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【発明の名称】 耐リジング性および成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板ならびにその製造方法
【発明者】 【氏名】平田 知正

【氏名】横田 毅

【氏名】加藤 康

【氏名】宇城 工

【氏名】佐藤 進

【要約】 【課題】耐リジング性および成形性に優れるフェライト系ステンレス鋼板とその製造方法を提案する。

【解決手段】熱間圧延の粗圧延工程において、少なくとも1パスを圧下率30%以上とし、かつ圧下率が最大となるパスでは板厚中心と表面との間の温度差を200℃以下として圧延することにより、圧延方向に切断した板厚方向断面で測定される、下記に定義する{111}方位コロニーの面積率が、板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域で、30%以上存在するものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧延方向に切断した板厚方向断面で測定される、下記に定義する{111}方位コロニーの面積率が、板厚方向断面内で板厚の1/8〜3/8および5/8〜7/8の領域で、30%以上であることを特徴とする耐リジング性および成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
記{111}方位コロニー:結晶の隣接集合体であって、各結晶の<111>方位ベクトルが圧延面に垂直な方向ベクトルとなす角度が15°以内にある結晶の隣接集合体。
【請求項2】 請求項1において平均結晶粒径が3〜100μmであることを特徴とする耐リジング性および成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項3】 スラブを熱間圧延し、熱延板焼鈍および冷間圧延を施した後、仕上げ焼鈍をして、フェライト系ステンレス鋼板を製造するに際し、熱間圧延の粗圧延工程において、少なくとも1パスを圧下率30%以上とし、かつ圧下率が最大となるパスでは板厚中心と表面との間の温度差を200℃以下として圧延することを特徴とする耐リジング性および成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項4】 請求項3において、前記仕上げ焼鈍の条件が、焼鈍温度が700〜1100℃で焼鈍時間が300秒以下であることを特徴とする耐リジング性および成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関し、とくに、耐リジング性および成形性(プレス加工性および曲げ加工性)に優れたフェライト系ステンレス鋼板(鋼帯を含む)およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】フェライト系ステンレス鋼は、応力腐食割れを起こしにくく、安価であること、また深絞り性や耐リジング性も近年少しづつ改善されてきたことから、厨房器具や自動車部品などの広い分野で利用されるようになってきた。このようにフェライト系ステンレス鋼の利用分野が拡大されるに伴って、深絞り性、耐リジング性に加えて、張出し性や曲げ加工性といった他の成形特性に対してもより厳しい基準が求められるようになってきた。ここに、張出し性とは、金属板の板端を拘束した状態で中央部をプレスにより張り出させたときに、どこまで破れずに張り出させられるかの指標(バルジ高さで表示)であり、板端を拘束されないでプレスする場合に用いられる深絞り性(r値で評価される)とは区別される。
【0003】ところで、最近、フェライト系ステンレス鋼の深絞り性、耐リジング性を向上させるために、鋼板中のコロニーを制御する技術が提案されている。コロニー(同一の結晶方位を有する結晶粒のかたまり)に関するこれまでの研究によれば、耐リジング性の改善には、コロニーを小さくすることが最も有効であると考えられてきた。例えば、特開平10−330887号公報では、図6に示すようなRD (Rolling Direction 、以下RDという) 面内のコロニーの板厚方向の長さを板厚の30%以下とし、板厚方向のコロニーサイズを小さくすることにより耐リジング性を、また{111}方位コロニーの体積率を15%以上とすることで深絞り性を改善する方法が開示されている。一方で、特定のコロニーを活用しようという試みもある。例えば、特開平9−263900号公報では、{111}方位コロニーの板幅方向の大きさを100〜1000μmに限定し耐リジング性を向上させ、{111}方位コロニーの板幅方向に占める割合を多くすることで深絞り性(r値)を向上させる技術が示されている。これらの方法はいずれも、{111}方位コロニーを多く存在させることで深絞り性(r値)を向上させ、さらにその{111}方位コロニーのサイズを小さくすることで耐リジング性を改善しようとするものである。
