| 【発明の名称】 |
軽量2ピース缶用鋼板およびその製造方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】荒谷 誠
【氏名】小幡 由紀夫
【氏名】佐藤 覚
【氏名】登坂 章男
【氏名】奥田 金晴
【氏名】久々湊 英雄
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| 【要約】 |
【課題】軽量飲料缶用として好適な、調質度がT2.5 〜3 で、かつ深絞り性と、多段ネック加工性およびフランジ加工性に優れた板厚0.20mm以下の極薄2ピース缶用鋼板およびその製造方法を提案する。
【解決手段】C:0.06%以下、N:0.0060%以下の低炭素アルミキルド鋼素材を、加熱し、熱間圧延によりシートバーとし、該シートバーをFDTを(Ar3変態点+10℃)以上とする熱間圧延を施し、CTを600 〜750 ℃とし熱延板とする。熱延板を冷間圧延し、さらにAc1変態点以上での連続焼鈍と、その後の急冷、ついで過時効処理を行ったのち、調質圧延を行い、降伏応力:370MPa以下、r値:1.0 〜1.5 を有し、r値の面内異方性Δr 値が0 ±0.2 、調質度がT2〜T3で、かつ10%加工歪付与焼付硬化後の降伏応力が370MPa以上、35%加工歪付与焼付硬化後の降伏応力が620MPa以下の鋼板とする。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 低炭素アルミキルド鋼板であって、降伏応力:250 〜370MPa、平均r値:1.0 〜1.5 を有し、r値の面内異方性Δr が0 ±0.2 、調質度がT2〜T3であり、かつ、10%加工歪を付与し210 ℃で20min の熱処理を施した後の降伏応力が370MPa以上、35%加工歪を付与し210 ℃で20min の熱処理を施した後の降伏応力が620MPa以下であることを特徴とするカップ成形性、多段ネック加工性およびフランジ加工性に優れた板厚0.20mm以下の軽量2ピース缶用鋼板。 【請求項2】 前記低炭素アルミキルド鋼板が、質量%で、C:0.06%以下、 N:0.0060%以下、Si:0.03%以下、 Mn:0.6 %以下、P:0.02%以下、 S:0.02%以下、Al:0.03〜0.20%、 O:0.01%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1に記載の軽量2ピース缶用鋼板。 【請求項3】 前記組成に加えて、さらに、質量%で、Nb:0.10%以下、Ti:0.20%以下、B:0.005 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成を有することを特徴とする請求項2に記載の軽量2ピース缶用鋼板。 【請求項4】 鋼板の少なくとも片側表面に表面処理層を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の軽量2ピース缶用鋼板。 【請求項5】 前記表面処理層が錫めっきまたはクロムめっきであることを特徴とする請求項4に記載の軽量2ピース缶用鋼板。 【請求項6】 鋼素材を、加熱し、熱間圧延によりシートバーとする粗圧延工程と、該シートバーを熱間圧延により熱延板とする仕上げ圧延工程と、該熱延板を巻き取る巻取り工程とを有する熱延鋼板の製造方法において、前記鋼素材の組成を、質量%で、C:0.06%以下、 N:0.0060%以下、Si:0.03%以下、 Mn:0.6 %以下、P:0.02%以下、 S:0.02%以下、Al:0.03〜0.20%、 O:0.01%以下を含み、あるいはさらにNb:0.10%以下、Ti:0.20%以下、B:0.005 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とし、前記仕上げ圧延工程の仕上げ圧延終了温度FDTを(Ar3変態点+10℃)以上とし、前記巻取り工程の巻取り温度CTを600 〜750 ℃とすることを特徴とする板厚2mm以下の缶用極薄冷延鋼板用母板の製造方法。 【請求項7】 前記粗圧延工程後で前記仕上げ圧延工程前に、前記シートバーの先端部と、該シートバーに先行するシートバーの後端部とを接合したのち、仕上げ圧延工程を施すことを特徴とする請求項6に記載の缶用極薄冷延鋼板用母板の製造方法。 【請求項8】 前記粗圧延工程後で前記仕上げ圧延工程前に、前記シートバーの長手方向端部を加熱昇温すること、あるいは前記シートバーの幅方向端部を加熱昇温することのいずれか一方あるいは両方を行うことを特徴とする請求項6または7に記載の缶用極薄冷延鋼板用母板の製造方法。 【請求項9】 鋼素材を、加熱し、熱間圧延によりシートバーとする熱間粗圧延工程と、該シートバーを熱間圧延により熱延板とする熱間仕上げ圧延工程と、該熱延板を巻き取る巻取り工程とを有し、さらに該熱延板を冷間圧延し冷延板とする1次圧延工程と、該冷延板を焼鈍し冷延焼鈍板とする焼鈍工程と、該冷延焼鈍板を調質圧延する調質圧延工程とを有する板厚0.20mm以下の缶用極薄冷延鋼板の製造方法において、前記鋼素材の組成を、質量%で、C:0.06%以下、 N:0.0060%以下、Si:0.03%以下、 Mn:0.6 %以下、P:0.02%以下、 S:0.02%以下、Al:0.03〜0.20%、 O:0.01%以下を含み、あるいはさらにNb:0.10%以下、Ti:0.20%以下、B:0.005 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とし、前記仕上げ圧延工程の仕上げ圧延終了温度FDTを(Ar3変態点+10℃)以上とし、前記巻取り工程の巻取り温度CTを600 〜750 ℃とし、前記焼鈍工程を、焼鈍温度をAc1変態点以上とする連続焼鈍と、該焼鈍温度から急冷する急冷処理と、該急冷処理後、過時効処理を行う工程とするか、または焼鈍温度をAc1変態点以上とする連続焼鈍と、それに引き続き箱焼鈍を行う工程とすることを特徴とするカップ成形性、多段ネック加工性およびフランジ加工性に優れた缶用極薄冷延鋼板の製造方法。 【請求項10】 前記冷延鋼板の板厚(tmm)と0.2 %耐力目標値(σ0.2,MPa )とによる式、(t)2 ×σ0.2 が、 8.0以下の場合には、前記連続焼鈍後に、焼鈍温度を500 〜600 ℃とする箱焼鈍を行うことを特徴とする請求項9に記載の缶用極薄冷延鋼板の製造方法。 【請求項11】 前記冷延鋼板の板厚(tmm)と0.2 %耐力目標値(σ0.2,MPa )とによる式、(t)2 ×σ0.2 が、 8.0超えの場合には、前記急冷処理後に、400 〜550 ℃で40s以上の過時効処理を施すことを特徴とする請求項9に記載の缶用極薄冷延鋼板の製造方法。 