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【発明の名称】 微生物の生理活性検出方法
【発明者】 【氏名】平松 啓一

【氏名】崔 龍洙

【要約】 【課題】設備、経費、労働力、専門的手技などを必要とせず、短時間に細胞壁合成活性等の微生物の生理活性を検出する方法を提供すること。

【解決手段】微生物の細胞増殖を起こさない培養条件下で細胞壁の合成を行わせ、細胞懸濁液の経時的な吸光度の増加の度合いにより微生物の生理活性を検出する。本発明の方法は細胞壁合成の強弱が関係するすべての微生物の生理活性の研究、検査に有用であるだけでなく、細胞壁の合成阻害を作用機序とする抗微生物薬剤への細胞の感受性に関する情報を得ることができる。さらにこの検査法は、グリコペプチド低感受性の黄色ブドウ球菌の簡易的、迅速検出に有用な検査法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 微生物の細胞増殖を起こさない培養条件下で細胞壁の合成を行わせ、微生物の細胞壁合成能の度合いを測定することにより微生物の生理活性を検出する方法。
【請求項2】 微生物の細胞壁合成能の測定法が、微生物懸濁液の吸光度測定であるところの請求項1の検出法。
【請求項3】 生理活性が細胞壁合成阻害薬に対する感受性である請求項1又は2の方法。
【請求項4】 生理活性がグリコペプチド系抗菌薬に対する感受性である請求項1又は2の方法。
【請求項5】 微生物が黄色ブドウ球菌である請求項4の方法。
【請求項6】 用いる培養条件が微生物の増殖、分裂に必要な栄養素の一部を含まず、かつ細胞壁の合成を助ける栄養素を多く含んだ培地を用いることを特徴とする請求項5の方法。
【請求項7】 グリコペプチド系抗菌薬がバンコマイシンである請求項6の方法。
【請求項8】 微生物の増殖、分裂に必要な栄養素の一部を含まず、細胞壁の合成を助ける栄養素を多く含んだ培地を用いて細胞壁の合成を行った後、抗微生物薬感受性テストを行うことを特徴とする抗微生物薬感受性検査法。
【請求項9】 微生物が黄色ブドウ球菌であり、抗微生物薬が細胞壁合成阻害抗菌薬である請求項8の検査法。
【請求項10】 細胞壁合成阻害薬がグリコペプチド系抗菌薬である請求項9の検査法。
【請求項11】 グリコペプチド系抗菌薬がバンコマイシンである請求項10の検査法。
【請求項12】 細胞壁の合成を助ける栄養素を特に多く含み、かつ、抗微生物薬を含んだ培地に黄色ブドウ球菌を接種し、その細胞増殖を観察することにより行う抗微生物薬感受性検査法。
【請求項13】 抗微生物薬がグリコペプチド系抗菌薬である請求項12の検査法。
【請求項14】 グリコペプチド系抗菌薬がバンコマイシンである請求項13の検査法。
【請求項15】 細胞増殖の観察が、培養一定時間後の増殖の有無であるところの請求項13又は14の検出法。
【請求項16】 細胞増殖の観察が、増殖が検出されるまでに要する時間であるところの13又は14の検出法。
【請求項17】 微生物の増殖、分裂に必要な栄養素の一部を含まず、かつ細胞壁の合成を助ける栄養素を多く含んだ微生物の生理活性検出用培地。
【請求項18】 細胞増殖をおこし得る培地に、細胞増殖を妨げる抗菌薬又は化学物質を加えた微生物の生理活性検出用培地。
【請求項19】 細胞壁の合成を助ける栄養素を特に多く含み、かつ、抗微生物薬を含んだ抗微生物薬感受性検査用培地。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、微生物の生理活性を検出する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】細胞壁の合成は、真菌や細菌などが生存し、またヒトや動物に病原性を発揮するために不可欠である。従って、細胞壁の合成を特異的に阻害する天然あるいは合成抗真菌、抗菌薬は、これらの微生物による感染の治療薬として広く用いられている。
【0003】しかし、近年、とくに細菌感染症において、抗菌薬の無効な耐性菌によるものが増加し、大きな医療問題を起こしている。用いられる抗菌薬の8割以上はペニシリン、セフェムなどのβ-ラクタム(beta-lactam)薬や、バンコマイシン、テイコプラニンなどのグリコペプチド(glycopeptide)系薬などの細胞壁合成阻害薬である。本発明者らは、1997年に、これら細胞壁合成阻害薬のすべてに耐性を獲得した黄色ブドウ球菌を、バンコマイシン治療の奏効しなかった臨床症例から検出した。この菌株は、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA[vancomycin-resistant S. aureus] またはVISA[vancomycin-intermediate S. aureus]またはGISA[glycopeptide-intermediate S. aureus])と呼ばれる(1,2)。
