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【発明の名称】 加工性、リサイクル性および溶接性に優れた低鉄損かつ高磁束密度の無方向性電磁鋼板
【発明者】 【氏名】酒井 敬司

【氏名】藤山 寿郎

【氏名】鈴木 毅浩

【氏名】本田 厚人

【要約】 【課題】加工性およびリサイクル性、さらには溶接性に優れるとともに、低鉄損しかも高磁束密度である無方向性電磁鋼板を提供する。

【解決手段】Si:1.5 〜4.0 mass%、Mn:0.005 〜2.00mass%およびSb:0.005 〜0.50mass%を含み、かつC、AlおよびNをそれぞれ、C:0.0050mass%以下、Al:0.030 mass%以下、N:0.0030mass%以下に低減し、残部は鉄および不可避不純物の組成に調整し、鋼板の表裏面のいずれか少なくとも一方の表面粗さが最大高さ(Ry )で0.5 〜25μmとするともに、鉄損W15/50 :3.20W/kg以下かつ磁束密度B50:(1.650+0.025 ×W15/50)T以上とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】Si:1.5 〜4.0 mass%、Mn:0.005 〜2.00mass%およびSb:0.005 〜0.50mass%を含み、かつC、AlおよびNをそれぞれ、C:0.0050mass%以下、Al:0.030 mass%以下、N:0.0030mass%以下に低減し、残部は鉄および不可避不純物の組成に成り、鋼板の表裏面のいずれか少なくとも一方の表面粗さが最大高さ(Ry )で0.5〜25μmであり、鉄損W15/50 :3.20W/kg以下かつ磁束密度B50:(1.650+0.025 ×W15/50)T以上であることを特徴とする加工性およびリサイクル性に優れた低鉄損かつ高磁束密度の無方向性電磁鋼板。
【請求項2】 請求項1において、鋼板の硬さが200 HV1以下であることを特徴とする加工性およびリサイクル性に優れた低鉄損かつ高磁束密度の無方向性電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、主として電気機器鉄心材料に用いられる無方向性電磁鋼板、特に低鉄損かつ高磁束密度の無方向性電磁鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、電力をはじめとする、エネルギーの節減という、世界的な動きの中、電気機器についても、その高効率化が強く要望されている。また、電気機器を小型化する観点から、特に鉄心材料の小型化に対する要望も高まっている。さらには、環境への配慮から、電気機器における鉄心材料のリサイクル化への対応も急務となっている。
【0003】この電気機器の高効率化や鉄心材料の小型化には、鉄心の素材となる電磁鋼板の磁気特性を改善することが有効である。ここに、従来の無方向性電磁鋼板の分野では、磁気特性のうち、特に鉄損を低減する手段として、電気抵抗を増加することによって渦電流損を低下させるために、Si、AlおよびMn等の含有量を高める手法が、一般に用いられてきた。しかし、この手法は、磁束密度の低下を免れることができないという、本質的な問題を抱えていた。
【0004】一方、単にSiやAl等の含有量を高めるだけでなく、併せてCやSを低減すること、あるいは特開昭58−15143号公報に記載されているようにBを添加したり、特開平3−281758号公報に記載されているようにNiを添加したりするなど、合金成分を増加させることも、一般に知られている方法である。これら合金成分を添加する方法では、主に鉄損は改善されるものの、磁束密度の改善効果は小さく満足できるものではなかった。さらに、合金添加に伴って鋼板の硬さが上昇して加工性が劣化するため、この無方向性電磁鋼板を加工して電気機器に使用する場合の汎用性に乏しく、その用途は極めて限定されたものとなっていた。
【0005】また、製造プロセスを変更し、製品板の結晶方位の集積度合、すなわち集合組織を改善して磁気特性を向上させる方法が、いくつか提案されている。例えば、特開昭58−181822号公報には、Si: 2.8〜4.0 mass%およびAl: 0.3〜2.0 mass%を含む鋼に200 〜500 ℃の温度範囲内で温間圧延を施し、{100 }<UVW >組織を発達させる方法が、そして特開平3−294422号公報には、Si:1.5 〜4.0 mass%およびAl: 0.1〜2.0 mass%を含む鋼を熱間圧延した後、1000℃以上1200℃以下の熱延板焼鈍と圧下率:80〜90%の冷間圧延との組み合わせによって、{100 }組織を発達させる方法が、それぞれ開示されている。
