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【発明の名称】 表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼
【発明者】 【氏名】石丸 詠一朗

【氏名】福元 成雄

【氏名】西村 敏和

【氏名】福田 雅之

【氏名】沖森 麻佑巳

【要約】 【課題】表面疵や酸洗むらのない表面性状の優れたオーステナイト系ステンレス鋼薄鋳片を提供する。

【解決手段】質量%で、Al:0.002〜0.05%、N:0.01〜0.1%、Ti:0.005〜0.05%、Mg:0.0005〜0.01%を含有するオーステナイト系ステンレス鋼において、Al及びTiの含有量、Al(%)及びTi(%)が、2≦Ti(%)/Al(%)、を満たすとともに、Ti酸化物、Ti窒化物、Mg酸化物、MgO-Al23 スピネル相のうち少なくとも1 種を含有するオーステナイト系ステンレス鋼である。また、該ステンレス鋼において、鋳片厚み方向中央に形成される等軸晶部におけるNi偏析比が、0.9〜1.05であると、加工後の表面性状がより向上する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 質量%で、Al:0.002〜0.05%、N:0.01〜0.1%、Ti:0.002〜0.05%、Mg:0.0005〜0.01%を含有するオーステナイト系ステンレス鋼において、Al及びTiの含有量、Al(%)及びTi(%)が、2≦Ti(%)/Al(%)
を満たすとともに、Ti酸化物、Ti窒化物、Mg酸化物、MgO-Al23 スピネル相のうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項2】 質量%で、Al:0.002〜0.05%、N:0.01〜0.1%、Ti:0.002〜0.05%、Mg:0.0005〜0.01%を含有するオーステナイト系ステンレス鋼において、鋳片厚み方向中央に形成される等軸晶部におけるNi偏析比が、0.9〜1.05であり、かつ、Al及びTiの含有量、Al(%)及びTi(%)が、2≦Ti(%)/Al(%)
を満たすとともに、Ti酸化物、Ti窒化物、Mg酸化物、MgO-Al23 スピネル相のうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする加工後の表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、双ドラム式連続鋳造により製造した表面性状の優れたオーステナイト系ステンレス鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】これまで、双ドラム式連続鋳造方法、即ち、軸が平行で互いに逆方向に回転する一対の冷却ドラムとサイド堰で形成される湯溜り部に溶鋼を注入し、該冷却ドラムの周面で該溶鋼を冷却・凝固せしめ、凝固シェルを生成しつつ鋳片を連続鋳造する方法を用いて、表面性状の優れたオーステナイト系ステンレス鋼を製造することが、数多く試みられている。
【0003】しかしながら、連続鋳造時、上記湯溜り部の溶鋼面に、鋳造雰囲気中の酸素による湯面の酸化や、溶鋼中の介在物浮上によって、酸化物を主体とするスカム(以下「スカム」という)が浮遊し、このスカムが、冷却ドラムの回転とともに流動する溶鋼に付随して流動し、冷却ドラムの周面に沿って湯溜り表面下へ巻き込まれ、冷却ドラムの周面と生成途中の凝固シェルとの間に侵入して、鋼薄鋳片の表面における肌荒れや割れ等の表面欠陥の発生原因となることが知られている。
【0004】例えば、溶鋼表面に浮遊するスカムの融点が高いと、スカムは、不均一な斑点となって、該溶鋼表面上に安定して浮遊し、このスカムが、流動する溶鋼に付随して流動し、冷却ドラムの周面に達すると、凝固シェルが生成する前に該周面上で凝固が始まり、結局、冷却ドラムの周面と生成途中の凝固シェルとの間に残留して、連続鋳造された鋳片表面に不均一な斑点状となって付着・残存することになる。
【0005】この表面欠陥を抱える鋼薄鋳片をそのまま圧延すると、致命的な製品欠陥(鋳片割れ)を誘発することになるので、連続鋳造時、この表面欠陥の発生をできるだけ抑制する必要があるが、そのためには、冷却ドラムの周面と生成途中の凝固シェルとの間へのスカムの侵入をできるだけ抑制し、両冷却ドラムの周面において、凝固シェルを安定して成長させることが重要である。
