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【発明の名称】 高清浄度鋼およびその製造方法
【発明者】 【氏名】佐藤 一郎

【氏名】入江 敏弘

【氏名】石堂 嘉一郎

【氏名】北野 修平

【要約】 【課題】機械部品使用環境の過酷化の要求特性に応え得る清浄度の高い鋼材を高コストな再溶解法によることなく提供することである。

【解決手段】アーク溶解炉または転炉にて製造された溶鋼を取鍋に移注して精錬し、環流式真空脱ガス装置にて脱ガスを行った後、鋳造した鋳塊を製造する鋼の製造工程において、溶鋼を取鍋に移注する際にAl、Si等の脱酸剤を添加することにより取鍋における精錬の前に予め脱酸を行う高清浄度鋼の製造方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 アーク溶解炉または転炉により溶鋼を酸化精錬し、引き続き出鋼前の同炉中において脱酸剤を添加して脱酸処理を行った後、取鍋精錬炉に移注して取鍋精錬を行い、さらに環流式真空脱ガス装置に環流させて脱ガスを行うことを特徴とする高清浄度鋼の製造方法。
【請求項2】 溶鋼を取鍋精錬炉に移注する際に、移注する溶鋼の温度を溶鋼の融点より100℃以上高い温度とすることを特徴とする請求項1記載の高清浄度鋼の製造方法。
【請求項3】 取鍋精錬炉における精錬を60分以下とし、かつ、環流式真空脱ガス装置による脱ガスを25分以上行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の高清浄度鋼の製造方法。
【請求項4】 請求項1〜3に記載のいずれか1項の製造方法により製造の高清浄度鋼。
【請求項5】 鋼中の含有酸素量は10ppm以下であることを特徴とする請求項4記載の高清浄度鋼。
【請求項6】 鋼材を酸溶解して検出される20μm以上の大きさである酸化物系介在物が鋼材100gあたり40個以下であることを特徴とする請求項4記載の高清浄度鋼。
【請求項7】 極値統計により算出される30000mm2における最大介在物径の予測値が60μm以下であることを特徴とする請求項4記載の高清浄度鋼。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、疲労強度、疲労寿命や静粛性が求められる機械部品用鋼、特に転がり軸受用鋼、等速ジョイント用鋼、ギア用鋼、トロイダル型無段変速装置用鋼、冷間鍛造用機械構造用鋼、工具鋼、ばね鋼等として使用される高清浄度鋼ならびにその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】疲労強度、疲労寿命が求められる機械部品に使用される鋼は、清浄度の高い(鋼中の非金属介在物量の少ない)鋼であることが重要である。これらの高清浄度鋼の製造プロセスは、■アーク溶解炉又は転炉による溶鋼の酸化精錬、■取鍋精錬炉(LF)による還元精錬、■環流式真空脱ガス装置(RH)による環流真空脱ガス(RH処理)、■連続鋳造又は一般造塊による鋼塊の鋳造、■鋼塊の圧鍛による加工及び熱処理による製品鋼材の工程で製造されるのが一般的である。このプロセスにおいて、■はスクラップをアークで加熱溶解しまたは溶銑を転炉に入れ酸化精錬を行い取鍋精錬炉に移注する。移注時の温度はその鋼の融点よりも概ね30℃以上100℃未満までの高温度に設定する。■は移注した取鍋精錬炉でAl、Mn、Si等の脱酸剤合金を投入して脱酸および脱硫剤による脱硫の還元精錬を行い合金成分の調整をする。一般には取鍋精錬の処理時間は長いほど効果があるとされ60分を超す長時間であり、処理温度も一般に融点よりも50℃高い温度で処理する。■のRH処理は環流真空脱ガス槽で環流しながら真空脱ガスして脱酸素、脱水素を行い、この場合溶湯の環流量は全溶湯の5〜6倍程度で行われる。■はRH処理した溶湯をタンディシュに移注して連続鋳造してブルーム、ビレット、スラブなどに鋳造するか、または取鍋から溶湯を直接鋼塊鋳型に注いで鋼塊に鋳造する。■はブルーム、ビレット、スラブなどあるいは鋼塊を、圧延または鍛造して熱処理して鋼材とし出荷する。
