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【発明の名称】 |
往復運動部材 |
| 【発明者】 |
【氏名】田中 浩司 【氏名】松本 伸彦 【氏名】西野 和彰 【氏名】野々山 史男 【氏名】斎藤 卓 |
【課題】慣性質量の低減と変形の抑制を図ることができる往復運動部材を提供することを目的とする。
【解決手段】鉄を主成分とするマトリックス相中に4A族(チタン族)元素のホウ化物を主成分とする強化相が分散しておりヤング率(縦弾性係数)Eが230GPa以上で密度ρが7.5(103×Kg/m3)以下である鉄基複合材料からなる高剛性部をもつことを特徴とする往復運動部材。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】鉄を主成分とするマトリックス相中に4A族(チタン族)元素のホウ化物を主成分とする強化相が分散しておりヤング率(縦弾性係数)Eが230GPa以上で密度ρが7.5(103×Kg/m3)以下である鉄基複合材料からなる高剛性部をもつことを特徴とする往復運動部材。 【請求項2】前記高剛性部は、比ヤング率E/ρが30(×10-3GPa・m3/Kg)以上である請求項1記載の往復運動部材。 【請求項3】前記高剛性部は、耐力(0.2%耐力)が510MPa以上である請求項1記載の往復運動部材。 【請求項4】前記高剛性部は、全体を100体積%としたときに10〜50体積%の前記強化相と該強化相に対して60体積%以下の非マトリックス相とからなる請求項1記載の往復運動部材。 【請求項5】前記強化相は、二ホウ化チタン(TiB2)を主成分とし、前記非マトリックス相は該二ホウ化チタン(TiB2)以外のホウ化物および/またはチタン化合物を主成分とする請求項4記載の往復運動部材。 【請求項6】前記マトリックス相は、該マトリックス相全体を100重量%としたときに、0.5重量%以下の炭素(C)と、0.2〜10重量%の銅(Cu)と、モリブデン(Mo)とニオブ(Nb)とタングステン(W)とタンタル(Ta)とからなる金属群から合計で10重量%以下の1種類以上の金属元素と、バナジウム(V)とクロム(Cr)とからなる金属群から合計で25重量%以下の1種類以上の金属元素と、からなる元素群より選択された少なくとも1種類以上の元素を含む請求項1記載の往復運動部材。 【請求項7】前記マトリックス相は、該マトリックス相全体を100重量%としたときに、1〜5重量%の銅(Cu)と、0.1〜3重量%のバナジウム(V)および/または0.5〜4重量%のクロム(Cr)とを含み、炭素を実質的に含まないか若しくは0.5重量%以下含む請求項1記載の往復運動部材。 【請求項8】前記往復運動部材は、少なくとも一部が前記高剛性部で構成されているピストン・ピンである請求項1記載の往復運動部材。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、往復運動部材に関するものである。さらに詳しくは、高剛性の鉄基複合材料を用いた設計自由度の大きな往復運動部材に関するものである。 【0002】 【従来の技術】多種多様な機械が存在するが、往復運動を利用する機械は多い。例えば、レシプロケーティング・エンジン(以降では単に「エンジン」と呼称する。)、工作機械の平削り盤、織機(例えば、綜絖、筬部分)、ミシン(例えば、ニードル、テーブル部分)、自動車等の空調用コンプレッサ(例えば、ピストン部分)、プリンター(例えば、ヘッド部分)等がある。 【0003】これら往復運動装置はその種類により様々な往復運動部材を備えるが、いずれの往復運動部材であっても往復運動する限り、それには慣性力が作用する。この慣性力Fは、往復運動部材の慣性質量m、その加速度aとするとF=−maとなり、往復運動部材の慣性質量mとその加速度aとにより決る。この慣性力Fが小さい程、往復運動部材の小型化や高速化、さらには往復運動装置のコンパクト化、高速化、応答性や性能の向上等を図り易い。いうまでもなく、加速度aまたは慣性質量mを小さくできれば、その慣性力Fを小さくすることができる。そこで、先ず、これらについて検討する。 【0004】■加速度a加速度aは、往復運動部材である限り多かれ少なかれ生じる。往復運動部材の加速度aが大きくなると、作用する慣性力Fも大きくなり、強度等を確保するために往復運動部材は自ずと大型化してしまう。しかもそれに伴い慣性質量まで増加してしまい、慣性力Fがさらに大きくなるといった悪循環が起り得る。そこで、通常の往復運動装置では緩衝(ランプ)域等を設けて、加速度aが著しく大きくならないように、往復運動を制御している。しかし、加速度aの低減を図れば、往復運動部材の動きは鈍くなり、往復運動装置の性能低下を招くから加速度aの低減にも限界がある。また、エンジンのピストン等のように、機構学上、それに作用する加速度aの制御が困難な往復運動部材もある。さらに、ピストン等の場合、クランク半径r、角速度ωとすると、作用する加速度aはr・ω2 に比例する。エンジンの性能向上を図ろうとして高回転化すれば、加速度aの急激な増加を招いてしまう。このように、加速度の低減を図ることは必ずしも容易ではなく、特に、往復運動装置の性能を維持・向上させつつ加速度の低減を図ることは難しい。 【0005】■慣性質量m前述したように、慣性質量mの低減により、加速度aの低減を図ることができる。そして、慣性質量mの低減は、往復運動部材や往復運動装置の軽量コンパクト化、駆動損失低減、性能向上、応答性向上等を図ることが可能となる。従って、その慣性質量mの低減(軽量化)が非常に望まれるところである。ところで、往復運動部材には、他部材との干渉防止や性能向上を図る上で、その変形量が厳しく制限されることがある。例えば、往復運動部材の変形量が大きくなると、往復運動中の位置精度(作動タイミング等)が悪化して、往復運動装置の性能低下を招き得る。また、往復運動部材の変形量が大きくなり、その支持部材に大きな2次応力が作用すれば、支持部材の補強が必要となり得る。そこで、往復運動部材には、軽量化と共に変形量の抑制・低減が求められることが多い。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】ところが、このような軽量化と変形量の抑制・低減化とを両立させることは、従来困難であった。例えば、往復運動部材の軽量化を図るために、その材質を鉄鋼製から軽合金製(アルミニウム合金製、チタン合金製等)に変更することが考えられる。しかし、そのような材質変更では、剛性(ヤング率)が半分以下に著しく低下し、往復運動部材の形状を大幅に変更しない限り、その変形量は著しく増えてしまう。一方、変形量を抑制・低減しようとしてその形状を大幅に変更すると、概して往復運動部材が大型化し、往復運動装置のコンパクト化が妨げられる。そこで、本発明者は、この往復運動部材の軽量化と変形量の抑制・低減に着眼した。つまり、そのような軽量化と変形量の抑制・低減との両立という大きな設計自由度を与える往復運動部材を提供し、往復運動装置の性能を一層向上させることを考えた。そこで、そのような往復運動部材を提供するに先立ち、先ず、次のような検討を行った。 【0007】(1)軽量化■前述したように、往復運動部材には大きな慣性力が作用するため、その軽量化が望まれるところである。例えば、エンジンを例に取ると、ピストン(ピストン・リング含む)とピストン・ピンとの往復慣性質量(合計)m、ピストンのストローク2r、コネクティング・ロッドの中心間距離lとすると、コネクティング・ロッドの小端部に掛る慣性力Fの最大値は、mrω2(1+r/l)となる。より具体的には、m=300g、r=80mm、ω=733rad/s(7000rpm)、r/l=0.25とすると、約F=16000Nとなる。仮に、ピストン・ピンの慣性質量を1g軽量化できると、約54Nもの慣性力の軽減となる。これは、コネクティング・ロッドやクランク・シャフトに作用する力を軽減でき、それらの軽量コンパクト化、さらには、エンジン自体の軽量コンパクト化を図れることになる。