【0006】スカムは酸化物を主体とする浮遊物であるから、上記湯溜り部を囲う雰囲気を非酸化性雰囲気または不活性雰囲気にして、スカムの発生を抑制する技術が提案されているが(特開昭62−130749号公報、特開平3−27848号公報、参照)、冷却ドラムの隙間から該冷却ドラムの回転に伴って外気が引き込まれたり、また、溶鋼の種類や清浄度によって溶鋼から酸化物が浮上したり、溶鋼注入ノズル等の耐火物に起因して酸化物が生成・浮上したりして、これらの技術では、スカムの生成を完全に防止することは困難であった。
【0007】そこで、本出願人は、普通鋼の双ベルト式連続鋳造方法において、スカムの生成抑制の観点からではなく、スカムの存在が表面欠陥の発生に結びつかないようにスカムの性状を改善するとの観点から、鋳型内溶鋼表面に浮遊するスカムの融点を、1400℃以下にする技術を提案した(特開平8−33951号公報、参照)。
【0008】この技術は、スカムを粘性の小さい低融点スカムにし、溶鋼温度において、サラサラな性状にすれば、該スカムは、凝固シェルに捕捉され難いものとなるとともに、かりに、凝固シェルに捕捉され巻き込まれても、スカムは薄く延ばされ微小化して鋳片表面上で分散するから、薄鋳片における表面欠陥の発生原因にならないという着想に基づくものであり、実際に、普通鋼における表面欠陥の発生抑制に効果があるものである。
【0009】しかしながら、この技術を、ステンレス鋼薄鋳片の連続鋳造に適用した場合、鋳型と溶鋼は、直接、接しているから、鋳型と溶鋼の間に、低融点で粘性が小さいスカムが存在すると、この部分では核生成サイトが減少して、過冷却状態となり、この状態の部分では準安定γ相(白抜け組織)が生成し、鋳造後の酸洗により、酸洗むらとして鋳片表面に出現することが判明した。
【0010】このように、ステンレス鋼薄鋳片の連続鋳造において、スカムに起因して発生する酸洗むらと表面疵は、スカムの性状の点でみれば、トレードオフの関係にあり、これら表面欠陥の発生をともに抑制することは難しく、技術課題として残されているのが現状である。一方、SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性に優れており、その用途は、厨房用、食器用をはじめ多岐にわたっている。
【0011】したがって、オーステナイト系ステンレス鋼に求められる品質は、表面の美麗さはもとより、研磨性、加工性、及び、加工後の表面性状にまで及んでいる。これまで、これらの特性・性状を満足するオーステナイト系ステンレス鋼を製造するために、これまで、種々の製造方法が発明されている。例えば、特開平5−820966号公報記載の方法においては、成形後の表面性状を向上させるために、成分と冷却ドラムの押力との組合せにより、等軸晶部のNi偏析度を規定し、偏析に起因する粗大な肌荒れを防止している。
【0012】また、特開平7−268556号公報記載の方法においては、溶鋼過熱度と成分、及び、結晶粒径を限定することにより、成形加工時の粗大な肌荒れだけでなく、微小な肌荒れをも防止して、表面性状の優れた鋼製品の供給を可能にしている。これらの方法においては、製造条件を工夫することにより、種々の問題を改善しているが、一方、その分、生産性の向上が期待できない。
【0013】したがって、表面性状の優れたオーステナイト系ステンレス鋼の製造においては、将来的には、製造条件の一層の緩和を図ることにより、更なる生産性の向上を目指すことが必要である。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明は、ステンレス鋼の薄鋳片の連続鋳造において、薄鋳片の表面性状とスカム性状との冶金学的関係を解明し、スカムがある程度の量、冷却ドラムの周面と生成途中の凝固シェルとの間へ侵入することは避けられないにしても、鋳片の表面性状に影響を与えないような性状のものとすることにより、酸洗むらと表面疵をともに抑制した、表面性状の優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提供するとともに、さらに、鋳片内部の等軸晶の形成を、酸化物や、析出物により均一化して、凝固組織の形成時に生じるNi偏析を軽減し、加工後も表面性状が優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】上述したように、スカムに起因して発生する酸洗むらと表面疵は、スカムの性状の点でみれば、トレードオフの関係にあるが、この性状は融点に着目したものである。しかし、表面欠陥の直接の原因となるのは、融点の高低にかかわらず、スカムが凝固シェルに巻き込まれた後のスカムの鋳片表面上での挙動である。
