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【発明の名称】 差厚高摩擦継手鋼板
【発明者】 【氏名】大北 茂

【氏名】岡田 忠義

【氏名】竹内 一郎

【氏名】小山 邦夫

【要約】 【課題】差厚高摩擦継手鋼板を提供する。

【解決手段】板厚の異なる2枚の高摩擦鋼板を突き合わせ、電子ビーム、又はレーザビーム溶接で特定したビード幅を有する差厚継手鋼板を作り、特定の熱処理を施す。また、上記高摩擦鋼板に開先を施し、特定した溶接ワイヤ、又は被覆溶接棒を用いて、サブマージアーク、ガスシールドアーク、又は被覆アーク溶接を行って差厚継手鋼板を作り、特定の熱処理を施す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋼板の厚さが6〜40mmであり、かつ化学成分として、質量%で、C:0.17〜0.35%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.6〜2.5%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる2枚の厚さの異なる鋼板を突合わせ継手を形成するように溶接し、その後850〜950℃から水焼入れしたことを特徴とする差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項2】 前記鋼板の化学成分として、さらに質量%で、Cu:0.05〜2%、Ni:0.1〜6%の一方または両方を含有することを特徴とする請求項1に記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項3】 前記鋼板の化学成分として、さらに質量%で、Cr:0.2%〜5%、Mo:0.2%〜5%、Nb:0.02〜1%、V:0.02〜1%、Ti:0.02〜1%のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項4】 前記鋼板の化学成分として、さらに質量%で、Al:0.001〜0.5%、B:0.0002〜0.01%の一方または両方を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項5】 前記溶接はエネルギービーム溶接により行なうことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項6】 前記溶接はサブマージアーク溶接により行なうことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項7】 前記溶接はガスシールドアーク溶接により行なうことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項8】 前記溶接は被覆アーク溶接により行なうことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項9】 溶接金属の化学成分として質量%で、C:0.13〜0.35%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.6〜2.5%を含有し、残部がFeおよび不可避的成分からなることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項10】 溶接金属の化学成分として、さらに質量%で、Cu:0.05〜2%、Ni:0.1〜6%の一方または両方を含有することを特徴とする請求項9に記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項11】 溶接金属の化学成分として、さらに質量%で、Cr:0.2%〜5%、Mo:0.2%〜5%、Nb:0.02〜1%、V:0.02〜1%、Ti:0.02〜1%のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項9または10に記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項12】 溶接金属の化学成分として、さらに質量%で、Al:0.001〜0.5%、B:0.0002〜0.01%の一方または両方を含有することを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項13】 