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【発明の名称】 塩化水素と水の分離回収方法
【発明者】 【氏名】鈴田 哲也
【氏名】岩永 清司
【課題】共沸混合物を形成するため、その成分の分離回収が困難である塩化水素水溶液を対象とし、第三成分を添加することなく、かつ効率的に塩化水素と水を分離回収する方法を提供する。

【解決手段】塩化水素水溶液から塩化水素及び水を各々分離回収する方法であって、下記の工程を含む塩化水素と水の分離回収方法。塩化水素回収工程:下記脱水工程の圧力より高い圧力の下、該圧力における塩化水素と水の共沸組成よりも塩化水素に富む組成の塩化水素水溶液を蒸留に付し、蒸留塔の頂部から塩化水素を回収し、蒸留塔の底部の液の一部又は全部を下記脱水工程へ供給する工程脱水工程:上記塩化水素回収工程の圧力より低い圧力の下、該圧力における塩化水素と水の共沸組成よりも水に富む組成の塩化水素水溶液を蒸留に付し、蒸留塔の頂部から水を回収し、蒸留塔の底部の液の一部又は全部を上記塩化水素回収工程へ供給する工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】 塩化水素水溶液から塩化水素及び水を各々分離回収する方法であって、下記の工程を含む塩化水素と水の分離回収方法。
塩化水素回収工程:下記脱水工程の圧力より高い圧力の下、該圧力における塩化水素と水の共沸組成よりも塩化水素に富む組成の塩化水素水溶液を蒸留に付し、蒸留塔の頂部から塩化水素を回収し、蒸留塔の底部の液の一部又は全部を下記脱水工程へ供給する工程脱水工程:上記塩化水素回収工程の圧力より低い圧力の下、該圧力における塩化水素と水の共沸組成よりも水に富む組成の塩化水素水溶液を蒸留に付し、蒸留塔の頂部から水を回収し、蒸留塔の底部の液の一部又は全部を上記塩化水素回収工程へ供給する工程【請求項2】 請求項1記載の分離回収に付す原料としての塩化水素水溶液が、塩化水素を酸素酸化することにより塩素と水に変換した反応混合物中の未反応塩化水素及び反応生成水の全部又は一部を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】 請求項1記載の分離回収に付す原料としての塩化水素水溶液が、塩化水素を酸素酸化することにより塩素と水に変換した反応混合物中の未反応塩化水素及び反応生成水の全部又は一部を含み、かつ請求項1記載の塩化水素回収工程で得られた塩化水素が酸素酸化により塩素と水に変換される請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塩化水素水溶液から塩化水素と水を、各々分離回収方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、共沸混合物を形成するため、その構成成分への分離回収が困難である塩化水素水溶液を対象とし、第三成分を添加することなく、かつ効率的に、塩化水素と水を分離回収する方法に関するものである。
【0002】
【従来の方法】塩化水素水溶液は共沸混合物を形成するため、単純な蒸留のみではその構成成分である塩化水素と水に分離回収することが困難である。かかる塩化水素水溶液から塩化水素と水を分離回収す方法としては、塩化水素水溶液に硫酸、塩化カルシウム等の強電解質を第三成分として添加し、共沸状態を変化させて蒸留する方法が知られている。具体的な手順としては、第一段階として強電解質を添加することにより溶液中の水の活量を低下させた状態で溶液を蒸留し塩化水素を主成分とするガスを放散させ回収する(塩化水素回収工程)。第二段階として第一段階で残った強電解質水溶液を蒸留し水を留去する(脱水工程)。濃縮された強電解質水溶液は塩化水素回収工程での添加剤として再利用できる。しかしながらこの方法によると、第三成分を添加・使用しなければならないこと、及び装置材料として高価なものが必要になるといった問題がある。