| 【発明の名称】 |
耐遅れ破壊特性の優れた高強度ボルト用鋼、ボルトおよびそのボルトの製造方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】山崎 真吾
【氏名】樽井 敏三
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| 【要約】 |
【課題】耐遅れ破壊特性の良好で、引張強度が1300MPa 以上の高強度ボルト用鋼、ボルト及びそのボルトの製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.50〜1.00%、Si:0.05〜2.0 %、Mn:0.2〜2.0 %、Al:0.005 〜0.1 %を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなることを特徴とする耐遅れ破壊特性の優れた高強度ボルト用鋼。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 質量%で、C:0.50〜1.00%、Si:0.05〜2.0 %、Mn:0.2 〜2.0 %、Al:0.005 〜0.1 %を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなることを特徴とする引張強度:1300MPa 以上を有する耐遅れ破壊特性の優れた高強度ボルト用鋼。 【請求項2】 質量%で、C:0.50〜1.00%、Si:0.05〜2.0 %、Mn:0.2 〜2.0 %、Al:0.005 〜0.1 %を含有し、さらに、Ti:0.005 〜0.20%、B:0.0003〜0.0050%、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜1.0 %、Ni:0.05〜5.0 %、Cu:0.05〜1.0 %、V:0.05〜2.0 %、Nb:0.005 〜0.2 %、Ta:0.005 〜0.5 %、またはW:0.05〜0.5 %の1種または2種以上を含有することを特徴とする引張強度:1300MPa 以上を有する耐遅れ破壊特性の優れた高強度ボルト用鋼。 【請求項3】 請求項1または2記載の成分からなるボルトで、面積率最大の相が焼戻しマルテンサイトであり、旧オーステナイト粒界の球状炭化物の平均短軸長が0.05μm以上であり、且つ引張強度が1300MPa 以上を有することを特徴とする耐遅れ破壊特性の優れた高強度ボルト。 【請求項4】 請求項1又は2記載の成分からなり、面積率最大の相がマルテンサイトである鋼を550 ℃以上650 ℃以下で焼戻すことを特徴とする引張強度:1300MPa 以上を有する耐遅れ破壊特性の優れた高強度ボルトの製造方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は1300MPa 以上の引張強度を有する耐遅れ破壊特性の優れた高強度ボルト用鋼、ボルトおよびボルトの製造方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】機械、自動車、橋、建物に数多く使用されている高強度ボルトは、例えばJISG 4104、JIS G 4105に規定されているSCr・SCM等の、C量が0.20〜0.35%の中炭素鋼を用いて焼入れ・焼戻し処理をすることによって製造されている。しかし、どの品種についても引張強度が1300MPa を超えると遅れ破壊の危険性が高まることがよく知られており、例えば現在使用されている建築用ボルトの強度は1150MPa 級が上限となっているのが現状である。 【0003】高強度ボルトの遅れ破壊特性を向上させる従来の知見として、例えば、特公平3-243744号公報では、旧オーステナイト粒を微細化させること、組織をベイナイト化させることが有効であると提案している。確かに、ベイナイト組織は遅れ破壊に対して有効であるが、ベイナイト化処理は製造コストが高くなる。旧オーステナイト粒の微細化に関しては、特公昭64-4566 号公報や特公平3-243745号公報でも提案されている。また、特公昭61-64815号公報は、Caを添加することを提案している。しかしながら、いずれの提案も本発明者らの試験では、大幅な耐遅れ破壊特性の改善には至っていない。 【0004】以上のように、従来の技術では、耐遅れ破壊特性を抜本的に向上させた高強度ボルトを製造することには限界があった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の如き実状に鑑みなされたものであって、耐遅れ破壊特性の良好で且つ引張強度が1300MPa 以上の高強度ボルト用鋼および高強度ボルトを実現すると共にそのボルトの製造方法を提供することを目的とするものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、まず焼入れ・焼戻し処理によって製造した種々の強度レベルのボルト用鋼を用いて、遅れ破壊挙動を詳細に解析した。