【0004】また、本発明者らは、1997年に、VRSAのみならず、VRSAを高頻度に生み出す前駆細胞株ヘテロVRSA(hetero-VRSA)が存在することを明らかにした(9)。ヘテロVRSAは、それ自体の感染によっても、バンコマイシン治療に抵抗を示すことがある(5,6,7,9)。もちろん、このヘテロVRSAが多く存在する病院、地域では、VRSAがグリコペプチド治療に伴い出現しやすいと考えられるため、VRSAの出現を予防するためにも、ヘテロVRSAの検出も重要である。バンコマイシン、テイコプラニンなどのグリコペプチド系抗菌薬は、黄色ブドウ球菌のうち、多剤耐性を示すMRSA(methicillin-resistanat S.aureus)の数少ない治療薬であるから、感度のよいグリコペプチド感受性テストの開発がきわめて重要である。
【0005】VRSAは、従来の自動化されたMIC測定機器や、ディスク拡散法などを用いたグリコペプチド感受性テストでは容易に検出されにくいことがわかった(8)。さらに、ヘテロVRSAは、これら汎用される従来の感受性テストでは、いずれも感受性株との区別ができない(10)。きわめて厳密な品質管理下におけるMICの測定によっても、ヘテロVRSAは検出できない(10)。
【0006】本発明者らは、先にヘテロVRSAを検出するためのMu3培地を利用する方法を発明した(10)。この方法は、β-ラクタム薬とバンコマイシンの併用時の拮抗現象を利用した方法であるが、VRSAとヘテロVRSAの区別がつきにい点、感受性菌とヘテロVRSAの中間に属する場合の判定が難しいという点で、検出方法として未だ完全ではない。また、このことと関連して、その判定結果は、植菌数の増減によって、影響を受ける。また、最近、拮抗現象は、一般の黄色ブドウ球菌すべてに観察される現象であることが明らかになるなど、ヘテロVRSA,VRSAに特異的な現象ではないことがわかった。従って、M3培地を用いた方法は、これらの菌の耐性機構に基づいた検出法とは言えない。
【0007】ヘテロVRSAは、その耐性のメカニズムとして、細胞壁の合成を増加(活性化)することにより、より肥厚した細胞壁を作り、バンコマイシン分子を細胞壁の中にトラップし、バンコマイシンが細胞壁合成の行われている細胞質膜に容易に到達できないようにすることで耐性化していることがわかった(3,4,5,6,7)。この耐性化のメカニズムをaffinity trappingと呼ぶ(6,7)。従って、黄色ブドウ球菌の個々の細胞株の細胞壁合成活性を測定することができれば、その株のグリコペプチド感受性を判定することができる。
【0008】しかし、細胞壁合成活性は、アイソトープでラベルしたN-acetyl-glucosamineなどの取り込みを経時的に測定したり、あるいは、透過電子顕微鏡で細胞壁の厚さを測定するなどが必要となり、経費、施設、設備、熟練した技術者または研究者を必要とする。しかも、この方法では、日常の臨床検体の検査などで、多くの菌株を短時間の内に検査することが要求されている条件にはそぐわない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、設備、経費、労働力、専門的手技などを必要とせず、短時間に微生物の生理活性を検出する方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者は、細胞壁成分の前駆栄養素を多く含む培地を用い、さらに、その培地内での微生物の増殖を制限することにより、増殖による栄養素の消耗を防ぎ、その微生物の持つ細胞壁合成能力を反映した細胞壁を合成させ、それを検出する方法を見出した。さらに、この培地を用いて、細胞壁を合成させながら、あるいは、させた後、抗微生物薬を加えた培養液で菌を増殖させ、抗微生物薬に対する菌の感受性を測定する方法を見出した。
【0011】即ち、第一の本発明は微生物の細胞増殖を起こさない培養条件下で細胞壁の合成を行わせ、微生物の細胞壁合成能の度合いを測定することにより微生物の生理活性を検出する方法である。第二の本発明は、細胞壁の合成を助ける栄養素を特に多く含み、かつ、抗微生物薬を含んだ培地に黄色ブドウ球菌を接種し、その細胞増殖を観察することにより行う抗微生物薬感受性検査法である。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明における微生物とは、細胞壁を有する細菌、真菌などを含む。例えば、グラム陽性菌が例示でき、代表的には黄色ブドウ球菌を挙げることができる。