【0006】しかし、これらの方法による磁気特性の改善効果は、未だ満足できるものではなく、さらには加工性およびリサイクル性にも問題を残していた。つまり、鋼中にある程度以上のAlが含まれていると、まず鋼板の硬さが上昇して加工性が阻害され、また鉄心材料をリサイクルしたり需要家でスクラップ処理する場合に電気炉の電極を傷める、という問題に発展する。
【0007】さらに、鉄心のリサイクル材を用いてモータのシャフトなどを鋳造する場合、0.1 mass%以上のAlが含まれていると、鋳込み時に溶鋼の表面酸化が進行して粘性が増大し、溶鋼の鋳型内充填性が悪化するために、健全な鋳込みが阻害されることも問題になっていた。
【0008】また、需要家が電磁鋼板を用いて電気機器の鉄心を製造する場合、鋼板を積み重ねて溶接を行う必要があることから、この種の素材となる無方向性電磁鋼板は溶接性に優れることも重要である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】従って、この発明の目的は、加工性およびリサイクル性、さらには溶接性に優れるとともに、低鉄損しかも高磁束密度である無方向性電磁鋼板を提供するところにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】この発明の要旨構成は、次の通りである。
(1) Si:1.5 〜4.0 mass%、Mn:0.005 〜2.00mass%およびSb:0.005 〜0.50mass%を含み、かつC、AlおよびNをそれぞれ、C:0.0050mass%以下、Al:0.030 mass%以下、N:0.0030mass%以下に低減し、残部は鉄および不可避不純物の組成に成り、 鋼板の表裏面のいずれか少なくとも一方の表面粗さが最大高さ(Ry )で0.5 〜25μmであり、鉄損W15/50 :3.20W/kg以下かつ磁束密度B50:(1.650+0.025 ×W15/50)T以上であることを特徴とする加工性およびリサイクル性に優れた低鉄損かつ高磁束密度の無方向性電磁鋼板。
【0011】(2) 上記(1) において、鋼板の硬さが200 HV1以下であることを特徴とする加工性およびリサイクル性に優れた低鉄損かつ高磁束密度の無方向性電磁鋼板。
【0012】
【発明の実施の形態】さて、電気機器のモータあるいはトランスの効率を高めるためには、これらの銅損や鉄損を低減することが必要であり、銅損および鉄損をともに低減するためには、素材の磁束密度を高めかつ鉄損を低減する必要がある。ところが、一般に鉄損を低減するために添加する、Siなどの比抵抗増加成分は、飽和磁束密度を低下させることから、鉄損および磁束密度を両立させるのは非常に困難であった。この点、集合組織の改善は、鉄損および磁束密度を両立させ得る優れた手段であるが、この手段にも自ずと限界があった。
【0013】このような状況の下、新たに材料を開発するには、まず素材の鉄損と磁束密度とをいかにバランスさせれば電気機器の高効率化に繋がるか、を知ることが非常に重要になる。そこで、発明者らは、最近一般的に用いられるようになった、500 WのブラシレスDCモータを用いて、この鉄心に種々の素材を適用した際のモータ効率について調査した。ここで、モータ効率とは、DCモータにおける入力に対する出力の比率であり、92%以上であれば極めて高効率と言える。
【0014】その調査結果を、図1に示すように、鉄損W15/50 が3.2 W/kg以下かつ磁束密度B50が(1.650 +0.025 ×W15/50 )T以上を満足する範囲にある素材を鉄心に適用した場合に、モータ効率が向上することを新たに知見した。これは、素材の鉄損と磁束密度とのバランスを上記の範囲に調整することにより、機器での鉄損と銅損とが高度にバランスした結果である。この知見は、DCモータに限らず、AC誘導モータや小型トランスにおいても基本的には同じである。従って、鉄損および磁束密度が上記した好適範囲を満足することが、新たな材料開発の明確な指針になるのである。
