トップ :: C 化学 冶金 :: C23 金属質材料への被覆;金属質材料による材料への被覆;化学的表面処理;金属質材料の拡散処理;真空蒸着,スパツタリング,イオン注入法,または化学蒸着による被覆一般;金属質材料の防食または鉱皮の抑制一般




【発明の名称】 耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材およびその製造方法ならびに複合溶射材料
【発明者】 【氏名】原田 良夫

【要約】 【課題】アナターゼ型TiO (a-TiO) からルチル型TiO (r-TiO) への変化を抑制することにより、優れた環境浄化作用を示すと同時に、耐食性と密着性とに優れた溶射皮膜を形成してなる部材を提供すること。

【解決手段】鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金とアナターゼ型TiO粉末とを含有する複合溶射材料を、溶射熱源中での飛行速度が 200m/sec 以上となる溶射条件で溶射し、鋼鉄製などの基材の表面に、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金中にアナターゼ型TiO粒子が分散した溶射皮膜を設けてなる、耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材とその製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋼鉄製などの基材の表面に、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金中にアナターゼ型TiO粒子が分散した溶射皮膜を設けてなる、耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材。
【請求項2】 鋼鉄製基材の表面に、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金によるアンダーコートが設けられ、その上に、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金中にアナターゼ型TiO粒子が分散したトップコート溶射皮膜を設けてなる、耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材。
【請求項3】 鋼鉄製基材の表面に、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金によるアンダーコートが設けられ、その上に、アナターゼ型TiO系トップコート溶射皮膜を設けてなる、耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材。
【請求項4】 上記溶射皮膜は、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金マトリックス中に、少なくとも30wt%のアナターゼ型TiO粒子が分散した層であることを特徴とする請求項1または2に記載の溶射被覆部材。
【請求項5】 鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属として、Al,Zn,Al−Zn合金,Al−Mg合金のなかから選ばれるいずれか1種の金属・合金を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶射被覆部材。
【請求項6】 鋼鉄製基材表面に、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金とアナターゼ型TiO粉末とを含有する複合溶射材料を、溶射熱源中での飛行速度が 200m/sec 以上となる溶射条件で溶射することを特徴とする、耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材の製造方法。
【請求項7】 鋼鉄製基材の表面に、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金を溶射してアンダーコートを形成し、次いでその上に、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金とアナターゼ型TiO粉末とを含有する複合溶射材料を、溶射熱源中での飛行速度が200 m/sec 以上となる溶射条件で溶射してトップコート溶射皮膜を形成することを特徴とする、耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材の製造方法。
