トップ :: D 繊維 紙 :: D01 天然または人造の糸または繊維;紡績




【発明の名称】 溶融紡糸パック
【発明者】 【氏名】西岡 ▲たく▼治

【氏名】古田 裕基

【要約】 【課題】単糸あるいは糸条間での繊度のバラツキを抑制し、紡糸切れや延伸糸切れの原因となる異常滞留が発生しにくい耐圧板を用いた溶融紡糸パックを提供する。

【解決手段】口金板の上流側に、ポリマー流路孔を中央部に一つ有する耐圧板を配置した溶融紡糸パックにおいて、該耐圧板の口金と対向する側の面が、ポリマー流路孔出口側に向かって環状凸部の流路形状を有していることを特徴とする溶融紡糸パック。
【特許請求の範囲】
【請求項1】口金板の上流側に、ポリマー流路孔を中央部に1つ有する耐圧板を配置した溶融紡糸パックにおいて、該耐圧板の口金と対向する側の面が、ポリマー流路孔出口側に向かって下記式(1)
1.1Ll ≦Lh ≦3Ll ・・・(1)
を満足する環状凸部の流路形状を有していることを特徴とする溶融紡糸パック。ただし、Lh :耐圧板環状凸部の最も深い所から口金板上面までの距離、Ll :耐圧板のポリマー流路孔出口から環状凸部の最も深い部分へ到達するまでの間における、耐圧板の口金と対向する側の面と口金板上面までの距離が一番近くなる所から口金板上面までの距離である。
【請求項2】前記耐圧板の環状凸部が連続な曲面であることを特徴とする請求項1に記載の溶融紡糸パック。
【請求項3】請求項1、2のいずれかに記載の溶融紡糸パックを用いて紡糸することを特徴とする溶融紡糸方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は溶融紡糸パックに関し、さらに詳しくは口金板の上部で溶融ポリマーが外周部へ流れやすくするための部材を使用することなく単糸あるいは糸条間で繊度のバラツキを抑制し、紡糸切れや延伸糸切れの原因となる異常滞留の発生を抑制することのできる溶融紡糸パックに関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に合成繊維は、溶融ポリマーを口金孔から吐出することにより糸の形状を形成し製造される。口金孔を有する口金板は、溶融紡糸パックに溶融ポリマーを導くための導入孔、溶融紡糸パック内にポリマー中の異物を濾過するための濾砂やフィルター、口金板を高い圧力から守るための耐圧板らと共に溶融紡糸パック内に設置されている。
【0003】溶融紡糸パックは流入してきた溶融ポリマーが冷却されるのを防ぐために、スピンブロック内に設置され高温で加熱されている。そのためスピンブロックと接しているパックの外周部に比べ中央部の温度が低く、パック内で温度差が発生する。この温度差により溶融紡糸パックの外周部を流れる溶融ポリマーと、中央部を流れる溶融ポリマーとの間に熱履歴差を生じ、溶融紡糸パックの軸方向と垂直な断面において溶融粘度や重合度等、物性の異なった溶融ポリマーが分布した状態になる。そこで外周部と中央部の溶融ポリマーの物性を均一化するため、中心に一つだけ孔のある耐圧板が用いられている。この耐圧板を用いた紡糸パックにおいては、耐圧板へ到達するまでに外周部を流れてきた溶融ポリマーと、中央部を流れてきた溶融ポリマーを耐圧板の中心孔に集めることで、物性を均一化している。
【0004】しかしながら、この従来の耐圧板における流出側の流路形状は、図3に示すように、中央の孔を頂点とする円錐形になっているため、中央部に比べ外周部は流路体積が狭く、粘度の高い溶融ポリマーは径方向に広がりにくくなっている。すなわち中央部での流量に比べ外周部での流量が少なくなるため、この状態で紡糸口金から紡出されると、中央部の口金孔から吐出された糸は太く、外周部から吐出された糸は細くなり、単糸間あるいは糸条間で繊度のバラツキが発生する。また溶融ポリマーの流量が少なく流速の遅い外周部では異常滞留部が発生し、そこで劣化した溶融ポリマーが口金孔へ到達すると紡糸切れや延伸糸切れを起こすという問題があった。