溶接電極材の化学成分として、溶接電極全重量に対し質量%で、C:0.13〜0.35%、Si:0.3〜2.5%、Mn:0.6〜2.5%を含有し、残部がフラックス剤の他はFeおよび不可避的成分からなることを特徴とする請求項7または8に記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項14】 溶接電極材の化学成分として、さらに溶接電極全重量に対し質量%で、Cu:0.05〜2%、Ni:0.1〜6%の一方または両方を含有することを特徴とする請求項13に記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項15】 溶接電極材の化学成分として、さらに溶接電極全重量に対し質量%で、Cr:0.2%〜5%、Mo:0.2%〜5%、Nb:0.02〜1%、V:0.02〜1%、Ti:0.02〜1%のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項13または14に記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【請求項16】 溶接電極材の化学成分として、さらに溶接電極全重量に対し質量%で、Al:0.001〜0.5%、B:0.0002〜0.01%の一方または両方を含有することを特徴とする請求項13ないし15のいずれかに記載の差厚高摩擦継手鋼板。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建築、橋梁鉄骨構造物、あるいはその他の鉄骨構造物のボルト、あるいはリベット接合に使用する継手鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、長大化する鋼構造物においては、耐震性向上等の要求や、さらなるコスト低減化の要求から鋼構造物自体の重量軽減化が重要な問題となっている。この鋼構造物の柱や梁をボルト、あるいはリベットで接合するときは、図3に示すように継手鋼板7を使用する。この継手鋼板は単にリベット13、あるいはボルトを保持するだけでなく、継手鋼板と柱材10、あるいは梁材11との間の摩擦を利用して接合力を高めている。したがって、この摩擦係数が高いほど、継手鋼板の面積を小さくでき、かつ、リベット、あるいはボルトの数を少なくできるメリットがある。すなわち、摩擦係数が高い継手鋼板は鋼構造物のコスト低減、重量軽減化に寄与できるのである。
【0003】高摩擦係数を実現する方法として、特開平6−146427号公報に見られるように継手鋼板の硬さを高め、かつ粗さを大きくする方法がある。また、特開平8−195256号公報、特開平8−291565号公報には、表面に突起を設ける方法、さらに特開平6−226404号公報には特定の鋼成分の板表面に凹凸加工を施した後に焼入れする方法などが提案されている。
【0004】一方、図2に示すように接合する柱や梁材の厚さが異なる場合、継手鋼板は厚さが異なるものを使用する。この板厚差を有し、かつ高摩擦係数を有する継手鋼板を以下、差厚高摩擦継手鋼板と称する。この差厚高摩擦継手鋼板は、圧延あるいは鍛造などで整形、製造することができるが、圧延の場合にはいろいろなサイズ毎に特殊な圧延ロールを準備しなければならず、また、鍛造の場合には製造能率などの問題があり、いずれも製造コストの面から適用は困難である。
【0005】そこで、2枚の板厚の異なる鋼板を突き合わせ、溶接して製造する方法が効率面で優れている。しかしながら、単に溶接したのでは高い摩擦力と溶接部の良好な靭性を兼ね備えたものを得ることは難しい。なぜならば、一般に鋼の靭性は硬くなるほど低下することが知られており、高摩擦鋼板はビッカース硬さHvで350以上のものが要求されている。このような高硬度では靭性の確保が非常に難しい。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は以上の背景に鑑み、溶接構造で差厚高摩擦継手鋼板を製造するうえでの問題点である高摩擦力と溶接部高靭性を確保する手段を確立し、建築あるいは橋梁で使用する差厚高摩擦継手鋼板を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】かかる課題を解決するために、本発明者らは高摩擦力と溶接部高靭性を兼ね備えた差厚高摩擦継手鋼板について検討を重ねた結果、鋼板の化学成分、溶接方法、溶接条件、さらに焼入れ条件を最適化することで上記課題が解決できることを新たに発見した。本発明はこの知見に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは、下記のとおりである。