【請求項8】 鋼鉄製基材の表面に、鋼材に対して電気化学的に卑である電位をもつ金属・合金を溶射してアンダーコートを形成し、次いでその上に、アナターゼ型TiO粉末を主とする複合溶射材料を、溶射熱源中での飛行速度が300m/sec 以上となる溶射条件で溶射して、トップコート溶射皮膜を形成することを特徴とする、耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材の製造方法。
【請求項9】 鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属として、Al,Zn,Al−Zn合金,Al−Mg合金のなかから選ばれるいずれか1種の金属・合金を用いることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】 Al,Zn,Al−Zn合金,Al−Mg合金のなかから選ばれるいずれか1種以上の金属・合金の粉末を1〜50wt%含有し、残部がアナターゼ型TiO粉末と不可避的不純物とからなることを特徴とする耐食性と環境浄化特性に優れる被覆層形成用複合溶射材料。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鋼鉄製基材表面に溶射皮膜を被覆してなる部材、とくに亜鉛めっき鋼板等を含む鋼構造物等の表面に、防食作用を有すると共に、太陽光の照射下において優れた環境浄化作用を有する1〜複数層の溶射皮膜を形成してなる部材とその製造方法、さらにはその方法の実施に当たって用いる複合溶射材料に関するものである。本発明の溶射皮膜被覆技術は、既存の構造物の他、例えば表面処理鋼材あるいはその他の金属やコンクリート、モルタルなどの表面に対しても適用が可能である。
【0002】
【従来の技術】火力発電所、都市ごみ焼却プラント、自動車などから排出される化石燃料の燃焼ガス中には、二酸化炭素や水蒸気とともに微量の硫黄酸化物 (SO) あるいは窒素酸化物 (NO) などの有害な環境汚染物質が含まれている。近年、これらの汚染物質の除去技術に対する研究が進み、ある程度の成果を得て、一時の危機的な状況を脱しているが、それでも十分ではない。とりわけ、NOについては改善の程度が低く、ディーゼルエンジンの排ガス中に含まれている浮遊粒子状物質とともに今後の大きな研究課題となっている。
【0003】この点に関し、近年、二酸化チタン (TiO) の光触媒作用によるNOの分解無害化の技術が脚光を浴びている。それは、汚染した水質の浄化、悪臭の除去等に対し、TiOの光触媒作用が有効だからである。 (例えば、特開平8-99041 号公報、特開平8-103631号公報など)【0004】酸化チタンを利用するものとしては、その他、TiO光触媒作用の向上を意図して開発された多孔質化TiO (特開平8-196903号公報) 、TiO光触媒作用の耐久性の向上を目的とした特開平9-276706号公報などの提案があり、これらの技術は環境浄化作用の向上に大きな期待が寄せられている。
【0005】従来、光触媒作用を有するTiOの利用方法としては、太陽光が当たる建造物の表面に塗料として塗布する方法が普及しているが、屋内で使用する場合には太陽光の波長を有する電灯と併用する方法が一般的である。
【0006】また、TiOを含む塗料やゾルやゲル状のTiOを塗布する代わりに、建造物の表面にTiO皮膜を溶射法によって被覆する方法の提案もある。しかしながら、この技術については、次のような種々の問題点があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】(1) TiO粉末の溶射に当たっては、光触媒作用に優れたアナターゼ型TiO (以下、単に「a-TiO」と略称する) を溶射粉末材料として用いても、高温の溶射熱源中を飛行する際に、ルチル型TiO (以下、単に「r-TiO」と略称する)へ変化するため、目的 (環境汚染防止) を達成することができなくなる。
(2) 溶射熱源温度を下げたり、一度に多量のa-TiO粉末を溶射装置に投入して、粉末粒子1個当たりの被曝温度を低下させて、r-TiOへの変化を抑制する方法もあるが、被覆形成した皮膜は、基材との密着性および皮膜を構成する粒子の相互結合力が著しく低下するため、かかる皮膜は僅かな衝撃や接触によっても簡単に剥離するようになる。
