはウレタン樹脂であることを特徴とするエアバッグ用の織布。
【請求項5】 請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、前記の樹脂の塗布がキスコート法またはナイフコート法により行われることを特徴とするエアバッグ用の織布。
【請求項6】 請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、前記の樹脂の塗布により、樹脂が織布を構成する糸の内部にまで含浸していることを特徴とするエアバッグ用の織布。
【請求項7】 請求項6に記載のエアバッグ用の織布において、前記含浸を可能とするため、前記樹脂の25℃での粘度が10,000〜50,000csであることを特徴とするエアバッグ用の織布。
【請求項8】 請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、前記の生機にまずヒートセットをしたあと、前記のとおり樹脂を塗布することを特徴とするエアバッグ用の織布。
【請求項9】 請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、生機に樹脂を塗布したあと、樹脂の乾燥のため加熱処理することを特徴とするエアバッグ用の織布。
【請求項10】 請求項9に記載のエアバッグ用の織布において、前記の加熱処理は130℃以上の温度で行われることを特徴とするエアバッグ用の織布。
【請求項11】 請求項10に記載のエアバッグ用の織布において、前記の加熱処理は3分以上行われることを特徴とするエアバッグ用の織布。
【請求項12】 エアバッグ用の織布の製造方法であって、つぎの(1)〜(3)の工程よりなる製造方法。
(1)サイジングしない糸を用いてウォータジェット織機により織地を製織する工程。
(2)得られた織地に精錬工程を施すことなく、生機のまま樹脂を塗布して、糸の内部まで樹脂を含浸させる工程。
(3)織地を所定温度に加熱して樹脂を乾燥させる工程。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明はエアバッグ用の織布に関する。
【0002】
【従来の技術】エアバッグ用の織布においては通気性をできるだけ低減させる必要がある。このため、従来より、エアバッグ用織布の素材である織地の密度を大きくしたり、織地に樹脂を塗布している。前者の方法により織布の通気性を減少させることには限界があるので、近時は後者の方法が主流をなしている。特に、織地にシリコーンなどの樹脂を被服したエアバッグ用織布は耐熱性に優れていて好ましい。
【0003】このようなエアバッグ用織布を製造するには、製織された織地にキスコート法によりシリコーン樹脂を塗布したあと、樹脂を高温で反応固化させている。
【0004】ところで、エアバッグ用織布の材料である織地は、通常、有ひ織機(シャットル織機)やレピア織機を用いて製織した生機に、精錬、ヒートセットなどの仕上げ工程を施して得られる。
【0005】すなわち、一般に、織物に用いられる糸のうち紡績糸は紡糸の際に油剤を用いる。また、製織前のたて糸にはサイジング(のりつけ)が施される。したがって、織り上げたままの織地すなわち生機には、紡糸油剤とのり材料とが付着しているので、製錬工程においてこれを洗浄などにより除去する。そして、ヒートセットにより、織地を所定の織り密度に調整し、織り組織を安定化させる。
【0006】製錬工程およびヒートセットがこのようなものであるので、これらの工程は一般の織地についても重要であるが、エアバッグ用の織布のための織地については特に重要である。これは、つぎのような理由による。
【0007】シリコーンなどの樹脂を塗布したエアバッグ用の織布においては、基布である織布と樹脂の塗布層との密着強度が充分でなければならない。なぜなら、密着強度が充分でない場合には、バッグ展開時にバッグの部分同士が擦れることにより、剪断力により樹脂層が剥離して、織地が露呈することがあり、このように露呈した箇所からガスが漏れたり、この箇所が焼損したりして、エアバッグとしての機能を喪失することがあるが、このような樹脂の剥離が生じないようにするためには、織地に付着した紡糸油剤やのり材料を精錬工程により充分に除去して、織地と塗布層との密着強度を一定以上に確保する必要があるからである。