【請求項12】 前記調質圧延が、調質圧延圧下率を1%以上15%未満とすることを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載の缶用極薄冷延鋼板の製造方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、2ピース缶用鋼板に係り、とくにカップ成形性(深絞り加工性)に優れ、加工後の缶底強度が適度に大きく、また多段ネック加工を行ってもしわの発生がない多段ネック加工性に優れ、さらに伸びフランジ加工性に優れた板厚0.20mm以下の極薄缶用鋼板に関する。 【0002】 【従来の技術】清涼飲料水、ビール等の飲料缶や、食缶等の各種缶容器は、その部品構造から、缶胴と上蓋からなる2ピース缶と、缶胴および上蓋、底蓋からなる3ピース缶に大別される。とくに、2ピース缶の缶胴に用いられる鋼板は、深絞り加工(カップ成形)や、それに続く缶高さを得るためのしごき加工や、ネック縮径加工、フランジ加工、ドーム加工など各種の過酷な成形に耐えられる特性が要求される。さらに、最近では、缶の軽量化を目的として、素材である鋼板の薄肉化が指向されている。 【0003】素材である鋼板を薄肉化した場合にも、缶強度として所定以上の強度を維持する必要がある。そのため、素材である鋼板は高強度化することが前提となる。一般的な缶形状で、大きく薄肉化できるのは、製缶加工で板厚変動のほとんどない缶底部である。缶底部では、ドーム接地径を小さくする、あるいはドーム深さを大きくする等の缶形状の変更や、製缶技術の向上でさらに素材の薄肉化が可能になっている。しかし、ネック部、フランジ部では、素材を薄肉化すると、製缶加工時に肉厚が変動しさらに薄肉となり、製缶後の缶強度が不足することになる。ネック部、フランジ部での薄肉化を達成するためには、ブランク径を大きくし缶上部の肉厚が薄くならないようにする必要がある。しかし、ブランク径を大きくすると深絞り加工が難しくなり、破断等のトラブルが発生するという問題がある。このようなことから、缶軽量化のためには、薄肉で、深絞り加工性に優れた缶用鋼板が望まれる。 【0004】また、素材の鋼板をカップ形状に深絞り加工する際に、薄肉鋼板を使用すると高張力鋼板を用いても剛性が不足し、しわが発生しやすくなる。この傾向は、限界絞り率(LDR )が大きくなる、すなわちブランク径が大きくなるに従いより顕著となる。しわ発生を少なくするには、しわ抑え力(BHF )を大きくすることが考えられる。しかし、BHF が大きくなると、耳の先端が切れやすくなるという問題がある。この問題を解決するために、r値の面内異方性の少ない、すなわちΔrの小さい鋼板が望まれている。 【0005】薄肉の缶用鋼板を得るためには、■冷延圧下率を増加する、■冷延母板の板厚、すなわち熱延板の板厚を薄くする、という2つの手段が考えれられる。しかし、冷間圧下率の増加は、r値の面内異方性を増大し、絞り成形時の耳発生を大きくする。また、熱延板の板厚を薄くすると、幅方向、長さ方向の熱間圧延温度のばらつきが大きくなるとともに熱間圧延の生産性も低下するという問題がある。 【0006】このような問題に対し、例えば、特許第2689148 号公報(特開平2-141535号公報)には、C:0.010 〜0.040 %、Si:0.03%以下、Mn:0.05〜0.35%、P:0.015 %以下、S:0.015 %以下、solAl :0.03〜0.15%、N:0.0025%以下、Al/N≧30を含有する鋼片を、Ar3未満の仕上げ温度で熱間圧延を行い、630 〜 750℃で巻き取り、85〜95%の圧下率で冷間圧延し、再結晶温度以上670 ℃以下で焼鈍し、ついで8 〜30%の再冷延を行う耳発生の小さい絞り缶用鋼板の製造法が開示されている。 【0007】また、特開平9-241756号公報には、冷延前の平均結晶粒径を30μm 以上とした熱延鋼板に、冷延圧下率70〜98%の冷間圧延を施し、再結晶温度以上800 ℃以下で3min以上の焼鈍を施したのち、さらに冷延圧下率1 〜70%の再冷延を施し、最終製品までの通算冷延圧下率を88〜98%とする絞り成形時のイヤリング発生が著しく小さい容器用鋼板の製造方法が開示されている。 【0008】しかしながら、特許第2689148 号公報(特開平2-141535号公報)、特開平9-241756号公報に記載された技術では、絞り加工時の耳発生は減少するが、缶開口部の径を縮めるネック加工におけるしわの発生や、鋼板の薄肉化に伴う耐圧強度の低下に対し、何の考慮もされていないという問題を残していた。最近では、缶蓋強度の増加を図るため蓋の小径化が進められ、2ピース缶の缶胴ネック部は、多段ネックとなってきた。多段ネック加工では、肉厚は増加するが、それでもネックしわを発生させないためには所定以上の剛性を有することが必要となるため、高張力鋼板を使用しても素材の薄肉化には限界がある。また、高張力鋼板は一般的に降伏応力が大きく、所定の縮径とするのに困難をともなうという問題もあった。ネックしわが発生すると、蓋を2重巻き締めしたのちに内容物がもれる。一方、剛性を大きくするために高張力化すると、伸びが不足しフランジ加工に際し、割れが発生するという問題もあり、加工性の観点からは軟質な鋼板が望まれているという相矛盾する要求がある。 【0009】ネック加工におけるしわの発生に対して、例えば、特開平6-306535号公報、特開平6-306536号公報には、C:0.0100〜0.0700%、Si:0.30%以下、Mn:0.05〜1.00%、P:0.030 %以下、S:0.025 %以下、solAl :0.002 〜0.100 %、N:0.0100%以下、B:0〜(0.0010+1.8 ×N%)%、を含有する鋳片を、熱間圧延したのち、圧下率:85〜95%の冷間圧延を行い、再結晶温度以上の再結晶焼鈍とその後の冷却により、固溶C量を調整し、さらに伸び率を調整して調質圧延を施して、鋼板の3%予歪−熱処理後のYPを34kgf/mm2 以上に、50%予歪−熱処理後のYPを62kgf/mm2 以下に調整するネックドイン性に優れたDI缶用表面処理原板の製造方法が提案されている。 【0010】また、特開平10-280095 号公報には、C:0.01〜0.05%、N:0.004 %以下を含むスラブを鋳造し、熱間圧延におけるスラブ加熱温度を1100℃以下とする耐ネックしわ性に優れた2ピース容器用鋼板の製造方法が提案されている。しかしながら、特開平6-306535号公報、特開平10-280095 号公報に記載された技術で得られる鋼板は、鋼板が硬質であるうえ、r値がそれほど高くなく、さらにr値の面内異方性が大きくなる場合がある。このため、絞り成形性が安定せず、缶用鋼板として安定した鋼板となっていないという問題があった。また、缶底耐圧強度は大きいがネック・フランジ加工性に劣り、板厚も0.20mm以下の達成が困難であるという問題もある。 