【0004】しかし、深絞り性や耐リジング性は上記の技術によって改善されるものの、張出し性をも大幅に向上させることは困難である。これに対して、深絞り性と張出し性を含むプレス加工性とともに、耐リジング性を改善する技術が、特開平7−310122号公報に開示されている。これは、粗圧延の温度(1000〜1150℃)、摩擦係数(0.3以下)、圧下率(40〜75%)およびひずみ速度(7〜100/s)を制御することにより板厚中心部の再結晶を促進させ、深絞り性(r値)、耐リジング性および張出し性を共に改善しようとするものである。しかしながら、この技術によっても、近年の大きな張出し加工の要請には十分な対応ができなくなっている。
【0005】一方、従来ステンレス鋼板に厳しい曲げ加工を行ったときに割れが発生することがあったことから、耐曲げ加工性も、求められる重要な特性となってきた。曲げ加工時の割れに関しては、従来からもっぱら、鋼中の非金属介在物の観点から検討されてきており、とくに鋼板の表面直下に存在する圧延方向に伸展したA系介在物が悪影響を及ぼすことが明らかとなっている(大竹ら、「鉄と鋼」46(1960)、p.1273))。そして、例えば、特開平05−239600号公報には、Tiを添加して、加工により粘性変形したA系介在物を、粘性変形せずに鋼中に不規則に分散した粒状酸化物などのC系介在物に置換することにより、曲げ加工性を向上させる方法が開示されている。また、特開平05−306435号公報には、Fe-Cr合金において、Fe+Cr≧99.98wt%という高純度化を図ることによって曲げ加工性の改善を達成する方法が示されている。また、特開昭49-104818号公報には、鋼成分をMn/Si≧1.4になるように調整して、MnO・SiO2系介在物を減少させることにより、曲げ性を改善する技術が開示されている。しかし、上記各技術はいずれも鋼中の成分調整を伴う方法であるために、製造コストの上昇、製造時間の増大、ひいては生産の能率低下を招くといった問題を有している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明の目的は、上記従来技術が抱えていた問題を解決して、耐リジング性および成形性 (深絞り性、張出し性、曲げ加工性など) に優れるフェライト系ステンレス鋼板とその製造方法を提案することにある。また、本発明の他の目的は、CやNの低減、TiやNbの添加、高純度化、Mn/Siの調整といった化学成分上の特別の配慮を行わなくても、耐リジング性および成形性に優れるフェライト系ステンレス鋼板とその製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】さて、発明者らは、前述の目的の実現に向け、リジングと板厚方向の結晶方位分布の関係などについて詳細に調査した。その結果、SUS430を代表とする汎用フェライト系ステンレス鋼板の耐リジング性および成形性(深絞り性、張出し性、曲げ加工性)を改善するには、{111}方位コロニーを積極的に活用することが重要であり、特に、従来全く着目されていなかったTD(Transverse Direction、以下TDという)面(図6参照)の特定位置のコロニー制御、具体的には、この板厚方向断面内で柱状晶が生成しやすい板厚の1/8〜3/8および5/8〜7/8の領域に、{111}方位コロニーをより多く分布させることが極めて有効であることを知見した。また、この場合に、平均結晶粒径を一定範囲に制御することにより、曲げ加工性が一層向上することをも知見した。この発明は上記の知見に立脚するものであり、その発明の構成は次のとおりである。
【0008】(1) 圧延方向に切断した板厚方向断面で測定される、下記に定義する{111}方位コロニーの面積率が、板厚方向断面内で板厚の1/8〜3/8および5/8〜7/8の領域で、30%以上であることを特徴とする耐リジング性および成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
記{111}方位コロニー:結晶の隣接集合体であって、各結晶の<111>方位ベクトルが圧延面に垂直な方向ベクトル、図6で言えば、Normal Directionの方位(以下、NDという)となす角度αで15°以内にある結晶の隣接集合体。 (αについては図6参照)ここで圧延面とは、圧延材の表面のことを示す。図6で言えば、ND面に平行な面であって、圧延材の表面または裏面のことを指す。