(1)鋼板の厚さが6〜40mmであり、かつ化学成分として、質量%で、C:0.17〜0.35%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.6〜2.5%を含有し、さらに必要に応じて、Cu:0.05〜2%、Ni:0.1〜6%、Cr:0.2%〜5%、Mo:0.2%〜5%、Nb:0.02〜1%、V:0.02〜1%、Ti:0.02〜1%、Al:0.001〜0.5%、B:0.0002〜0.01%のいずれか1つ以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる2枚の厚さの異なる鋼板を突合わせ継手を形成するように溶接し、その後850〜950℃から水焼入れしたことを特徴とする差厚高摩擦継手鋼板。
(2)前記溶接はエネルギービーム溶接、サブマージアーク溶接、ガスシールドアーク溶接、被覆アーク溶接のいずれかにより行なうことを特徴とする上記(1)に記載の差厚高摩擦継手鋼板。
(3)溶接金属の化学成分として質量%で、C:0.13〜0.35%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.6〜2.5%を含有し、さらに必要に応じて、Cu:0.05〜2%、Ni:0.1〜6%、Cr:0.2%〜5%、Mo:0.2%〜5%、Nb:0.02〜1%、V:0.02〜1%、Ti:0.02〜1%、Al:0.001〜0.5%、B:0.0002〜0.01%のいずれか1つ以上を含有し、残部がFeおよび不可避的成分からなることを特徴とする上記(2)のサブマージアーク溶接、ガスシールドアーク溶接、被覆アーク溶接のいずれかによる差厚高摩擦継手鋼板。
(4)溶接電極材の化学成分として、溶接電極全重量に対し質量%で、C:0.13〜0.35%、Si:0.3〜2.5%、Mn:0.6〜2.5%を含有し、さらに必要に応じて、Cu:0.05〜2%、Ni:0.1〜6%、Cr:0.2%〜5%、Mo:0.2%〜5%、Nb:0.02〜1%、V:0.02〜1%、Ti:0.02〜1%、Al:0.001〜0.5%、B:0.0002〜0.01%のいずれか1つ以上を含有し、残部がフラックス剤の他はFeおよび不可避的成分からなることを特徴とする上記(2)のガスシールドアーク溶接または被覆アーク溶接による差厚高摩擦継手鋼板。
【0008】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施形態を具体的に説明する。図1は本発明の差厚高摩擦継手鋼板の外観図の一例である。同図において、1は薄手側高摩擦鋼板、2は厚手側高摩擦鋼板、3は溶接金属部、4はボルトあるいはリベット用穴である。本発明の差厚高摩擦継手鋼板は、まず、所定の組成で溶解、圧延し、厚さの異なる2枚の高摩擦鋼板を製造し、それを突合わせ継手を形成するように溶接した後、溶接余盛手入れ、必要に応じ鋼板表面に凹凸加工を施し、その後、水焼入れ処理して得られるものである。
【0009】ここで用いる高摩擦継手鋼板の厚さは6〜40mmである。6mmより薄い場合は素材の薄肉化効果が小さく、また、40mmを超える厚さではボルトの締め付け力が十分でなくなるとともに、溶接溶け込み深さが得られ難くなったり溶接変形が大きくなる等の健全な溶接を得ることが難しくなるためである。
【0010】次に高摩擦継手鋼板の素材となる鋼板の化学成分であるが、焼入れにより必要とする強度と靭性を得られるような成分とする必要がある。また溶接材料を使用しない電子ビーム溶接やレーザビーム溶接の場合は鋼板の成分がそのまま溶接金属の成分を支配することになるのでこの点も考慮する必要がある。以下に各成分元素の量について説明する。
【0011】Cは0.17〜0.35%とする。0.17%未満では焼入れ性不足で硬さが不十分であり、一方、0.35%を超えると焼入れ性過剰となり、硬さが高くなり過ぎ靭性が低下する。
【0012】Siは0.1〜0.5%とする。0.1%未満では脱酸不足で靭性が低下し、また、0.5%を超えると焼入れ前の結晶組織が粗大化して靭性が低下する。
【0013】Mnは硬さ、靭性確保に使用され、0.6〜2.5%とする。0.6%未満では焼入れ性が不足し硬さが不十分となる。一方、2.5%を超えると圧延などの加工時に割れ発生の危険があるため、2.5%を上限値とした。
