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【発明の名称】 |
被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼およびその製造方法 |
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【氏名】阿部 行雄 【氏名】久保田 邦親 【氏名】田村 庸 【氏名】加田 善裕 |
【課題】被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.55〜0.75%、Si:0.1〜0.6%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:6.8〜8.0%、MoまたはWの1種または2種を(Mo+1/2W):1.0%未満、V:1.0%以下、S:0.2%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、断面組織中に占める面積20μm2以上の炭化物の面積率が3%以下の工具鋼であって、断面組織、具体的には焼入れ後の断面組織における円相当径0.3μm以上の炭化物の数が1mm2あたり40000個以上かつ、その16000μm2の断面組織範囲×10ヶ所での標準偏差/平均が0.3以下の工具鋼である。Ca:100ppm以下、Ni:1.0%以下を含有してもよい。そして、上記組成を有する鋳塊または熱間加工後の鋼片に対し、1100〜1280℃の範囲でソーキングを行う工具鋼の製造方法である。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 質量%で、C:0.55〜0.75%、Si:0.1〜0.6%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:6.8〜8.0%、MoまたはWの1種または2種を(Mo+1/2W):1.0%未満、V:1.0%以下、S:0.2%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、断面組織中に占める面積20μm2以上の炭化物の面積率が3%以下の工具鋼であって、断面組織における円相当径0.3μm以上の炭化物の数が1mm2あたり40000個以上かつ、その16000μm2の断面組織範囲×10ヶ所での標準偏差/平均が0.3以下であることを特徴とする被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼。 【請求項2】 焼入れ後の断面組織における円相当径0.3μm以上の炭化物の数が1mm2あたり40000個以上かつ、その16000μm2の断面組織範囲×10ヶ所での標準偏差/平均が0.3以下であることを特徴とする請求項1に記載の被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼。 【請求項3】 質量比で、Ca:100ppm以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼。 【請求項4】 500℃以上の焼戻しにより発生する熱処理変寸が、焼入れ前基準・線膨張換算で0.15%以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼。 【請求項5】 500℃以上の焼戻しによりその最高硬さが57HRC以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼。 【請求項6】 質量%で、Ni:1.0%以下を含有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼。 【請求項7】 質量%で、C:0.55〜0.75%、Si:0.1〜0.6%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:6.8〜8.0%、MoまたはWの1種または2種を(Mo+1/2W):1.0%未満、V:1.0%以下、S:0.2%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋳塊または熱間加工後の鋼片に対し、1100〜1280℃の範囲でソーキングを行うことを特徴とする被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼の製造方法。 【請求項8】 鋳塊または熱間加工後の鋼片が、質量比でCa:100ppm以下を含有することを特徴とする請求項7に記載の被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼の製造方法。 