(2) 平均結晶粒径が3〜100μmである上記(1)に記載の耐リジング性および成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(3) スラブを熱間圧延し、熱延板焼鈍および冷間圧延を施した後、仕上げ焼鈍をして、フェライト系ステンレス鋼板を製造するに際し、熱間圧延の粗圧延工程において、少なくとも1パスを圧下率30%以上とし、かつ圧下率が最大となるパスでは板厚中心と表面との間の温度差を200℃以下として圧延することを特徴とする耐リジング性および成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
(4) 上記(3) において、仕上げ焼鈍の条件が、焼鈍温度が700〜1100℃で焼鈍時間が300秒以下であることを特徴とする耐リジング性および成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、この発明をなす端緒となった実験結果について説明する。表1に示す成分組成よりなるフェライト系ステンレス鋼を溶製後、厚さ200mmの連鋳スラブとし、1170℃まで加熱した後、6パスの粗圧延および7パスの仕上げ圧延からなる熱間圧延を行って、板厚4.0mmの熱延板とした。ここで、粗圧延における最大圧下率を24〜63%、ロール噛込み直前の板厚中心と板表面との温度差を233℃以下の範囲で変化させた。また、板厚中心と表面の温度差は、主にデスケーリングの冷却水量を0〜6800 l/min /mの間で制御することにより行った。熱間圧延は、ロール径500〜1500mm、ロール周速50〜500m/min の範囲で行った。次いで、850℃で8時間あるいは900〜960℃で1分間の熱延板焼鈍を行って、冷間圧延し、598〜1125℃で324秒以下の仕上げ焼鈍を施して、板厚0.6mmの冷延焼鈍板とした。
【0010】通常、熱間粗圧延中の鋼板の表面と内部温度は、実測できないので、差分法を用いた熱伝導計算により推定する方法が一般に使用されている。差分法によれば、鋼板表面の実測温度、圧延前後の鋼板寸法、ロール径、冷却水量、鋼板とロール間の熱伝達係数、鋼板と冷却水間の熱伝達係数を用いて、任意時間経過後の鋼板の表面と内部温度を正確に推定できることが当業者に知られている。鋼板内部温度の実測値は、鋼板内部に熱電対を埋め込むことで測定でき、ほぼ熱伝導差分法により算出した推定値と精度良く一致することが確認されている。
【0011】本発明では、材料温度 (参考文献:小門「塑性と加工」11 (1970) p816〜 )とロール温度 (参考文献:関本ら「鉄と鋼」61 (1975) p2337 〜2349)と、圧延負荷 (参考文献:日本鉄鋼協会発行「板圧延の理論と実際」(1984) p36〜37)を考慮した温度予測モデル (参考文献:Devadas.C.M.,& Whiteman.J.A.: Metal Science, 13 (1979) p95)を使用して、熱間粗圧延中の鋼板の表面と内部温度の推定を行った。具体的には、熱間粗圧延前の板表面温度は、スラブ表面温度を加熱炉装入直前に放射温度計により実測した値(スラブ長手方向中央部の板幅方向の板幅中央部と板端から200mmの3ヶ所を実測した平均値)を起点として、加熱炉から抽出するまでの炉内での加熱パターンに基づいて熱伝導差分計算により求めた。また、粗圧延機の各スタンドのロール噛み込み直前の板表面温度および板厚中心部の温度は、加熱炉から抽出時の板厚方向の温度の平均値を起点に、その後のロールとの接触、冷却水等の冷媒との接触、放冷などの履歴に基づいて熱伝導差分計算を行うことにより求めた。
【0012】かくして得られた冷延焼鈍板の深絞り性および耐リジング性(リジング高さで評価)に及ぼす、板厚方向断面内で板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニーの占める割合の影響について調べた結果を、表1中の鋼種Aを用いた場合を図1に、バルジ高さに及ぼす板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニー面積率の影響について調べた結果を図2に示す。ここで、{111}方位コロニーは、結晶の隣接集合体であって、各結晶の<111>方位ベクトルが圧延面に垂直な方向ベクトル (ND方向) となす角度αで15°以内にある結晶の隣接集合体を意味する。{111}方位コロニーについては、鋼板の幅方向中央の位置で圧延方向に切断した板厚方向断面 (TD面、図6参照) 内の結晶の結晶方位を、EBSD (Electron Back Scattering Diffraction) 法により1μmの測定間隔で測定し、板厚の1/8〜3/8と5/8〜7/8の領域での{111}方位コロニーの面積率を求めた。なお、熱延板の結晶方位コロニーは一般に圧延方向に伸展していると考えられ、圧延方向に切断することで結晶方位コロニーを見つけやすくなるため、ここでは圧延方向に切断とした。