【0014】上記の元素のほか必要によりCu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、Al、Bのうちのいずれか1つ以上を硬さ、靭性の確保のために添加する。以下のそれら元素について説明する。
【0015】Cuは析出硬化の作用によりフェライト相を強化する。単にCで焼入れ性を高めるより、Cuを利用した方が靭性を高める効果がある。しかし0.05%未満ではその効果は少なく、一方2%を超えると割れ発生の危険があり、その範囲は0.05〜2%が好ましい。
【0016】Niはフェライト相を強化し靭性を高めるが0.1%未満ではその効果は少なく、一方、6%を超えると割れ発生の危険がある。したがって0.1%〜6%が好ましい。
【0017】Crは炭化物を形成して強度を向上させるとともに焼入れ性を向上する。したがって単にCによって強度を上昇させるよりも高い靭性が得られる。0.2%未満ではその効果が小さく、一方5%を超えると割れ発生の危険がある。よって0.2〜5%の範囲が好ましい。
【0018】Moも炭化物を形成して強度、靭性を向上させるとともに焼入れ性を向上する。0.2%未満ではその効果が小さく、一方5%を超えると割れ発生の危険がある。よって0.2〜5%の範囲が好ましい。
【0019】Nbは炭化物を形成して強度を向上させる。0.02%未満ではその効果が小さく、一方1%を超えると靭性が低下し割れ発生の危険がある。よって0.02〜1%の範囲が好ましい。
【0020】Vは炭化物を形成して強度を向上させる。0.02%未満ではその効果が小さく、一方1%を超えると効果が飽和する。よって0.02〜1%の範囲が好ましい。
【0021】Tiは微細な炭化物、窒化物を形成して靭性を向上させる。0.02%未満ではその効果は少なく、1%を超えると材料の硬化が著しくなるので、その範囲は0.02〜1%が好ましい。
【0022】Alは脱酸作用があるとともに、組織を微細化して靭性を向上させる。0.001%未満ではその効果が少なく、一方、0.5%を超えると鋼の清浄度が劣化して靭性が低下する。
【0023】Bは組織を微細化して靭性を向上させると共に、焼入れ性を向上させる。0.0002%以下ではその効果が少なく、一方、0.01%を超えると材料の熱間加工時に割れが発生するおそれがある。
【0024】その他、鋼の不可避成分としてP、S等があるが、これらは少ないほど靭性は向上する。このため、P、Sはそれぞれ0.04%以下が好ましい。
【0025】2枚の板厚の異なる鋼板を効率的に突合わせ溶接する方法には、電子ビーム溶接、あるいはレーザビーム溶接のようなエネルギービーム溶接がある。しかし、溶接する高摩擦鋼板のCが0.17〜0.35%と比較的高いため、溶接割れが発生し易い。これを防ぐために、溶込み形状が細く乱れのないビードを形成することが要求される。
【0026】エネルギービーム溶接ではビーム入射側のビード幅が広い茸型の溶込みが普通であり、ここでは、(溶接金属断面積/板厚)の商を平均ビード幅と定義し、本発明者らはこの割れの発生しない平均ビード幅について検討した。その結果の一例を図4に示す。同図は電子ビーム溶接で板厚の異なる鋼板を突合わせ溶接したときの平均ビード幅と溶接割れとの関係を示したもので、平均ビード幅3.5mm以下で割れ発生のない良好な溶接継手が得られることが分かった。また、レーザビーム溶接でも同様な試験を行い、同じ結果を得ている。なお、どちらの溶接においても、溶接金属組成はMn等の若干の低下が認められたが、溶接後の熱処理で素材と同等の硬さ、靭性を確保できる。
【0027】電子ビーム、あるいはレーザビーム溶接等のエネルギービーム溶接は設備費が高いのがやや難点であり、これに代わる設備費が安く、かつ、高能率な溶接方法としてサブマージアーク溶接法、ガスシールドアーク溶接法、被覆アーク溶接法などのアーク溶接法がある。ただ、溶接金属部が素材と同等な高硬度、高靭性を有するためには溶接電極やフラックスなどの溶接材料を選定して、適切な溶接金属成分を得ることが重要となる。以下、本発明におけるサブマージアーク溶接法、ガスシールドアーク溶接法、被覆アーク溶接法の溶接金属化学成分の限定範囲を示す。
【0028】Cは0.13〜0.35%とする。0.13%未満では焼入れ不足で硬さが不十分であり、一方、0.35%を超えると焼入れ性過剰となり、靭性の確保が難しい。好ましくは、0.16〜0.30%とし、この範囲で焼入れ不足分はNi、Cr、Mo等を添加するとよい。