【請求項9】 鋳塊または熱間加工後の鋼片が、質量%でNi:1.0%以下を含有することを特徴とする請求項7または8に記載の被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼の製造方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は自動車、家庭電化製品、農機具等に使用される鋼板の打抜き、曲げ、絞り、あるいはトリミング用の金型等に使用される工具鋼に関するものである。 【0002】 【従来の技術】自動車や家庭電化製品といった部品の製造には打抜き等の加工が用いられる。加工に使用される工具材、特に冷間加工用金型材には、耐摩耗性付与のため炭化物を多量に含み、さらに焼入れ性に優れかつ靭性を確保するためにCr含有量が多い材料が求められており、例えばJISG4404規定の合金工具鋼鋼材であるSKD11等の高C−高Cr系鋼が使用されている。また、耐摩耗性を特に必要としない場合はSKS3といった低合金鋼も油焼入れ後300℃以下での焼戻しで調質し使用されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】ところが、近年自動車メーカー等では、価格競争に打ち勝つためにこれまであらゆる分野でコスト低減を実施し、金型関連では金型製作工数の削減も必要となった。一方、全体的な社会の流れとして多品種少量生産への移行があり、その点からも金型にも如何にその早く作れるかが重要視されてきている。そこで、金型材といった工具鋼には切削加工工数短縮のために被削性の向上が、また焼入れ焼戻し後の仕上加工代および工数短縮のために熱処理前後での形状変化、つまり熱処理変寸の低減が求められている。 【0004】この場合、SKD11では、熱処理変寸が小さく、使用時の耐摩耗性が良好な反面、鋼材からの加工による形状出しでは切削加工時間を短縮するという要求に満足できなくなってきた。 【0005】低合金鋼のSKS3では、SKD11に比べ被削性が良好であるが、油焼入れを必要とし近年重要視されてきている環境面で好ましくない。加えて、工具鋼が工業上必要とされる57HRC以上の硬さを得るには約300℃以下の低温での焼戻しが必要となり、耐摩耗性付与のため行われる表面処理や、形状出しに用いられる放電加工ができないといった問題点がある。 【0006】その他として、特に鋼板の打抜き、曲げ、絞りあるいはトリミング等に使用される金型では、三次元的に変化している製品の形状を成形する金型にて割れが頻発するようになり、その使用される工具鋼には溶接補修等に対応できる要求も高まってきた。 【0007】以上、従来より金型等に適用されてきた工具鋼には、最近において求められる機械的特性について各々一長一短がある。そこで本発明は、靭性や耐摩耗性といった機械的性質を低下させず、被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼、さらには溶接性、熱処理・表面処理特性にも優れた工具鋼を提供するものである。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、靭性や耐摩耗性といった基本的な特性の維持を鑑みた上で、熱処理変寸の低減や溶接性及び被削性の改善に要求される基本条件を見直した。本発明者らは、工具鋼の基本成分であるC含有量を減少しても良好な機械的性質、特に硬さ及び靭性を得るに充分な成分及び組成を見いだし、組成や炭化物量の適正化によって被削性の向上や熱処理変寸の低減を図った。そして、引き続き検討を行った結果、焼入れ後の炭化物分布の適正化により熱処理変寸が小さくなることを見いだした。 【0009】すなわち、本発明の第1として、質量%で、C:0.55〜0.75%、Si:0.1〜0.6%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:6.8〜8.0%、MoまたはWの1種または2種を(Mo+1/2W):1.0%未満、V:1.0%以下、S:0.2%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、断面組織中に占める面積20μm2以上の炭化物の面積率が3%以下の工具鋼であって、断面組織、具体的には本発明の第2として、焼入れ後の断面組織における円相当径0.3μm以上の炭化物の数が1mm2あたり40000個以上かつ、その16000μm2の断面組織範囲×10ヶ所での標準偏差/平均が0.3以下の工具鋼である。 【0010】さらに、本発明の第3として、第1または第2の発明に対し質量比でCa:100ppm以下を含有する工具鋼である。