遅れ破壊は鋼材中の水素に起因して発生していることは既に明らかである。そこで、遅れ破壊特性について、遅れ破壊が発生しない「限界拡散性水素量」を求めることにより評価した。この方法は、電解水素チャージにより種々のレベルの拡散性水素量を含有させた後、遅れ破壊試験中に試料から大気中に水素が抜けることを防止するためにCdめっきを施し、その後、大気中で所定の荷重を負荷し、遅れ破壊が発生しなくなる拡散性水素量を評価するものである。図1に拡散性水素量と遅れ破壊に至るまでの破断時間の関係について解析した一例を示す。試料中に含まれる拡散性水素量が少なくなるほど遅れ破壊に至るまでの時間が長くなり、拡散性水素量がある値以下では遅れ破壊が発生しなくなる。この水素量を「限界拡散性水素量」と定義する。この限界拡散性水素量が高いほど鋼材の耐遅れ破壊特性は良好であり、鋼材の成分、熱処理等の製造条件によって決まる鋼材固有の値である。なお、試料中の拡散性水素量はガスクロマトグラフで容易に測定することができる。 【0007】そこで、高強度ボルトの限界拡散性水素量を増加させる手段、即ち耐遅れ破壊特性を上げるべく、オーステナイト結晶粒度、焼き入れ焼き戻し条件の影響等について検討を重ねた。この結果、遅れ破壊が旧オーステナイト粒界に沿った粒界割れであることから、耐遅れ破壊特性の大幅な向上を達成するためには、粒界割れの発生を防止することが重要であるとの結論に達した。 【0008】そこで更に、オーステナイト粒界割れを防止する手段について、種々検討を重ねた結果、面積率最大の相がマルテンサイトである組織を有するボルトに550 ℃以上、望ましくは580 ℃以上の温度で焼戻しを施すことによって、1300MPa を超えるような高強度域でもオーステナイト粒界割れを防止できること、即ち破壊形態が粒内割れになるため、限界拡散性水素量が大幅に増加し、耐遅れ破壊特性が格段に向上するという知見を見出したのである。 【0009】以上の検討結果に基づき、鋼材組成、組織形態、熱処理条件を最適に選択すれば、耐遅れ破壊特性に優れた高強度ボルトを実現できるという結論に達し、本発明をなしたものである。本発明は以上の知見に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは、下記の通りである。 (1)質量%で、C:0.50〜1.00%、Si:0.05〜2.0 %、Mn:0.2 〜2.0 %、Al:0.005 〜0.1 %を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなることを特徴とする引張強度が1300MPa 以上である耐遅れ破壊特性の優れた高強度ボルト用鋼。 (2)質量%で、C:0.50〜1.00%、Si:0.05〜2.0 %、Mn:0.2 〜2.0 %、Al:0.005 〜0.1 %を含有し、さらに、Ti:0.005 〜0.20%、B:0.0003〜0.0050%、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜1.0 %、Ni:0.05〜5.0 %、Cu:0.05〜1.0 %、V:0.05〜2.0 %、Nb:0.005 〜0.2 %、Ta:0.005〜0.5 %またはW:0.05〜0.5 %の1種または2種以上を含有することを特徴とする引張強度が1300MPa 以上である遅れ破壊特性の優れた高強度ボルト用鋼(3)前記(1)又は(2)記載の成分からなるボルトで、面積率最大の相が焼戻しマルテンサイト組織であり、旧オーステナイト粒界の球状炭化物の平均サイズが0.05μm以上であり、且つ引張強度が130kgf/mm 2以上であることを特徴とする耐遅れ破壊特性に優れた高強度ボルト。 (4)前記(1)又は(2)記載の成分からなり、面積率最大の相がマルテンサイトである組織を有する鋼を550 ℃以上650 ℃以下で焼戻すことを特徴とする、引張強度が1300MPa 以上である耐遅れ破壊特性の優れた高強度ボルトの製造方法。 【0010】 【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について説明する。 鋼材成分:本発明の対象とする鋼の成分の限定理由について述べる。 C:Cはボルトの強度を確保する上で必須の元素であるが、0.50%未満では所定の焼戻し温度範囲では所要の強度が得られず、一方1.00%を越えると靭性を劣化させるために、0.50〜1.00%、望ましくは0.70〜1.00%の範囲に制限した。 【0011】Si:Siは固溶体硬化作用によって強度を高める作用がある。0.05%未満では前記作用が発揮できず、一方、2.0 %を超えると添加量に見合う効果が期待できないために、0.05〜2.0 %の範囲に制限した。 