【0029】Siは0.1〜0.5%とする。0.5%を超えると結晶組織が粗大化して靭性が低下する。Siがあまり少ないと脱酸不足になるが、サブマージアーク溶接の場合にはフラックスから添加することもできる。この場合、Mn、Al、Ti等他の脱酸元素成分との関係もあるが、フラックスから添加される分も含め、少なくとも溶接金属Siは0.1%以上が好ましい。
【0030】Mnは0.6〜2.5%を必要とする。0.6%未満では焼入れ性が不足する。また、2.5%を超えるとワイヤ加工時に割れ発生の危険があるため、2.5%を上限値とした。
【0031】上記の元素のほか必要によりCu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、Al、Bのうちのいずれか1つ以上を硬さ、靭性の確保のために溶接金属に含有させる。これらの元素の溶接金属における含有範囲は先に述べた鋼板における場合と同様であり、範囲の限定理由も同様である。
【0032】なおサブマージアーク溶接においては、溶接金属成分は電極ワイヤからだけでなくフラックス成分によっても影響される。前述したSiの他にもC、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Nb、B等、いずれの成分もフラックスから添加することができる。当然、フラックスから合金材を添加する場合は、その量分だけ電極ワイヤの合金成分を少なくできる。また、フラックス組成は溶接金属中の酸素量に大きく影響し、この酸素量が靭性を決める重要な役割をする。このため、溶接金属酸素量が0.03%以下となる高塩基性フラックスを使用することが望ましい。
【0033】また、ガスシールドアーク溶接法も設備が簡単で、板厚によってはサブマージアーク溶接と同等以上の能率を有する。シールドガスとしては炭酸ガス、炭酸ガスとアルゴンとの混合ガス、さらにこれにヘリウム、あるいは水素等を添加したガスが使用される。
【0034】ガスシールドアーク溶接で使用する電極ワイヤ中のCは0.13〜0.35%、好ましくは、0.16〜0.30%で、Mnは0.6〜2.5%が適当であって、これらの値は先に述べた溶接金属における値と同様でその理由も同様である。またSiについては、使用するシールドガスの酸素分圧との関係で決められるが、いずれの場合でも0.3%未満では溶接金属にブローホールが発生し、2.5%を超えると結晶組織の粗大化で靭性の低下があり、Siは0.3〜2.5%の範囲内で選択することが好ましい。
【0035】また上記のC、Si、Mnのほか必要によりCu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、Al、Bのうちのいずれか1つ以上を硬さ、靭性の確保のために電極ワイヤに含有させる。これらの元素の含有範囲は先に述べた溶接金属における場合と同様であり、範囲の限定理由も同様である。なお電極ワイヤとしてはソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤいずれも適用可能であり、上記電極ワイヤの成分はフラックス入りワイヤにおいてはフラックスを含むワイヤ全重量に対する値である。ただし上記成分は金属としての成分であり、フラックス成分として酸化物、弗化物で存在する成分量、たとえばTiO2 中のTiは入らない。
【0036】被覆アーク溶接法も使用する差厚高摩擦継手鋼板の量が少ない時には簡便に利用できる溶接法である。これに使用する溶接電極材すなわち被覆アーク溶接棒の組成は、被覆剤を含む溶接棒全重量に対し、Cは0.13〜0.35%、好ましくは、0.16〜0.30%、Siは0.3〜2.5%、Mnは0.6〜2.5%が適当であって、これらの値は先に述べたガスシールドアーク溶接の電極ワイヤにおける値と同様である。その理由も同様であって、被覆アーク溶接棒においてもSiが0.3%未満では脱酸不足により溶接金属にブローホールが発生する等の問題が生ずる。