【0013】また、平均結晶粒径、深絞り性、耐リジング性、張出し性は次の方法により測定した。
・平均結晶粒径光学顕微鏡を用いて切断法(顕微鏡写真上に10μm間隔で線を引き、線上にある結晶粒の数を測定し、その平均値をとる方法)により求めた。
・深絞り性JIS13号B試験片(板幅方向の板幅中央部と板端から200mmの3ヶ所を50mおきに採取)を用い、15%の単軸引張予歪を与えて、3点法に従う各方向のr値(rL、rD、rC)を求め、次式により各採取個所のr値を計算し、それらの平均値を求めた。
r=(rL+2rD+rC)/4ただし、rL、rDおよびrCは、それぞれ圧延方向、圧延方向に対して45°の方向、圧延方向に対して90°の方向のr値を表す。
・耐リジング性圧延方向から採取したJIS5号試験片(板幅方向の板幅中央部と板端から200mmの3ヶ所を50mおきに採取)に20%の引張り歪みを与えた後、表面粗度計によりリジング高さ(μm)を測定し、その最大値で表した。リジング高さは低い方が耐リジング性がよい。
・張出し性 (液圧バルジ試験) JIS G 1521試験片は、板幅方向の板幅中央部と板端から200mmの3ヶ所を50mおきに採取した。100mmφ円形ダイスを用い、締付圧力980kNの液圧バルジ試験を行い、バルジ高さを求めた。
【0014】図1から次の傾向がみられる。板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニーの面積率が30%以上になると、r値が1.3を超え、およそ1.5の高r値で安定する。また、リジング高さは、{111}方位コロニーの面積率が30%以上の領域で急激に小さくなって、およそ4μm以下となり、耐リジング性が向上する。また、図2では、板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニーの面積率が30%以上になると、バルジ高さが30mmを超え、およそ37mmの高い値で安定する傾向がみられる。
【0015】図3は、深絞り性および耐リジング性に優れる冷延焼鈍板(発明例)と深絞り性および耐リジング性に劣る冷延焼鈍板(比較例)について、板幅方向1/2の位置で、板幅方向(TD方向)に向かって観察する向きに試験片を採取し、全板厚(0.6mm)にわたってEBSD法により結晶方位分布を測定した結果の一例である。図3から、深絞り性および耐リジング性に優れる冷延焼鈍板は、主に板厚の1/8〜3/8及び板厚の5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニー(図中の灰色部分)の存在割合が高いことがわかる。なお、図3では、圧延面に垂直な (図6でいえばND方向)方向ベクトルと各結晶の<111>方向ベクトルのなす角αが15°以内の場合に灰色に見える。
【0016】次に、この発明において、フェライト系ステンレス鋼板の結晶方位分布、平均結晶粒径および製造方法を上記範囲に限定した理由について述べる。
・結晶方位分布および、平均結晶粒径の観察面は、圧延方向熱延板の結晶方位コロニーは一般に圧延方向に伸展していると考えられ、圧延方向に切断することで結晶方位コロニーを見つけやすくなるため、個々では圧延方向に切断とした。但し、結晶方位コロニーとわかれば、切断は圧延方向に限らない。
・板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニーの面積率:30%以上深絞り性、耐リジング性および張出し性の向上には、スラブ柱状晶部に当たる板厚の1/8〜3/8および5/8〜7/8の領域に{111}方位コロニーを積極的に生成させることが重要であり、張出し性向上にも不可欠である。図1、図2に示したように、板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニーの存在割合(面積率)が30%未満では、リジング高さが約20μm以上と急激に大きくなり、また、r値も1.3未満、バルジ高さ30mm未満と低下する。特に、バルジ高さは、{111}方位コロニーの面積率が30%を超えると急激に高くなる。よって、板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニーの占める面積率を30%以上とした。さらに好ましくは面積率50%以上である。