【0013】細胞増殖を起こさない培養条件とは、細胞増殖をおこし得る培地に、細胞増殖を妨げる抗菌薬や化学物質を加えて用いることや、細胞の分裂に必要な必須アミノ酸を実質的に含まない培地を用いることを含む。
【0014】必須アミノ酸は黄色ブドウ球菌の場合は菌株によっても異なるが、arginine、valineは、ほとんどの場合必須アミノ酸である。さらに、leucine、cysteine、prolineなども必須である場合が多い。これらのうち一つ以上のアミノ酸を含まない培地を用いれば、黄色ブドウ球菌の増殖は起きない。ただし、他の菌種、他の菌株の場合、これ以外のアミノ酸を欠失していても目的にかなう場合がある。それらのアミノ酸は、例えば、alanine、aspratic acid、histidine、isoleucine、 methionine、phenylalanine、serine、threonine、tryptophan、tyrosineなどであり得る。必須アミノ酸であるか否かは、例えば、そのアミノ酸を含有する培地と欠失した培地で対象とする菌種、菌株を培養し、その増殖の程度を調べることにより容易に判定することができる。
【0015】ただし、このような必須アミノ酸でも、細胞壁合成に必要なものは培地に含まれる必要がある。細胞壁合成に必要なアミノ酸としては、下記の細胞壁合成をサポートする培地の成分として例示したものに含まれるGlycine、D-glutamic acid、DL-alanyl-DL-alanine、DL-lysine等が例示できる。細胞壁合成に必要なアミノ酸であるか否かは、そのアミノ酸を含有する培地と欠失した培地で対象とする菌種、菌株を培養し、その細胞壁の肥厚の程度を調べることにより容易に判定することができる。
【0016】必須アミノ酸を欠き、細胞増殖を起こさせず、かつ細胞壁の合成を助ける培地としては、例えば以下の組成を持った合成培地が挙げられる。
Glycine, 0.5-5 mM;D-glutamic acid, 0.5-5 mM;DL-alanyl-DL-alanine, 0.5-5 mMDL-lysine, 0.3-5 mM;MgCl2, 0.5-2 mM;MnCl2, 0.05-0.2 mM;Uracil, 0.1-0.4 mM;Nicotinamide, 0.005-0.02 mM;K2HPO4, 20-100 mM;Thiamine, 0.001-0.005 mM;Glucose 10-80 mM;【0017】市販され、一般に用いられている培地は、いずれも、すべての必須アミノ酸を含んでおり、細胞の増殖を許す。このような培地の例としては、例えば市販のLuria 培地、Mueller-Hinton 培地、Heart Infusion培地、Brain Heart Infusion培地、tryptic soy 培地などが例示できる。
【0018】細胞増殖を妨げる抗菌薬や化学物質とは、例えば抗菌薬、化学物質として、アミノ配糖体、マクロライド、テトラサイクリン、などの蛋白合成阻害作用を持ったものや、キノロン系抗菌薬などのDNA合成阻害作用を持ったものである。それらの添加量は、その菌の増殖を阻止できる最小濃度MIC (minimal inhibitory concentration)を越える濃度になるように加える。
【0019】また、本発明において、細胞壁の合成を助ける栄養素を特に多く含み、かつ、抗微生物薬を含んだ培地とは、該栄養素が、Luria 培地、Mueller-Hinton 培地、Heart Infusion培地、Brain Heart Infusion培地、tryptic soy 培地等におけるよりも多く含んでおり、グリコペプチド系で代表される抗菌薬を含む培地を意味する。なお、段落番号[0016]に示した合成培地の栄養素の一般に用いられる培地における濃度は、正確に知られていない。したがって、これらの培地に、さらにこの合成培地を加えることによって、細胞壁の合成を助ける栄養素を特に多く含んだ培地を作成できる。
【0020】本発明の検出法の対象である微生物の生理活性とは、例えば細胞壁合成活性、グリコペプチド系抗菌薬感受性である。ここでいうグリコペプチド系抗菌薬とは、D-alanyl-D-alanine binding antibiotics with a heptapeptidic structure(dalbaheptide)のことで、バンコマイシン(vancomycin)、テイコプラニン(teicoplanin)、アボパルシン(avoparcin)などを含む。