【0037】また上記の元素のほか必要によりCu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、Al、Bのうちのいずれか1つ以上を硬さ、靭性の確保のために溶接棒に含有させる。これらの元素の溶接棒における含有範囲は先に述べたガスシールドアーク溶接における電極ワイヤの場合と同様であり、範囲の限定理由も同様である。また被覆溶接棒は上記成分の他に被覆のフラックス成分を有する。なお上記成分は前記フラックス入りワイヤの場合と同様に金属としての成分であり、被覆中のフラックス成分として酸化物、弗化物で存在する成分量、たとえば炭酸塩を構成するCは上記のC量に入らない。また、被覆アーク溶接棒の種類としては、低温割れ防止の観点から低水素系溶接棒が好ましく、予熱を充分行うことにより作業性の良いイルミナイト系溶接棒も使用することができる。これらの溶接棒としては、JIS−Z3212で規定される低水素系溶接棒およびイルミナイト系溶接棒を使用できる。
【0038】上記のような溶接法で形成した差厚継手鋼板を850〜950℃に加熱した後水焼入れをして、高靭性、高摩擦係数を有する差厚高摩擦継手鋼板を得るものである。加熱温度が850℃未満であると加熱時に生成すべきオーステナイト相が少なくなり、焼入れ硬化が不十分となる。一方、950℃を超えると組織が粗大になり靭性が低下するとともに材料の酸化が著しくなる。なお、本発明は特開平6−226404号公報に示されるような表層部が高炭素当量で、中央部が低炭素当量の複層鋼板にも適用できる。
【0039】
【実施例】以下に実施例で本発明を詳細に説明する。まず、鋼板素材について検討した。表1は各種成分の鋼を溶解、圧延して各種板厚の鋼板を製造した後、水焼入れ熱処理を行った鋼板に対して、硬さ測定とシャルピー衝撃試験を行い、その品質判定結果を示したものである。硬さ測定はビッカース硬さ350以上を硬さ良好「○」、未満を不良「×」とし、シャルピー衝撃試験はJIS−Z2202の4号試験片を作製し、温度0℃での試験で吸収エネルギー27J以上を良好「○」、未満を不良「×」とした。なお、板厚が薄く4号試験片の採取ができないものについては5mm幅サブサイズ試験片を作製し、吸収エネルギーは測定値の2倍の値を使用した。
【0040】
【表1】

【0041】表1に示すように、試験番号S1からS5までの本発明では硬さ、靭性ともいずれも良好であった。比較例の試験番号S6では十分な焼入れ処理をしたが、C、Si、Mnがいずれも低く、硬さ、靭性とも不十分であった。試験番号S7も比較例で、C、Si、Mnは本発明の試験番号S2と同等であるが、水焼入れ時の加熱温度が830℃と低いため、十分な硬さが確保できなかった。比較例の試験番号S8ではCが0.4%と高く硬さは十分であったが、焼入れ温度が高過ぎるため吸収エネルギーが低く不適であった。また、試験番号S9の比較例では、合金成分を多く添加したが、板厚が42mmと厚いため、焼入れが十分でなく、硬さが低い値であった。
【0042】次に表1で用いた鋼板を組み合わせて、電子ビーム溶接、およびレーザビーム溶接で突合わせ溶接して差厚継手鋼板を作製し、それを熱処理した後、溶接部から試験片を採取し、品質判定を行った。判定基準は硬さ、吸収エネルギーは鋼板の場合と同様であり、その他、平均ビード幅、溶接部の割れも調査した。これらの試験条件、ならびに品質判定結果を表2にまとめて示す。
【0043】
【表2】

【0044】試験番号B1からB5までの本発明では、鋼板組み合わせS1からS5まで、いずれの試験でも、平均ビード幅が3.5mm以下に収まっており、溶接部に割れ発生がなく、かつ、熱処理温度を本発明の850〜950℃で水焼入れしているので硬さ、靭性とも、いずれも良好であった。
【0045】一方、平均ビード幅が3.5mmを超えた比較例の試験番号B6からB8ではいずれも溶接部に割れが発生し、熱処理後の硬さは良好であったが、シャルピー衝撃試験片は採取できなかった。
【0046】また、熱処理温度が本発明より低い比較例の試験番号B9、高過ぎる試験番号B10では割れ発生はなかったものの、前者は硬さ不足、後者は靭性が低下した。さらに、水焼入れに代えて油焼入れした比較例の試験番号B10、焼入れせずに大気放冷した試験番号B11では、いずれも焼入れ不足となり、硬さが十分ではなかった。
【0047】続いて試験番号S4とS5で用いた鋼板、板厚12、20mmに、図5に示すように開先角度60°、ルート面高さ3mmのY開先加工を施して2電極サブマージアーク溶接で突合わせ溶接して差厚継手鋼板を作製した。溶接条件は電極間隔70mm、先行/後行電極ワイヤ径4.8/6.4mm、先行/後行溶接電流1000A/800A、先行/後行溶接電圧38/42V、溶接速度60cm/分の一定条件で行った。使用したフラックスはJIS Z3352,FS−BN2相当の高塩基性フラックスである。また、使用したワイヤの化学成分は表3の溶接法、SAWに示す通りである。なお、本試験では先行/後行電極ワイヤ成分は同一のものを使用した。