さらに、本発明の第4として、第1ないし第3のいずれかの発明に対し500℃以上の焼戻しにより発生する熱処理変寸が、焼入れ前基準・線膨張換算で0.15%以下の工具鋼である。さらに、本発明の第5として、第1ないし第4のいずれかの発明に対し500℃以上の焼戻しによりその最高硬さが57HRC以上の工具鋼である。さらに、本発明の第6として、第1ないし第5のいずれかの発明に対し質量%でNi:1.0%以下を含有する工具鋼である。 【0011】また、被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼を製造するにあたり、適正な炭化物量、形態、分布とするための製造方法を検討した結果、ソーキングが効果を有することも見いだした。 【0012】すなわち、本発明の第7として、質量%で、C:0.55〜0.75%、Si:0.1〜0.6%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:6.8〜8.0%、MoまたはWの1種または2種を(Mo+1/2W):1.0%未満、V:1.0%以下、S:0.2%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋳塊または熱間加工後の鋼片に対し、1100〜1280℃の範囲でソーキングを行うことを特徴とする被削性に優れ熱処理変寸が小さい工具鋼の製造方法である。 【0013】さらに、本発明の第8として、第7の発明に対し鋳塊または熱間加工後の鋼片が、質量比でCa:100ppm以下を含有する工具鋼の製造方法である。さらに、本発明の第9として、第7または第8の発明に対し鋳塊または熱間加工後の鋼片が、質量%でNi:1.0%以下を含有する工具鋼の製造方法である。 【0014】 【発明の実施の形態】本発明の特徴は、工具鋼の基本成分であるC含有量を減少しても良好な機械的性質、特に硬さ及び靭性を得るに十分な成分及び組成を見いだし、適正な炭化物量及びその分布、形態の適正化により被削性が優れ、熱処理変寸が小さく、さらには溶接性、熱処理・表面処理特性にも優れた工具鋼を見いだしたところにある。 【0015】焼戻しにより発生する熱処理変寸については、仕上加工工数の低減のため、焼入れ前基準・線膨張換算で0.15%以下、好ましくは0.10%未満とすることが望ましい。熱処理変寸を低減するには、焼入れ時の基地固溶成分の調整の他に、炭化物による拘束効果の利用がある。 【0016】この拘束効果は、主として焼入れ時における未固溶炭化物量が多く、大きい方が、その効果が大きくなるが、これは被削性を悪化させることになる。また、個々の炭化物が分散し、炭化物が疎となる部分を減らすことでも熱処理変寸は小さくなる。炭化物が疎となる部分とは、図1に示すミクロ組織において、縞状偏析の間の炭化物が少ない領域のことである。これを図2のように炭化物を均一に分散させることで疎の部分を減らし、これによって熱処理変寸は低減される。 【0017】以上より、被削性が良好でかつ炭化物の拘束効果により熱処理変寸を小さくするために、本発明者らは、主として一次炭化物などの大きな炭化物を減らし、炭化物を分散させることで変寸の低減を達成した。つまり、断面組織中に占める面積20μm2以上の炭化物の面積率が3%以下の工具鋼であって、断面組織、具体的には焼入れ後の断面組織における円相当径0.3μm以上の炭化物の数が1mm2あたり40000個以上かつ、その16000μm2の断面組織範囲×10ヶ所での標準偏差/平均が0.3以下の工具鋼である。 【0018】次に被削性について述べる。被削性に関与する材料の組織的要因の一つに組織中の炭化物がある。硬質粒子である炭化物が組織中に存在すると、そのアブレッシブ摩耗により切削工具の摩耗が促進され、工具寿命の低下、つまり被削性が悪くなる。そこで、被削性の向上には炭化物を無くすことが望ましく、鋼中のC及びCr含有量を下げることでこれを達成することはできるが、完全に炭化物を無くす領域まで下げると熱処理変寸の増大を招く。また、工具鋼が工業上必要とする耐摩耗性を備える上で重要な57HRC以上の硬さを得るに困難となってしまう。 【0019】組織中の炭化物について、その被削性に悪影響を及ぼすのは主に凝固にて晶出する一次炭化物などの粗大な炭化物である。そこで、耐摩耗性を考え57HRC以上の焼入れ焼戻し硬さが得られ、一次炭化物などの粗大な炭化物を少なくする工具鋼組成として検討した結果、そのためにはCが0.55%以上、Crが6.8%以上が望ましい。 【0020】また、被削性は快削元素であるSを添加し、MnS等の硫化物を生成させることでより向上する。ただし、硫化物が多すぎると靭性低下を招くためS含有量は0.2%以下が望ましい。これら述べた炭化物、硫化物形態にすることにより被削性は焼なまし状態だけでなく、57HRC以上の焼入れ焼戻し状態においても向上する。 