たとえば第三成分として硫酸を添加する場合、塩化水素化回収工程に添加する硫酸の濃度は共沸状態を変化させる十分な効果を得、かつ脱水工程で濃縮した硫酸を塩化水素回収工程に戻す際にその流量が過大にならないようにする点から少なくとも80重量%以上にすることが望ましいが、このような濃度の硫酸を添加すると塩化水素回収工程の蒸留は塩化水素と水と硫酸が共存する状態となり、液の沸点も上昇するため、塩化水素水溶液の蒸留によく用いられる樹脂含浸カーボンのような安価な材料の使用は困難である。脱水工程は大気圧下では操作温度が200℃以上の高温になるため、一般に減圧下で行われるが、一方、操作圧力を下げ過ぎると蒸発した水を凝縮させることが困難になるため、脱水工程の操作温度を下げることには限界がある。このようなことから脱水工程の装置には通常はタンタル等の高価な耐食性材料の使用が必要になる。また第三成分として塩化カルシウムを添加する場合には脱水工程で固体の析出によるスケーリングが生じる場合がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】かかる状況の下、本発明が解決しようとする課題は、共沸混合物を構成するため、その成分の分離回収が困難である塩化水素水溶液を対象とし、第三成分を添加することなく、効率的に塩化水素と水を分離回収する方法を提供する点に存する。
【0004】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、塩化水素水溶液から塩化水素及び水を各々分離回収する方法であって、下記の工程を含む塩化水素と水の分離回収方法に係るものである。
塩化水素回収工程:下記脱水工程の圧力より高い圧力の下、該圧力における塩化水素と水の共沸組成よりも塩化水素に富む組成の塩化水素水溶液を蒸留に付し、蒸留塔の頂部から塩化水素を回収し、蒸留塔の底部の液の一部又は全部を下記脱水工程へ供給する工程脱水工程:上記塩化水素回収工程の圧力より低い圧力の下、該圧力における塩化水素と水の共沸組成よりも水に富む組成の塩化水素水溶液を蒸留に付し、蒸留塔の頂部から水を回収し、蒸留塔の底部の液の一部又は全部を上記塩化水素回収工程へ供給する工程【0005】
【発明の実施の形態】本発明の塩化水素回収工程は、下記脱水工程の圧力より高い圧力の下、該圧力における塩化水素と水の共沸組成よりも塩化水素に富む組成の塩化水素水溶液を蒸留に付し、蒸留塔の頂部から塩化水素を回収し、蒸留塔の底部の液の一部又は全部を下記脱水工程へ供給する工程である。
【0006】塩化水素回収工程の操作圧力(蒸留塔の塔頂圧力を指す。以下、同じ。)は脱水工程の操作圧力より高く設定し、通常1〜5barである。操作温度(蒸留塔の塔底温度を指す。以下、同じ。)は、操作圧力と蒸留に付す塩化水素水溶液の組成により決まるが、通常100〜160℃である。蒸留塔の形式については、特に制限はなく、充填塔、棚段塔を例示することができる。蒸留塔及び再沸器等の付帯機器の装置材料については操作条件下での塩化水素水溶液に対し耐食性を有するものであればよく、樹脂含浸カーボン、フッ化エチレン系樹脂、フッ化エチレン系樹脂で内部をライニングあるいはコーティングした金属等を例示することができる。
【0007】塩化水素回収工程においては、操作圧力における塩化水素と水の共沸組成よりも塩化水素に富む組成の塩化水素水溶液が蒸留に付される。一定圧力下における塩化水素と水の気液平衡関係を図1及び図2に示した。塩化水素回収工程に付される液の塩化水素と水の組成は、通常、塩化水素25〜40重量%、水60〜75重量%である。塔頂からは高濃度の塩化水素を主成分とするガスが抜き出されるが、若干の水を含んでおり、塔頂ガスを冷却し凝縮した塩化水素水溶液を蒸留塔に戻す分縮操作を加えると、ガス中の水分を更に低減できる。
【0008】本発明の脱水工程は、塩化水素回収工程よりも低い圧力の下、該圧力における塩化水素と水の共沸組成よりも水に富む塩化水素水溶液を蒸留に付し、蒸留塔の頂部から水を回収し、蒸留塔の底部の液を下記脱水工程へ供給する工程である。