しかも、自動車や二輪車のようにエンジンの応答性(レスポンス)が重要視される場合、往復慣性質量の低減はそのレスポンスを一層向上させることができるので、燃費面や感性面でもエンジンの性能向上となる。 【0008】■ところが、前述したように、変形を考慮すると往復運動部材の軽量コンパクト化を図ることは、従来困難であった。これは、往復運動部材の軽量化には低密度の材料を利用することが有効であるが、従来の材料を用いる限り、密度ρの低下は、ヤング率Eの低下も意味していたからである。具体的には、図1に示すように、密度ρの低下とヤング率Eとの低下は略比例関係にあり、従来の金属材料では比ヤング率E/ρに殆ど差がなかったからである。従って、この密度ρとヤング率Eとの関係を破る新規な材料が得られれば、往復運動部材の軽量化と変形量の抑制・低減との両立を図ることも可能となり、また、設計自由度の大きな往復運動部材を提供できることになる。例えば、ヤング率Eが大きければ、密度ρが従来と同程度であっても、変形を考慮しつつ往復運動部材の軽量コンパクト化を図ることができる。 【0009】(2)変形■往復運動部材には、前述の慣性力以外にも種々の力が作用するから、その変形も多様である。例えば、伸縮、撓み、捻り、座屈等の変形がある。そして、運動精度の確保や他部材との干渉防止等の観点から、往復運動部材の変形量が規制されることが多い。ここでは、エンジンの往復運動部材であるピストン・ピン、コネクティング・ロッド、ロッカー・アームを一例として取上げ、これらの変形について具体的に説明する。 【0010】(a)ピストン・ピンピストン・ピンは、ピストンとコネクティング・ロッドの小端部とを連結する部材であり、一般的には円筒状の部材である。そして、ピストン・ピンもピストンと共に、エンジン回転数に応じて高速で往復運動する往復運動部材である。ピストン・ピンの変形として、例えば、図8(イメージ図)のような撓みを考えることができる。図8のような変形をする場合として、ピストン頂面が上死点付近で大きな爆発力を受けたときや逆に下死点付近でピストンに下向きの慣性力が作用しているときが考えられる。勿論、排気行程から吸入工程に変る上死点付近では、ピストン・ピンが逆向きに撓むことも考えられる。いずれにしろ、上・下死点付近でピストン・ピンに大きな曲げモーメントが作用し、ピストン・ピンには撓みを生じると考えられる。この撓みがあまり大きくなりすぎると、ピストンのピンボス内周面とピストン・ピン外周面との間で、接触や面圧分布が不均一になり早期摩耗やスカッフを起す。また、ピストンのピンボスに大きな2次応力が及ぶため、そのピンボス部の補強が必要になり、ピストンの重量増加を招いてしまう。 【0011】次に、このピストン・ピンの撓み量δについて材料力学的に検討してみる。ピストン・ピンの撓み量δは曲げ剛性EI(E:縦弾性係数(ヤング率)、I:断面2次モーメント(=π(d04−d14)/64)、d0:ピストン・ピンの外径、d1:ピストン・ピンの内径)に反比例するから、曲げ剛性EIを増大させることにより撓み量δを低減できる。つまり、断面2次モーメントI若しくはヤング率Eを増大させれば良い。 【0012】ここで、ピストン・ピンの断面2次モーメントIを増大させることは、その外径d0を増大させることを意味し、結果的にピストン・ピンの慣性質量の増加を招く。その慣性質量が増加すると、ピストン・ピンやコネクティング・ロッドに作用する慣性力も増加し、その分、コネクティング・ロッドの補強が新たに必要となり、さらにコネクティング・ロッド等の重量増加も招く。このように、形状面から曲げ剛性EIの増大を図ることは、一つの往復運動部材の重量(慣性質量)増加に留まらず、それに関連する部材の重量増加まで招くので、好ましくない。 【0013】一方、ヤング率Eを増大させることも考えられるが、ヤング率Eは原子間の結合力に関与した物質固有の値である。このため、従来の鉄鋼材料である限り、従来の合金化や熱処理等によりヤング率Eを実質的に変化させることは困難である。従って、従来は、材料面から曲げ剛性EIを増大させることも困難であった。そこで、従来にない高ヤング率の材料を新たに開発し、その材料をピストン・ピンに用いてその変形量を抑制・低減することが望まれる。なお、特開平9−242872号公報等には、軽量高剛性のセラミック・ピストン・ピンに関する記載がある。しかし、セラミック・ピストン・ピンは、加工性、破壊靱性、熱伝達性等の点で金属製ピストン・ピンに及ばず、信頼性の要求されるエンジン部材として未だ実用的でない。 【0014】(b)コネクティング・ロッドコネクティング・ロッドは、ピストン(ピストン・ピン)とクランク・シャフト(クランク・ピン)とを連結する部材であり、ピストンが受けた爆発力をクランク・シャフトに伝えて、往復運動を回転運動に変換する。そして、コネクティング・ロッドもエンジンの回転数に応じて高速で往復運動するものである。コネクティング・ロッドの変形として、爆発力・慣性力等の圧縮力・引張力による伸縮を考えることができる。また、傾斜した状態のコネクティング・ロッドにそれらの力が作用し、曲げモーメントとなって撓みを生じることも考えられる。さらに、比較的長いロッド部をもつため、変形の安定性、つまり座屈(変形)も考慮しなければならないことがある。 【0015】ここで、圧縮・引張りによる伸縮は剛性EA(E:ヤング率、A:断面積)に反比例し、曲げモーメントによる撓みは曲げ剛性EIに反比例する。さらに、座屈も曲げ剛性EIが大きいほど座屈加重が増大し、座屈に対して安定で座屈変形を起し難くなる。また、剛性EA及び曲げ剛性EIを増大させれば、コネクティング・ロッドの変形を抑制・低減できるが、前述のピストン・ピンと同様に、形状面からそれらの増大を図れば、コネクティング・ロッドの重量増加を招き、好ましくない。従って、材料面からそれらの剛性を増大させることが望まれる。つまり、従来にない高ヤング率の材料を新たに開発し、その材料をコネクティング・ロッドに用いて、その変形量を抑制・低減することが望まれる。 【0016】(c)ロッカー・アームロッカー・アームは、バルブと共にエンジンの回転数に応じて高速で往復運動する往復運動部材である。そしてロッカー・アームは、カムの動き(プロフィール)をバルブ(バルブ・ステム・エンド)に伝達して、バルブの開閉を行う。このバルブは、カムシャフトの回転角θに対してその移動量(リフト量)hがμm単位で制御されものである。そして、その運動(移動量、移動速度、加速度等)がエンジン性能に直接影響するため、非常に高精度な運動が要求される。仮に、ロッカー・アームの撓み量が増えて、バルブのリフト量制御が不正確になると、エンジンの性能低下等を招く。さらに、バルブ・ジャンプやバウンシング等を起し、バルブの耐久性等の低下も招きかねない。従って、ロッカー・アームは、バルブに正確な運動を伝達することが求められ、ロッカー・アームの変形量は厳しく制限される。ロッカー・アームは、シーソ式であれ、スイング・アーム式であれ、主に曲げモーメントが作用するので、曲げ剛性EIを増大させて、その撓み量を低減させる必要がある。 【0017】ところが、形状面から曲げ剛性EIの増大を図れば、前述したようにロッカー・アームの重量増加となり、ロッカー・アームにさらに大きな慣性力が作用することになるから好ましくない。従って、材料面からそれらの曲げ剛性EIを増大させることが望まれる。つまり、従来にない高ヤング率の材料を新たに開発し、その材料をロッカー・アームに用いて曲げ剛性EIを高め、その変形量を低減することが望まれる。 【0018】■ここでは、曲げ剛性EIを中心に説明したが、ヤング率Eを増大させると横弾性係数G(G=E/2(1+ν)、ν:ポアソン比)を増大させることになり、捻り剛性GIP(G:横弾性係数、IP:断面2次極モーメント)を増大させることにもなる。従って、往復運動部材に、さらに捻りモーメントが作用する場合でも、往復運動部材の重量増加を招くことなく、その変形量(捻れ角ψ)の低減を図れる。 