(3) また、上記(2) のようなa-TiO溶射皮膜は、多孔質なため、自然環境下で使用されると、その気孔部を通って雨水が内部へ浸入する。その結果、a-TiO皮膜は鋼構造基材に対し、電気化学的には貴な電位を示すため、鋼基材の腐食を促進し、多量の赤さび (例えば、α,β,γ・FeOOH, FeO・x HO など)が発生して体積が膨張し、a-TiO皮膜を根底から破壊、剥離する虞れがある。そして、発生した鋼基材の赤さびの一部は雨水とともに流下して、健全な状態のa-TiO皮膜の表面を覆い、太陽光を遮断することになるので、たとえ光触媒機能を保有していたとしても、その作用を期待することができなくなる。
(4) 光触媒作用に優れたa-TiO皮膜 (溶射法,塗装法) であっても、この皮膜を、都市や重工業地帯,さらには自動車排ガスが多量に排出される幹線道路で使用すると、粉塵や排ガス中に含まれている微粒子状の固形物 (未燃炭素粒子,不完全燃焼燃料粒子) などが、a-TiO皮膜の表面を覆って、太陽光を遮断し、上述した作用効果 (機能) を消失させることになる。
(5) 現在、溶融亜鉛めっきを施した鋼部材を使用した橋梁、鉄塔、鉄骨などが多数建設されているが、これらの建造物の保守点検を兼ねた耐食性と環境浄化作用を付与する溶射被覆技術は開発されていない。
【0008】本発明の目的は、溶射法によるTiO皮膜形成技術が抱えている上述した問題点を克服することにあり、とくに、アナターゼ型TiO (a-TiO) からルチル型TiO (r-TiO) への変化を抑制することにより、優れた環境浄化作用を示すと同時に、耐食性と密着性とに優れた溶射皮膜を形成してなる部材を提供することにある。
【0009】本発明の他の目的は、鋼鉄製基材の表面に、耐食性と環境浄化特性とに優れるTiO溶射皮膜を強い密着力をもって付着させるための、溶射被覆部材の製造方法を提案するところにある。本発明のさらに他の目的は、高温の溶射熱源に被曝されても、a-TiOからr-TiOへの変化を防止するのに有効な溶射被覆形成用複合材料を提案するところにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、従来技術が抱えている上述した問題点を解決するため、次に示すような手段を提案する。
(1) 鋼鉄製などの基材の表面に、a-TiO粉末の過度な被曝温度上昇を抑制するために、鋼材に対して電気化学的に卑な電位 (低電位) をもつAl等の金属・合金の粉末とa-TiO粉末とからなる複合溶射材料を溶射して形成された低電位金属−a-TiO系溶射皮膜 (Al等の金属マトリックス中にa-TiOが分散した状態の溶射皮膜) を設けてなることを特徴とする耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材。
(2) 鋼鉄製などの基材の表面に、アンダーコートとして、鋼鉄製部材,即ち鋼材に対して電気化学的に卑な電位を有するAl,Zn,Al−Zn合金,Al−Mg合金などのなかから選ばれるいずれか1種以上の金属・合金を溶射して得られる防食性に優れたアンダーコート (好ましくは溶射皮膜がよい) が設けられ、その上に、防食作用を有すると共に、a-TiO粉末の過度な被曝温度上昇を抑制するのに有効な、主として前記金属・合金 (以下は、「Al」の例で説明する) の粉末とa-TiO粉末とからなる複合溶射材料を溶射して形成された環境浄化特性を有するAl−a-TiO系のトップコート溶射皮膜を設けてなることを特徴とする耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材。
(3) 鋼鉄製などの基材の表面に、防食作用を有するAl,Zn,Al−Zn合金,Al−Mg合金などから選ばれるいずれか1種以上の金属・合金を溶射して得られる防食性に優れたアンダーコート (溶射皮膜その他) が設けられ、その上に、環境浄化特性を有するa-TiO粉末を溶射して形成されたトップコート溶射皮膜を設けてなることを特徴とする耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材。
(4) 前記鋼鉄製基材として、溶融亜鉛めっきを施した鋼鉄製等の基材の表面に、溶射法によって防食性と環境浄化特性の両方の特性を有するAl等を含有するa-TiO系溶射皮膜を形成するか、環境浄化作用を有するa-TiO溶射皮膜を形成するか、あるいはa-TiO溶射皮膜形成に先立ち、必要に応じて予め、鋼材に対して電気化学的に卑な金属・合金からなるアンダーコート溶射皮膜を形成させることを特徴とする耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材。
(5) 上記各部材において、溶射皮膜は、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金マトリックス中に、少なくとも30wt%のアナターゼ型TiO粒子が分散した層であることを特徴とする。