【0003】また、特に清浄度の高い鋼が要求される場合は、上記工程において、鋳造された鋼塊を原材料として、さらに真空再溶解法あるいはエレクトロスラグ再溶解法で製造されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、近年の機械部品使用環境の過酷化により、鋼材に対する要求特性はますます厳しくなり、より清浄度の高い鋼材が求められている。このような要求に対しては、通常上記の■〜■の製造工程による生産では対応が困難となっている。またこのような要求に応えるため、前述の真空再溶解法あるいはエレクトロスラグ再溶解法による鋼材が生産されているが、製造コストが極端に上昇するという問題がある。
【0005】本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、極端なコスト上昇を回避するため、再溶解法によることなく、清浄度の高い鋼材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的に対し、発明者らは高清浄度鋼の製造工程に関して鋭意検討を重ねた結果、以下の工程により、清浄度の大幅向上が可能であることを見いだしたものである。
【0007】そこで上記の課題を解決するための本発明の手段について以下に説明する。従来アーク溶解炉又は転炉等の精錬炉を有する工程では、アーク溶解炉又は転炉等はもっぱら溶解及び酸化精錬が主体であり、還元期(脱酸)は取鍋精錬炉にて行われているが、請求項1の発明では、アーク溶解炉または転炉により溶鋼を酸化精錬し、引き続き出鋼前の同炉中にMn、Si、Al等の脱酸剤(これらMn、Si、Al等の合金形態は問わない)を溶鋼t当たり2kg以上添加することによる脱酸処理を行った後、取鍋精錬炉に移注して取鍋精錬を行い、さらに環流式真空脱ガス装置に環流させて脱ガスを行うことを特徴とする高清浄度鋼の製造方法である。
【0008】請求項2の発明では、溶鋼を取鍋精錬炉に移注する際に、移注する溶鋼の温度を溶鋼の融点より100℃以上高い温度、望ましくは120℃以上高い温度、さらに望ましくは150℃以上高い温度とすることを特徴とする請求項1の手段における高清浄度鋼の製造方法である。
【0009】請求項3の発明では、取鍋精錬炉における精錬を60分以下、望ましくは45分以下、さらに望ましくは25分以上45分以下とし、これに続く脱ガスにおいて通常は環流式真空脱ガス装置で溶鋼の環流量を全溶鋼の5倍以上として行われているが、本発明では環流式真空脱ガス装置で溶鋼の環流量を全溶鋼の8倍以上、望ましくは10倍以上、さらに望ましくは15倍以上として脱ガスを25分以上行うことを特徴とする請求項1又は2記載の高清浄度鋼の製造方法である。
【0010】請求項4の発明では、請求項1〜3に記載のいずれか1項の手段における製造方法により製造の高清浄度鋼である。
【0011】請求項5の発明では、鋼中の含有酸素量は10ppm以下、望ましくは鋼成分のC含有量がC<0.6質量%では8ppm以下、特に望ましくはC≧0.6質量%では6ppm以下であることを特徴とする請求項4の手段における高清浄度鋼である。
【0012】請求項6の発明では、鋼材を酸溶解して検出される20μm以上である酸化物系介在物、例えばAl23の含有率が50%以上である酸化物系介在物、が鋼材100gあたり40個以下、望ましくは30個以下、さらに望ましくは20個以下であることを特徴とする請求項4の手段における高清浄度鋼である。