【0017】・平均結晶粒径:3〜100μm平均結晶粒径は曲げ加工を行ったときの割れの発生程度に影響する。平均結晶粒径が3μmに満たない細粒だと、それをつくるために冷延板焼鈍時間を短くすることにつながり、再結晶が十分に進まず、圧延時に鋼中に投入された歪が、曲げ時に解放されて曲げ割れが発生しやすくなる。平均結晶粒径が100μmを超える粗大粒でもやはり、曲げ加工時に割れが発生しやすくなり、かつ延性が低下する。このため、平均結晶粒径は3〜100μm、好ましくは3〜60μmの範囲とする。なお、平均結晶粒径の調整は、主として、後述の仕上げ焼鈍温度によって調整できる。
【0018】・板厚中心と板表面との温度差:200℃以下前述の実験結果より求められた、冷延焼鈍板の板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニーの面積率と、熱間圧延時における板厚中心と板表面との温度差の関係を図4に示す。図4から、粗圧延最大圧下率が30%に達しないものを除くと、板厚中心と表面の温度差が200℃以下の範囲にある冷延焼鈍板は、いずれも{111}方位コロニーが面積率で30%以上存在していることがわかる。圧延ロール噛込み直前の板厚中心と表面の温度差を200℃超にすると、再結晶挙動が板厚の中心部と表面近傍で大きく異なるために、{111}方位コロニーを30%以上生成させることが困難になると考えられる。圧延によってロールへの熱伝達が起こり、被圧延材には板厚方向に温度分布が生じるが、圧延直後に最大である温度差は、時間の経過とともに被圧延材内の板厚方向の熱伝導によって均温化されて小さくなり、十分な時間の経過(30秒程度)後には温度差はゼロになる。粗圧延ロール噛込み直前の板厚中心と表面の温度差の原因としては、このように、一つ前のパスにより生じるものであるが、その他に、加熱炉での加熱中に板厚方向にできる温度分布によるものや、あるいは粗圧延直前に脱スケール(デスケーリング)の目的で冷媒(通常は水)を圧延材表面にかけることによるものがある。また、圧延速度と板厚方向熱伝導による均温までの時間により温度差が決まる。
【0019】・粗圧延の1パス当たり最大圧下率:30%以上上記実験結果より、板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニーの面積率と、粗圧延1パス当たりの最大圧下率との関係を図5に示す。図5から、板厚中心と表面との温度差が200℃超えのものを除けば、粗圧延の1パス当たり最大圧下率が30%以上のものでは、板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域において面積率30%以上の{111}方位コロニーが形成されている。以上のことから、板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニーの面積率を30%以上確保するには、粗圧延工程で少なくとも1パス当たり最大圧下率を30%以上とすることが必要である。
【0020】・仕上げ焼鈍:700〜1100℃、300秒以内平均結晶粒径を本発明で定める範囲の3〜100μmに調整するには、仕上げ焼鈍条件を最適な条件にするのがよい。仕上げ焼鈍の温度が700℃未満では鋼板中心部までの再結晶が完全には進まず、十分な成形性、特に曲げ加工性が得られにくい。また、1100℃を超える温度で焼鈍すると、結晶粒が必要以上に粗大化し、曲げ加工時に割れが発生しやすくなる。焼鈍時間が300秒を超える場合にも、同様に結晶粒が粗大化し、曲げ加工性を悪化させる。このため、仕上げ焼鈍は700〜1100℃、好ましくは800〜1000℃の温度範囲で、また300秒以内、好ましくは10〜90秒の時間で実施するのが望ましい。
【0021】なお、本発明は、フェライト系ステンレス鋼であれば、いかなる成分組成のものにも問題なく適用できるが、とりわけ、C、Nを特別に低減しない、またTi、Nbを添加しない、あるいはまた高純度化やMn/Si調整といった化学成分上で特別の配慮を払わないフェライト系ステンレス鋼であっても適用できる。なお、本発明を有利に適用しうる具体的な成分としては、質量%で、C:0.1%以下、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Cr: 5〜50%、Ni:2.0 %以下、P:0.08%以下、S:0.02%以下、N:0.1%以下を含み、さらに必要に応じて、Nb:0.5%以下、Ti:0.5%以下、Al:0.2%以下、V:0.3%以下、Zr:0.3%以下、Mo:2.5%以下、Cu:2.5%以下、W:2.0%以下、REM:0.1%以下、B:0.05%以下、Ca:0.02%以下、Mg:0.02%以下から選ばれる1種または2種以上を含み、残部はFeおよび不可避的不純物よりなるものが挙げられる。