【0011】上掲の溶射被覆部材は、下記の製造方法を適用して製造する。
(6) 鋼鉄製等の基材の表面に、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金,例えば、主としてAl粉末とa-TiO粉末とを含有する複合溶射材料を、溶射熱源中での飛行速度が 200m/sec 以上となる溶射条件で溶射し、a-TiO粒子の過度の温度上昇によるr-TiOへの変化を抑制することにより得られる、環境浄化特性に優れるa-TiO溶射皮膜を形成することを特徴とする耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材の製造方法。
(7) 溶融亜鉛めっき鋼材を含む鋼鉄製基材の表面に、まず、防食性に優れた特性を示すAl,Zn,Al−Zn合金,Al−Mg合金のなかから選ばれるいずれか1種以上の金属・合金を溶射することによって、防食性のアンダーコート溶射皮膜を形成し、その上に、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金,例えばAlの粉末とa-TiO粉末とを主とする複合溶射材料を、溶射熱源中での飛行速度が200m/sec 以上となる溶射条件で溶射することにより、a-TiO粒子の過度の温度上昇によるr-TiOへの変化を抑制した、環境浄化作用を有するa-TiO系トップコート溶射皮膜を形成するか、Al粉末を含まないa-TiO粉末のみを、上記飛行速度 300m/sec 以上の条件で溶射してa-TiO系トップコート溶射皮膜を形成することを特徴とする耐食性と環境浄化特性に優れる溶射被覆部材の製造方法。
【0012】本発明はまた、上述した溶射被覆部材の製造に当たって、防食性を発揮するとともに、a-TiO粒子の溶射熱源中における過度な温度上昇を抑制するため、下記要旨構成に係る複合溶射材料を提案する。
(8) 即ち、本発明は、Al,Zn,Al−Zn合金,Al−Mg合金のなかから選ばれる1種以上の金属・合金の粉末を1〜50wt%含有し、残部がa-TiO粉末と不可避的混入元素とからなる複合粉末材料であることを特徴とする耐食性と環境浄化特性に優れる被覆層形成用の複合溶射材料である。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、アナターゼ型TiO (a-TiO) の光触媒作用、鋼材よりも電気化学的に卑な電位を示すAlやZn等の金属あるいはそれらの合金の粉末とTiO粉末とからなる複合溶射材料の特徴、その複合溶射材料を溶射して得られる溶射皮膜 (断面構造) の特徴、および施工した溶射皮膜の環境浄化作用 (機構) 等について説明する。
【0014】(1) a−TiOの光触媒作用についてa−TiOに太陽光が照射されると電子が放出され、放出された跡には正孔 (ホール) が残される。この電子とホール部分は非常に活性に富み、とくに電子はこれと接触する化学物質を還元する作用を有し、一方、ホールの方は酸化反応を促進する性質がある。しかも、このa−TiOは、太陽光、なかでも380 nm以下の波長のものに対してよく励起され、また、自然光が反応の駆動力であることが知られている。なお、TiOには、a-TiOの他に、ルチル型TiO (r-TiO) も存在するが、この結晶型:r-TiOには光触媒作用が殆どなく、環境浄化のために利用可能なTiOはもっぱら前記a-TiOである。
【0015】(2) Al等の低電位金属含有a-TiO複合溶射材料粉末についてa−TiO (アナターゼ型) およびr-TiO (ルチル型) の粉末を溶射法によって皮膜化することは容易である。しかし、次のような問題があった。それは、溶射材料は溶射時に熱源中を飛行するため、加熱昇温し溶融または半溶融状態となる。このため、溶射材料として当初、a-TiOのみを選んで溶射しても、その大部分は熱源中でr-TiOに変化して、光触媒作用を消失することになる。また、a-TiOやr-TiOであっても、これらの皮膜を鋼構造物基材の表面に直接付着させると、電気化学的にはTiO皮膜がカソード、基材がアソードとなって、基材の腐食が進行するという問題がある。
【0016】つまり、Al等の低電位な金属等とa-TiOとの混合粉末からなる本発明に係る複合溶射材料は、TiOが抱えている上述した問題点を解決するために開発されたものである。すなわち、この材料は、a-TiO粉末の表面に、造粒法によってAl等の鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつAl等の金属等を被覆したものであり、このような構造にすることにより、溶射時にa-TiO粉末が高温の熱源に直接接触しないように工夫されている。