【0048】
【表3】

【0049】そして、作製したこれら差厚継手鋼板を熱処理した後、溶接部から試験片を採取し、溶接金属化学成分分析、ならびに品質判定を行った。判定基準は鋼板の場合と同様である。これらの試験条件、溶接金属化学成分分析、ならびに品質判定結果を表4にまとめて示す。
【0050】
【表4】

【0051】本発明ワイヤ、W1からW4を用い、かつ、本発明の熱処理温度である850から950℃の範囲内で水焼入れした試験番号C1からC4では、硬さ、靭性とも良好であった。一方、比較例のC、Mnが低いW5ワイヤを用いた試験番号C5では、適正な熱処理温度で水焼入れしたにもかかわらず、硬さが不十分であった。また、Cが高いワイヤW6、およびMnが高いワイヤW7を用いた試験番号C6およびC7では硬さは満足したが、靭性が劣化した。
【0052】次に試験番号S1とS4で用いた鋼板、板厚6、12mmを、図6に示すように開先角度60°のV開先加工を施して2電極MAG溶接、ならびに低水素系被覆アーク溶接で突き合わせ溶接を行い、差厚継手鋼板を作製した。2電極MAG溶接の溶接条件は電極間隔20mm、先行/後行電極ワイヤ径1.6/1.6mm、先行/後行溶接電流380A/300A、先行/後行溶接電圧24/26V、溶接速度1.2m/分の一定条件で行った。使用したシールドガスはAr+20%CO2 を使用した。また、使用したワイヤの化学成分は表3の溶接法、MAGに示す通りである。ここで、W10ワイヤのみはフラックス入りワイヤである。なお、本試験では先行/後行電極ワイヤ成分は同一のものを使用した。
【0053】一方、被覆アーク溶接の溶接条件は棒径4.0mm、棒長400mm、溶接電流範囲は170から180A、直流電源を使用し、棒プラスで3層の積層溶接を行った。また、使用した被覆溶接棒の化学成分は表3の溶接法、SMAWに示す通りである。
【0054】そして、作製したこれら差厚継手鋼板を熱処理した。次いで溶接部を全長、X線検査し、欠陥の有無を確認した後、溶接部から試験片を採取し、品質判定を行った。判定基準は鋼板の場合と同様である。これらの溶接部品質判定結果を表5に示す。
【0055】
【表5】

【0056】2電極MAG溶接で本発明ワイヤ、W8からW10を用い、かつ、本発明の熱処理温度である850から950℃の範囲内で水焼入れした試験番号C8からC10では、X線検査で欠陥もなく、硬さ、靭性とも良好であった。一方、比較例のCが高く、Si、Mnが低いW11ワイヤを用いた試験番号C11では、溶接金属が脱酸不足で溶接部にブローホールが発生した。また、Cが低くSi、Mn、Niなどが高いワイヤW12を用いた試験番号C12では溶接欠陥はなかったものの、硬さ、靭性が不十分であった。
【0057】被覆アーク溶接で本発明被覆溶接棒、W13、W14を用い、かつ、本発明の熱処理温度範囲内である900℃で水焼入れした試験番号C13、C14は、X線検査で欠陥もなく、硬さ、靭性とも良好であった。一方、比較例のCが高く、Si、Mnが低いW15被覆溶接棒を用いた試験番号C15では、靭性が劣化した。また、Cが低く、Si、Mn、Niなどが高い被覆溶接棒W16を用いた比較例の試験番号C16では硬さは満足したものの、溶接部に微小な割れが多発した。
【0058】
【発明の効果】以上述べてきたように本発明によれば、差厚高摩擦継手鋼板を圧延や鍛造といった効率の悪い方法で製造することなく、2枚の高摩擦鋼板を突き合わせ溶接することによって、種々のサイズの差厚高摩擦継手鋼板を容易に製造できる。したがって本発明差厚高摩擦継手鋼板を建築、橋梁などの分野に適用すれば継手鋼板と柱、あるいは梁材との間の摩擦をさらに強化でき、より小さな継手鋼板で済み、また、ボルトやリベットの数を減らして構造物の重量軽減や、コスト低減に寄与できるので、構造物が長大化する昨今、産業上の利用価値は大きいものである。
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成12年6月1日(2000.6.1)
【代理人】 【識別番号】100094972
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康弘
【公開番号】 特開2001−342536(P2001−342536A)
【公開日】 平成13年12月14日(2001.12.14)
【出願番号】 特願2000−164815(P2000−164815)