【0009】脱水工程の操作圧力は塩化水素回収工程の操作圧力より低く設定し、通常0.05〜0.5barである。操作温度は、操作圧力と蒸留に付す塩化水素水溶液の組成により決まるが、通常50〜90℃である。この温度は硫酸等の強電解質を第三成分として添加する場合の脱水工程の操作温度より低いため、使用する加熱源をより広い範囲から選択することができ、また機器の装置材料についても選択範囲が広くグラスライニング等比較的安価なものが使用できる。蒸留塔形式については特に制限はなく、充填塔、棚段塔等を例示できるが、塔頂側に水を効率的に濃縮できるよう、原料供給段より上方に濃縮部を設け、塔頂からのガスを全量凝縮させて凝縮液の一部を塔頂に戻す方式が望ましい。脱水工程に付される液の塩化水素と水の組成は、通常、塩化水素15〜21重量%、水79〜85重量%である。図1に示したように、塩化水素と水の共沸組成よりも水の濃度が大きい側では水の塩化水素に対する比揮発度が大きく、塔頂から容易に高濃度の水を分離回収することができる。塩化水素回収工程の操作温度は脱水工程の操作温度より高いので、塩化水素回収工程の蒸留塔底部から抜き出した液はその顕熱を脱水工程での水の蒸発に有効に利用できるが、原料及び/又は脱水工程から塩化水素回収工程の蒸留塔への供給液と熱交換した後脱水工程に供給して操作温度の高い塩化水素回収塔の外部からの所要加熱量を低減することもできる。
【0010】本発明の分離回収に付す原料としての塩化水素水溶液の組成は、特に制限はないが、通常15〜40重量%であり、その組成が脱水工程の操作圧力における塩化水素と水の共沸組成より塩化水素に富む場合は塩化水素回収工程に、塩化水素回収工程の操作圧力における塩化水素と水の共沸組成より水に富む場合は脱水工程に供給する。原料塩化水素水溶液組成が塩化水素脱水工程における共沸組成より塩化水素に富み、かつ脱水工程における共沸組成よりは水に富む場合はいずれの工程に供給してもよい。
【0011】本発明の分離回収に付す原料としての塩化水素水溶液の由来は、特に制限はないが、塩化水素を酸素酸化することにより塩素と水に変換した反応混合物中の未反応塩化水素及び反応生成水の全部又は一部を含む塩化水素水溶液をあげることができ、更に塩化水素回収工程で得られた塩化水素を酸素酸化により塩素と水に変換してもよい。図3に、塩化水素を酸素酸化することにより塩素を製造する方法に本発明を適用したプロセスのフローの例を示した。このフローに示したように塩化水素回収工程の蒸留塔の塔底から得られた液の一部を、塩化水素酸化工程で得られた反応混合物中の未反応塩化水素及び反応生成水を分離回収する塩化水素吸収工程の吸収剤として用いることもできる。塩化水素と酸素から塩素と水を生成する反応において工業的に十分な反応速度が得られる温度の下では化学平衡の制約上から塩化水素を完全に転化することは困難である。従って塩化水素の酸化により塩素を製造する方法においては反応生成水をいかに未反応塩化水素と分離して系外に取り出すかが重要な課題となるが、本発明を適用すれば反応生成水を塩化水素を同伴ロスさせることなく効率的に系外に取り出すことが可能である。また塩化水素回収工程の操作圧力を塩化水素酸化工程の圧力より高く設定し、塩化水素吸収工程で得られた塩化水素水溶液をポンプ等を用いて塩化水素回収工程に供給する方式をとることにより、塩化水素回収工程で得られた回収塩化水素ガスを、液のポンプに比べて高価な圧縮機を用いることなく容易に塩化水素酸化工程に供給することができる。
【0012】