【0005】従来、このような問題を解決するための対策として、特開平8―92811号公報や特公昭60−104510号公報に記載されているように、口金板の上部で溶融ポリマーが外周部へ流れやすくするための部材を口金板上部に設置することで単糸間あるいは糸条間で繊度のバラツキを抑制するとともに、外周部における溶融ポリマーの流速を速くし、異常滞留の発生を抑制する方法が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の口金板上部に溶融ポリマーが外周部へ流れやすくするための部材を設置する方法は、パックの部品点数を増やすこととなり、パック当たりの費用が高くなる。また、組み立て解体時の作業数を増やすとともに、パック自身の重量が重くなるといった問題がある。
【0007】本発明はかかる従来技術の欠点を改善し、単糸あるいは糸条間での繊度のバラツキを抑制し、紡糸切れや延伸糸切れの原因となる異常滞留が発生しにくい耐圧板を用いた溶融紡糸パックを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は上記の目的を達成するため次の構成からなる。
【0009】すなわち、口金板の上流側に、ポリマー流路孔を中央部に一つ有する耐圧板を配置した溶融紡糸パックにおいて、該耐圧板の口金と対向する側の面が、ポリマー流路孔出口側に向かって環状凸部の流路形状を有していることを特徴とする溶融紡糸パックである。
【0010】このように耐圧板の流出側である口金と対向する側の面を、ポリマー流路孔の出口側に向かって環状凸部の流路形状を形成することにより、耐圧板の流出側外周部の流路体積が大きくなり、溶融ポリマーが径方向に広がりやすくなるため、口金板上部に溶融ポリマーが外周部へ流れやすくするための部材を配置することなく外周部におけるポリマーの流速を速くすることができるのである。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明を実施する形態例について説明する。
【0012】図1に溶融紡糸パックの一例を概略断面図で示す。図1において、パックケース1は、その底部に口金板2が挿入配置され、その上部上流側に中心にポリマー流路孔9を有する耐圧板3が配置されている。さらに該耐圧板3の上には金網フィルター4が置かれ、さらにその上部に設けられたスペーサー5の中に濾層であるサンド6が充填され、さらにその上部に上蓋7を載せると共に、この上蓋7の外周部のネジ部をパックケース1の上端部内周のネジ部に合わせて堅く締め付け、固定している。口金板2は多数の口金孔8を有している。
【0013】上記構成の溶融紡糸パックに、高圧に加圧された溶融ポリマーを上蓋中央の流入孔10より供給すると、サンド6を通過することにより異物が除去され、次いで耐圧板3のポリマー流路孔9に流入する。耐圧板3のポリマー流路孔で圧力損失を与えながら高圧を減圧して口金板2の上流側に吐出する。最後に溶融ポリマーは口金孔8から紡出されて糸条となる。
【0014】このような溶融紡糸工程において、スピンブロック内で加熱されているパックは外周部に比べて中央部の温度が低いという問題がある。さらにサンド6は流動抵抗が大きく、その中を高粘度の溶融ポリマーが通過するのに長時間を要する。そのためサンド層の中央部を通過した溶融ポリマーと外周部を通過した溶融ポリマーとは重合度や粘度等、物性の異なった状態になっている。
【0015】そこで本発明においては、耐圧板3の口金2と対向する側の面11を、ポリマー流路孔9の出口側に向かって環状凸部の流路形状とするものである。
【0016】本発明においては、耐圧板3のポリマー流路孔9に溶融ポリマーを通過させることにより、互いに均一化させることができるのである。さらに、均一化され中央孔から流出する溶融ポリマーを、口金板上で径方向へ均一に広げることによって単糸間もしくは糸条間で繊度にバラツキのない均一な糸が紡糸される。また外周部における溶融ポリマーの流速を速めることによって、異常滞留の発生を抑制し紡糸切れや延伸糸切れを低減させることができる。