【0022】このほか、本発明においては、熱間圧延におけるスラブ加熱温度は、1000〜1300℃、表面性状の点から好ましくは1100〜1200℃とすることが、仕上げ圧延温度は、表面性状と加工性確保の理由から、仕上げ圧延出側温度600〜1000℃、好ましくは700〜950℃とすることが好ましい。また、熱延板の焼鈍は、鋼種に応じて700〜1100℃で10秒から10時間とすることが好ましい。さらに、冷間圧延は、製品板厚に応じて仕上げればよいが、プレス加工性をより向上させる理由から、冷間圧下率は50%以上とすることが好ましい。
【0023】
【実施例】以下、実施例に基づいて、具体的に説明する。表1に示す成分組成と残部が実質的にFeからなるフェライト系ステンレス鋼を溶製して厚さ200mmの連鋳スラブとして、1170℃に加熱後、6パスの粗圧延および7パスの仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、板厚4.Ommの熱延板とした。このとき、粗圧延の最大圧下率を24〜63%の範囲で変化させるとともに、最大圧下率をとるパスの圧延ロール噛込直前の板厚中心と表面の温度差を233℃以下の範囲で種々に変化させた。ここに、板厚中心と表面の温度差の決定方法は前述の実験方法で記載したとおりである。板厚中心と表面の温度差は主にデスケーリングの冷却水量を0〜6800 l/min/mの間で制御し、粗圧延はロール径500〜1500mm、ロール周速50〜500m/minの範囲で行った。次いで、850℃で8時間、または900〜960℃で1分の熱延板焼鈍を行い、冷間圧延後、温度および時間を種々の範囲で変えて仕上げ焼鈍を行い、板厚0.6mmの冷延焼鈍板とした。
【0024】かくして得られた鋼板について、板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニーの占める面積率、板幅方向に垂直な断面内の平均結晶粒径をそれぞれ測定した。その結果を、深絞り性(r値)、バルジ高さ、曲げ加工性(割れ発生有無)および最大リジング高さと共に表2、表3および表4に示す。なお、{111}方位コロニーの面積率は、EBSD法により全板厚(0.6mm)×圧延方向0.9mmの断面における結晶方位を1μm間隔で測定し、板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニーの面積率を求めた。また、曲げ加工性は、圧延方向から採取したJIS 5号試験片に20%の引張歪みを与えたのち、180°の完全密着曲げを行い、曲げ部に発生する割れの有無により評価した。また、深絞り性(r値)、最大リジング高さおよびバルジ高さについては、前述の実験結果の説明中の方法と同じ方法に従い測定した。表2〜表4に示したように、この発明例はいずれも比較例に比べて優れた深絞り性(r値) 、張出し性、曲げ加工性および耐リジング性を有していることがわかる。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
【発明の効果】以上説明したように、本発明にしたがい、熱間圧延における粗圧延を制御して、冷延焼鈍板の板厚の1/8〜3/8及び5/8〜7/8の領域における{111}方位コロニーの面積率を30%以上確保することにより、耐リジング性および成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供することが可能となる。また、本発明によれば、SUS430などの汎用鋼をはじめとするフェライト系ステンレス鋼において、特にCやNの低減、TiやNbの添加などといった化学成分上の配慮を払わなくても、上記効果が得られるので、安価でかつ上述のような特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の安定供給に寄与するところが大きい。
【出願人】 【識別番号】000001258
【氏名又は名称】川崎製鉄株式会社
【出願日】 平成12年12月1日(2000.12.1)
【代理人】 【識別番号】100080687
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 順三 (外1名)
【公開番号】 特開2001−316775(P2001−316775A)
【公開日】 平成13年11月16日(2001.11.16)
【出願番号】 特願2000−367097(P2000−367097)