【0021】本発明の方法を実施するには、例えばバンコマイシン耐性菌の検出の場合は次のように行う。前記の細胞増殖をおこし得る培地に、細胞増殖を妨げる抗菌薬や化学物質を加えた培地、又は微生物の増殖、分裂に必要な栄養素の一部を含まず、かつ細胞壁の合成を助ける栄養素を多く含んだ微生物の生理活性検出用培地を用いて試料を培養し、細胞壁の合成を行う。このとき、温度はほぼ一定に保っておくのが好ましい。この培養中の培養液の吸光度を経時的に測定する。例えば、バンコマイシン耐性菌の場合は、菌数の変化がほとんど生じないにもかかわらず、吸光度が急激に増加する。それに比較して、バンコマイシン感受性菌の場合は吸光度の増加は緩やかである。この吸光度の経時変化からバンコマイシン感受性菌、ヘテロ耐性菌、耐性菌を区別することができる。
【0022】また、前記培地で試料を培養し、細胞壁の合成を行う際に、バンコマイシンを0.5-30mg/lの範囲内で加え、ODの上昇の有無、その上昇スピードを観察し、バンコマイシン耐性菌、ヘテロ耐性菌、感受性菌との比較を行うことも可能である。本発明者の実験では、10mg/lのバンコマイシンを加えた場合、2時間後のOD値の上昇は、4回の実験の平均とSD値は、Mu50が0.72±0.13, Mu3が0.41±0.22, H1とFDA209Pは共に、0.05以下(range0.01-0.05)であった。したがって、この方法によっても耐性、ヘテロ耐性、感受性菌を鑑別できる。
【0023】また、前記のようにして培養した菌を、バンコマイシンを含む培地に接種して、菌の増殖開始までの時間、一定時間後の菌の増殖の有無、あるいはバンコマイシンの消費量を測定することにより、菌の検出を行うことができる。例えば、バンコマイシン耐性菌及びヘテロ耐性菌は、8−18時間後には増殖しているが、感受性菌は増殖していない。また、バンコマイシン耐性菌、ヘテロ耐性菌の場合は増殖開始までの時間が短く、感受性菌の場合は長い。また、バンコマイシン耐性菌の場合は、バンコマイシンの消費が早く、感受性菌の場合は遅い。
【0024】
【実施例】以下に実施例で本発明を説明するが、本発明はこれららよって何ら限定されない。
【0025】実施例1[細胞壁の合成と吸光度の上昇との相関]細胞壁合成に必要な栄養成分を多く含み、かつ、増殖に必須なアミノ酸を欠如した培地 Cui-Hiramatsu(CH)broth、および、CHからさらにグルコースを欠如したCHglu-、CHに細胞壁合成を増強するグルタミン(glutamine)を加えた CHGn、CHglu-に細胞壁アミノ糖の前駆体である N-acetyl-glucosamineを加えた CHNAGを用いて、黄色ブドウ球菌株 Mu50を37℃2時間保温した後の細胞壁の厚さを電子顕微鏡で観察した。それぞれの培地の構成要素の濃度は、以下の通りである。
【0026】CH: Glycine, 1 mM;D-glutamic acid, 1 mM;DL-alanyl-DL-alanine, 0.5 mM;DL-lysine, 0.3 mM;MgCl2, 1mM;MnCl2, 0.1 mM;Uracil, 0.17 mM;Nicotinamide, 0.0082 mM,K2HPO4, 80 mM;Thiamin, 0.003 mM;glucose 28.8 mMGHglu-: CHからグルコース(glucose)を除去。
CHGn: CHに30 mM グルタミン(glutamine)を添加。
CHNAG: CHglu-に30 mM N-acetyl-glucosamineを添加。
【0027】図1(A, CHglu-; B,CH; C, CHNAG; D, CHGn)に示すように、CHglu-では細胞壁の厚さは31.03nm±2.30nmで最も薄く、CHNAGでは38.13nm±3.49nmで中間、CH、CHGnでは、それぞれ、53.29nm±3 .01nm、57.18 nm±3.18nmと肥厚していた。保温2時間における生菌数は、それぞれ、A, 3.95±0.87×107CFU; B, 3.65±0.92×107CFU; C, 3.87±0.34×107CFU; D, 3.26±0.46×107CFUであり、統計的に差はなかった。すなわち、この細胞増殖をサポートしない保温条件では、A-Dのそれぞれの条件間で、保温時間中の菌数の変化に差が生じないことがわかった。
【0028】この保温中に菌懸濁液の濁度を吸光度計を用いて測定した図2を示す。細胞分裂が起きていないにも関わらず、OD600nm(optical density at 600 nm;以下ODと略す)の値がCHglu-(A)以外の培地では上昇することが観察された。この上昇の度合い(図2の2時間めのOD値)と図1の細胞壁の厚さは、きわめて良く相関していた(相関係数:0.928)。