【0015】次に、上記の知見を踏まえ、鉄損および磁束密度が上記範囲を満足し、さらに加工性およびリサイクル性をも確保し得る、無方向電磁鋼板の成分組成について鋭意検討した。まず、Alは、従来、磁気特性向上のために必要であるとして添加されてきたが、加工性およびリサイクル性を阻害することから、ここではAlを低減することが肝要である。
【0016】すなわち、Alは、鋼板の製造工程において、鋼板表面の酸化を促進するために、圧延工程で圧延ロールの磨耗を早めて圧延性を阻害したり、鋼板の硬さを高めるために、需要家が打ち抜き加工する際に金型の劣化を早めて作業時間やコストを増大させる等、加工性に関して不利な成分である。また、電気機器などのスクラップを利用して鋳造を行う場合に、Alが含まれていると、鋳込み時に溶鋼の表面酸化が進行して粘性が増大し、溶鋼の鋳型内充填性が悪化するために、健全な鋳物が得られないことがあり、Alを含むスクラップはリサイクル性に乏しいものになる。
【0017】従って、加工性およびリサイクル性を向上するには、Alの含有量を低減することが有効になる。しかしながら、一方でAlの低減は、磁気特性、とりわけ鉄損の増大をまねくことになる。しかしながら、発明者らの研究によれば、Alを低減した上で、その他の鋼中成分を適切に調整することにより、加工性およびリサイクル性、そして磁気特性の全てを満足させ得ることが、新たに判明した。すなわち、発明者らは、数多くの実験結果を解析するうちに、Si量が十分にあり、かつN量が低い場合に、Alをほとんど添加しなくても、良好な鉄損特性が得られることを見出した。そこで、Al量とN量について、系統的にその影響を明らかにするために、以下の実験を行った。
【0018】まず、成分としてC:0.002 mass%およびMn: 0.20 mass%を基本成分とし、これにSi、NおよびAl量を種々に変化させて含有させた、種々の鋼塊を溶製した。これらの鋼塊を1050℃に加熱し、熱間圧延にて2.3 mmに仕上げ、その後約1000℃で熱延板焼純を施し、焼鈍後の鋼板を酸洗し、冷間圧延にて最終板厚の0.35mmに仕上げたのち、約1000℃×10秒間の再結晶焼鈍を行い製品板とした。これらの製品板から、圧延方向と平行におよび圧延方向と直角に、それぞれサンプルを切り出して、JIS C2550に準拠して鉄損を測定し、その平均の鉄損を求めた。その結果を図2に示すように、Si量が高くかつN量が低い場合にのみ、Alが0.030 mass%以下の範囲でも鉄損が著しく低減されることが、定量的に判明した。
【0019】上述したように、Si量の高い高級無方向性電磁鋼板では、従来鉄損を改善するために、Alを添加して固有電気抵抗を増加させる手法が採用されてきた。また、Alの添加は、結晶粒成長を抑制する鋼中析出物であるAlN を凝集粗大化させ、結晶粒の成長を促進させる効果もある。これらの効果を得るためには、Alを一定量以上確保することが必要であり、従来Alの含有量は少なくとも0.1 mass%を超える範囲に規制され、通常は0.4 〜1.0 mass%程度で含有されていた。しかし、発明者らの上記実験によれば、従来技術の範囲よりもはるかにAl量を低減した場合でも、N量を規制することにより、Alを含有させた場合と同等以上に良好な集合組織が発達し鉄損特性が向上することが、新たに見出されたのである。
【0020】このように素材成分において、Nを低減した上でAlの含有量を低減することによって、良好な集合組織が発達する理由については必ずしも明らかではないが、発明者らは、不純物の粒界移動抑制効果に関連づけて以下のように考えている。すなわち、Alを低減することにより、より純鉄に近い結晶格子の配列状態へと近づくため、粒界構造に依存する本来的な移動速度差が顕在化して、再結晶に伴う粒成長過程で一部の粒界のみが優先的に移動し、{111 }、{554 }、{321 }など数多くの磁気的に不利な結晶粒の成長が抑制され、{100 }強度が増加する方向への集合組織変化が引き起こされる結果、磁気特性が向上したものと考えられる。特に、十分なSi量を含有し、かつN量を0.0030mass%以下に低減した場合には、AlN 析出物が形成されにくくなる結果、{100 }強度が増加する方向への粒界移動が促進されると考えられる。