【実施例】本発明を具体例をあげて説明する。第一段階として、塔底に再沸器を、塔頂に分縮器を持ち、再沸器、分縮器を除いて10理論段を有する第一蒸留塔の塔頂に、操作圧力2.5barの下で塩化水素35重量%、水65重量%からなる25℃の塩化水素水溶液を毎時100.0gの速度で連続的に供給する。塔頂から出たガスは分縮器で25℃まで冷却し、凝縮液は塔頂に戻し、未凝縮のガスは保圧弁を経て系外に抜き出す。また塔底からは液面が一定となるように液を抜き出す。再沸器での加熱量を増加させていくと塔底液の塩化水素濃度が塔底圧力下での塩化水素と水の共沸組成に向かって減少していくが、塔底からの抜き出し液中の塩化水素濃度が19重量%になるよう再沸器での加熱量を調節し、この状態で運転を安定化させると、分縮器から塩化水素99.94重量%、水0.06重量%からなる温度25℃の未凝縮ガスが毎時19.8g得られ、塔底から塩化水素19重量%、水81重量%から成る塩化水素水溶液が毎時80.2g得られる。かくして塩化水素回収工程の運転が確立される。
【0013】第二段階として、塔底に再沸器を、塔頂に凝縮器を持ち、再沸器、凝縮器を除いて10理論段を有する第二蒸留塔の上から4理論段と5理論段の間に相当する位置に、操作圧力0.1barの下で第一蒸留塔の塔底から得られた塩化水素水溶液を50℃まで冷却した液を毎時80.2gの速度で連続的に供給する。塔頂から出たガスは凝縮器にて全量凝縮させ、塔に戻る還流液と系外に抜き出す留出液に分配する。第一蒸留塔からの供給液は第二蒸留塔の操作圧力下での塩化水素と水の共沸組成より水に富んだ組成になっており、塔頂に向かって水が濃縮され、再沸器での加熱量を増加させていくと塔底の塩化水素濃度が塔底圧力での共沸組成に向かって上昇していくが、塔底からの抜き出し液中の塩化水素濃度が22重量%となるように再沸器での加熱量を調節し、かつ塔頂の凝縮器から得られた液の還流比を0.3に保って運転を安定化させると、塔頂より水が毎時10.9g得られ、塔底からは塩化水素22重量%、水78重量%からなる塩化水素水溶液が毎時69.3g得られる。かくして脱水工程の運転が確立される。
【0014】第三段階として、第一蒸留塔に既に供給している毎時100.0gの塩化水素水溶液に加え、第二蒸留塔の塔底から抜き出した塩化水素水溶液をポンプで昇圧して第一蒸留塔の塔頂に合わせて供給する。第一蒸留塔の運転状態は未凝縮ガス温度及び塔底からの抜き出し液の塩化水素濃度をそれぞれ25℃、19重量%に保つよう分縮器での冷却や再沸器での加熱を調節する。第一蒸留塔塔底から出た液はこれまでと同様50℃まで冷却した後に第二蒸留塔の上から4段目と5段目の間に供給し、塔底からの抜き出し液の塩化水素濃度を22重量%に保つよう再沸器での加熱を調節し、かつ塔頂の凝縮器から得られる液の還流比を0.3に保つ。運転を継続し、塩化水素回収工程、脱水工程共に定常状態に達すると、第一蒸留塔の分縮器からは塩化水素99.94重量%、水0.06重量%から成る未凝縮ガスが35.0g、第二蒸留塔の塔頂からは水が毎時65.0gが得られる。かくして塩化水素回収工程と脱水工程をつないだ運転が確立される。このとき塩化水素回収工程と脱水工程を合わてみると、外部から塩化水素35重量%、水65重量%から成る塩化水素水溶液が毎時100.0g供給され、これが主に塩化水素から成るガス35.0gと水65.0gに分離されて系外に抜き出されていることになる。
【0015】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明により、共沸混合物を形成するため、その成分の分離回収が困難である塩化水素水溶液を対象とし、第三成分を添加することなく、かつ効率的に塩化水素と水を分離回収する方法を提供することができた。
【出願人】 【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学工業株式会社
【出願日】 平成11年11月10日(1999.11.10)
【代理人】 【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆 (外2名)
【公開番号】 特開2001−139305(P2001−139305A)
【公開日】 平成13年5月22日(2001.5.22)
【出願番号】 特願平11−319507