【0013】請求項7の発明では、例えば試験条件として鋼材表面100mm2中の最大介在物径の測定を30箇所において行い、極値統計により算出される30000mm2における最大介在物径の予測値が60μm以下、望ましくは40μm以下、さらに望ましくは25μm以下であることを特徴とする請求項4の手段における高清浄度鋼である。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を以下に説明する。請求項1に係る高清浄度鋼の製造方法は次の■〜■の工程からなる。
【0015】■アーク溶解炉または転炉により溶鋼を酸化精錬し、引き続いて同炉においてMn、Si、Al等の脱酸剤(Mn、Si、Al等の合金形態は問わない)を溶鋼t当たり2kg以上添加、時にCaO等の造滓剤を同時添加することにより脱酸処理を行った後、取鍋に移注する。このアーク溶解炉または転炉等の製鋼炉における脱酸処理が本発明において最も重要な工程であり、従来不要とされていた取鍋精錬前の脱酸を行うことにより、取鍋精錬に先立って酸素量をある程度低減しておくことで、最終的に含有酸素量の低い鋼を得ることが可能となる。
■取鍋に移注した溶鋼を取鍋精錬炉にて還元精錬及び成分調整を行う。
■ 還元精錬、成分調整した■の溶鋼を環流式真空脱ガス装置により環流させて脱ガスを行うとともに、成分の最終調整を行う。
■ 脱ガス及び成分の最終調整を行った■の溶鋼を鋳造により鋳塊とする。
■ 得られた鋳塊に圧鍛を加えて製品形状とした後、必要な熱処理を加えて製品鋼材とする。
【0016】請求項2に係る高清浄度鋼の製造方法は、上記■〜■の製造工程のうち、■の取鍋精錬炉へ移注する際に、通常は溶鋼の移注温度を溶鋼の融点より50℃程度高くするが、本発明では溶鋼の融点より100℃以上、望ましくは120℃以上、さらに望ましくは150℃以上高くするものである。これは取鍋の周囲に付着した地金を十分に溶鋼に溶解させること及びスラグもまた十分に浮上させて、取鍋精錬中に地金及びスラグが剥がれ落ちて、精錬の進んだ溶鋼に混入して含有酸素量が上昇することを防止する目的である。
【0017】請求項3に係る高清浄度鋼の製造方法は、請求項1又は2の上記■の工程の取鍋精錬炉での精錬において、通常60分より長い方が効果が高いとされる精錬時間を、60分以下、望ましくは45分以下、さらに望ましくは25分以上45分以下とし、かつ■の通常は25分未満でよいとされる脱ガス工程、すなわち溶鋼の環流量は全溶鋼の5倍程度で十分とされている環流脱ガス装置における溶鋼の環流量を、本発明では全溶鋼の8倍以上、望ましくは10倍以上、より望ましくは15倍以上として行うことにより、25分以上の長時間の脱ガスを行うものである。これは、加熱を行いながら精錬を行う取鍋精錬の時間を必要最小限とし、加熱を行わない脱ガス工程で酸化物系介在物の浮上分離時間を十分確保することで、取鍋精錬炉内側の耐火物あるいはスラグからの汚染による、含有酸素量の上昇を防止するとともに、20μm程度以上の大型介在物の生成を防止する。環流式真空脱ガスは特に溶鋼内にノズルを浸漬させ溶鋼のみを環流させるため溶鋼上面のスラグは充分沈静化されている。このためスラグから溶鋼への酸化物の巻き込みは、取鍋精錬炉の還元期工程より少ない。従って予め脱酸した溶鋼は充分な脱ガス時間をかけることにより、比較的小さな脱酸生成物まで大きく低減させることが可能となる。本明細書ではこの方法を短時間LF長時間RHまたはLF短RH長という。
【0018】請求項4に係る鋼は、上記の請求項1〜3のいずれか1項に記載の手段によって製造したことを特徴とする高清浄鋼である。
【0019】請求項5に係る鋼は、請求項4の高清浄度鋼のうち、含有酸素量は10ppm以下、望ましくは鋼成分のC含有量がC<0.6質量%では8ppm以下、特に望ましくはC≧0.6質量%では6ppm以下であることを特徴とする、特に転がり疲労寿命に優れた高清浄度鋼である。含有酸素量の低減により、転がり疲労寿命が向上することは一般に知られているが、本発明の方法で製造した鋼のうち、含有酸素量10ppm以下、望ましくは鋼成分のC含有量がC<0.6質量%では8ppm以下、特に望ましくはC≧0.6質量%では6ppm以下である高清浄度鋼は、特に優れた転がり疲労寿命が安定して得られる。