【0019】(3)強度■前述した剛性(ヤング率E)の他に、往復運動部材の強度が問題となることもある。往復運動部材に作用する応力(最大値)は、通常、ヤング率等には関係なく形状のみによって決まるが、形状変更により作用応力の軽減を図ろうとすると、往復運動部材の大型化や慣性質量の増加等を招くことになり、好ましくない。従って、材料面から許容応力(耐力)の増大を図ることが望まれる場合がある。つまり、軽量、高ヤング率であると共に、耐力の大きな材料、つまり比ヤング率や比強度の大きな材料を新たに開発し、それを往復運動部材に用いて往復運動部材の設計自由度を一層拡大させることが望まれる。 【0020】そこで、本発明者は、往復運動部材に最適な材料、特に高剛性な材料を全く新規に開発することが、往復運動部材の設計自由度を拡大し、往復運動装置の高性能化や軽量コンパクト化を図る上で不可欠であると考えた。そして、一般的な金属材料中でヤング率Eの最も大きい鉄系材料をベース材料に使用することが好適であると考え、さらに検討および研究開発を行うこととした。 【0021】この研究開発に先立ち、本発明者は鉄系材料をベースにした高剛性材料について調査を行ったところ、数件の出願がされており、例えば、特開平5−239504号公報、特開平7−188874号公報等に関連する開示がされていた。前者の公報には、炭化物や窒化物等の強化粒子を鉄系マトリックス中に分散させて高ヤング率化を図った鉄基複合材料が開示されている。しかし、その鉄基複合材料は熱力学的安定性に欠ける強化粒子(Ti(C、N)等)を用いているため、十分な高ヤング率を得るまでには至っていない。また、シャルピー衝撃値の記載はあるが、密度、強度等の記載はなく、往復運動部材として実用的な材料であるか否かは不明である。後者の公報には、熱的安定性に優れる二ホウ化チタン(TiB2)を強化粒子として高ヤング率化を図った鉄基複合材料が開示されている。しかし、その公報には、ヤング率に関する記載しかなく、密度、強度等については何ら触れられていない。本発明者がこの公報に記載の材料についてさらに調査したところ、軟質なフェライト相をマトリックスとした場合には、耐力が十分でないことがあり弾性限度内では高ヤング率であっても、高負荷を受ける往復運動部材では塑性変形を起こすことがあることが解った。 【0022】本発明は、このような事情に鑑みて為されたものある。つまり、往復運動部材(または、往復運動部)として最適な高剛性(高ヤング率)の鉄基複合材料を用いることにより往復運動部材の設計自由度の拡大、往復運動装置の軽量コンパクト化、高性能化等を図ることができる往復運動部材を提供することを目的とする。 【0023】 【課題を解決するための手段】そこで本発明者は、この課題を解決すべく鋭意研究し、各種系統的実験を重ねた結果、往復運動部材に最適な高剛性の鉄基複合材料を新たに開発・発見した。そして、この鉄基複合材料を用いて、往復運動部材の設計自由度の拡大し、往復運動装置の軽量コンパクト化、性能向上等を図れる往復運動部材を開発するに至ったものである。 【0024】すなわち、本発明の往復運動部材は、鉄を主成分とするマトリックス相中に4A族(チタン族)元素のホウ化物を主成分とする強化相が分散しておりヤング率(縦弾性係数)Eが230GPa以上で密度ρが7.5(103×Kg/m3)以下である鉄基複合材料からなる高剛性部をもつことを特徴とする。 【0025】本発明の往復運動部材は、密度ρが7.5(103×Kg/m3)以下という低密度でありながら、ヤング率が230GPa以上という高剛性である高剛性部を備えるため、往復運動部材の設計自由度が著しく拡大し、その往復運動部材を用いた往復運動装置の軽量コンパクト化、性能向上を図ることが著しく容易になった。例えば、高剛性部のヤング率が高いことにより、往復運動部材の重量増加や大型化を招くことなく、その変形を低減でき、往復運動部材の運動精度等を向上させることができる。しかも、高剛性部は低密度であるので、往復運動部材の慣性質量の低減を図れ、しかも、慣性質量の低減は慣性力の低減に繋がるので、往復運動部材の一層の軽量コンパクト化も可能となる。 【0026】ここで、ヤング率は縦弾性係数を指し、これが230GPa未満では、材料面から往復運動装置の高剛性化を図る上で不十分であり、往復運動部材の設計自由度等が制限されるので好ましくない。さらに、鉄基複合材料のヤング率が250GPa以上であると、往復運動部材の軽量化等を図るうえでより好適である。これにより、鉄基複合材料のヤング率が普通鋼のヤング率に対して約2割以上増加したことになる。しかも、この鉄基複合材料に一般的な鉄系部材の製造方法や条件等を用いることにより、本発明に係る往復運動部材を製造し得る。従って、ヤング率と製造性とのバランスに優れた往復運動部材が得られることとなり、非常に好ましい。特に、ヤング率が280GPa以上となると、一層好適である。これにより、鉄基複合材料のヤング率が普通鋼のヤング率に対して約4割以上増加したことになる。しかも、この鉄基複合材料に、一般的な鉄系部材と大差のない製造方法を用いて、その製造条件や製造設備等を多少変更すれば、本発明に係る往復運動部材を製造し得る。従って、ヤング率と製造性とのバランスに優れると共に性能等をより重視した往復運動部材が得られ、格別に好ましい。 【0027】また、密度ρが7.5(103×Kg/m3)を越えると、往復運動部材の慣性質量やそれに作用する慣性力に関して従来の鉄鋼材料との差が実質的になくなり、往復運動部材および往復運動装置の軽量コンパクト化を十分に図れず、また、往復運動部材の設計自由度が制限されるので好ましくない。 【0028】 【発明の実施の形態】以下に、往復運動部材および往復運動装置の実施形態を挙げて、本発明を詳しく説明する。 (鉄基複合材料) (1)強化相本発明の往復運動部材の高剛性部は、鉄を主成分とするマトリックス相中に、4A族(チタン族)元素のホウ化物を主成分とする強化相を分散させた鉄基複合材料からなる。これにより、高ヤング率と、低密度、さらには高強度を得ている。強化相の主成分である4A族元素のホウ化物は、4A族元素とホウ素が規則的に配置された結晶構造を有し、共有性結合によって構成原子が強固に結合しているものである。この構成原子の強固な結合力に影響によって、そのホウ化物のヤング率は非常に大きくなっている。しかも、4A族元素のホウ化物は、鉄合金中で熱力学的に極めて安定であるため、異種元素の侵入・置換、あるいは他の複合化合物の形成など、マトリックス相の構成元素と反応して、結晶学的および冶金学的な変化を生じることが殆どない。 【0029】従って、特殊な製法を用いなくとも、非常に高ヤング率な鉄基複合材料が得られ、往復運動部材の高剛性化を材料面から図ることができたと考えられる。さらに、本発明の往復運動部材の高剛性部は、全体を100体積%としたときに10〜50体積%の強化相とこの強化相に対して60体積%以下の非マトリックス相相とからなると好適である。4A族元素のホウ化物からなる強化相に対して非マトリックス相(マトリックス相、強化相以外)を一定割合以下とすることにより、鉄基複合材料の靱性や延性を低下させることなく、より高ヤング率の高い鉄基複合材料が得られたものである。そして、靱性、延性、ヤング率に優れた鉄基複合材料から高剛性部が構成されることにより、往復運動部材の設計自由度が一層拡大させることができた。 【0030】非マトリックス相は、具体的には、4A族元素のホウ化物以外のホウ化物(例えば、(Fe、Cr)2B)や4A族元素を含む金属間化合物(例えば、(Fe、Cr)2Ti等のラーベス相)からなる。ここで、強化相が、10体積%未満では高剛性化の効果が得られず、50体積%を超えるとホウ化物どうしの凝集や、合体が生じ、鉄基複合材料の機械的特性が低下するので好ましくない。なお、強化相が全体を100体積%としたときに強化相が20〜35体積%であると、得られるヤング率と機械的特性のバランスがよく、また既存設備で対応可能な実用的な製造性を有するため、より好ましい。