【0016】そこで、本発明者は、スカムの融点にくわえ、スカムの性状・挙動を支配する成分組成に新たに着目し、鋭意研究を行った。まず、本発明者は、スカムにおける液相と固相の割合が、酸洗むらの発現の程度に、どのように影響するかを調査した。その結果を図1に示す。図1中、黒丸は、MgO-Al23 スピネル相が析出したものであり、点線で結んだ“黒丸と白丸”及び“黒丸と黒丸”は、同一チャージのサンプルによるものである。
【0017】この図から、スカムの融点を高融点化し、スカムの固相率を高めれば、スカムの性状が、冷却ドラムの周面と生成途中の凝固シェルとの間へ侵入し難いものとなり、酸洗むらの発生は抑制されることがわかる。このことは、従来の知見からある程度予測できることであるが、本発明者は、スカムの固相率が低い場合でも、酸洗むらの発生が抑制されているものがあることに着目し、鋳造組織を観察したところ、該組織中には、MgO-Al23 スピネル相が析出・分散していることを見いだした(図1、参照)。
【0018】即ち、上記研究から、次の知見を得ることができた。
(1)スカムの固相率を高めれば、スカムの、冷却ドラムの周面と生成途中の凝固シェルとの間への侵入を抑制することができ、その結果、酸洗むらの発生が抑制される。
(2)スカムの固相率が低くて、スカムが、冷却ドラムの周面と生成途中の凝固シェルとの間へ侵入しも、スカムとともに侵入したMgO-Al23 スピネル相がδ結晶粒の凝固核生成接種核として作用し、その結果、酸洗むらの発生が抑制される。
【0019】そこで、本発明者は、スカムの鉱物相が、薄鋳片の表面性状に何らかの影響を与えているのではないかとの発想のもとに、さらに、スカムの液相率と組成について調査研究を進めたところ、図2に示す結果を得、この結果から、次の知見を得ることができた。
(3)溶鋼中〔Al〕濃度を増すことにより、スカム中のAl23 濃度及び固相率を高めていき、ある〔Al〕濃度のところで、MgO-Al23 (δ結晶粒の凝固核生成接種核として作用する)を析出相として析出させることができる(図2、参照)。
【0020】そして、上記知見によれば、Al及びMgを所定量含有するオーステナイト系ステンレス鋼を双ドラム式連続鋳造により鋳造するとき、該鋼中の〔Al〕濃度を所定の範囲に調整し、溶鋼表面に、融点が高く、MgO-Al23 スピネル相(溶鋼中でδ結晶粒の凝固核生成接種核として作用する。)を含むスカムを形成すれば、表面性状の優れたオーステナイト系ステンレス鋼鋳片を製造することができるとの技術思想を想起することができる。
【0021】また、本出願人は、特願平11−11193号において、オーステナイト系ステンレス鋼の鋳造の際、溶鋼中のMg−Ti系介在物の個数を調整することにより鋳造組織を微細化し、表面性状を改善できることを提案しているが、このステンレス鋼においては、Mg−Ti系介在物がδ結晶粒の生成核として作用するものと推測される。
【0022】すなわち、スカムに由来する介在物にしろ、溶鋼中に存在する介在物にしろ、これら介在物の性状・挙動が、オーステナイト系ステンレス鋼の表面性状を左右することは明らかである。そこで、本発明は、Al及びMgを所定量含有するオーステナイト系ステンレス鋼を双ドラム式連続鋳造により鋳造するとき、さらに、所定量のTiを添加すれば、該ステンレス鋼の表面性状はより改善されるとの技術思想を前提にしてなされたものであって、「質量%で、Al:0.002〜0.05%、N:0.01〜0.1%、Ti:0.002〜0.05%、Mg:0.0005〜0.01%を含有するオーステナイト系ステンレス鋼において、Al及びTiの含有量、Al(%)及びTi(%)が、2≦Ti(%)/Al(%)
を満たすとともに、Ti酸化物、Ti窒化物、Mg酸化物、MgO-Al23 スピネル相のうち少なくとも1種以上を含有する」、ことを要旨とするものである。
【0023】また、本発明者は、上記オーステナイト系ステンレス鋼に、冷延、次いで焼鈍を施して製品板とし、製品板について簡易成形試験を行い、試験後の表面凹凸を調査した。その結果、Mgを添加した鋼では、加工面の凹凸は小さく、また、MgとTiを複合で添加した鋼では、加工面の凹凸が全く認められなかった。この理由を調査するため、薄鋳片及び製品板について組織観察を行い、さらに、電子顕微鏡や、X線マイクロアナライザーを用いて、介在物及びNi偏析を観察した。薄鋳片においては、微細化した凝固組織が観察された。特に、等軸晶部の凝固組織が均一化されていて、Ni偏析も一様となっていた。