【0020】請求項6に係る鋼は、請求項4の高清浄度鋼のうち鋼材を酸溶解して検出される20μm以上の大きさである酸化物系介在物、例えばAl23の含有率が50%以上である酸化物系介在物が、鋼材100gあたり40個以下、望ましくは30個以下、さらに望ましくは20個以下であることを特徴とする転がり疲労寿命、疲労強度に優れた高清浄度鋼である。この鋼材の評価方法は含有酸素量、所定体積中の最大介在物径の両方を反映したものである。そして、疲労強度、疲労寿命、静粛性に対しては、酸素含有量が同等の鋼においては、ある程度大きな酸化物系介在物が有害で、特に20μm以上の大きさの酸化物系介在物が有害である。そこで、本発明の方法で製造した鋼のうち、鋼材を酸溶解して検出される20μm以上の大きさである、例えばAl23の含有率が50%以上である、酸化物系介在物が鋼材100gあたり40個以下、望ましくは30個以下、特に望ましくは20個以下である鋼は、優れた転がり疲労寿命と疲労強度を兼備し、さらに静粛性に優れた高清浄度鋼である。
【0021】請求項7に係る鋼は、請求項4の高清浄度鋼のうち、鋼材断面100mm2中の最大介在物径の測定を30箇所において行い、極値統計により算出される30000mm2における最大介在物径の予測値が60μm以下、望ましくは40μm以下、より望ましくは25μm以下であることを特徴とする、特に回転曲げ疲労強度、繰返し応力による疲労に強い高清浄度鋼である。繰返し応力に対する強度あるいは疲労限度は所定体積中の最大介在物径に大きく依存することは知られており、本出願人の出願に係る特開平11−194121号公報に開示するところであるが、代表的試験例として鋼材断面100mm2中の最大介在物径の測定を30箇所において行い、極値統計により算出される30000mm2における最大介在物径の予測値が60μm以下、望ましくは40μm以下、より望ましくは25μm以下である高清浄度鋼は、特に優れた疲労強度が安定して得られる。なお、含有酸素量10ppm以下、望ましくは鋼成分のC含有量がC<0.6質量%では8ppm以下、特に望ましくはC≧0.6質量%では6ppm以下で、かつ、最大介在物径の予測値が60μm以下、望ましくは40μm以下、より望ましくは25μm以下である、本発明により製造される鋼は優れた転がり疲労寿命と疲労強度を兼備した高清浄度鋼である。ところで酸溶解は非常に時間、手間のかかる作業である、鋼材を溶かすことなく、ある程度の面積を顕微鏡観察し、統計的に介在物径の最大値を予測できるこの方法は簡便であり、また、特に引張圧縮の繰り返し応力による疲労では、破壊の危険性のある部位に存在する介在物の最大径が、強度決定の大きな因子であることが知られており、これを統計的に予測できる本方法は有利である。
【0022】
【実施例】アーク溶解炉にて酸化精錬をした後、続いて同炉内でAl、Si等の脱酸剤を添加することにより脱酸処理をする。この予備脱酸した溶鋼を取鍋精錬炉に移注して取鍋精錬し、次いで環流式真空脱ガス装置にて脱ガスを行った後、鋳造により鋳塊製造工程にて製造された鋼のJIS SUJ2鋼、SCM435の10チャージの製品に含有される酸素量、極値統計による最大介在物径予測値、スラスト型転がり寿命試験によるL10寿命を調査した。最大介在物径予測値はφ65鍛伸材から試験片を切り出し、100mm2の観察を30個行い、極値統計により30000mm2中の最大介在物径を予測した。スラスト型転がり寿命試験は浸炭焼入焼戻しを行ったφ60×φ20×8.3Tの試験片を使用し、最大ヘルツ応力Pmax:4900MPaの条件で試験を行い、L10寿命を算出した。
【0023】表1にSUJ2鋼の10チャージの請求項1のアーク溶解炉または転炉による酸化精錬に続いて、同炉中において脱酸処理(本明細書では「炉内脱酸」と称する。)する炉内脱酸のみの発明の操業例を示す。
【0024】
【表1】