また、非マトリックス相が強化相に対して60体積%を越えると、鉄基複合材料中での4A族元素のホウ化物を主成分とする強化相が相対的に減少し、鉄基複合材料のヤング率が低下するとともに、マトリックス相が硬化若しくは脆化して好ましくない。 【0031】一方、非マトリックス相が強化相に対して40体積%以下であると、熱間加工性が大きく向上し、より好ましい。強化相の主成分である4A族元素のホウ化物には、4A族元素である、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)のホウ化物の一種以上が用いられる。ホウ化物は、単体としてのヤング率が少なくとも250GPa以上であれば、強化相の分散により十分に高ヤング率な鉄基複合材料が得られる。4A族元素のホウ化物中でも、二ホウ化チタン(TiB2)は高ヤング率で熱的安定性に優れるので、強化相の主成分として好適である。つまり、強化相が二ホウ化チタン(TiB2)を主成分とし、非マトリックス相はこの二ホウ化チタン(TiB2)以外のホウ化物および/またはチタン化合物を主成分とするものであると、好適である。さらに、強化相を主に構成する4A族元素のホウ化物の粒径は、100μm以下、より好ましくは20μm以下であると、好適である。高ヤング率と共に、靱性、延性等にも優れた鉄基複合材料が得られるからである。 【0032】(2)マトリックス相本発明の往復運動部材を構成する鉄基複合材料は、鉄を主成分とするマトリックス相中に4A族(チタン族)元素のホウ化物を主成分とする強化相が分散したものである。このマトリックス相は、純鉄あるいは鉄合金をマトリックス(母材)とする。鉄合金には、フェライト系、オーステナイト系、あるいはマルテンサイト系などがある。 【0033】■マトリックス相は、マトリックス相全体を100重量%としたときに炭素(C)の含有量が0.5重量%以下であると、好適である。Cを0.5重量%以下にすると、マトリックス相に分散される4A族元素のホウ化物の熱力学的安定性がより保たれるようになる。すなわち、高温域でも、ホウ化物の4A族元素とCとから炭化物や炭ホウ化物が形成されることが抑制され、4A族元素のホウ化物による高ヤング率化の効果を最大限に引き出すことができるので、好ましい。逆に、0.5重量%を越えると炭化物や炭ホウ化物の量が増え、高剛性部が脆化して好ましくない。また、Cの含有量を0.2重量%以下とするとより好ましく、さらにCを実質的に含まないようにすると、一層好ましい。なお、「実質的に」含まないとしたのは、不可避的な不純物としてある程度含まれる場合もあるからである。 【0034】■さらに、マトリックス相は、マトリックス相全体を100重量%としたとき、バナジウム(V)、クロム(Cr)の1種以上を、その合計が25.0重量%以下含むと、好適である。これらの元素を含むと、マトリックス相中においてより高ヤング率なBCC構造のフェライトが安定化し、一層高ヤング率の鉄基複合材料が得られ、往復運動部材の高剛性化を促進できるので、好ましい。但し、それらの元素が25.0重量%を超えると、鉄との脆性化合物(シグマ相)が析出してマトリックス相を脆化させるので、好ましくない。 【0035】また、マトリックス相がV、Crを含むことにより、窒化処理(例えば、タフトライド)等の表面処理性が向上する。従って、高剛性部に表面処理を行うことにより、高剛性部の耐摩耗性も向上させることができ、フレッティング摩耗等を抑制・防止することができる。また、各種コーティング(TiN等)を施しても良い。マトリックス相全体を100重量%としたとき、Vが0.1〜3重量%および/またはCrが0.5〜20重量%であると、より好ましい。さらに、0.1〜3重量%のVおよび/または0.5〜4重量%のCrを含有すると、一層好ましい。特に、0.1〜3重量%のVと0.5〜8重量%のCrとを同時に含有すると、格別に好ましい。 【0036】σ相やバナジウムと鉄との化合物相の生成が抑制され、熱間加工時の割れや脆化を抑制・防止できる。さらに、表面硬度を安価な窒化処理等によって確保し、耐摩耗性を向上させられる。窒化処理には、タフトライド等がある。窒化処理等により表面硬度を向上させることにより、回転軸部材のフレティング摩耗等も防止できる。 【0037】■また、マトリックス相は、マトリックス相全体を100重量%としたときに、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)の1種以上を、その合計が25.0重量%以下含むと、好適である。これらの元素を含むと、マトリックス相にFCC構造のオーステナイトを得ることができ、フェライトのみのマトリックス相に比べ、靱性の向上が図れるので好ましい。但し、それらの元素が25.0重量%を超えると、オーステナイト主体のマトリックス相となり、フェライト主体のマトリックス相に対しヤング率が低下するため、好ましくない。なお、その合計を15重量%以下とすると、ヤング率を大きく低下させることなく高靱性化を図れるため、より好ましい。 【0038】■マトリックス相は、マトリックス相全体を100重量%としたとき、銅(Cu)を0.2〜10.0重量%以下含むと、好適である。マトリックス相がCuを含むと、マトリックス相の強度が向上するので好ましい。特に、Cuが超微細整合析出すると、強度が一層向上する。但し、Cuが0.2重量%未満だと、Cuの析出量が少なく、十分な強度の向上が望めないため好ましくない。また、Cuが10.0重量%を超えると、マトリックス相のヤング率の低下を招き、熱間加工時に液相割れなどを起こし易くなり、好ましくない。ここで、Cuの含有量を5重量%以下とすると、ヤング率の低下を抑制しつつ大幅な強度向上を図れ、より好ましい。 【0039】さらに、Cuの含有量を1〜5重量%とすると、強度の向上とヤング率の低下の抑制との両立が図れ、一層好ましい。なお、マトリックス相がCuを含む状態には、Cuの固溶状態とε−Cu相の析出状態の両方がある。 【0040】■マトリックス相は、マトリックス相全体を100重量%としたときに、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)の1種以上の元素を、その合計が10.0重量%以下含むことが好ましい。これらの元素は、マトリックス相中で固溶、析出することにより、マトリックス相の強度を向上させるものであり、マトリックス相がそれらの元素を含むことにより、往復運動部材の高剛性部の強度向上が図れるので好ましい。但し、それらの元素量が10.0重量%を超えると多量の析出物が生じてフェライト相が硬化し、マトリックス相を脆化させるため好ましくない。なお、その合計を5重量%以下とすると、生成する析出物が適量かつ微細となるため、マトリックス相を脆化させることなく高強度化できるため、より好ましい。 【0041】■上述したように、マトリックス相は多種多様な組成から構成することができるが、例えば、次のような組成からなるマトリックス相であると、往復運動部材として特に好適である。つまり、マトリックス相が、マトリックス相全体を100重量%としたときに、0.5重量%以下の炭素(C)と、0.2〜10重量%の銅(Cu)と、モリブデン(Mo)とニオブ(Nb)とタングステン(W)とタンタル(Ta)とからなる金属群から合計で10重量%以下の1種類以上の金属元素と、バナジウム(V)とクロム(Cr)とからなる金属群から合計で25重量%以下の1種類以上の金属元素と、からなる元素群より選択された少なくとも1種類以上の元素を含むと好適である。 【0042】また、マトリックス相が、マトリックス相全体を100重量%としたときに、1〜5重量%の銅(Cu)と、0.1〜3重量%のバナジウム(V)および/または0.5〜4重量%のクロム(Cr)とを含み、炭素を実質的に含まないか若しくは0.5重量%以下含むと好適である。 【0043】(往復運動部材) (1)比ヤング率E/ρ本発明の往復運動部材の高剛性部は、ヤング率をE(GPa)、密度をρ(103×Kg/m3)としたときに比ヤング率E/ρが30(×10-3GPa・m3/Kg)以上であると、好適である。