【0017】(3) 溶射皮膜形成方法について本発明においては、上述した複合溶射材料のもつ特性をより一層効果的なものとするために、溶射方法についても検討した。すなわち、本発明では、好ましくは、プラズマ熱源に比較して温度の低い可燃性ガスの燃焼フレームを用いると共に、上記複合溶射材料粉末を、かかるフレーム溶射熱源中を高速度で飛行させることで、この材料が被曝する機会 (温度) を極力少なく (低く) すると同時に、高速飛行速度を確保することによって基材への強い衝突エネルギーを発生させ、これらの総合的な溶射方法の採用にによって、溶射皮膜の基材表面との密着性を向上させるようにする。
【0018】このような溶射方法の採用によれば、本発明に係る上記複合溶射材料を用いた場合、a-TiO粒子の表面を被覆した状態となっている低融点のAl等 (融点 660℃) の金属が熱源中では早期に溶融するが、内部のa-TiO粒子については温度の昇温が抑制されるため、r-TiOへの変化が著しく低下する。その上、溶融したAl等の金属・合金は、皮膜形成時に粒子間結合力および基材に対する密着力向上に大きく寄与するため、緻密で密着力の良好な溶射皮膜となる。しかも、Al等は、鋼構造物基材に比較して卑な電位 (低電位) を示すので、電気化学的には犠牲陽極作用を発揮して基材を防食する作用が生じる。
【0019】図1は、a-TiO粉末材料を用いて、炭化水素 (エチレン、プロピレン、灯油)と酸素との燃焼フレームを熱源とする溶射法によって、熱源中を飛行するa-TiO粉末の速度を変化させて形成した皮膜の、X線回折ピーク強度比の結果からr-TiOへの変化率を示すものである。その結果によると、a-TiO粉末のみを溶射材料とした場合、熱源中の飛行速度が 250m/sec 以下の低速では大部分がr-TiOへ変化し、飛行速度を大きくするほどr-TiOへの変化が少なくなる。その臨界となる飛行速度は、300 m/sec 以上であり、この程度の飛行速度にすると、a-TiOの残存率は30%前後 (r-TiOへの変化率にして70%) となり、本発明として利用可能である。ただし、この場合、a-TiO溶射層 (トップコート) の下に、AlやZnあるいはそれらの合金のアンダーコートを形成した複合皮膜とすることが好ましい。そうすると、少なくとも基材の耐食性は所期した効果が得られる。これに対し、AlやZn等の金属およびその合金を、例えば造粒法によってa-TiO粉末の表面に被覆した本発明の好適溶射材料の場合は、熱源中の飛行速度が 200m/sec でもr-TiOへの変化率は50%以下にとどまり、300 m/sec 以上では30〜40%前後が変化するに過ぎない。
【0020】なお、本発明に係る上記複合溶射材料は、a-TiO粉末の表面を造粒法によってAl等の低融点金属で被覆した粒子を用いることが、本発明で好ましいとされる皮膜形成に有効であるが、これに代えて、Al等の粉末とa-TiO粉末とを不活性ガス雰囲気中で機械的に混合したものでも、a-TiO単独の溶射粉末材料に比較すると、r-TiOへの変化率は 250m/sec の飛行速度条件において60〜65%程度に抑制できることが実験的に判明しているので、性能的には多少低下するものの、溶射粉末材料の製法としては経済的であり、十分に利用可能である。本発明に係る複合溶射材料において、a-TiO粉末の表面を覆ったり、機械的に混合して添加含有させるAl粉末の割合いは、1〜50wt%の範囲がよく、特に5〜20wt%が好適である。Al含有量が1wt%以下では、添加の効果が少なく、一方、50wt%より多くても格別その性能が向上せず効果が飽和するからである。
【0021】また、本発明では、a-TiO粉末に加える金属として、Al粉末に代えて、ZnやAl−Zn合金、Al−Mg合金などの、低融点で、鋼構造物基材に対して卑な電位を示して防食作用を発揮する金属・合金の粉末であれば、いずれの金属・合金であっても使用することができる。具体的には、JIS H 8300−1999規定の亜鉛・アルミニウムおよびそれらの合金、JIS H 2107規定のZn地金、JIS H 4000規定のアルミニウムおよびその合金などが好適である。
【0022】このようにして形成されるa-TiOとAlとからなる溶射皮膜は、成膜したあとは、Alマトリックス中に少なくとも30wt%のアナターゼ型TiO (a-TiO) ,好ましくは50wt%,さらに好ましくは60wt%が残留していて、残りはルチル型TiO (r−TiO) を含有したものが好ましい。その根拠は、図1に示す結果にもよるが、a−TiOが少なくとも30wt%はAlマトリックス中に分散していないと、NOを含む空気と接触するa-TiOの面積が小さくなって、環境浄化作用が低下するからである。