【0017】本発明においては、上述のように耐圧板3の中央に設けられたポリマー流路孔9を通過した溶融ポリマーを、溶融ポリマーが外周部へ流れやすくするための部材なしに、口金板上部で径方向へ均一に広げることを特徴とする。すなわち溶融紡糸パックの構成としては、図2に示すように、耐圧板流出側周辺部に上流方向へ環状凸部の流路形状を有していることである。
【0018】具体的には、環状凸部が連続な曲線で形成されていることが好ましい。不連続であった場合には、不連続箇所で異常滞留が発生し劣化したポリマーによる紡糸切れや延伸糸切れが発生するためである。
【0019】なお、図2に示すように、耐圧板環状凸部の最も深い所から口金板上面までの距離をLh とし、耐圧板のポリマー流路孔出口から環状凸部の最も深い部分へ到達するまでの間における、耐圧板の口金と対向する側の面と口金板上面までの距離が一番近くなる所から口金板上面までの距離をLl とした場合に、1.1Ll<Lh ≦3Ll を満足する形状であることが好ましい。さらに好ましくは、1.5Ll ≦Lh ≦2.5Ll である。1.1Ll >Lh の場合には外周部における流路体積が小さいために、ポリマー流路孔より流出する溶融ポリマーが径方向へ広がらず、外周部に異常滞留が発生する。また、Lh >3Ll の場合にはパック内に溶融ポリマーを充填するとき凸部に気泡が残留し、その気泡が要因で紡糸切れを引き起こす。
【0020】次に本発明による溶融紡糸パックを用いた紡糸工程の工程概略図を図4に示す。スピンブロック13内で加熱されている溶融紡糸パック12から紡出された糸条を給油ガイド15で集束・給油し、その後交絡ノズル16により混繊集束し、引き取りローラー17を通過しパッケージとして巻き取られる。
【0021】
【実施例】図1の基本構造における一部を、それぞれ下記のように異ならせた本発明の実施例、比較例1〜3からなる4種類の溶融紡糸パックを製作した。
【0022】
(1)実施例1 耐圧板:図2に記載の一穴板ただし、Ll =4[mm]、Lh =10[mm]
(2)実施例2 耐圧板:図2に記載の一穴板ただし、Ll =4[mm]、Lh =5[mm]
(3)比較例1 耐圧板:図2に記載の一穴板ただし、Ll =4[mm]、Lh =4.2[mm]
(3)比較例2 耐圧板:図2に記載の一穴板ただし、Ll =4[mm]、Lh =14[mm]
(4)比較例3 耐圧板:図3に記載の一穴板上記4種類の溶融紡糸パックを使用し、それぞれ紡糸温度285度、吐出量22g/min、紡速5000m/min、溶融粘度600ポイズのナイロン66フィラメント糸を溶融紡糸した。得られた糸のCV%(単糸繊度バラツキ)を測定すると共に、紡糸切れ回数およびポリマー滞留部の評価結果を表1に示す。なお、CV%は下記式により算出した。
【0023】CV%=〔糸条間の繊度バラツキ/糸条繊度平均値〕×100実施例1および2ではCV%が小さく、異常滞留や糸切れは発生しなかった。比較例1ではLh /Ll が小さく外周部へ溶融ポリマーが広がりにくいため最外周部において異常滞留が確認された。比較例2ではLh /Ll が大きく環状凸部に気泡が残留し糸切れが5(回/t)発生した。比較例3では環状凸部がないために溶融ポリマーが径方向へ広がりにくく最外周部において異常滞留が確認され糸切れも多発した。またCV%も大きな値を示している。
【0024】
【表1】

【0025】
【発明の効果】上述したように、本発明の溶融紡糸パックは、耐圧板の下で溶融ポリマーを径方向へ均一に広げることができる。したがって、単糸間もしくは糸条間で繊度にバラツキのない均一な糸が紡糸できる。また外周部における溶融ポリマーの流速を速めることができるので、異常滞留の発生を抑制し紡糸切れや延伸糸切れを低減させることができる。
【出願人】 【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
【出願日】 平成12年3月7日(2000.3.7)
【代理人】
【公開番号】 特開2001−254219(P2001−254219A)
【公開日】 平成13年9月21日(2001.9.21)
【出願番号】 特願2000−61979(P2000−61979)