前述したように、低密度で高ヤング率であると、慣性質量の低減により作用する慣性力の低減を図れ、また往復運動部材の変形量の低減も図れる。ここで、ヤング率Eと密度ρとを関連付けた比ヤング率E/ρが高いと、次の点で好ましい。 【0044】■往復運動部材は、それ自身の慣性質量mに比例する慣性力Fを受ける。この自己の慣性力Fによる変形量δ、その曲げ剛性EIとすると、変形量δはF/EI、さらにはm/EIに比例する。往復運動部材の体積をVとすると、δはρV/EI=(ρ/E)・(V/I)に比例することになる。結局、往復運動部材自身の慣性力による変形量δを低減するためには、形状面からはI/Vを、材料面からはE/ρを増大させれば良いことになる。従って、比ヤング率E/ρが高いと、材料面から往復運動部材の軽量コンパクト化を図りつつその変形量δを低減することができるので、非常に好ましい。 【0045】■また、往復運動部材の中には、高速で往復運動する部材が多数あり、このような往復運動部材の場合には、その固有振動数が問題となることがある。例えば、エンジンなら、前述のロッカー・アーム、バルブ、バルブ・スプリング等の動弁系部材である。特に、バルブ・スプリングなどでは高速時のサージングを防止する必要がある。サージングが発生すると、バルブ・ジャンプやバルブ・バウンス等を起し、バルブ・タイミングの乱調やバルブ・スプリングの折損等を招き兼ねない。そこで、通常、そのような動弁系の固有振動数は、エンジンの最高回転数よりも十分な余裕をもった高い値に設定されることが望まれる。 【0046】一般に部材の固有振動数は、材料と形状とにより決定されるが、材料面からは比ヤング率E/ρの平方根(E/ρ)1/2 に比例することが知られている。ところが、図1からも解るように、従来の材料では比ヤング率E/ρを変化させることが殆どできなかったために、材料面から往復運動部材の固有振動数を調整・向上させることは困難であった。ところが、本発明の往復運動部材は比ヤング率E/ρの高い高剛性部を備えるために、その固有振動数を材料面から調整・向上させることが容易となり、一層設計自由度の拡大した往復運動部材を提供でき、格別に好ましい。なお、本発明の高剛性部の比ヤング率E/ρが38(×10-3GPa・m3/Kg)以上であると、往復運動部材の設計自由度が一層拡大して好ましい。 【0047】(2)耐力本発明の往復運動部材の高剛性部は、耐力(0.2%耐力)が510MPa以上であると、好適である。本発明の往復運動部材は、前述したように高ヤング率、低密度であるので、従来になくその設計自由度の拡大等を図れたものである。これに加えて、高耐力であると、往復運動部材の設計自由度がより拡大し、往復運動部材や往復運動装置の軽量コンパクト化や往復運動装置の性能向上をより一層図り易くなる。ここで、耐力は、「永久歪みが0.2%となる応力」である0.2%耐力を指す。これが510MPa未満だと、往復運動部材の設計自由度が強度面から制限を受け、好ましくない。逆に、耐力が600MPa以上であると、往復運動部材の設計自由度がさらに拡大し、一層好ましい。 【0048】(3)往復運動部材■本発明の往復運動部材は、少なくとも一部が高剛性部で構成されているピストン・ピンである、と好適である。前述しように、ピストン・ピンは、ピストンとコネクティング・ロッドの小端部とを連結する部材である。ピストンには、非常に大きな爆発力が作用し、さらに、ピストンには大きな慣性力が作用する。特に、最近のエンジンは燃焼効率改善による爆発圧力の上昇や高速回転化が著しいので、ピストンに作用する力はより一層大きくなっている。ところが、このピストンに作用する大きな力は、通常、図8に示すような状態でピストン・ピンからコネクティング・ロッドの小端部に伝達される。このため、ピストン・ピンには非常に大きな曲げモーメントが作用することになる。この曲げモーメントによる撓み量が大きくなると、ピストンのピンボス部等に大きな2次応力を生じさせ得る。また、ピストンのピン穴内周面とピストン・ピン外周面と摺動性が悪化し、早期摩耗やスカッフ等の原因となりかねない。 【0049】しかし、ピストン・ピンが本発明の高剛性部を備えると、ピストン・ピンの撓み量δを著しく低減でき、ピストンとピストン・ピンとの間で、2次応力の発生の抑制・低減や摺動性の改善を図れ得る。しかも、高剛性部は低密度であるためにピストン・ピンの軽量化も図れ、ピストン・ピン自体やピストン等を含めた慣性質量の低減も図ることができる。これにより、往復運動装置として、さらなる軽量化も図り得る。このように、ピストン・ピンは本発明の往復運動部材として最適な実施形態の一つである。 【0050】さらには、前述したように、本発明の高剛性部は、鉄を主成分とするマトリックス相と4A族(チタン族)元素のホウ化物を主成分とする強化相とからなり、高剛性、低密度に留まらず、強度、靱性に優れる。さらには、セラミック・ピストン・ピンと異なり、本発明の高剛性部を備えたピストン・ピンは生産性も良いから量産化が容易である。従って、このような観点からも、強度、信頼性、生産性等の向上が要求されるピストン・ピンが本発明の高剛性部を備えると、好ましい。 【0051】■その他の具体的な往復運動部材本発明の往復運動部材の一実施形態として、ピストン・ピンを例示したが、本発明は、非常に多種多様な往復運動部材に適用できる。例えば、エンジン系であれば、ロッカー・アーム、バルブ、リテーナ(アッパ・スプリング・シート)、コッタ(分割コレット)、バルブ・スプリング、バルブ・リフター、シム、ピストン(ロータリ・エンジン用ロータを含む)、ピストン・ピン、ピストン・リング、コネクティング・ロッド、プッシュ・ロッド(OHV・エンジン等)、オイル・レギュレータのリリーフ・バルブ(調圧ピストン)等の往復運動部材がある。また、コンプレッサ・ピストン(例えば、自動車のエアコン用)、燃料噴射ポンプ用プランジャ(ディーゼル・エンジン等)、燃料噴射ノズル用ニードル・バルブ(ディーゼル・エンジン等)、サスペンションのインナ・シリンダー等の往復運動部材がある。 【0052】さらには、工作機械の平削り盤、織機(特に、綜絖、筬部分)、ミシン(特に、ニードル、テーブル部分)、自動車等の空調用コンプレッサ(特に、ピストン部分)、プリンター(特に、ヘッド部分)等の往復運動部材がある。いずれにしろ、高剛性化と軽量化との向上が望まれるあらゆる往復運動部材に本発明を適用できる。 【0053】(4)鉄基複合材料の製造方法本発明の往復運動部材の高剛性部を形成する鉄基複合材料は、次のように製造すると、好適である。 ■すなわち、鉄基複合材料の製造方法は、4A族元素のホウ化物粉末、4A族元素粉末およびホウ素粉末から原料粉末を選択して4A族元素とボロンとの配合比率が原子比で0.45〜0.80となるように調整された強化相原料粉末と鉄を主成分とするマトリックス相原料粉末とを混合する原料粉末混合工程と、この原料粉末混合工程により混合された原料粉末から圧密成形体を得る圧密成形工程と、この成形工程により得られた成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程とからなると、好適である。 【0054】強化相は、強化相原料粉末に予め含まれる4A族元素のホウ化物粉末により形成されても良いが、混合された4A族元素粉末とホウ素原料粉末とが焼結工程で反応し、そこで生成される4A族元素のホウ化物により形成されても良い。4A族元素とボロンとの配合比率が原子比で0.45〜0.80に調整されることにより、ホウ化鉄や4A族元素の金属間化合物からなる非マトリックス相の形成が抑制され、鉄基複合材料の高ヤング率を図り易い。強化相原料粉末は、市販の粉末を用いることができるが、4A族元素のホウ化物粉末はその平均粒径が数μm以下の粉末であると、好ましい。その粒径が大きいときは、ボールミル、振動ミル、アトライタ等の装置により粉砕しておくと良い。 【0055】マトリックス相原料粉末は、純鉄や鉄合金の粉末であり、市販の粉末を用いることができる。