【0021】このように、Alを多量添加することなく集合組織を改善して磁気特性を向上する手法では、Alが減量されるため素材のリサイクル性が改善され、また合金元素の添加量が減少するため飽和磁束密度を高めることができる。併せて、合金元素の添加量が減少されると、鋼板の硬さ上昇が抑制されるから、製品の加工性が確保されて、汎用電気製品への適用が促進される、利点も得られる。
【0022】次に、発明者らは、無方向性電磁鋼板を鉄心に供する場合に特に必要とされる溶接性について検討した。まず、上記のAlおよびNを低減して磁気特性を向上した無方向性電磁鋼板を用いて、従来行われている、溶接加工を含む鉄心の組み立てを行った際に、所定の溶接強度が得られないことが度々発生したために、その原因について鋭意解明したところ、この発明で対象とする低Alの成分系において鉄損を向上させるために添加するSbの存在が、原因の1つであることが推定された。
【0023】さて、溶接加工は、溶接加工部分およびその周辺で種々の酸化反応を伴って進行する。この酸化反応の1つとして、Alとの酸化反応があり、低Alの成分系では当然Alとの酸化反応量が減少するため、溶接時に発生するガス成分は増加する傾向にある。さらに、Sbを含有する鋼板では、鋼中のSbが表層に濃縮しているのが普通であるから、このSbによって溶接時に発生するガス成分と鋼板との酸化反応が抑制される。従って、低Alの成分系においてSbを含有する場合は、溶接時に溶接部分から外部に放出されるガス成分が増加することになり、その結果、ブローホールの発生量が増加し、溶接強度が劣化するものと推定された。
【0024】そこで、発明者らは、低Alの成分系においてSbを含有する無方向性電磁鋼板について、その鋼板の溶接性を改善する手法を究明するために数多くの実験を行った結果、鉄心作製に当って積み重ねた鋼板相互間において、溶接時に発生するガス成分の抜け道を確保することが有利であり、具体的には、鋼板の表面粗さの指標の1つである、最大高さ(Ry )とブローホールの発生量との間に強い相関があることを見出した。
【0025】すなわち、Si:1.5 〜3.5 mass%、Al:0.01mass%、N:0.0020mass%およびSb:0.005 〜0.08mass%を含む、種々の鋼塊を溶製して実験に供した。そして、これらの鋼塊を、1050〜1180℃に加熱してから熱間圧延にて2.3 mm厚に仕上げた後、 980〜1020℃で熱延板焼鈍を施し、鋼板を酸洗してから、冷間圧延にて最終板厚の0.35mmに仕上げた。次いで、冷間圧延後、 750〜1000℃の温度域で10秒間の再結晶焼鈍を行い製品板とした。なお、鋼板の表裏面の表面粗さRy については、冷間圧延機のロール粗度を変化させたり、直接機械的に研磨することによって、種々の表面粗さに調整した。
【0026】かくして得られた製品板の複数枚を20〜40mmの厚さに積み重ね、その端面を、鉄心加工時と同様の条件にてTIG 溶接にて溶接加工し、そのビード部の1cm2 当りのブローホールの個数を測定した。その調査結果を、ブローホールの個数と鋼板のいずれか表面粗さの小さい面での最大高さとの関係として、図3に示す。
【0027】図3に示すように、この発明に従う成分の鋼板では、その表面粗さ(Ry )とブローホール発生量との間に強い相関があり、最大高さ(Ry )を0.5 μm以上とすることにより、ブローホールの発生量が20個/cm2 以下に抑制され、溶接性は格段に改善されることが判明した。但し、最大高さ(Ry )が25μmをこえると、磁気特性が劣化し、この発明の成分組成による磁気特性の向上効果が阻害されるため、鋼板の表面粗さは最大高さ(Ry )で0.5 〜25μmの範囲とする。なお、鋼板の表裏いずれか一方の面の表面粗さを上記のように規制すれば、鋼板を積み重ねて溶接を行う際の溶接性は改善されるため、表裏いずれか一方の面の表面粗さを規制すればよいが、両面の表面粗さを規制することが、より好ましいことは勿論である。
【0028】ここで、Sbは、低Alの場合のAlN の微細析出を抑制し、かつこれらの粒成長阻害作用を抑制することにより、より磁気特性上有利な集合組織形成を促進させるのに有効であり、そのためには0.005 〜0.50mass%の範囲で添加する。