Mn:Mnは脱酸、脱硫のために必要であるばかりでなく、マルテンサイト組織を得るための焼入性を高めるために有効な元素であるが、0.2 %未満では上記の効果が得られず、一方2.0 %を越えるとオーステナイト域加熱時に粒界に偏析し粒界を脆化させるとともに耐遅れ破壊特性を劣化させるために0.2 〜2.0 %の範囲に制限した。 【0012】Al:Alは脱酸および熱処理時においてAlNを形成することによりオーステナイト粒の粗大化を防止する効果とともにNを固定する効果も有しているが、0.005 %未満ではこれらの効果が発揮されず、0.1 %を越えても効果が飽和するため0.005 〜0.1 %の範囲に限定した。 以上が本発明の対象とする鋼の基本成分であるが、本発明においては、さらにこの鋼に、Ti:0.005 〜0.20%、B:0.0003〜0.0050%、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜1.0 %、Ni:0.05〜5.0 %、Cu:0.05〜1.0 %、V:0.05〜2.0 %、Nb:0.005 〜0.2 %、Ta:0.005 〜0.5 %またはW:0.05〜0.5 %の1種または2種以上を含有せしめることができる。 【0013】Ti:TiはAlと同様に脱酸および熱処理時においてTiNを形成することによりオーステナイト粒の粗大化を防止する効果とともにNを固定する効果も有しているが、0.005 %未満ではこれらの効果が発揮されず、0.20%を越えても効果が飽和するため0.005 〜0.20%の範囲に限定した。 B:Bは粒界破壊を抑制し遅れ破壊特性を向上させる効果がある。更に、Bはオーステナイト粒界に偏析することにより焼入性を著しく高めるが、0.0003%未満では前記の効果が発揮されず、0.0050%を超えても効果が飽和するため0.0003〜0.0050%に制限した。 【0014】Cr:Crは焼入性の向上および焼戻し処理時の軟化抵抗を増加させるために有効な元素であるが、0.05%未満ではその効果が十分に発揮できず、一方2.0 %を超えると靭性の劣化、冷間加工性の劣化を招くために0.05〜2.0 %に限定した。 Mo:MoはCrと同様に強い焼戻し軟化抵抗を有し熱処理後の引張強さを高めるために有効な元素であるが、0.05%未満ではその効果が少なく、一方1.0 %を越えるとその効果は飽和しコストの上昇を招くために0.05〜1.0 %に制限した。 【0015】Ni:Niは高強度化に伴って劣化する延性を向上させるとともに熱処理時の焼入性を向上させて引張強さを増加させるために添加されるが、0.05%未満ではその効果が少なく、一方5.0 %を越えても添加量にみあう効果が発揮できないため、0.05〜5.0 %の範囲に制限した。 Cu:Cuは焼戻し軟化抵抗を高めるために有効な元素であるが、0.05%未満では効果が発揮できず、1.0 %を超えると熱間加工性が劣化するため、0.05〜1.0 %に制限した。 【0016】V:Vは焼入れ処理時において炭窒化物を生成することによりオーステナイト粒を微細化させる効果があるが、0.05%未満では前記作用の効果が得られず、一方2.0 %を越えても効果が飽和するため0.05〜2.0 %に限定した。 Nb:NbもVと同様に炭窒化物を生成することによりオーステナイト粒を微細化させるために有効な元素であるが、0.005 %未満では上記効果が不十分であり、一方0.2 %を越えるとこの効果が飽和するため0.005 〜0.2 %に制限した。 【0017】Ta:TaもNbと同様にオーステナイト粒の微細化効果を有しているが、0.005 %未満では前記の効果が発揮されず、0.5 %を越えて添加しても効果が飽和するため、0.005 〜0.5 %に限定した。 W:Wは高強度ボルトの遅れ破壊特性を向上させるために有効な元素であるが、0.05%未満では前記の効果が発揮されず、一方、0.5 %を越えて添加しても効果が飽和するため、0.05〜0.5 %の範囲に限定した。 【0018】不純物元素であるP、Sについては特に制限しないものの、遅れ破壊特性を向上させる観点から、それぞれ0.015 %以下が好ましい範囲である。Nについては、Al、V、Nb、Tiの窒化物を形成することによって旧オーステナイト粒の微細化、降伏強度の増加の効果があるため、0.002 〜0.1 %が望ましい範囲である。 【0019】製造条件:本発明の高強度ボルトの製造方法は、上記成分の鋼をAC3点以上温度範囲に加熱した後に焼入れて面積率最大の相をマルテンサイトとした後に、550 ℃以上650 ℃以下、望ましくは580 ℃以上650 ℃以下の温度範囲で焼き戻すものである。加熱温度は、高すぎると旧オーステナイト粒の粗大化を促進するため、950 ℃以下が望ましい。 