例えば、アトマイズ法により作製された純鉄粉、ステンレス粉末等を用いることができる。マトリックス相原料粉末の平均粒径は、180μm以下、さらには45μm以下であると、より好ましい。平均粒径を45μm以下とすると、焼結体の緻密化が一層促進される。 【0056】原料粉末混合工程は、マトリックス相原料粉末と強化相原料粉末とを均一に混合する工程であるが、特殊な混合方法や前処理を行う必要はなく、通常の粉末混粉装置を利用できる。例えば、V型、ダブルコーン型等の混粉機、ボールミル、あるいは振動ミルを利用するば良い。なお、強化相原料粉末として、4A族元素のホウ化物粉末を用いる場合に、その粉末が二次粒子等を形成するときは、不活性ガス雰囲気中でアトライタ等の高エネルギーミルを用いて粉砕処理すると良い。 【0057】圧密成形工程には、例えば、金型成形、CIP成形等を用いることができる。また、成形圧力を200MPa以上とすると、圧密成形体およびその焼結体の緻密化が十分に行われるので、好ましい。 【0058】焼結工程は、真空中若しくは不活性ガスや還元性ガス雰囲気中でなされると、好ましい。マトリックス相中の鉄の酸化を防止若しくは抑制できるからである。焼結工程は、1100〜1300℃の加熱温度で行うと、好ましい。1100℃未満では十分な密度の焼結体が得られず、また、1300℃を超えると形成されるホウ化物の種類によって多量の液相を生じ、焼結体の形状を維持できない場合があるからである。加熱時間は、0.5〜4時間であると、好ましい。0.5時間未満では焼結体の密度が十分に向上せず、4時間を超えるとエネルギー効率が良くないからである。 【0059】■また、鉄基複合材料の製造方法は、鉄を主成分とするマトリックス相原料と4A族元素とボロンとの配合比率が原子比で0.45〜0.80となる強化相原料とを溶解させる溶解工程と、この溶解工程により溶解した原料を鋳型に注湯して鋳塊を成形する鋳造工程とからなると、好適である。強化相原料には、例えば、フェロチタン、フェロジルコニウム、フェロボロン等がある。 【0060】溶解工程は、例えば、セラミックス製るつぼを用いた高周波誘導真空溶解炉、アルゴンアーク溶解炉、プラズマ溶解炉、水冷銅るつぼを用いた高周波誘導真空溶解炉あるいは高周波誘導浮遊溶解炉等の従来からある溶融設備を用いることができる。 【0061】■さらに、前記の焼結工程や鋳造工程後に、焼結体や鋳塊に熱間加工を施す熱間加工工程を行うと、それらを略真密度まで緻密化することができるので、好適である。例えば、鋼塊の場合、この熱間加工により内部に生成したポロシティを低減でき、さらには強化相のホウ化物(二ホウ化チタン(TiB2)等)を微細化することができる。これにより、鉄基複合材料の強度、靱性、延性等の向上を図ることができる。 【0062】熱間加工工程として、例えば、熱間鍛造、熱間圧延、熱間押出し、熱間スェージング加工等がある。また、この熱間加工は、900〜1200℃の範囲で行われると、好ましい。900℃未満では加工時の変形抵抗が大きく、1200℃を超えると液相化を生じるおそれがあるからである。また、焼結体を緻密化する場合には、熱間加工工程に代り、焼結工程後にHIP(熱間静水圧プレス)処理を施しても良い。例えば、このHIP処理は、900〜1200℃、500〜2000気圧、1〜10時間の条件で行うと、好ましい。このように、本発明で用いた鉄基複合材料は、通常の粉末冶金、溶融、鋳造方法を利用して製作することができ、また、従来の設備を利用して製作できる。従って、生産性の向上やコスト低減を図り易い材料でもある。 【0063】 【実施例】本発明の往復運動部材の実施例として、次のような往復運動部材を取上げて具体的に説明する。 (往復運動部材) (1)ピストン・ピン、コネクティング・ロッド、ピストン先ず、エンジンのシリンダー内に配設される往復運動部材として、図2に示すピストン・ピン300、コネクティング・ロッド400、ピストン500について説明する。 【0064】■ピストン・ピンピストン・ピン300は、図2および図3に示すように、ピストン500とコネクティング・ロッド400の小端部410を連結する中空円筒状部材である。そして、このピストン・ピン300を介して、ピストン500に作用する爆発力や慣性力がコネクティング・ロッド400に伝えられる。前述したように、ピストン・ピン300には、ピストン500の受ける燃焼圧力と慣性力とによる大きな曲げモーメントが作用するが、ピストン・ピン300が本発明の高剛性部からなると、変形の低減を図れるので、好ましい。また、ピストン・ピン300が軽量化でき、それ自身による慣性力の低減も図れ、好ましい。 【0065】さらに、本発明の高剛性部が、強度、靱性、耐疲労性等に優れると、繰返し応力を受けるピストン・ピン300の寿命、信頼性が増し一層好ましい。例えば、本発明の高剛性部は450〜750MPaの疲労強さをもつため、ピストン・ピン300として十分に使用できる。なお、ピストン500のピン穴511とピストン・ピン300の外周部310との摺動性、耐摩耗性等を向上させるために、その外周部310の表面は研磨又はラップ仕上を施すと良い。また、ピストン・ピン300は、コネクティング・ロッド400の小端部410に圧入し、半浮動式(セミ・フロー式)とした。部品点数が少なく、コスト面、騒音面で優位だからである。勿論、全浮動式、固定式としても良い。 【0066】ピストン・ピン300は軽量化を図るために中空円筒状としたが、その内周部320の中央部322は、肉厚とした。小端部410の取付けによる変形抑制と中央部で曲げモーメントが最大となるからである。逆に、曲げモーメントが比較的小さい、両端部内周部320はテーパー内面321とした。 【0067】■コネクティング・ロッドコネクティング・ロッド400は、図2および図4に示すように、円環状の小端部410、I型断面のロッド部420、円環状の大端部430、キャップ・ボルト450およびナット460とからなる。コネクティング・ロッド400は、ピストン500に作用する爆発力をクランク・シャフト200のクランク・ピン230に伝達し、ピストン500の往復運動をクランク・シャフト200の回転運動に変換するものである。 【0068】そして、ピストン500はピストン・ピン300を介して小端部410に連結され、小端部410はロッド部420を介して大端部430に連結され、さらにその大端部430はクランク・ピン230に連結されている。小端部410とピストン・ピン300との間はセミ・フロー式であるため、小端部410の内周面には軸受(ブッシュ)を設けなかったが、大端部430の内周面には半割型インサート式のコンロッド・ベアリング431を設けた。また、一体鍛造成形のクランク・シャフト200を用いたので、組付け性を確保するために大端部430は水平分割式とした。そして、それらの連結を高強度リーマ・ボルトであるキャップ・ボルト450とナット460で行った。 【0069】なお、組付型クランク・シャフトを用いた場合には、いわゆる眼鏡型コネクティング・ロッドとすることができる。また、ロッド部の形状はより曲げ剛性の大きなH型でも良い。さらに、大端部430の肩部435に、適宜、ピストン500冷却用オイル・ジェット穴を設けると良い。このようなコネクティング・ロッド400も、高速で往復運動を行うものである。そして、通常、ピストン等よりも慣性質量が大きく、コネクティング・ロッド400(特に、小端部410側)自身に作用する慣性力も大きい。そこで、このコネクティング・ロッド400が本発明の高剛性部からなると、慣性質量の低減を図れて、コネクティング・ロッド400の軽量コンパクト化のみならず、エンジンのレスポンスも良好になる。 【0070】さらに、本発明の高剛性部からなるコネクティング・ロッド400は、軽量であると共に高剛性であるため、軽量コンパクト化を図りつつその変形や座屈を抑制できる。従って、非常に設計自由度の大きなコネクティング・ロッドが得られる。さらに、本発明の高剛性部が、強度、靱性、耐疲労性等に優れると、繰返し応力を受けるコネクティング・ロッド400の寿命、信頼性が増し一層好ましい。