【0011】また、特開平10-280095 号公報に記載された技術では、熱間圧延の加熱温度が低すぎて、鋼板の全幅全長にわたって、仕上げ圧延終了温度FDTをAr3変態点以上にすることは難しく、このため、鋼板のr値が低く、絞り加工性が低下しているという問題があった。 【0012】 【発明が解決しようとする課題】一方、缶内の圧力に対抗するため、缶底部は所定以上の耐圧強度が必要とされる。缶底部の耐圧強度は、素材の板厚、耐力(降伏応力)、缶底形状によって、決定されるが、同一形状の場合、耐圧強度は、(板厚)2 ×耐力に比例すると言われており、耐圧強度の増加には耐力の増加が必要となる。しかし、カップ形状への深絞り加工等の加工が必要なことから、製缶加工時には素材は軟質(ぶりき調質度T2〜T3相当)であることが要求される。製缶加工では、熱水洗浄、塗装、焼付け印刷等の熱処理が施され、したがって、加工時には軟質で、加工後の熱処理と加工歪を利用し、製缶後空缶となったのちに高強度となる、すなわち塗装焼付け後の歪時効硬化が大きい鋼板(ぶりき調質度T4〜T5相当)が望まれる。しかし、ネック・フランジ加工は塗装焼付け後となるため、塗装焼付け後の歪時効硬化の度合いには上限があり、従来の調質度T2〜T3程度の軟質材を製缶した時と同程度の加工性となることが望まれる。 【0013】従来の技術で製造された鋼板では、上記したような2ピース缶の軽量化(板厚0.20mm以下)に対応して、厳しい製缶加工が可能でかつ、所望の缶各部位の形状と缶強度を十分に達成できていないという問題があった。すなわち、同一鋼板で、カップ加工時は調質度T2〜T3相当の材質で、缶底耐圧強度は空缶になった時点で調質度T4〜T5相当の材質となるように、そして、ネック、フランジ加工性は従来の調質度T2〜T3の鋼板を製缶した時と同程度の加工性になる特性を、その工程ごとに有するものを要求されている。 【0014】本発明は、上記した従来技術の問題点を解決し、空缶重量25g 以下というような軽量飲料缶用として好適な、調質度がT2〜3の比較的軟質で、かつ深絞り加工性と、多段ネック加工性およびフランジ加工性に優れた板厚0.20mm以下の極薄2ピース缶用鋼板およびその製造方法を提案することを目的とする。 【0015】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記した課題を達成するために、まずネック部強度、缶底部の強度に影響する要因について検討した。製缶加工時の各加工時における歪量と降伏強さとの関係を図1に示す。2ピース缶の場合には、鋼板はまず、深絞り加工を施され、カップ状に成形される。図1に示すように、加工歪0%では、深絞り加工性の観点からは鋼板の降伏応力(降伏強さともいう、YS)は低いほうがよく、深絞り加工時のしわ発生の観点から調質度がT2〜3の比較的軟質な鋼板(降伏応力では370MPa以下)とするのが好ましい。深絞り加工時のしわは、絞り比が大きいほど、また降伏強さが高いほど発生しやすい。このため、深絞り加工性の観点からは、素材である鋼板の降伏強さには上限が必要となる。 【0016】一方、素材が薄肉となると、曲げ剛性が低下しフランジしわが発生しやすくなる。フランジしわの発生を防止するためには、しわ抑え力を大きくする必要があるが、しわ抑え力が大きくなると、加工時にパンチ肩部で破断しやすくなるとともに、カップ円周方向に発生する耳のうち大きいものが引き伸ばされたり(耳立ち)、引きちぎられたり(耳切れ)する不具合が発生する。このような耳立ち・耳切れの不具合は素材である鋼板が軟質なほど顕著となる。このため、素材である鋼板の降伏応力(降伏強さ)に下限を設ける必要があり、250MPa以上とするのが好ましい。 【0017】また、本発明者らは、耳発生を少なくするために、r値の面内異方性Δrが0±0.2 と小さくする必要があることを知見した。Δrが大きくなると、耳率が大きくなり特定方向の耳が極端に大きくなり、カップホルダー内が引きちぎられたり、加工機に引っ掛かり、生産性を低下するなどのトラブルが発生する。Δrを小さくするためには、鋼組成、熱間圧延温度、冷間圧下率、焼鈍温度の適正化が重要であることを見いだした。 【0018】さらに、本発明者らは、耳立ち・耳切れの不具合を防止するためには、r値の下限を維持したまま、r値の上限値を抑え、さらに深絞り加工後の降伏応力を所定の値(耳立ち・耳切れ防止強度)以上に高くすることにより、深絞り後のカップ(缶)上端部の肉厚が厚くなり、耳の引きちぎられを防止できることを知見した。そして、r値の上限値を抑え、降伏強さを耳立ち・耳切れ防止強度以上に高くするには、再結晶焼鈍後の調質圧延によりある程度加工硬化させることが有効であることを見いだした。 【0019】したがって、軽量2ピース缶用鋼板としては、所望の範囲の降伏応力を有し、かつ、深絞り加工性を良好とし耳発生を少なくするために、平均r値が1.0 〜1.5 と適正値とし、しかもr値の面内異方性Δrが0±0.2 と小さい鋼板とすることが必要であることになる。絞り加工されカップ状に成形された鋼板は、ついで、缶高さを所定の高さとするため、しごき加工を施される。その後引き続いて、缶底部では10%程度の加工歪が付与されるドーム加工が施される。なお、素材の板厚が薄くなるに従って接地径を小さくする、ドーム深さを大きくするなどにより加工歪は大きくなる。したがって、ドーム加工後焼付け塗装が施された後のボトム部の鋼板の強度が、2ピース缶の耐圧強度を決定している。従来では、缶内に内容物を充填したのち、殺菌処理としてレトルト処理(120 ℃×90min 程度の熱処理)が施されていた。このレトルト処理に耐えることを前提にボトム部の鋼板強度が決定されていた。ボトム部の鋼板の強度が400MPa未満では、缶体としての耐圧強度が不足し、レトルト処理時や、あるいは窒素を充填し、内圧をかけた陽圧缶の缶落下時等にバックリングが発生する。そこで、加工歪と缶底耐圧強度との関係を研究した結果、加工歪10%付与−塗装焼付け相当処理(210 ℃×20min の熱処理)後の鋼板降伏応力(YS)が400MPa以上となる鋼板特性があれば、問題は解決できることを見出した。 【0020】しかし、最近では、充填技術の進歩により、無菌充填が可能となり、レトルト処理に耐えうる必要はない。したがって、内容物を充填したのちの運搬中の変形のみを考慮すればよく、要求される耐圧強度も従来より低い。このため、ボトム部の鋼板に要求される強度も、レトルト処理缶用耐圧強度にくらべ低い無菌充填缶用耐圧強度となる(図1参照)。したがって、素材としての鋼板は、加工性の向上を重視し、ドーム加工後の強度が従来より軟質な鋼板でよいことになる。