【0029】実施例2[細胞壁の厚さ、吸光度の上昇、バンコマイシン低感受性との相関]実施例1で、2時間保温した菌(A-D)を、それぞれ一定数(8.5×108CFU)、10mlのバンコマイシン30 mg/l を含むbrain heart infusion (BHI)brothに接種し、37℃で培養すると、図3のように、一定時間の後、それぞれの菌が増殖を開始した(A-Dの実線が菌の増殖曲線を示す)。その時間の長さは、それぞれの菌細胞の細胞壁の厚さと逆相関していた。すなわち、細胞壁の厚さが厚いほど、バンコマイシンに対する耐性度(低感受性)の度合いが増した(すなわち、早期に増殖曲線が立ち上がる)。さらに、図3に示すように、それぞれの菌を接種して、1時間の間に、細胞壁の厚さと相関して、バンコマイシンの濃度(a-dの破線グラフ)の減少が見られた。すなわち、細胞壁が厚いほど、より多くのバンコマイシンが消費された。
【0030】実施例3[グリコペプチド感受性菌、ヘテロ耐性菌、耐性菌を、CH培地でのODの上昇で判定する実験]グリコペプチド感受性黄色ブドウ球菌株FDA09P(メチシリン感受性)とH1(メチシリン耐性)、ヘテローグリコペプチド耐性黄色ブドウ球菌株Mu3、グリコペプチド耐性黄色ブドウ球菌株Mu50(VRSA)を、CH培地の中で2時間培養すると、市販のBHI培地で培養したものに比べて、図4のように、電子顕微鏡の観察により、それぞれ、22.78nm±1.88nm から 23.97nm±3.61nm へ(FDA209P)、25.99nm±2.29nm から 29.09nm±3.26nm (H1)、26.17nm±2.17 nm から 38.44nm±1.65nm (Mu3)、31.88nm±1.56nm から 53.29nm±3.01 nm (Mu50)へと細胞壁の厚さが増加した。しかし、細胞壁の肥厚の増加の割合は、Mu50>Mu3>H1>FDA209の順で、それぞれの菌株ごとにこの増加の割合は、統計的に有意な差が見られた (P < 0.001)。
【0031】これらの菌株をCH培地で保温中のOD値の上昇を図5に示す。その上昇度は、明らかに、Mu50>Mu3>H1>FDA209Pの順となり、細胞壁の厚さの増加と2時間目のODの値は、良く相関した (相関係数:0.998)。
【0032】実施例4実施例3のように、CH培地で保温した菌を、30 mg/lのバンコマイシンを含むBHI brothに接種して、それぞれのバンコマイシン耐性度を比較すると、図6に示すように、それぞれの菌の増殖開始までの時間の逆数と細胞壁の厚さ、及び、それぞれの菌の増殖開始までの時間の逆数と図5における2時間後のOD値の上昇は、共に良く相関した(相関係数:それぞれ0.923と0.956)。
【0033】実施例5BHI培地にCH培地の構成栄養素のそれぞれを、最終濃度がCH培地と同様になるように加え、バンコマイシンを30 mg/Lになるように加えて、細胞壁合成のための栄養素を多く含んだ培地BHI-CHを作成した。BHI-CHと、BHI培地とに、それぞれ、BHI培地で一晩培養した菌株、Mu50, Mu3, H1,FDA09Pを、それぞれ1×106CFU接種した。図7に示すように、BHI-CHの場合(B)は、BHIの場合(A)と比較して、すべての菌株がより早期に増殖開始した。しかし、Mu3の増殖開始までの時間は、BHIの場合と比較し、BHI-CHにおいては、他の菌株と比較して、より大きく短縮した。そのため、バンコマイシン感受性菌株H1との鑑別が容易となった。すなわち、18〜30時間の間に菌の増殖の有無を判定することにより、ヘテロ耐性菌と感受性菌の区別を行うことができる。
【0034】
【発明の効果】本発明の方法は、細胞壁合成の強弱が関係するすべての微生物の生理活性の研究、検査に有用であるだけでなく、細胞壁の合成阻害を作用機序とする抗微生物薬剤への細胞の感受性に関する情報を得ることができる。さらにこの検査法は、グリコペプチド低感受性の黄色ブドウ球菌の簡易的、迅速検出に有用な検査法である。とくに、これらの方法により、ヘテロVRSAを含むバンコマイシン低感受性菌の検出が可能となった。
【0035】
【文献】1. Hiramatsu, K., H. Hanaki, T. Ino, K. Yabuta, T. Oguri, and F. C.Tenover. 1997. Methicillin-resistant Staphylococcus aureus clinical strainwith reduced vancomycin susceptibility. Journal of Antimicrobial Chemotherapy. 40:135-136.2. Hiramatsu, K. 1998. The emergence of Staphylococcus aureus with reduced susceptibility to vancomycin in Japan. American Journal of Medicine.104(5A):7S-10S.3. Hanaki, H., K. Kuwahara-Arai, S. Boyle-Vavra, R. S. Daum, H.Labischinski, and K. Hiramatsu. 