また、本発明の高剛性部の鉄基複合材料が鍛造性にも優れると、生産性の低下を招かず好ましい。例えば、本発明の鉄基複合材料は変形抵抗が中炭素鋼の1.1〜1.5倍であり、従来の鍛造設備で良好な製品成形ができる。 【0071】■ピストンピストン500は、気密性を保持しつつシリンダー内を高速で往復運動し、爆発力をクランク・シャフト200に伝えるものであり、図2および図5に示すように、略有底筒状部材であり、ピン・ボス部510、スカート部520、リング溝部530、ヘッド部540と、ストラット580とからなる。ピン・ボス部510は、ピストン・ピン300を支持するための軸受部であり、内側に滑らかなピン穴511が搾設されている。そのピン穴511に前述のピストン・ピン300が挿通され、ピストン500は回動自在に支持される。 【0072】スカート部520は、ピン・ボス部510に対して直角方向下方に延び、ピストン500の首振りを抑制し往復運動を安定化させるためのものである。ここでは、軽量性と騒音の低減を考慮してピン・ボス部510の方向を切り欠いたスリッパ・スカートとした。リング溝部530は、スカート部520の上方の全周に位置し、トップ・リング、セカンド・リング、オイル・リングを填め込むための溝である。ヘッド部540は、リング溝部530のさらに上方に位置する円盤状であり、空気(混合気)の圧縮等を行い、また燃焼圧力を受ける部分である。頂面には、バルブとの干渉を避けるために、三日月型のバルブ・リセスを形成してある。 【0073】ストラット580は、ピストン500の熱変形を抑制するために、ピストン500に取付けた(鋳込んだ)補強部材である。これを設けることにより、ピストン・クリアランスを小さくでき、ピストン寿命やエンジンの静粛性、さらにはエンジンの出力性能の向上を図れる。このようなピストン500は、高速で往復運動するためピストン・ピン300等と同様に軽量であることが求められるが、その他にその変形が小さいことも求められる。 【0074】ピストン500の変形には、熱膨張による変形と慣性力や爆発力による変形とが主に考えられる。前者の変形は、材質面の改良によっても抑制され得るが、前述したストラット580等の補強部材によってもその変形を抑制できる。後者の変形を抑制するためには、形状面若しくは材料面から剛性を向上させることによって抑制できる。 【0075】ピストン500が本発明の高剛性部からなると、材料面から軽量コンパクト化と変形の低減を図れるので好ましい。特に、ストラット580が本発明の高剛性部からなると、高剛性であるため、ピストン500の変形を格別に抑制し易い。しかも、軽量であり好都合である。なお、ピストン500を通常のアルミニウム合金製とし、ストラット580のみを本発明の高剛性部からなるようにしても良い。これにより、一層軽量で変形の少ないピストン・クリアランスの安定したピストン500が得られる。この場合は、ストラット580が、本発明の往復運動部材に相当する。いずれにしろ、ストラット580等が本発明の高剛性部を備えることにより、それらの設計自由度を一層拡大させることができる。 【0076】(2)動弁系部材次に、動弁系の往復運動部材を一例に取上げ、本発明について具体的に説明する。動弁機構は、クランク・シャフトの回転をカム・シャフトに伝えてカム・シャフトを駆動、回転させることにより、各シリンダのインテーク・バルブとエキゾースト・バルブとを設計された適切な時期に、点火順序に従って開閉させる機構である。図6に示すようなロッカー・アーム710、コッタ720、リテーナ730、バルブ750等により構成され、燃焼室への混合気の導入と密閉、及び燃焼室から燃焼ガスの排出を行なっている。 【0077】■ロッカー・アームロッカー・アーム710は、カム600の動きをバルブ・ステム・エンド751に伝えてバルブを開閉するものである。図6には、ロッカー・シャフト711に枢支され揺動するシーソ式を示した。勿論、一端がシリンダ・ヘッドに支えられて揺動するスイング・アーム式であっても良い。ロッカー・アーム710は、カム600のカム面に摺接する摺接部712を一端に有し、他端にはバルブ・ステム・エンド751を押圧すると共にタペット・クリアランスを調整するためのアジャスト・スクリュ713を有する。なお、摺接部712にニードル・ローラ等を設けて、摩擦損失の低減をより図ることもできる。また、バルブ・ステム・エンド751に当接するアジャスト・スクリュ713の端面は表面硬化処理等により耐摩耗性を向上させておくと良い。この略弓形をしたロッカー・アーム710は、略中央のロッカー・シャフト711を中心に高速で往復運動する。そして、慣性力の低減や応答性の向上を図るために、慣性質量の低減が要求される。さらに、正確なバルブ・タイミングを確保するために、その変形が厳しく制限され、高剛性であることが望まれる。従って、ロッカー・アーム710が本発明の高剛性部からなると、これらの要求を満たすことができ、ロッカー・アーム710の設計自由度が一層拡大するので非常に好ましい。 【0078】■コッタおよびリテーナ図6からコッタ720とリテーナ730とを取出し、それらの全体を図7に示した。リテーナ730は、バルブ・スプリング740のスプリング・アッパー・シートである。リテーナ730は中央下方に膨らんだ円筒状部材であり、中央にはコッタ720を配設するためのテーパー状穴が設けられており、外周部でバルブ・スプリング740の上端面と当接し、その中央部でバルブ・スプリング740を内側から支持する。コッタ720は、2分割された留金であり、その内側にはバルブ・ステム・エンド751外周付近にある溝752に係止される突起が設けられており、また、コッタ720の外側にはテーパー面が形成されている。コッタ720は、バルブ・ステム・エンド751の外周面とリテーナ730の内周面との間に配設され、バルブ750(バルブ・ステム・エンド751付近)とリテーナ730とを連結している。これにより、リテーナ730を介してバルブ750は閉じる側に付勢されることになる。 【0079】これらコッタ720およびリテーナ730も、高速で往復運動する部材であり、慣性質量の低減が求められると共に剛性が要求される。従って、コッタ720および/またはリテーナ730が本発明の高剛性部からなると、慣性力の低減、応答性の向上、変形の低減が図れて好ましい。 【0080】■バルブバルブは燃焼室を開閉するものであり、混合気を燃焼室に導入するインテーク・バルブと燃焼ガスを燃焼室から排出するエキゾースト・バルブとがある。いずれかに限定されるものではないが、図6にはインテーク・バルブを示した。このバルブ750は、バルブ・ヘッド755と、バルブ・ステム753と、バルブ・ステム・エンド751とからなる。バルブ・ヘッド755は、ガスの流動抵抗を小さくし、より軽量化を図るためにいわゆるチューリップ型(燃焼室側が窪んだ形)をしている。シート面756には、耐摩耗性を向上させるためにステライド盛りがしてある。このバルブ・ヘッド755から上側には、細長い柱状のバルブ・ステム753が延び、さらにその先端が前述のバルブ・ステム・エンド751となる。バルブ750も高速で往復運動する部材であり、慣性力の低減、応答性の向上等を図るために軽量であることが求められる。さらに、バルブ・ステム755は、細長い柱状部材でもあるので、座屈荷重を高めること、つまり高剛性であることが求められる。そこで、バルブ750が本発明の高剛性部からなると、慣性質量の低減と高剛性化を図ることができるので、好都合である。なお、このバルブ750は、バルブ・ヘッド755とバルブ・ステム753とを一体的に製造し、全体を本発明の高剛性部とした。しかし、これには限られず、いずれか一方を本発明の高剛性部を備えた往復運動部材として製作し、他方を別の耐熱合金等で製作しておき、両者を溶接して一つのバルブとしても良い。以上、エンジンの往復運動部材について、軽量化と高剛性化との観点から説明したが、さらに次のことも言える。往復運動部材が本発明の高剛性部をもつと、その高剛性部は熱的安定性の高い強化相を備えた鉄基複合材料からなるため、高温下においてもヤング率の低下が少なく、耐熱性にも優れるものとなる。