本発明者らが検討した結果、この特性を満たすためには加工歪10%付与、焼付塗装相当処理(210 ℃×20min の熱処理)後の鋼板のYSが370 MPa 以上であれば問題ないことを見出した。 【0021】さらに本発明者らは、連続焼鈍に続いて、箱焼鈍を施すこと(図1中の○印)により、無菌充填缶用耐圧強度以上のドーム加工後の強度を有する鋼板が製造可能であることを見いだした。また、従来のレトルト処理缶用耐圧強度以上のドーム加工後の強度を有する鋼板は、Ac1変態点以上の高温での連続焼鈍とその後の過時効処理を組み合わすこと(図1中の□印)により、固溶Cの適切な析出と結晶粒の適切な粗大化を達成でき、製造可能となることを見いだした。 【0022】また、缶ネック部では、深絞り加工、しごき加工後、焼付け塗装されたのちに、さらにネック縮径が施される。深絞り加工、しごき加工により、最高で35%の加工歪が付与されたことになり、加工後塗装焼付けが施される。したがって、ネック縮径時には、35%の加工と塗装焼付けが施されのちの鋼板の強度が、ネック縮径加工時の強度となることに注目して、本発明者らは鋭意研究の結果、ネック縮径加工時、鋼板のYSが620MPaを超えると、しわ折れが発生することを見出した。ネック部にしわが発生すると、内容物が漏れ、缶としては不合格となり排除される。 【0023】このようなことから、本発明者らは、絞り加工時には適正に軟質で、10%加工歪付与−塗装焼付け処理後には370MPa以上の、あるいは400MPa以上の降伏応力と、35%加工歪付与−塗装焼付け処理後には620MPa以下の降伏応力となる鋼板が軽量缶用として好適であるということを見いだした。本発明は、上記した知見に基づいて、さらに検討を加えて完成されたものである。 【0024】すなわち、第1の本発明は、低炭素アルミキルド鋼板であって、降伏応力:250 〜370MPa、平均r値:1.0 〜1.5 を有し、r値の面内異方性Δr 値が0 ±0.2、調質度がT2〜T3であり、かつ、10%加工歪を付与し210 ℃で20min の熱処理を施した後の降伏応力が370MPa以上、35%加工歪を付与し210 ℃で20min の熱処理を施した後の降伏応力が620MPa以下であることを特徴とする、深絞り加工性、多段ネック加工性およびフランジ加工性に優れた板厚0.20mm以下の軽量2ピース缶用鋼板であり、第1の本発明では、前記低炭素アルミキルド鋼板が、質量%で、C:0.06%以下、N:0.0060%以下、Si:0.03%以下、Mn:0.6 %以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Al:0.03〜0.20%、O:0.01%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することが好ましく、また、前記組成に加えて、さらに、質量%で、Nb:0.10%以下、Ti:0.20%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成としてもよい。 【0025】また、第1の本発明では、鋼板の少なくとも片側表面に表面処理層を有することが好ましく、また、前記表面処理層が錫めっきまたはクロムめっきとするのが好ましい。また、第2の本発明は、鋼素材を、加熱し、熱間圧延によりシートバーとする粗圧延工程と、該シートバーを熱間圧延により熱延板とする仕上げ圧延工程と、該熱延板を巻き取る巻取り工程とを有する熱延鋼板の製造方法において、前記鋼素材の組成を、質量%で、C:0.06%以下、N:0.0060%以下、Si:0.03%以下、Mn:0.6 %以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Al:0.03〜0.20%、O:0.01%以下を含み、あるいはさらにNb:0.10%以下、Ti:0.20%以下、B:0.005 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、好ましくは残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とし、前記仕上げ圧延工程の仕上げ圧延終了温度FDTを(Ar3変態点+10℃)以上とし、前記巻取り工程の巻取り温度CTを600 〜750 ℃とすることを特徴とする板厚2mm以下の極薄熱延鋼板(缶用極薄冷延鋼板用母材)の製造方法であり、また、第2の本発明では、前記粗圧延工程後で前記仕上げ圧延工程前に、前記シートバーの先端部と、該シートバーに先行するシートバーの後端部とを接合したのち、仕上げ圧延工程を施すことが好ましい。 【0026】また、第2の本発明では、前記粗圧延工程後で前記仕上げ圧延工程前に、前記シートバーの長手方向端部を加熱昇温すること、あるいは前記シートバーの幅方向端部を加熱昇温することのいずれか一方あるいは両方を行うことが好ましい。また、第3の本発明では、鋼素材を、加熱し、熱間圧延によりシートバーとする熱間粗圧延工程と、該シートバーを熱間圧延により熱延板とする熱間仕上げ圧延工程と、該熱延板を巻き取る巻取り工程とを有し、さらに該熱延板を冷間圧延し冷延板する冷延工程と、該冷延板を焼鈍し冷延焼鈍板とする焼鈍工程と、該冷延焼鈍板を調質圧延する調質圧延工程とを有する板厚0.20mm以下の缶用極薄冷延鋼板の製造方法において、前記鋼素材の組成を、質量%で、C:0.06%以下、N:0.0060%以下、Si:0.03%以下、Mn:0.6 %以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Al:0.03〜0.20%、O:0.01%以下を含み、あるいはさらにNb:0.10%以下、Ti:0.20%以下、B:0.005 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、好ましくは残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とし、前記仕上げ圧延工程の仕上げ圧延終了温度FDTを(Ar3変態点+10℃)以上とし、前記巻取り工程の巻取り温度CTを600 〜750 ℃とし、前記焼鈍工程を、焼鈍温度をAc1変態点以上とする連続焼鈍と、該焼鈍温度から急冷する急冷処理と、該急冷処理後、過時効処理を行う工程とするか、または焼鈍温度をAc1変態点以上とする連続焼鈍と、それに引き続き箱焼鈍を行う工程とすることを特徴とするカップ成形性、多段ネック加工性およびフランジ加工性に優れた缶用極薄冷延鋼板の製造方法である。また、第3の本発明では、前記冷延鋼板の板厚(tmm)と前記冷延鋼板の降伏応力の目標値に相当する0.2 %耐力目標値(σ0.2, MPa)とによる式、(t)2 ×σ0.2 が、 8.0以下の場合には、前記連続焼鈍後に、焼鈍温度を500 〜600 ℃とする箱焼鈍を、また、前記冷延鋼板の板厚(tmm)と0.2 %耐力目標値(σ0.2, MPa)とによる式、(t)2 ×σ0.2 が、8.0 超えの場合には、前記急冷処理後400 〜550 ℃で40s以上の過時効処理を施すことが好ましい。 