【0025】表2にSCM435鋼の10チャージの請求項1の炉内脱酸のみの発明の操業例を示す。
【0026】
【表2】

【0027】表3にSUJ2鋼の10チャージの請求項2の炉内脱酸及び高温出鋼の発明の操業例を示す。
【0028】
【表3】

【0029】表4にSCM435鋼の10チャージの請求項2の炉内脱酸及び高温出鋼の発明の操業例を示す。
【0030】
【表4】

【0031】表5にSUJ2鋼の10チャージの請求項3の炉内脱酸及び短時間LF長時間RHの発明の操業例を示す。
【0032】
【表5】

【0033】表6にSCM435鋼の10チャージの請求項3の炉内脱酸及び短時間LF長時間RHの発明の操業例を示す。
【0034】
【表6】

【0035】表7にSUJ2鋼の10チャージの請求項3の炉内脱酸、高温出鋼及び短時間LF長時間RHの発明の操業例を示す。
【0036】
【表7】

【0037】表8にSCM435鋼の10チャージの請求項3の炉内脱酸、高温出鋼及び短時間LF長時間RHの発明の操業例を示す。
【0038】
【表8】

【0039】本発明と対比する従来例のSUJ2の操業例を表9に、従来例のSCM435の操業例を表10に示す。
【0040】
【表9】

【0041】
【表10】

【0042】これらの表1〜表8に見られるとおり、本発明によるアーク溶解炉又は転炉にて製造された溶鋼を、さらに同炉中で炉内脱酸を行った後、取鍋精錬炉に移注して精錬を行い、さらに環流式真空脱ガス装置に環流させて脱ガスを行ったもの、さらに炉内脱酸に組み合わせて出鋼温度を通常操業より高温である融点+100℃以上の高温出鋼とし、或いは炉内脱酸に組み合わせて取鍋精錬炉の操業時間を短くかつ環流脱ガスのRH回転量(即ち、環流量の全溶鋼量に対する倍数)を大きくして脱ガスを長時間かけて充分に行うLF短RH長とし、さらには以上の全てを組み合わせた炉内脱酸と高温出鋼とLF短RH長としたものは、鋼種のSUJ2、SCM435共に、製品含有酸素量も少なく、かつ、介在物20μm以上の個数も大幅に少なくなる。そして清浄度を示す良否では、表1から表8に示すとおり、本発明の実施例では、△のやや良い、○の良い、或いは◎の非常に良いであり、これらは共に優れた高清浄度鋼である。これに比して従来例では、表9および表10に示すとおり、全て×の良くない、であり、清浄度鋼といえないものである。なお△のやや良いは、○の良い或いは◎の非常に良いとの比較においてやや良いとしているが、出鋼脱酸を行わない従来の方法の×の良くないに比べると△のやや良いは非常に優れた清浄度を有する鋼である。
【0043】炉内脱酸を実施した各チャージにおいて、(溶鋼の取鍋精錬炉への移注温度)−(溶鋼の融点)=TSHとするとき、酸素量、最大介在物径予測値はともにTSHを大きくすることで低減され、清浄度が向上する。炉内脱酸を実施したチャージについて、取鍋精錬炉における精錬時間と酸素量、最大介在物径予測値の関係では、精錬時間が25分程度以上であれば酸素量、最大介在物径予測値は十分低下するが、最大介在物径予測値については精錬時間が長くなると、むしろ大きくなってくる。すなわち、時間が経過すると、取鍋精錬炉の耐火物の溶損が大きくなり、かつ大気との接触による酸化等でスラグ系の平衡が崩れ、溶存酸素のミニマムレベルを外れるからと思われる。さらに、環流式真空脱ガス装置における全溶鋼量に対する環流量と、酸素量、最大介在物径予測値の関係では、環流量は多いほど高清浄度化の効果が高く、15倍以上でほぼ飽和する。
【0044】含有酸素量、最大介在物径予測値を小さくすることで、L10寿命が向上することが確認された。このことから、含有酸素量、最大介在物径予測値を低減することが可能となる本発明方法により製造された鋼は、転がり疲労寿命などの疲労強度に優れていることが明らかとなった。