つまり、高温特性の良好な往復運動部材が得られる。 【0081】(ピストン・ピン)次に示す中空円筒状のピストン・ピンを本発明の鉄基複合材料(第1〜3実施例)と従来の鉄鋼材料(比較例)とを用いて製造すると共に、そのヤング率等を測定した。 (1)製造■第1実施例ステンレス鋼粉末(SUS430:#330)、チタンホウ化物粉末(平均粒径4μm)、フェロチタン粉末(#330)、フェロボロン粉末(#250)を、表1に示す重量割合で配合すると共に均一に混合した(原料粉末混合工程)。本実施例ではFe−Cr合金マトリックス相中に20体積%(全体を100体積%として)のチタンホウ化物粒子を主成分とする強化相を分散させて鉄基複合材料を形成することを意図した。原料粉末混合工程後、均一に混合した原料粉末を用いて冷間静水圧プレス(343MPa)により直径70mm、高さ210mmの圧密成形体を得た(圧密成形工程)。この圧密成形体を厚さ4mmのステンレス管中に脱気(0.13Pa程度)封入した。 【0082】この封入体を電気炉で加熱して焼結を行い(1150℃×2時間)、それから高温のまま直ちに押出して焼結体を得た(焼結工程)。この焼結体を油圧式横型400tプレス機により、熱間押出しを行い、直径25mm×1000mmの押出材を成形した(熱間加工工程)。さらに、この押出材に切削、研削、研磨等の機械加工を施して、外径φ21mm×長さ47.5mmのピストン・ピンを得た。なお、ピストンの内径は表2に示すように、第1〜3実施例と比較例とは同一とし、第4〜6実施例ではそれらの曲げ剛性が略等しくなるように調整した。 【0083】■第2実施例Fe−Cr合金マトリックス相中に30体積%(全体を100体積%として)のチタンホウ化物粒子を主成分とする強化相を分散させて鉄基複合材料を形成することを意図した以外は、第1実施例と基本的に同様である。 【0084】■第3実施例Fe−Cr合金マトリックス相中に46体積%(全体を100体積%として)のチタンホウ化物粒子を主成分とする強化相を分散させて鉄基複合材料を形成することを意図した以外は、第1実施例と基本的に同様である。 【0085】■第4実施例第1実施例に対して表2に示すように内径のみ変化させたピストン・ピンである。 【0086】■第5実施例第2実施例に対して表2に示すように内径のみ変化させたピストン・ピンである。 【0087】■第6実施例第3実施例に対して表2に示すように内径のみ変化させたピストン・ピンである。 【0088】■比較例市販の高強度構造用鋼材(SNCM420:浸炭焼入れ材)を素材として用いて、上述の実施例と同様に機械加工を施し、表2に示す内径のピストン・ピンを得た。なお、機械加工後、熱処理(浸炭焼入れ・焼戻し)を行い表面ビッカース硬度を800HV、硬化深さを0.4mmとした。 【0089】 【表1】
【0090】 【表2】
【0091】(2)材料特性の測定上述の第1〜6実施例で製作した押出材と比較例で使用した高強度構造用鋼(SNCM420)について、ヤング率、密度、耐力、伸びの測定結果を表2に合わせて示した。また、これらから求めた比ヤング率と比較例を基準とした重量減少割合とを合わせて表2に示した。なお、各実施例のヤング率、密度、耐力、伸びは次のようにして求めた。 【0092】(a)ヤング率ヤング率を複合振動子法を用いて測定した。複合振動子法とは、試験片(第1〜4実施例と比較例との高剛性部)に水晶振動子を接着した複合振動子を製作し、この複合振動子と水晶振動子との共振周波数の差から試験片の固有振動数を求めて、ヤング率を評価する方法である。 【0093】(b)耐力インストロン試験機を用いて測定した荷重−伸び線図から0.2%耐力を求めた。インストロン試験機とは、インストロン(メーカ名)製の万能引張試験機であり、駆動方式は電気モータ制御である。 【0094】(c)密度密度は、乾燥重量と水中重量との差から体積を求めて密度を計算する水浸法(アルキメデス法)により求めた。 【0095】(d)伸びここで「伸び」とは、破断伸びのことであり、破断時の標点距離Lf と試験前の標点距離L0 とを用いて、破断伸び=(Lf−L0)/L0 ×100(%)で表される。ここでは予め試験片にケガキを付して標点を定めておき、試験前後で標点間距離を測定して、L0とLfとを求めた。 【0096】(3)圧環試験上述の各実施例と比較例とについて圧環試験を行い、曲げ荷重と歪みとの関係を測定した。第1〜3実施例と比較例との測定結果を図10に、第4〜6実施例と比較例との測定結果を図11に示す。なお、圧環試験は、図9に示すようにして、各ピストン・ピンの上下から耐圧板を介して油圧式10t万能試験機で圧縮して行った。このときの曲げ荷重はその試験機のロードセルにより測定し、また、歪みは各ピストン・ピンの内周面に貼付した歪みゲージで測定した。 【0097】(4)評価■ヤング率および比ヤング率表2から解るように、本発明の実施例では、比較例に対してヤング率が約10〜65%大きくなっている。そして、強化相が密度の小さな二ホウ化チタン(TiB2)からなるので、二ホウ化チタン(TiB2)の体積率に応じて、全体の密度が約10〜20%小さくなっている。その結果、比ヤング率E/ρで対比すると、実施例は比較例に対して比ヤング率E/ρが約1.4〜2.0倍と格別に向上している。 【0098】■変形表1、表2からから解るように強化相の割合が増加する程高ヤング率となっている。そして、図10から解るように、同形状である場合には、本発明の高剛性部を備えたピストン・ピンはその撓み(歪み)が大きく減少し、材料面からピストン・ピンの曲げ剛性を向上させることができたことが解る。しかも、表1から明らかなように、曲げ剛性の向上と同時に軽量化も達成された。これから、往復運動部材の設計自由度が著しく拡大し、往復運動装置の更なる性能向上と軽量コンパクト化とを図り得る。 【0099】また、図11から解るように、従来と同等の曲げ剛性とするのであれば、本発明の高剛性部を備えたピストン・ピンは著しい軽量化(約35%の軽量化)を達成している。さらに、この軽量化により慣性力の低減を図れるから、それと連動する他部材の軽量コンパクト化も図れ、ひいては、往復運動装置全体の軽量コンパクト化も図り得る。 【0100】いずれにしても、本発明の高剛性部を備えると、高剛性であると共に軽量であるために、往復運動部材の設計自由度が格別に拡大し、往復運動装置の軽量コンパクト化、性能向上、設計自由度の拡大等を図り易い。 【0101】 【発明の効果】本発明の往復運動部材は、高ヤング率であると共に低密度である鉄基複合材料からなるため、往復運動部材の変形低減や慣性質量の低減が容易となる。従って、往復運動部材の設計自由度が著しく拡大し、従来になく多様な要求性能に応えられる往復運動部材や往復運動装置を提供することが可能となった。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000003609 【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
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| 【出願日】 |
平成12年2月25日(2000.2.25) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100081776 【弁理士】 【氏名又は名称】大川 宏
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| 【公開番号】 |
特開2001−234287(P2001−234287A) |
| 【公開日】 |
平成13年8月28日(2001.8.28) |
| 【出願番号】 |
特願2000−48657(P2000−48657) |
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