【0027】また、第3の本発明では、前記調質圧延工程での調質圧延の圧下率を1%以上15%未満とすることが好ましい。なお、第3の本発明では、前記粗圧延工程後で前記仕上げ圧延工程前に、前記シートバーの先端部と、該シートバーに先行するシートバーの後端部とを接合ししたのち、仕上げ圧延工程を施すことが好ましい。 【0028】また、第3の本発明では、前記粗圧延工程後で前記仕上げ圧延工程前に、前記シートバーの長手方向端部を加熱昇温すること、あるいは前記シートバーの幅方向端部を加熱昇温することのいずれか一方あるいは両方を行うことが好ましい。また、第3の本発明では、前記調質圧延工程後に、鋼板の少なくとも片側表面に表面処理層を形成する表面処理を行うことが好ましく、また、前記表面処理を錫めっき処理またはクロムめっき処理とするのが好ましい。 【0029】 【発明の実施の形態】まず、本発明鋼板の限定理由について説明する。本発明の鋼板は、低炭素アルミキルド鋼板である。その組成は下記のとおりとするのが好ましい。 C:0.06%以下Cは、結晶粒を微細化するとともに、固溶強化により鋼の強度を増加させる重要な元素であるが、一方では、炭化物を形成し、鋼板の延性、ひいては加工性を低下させる。このため、Cは0.06%以下に限定する。なお、r値の確保及び、幅方向、長さ方向のr値のばらつきを少なくするため、FDTをAr3変態点+10℃以上にすることが重要であり、これらの観点から、Cは0.01〜0.05%が適切である。また、適度な焼付硬化性の観点からは連続焼鈍(CAL)後に炭化物を微細に分布させることが重要であり、Cは0.01%以上とするのがより好ましい。 【0030】N:0.0060%以下Nは、固溶Nとして鋼板中に残存した場合には時効硬化性を増加させる元素であり、本発明ではできるだけ低減するのが望ましいが、0.0060%までは許容できる。なお、好ましくは0.003 %以下である。 Si:0.03%以下Siは、固溶強化により鋼の強度を増加させる元素であるが、多量の添加は加工性、表面処理性の劣化、耐食性の劣化等の問題を生じる。このため、本発明ではできるだけ低減するのが望ましいが、0.03%までは許容できる。 【0031】Mn:0.6 %以下Mnは、Sによる熱間割れを防止する有効な元素であるが、多量の含有は不経済であり耐食性を劣化させるとともに、強度ばらつきを増大させる傾向となる。このため、本発明では、Mnは0.6 %以下に限定する。なお、好ましくは0.2 〜0.4%である。 【0032】P:0.02%以下Pは、鋼を著しく硬質化させ、フランジ加工性やネック加工性を劣化させ、さらに耐食性を著しく劣化させる。このため、本発明では、Pは0.02%以下に限定するのが好ましい。 S:0.02%以下Sは、鋼中では介在物として存在し、鋼板の延性を低下させ、さらに耐食性を劣化させる元素であり、本発明ではできるだけ低減するのが好ましが、0.02%までは許容できる。このようなことから、本発明では、Sは0.02%以下とするのが好ましい。なお、好ましくは0.015 %以下である。 【0033】Al:0.03〜0.20%Alは、脱酸剤として作用するとともに、固溶Nと結合し、AlN を形成し、固溶N量を低減する効果を有する。このような効果は0.03%以上の含有で顕著に認められる。一方、0.20%を超える多量含有は、酸化物系介在物を増加させ表面性状を悪化させるうえ、製造コストを増加させ、経済的に不利となる。このため、Alは0.03〜0.20%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.03〜0.10%である。 【0034】O:0.01%以下Oは、鋼中では酸化物として存在し、延性の低下、耐食性の劣化をもたらすため、できるだけ低減する必要がある。本発明では、0.01%まで許容できる。なお、とくに薄肉鋼板とするためには、好ましくは0.005 %以下とするのが好ましい。 【0035】Nb:0.10%以下、Ti:0.20%以下、B:0.005 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上Nb、Ti、Bはいずれも、炭化物、窒化物を形成し、加工性改善に有効な元素であり、必要に応じ選択して含有できる。Nbは、炭化物、窒化物を形成し、固溶C、固溶Nの残存量を低減し、加工性を改善する有効な元素であるが、0.10%を超えて含有すると、Nb系析出物による結晶粒界のピン止め効果により再結晶温度が上昇し、連続焼鈍炉の通板作業性が低下し、また、細粒になる。このため、Nbは0.10%以下に限定するのが好ましい。なお、このような効果を得るには、Nbは0.002 %以上含有するのが望ましい。 【0036】Tiは、炭化物、窒化物を形成し、固溶C、固溶Nの残存量を低減し、加工性を改善する有効な元素であるが、0.20%を超えて過多に含有すると、硬質な析出物が生成し、耐食性が低下するとともに、プレス加工時にすり疵が発生しやすくなる。このため、Tiは0.20%以下に限定するのが好ましい。なお、このような効果を得るには、Tiは0.01%以上含有するのが望ましい。 【0037】Bは、炭化物、窒化物を形成し、軟質化し加工性を改善する有効な元素であるが、0.005 %を超えて含有すると、連続焼鈍時再結晶粒界に偏析し再結晶を遅延させる。このため、Bは0.005 %以下に限定するのが好ましい。なお、このような効果を得るには、Bは0.0003%以上含有するのが望ましい。また、Bは、粒界脆化の改善に有効な元素でもあり、とくに比較的C含有量が低く、炭化物形成元素を添加した場合に、再結晶粒界の強度を高め、脆化割れを防止する作用を有する。 【0038】残部Feおよび不可避的不純物上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、Cr:0.04%以下、Cu:0.06%以下、Ni:0.04%以下、Mo:0.05%以下が許容できる。本発明の鋼板は、上記した組成範囲でかつ、降伏応力:250 〜370MPa、平均r値:1.0 〜1.5 を有し、r値の面内異方性Δr 値が0 ±0.2 、調質度がT2〜T3の鋼板である。 【0039】鋼板の降伏応力YS:250 〜370MPa、調質度:T2〜T3鋼板のYS、調質度が高くなり、硬質化すると、所定の寸法の缶体への絞り加工、しごき加工が困難となるため、鋼板の降伏応力YS:370MPa以下、調質度:T3以下とする必要がある。一方、薄肉の鋼板で深絞り加工を行う際は、しわ抑え力が大きくなり、カップ円周方向に発生する耳のうち、大きいものが引き伸ばされたり、引きちぎられたりする。