【0023】(4) 溶射皮膜の構造とその作用機構について本発明に係る複合溶射材料を用いかつ本発明に適合する方法を採用して形成した溶射皮膜の断面構造の例を、図2-(a)〜(d) に示す。ここで、1は基材、2はAlマトリックス、3はa-TiO粒子、4はa-TiO層またはAl添加量の非常に少ない、例えば1wt%Al−99wt%a-TiOである。5は溶融亜鉛めっき層である。
【0024】図2-(a)は、SS400 基材上に直接、表面をAlで被覆したa-TiO粉末からなる複合溶射材料を溶射して皮膜 (a-TiO分散層) を形成したもので、その溶射皮膜は、Alのマトリックス中に光触媒作用を有するa-TiO粒子が分散した構造となっている。この溶射皮膜では、表面に露出しているa-TiO粒子のみが太陽光の照射によって、空気中のNOの分解を行うこととなる。最近の雨水は酸性を呈するため、マトリックスとなるAlが溶出すると、最表層部のa-TiO粒子は脱落するが、同時にその下部から新しいa-TiO粒子が順次に露出してくるので、再びNOの分解作用を発揮することになる。従って、このような皮膜では、溶射皮膜全体が消失するまでNOの分解作用を維持することができる。しかも、この場合において、余剰のAlは SS 400 基材に対して防食作用を発揮するので、基材から赤さび等が発生することはない。
【0025】図2-(b)は、図2-(a)に示す皮膜の上にさらに、最上層部 (トップコート) として、300 m/sec 以上の高速飛行速度でa-TiOのみからなる溶射皮膜4 (a-TiOの残存率35〜38%) を形成した例である。図2-(c)は、Al含有a-TiO粉末を溶射して得られるa-TiO分散層と、a-TiOのみからなる皮膜またはAl添加量が極めて少なくa-TiO含有量が著しく多い溶射皮膜を複数層重ねて形成した多層構造の溶射皮膜からなる例であり、使用初期や経年的に皮膜が消失する際に、a-TiO含有量の多い層によって、NOの分解作用をより強く発揮させるのに好適な構造を提供できる。図2-(d)は、まず、基材1の表面にアンダーコートとして、鋼材に対して電気化学的に卑な電位をもつ金属・合金、例えばAl,Zn,Al−Zn合金,Al−Mg合金などの金属・合金によるアンダーコート、例えば、溶射,めっき,CVDなどの皮膜 (図示例は溶融亜鉛めっき) を施工して被成した鋼構造物の表面に、上述したAlとa-TiOからなるトップコート溶射皮膜を形成した構造例を示すものであり、前記アンダーコートは防食性を付与するために設けられる。図2-(e)は、アンダーコートとして溶融亜鉛めっきを施した鋼構造物の、そのめっき層 (アンダーコート) の表面に、飛行速度300 m/sec 以上の溶射条件でa-TiO粉末のみを溶射して成膜したものの断面図である。
【0026】(5) 本発明部材に形成された溶射皮膜のNO分解性能について本発明に適合する溶射皮膜、即ちAlマトリックス中にa-TiOが分散した構造を有する溶射皮膜のNO分解性能を確認するために、図3に示す試験装置を利用した。この装置は、溶射皮膜をセットして人工の太陽光の照射下において、NOガスと接触させる反応器(31)、これにNOガスボンベ(32)と空気に対して湿度を付与する湿度調整器(33)から流通するガス量を調整したり、計測するフローメータ(34)を備え、さらに反応器(1) の上部には太陽光を模擬したランプ(35) (波長370 nm) を配設して、太陽光を照射しつつ溶射皮膜とNOの接触反応を導くような構成になっており、反応器を出たガスを、ガス分析装置(36)にて分析し、その分解率 (またはNO残存率) を求めるようになっている。
【0027】この装置を用い、本発明に適合する溶射皮膜のNO分解能について試験した。試験は、NO含有量:0.5 ppm ,湿度:50%の空気を、1分間50mlの速度で、ランプで照射されている反応器へ送給したところ、5wt%Al−95wt%a-TiOを300m/sec の飛行速度で成膜した本発明に係る溶射皮膜は、60〜70%の分解率を示した。これに対し、a-TiOのみを250 m/sec の飛行速度で形成した従来技術による皮膜では、1〜2%の分解率を示すに過ぎなかった。この実験結果から、本発明に適合する溶射皮膜のNO分解反応は、図1に示したように、溶射熱源中における被曝温度履歴によるa-TiO残存率とほぼ比例関係にあることがわかった。