【0045】図1は、SUJ2鋼の溶鋼の処理において、アーク溶解炉または転炉により溶鋼を酸化精錬し、引き続き出鋼前の同炉中において脱酸剤を添加して脱酸処理を行った後、さらに取鍋精錬後に環流式真空脱ガスを行う本発明の方法と、炉内脱酸を行わない従来例の方法の場合のそれぞれ10チャージ例の製品中の含有酸素量を示す。なお、図1、図3、図5においてA1は請求項1の発明である炉内脱酸のみによるものを示し、A2は請求項2の発明である炉内脱酸及び高温出鋼によるものを示し、A3は請求項3の発明である炉内脱酸及び短時間LF長時間RHによるものを示し、A4は請求項3の発明である炉内脱酸+高温出鋼+短時間LF長時間RH処理によるものを示し、従は従来例によるものを示す。
【0046】図2は、SCM435鋼の溶鋼の処理において、アーク溶解炉または転炉により溶鋼を酸化精錬し、引き続き出鋼前の同炉中において脱酸剤を添加して脱酸処理を行った後、さらに取鍋精錬後に環流式真空脱ガスを行う本発明の方法と、炉内脱酸を行わない従来例の方法の場合のそれぞれ10チャージ例の製品中の含有酸素量を示す。なお、図2、図4、図6においてB1は請求項1の発明である炉内脱酸のみによるものを示し、B2は請求項2の発明である炉内脱酸及び高温出鋼によるものを示し、B3は請求項3の発明である炉内脱酸及び短時間LF長時間RHによるものを示し、B4は請求項3の発明である炉内脱酸+高温出鋼+短時間LF長時間RH処理によるものを示し、従は炉内脱酸を行わない従来例によるものを示す。
【0047】図3は、SUJ2鋼の溶鋼の処理において、炉内脱酸を行う本発明に係る請求項1〜3の方法と、炉内脱酸を行わない従来例の方法の場合のそれぞれ10チャージ例の製品中の極値統計による最大予測介在物径を示す。
【0048】図4は、SCM435鋼の溶鋼の処理において、炉内脱酸を行う本発明に係る請求項1〜3の方法と、炉内脱酸を行わない従来例の方法の場合のそれぞれ10チャージ例の製品中の極値統計による最大予測介在物径を示す。
【0049】図5は、SUJ2鋼の溶鋼の処理において、炉内脱酸を行う本発明に係る請求項1〜3の方法と、炉内脱酸を行わない従来例の方法の場合のそれぞれ10チャージ例の製品のスラスト型転がり寿命試験によるL10寿命を示す。
【0050】図6は、SCM435鋼の溶鋼の処理において、炉内脱酸を行う本発明に係る請求項1〜3の方法と、炉内脱酸を行わない従来例の方法の場合のそれぞれ10チャージ例の製品のスラスト型転がり寿命試験によるL10寿命を示す。
【0051】以上の結果、SUJ2鋼、SCM435鋼共に、アーク溶解炉または転炉により溶鋼を酸化精錬し、引き続き出鋼前の同炉中において脱酸剤を添加して脱酸処理を行った後、取鍋精錬炉に移注して取鍋精錬を行い、さらに環流式真空脱ガス装置に環流させて脱ガスを行う方法により、製品含有酸素量、最大介在物径予測値とも大幅に低減され、本発明方法により清浄度が大きく向上し、スラスト型転がり寿命試験によるL10寿命が大幅に改善されていることが確認された。さらに、請求項1の発明である炉内脱酸のみから、順次に請求項2の発明である炉内脱酸+高温出鋼、請求項3の発明である炉内脱酸+短時間LF長時間RH処理あるいは炉内脱酸+高温出鋼+短時間LF長時間RH処理と、それぞれの処理方法を加重するごとに、製品含有酸素量、最大介在物径予測値スラスト型転がり寿命試験によるL10寿命ともに、大幅に改善されることが判る。
【0052】
【発明の効果】以上に説明したとおり、本発明の実施により、コストの非常に高い再溶解法を用いることなく、清浄度の非常に高い鋼材を大量に提供することが可能となり、疲労強度、疲労寿命が求められる機械部品、特に転がり軸受、等速ジョイント、ギア、トロイダル型無段変速装置等に使用される高清浄度鋼が提供できるなど、従来にない優れた効果を奏する。
【出願人】 【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
【出願日】 平成12年6月5日(2000.6.5)
【代理人】 【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
【公開番号】 特開2001−342514(P2001−342514A)
【公開日】 平成13年12月14日(2001.12.14)
【出願番号】 特願2000−167087(P2000−167087)