【0029】さらに、この発明の無方向性電磁鋼板では、需要家での加工性を損なうことのないように、鋼板のビッカース硬さを200 HV1以下に規制することが好ましい。すなわち、Alを低減して鋼板表面での酸化を抑制して金型の早期磨耗を回避することに併せて、鋼板の硬さを200 HV1以下に規制することによって、鋼板の加工性が格段に改善されるのである。一方、鋼板の硬さが120 HV1未満になると、逆に打ち抜いた端面に、だれやつぶれが発生して金型からの離脱が阻害されたり、打ち抜き後のかえりが大きくなって鋼板の占積率などに悪影響を及ぼす場合があるから、120 HV1以上とすることが好ましい。
【0030】この鋼板硬さの規制は、主にAlを低減することによって達成されるものであるが、不純物元素が多量に存在したり、最終焼純において焼鈍温度が不十分であったり、あるいは焼鈍中に酸化や窒化が生じた場合などには、所望の硬さを安定して得るのが困難となることがある。従って、この発明に従って不純物を低減することは勿論、製造工程における、焼鈍を過度に酸化や窒化が生じない雰囲気にすることが有効である。なお、この発明では、酸化や窒化の核となる鋼中Al量を低減しているため、他の鋼種と比較すると、酸化や窒化は生じにくい、利点がある。また、酸化や窒化に対する抑制効果のある、Sbを添加することも、鋼板の硬さを200 HV1以下にするのに有効である。
【0031】以下に、この発明の各構成要件の限定理由について詳述する。まず、この発明の無方向性電磁鋼板の成分組成としては、Si:1.5 〜4.0 mass%およびMn:0.005 〜2.00mass%を含有することが必須である。すなわち、Siを含有させて電気抵抗を増大させ、鉄損を低減する必要があり、この鉄損改善のためには1.5 mass%以上の含有が必要である。一方、Siの含有量が4.0 mass%以上になると、磁束密度が低下することおよび製品の二次加工性が著しく劣化することから、1.5 〜4.0 mass%の範囲に限定する。
【0032】Mnは、良好な熱間加工性を得るために必要な成分であり、引張り強さを高め、また靱性を改善するのにも有効である。また、SiやAlほどではないが、鋼の比抵抗を高めて鉄損を向上させる効果もある。さらに、MnS の微細析出を抑制する効果もあり、Sに対して過剰、例えば〔Mn〕/〔S〕≧5のMnは磁気特性的に有利である。そのためには0.005 mass%以上の含有が必要になる。一方、2.00mass%を超えると、飽和磁束密度が低下するとともに、冷間圧延性並びに焼鈍時の表面性状の劣化をまねくため、2.00mass%以下とする。
【0033】ちなみに、Sは、磁気特性を悪化させる有害なMnS などの硫化物の生成を助長するために極力低下することが好ましく、製造コストを考慮して、0.0100mass%以下にすることが推奨される。
【0034】また、Cは、γ域を拡大し、α−γ変態点を低下させる作用があり、Cが多量に含有する場合は焼鈍中にγ相がα粒界にフィルム状に生成し、α粒の成長を抑制するため、良好な磁気特性が得られない。従って、磁気時効劣化を抑制し、かつ低Al化による集合組織の改善効果を十分に発揮させるために、0.0050mass%以下に低減する必要がある。なお、Cの低減は、溶鋼の段階で0.0050mass%以下としてもよいし、溶鋼段階で0.0050mass%をこえていても途中工程での脱炭処理により0.0050mass%以下としてもよく、要は再結晶焼鈍中の鋼板におけるC含有量が50ppm 以下であることが重要になる。
【0035】次に、優れた磁気特性を得るために、鋼板のAl量を0.030 mass%以下およびN量を0.0030mass%以下に低減することが肝要である。すなわち、Al含有量が0.030 mass%をこえると、製品板における集合組織が劣化して磁束密度が低下するため、0.030 mass%以下、好ましくは0.010 mass%以下に低減する。また、N量が0.0030mass%をこえると、AlN 析出物が形成されて、再結晶焼鈍時の集合組織の発達と結晶粒の成長とが抑制され、鉄損が大きく劣化するため、N量は0.0030mass%以下、好ましくは0.0025mass%以下に低減する。
【0036】また、Sbは、AlN 析出形態および粒界移動時の良好な集合組織形成のために、有効な成分であり、0.005 mass%未満ではその効果に乏しく、一方0.5 mass%をこえると、逆に粒成長性を阻害するため、0.005 〜0.5mass %の範囲で添加する。