鋼板が余りに軟質であると、この現象を助長するため、鋼板の降伏応力YS:250 MPa 以上、調質度:T2以上とする必要がある。 【0040】平均r値:1.0 〜1.5 、Δr :0 ±0.2本発明鋼板は、平均r値:1.0 〜1.5 、Δr :0 ±0.2 を有する面内異方性の小さな鋼板である。平均r値が、1.0 未満では、深絞り加工性が劣化し、必要とする缶高さを得にくいという問題があり、一方、平均r値が1.5 を超えると、缶高さ方向の伸びが大きくなりカップ側壁の板厚が薄くなり、形成された大きな耳部が引きちぎられたり、引き伸ばされたりしやすいという不具合がある。また、耳の発生を抑制するには、Δr を0 ±0.2 の範囲とr値の面内異方性を小さくするのが好ましい。 【0041】なお、平均r値およびΔrは、圧延方向(L方向)、圧延方向から45°(D方向)、圧延方向から直角方向(C方向)について、それぞれr値(rL 、rD 、rC )を測定し、平均r値=(rL +rC +2rD )/4、Δr=(rL +rC−2rD )/2により求めるものとする。なお、調質圧延の圧下率が大きく伸びElが小さい鋼板については、JIS G 3135解説あるいはJIS Z 2254に規定する固有振動法を用いて、平均r値を測定するものとする。また、Steel. Met. Ind.,50(1973),328 に示されるように、Δrとヤング率の間にはつぎに示すような関係が認められることから、伸びElが小さい鋼板については、固有振動法を用いてΔrをも測定するものとする。 【0042】平均r値、Δrは、短冊状試験片に励起コイルで高周波を印加し検出コイルで周波数を検出し、得られた周波数からヤング率Eの面内各方向の平均値E* と異方性ΔEを求め、次式平均r値=101.44/(145.0 ×E* ×10-6-38.83)2 −0.564Δr=0.031 −0.323 (145.0 ×ΔE×10-6) ここで、E* =(EL + EC + 2 ED )/4ΔE=(EL + EC - 2 ED )/2を用いて算出する。なお、EL 、EC 、ED は、それぞれ圧延方向(L方向)、圧延方向から直角方向(C方向)、圧延方向から45°(D方向)のヤング率(N/mm2 )である。 【0043】さらに、本発明鋼板は、10%加工歪を付与し210 ℃で20min の熱処理を施した後の降伏応力が370MPa以上であり、35%加工歪を付与し210 ℃で20min の熱処理を施した後の降伏応力が620MPa以下である。このような適切な焼付け硬化性(BH性)を有することにより、缶体の耐圧強度が高く、かつ多段ネック縮径化が可能となり、軽量化を達成できる極薄缶用鋼板となる。 【0044】なお、本発明者らの検討によると、製缶の際に導入される加工歪は、圧延歪で代替して評価することができる。すなわち、鋼板に圧下率10%あるいは35%の圧延を加えることにより前述のような製缶の際に導入される10%加工歪、35%加工歪に相当する歪を付与することができる。したがって本発明では、210 ℃で20min の熱処理を施した後の降伏応力は、鋼板に圧下率10%の圧延を施し210 ℃で20min の熱処理を行った後の降伏応力、あるいは鋼板に圧下率35%の圧延を施し210 ℃で20min の熱処理を行った後の降伏応力とする。 【0045】つぎに、上記した特性を有する本発明鋼板の製造方法について説明する。上記した組成の鋼素材を、通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の公知の鋳造方法で清浄度の高いスラブ等の鋼素材とする。本発明では、鋼素材を、加熱し、熱間圧延によりシートバーとする粗圧延工程と、該シートバーを熱間圧延により熱延板とする仕上げ圧延工程と、該熱延板を巻き取る巻取り工程とにより、コイル状に巻き取った熱延板とする。 【0046】粗圧延工程においては、加熱温度、圧延条件はとくに限定する必要はなく、所定の寸法形状のシートバーとすることができればよい。なお、鋼素材の加熱温度は1100〜1250℃とするのが好ましい。加熱温度が1100℃未満では、粗圧延における圧延負荷が増大するとともに、仕上げ圧延終了温度を所定の温度範囲とすることが難しくなる。また、加熱温度が1250℃を超えると、表面スケールの形成が著しくなり、スケールロスが大きく経済的に不利となるとともに、仕上げ圧延で除去しにくいスケールが残存し表面欠陥を発生しやすくなる。また、結晶粒の粗大化が顕著となる。 【0047】なお、本発明では、粗圧延工程でシートバーとされたのち、仕上げ圧延工程前に、シートバーの先端部と、該シートバーに先行するシートバーの後端部とを接合した後、仕上げ圧延することが好ましい。このようにシートバー同士を接合することにより、特に本発明のように極薄熱延鋼板で問題となる長手方向の形状の乱れを防止しやすく、製品の歩留りを向上できる。 【0048】また、粗圧延工程と仕上げ圧延との間でシートバーの長手方向端部を全幅にわたって加熱昇温すること、あるいは幅方向端部を全長にわたって加熱昇温することが好ましい。シートバー長手方向端部あるいは幅方向の端部は温度低下しやすく、この部分を加熱昇温して、シートバー内の温度の均一化を図ることにより、変態点との関係で規制される仕上げ圧延温度を長手方向、幅方向にわたって確保しやすく、歩留りが向上する。なお、加熱方法としては、誘導加熱方式のものとすることが好ましい。 【0049】また、前述のように、粗圧延工程でシートバーとされたのち、仕上げ圧延工程前にシートバーの先端部と該シートバーの後端部とを接合した後仕上げ圧延を行う場合は、接合した後に、接合前のシートバーの長手方向端部に相当する接合部近傍を加熱昇温して均熱化したのち、あるいはさらに幅方向端部を加熱昇温した後に仕上圧延することが、歩留り向上の観点からより好ましい。 【0050】このように、仕上げ圧延工程前に、シートバーの均熱化加熱を行うことにより、シートバーの幅方向端部、長さ方向端部の温度を上昇することができ、鋼板の全幅、全長にわたり仕上げ圧延終了温度FDTを(Ar3変態点+10℃)以上とすることが容易となる。粗圧延工程を経たシートバーは、ついで、仕上げ圧延工程で熱間圧延され、熱延板とされる。仕上げ圧延工程では、仕上げ圧延終了温度FDTを(Ar3変態点+10℃)以上とする。FDTが(Ar3変態点+10℃)未満では、AlN が析出し固溶Nが低減し、あるいは再結晶焼鈍後のr値が低下し、さらに面内異方性が大きく、Δrが大きくなる。このため、FDTは(Ar3変態点+10℃)以上に限定するのが好ましい。 【0051】再結晶焼鈍後のr値を高くするためには、冷延圧下率が高い缶用鋼板においては冷延圧下率を小さくするのがよいといわれている。