【0024】これに加えて、凝固組織の中には、単独のMg介在物、単独のTi窒化物、Mg系酸化物とTi窒化物の混合物、Tiの酸化物と窒化物の混合物、及び、MgO−Al2 3スピネル相が観察された、特に、等軸晶部において、多数存在していることが観察された。これらの観察結果から、本発明者は、オーステナイト系ステンレス鋼の連続鋳造において、微量のTi、AlとN量の関係を制御することにより、凝固組織を微細化することや、等軸晶組織を制御することが容易となり、加工後の表面性状を改善できるという知見を得た。
【0025】本発明は、上記知見に基づきなされたものであって、「質量%で、Al:0.002〜0.05%、N:0.01〜0.1%、Ti:0.002〜0.05%、Mg:0.0005〜0.01%を含有するオーステナイト系ステンレス鋼において、鋳片厚み方向中央に形成される等軸晶部におけるNi偏析比が、0.9〜1.05であり、かつ、Al及びTiの含有量、Al(%)及びTi(%)が、2≦Ti(%)/Al(%)
を満たすとともに、Ti酸化物、Ti窒化物、Mg酸化物、MgO-Al23 スピネル相のうち少なくとも1種以上を含有する」、ことを要旨とするものである。
【0026】
【発明の実施の形態】本発明のオーステナイト系ステンレス鋼(以下「本発明鋼」という。)について、さらに詳細に説明する。本発明鋼は、質量%で、Al:0.002〜0.05%、N:0.01〜0.1%、Ti:0.002〜0.05%、Mg:0.0005〜0.01%を含有することを前提とする。
【0027】Alは、MgO-Al23 スピネル相の形成を促進するために、0.002%以上の添加が必要であるので、下限を0.002%とする。しかし、0.05%を超えて添加すると、Al23 相の析出量が多くなりすぎ、凝集して過大なものとなり、析出したAl23 相が、冷却ドラムの周面と生成途中の凝固シェルとの間へ巻き込まれた場合には、そのまま表面欠陥を形成することになる。それ故、Alの上限を0.05%とする。
【0028】Mgは、MgO及び/またはMgO-Al23 スピネル相のMg系介在物を形成し、薄鋳片表層及び内部の組織を微細化するために、0.0005%以上の添加が必要であるので、下限を0.0005%とする。そして、Tiと複合して添加した場合に組織の微細化効果が向上する。しかし、0.01%を超えて添加すると、MgOの生成量が多くなりすぎ、ノズル詰まりの原因となったり、表面欠陥を形成したりするので、上限を0.01%とする。
【0029】Tiは、Ti酸化物やTi窒化物(TiN)を形成し、薄鋳片表層及び内部の組織を微細化するために、0.005%以上添加する必要がある。しかし、0.05%を超えて添加すると、粗大なTi酸化物やTi窒化物(TiN)が生成してしまい、組織の微細化効果が得られないうえ、さらに、この粗大なTi酸化物やTi窒化物(TiN)は、熱間圧延時に亀裂の起点になるので、上限を0.05%とする。
【0030】Tiを、Mgと複合して添加することにより、凝固組織の微細化効果は向上するが、そのTi量は、Alの添加量との関係で、2≦Ti(%)/Al(%)
を満たす必要がある。これは、図3に示すように、Ti(%)とAl(%)を、2≦Ti(%)/Al(%)を満たすように調整すれば、Al酸化物がTi酸化物へと形態変化し、このTi酸化物を起点として、TiNが微細に分散して析出して、表面性状が良好な製品板(図3中“白丸”)が得られるからである。なお、図3中、×は、表面性状が不良なものであり、また、△は、表面性状は良好であるが、疵が多発したものである。
【0031】Ti(%)/Al(%)が2未満であると、Al酸化物が多くなり、TiNは、析出核を持たず、凝固後に析出するので、凝固組織の微細化効果は得られない。Nは、オーステナイトを安定化する元素であり、かつ、TiNを生成するのに必要な元素であるので、0.01%以上添加する必要がある。しかし、0.1%を超えて添加すると、鋳片が硬くなり、加工性を損なうので、上限を0.1%とする。
【0032】上記成分組成からなる本発明鋼は、さらに、Ti酸化物、Ti窒化物、Mg酸化物、MgO-Al23 スピネル相のうち少なくとも1 種を含有することを特徴とする。これらのTi酸化物、Ti窒化物、Mg酸化物、及び、MgO-Al23 スピネル相は、δ相との格子整合性が非常によく、δ結晶粒の凝固核生成接種核として作用する。それ故、これらのTi酸化物、Ti窒化物、Mg酸化物、及び、MgO-Al23 スピネル相が、溶鋼表面に浮遊するスカム中に存在して、凝固シェルに巻き込まれても、冷却ドラムの周面と生成途中の凝固シェルとの間において、δ結晶粒の凝固核生成接種核として作用するので、薄鋳片の表層組織を微細化することができ、表面性状の優れたステンレス鋼を得ることができる。