【0020】本発明は鋼材を550 ℃以上の高温で焼戻すことによって、粒界炭化物を0.05μm以上に粗大化かつ球状化させることによって、粒界における微小亀裂先端の応力集中を低減し、粒界割れを抑制するものである。焼戻し温度が550 ℃未満では上記の形態の炭化物を有する組織を得られないため、焼戻し温度域を550 ℃以上650 ℃以下とした。より望ましい条件は、580 ℃以上650 ℃以下の範囲である。 【0021】上記球状化炭化物の平均短軸長の上限は特に定めることなく本発明の効果が得られるが、あまりに粗大な炭化物は亀裂発生の起点となるため、1 μm以下が望ましい。本発明において、マルテンサイト又は焼戻しマルテンサイトの面積率は鋼棒のC断面t/ 4部又はボルトのC断面t/ 4を光学顕微鏡で200 〜1000倍で10視野観察した場合の平均値である。その他の組織として、残留オーステナイト、ベイナイト、フェライト、パーライトを含有することができる。 【0022】また、旧オーステナイト粒界の球状炭化物の平均短軸長は、上記試料において、スピードエッチの後にSEMで5000〜50000 倍で、測定下限を0.005 μm以上として観察した場合の、旧オーステナイト粒界に存在する最短長さを短軸長とし、10視野観察した場合の平均値と定義する。なお、本発明鋼のボルト用鋼およびボルトの引張強度の上限は特に定めることなく本発明の効果を得られるが、靭性を劣化させないためには、1700MPa 以下が望ましい。 【0023】 【実施例】以下、実施例により本発明の効果をさらに具体的に説明する。表1に示す化学組成を有するボルト用鋼をボルトに加工後、880 ℃〜950 ℃に加熱した後に焼入れし、表2に示す種々の条件で熱処理して焼き戻しマルテンサイトの組織に調整した。 【0024】上記の試料を用いて、機械的性質、組織形態、遅れ破壊特性について評価した結果を表2に示す。遅れ破壊特性は、前に述べた限界拡散性水素量で評価を行い、負荷応力は引張強さの90%の条件で実施した。表1の試験No. 1〜13が本発明例で、その他は比較例である。表2に見られるように本発明例はいずれも焼戻し温度が550 ℃以上で、ボルトの引張強さが1300MPa 以上である。これらは遅れ破壊形が粒内割れとなっており、限界拡散性水素量が従来のボルトに比べ高く、遅れ破壊特性の優れたボルトが実現されている。 【0025】これに対して比較例であるNo. 14から20は、C量が低いため、1300MPa 以上の強度を得るための焼戻し温度が500 ℃以下と低いため、遅れ破壊形態が粒界割れであり、限界拡散性水素量が低く、遅れ破壊特性が悪い例である。比較例であるNo. 21はC含有量が高すぎるために、No. 22はMn含有量が高すぎるために、いずれも遅れ破壊特性が悪かった例である。 【0026】図2は、焼戻し温度と、限界拡散性水素量の関係を示した図である。焼戻し温度が550 ℃〜650 ℃の間で、限界拡散性水素量が高く、耐遅れ破壊特性が改善されている。図3は、粒界の球状化炭化物の平均短軸長と、限界拡散性水素量の関係を示している。平均短軸長が0.05μm以上で、限界拡散性水素量が高く、耐遅れ破壊特性が改善されている。 【0027】 【表1】
【0028】 【表2】
【0029】 【発明の効果】以上の実施例からも明らかなごとく、本発明は粒界炭化物を粗大な球状に成長させることによってボルトの遅れ破壊形態を粒界割れから粒内割れにさせて、引張強度が1300MPa 以上の高強度ボルトの遅れ破壊特性を大幅に向上させることを可能にするとともに、鋼の化学成分、熱処理条件およびを最適に選択することによって、ボルト用鋼、ボルト及びそのボルトの製造方法を確立したものである。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000006655 【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
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| 【出願日】 |
平成12年4月4日(2000.4.4) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100077517 【弁理士】 【氏名又は名称】石田 敬 (外2名)
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| 【公開番号】 |
特開2001−288538(P2001−288538A) |
| 【公開日】 |
平成13年10月19日(2001.10.19) |
| 【出願番号】 |
特願2000−102382(P2000−102382) |
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