【0021】次に溶接性について述べる。本発明において、溶接性が優れる、あるいは溶接可能というのは、規定の予熱、後熱処理を行うJISZ3158のY形状試験にて溶接割れが認められないことを指す。予熱は一般的に溶接時の高温割れ防止のために行い、後熱は低温割れの防止を目的とする。 【0022】一般に金型はその製造途中または使用中の状況により形状変更や補修のために溶接が実施されるが、合金鋼は溶接時の割れを防止するために高温に予熱した状態で実施される。特にCr等を含む場合は450〜550℃以上に予熱後溶接するのが一般的であるが、本発明ではこの予熱温度を下げてもJISZ3158のY形状試験にて溶接割れが認められない。これによって溶接での作業性が向上する。 【0023】また高C,Cr鋼では溶接後の後熱も重要になるが、溶接熱影響部の硬さを下げることで後熱における加熱温度、時間を低くすることができる。特に熱影響部のコントロールにはC量を0.75%以下にすることとCr量を6.8%以上にすることが望ましい。 【0024】次に表面処理性について述べる。表面処理温度でのオーステナイト組織中に固溶するC量は十分な膜厚を有するMX型化合物(TiC,VC等)の生成に重要である。つまり固溶Cは表面処理においてMX型化合物を生成するために、その鋼材から供給すべく必要となり、その最適量は表面処理温度に保持する前のマルテンサイト組織中に固溶するC量による。その固溶C量の調整をすべく、本発明の工具鋼はそのC含有量を0.55%以上としている。 【0025】これらのことを踏まえ、本発明での成分の限定理由について述べる。Cは焼入れ性を向上し、熱処理後の硬さを維持するために必要である。またCは耐摩耗性付与のため行われる表面処理において十分な膜厚を有するMX型化合物(TiC,VC等)の生成に重要である。耐摩耗性を達成すべく熱処理後の硬さを57HRC以上に確保し、CVD処理や塩浴法といった表面処理において十分なMX型炭化物の膜厚を確保するためには0.55%以上の含有量が必要である。またCはCr,Mo,W,Vと結合して炭化物を形成し、耐摩耗性や焼戻し軟化抵抗を向上させる。添加量が過多になると靭性を低下させ、溶接性を劣化させる。また炭化物量増加により被削性が低下するのでC量は0.55〜0.75%とした。 【0026】Siは脱酸剤及び鋳造性改善の目的で含有するが、これを低減化すると靭性が向上する。しかし被削性も劣化するため0.1%以上が必要である。過多の含有は溶接性を阻害する原因となり、またマトリックスの成分偏析も激しくなる。また経年変形も大きくなるためSiの含有量は0.1〜0.6%とした。 【0027】Mnは焼入れ性向上のために含有するが、0.1%未満では焼入れ硬さを安定して得るには不十分である。一方、多すぎると溶接性を劣化させる原因となり、さらにSiと同様マトリックスの成分偏析も激しくなるので0.1〜1.2%とした。 【0028】CrはCと結合して炭化物を生成し耐摩耗性を向上するとともに、焼入れ性を増す効果、そしてCVD処理や塩浴法などによる複雑形状への表面処理後の冷却中におこる一種の焼き割れ現象を防止する効果がある。しかし、多すぎるとCr炭化物の増加による靭性及び被削性低下の原因となる。さらに固液共存温度幅が大きくなり鋳造欠陥発生の危険度が増し、実質的に製造性に困難が生じる原因となる。よってCrの含有量は6.8〜8.0%とした。 【0029】MoおよびWは焼入れ性を向上する。また、Cと結合して硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる。MoとWにおいては、その各特性に与える効果が同様のものが多い。この場合、Moは重量比にてWの1/2相当で同程度の効果度を得ることができるため、その効果を得るに含有させるMo,W量は(Mo+1/2W)で表すことが可能である。本発明ではMo,Wの1種または2種を含有させることができ、つまりMoの全含有量を2倍のW含有量で置き換え使用してもよく、Moの一部をそれに相当するW量に置き換え使用してもよい。過多の添加量ではMo,W系炭化物の晶出量が多くなり被削性及び靭性を劣化させ、経年変形の増加も招くので1.0%未満とした。好ましくは0.6%以上である。 【0030】Vは工具鋼に必要な軟化抵抗を増大させる元素であるが、過多の含有は凝固時に巨大なV系炭化物を晶出し、溶接性と被削性を低下させる原因となるので1.0%以下とした。好ましくは0.05%以上である。 【0031】Sは被削性を高める硫化物生成に必要な元素である。添加しすぎると靭性や溶接性の低下を招くので0.2%以下とした。好ましくは0.01%以上である。 【0032】Caは機械的性質の低下を伴わない快削元素である。