【0028】本発明に適合する溶射皮膜の厚さは、a-TiOとAlとの混合皮膜,a-TiO単独皮膜とも、20μm〜800 μmの範囲が実用的であり、特に50〜300 μmが好適である。この溶射皮膜が20μmより薄いと、均等に成膜することが困難である。また、800 μmより厚くすることは、鋼構造物の防食効果期間を延長するのに得策ではあるが、経済的でない。
【0029】また、アンダーコートとして、Al,Zn,Al−Zn合金,Al−Mg合金などの (溶射) 皮膜を施工する場合には、30〜500 μm厚の範囲がよく、特に50〜200 μmが好適である。アンダーコートを施工するケースとしては、部材の使用環境における腐食性が一段と厳しい条件下にある場合であって、このケースでは十分な防食性能が要求されるからである。このような場合のアンダーコートの厚さは、30μmより薄くすると上記の要求に応えることが困難であり、一方、500 μmより厚くしても格別な効果が期待できないので、経済的に得策でない。
【0030】以上説明した本発明に適合する溶射皮膜の作用機構に関しては、主に大気中に含まれているNO除去を対象にして説明したが、a-TiOの作用は殺菌、悪臭ガスの分解と無臭化、水質汚染物質の除去などにも効果を示すことが知られており、本発明はこれらの対策技術としても十分に適用が可能である。
【0031】
【実施例】実施例1この実施例では、本発明に適合する条件の下に形成された溶射皮膜が自然環境下で使用されることを考慮して、その大気腐食性を塩水噴霧試験によって評価したものである。
(1) 供試溶射皮膜試験片SS400 炭素鋼試験片 (幅50mm×長さ100 mm×厚さ5mm) の片面のみをブラスト処理によって粗面化した後、本発明に適合する溶射皮膜として、Al粉末を1〜50wt%、残部が主としてa-TiO粉末を用い、高速フレーム溶射熱源中の溶射粒子の飛行粒子速度を 300 〜350 m/sec の条件で溶射して 100μm厚に成膜した。その後、一部の試験片については、さらにトップコートとして、同じ溶射条件でa-TiOのみのものと、1wt%のAlを含有するa-TiOをそれぞれ50μm厚に施工したものと、アンダーコートとして100 %Alを100 μm、その上にトップコートとして5wt%Al−a-TiO皮膜を形成させた複合溶射皮膜を形成した。一方、比較用の溶射皮膜としては、SS400 基材の片面に、a-TiOのみの溶射材料を直接、熱源中の飛行速度を変化させて 100μm厚に形成したものを準備するとともに、一部の試験片に対しては大気プラズマ溶射による皮膜も作製した。
(2) 腐食試験方法自然環境下の腐食反応を加速させるため、JIS Z 2371規定の塩水噴霧試験を500 時間実施した。但し、100 時間毎に試験を中断して、溶射皮膜からの赤さびの発生状況を観察した。なお、試験に先立ち、試験片の裏面 (裸面) および端面に対しては塗装を施して基材の露出面がないようにした。
(3) 腐食試験結果表1に塩水噴霧試験結果をまとめた。この結果から明らかなように、比較例のSS400 基材にa-TiO溶射皮膜を直接形成したもの (No.7〜9)は、100 時間後に多量の赤さびを発生しており、炭素鋼基材に対する防食性能に乏しいことが判明した。これに対し、本発明に適合する皮膜は、アンダーコートとしてAlを含有するa-TiOを施工するか (No.1〜5)、100 %Alを施工しているため、500 時間後においても赤さびの発生は全く認められず、Al成分によるSS400 基材の防食作用が行われていることがわかった。なお、試験片No.6に代えて、アンダーコートとして、純Zn、15wt%Zn−85wt%Al、95wt%Al−5wt%Mgをそれぞれ 100μm厚に施工した後、その上にa-TiOを300 〜350 m/sec の飛行速度で50μm厚に形成させた複合溶射皮膜についても調査したが、500 時間後の赤さびの発生は認められなかった。
【0032】
【表1】

【0033】実施例2この実施例では、本発明に適合する例の溶射皮膜と比較例の溶射皮膜のNO除去率を、溶射直後と屋外へ曝露した後のものについて調査して、その耐久性能を評価した。
(1) 供試皮膜試験片実施例1と同じSS400 基材試験片の全面に対し、高速フレーム溶射法によって本発明適合例としての溶射皮膜と比較例のa-TiO皮膜を形成した。なお、比較例のa-TiO皮膜の一部には、大気プラズマ溶射による皮膜も追加した。
(2) 皮膜の評価試験方法皮膜の評価は、さきに図3に示したNOの分解試験装置を用い、溶射成膜直後の新鮮な表面と屋外に6ヵ月間曝露した後の皮膜についてNOの除去率を測定した。なお、試験用のガスとしては、湿度50%、NO含有量0.5 ppm のものを1分間当たり 100 ml 流通した。