【0008】また、ヒートセットに関しては、エアバッグの基布である織地の織り密度や織り組織が安定しなければ、たとえシリコーンなどの樹脂を塗布しても、エアバッグ作動時に高圧のガスを受けて、織地の目が開きガスが漏れることもある。
【0009】このように、エアーバッグ用の織布を製造する際には、生機に精錬工程とヒートセットを施すことはきわめて重要であり、特に、精錬工程により紡糸油剤とのり材料とを除去することは不可欠である、というのが当業者の技術的常識であると考える。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】このように生機に精錬工程とヒートセットを施す必要があるので、エアバッグ用織布の製造コストはきわめて大きい。
【0011】この発明は、精錬工程とヒートセットのうち少なくとも精錬工程を省略して、エアバッグ用の織布を安価に提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の課題を解決するために種々研究した結果、ウォータジェット織機を用いて織地を製織することにより、精錬工程を、また場合によってはヒートセットをも省略できることを見いだした。
【0013】請求項1に記載のエアバッグ用の織布は、サイジングしない糸を用いてウォータジェット織機により製織した生機に、精錬工程を施すことなく、樹脂を塗布してなるものである。このようなエアバッグ用の織布は、(1)サイジングしない糸を用いていること、(2)ウォータジェット織機により製織される際に噴射される水により紡糸油剤もほぼ完全に除去されること、の2つの理由により、精錬工程を省略しても織地とそれに塗布された樹脂との密着性が得られる。したがって、エアバッグ用の織布を低コスト、省エネルギで製造することが可能であり、また、廃水処理の問題も発生することなく環境に優しい。
【0014】請求項2に記載のエアバッグ用の織布は、請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、前記の糸が、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン46、ポリエステルおよびアラミドよりなる群から選択された少なくとも一種の繊維を用いて紡糸したものである。これらの繊維はいずれもエアバッグ用の織布を形成するために好適である。
【0015】請求項3に記載のエアバッグ用の織布は、請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、前記の生機の織り構造が平織、あや織りおよびバスケット織りよりなる群から選択された一種である。これらの織り構造はいずれもエアバッグ用の織布として好適である。
【0016】請求項4に記載のエアバッグ用の織布は、請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、塗布する樹脂がシリコーン樹脂またはウレタン樹脂である。特にシリコーン樹脂は少目付け量で耐熱性も大きい。
【0017】請求項5に記載のエアバッグ用の織布は、請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、樹脂がキスコート法またはナイフコート法により塗布される。これらの塗布方法は、簡便且つ正確な厚みに塗布できるものであり、また、塗布量を多くすることもできる。
【0018】請求項6に記載のエアバッグ用の織布は、請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、塗布された樹脂が織布を構成する糸の内部にまで含浸している。このように樹脂が糸の内部にまで含浸するので、織布の表面に樹脂層が存在しない。したがって、エアバッグの膨張展開時にエアバッグの部分同士が擦れることがあっても、樹脂層が剥離することがない。また、かりに樹脂が糸の内部にまで含浸するとともに、これと併せて織布の表面に樹脂層が存在するとしても、このような表面の樹脂層が剥離する場合でも、含浸している樹脂により、織布からのガス漏れや織布の焼損が防止される。
【0019】請求項7に記載のエアバッグ用の織布は、請求項6に記載のエアバッグ用の織布において、前記樹脂の25℃での粘度が10,000〜50,000csである。このような低粘度の樹脂であるので、樹脂が糸内部へ円滑に含浸される。