【0037】なお、Ni、Sn、Cu、PおよびCrなども、集合組織の形成に有利に働くことが確認されており、これらを添加することに問題はない。しかし、Niが2.0 mass%、Snが1.0 mass%、Cuが1.0 mass%、Pが0.3 mass%、そしてCrが3.0 mass%をこえる範囲では粒界移動が抑制されて集合組織の形成や粒成長性が阻害されるため、これらの上限値をこえない範囲で各成分を添加する必要がある。
【0038】以上の成分組成を有する鋼板は、鉄損W15/50 :3.20W/kg以下かつ磁束密度B50:(1.650 +0.025 ×W15/50 )T以上の磁気特性を有し、しかも加工性およびリサイクル性に優れたものとなる。
【0039】さらに、優れた溶接性を得るために、鋼板の表裏いずれか一方の面の表面粗さを最大高さ(Ry )で0.5 〜25μmとすることが肝要である。なぜなら、図3に示したように、磁気特性を損なうことなく溶接性を改善するには、上記鋼板の表面粗さを0.5 〜25μmRy とする必要があるからである。
【0040】ちなみに、上記した成分組成の溶鋼は、通常の造塊法や連続鋳造法にてスラブを製造してもよいし、100 mm以下の厚さの薄鋳片を直接鋳造法で製造してもよい。次いで、スラブは通常の方法で加熱して熱間圧延に供するが、鋳造後加熱せずに直ちに熱間圧延してもよい。なお、薄鋳片の場合には熱間圧延しても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進んでもよい。次いで、必要に応じて熱延板焼鈍を施し、さらに必要に応じて中間焼鈍を挟み1回以上の冷間圧延を施した後、連続焼鈍を行い、必要に応じて絶縁コーティングを施す。積層した鋼板の鉄損を改善するために、鋼板表面に絶縁コーティングを施すが、この目的のためには、2種類以上の被膜からなる多層膜であってもよいし、樹脂等を混合させたコーティングを施してもよい。
【0041】ここで、上記の製造工程において、鋼板の表裏いずれか一方の面の表面粗さを所定の範囲に制御するために、冷間圧延における最終スタンドのロール粗度を調整したり、機械研磨、化学研磨または電解研磨等を適用する、必要がある。
【0042】
【実施例】表1に示す成分組成に成る鋼スラブを連続鋳造にて製造した。この鋼スラブを1050〜1150℃に加熱し、熱間圧延にて1.6 〜2.8 mm厚に仕上げたのち、 950〜1050℃で20〜30sの熱延板焼鈍を行い、冷間圧延を行って0.20〜0.50mmの最終板厚に仕上げた。次いで、水素雰囲気において、 850〜1100℃で5〜20sの仕上げ焼鈍を施し、半有機コーティング液を塗布して300 ℃で焼き付けて製品とした。なお、冷間圧延における最終スタンドのロール粗度を変化させたり、直接機械研磨を行うことによって、鋼板の表面粗さを適宜調整した。
【0043】かくして得られた製品板から、圧延方向と平行におよび圧延方向と直角に、それぞれサンプルを切り出して、JIS C2550に準拠して磁束密度および鉄損を測定した。また、各鋼板について、その複数枚を20〜40mmの厚さに積み重ね、その端面を、下記条件にてTIG 溶接にて溶接加工し、そのビード部の1cm2 当りのブローホールの個数を測定した。
記溶接電流:40cm/minアーク長:1.5mmアルゴン流量:4l/min締め付け圧力:2.45MPa【0044】これらの測定結果を表2に示すように、この発明の成分範囲に従うことによって、磁気特性および溶接性の良好な製品が得られていることがわかる。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【発明の効果】この発明によれば、加工性およびリサイクル性、さらに溶接性に優れるとともに、低鉄損しかも高磁束密度である無方向性電磁鋼板を安定して提供することができる。
【出願人】 【識別番号】000001258
【氏名又は名称】川崎製鉄株式会社
【出願日】 平成12年5月15日(2000.5.15)
【代理人】 【識別番号】100059258
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 暁秀 (外2名)
【公開番号】 特開2001−323350(P2001−323350A)
【公開日】 平成13年11月22日(2001.11.22)
【出願番号】 特願2000−142152(P2000−142152)