(3) 試験結果試験結果を表2に示した。この結果から明らかなように、a-TiOをSS400 基材上に直接成膜した皮膜 (No.6) は、溶射熱源による被曝時間が短いためr-TiOへの変化が少なく (a-TiOの残存率が高い) 、成膜直後では高いNO分解率を示した。しかし、6ヵ月間屋外に曝露すると、試験片は全面にわたって赤さびを発生して溶射皮膜の表面にまで汚染が進行し、NO分解率は殆ど認められなくなった。また、この皮膜試験片では、太陽光がとどかない裏面の赤さびの発生が顕著であった。プラズマでa-TiOを成膜した試験片 (No.7) では、溶射直後はもとより6ヵ月間の曝露後ともNOの分解性能はなかった。この皮膜にも多量の赤さびの発生が認められた。これに対し、本発明に適合する溶射皮膜を施したもの (No.1〜5)は、溶射直後から高いNO分解性能を発揮し、屋外曝露しても皮膜を構成するAl,Al−Mg合金の防食作用によって赤さびの発生が抑制されたため、長期間にわたって高いNO分解性能を維持した。また、本発明例に係る試験片では、太陽光の当たらない裏面においても赤さびの発生は認められなかった。
【0034】
【表2】

【0035】実施例3この実施例では、被溶射施工基材として、すでに溶融亜鉛めっきや溶融亜鉛−アルミニウム合金めっきを施した炭素鋼を用い、この上に本発明に適合する溶射皮膜を形成した後、その耐食性を塩水噴霧試験によって評価した。また、比較のため溶融めっきのみのものと無処理の炭素鋼試験片を用いた。
(1) 供試皮膜試験■ 溶融亜鉛めっき鋼試験片 (幅50mm×長さ 100mm×厚さ5mm)■ 溶融亜鉛−アルミニウム合金試験片 (55wt%Al−45wt%Zn合金を溶融めっきした、幅50mm×長さ 100mm×厚さ5mm)上記基材の片面のみに、Al,Zn,Al−Zn合金,Al−Mg合金をそれぞれ40wt%、a-TiOへ添加してなる本発明例の溶射材料を用い、厚さ150 μmの溶射皮膜を形成した。その他、本発明に適合する例として、溶融亜鉛−アルミニウム合金めっき基材上にa-TiOのみを80μm厚に形成したものも作成した。以上の皮膜の形成には、高速フレーム溶射法によって熱源中の溶射粒子の飛行速度を 200〜350 m/sec の条件で行った。
(2) 腐食試験方法実施例1同様な方法により行ったが、試験時間は最大2000時間とした。
(3) 腐食試験結果腐食試験結果を表3に示した。この結果から明らかなように、比較例の無処理の鋼板 (No.10)は、100 時間の試験ですでに全面にわたって赤さびが発生した。これに対し、溶融亜鉛めっきした鋼板 (No.8) は1500時間後、溶融亜鉛−アルミニウム合金めっきした鋼板 (No.9) は1600時間後になって、はじめて赤さびが発生するなど、かなりの耐食性を示した。これに対し、本発明に適合する例の溶射皮膜 (No.1〜6)は、さらに優れた耐食性を示した。即ち、これらは2000時間後も赤さびの発生は認められず、既存の防食皮膜の作用を損ねることなく、むしろその作用の延長効果を発揮していることが確認された。また、a-TiOのみを成膜した鋼板 (No.7) においても、基材の溶融亜鉛−アルミニウム合金層の腐食を促進することは認められず、むしろ赤さびの発生するまでの時間は延びる傾向が見られた。
【0036】
【表3】

【0037】
【発明の効果】以上詳述したように、Al,Zn,Al−Zn,Al−Mgなどの鋼鉄製基材に対して電気化学的に卑な電位を示す金属や合金とa-TiO粉末とからなる材料を溶射法によって成膜するか、あるいは前記の卑な電位を示す金属等の皮膜の上に、a-TiOやAl,Zn,Al−Zn,Al−Mgのなかから選ばれる1種以上の金属・合金とa-TiOとからなる複合溶射材料をトップコートとして形成した溶射皮膜は、鋼構造物の防食作用とともに大気汚染物質のNOの除去能力をも備え、しかも長期間にわたって耐食性と環境浄化特性を維持できるという特徴がある。このため、都市、重工業地帯、高速道路沿線などの鋼構造物に本発明の皮膜を施工することによって、鋼構造物の腐食防止および環境浄化に大きな効果が期待できる。
【出願人】 【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
【出願日】 平成12年5月23日(2000.5.23)
【代理人】 【識別番号】100080687
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 順三 (外1名)
【公開番号】 特開2001−335913(P2001−335913A)
【公開日】 平成13年12月7日(2001.12.7)
【出願番号】 特願2000−151385(P2000−151385)