その快削機構は鋼中に微量に分散している酸化物を低融点化させ、これが切削熱で溶け出し、刃先に保護膜を形成するものである。また、硫化物の鍛伸方向への延伸を抑え、鍛伸垂直方向の靭性低下を抑制する効果がある。しかし、蒸気圧が高いため溶鋼中から抜けやすく、添加技術上難しいことから100ppm程度までが現状の技術的レベルである。なお、上記効果を得るために好ましくは10ppm以上である。 【0033】Niは焼入れ性と衝撃遷移温度を上げることによる靭性向上が認められる元素であるが、本合金系では特に高C量域での靭性維持による効果で溶接性劣化を防止でき、実用上に操業可能な表面処理領域を広げる方向に作用する。しかし、被削性を劣化させるため、好ましくは1.0%以下とする。なお、上記効果を得るために好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.01%以上とする。 【0034】また、本発明の工具鋼はその他求められる効果に則して、上記の成分組成にPb,Se,Te,Bi,In,Be,Ce,Zr,Tiのうちの1種または2種以上を合計で0.2%以下なら含有しても問題はない。その他、希土類は本発明の工具鋼における被削性を向上する目的で合計0.2%以下の含有が可能である。また、不可避的不純物の総量は0.5%以下が好ましい。そして、耐摩耗性付与がさらに必要な場合、Alを0.5%以下添加して窒化硬さを上げることも可能である。 【0035】次にソーキングの効果について述べる。これまで述べたように、本発明の組成および炭化物の量、分布、形態により、被削性は良好なままで熱処理変寸の低減が達成でき、さらには溶接性、熱処理・表面処理特性にも優れた工具鋼を得ることができる。炭化物の量、分布、形態の適正化においては、その状態を造塊方法や製造工程における熱間加工での加工中、または冷却過程にて制御・調整することが可能であるが、ソーキングを行うことでもその制御・調整が可能であることを見いだした。 【0036】一般には、造塊工程での凝固にて発生する成分偏析により、CまたはCr等の炭化物形成元素が不均一に分布する。また、粗大な一次炭化物がネット状に形成される(図3の(a))。この状態で熱間加工を行うと成分偏析は縞状の偏析となり、炭化物分布に不均一が生じる。また、粗大な一次炭化物も残る(図3の(b))。 【0037】これに対しソーキングを行うと、不均一であったCr等の炭化物形成元素が拡散し、均一な分布となり、また、粗大な一次炭化物が固溶する(図3の(c))。そして、続いて行われるソーキングの冷却過程もしくは次工程の熱間加工工程において微細な炭化物が均一に、多く析出することとなる(図3の(d))。よって、後の焼入れ時における未固溶炭化物の疎の部分が少なくなり、熱処理変寸の低減が得られる。また、ソーキングにより粗大な一次炭化物を固溶させることより、被削性及び溶接性のさらなる向上も達成できる。 【0038】これらの効果は鋳塊または熱間加工後の鋼片に対し、1100〜1280℃の範囲でソーキングを行うことで得られる。温度が低すぎるとソーキングによる一次炭化物の固溶が不十分であり、逆に温度が高すぎると一次炭化物付近の溶融により逆に一次炭化物が粗大化したり熱間加工性を悪化させたりする。 【0039】以上に述べた本発明の工具鋼であれば、優れた溶接性の付与に加えて従来のSKD11と同等の熱処理条件である1000~1050℃からの焼き入れ、500℃以上の焼戻しによっても57HRC以上の硬さが確保できる。そして、その57HRC以上の硬さにて優れた被削性を有することから、焼入れ焼戻し状態での形状加工を行なう、いわゆるプリハードン工具・金型への適用が可能な工具鋼である。加えて、塩浴法やCVD処理といった表面処理性にも優れるものである。 【0040】また、本発明の工具鋼を金型等に使用した場合は、その求められる機能に応じて必要な部位にのみフレームハード等を実施してもよく、製作工数あるいは必要特性を考慮して硬さを得るための熱処理方法を選択すればよい。 【0041】 【実施例】次に本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。 (実施例1)高周波炉により表1に示す化学組成の合金を溶解し、所定の鋼塊を製作した。 【0042】 【表1】
【0043】比較鋼1はJIS−SKD11相当材である。次に鋼塊を鍛造比5にて鍛造して鋼材に仕上げ、焼なましを行なった。そして、本発明鋼4〜8および比較鋼4,5,7,8は表1に示す温度でソーキングを行った。なお、本発明鋼4は本発明鋼3とほぼ同等組成の素材に対しソーキングを行ったものである。 【0044】次に真空炉で1030℃に加熱保持後、ガス加圧冷却を行い、530℃×1hの焼戻しを2回行って試料とし、その試料の炭化物量の測定を行った。まず、試料の切断面を研磨後、10%ナイタール液で腐食し、200倍の顕微鏡にてその切断面2mm2の範囲の画像をコンピューターに取り込み、画像解析ソフトを用いて20μm2以上の炭化物の面積率を求めた。結果を表2に示す。 【0045】 【表2】