1998. Activated cell-wall synthesis is associatedwith vancomycin resistance in methicillin-resistant Staphylococcus aureus clinical strains Mu3 and Mu50. Journal of Antimicrobial Chemotherapy.42:199-209.4. Hanaki, H., H. Labischinski, Y. Inaba, N. Kondo, H. Murakami, and K.Hiramatsu. 1998. Increase in glutamine-non-amidated muropeptides in the peptidoglycan of vancomycin-resistant Staphylococcus aureus strain Mu50.Journal of Antimicrobial Cheomotherapy. 42:315-320.5. Hiramatsu, K. 1998. Vancomycin resistance in staphylococci. Drug Resistance Updates. 1:135-150.【0036】6. Hiramatsu, K., and H. Hanaki. 1998. Glycopeptide resistance in staphylococci. Current Opinion in Infectious Diseases. 11:653-658.7. Hiramatsu, K., T. Ito, and H. Hanaki. 1999. Evolution of methicillinand glycopeptide resistance in Staphylococcus aureus., p. 221-242. InR. G. Finch, and Williams, R. J., (ed.), Bailliereユs Clinical Infectious Disease, vol. 5. Bailliere Tindall, London.8. Tenover, F. C., M. V. Lancaster, B. C. Hill, C. D. Steward, S. A.Stocker, G. A. Hancock, C. M. O'Hara, N. C. Clark, and K. Hiramatsu. 1998. Characterization of staphylococci with reduced susceptibility to vancomycin and other glycopeptides. Journal of Clinical Microbiology. 36:1020-1027.9. Hiramatsu, K., N. Aritaka, H. Hanaki, S. Kawasaki, Y. Hosoda, S. Hori, Y. Fukuchi, and I. Kobayashi. 1997. Dissemination in Japanese hospitals of strains of Staphylococcus aureus heterogeneously resistant to vancomycin. Lancet. 350:1668-1671.10. Hanaki, H., and K. Hiramatsu. 1998. A novel method of detecting Staphylococcus aureus heterogeneously resistant to vancomycin (hetero-VRSA).Japanese Journal of Antibiotics. 51:521-530 (in Japanese).
【出願人】 【識別番号】592124894
【氏名又は名称】平松 啓一
【出願日】 平成12年4月3日(2000.4.3)
【代理人】 【識別番号】100098556
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 紘造
【公開番号】 特開2001−275696(P2001−275696A)
【公開日】 平成13年10月9日(2001.10.9)
【出願番号】 特願2000−100315(P2000−100315)