【0033】また、本発明において、加工後の表面特性が向上する理由は、次のように考えられる。Mg系介在物は、溶鋼の凝固時に凝固核として作用する。それ故、溶鋼中にMg系介在物が多量に存在すると、鋳造機の湯溜り部に、多数の初晶凝固塊が生成する。この凝固塊が集積して等軸晶が形成されると、等軸晶内部の結晶粒径及び組成がマクロ的に均一化する。その結果、結晶粒径の差や塊状のNi偏析に起因する加工時における加工硬化挙動の差が小さくなり、加工時の表面性状が極めて向上する。
【0034】本発明の作用効果は、SUS304のみならず、他のオーステナイト系ステンレス鋼でも同様に得られる。なお、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、Crを11%以上含有し、オーステナイト相を主な相とするものである。Ni偏析の観察は、10%硝酸水を用いる電解エッチングにより組織を現出し、等軸晶部を特定した後、X線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて行うのがよい。Ni偏析度は、等軸晶部のNi濃度をEPMAにより測定し、この測定値と母地平均Ni濃度との比で算出する。
【0035】介在物の組成は、鋼塊または鋼板の任意の断面において鏡面研磨した面を、SEM−EDSで観察して介在物を抽出する方法、あるいは、X線マイクロアナライザー(EPMA)を用いる方法で調査するのがよい。SEMを用い観察する場合は、観察倍率を2000〜10000倍とし、電子ビーム径を最小にして観察する。介在物が観察された際には、付属のEDSにより定量分析を行い、介在物内の酸化物重量比を算出する。なお、X線マイクロアナライザー(EPMA)を用いても、上記酸化物重量比を算出できる。
【0036】
【実施例】以下に、本発明の実施例を示す。
(実施例1)オーステナイト系ステンレス鋼に種々の元素を添加して、薄鋳片を製造し、次いで、酸洗、焼鈍、冷延、焼鈍(1080℃)を施し、厚さ0.4〜1.0mmの鋼板を製造した。この鋼板の表面性状の評価を行うとともに、90°曲げ加工した鋼板の表面特性を粗さ計を用いて調査した。また、この薄鋳片のC断面組織を観察し、さらに、等軸晶部のNi濃度を、EPMAにより、任意の3箇所で測定した。そして、この測定Ni濃度と母地平均Ni濃度との比(Ni偏析度)を算出した。
【0037】90°曲げ加工方法においては、JIS−Z−2248の金属材料の曲げ試験方法の中の押曲げ法に準拠して、曲げ角度を90°とした。鋼板の表面粗さの測定には、触針2μmの2次元粗さ計を用い、曲げ方向に対する90°の方向で、任意の3箇所を選んで測定した。表1に、鋼中の成分濃度、介在物の種類、等軸晶部のNi偏析度、及び、表面特性の調査結果を示す。
【0038】
【表1】

【0039】表面特性の評価において、製品板表面の評価は、目視でむらが確認される場合は不合格とし、また、加工後の製品板表面の評価は、目視で凹凸は無いが、粗度を測定すると若干凹凸がある場合までを合格とし、目視で凹凸が確認される場合は不合格とした。表1から明らかなように、発明鋼は、比較鋼に比べ、表面特性が著しく優れている。
【0040】
【発明の効果】本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、δ相と格子整合性のよいTi酸化物、Ti窒化物、Mg酸化物、及び、MgO-Al23 スピネル相を有することにより、異質核生成が促進されて、表層組織が均一化されたものである。したがって、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、優れた表面性状を必要とする各種用途の素材として、工業的価値の高いものである。
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成12年5月22日(2000.5.22)
【代理人】 【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬 (外3名)
【公開番号】 特開2001−335895(P2001−335895A)
【公開日】 平成13年12月4日(2001.12.4)
【出願番号】 特願2000−150003(P2000−150003)