【0046】本発明鋼は、切断面に占める面積20μm2以上の炭化物の面積率が3%以下となっている。また、本発明鋼3に対し、ほぼ同等組成でソーキングを行った本発明鋼4は20μm2以上の炭化物量が少なくなっている。 【0047】さらに、1000倍の顕微鏡にて16000μm2の範囲の画像を10視野コンピューターに取り込み、円相当径で0.3μm以上の炭化物の数を求めた。10視野は、試料の連続した領域を鍛造方向に垂直に移動させて取り込みを行った。解析結果を表2に併せて示す。 【0048】本発明鋼は、円相当径0.3μm以上の炭化物の数が1mm2当たり40000個以上であり、炭化物数の標準偏差/平均、つまりバラツキも小さくなっている。本発明鋼3,4より、このバラツキはソーキングによっても小さくなることが分かる。 【0049】次に上記焼なまし材、ソーキングを行なったものはそのソーキング後の焼きなまし材より直径10mm、長さ80mmの試験片を各10本製作し、同条件の焼入れ焼戻しを行なった(真空炉で1030℃に加熱保持後、ガス加圧冷却を行い、530℃×1hの焼戻しを2回行った)。そして、長手方向の寸法を測って焼入れ前基準での寸法変化を評価した。表3に0.15%を超える変寸が発生した本数を示す。 【0050】 【表3】
【0051】本発明鋼は、変寸が0.15%以下であり、JIS−SKD11に相当する比較鋼1とほぼ同等の熱処理特性を示す。0.10%以上の変寸が発生した本数については、本発明鋼4はソーキングにより炭化物分布のバラツキが小さくなっているため、ほぼ同等成分の本発明鋼3より少なくなっている。しかし、比較鋼2〜6はC,Cr量のバランスや円相当径0.3μm以上の炭化物量が少ない等において、変寸が大きくなっている。比較鋼3は炭化物分布のバラツキが大きいため、変寸が大きくなっている。また、比較鋼4はMo量が、比較鋼5はSi量が多いため、変寸が大きい。 【0052】(実施例2)次に被削性評価を行った。表1の成分の焼きなまし状態の素材、ソーキングを行なったものはそのソーキング後の焼きなまし状態の素材より50mm×100mm×200mmの試験片を製作し、表4の条件にてスクエアエンドミルでの被削性評価を行った。被削性は、工具の刃先部の摩耗が0.3mmに達するまでの切削長を工具寿命として評価した。結果を表5に示す。 【0053】 【表4】
【0054】 【表5】
【0055】本発明鋼は優れた被削性を示す。一方、比較鋼1,6,7は20μm2以上の炭化物量が多いため、被削性が悪くなっている。また、比較鋼8はV量が多いため、被削性が悪い。 【0056】さらに、表1の成分の焼きなまし状態の素材、ソーキングを行なったものはそのソーキング後の焼きなまし状態の素材を真空炉で1030℃に加熱保持、ガス加圧冷却にて焼入れ、500℃以上の焼戻しにより約58HRCに調質し、表6の条件にて被削性評価を行った。被削性は、工具の刃先部の摩耗が0.1mmに達するまでの切削長を工具寿命として評価した。結果を表7に示す。 【0057】 【表6】
【0058】 【表7】
【0059】本発明鋼は焼入れ焼戻し材でも良好な被削性であるのに対し、比較鋼は被削性が劣る。 【0060】 【発明の効果】以上述べたように、本発明であれば、SKD11と比較して工具鋼の基本成分であるC含有量を減少しても適正な組成及び炭化物、硫化物量のバランスにより良好な機械的性質、特に硬さ及び靭性を確保することができ、被削性に優れ、熱処理変寸が小さい工具鋼とすることができる。これにより、金型の製作効率向上およびそれによるコスト低減が期待できる。本発明による工業的価値は大きい。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000005083 【氏名又は名称】日立金属株式会社
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| 【出願日】 |
平成12年4月12日(2000.4.12) |
| 【代理人】 |
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| 【公開番号】 |
特開2001−294974(P2001−294974A) |
| 【公開日】 |
平成13年10月26日(2001.10.26) |
| 【出願番号】 |
特願2000−110731(P2000−110731) |
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