しかし、冷延圧下率を低くするために、熱延板の板厚を薄くしても、それほどr値の増加は得られなかった。その原因として、薄い熱延板を使用したことにより、熱延板の表層が板厚中央部にくらべ低温になる時間が長く、そのため、表層の圧延集合組織が、再結晶焼鈍後にr値を低下させる(110 )再結晶集合組織を形成しやすいものとなったためと考えられる。表層部にこのような圧延集合組織を形成させないためには、FDTを(Ar3変態点+10℃)以上とすることがよいことを見いだした。これにより、r値向上のために冷延圧下率を小さくする効果が顕著となる。 【0052】また、熱延板は巻取り工程でコイル状に巻き取られるが、巻取り温度CTは600 〜750 ℃とするのが好ましい。CTが600 ℃未満では、AlN の析出量が少なく微細となり、r値が低下するうえ、降伏強さが高い硬質な鋼板となる。一方、750 ℃を超えると、炭化物の凝集粗大化に伴い、熱延板の結晶粒が粗大化するうえ、連続焼鈍−過時効処理において、固溶Cの析出サイトとしての炭化物間距離が大きくなって、過時効処理を40s以上施しても、本発明に必要な歪時効特性が得られなくなり、効果も大きくならない。このため、CTは600 〜750 ℃とするのが好ましい。 【0053】なお、巻き取り後の冷却は、空冷とするのが好ましい。また、十分に自己焼鈍したのち、水冷却してもよい。水冷却することにより、表面スケールの増大による歩留り低下を防止することもできる。なお、水冷却は、散水等の短時間冷却とすることもできる。熱延板の板厚は、冷延板の母板として、冷延板(製品板)の板厚に依存して決定されるが、0.20mm厚以下の薄物冷延板とするためには、面内異方性を小さくすること、r値を向上させることを考慮すると、2mm以下とするのが好ましい。 【0054】上記した工程により製造された熱延板は、塩酸酸洗で脱スケールしたのち、ついで冷間圧延により冷延板とする冷延工程と、該冷延板を焼鈍し冷延焼鈍板とする焼鈍工程と、該冷延焼鈍板を調質圧延する調質圧延工程とを施され、冷延焼鈍板とされる。冷延工程では、所望の冷延板の寸法形状とすることができればよく、その条件をとくに限定する必要はない。しかし、大きなr値と小さいΔrを得るためには、冷間圧延の圧下率は93%以下、好ましくは91%以下とするのが好ましい。このような冷間圧延圧下率とするためには、シートバー接合して熱間圧延を行い、熱延板の板厚を薄くすることが好ましい。 【0055】ついで、冷延板は焼鈍される。焼鈍工程は、焼鈍温度をAc1変態点以上とする連続焼鈍と、該焼鈍温度から急冷する急冷処理と、引き続き過時効処理を行う工程とするか、あるいは連続焼鈍と、それに引き続き箱焼鈍を行う工程とするのが好ましい。連続焼鈍では、軽量飲料缶用DI(Drawing & Ironing )に必要な加工性を確保するために、Ac1変態点以上の温度で均熱するのが好ましい。焼鈍温度をAc1変態点以上とすることにより、AlN の析出が促進され炭化物が凝集して、結晶粒径が成長して、本発明に必要な歪時効性を有することができるとともにr値が高くなる(111 )再結晶集合組織を発達させることができる。このため、連続焼鈍の焼鈍温度はAc1変態点以上とするのが好ましい。なお、焼鈍温度での均熱時間は操業の安定性から1s以上であれば十分である。 【0056】連続焼鈍後は、急冷処理を施すのが好ましい。急冷処理は連続焼鈍の出側で、冷却速度40〜70℃/sの冷却速度で過時効温度まで冷却するのが好ましい。これにより、固溶Cの析出が図られ、適切な軟質度と歪時効性を有する鋼板となる。なお、冷延板の板厚(tmm)と0.2 %耐力目標値(σ0.2(MPa), 降伏応力の目標値ともいう)とによる式、(t)2 ×σ0.2 が、8.0 超えの場合には、連続焼鈍の出側で冷却速度40〜70℃/sでの急冷処理後、400 〜550 ℃で40s以上の過時効処理を施すのが好ましい。この過時効処理により、固溶Cが析出することになり、連続焼鈍材(CAL材)として軟質で適切な歪時効性を有する鋼板が得られるという好ましい効果を生じる。より好ましくは400 〜500 ℃で過時効処理を施す。 【0057】一方、(t)2 ×σ0.2 が、8.0 以下の場合には、連続焼鈍−急冷処理−過時効処理に代えて、連続焼鈍−箱焼鈍法で焼鈍するのが好ましい。連続焼鈍後箱焼鈍までの間はとくに40℃/s以上の急冷処理は必要はない。箱焼鈍は、焼鈍温度として500 ℃以上で、600 ℃以下の範囲の温度に加熱したのち、500 〜400 ℃の炭化物析出温度範囲の滞留時間を1h以上確保しながら、徐冷するのが好ましい。箱焼鈍温度での保持時間は必要としない。このような条件の箱焼鈍法で焼鈍することにより、非時効性で軟質、かつr値が大きく、Δrが小さい、深絞り加工性に優れる箱焼鈍材に近い加工性を有する缶用鋼板が得られ、板厚を薄くした2ピース缶の製造が可能となる。一方、箱焼鈍の焼鈍温度が600 ℃を越えるとグラファイトが析出し、その後のめっき処理で均一なめっき層の形成が困難となる。 【0058】(t)2 ×σ0.2 が、8.0 以下の場合には、連続焼鈍−過時効処理を施すと、深絞り加工性が劣化するということもあり、連続焼鈍−箱焼鈍とするのが好ましい。また、(t)2 ×σ0.2 が、8.0 以下の場合では、缶体の耐圧強度が、内容物充填後にレトルト処理を必要とする缶体に要求される617kPa以下となる。しかし、現在では、缶形状、缶充填方法の改善により、缶体の耐圧強度が617kPa以下となっても、無菌充填処理用として適用可能となる。 【0059】また、箱焼鈍の雰囲気は、HNガス等の還元性雰囲気とするのが好ましい。なお、加熱速度はとくに限定する必要はなく、徐加熱とするのが好ましい。焼鈍工程を経た冷延焼鈍板は、ついで調質圧延工程で冷間圧延により調質圧延される。この調質圧延により、加工硬化を加えて、缶底部強度を増加する。このためには、少なくとも1%以上15%未満の圧下率とするのが好ましい。調質圧延圧下率が1%未満では、缶底部の強度上昇が少なく、一方、15%以上では、鋼板が硬質となりすぎ、軽量2ピース缶として不適となる。より好ましくは、3%以上の圧下率とする。なお、従来の箱焼鈍材は、圧下率2%以下のSR(single cold-reduced product )を施し可動転位を導入している。 【0060】このようにして製造された冷延焼鈍板は、防錆処理後、そのまま製品板(コイル)として出荷してもよい。あるいはさらに、酸洗処理を施され、さらに錫めっき、クロムめっき、ニッケルめっき等の表面処理層を少なくとも片面に形成する表面処理を施され、製品板とされる。製品板は、さらに塗油されて出荷される。なお、表面処理層の厚みは、用途にもよるが、錫めっきでは、片面当りの錫目付量11g/m2(#100 )以下とし、溶錫化処理を施すことなくノーリフロー仕上げとし、水和酸化クロム層を好ましくは1mg/m2 以下施すことにより、プレス加工での固体潤滑の効果を大きく発揮できる。