【0020】請求項8に記載のエアバッグ用の織布は、請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、前記の生機にまずヒートセットをしたあと、前記のとおり樹脂を塗布する。この場合には、ヒートセットを施すことにより織布を所定の織り密度に調整することができるので、織り密度が安定化する。
【0021】請求項9に記載のエアバッグ用の織布は、請求項1に記載のエアバッグ用の織布において、生機に樹脂を塗布したあと、樹脂の乾燥のための加熱処理が行われる。この場合、加熱処理により織地の密度を大とするとともに、所定の密度にもたらすことができる、すなわち、寸法安定性を確保することができる。このように樹脂の加熱処理を行う場合には、生機に対するヒートセットの工程を省略することができる。
【0022】請求項10に記載のエアバッグ用の織布は、請求項9に記載のエアバッグ用の織布において、前記の加熱処理は130℃以上の温度で行われる。これにより、織布の密度を大となしまた所定の密度にもたらすことができるという効果をいっそう確実に達成することができる。したがって、生機において打ち込み密度を小さく設定して、生産性を向上させることができる。また、130℃以上に加熱するため、エアバッグの通常使用環境温度では、経時変化によっても織地密度の変化がなく、その結果、熱に対して安定した織布が得られる。
【0023】また、この場合において、請求項11に記載のように、加熱処理を3分以上行うことが、上記の効果を達成する上で最適である。
【0024】請求項12に記載のエアバッグ用の織布の製造方法は、(1)サイジングしない糸を用いてウォータジェット織機により織地を製織する工程と、(2)得られた織地に精錬工程を施すことなく、生機のまま樹脂を塗布して、糸の内部まで樹脂を含浸させる工程と、(3)織地を所定温度に加熱して樹脂を乾燥する工程とからなる。この製造方法によれば、含浸層形成により通気性が低減し、また、そのあとの加熱により、織地を所定の打ち込み密度に調整することができるので、物性の安定した織布を得ることができる。そして、このような織布をウォータジェット織機を用いて製織し、製織後に精錬工程を行わないので、織布を安価に提供することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】この発明のエアバッグ用の織布は、よこ糸はもちろん、たて糸にもサイジングしない糸を用いる。製織にはウォータジェット織機を用いる。この織機はシャットルに代えて水の噴流を用いてよこ入れするので、糸に付着した紡糸油剤はこの噴流により洗い流される。そのため、製織された生機はのり材料も紡糸油剤もほとんど付着していない。したがって、従来のような生機に対する精錬工程は不要である。
【0026】これに対して、織地の織り密度や織り組織を安定させるためのヒートセットは原則として行われる。
【0027】上記のように、精錬工程を省略しても、織地には紡糸油剤がほとんど付着していないので、後工程で織地に樹脂を塗布しても、織布とこれに塗布された樹脂との密着性が得られる。
【0028】この織地に用いる糸としては、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン46、ポリエステル、アラミドなどの繊維のいずれか一つまたは複数からなる紡績糸が好ましい。
【0029】また、織り構造としては、平織、あや織り、バスケット織りなどが好ましい。
【0030】前記のような生機に通気性を低減させるために樹脂が塗布される。樹脂としては、シリコーン樹脂またはウレタン樹脂が好ましいが、少目付け量で耐熱性も大きい点でシリコーン樹脂が特に好ましい。
【0031】樹脂はたとえばキスコート法またはナイフコート法により塗布する。これらの方法によれば、簡便且つ正確な厚みに塗布できる。また、これらの方法では、多量の樹脂を織地に押しつけるように塗布するので、織地の表面に樹脂の塗布層が形成されるだけではなく、樹脂が織地を構成する糸の内部にまで含浸される。このことは、720本のフィラメントからなる470dtexの糸にシリコーン樹脂を含浸させて顕微鏡で見たところ、各フイラメントの周りにシリコーン樹脂が付着しているのを確認できたことからも明らかである。
【0032】このように樹脂が糸の内部にまで含浸しているので、織地同士が擦れることがあっても、この含浸樹脂層は摩擦により剥がれることはない。
【0033】前記のように精錬工程を省略しても紡糸油剤は織地にほとんど付着しないが、それでも紡糸油剤がわずかに残っていることもある。しかし、シリコーン樹脂が含浸していれば、紡糸油剤の存在にも係わらず、シリコーン樹脂が剥がれることはない。
【0034】シリコーン樹脂を円滑に含浸させるためには、低粘度である必要があり、25℃での粘度が好ましくは10,000〜50,000csである。この後者の数値範囲であれば、織り密度の大きい織地すなわち目が充分に詰まった織地に対してもシリコーン樹脂は円滑に含浸される。
【0035】樹脂の塗布が終了したあと加熱処理を行う。これはシリコーン樹脂を乾燥固化させるためであるが、シリコーン樹脂は加熱により収縮して、織地の密度を大とする。また、シリコーン樹脂の収縮特性を把握していれば、織地を所望の密度にもたらすことができて、これにより、寸法安定性を確保することができる。したがって、生機において打ち込み密度を小さく設定して、生産性を向上させることもできる。
【0036】加熱処理を130℃以上の温度で分以上行うことにより上記の効果は確実に達成される。また、130℃以上に加熱することにより、エアバッグの通常使用環境温度では、経時変化によっても織地密度の変化がなく、その結果、熱に対して安定した織布が得られる。
【0037】(実施例)ナイロン66の繊度470dtexの糸であってサイジングしないものを用いて、ウォータジェット織機により、密度45本/インチで製織した。
【0038】このように製織した生機に、低粘度のシリコーン樹脂をナイフコータで塗布し、生機を構成する糸の内部まで含浸させた。この状態で、130℃以上且つ3分以上加熱して、樹脂の固化と織布の密度調整を行ったところ、打ち込み密度が45本/インチとなった。
【0039】
【発明の効果】請求項1に記載のエアバッグ用の織布は、精錬工程を省略しているにも係わらず、のり材料も紡糸油剤も除去されているので、低コスト、省エネルギでの製造が可能であり、廃水処理問題もなく環境に優しい。
【0040】請求項2に記載のエアバッグ用の織布は、エアバッグ用に好適な繊維を用いている。
【0041】請求項3に記載のエアバッグ用織布は、エアバッグ用に好適な織り構造を有している。
【0042】請求項4に記載のエアバッグ用の織布のうち特にシリコーン樹脂を塗布したものは、少目付け量で耐熱性もある。
【0043】請求項5に記載のエアバッグ用の織布は、樹脂を簡便且つ正確な厚みでしかも量を多く塗布したものである。
【0044】請求項6に記載のエアバッグ用の織布は、エアバッグの膨張展開時にエアバッグの部分同士が擦れることがあっても、樹脂含浸層により、織布からのガス漏れや織布の焼損が防止される。
【0045】請求項7に記載のエアバッグ用の織布は、樹脂の25℃での粘度が10,000〜50,000csであり低粘度であるので、樹脂が糸内部へ円滑に含浸される。
【0046】請求項8に記載のエアバッグ用の織布は、ヒートセットを施すことにより織布を所定の織り密度に調整することができるので、織り密度が安定化する。
【0047】請求項9に記載のエアバッグ用の織布は、織地の密度を大とするとともに、所定の密度にもたらすことができる。
【0048】請求項10に記載のエアバッグ用の織布は、織地密度を大となし、また所定の密度にもたらすことができる。したがって、生機において打ち込み密度を小さく設定して、生産性を向上させることができる。また、130℃以上に加熱するため、エアバッグの通常使用環境温度では、経時変化によっても織地密度の変化がなく、その結果、熱に対して安定した織布が得られる。
【0049】特に、請求項11に記載のように、加熱処理を130℃の近傍において3分以上行うことが、織地の密度を大となし所定の密度にもたらす上で最適である。
【0050】請求項12に記載のエアバッグ用の織布の製造方法によれば、通気性が低減し物性の安定した織布を安価に得ることができる。
【出願人】 【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
【出願日】 平成12年3月31日(2000.3.31)
【代理人】 【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子 (外1名)
【公開番号】 特開2001−288641(P2001−288641A)
【公開日】 平成13年10月19日(2001.10.19)
【出願番号】 特願2000−98188(P2000−98188)