また、クロムめっき(TFS)処理では、目付量は片面当り 60mg/m2以下とするのが好ましい。また、塗油剤としては、DOS (Di-octyl sebacate )、ATBC(Acetyl tri-butyl citrate)が好ましい。 【0061】 【実施例】本発明の効果を実施例に基づいて説明する。表1に示す成分の鋼を底吹き転炉で、非金属介在物の混入、残存を防止して溶製したのち、大型タンディシュと、垂直曲げ方式の連続鋳造機で圧延素材(スラブ)とした。ついで、これら圧延素材に、表2に示す条件で熱間圧延を施し熱延板とした。その後、これら熱延板に酸洗による脱スケール処理を施し、さらに表2に示す条件で冷間圧延を施し、ついで表2に示す条件で焼鈍および調質圧延を行い、極薄冷延鋼板とした。 【0062】なお、鋼板No.4を除き、表2の鋼板のスラブ加熱温度は1100〜1250℃、仕上圧延温度は(Ar3変態点+10℃)以上であった。鋼板No.4はスラブ加熱温度1040℃であり、仕上圧延温度はAr3変態点の870 ℃であった。このようにして得られた極薄冷延鋼板について、引張試験、硬さ試験、焼付硬化試験、およびr値の測定を実施した。なお、缶底部の耐圧強度評価としては、前述のように圧延して10%の歪を付与し、またネック・フランジ加工性の評価としては35%の歪を付与したのち、それぞれを塗装焼付け処理に相当する210 ℃×20min の時効処理を行い、引張試験により評価した。なお、引張試験時、明瞭な降伏点現象が認められない場合は、0.2 %耐力を降伏応力とした。 (i)引張試験これら冷延鋼板の幅方向中央部から圧延方向、圧延方向から45°方向および圧延方向から直角方向に、JIS 5号引張試験片を採取し、歪速度40%/min で引張試験を実施し、降伏応力(0.2 %耐力)YS、引張強さTS、伸びElを測定し、3方向の平均値を求めた。 (ii)焼付硬化性試験これら冷延鋼板の幅方向中央部から圧延方向および圧延直角方向に、試験片を採取し、冷間圧延で圧下率10%、あるいは35%の歪を付加したのち、210 ℃×20min の塗装焼付処理相当の熱処理を施し、その後、引張試験を行い降伏応力を測定し、2方向の平均値を求めた。 (iii )硬さ試験これら冷延鋼板およびこれら冷延鋼板に塗装焼付処理相当の熱処理を施したのちの鋼板について、JIS G 3303の規定に準拠してHR30T硬さから調質度を決定した。なお、製缶後のネック・フランジ加工部の断面硬さはVickers 硬さ(荷重50g )で測定した。 (iv)r値の測定これら冷延鋼板のうち、調質圧延の圧下率が2%以下のものは、幅方向の中央部から圧延方向(L)、圧延方向から45°方向(D)、および圧延方向から直角方向(C)に、JIS 5号引張試験片を採取し、歪速度40%/min で引張試験を実施し、塑性歪法(JIS G 3135−1986解説 18p、あるいはJIS Z 2254)により、幅方向と板厚方向の対数歪の比からr値を求めた。平均r値は、平均r値=(rL+rC +2rD )/4で、また、Δrは、Δr=(rL +rC −2rD )/2により算出した。また、調質圧延の圧下率が2%を超える場合は、前述のような固有振動法(JIS G 3135−1986解説 22p、あるいはJIS Z 2254)により、平均r値、Δr値を算出した。 【0063】これらの結果を表3に示す。 【0064】 【表1】
【0065】 【表2】
【0066】 【表3】
【0067】また、これら鋼板を用いて表4に示す条件で鋼板に各種めっき処理を施した後1stカップ成形、DI成形、4段ネック成形を行って350ml DI缶とし、各種缶体特性を評価した。評価した結果をあわせて表4に示す。製缶後蓋を取付け、空気で内圧をかけ、ドーム部にバックリングが発生した時の圧力を求め、缶耐圧強度とした。ネックしわは、ネックイン成形後に目視で、また、フランジ割れは、磁気センサを用いて調査した。 【0068】 【表4】
【0069】本発明例は、板厚が薄いにも関らず、缶底耐圧強度を高くでき、多段ネック、フランジ加工を施しても、ネックしわやフランジ割れの発生もなく、しかも缶強度が確保できる特性を有する極薄冷延鋼板となっている。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、1stカップでの耳立ち、耳切れが発生したり、缶底耐圧強度が小さかったり、ネックしわやフランジ割れが発生する。 【0070】 【発明の効果】本発明によれば、空缶重量25g 以下というような軽量飲料缶用として好適な、耳発生も少なく、所望の缶体の耐圧強度を有し、多段ネック加工も容易であり、さらにフランジ加工性に優れた極薄の2ピース缶用鋼板を、安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、無菌充填法にも適応できるという効果もある。 【0071】さらに、3ピース缶といえども軽量化が進み、極薄鋼板を使用し多段ネック加工や拡缶加工を施されており、2ピース缶同様にしわの問題がある。本発明の缶用鋼板は、このような用途にも使用でき、缶体の軽量化を促進できるという効果もある。また、2ピース缶用でもDWI缶(Drawn and wall ironed can )製法に限らず、SD缶(Shallow −Drawn can )製法、DRD缶(Drawn and Redrawn can)製法、DTR缶(Drawn and Thin Redrawn can)製法、DTRにwall ironedを組み合わせた製法、あるいは缶底ドーム加工を施されないものに使っても何ら差し支えなく、缶体の軽量化を促進できる。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000001258 【氏名又は名称】川崎製鉄株式会社
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| 【出願日】 |
平成12年10月11日(2000.10.11) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100099531 【弁理士】 【氏名又は名称】小林 英一
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| 【公開番号】 |
特開2001−335888(P2001−335888A) |
| 【公開日】 |
平成13年12月4日(2001.12.4) |
| 【出願番号】 |
特願2000−310788(P2000−310788) |
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