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【発明の名称】 電動車両の制動装置
【発明者】 【氏名】山下 裕辞

【要約】 【課題】ブレーキシステムの油圧ラインに液漏れが発生した場合は勿論のこと、ブレーキペダルとブレーキマスタシリンダとの間のロッドが破損し、或いはブレーキマスタシリンダ自体の故障によりブレーキ油圧が正常圧まで上昇しない場合であっても、通常のブレーキ操作と同等の感覚で車両を停止させることができるようにする。

【解決手段】ブレーキ操作時のブレーキストローク量Bstに基づきマスタシリンダ油圧Poを設定し(S3)、マスタシリンダ油圧Poと実際に発生したブレーキ油圧P1,P2との差圧(|Po−P1|,|Po−P2|)が誤差範囲Psに収まっているか否かを判定し(S4)、収まっていないときは、ブレーキシステムの故障と判断し、ブレーキストローク量Bstと駆動モータの回転数NBとに基づき駆動モータBの回生量を設定し(S8)、駆動モータの回生制動力により車両を停止させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】ブレーキ操作量と、該ブレーキ操作量により発生したブレーキ油圧とに基づきブレーキシステムの故障を判定し、故障と判定した場合は上記ブレーキ操作量に応じた回生制動力を駆動モータにて発生させることを特徴とする電動車両の制動装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ブレーキシステムが故障した場合は、ブレーキ操作量に応じた回生制動力を発生させることで、制動力の不足分を補うようにした電動車両の制動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、電動車両としては、駆動モータのみから駆動力を得る電気自動車の他に、環境保護の観点に加えて燃料の簡易供給と走行距離の長距離化の観点から、運転条件に応じて駆動モータとエンジンとの一方、或いは双方から駆動力を得るハイブリッド車が実用化されている。
【0003】この種の電動車両では、エンジンブレーキ時やフットブレーキによる制動時には、通常の油圧式ブレーキによる機械的制動力と、駆動モータを発電機として動作させることで運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生制動力との合力にて減速させる回生協調ブレーキシステムを採用してるものが多い。
【0004】このような、回生協調ブレーキシステムでは、運転者がブレーキペダルを踏み込んだときに発生するマスターシリンダ油圧と、ブレーキペダルのストローク量とから運転者の要求する減速度を求め、駆動モータによる回生制動が最大限活用できるように制御することで、燃費の向上を図っている。
【0005】この場合、本来のブレーキシステムの油圧系が故障した場合には、駆動モータによる回生制動力のみにより車両を停止させる必要がある。
【0006】例えば、特開平8−98312号公報には、ブレーキマスタシリンダ油圧とブレーキホイールシリンダ油圧との間の差圧からブレーキシステムの油圧系の故障を判断し、故障の場合は、駆動モータの回生制動力を増大させて、制動力の不足分を補う技術が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記先行技術に開示されている技術では、ブレーキシステムの油圧系の故障を、ブレーキマスタシリンダ油圧とブレーキホイールシリンダ油圧との差圧に基づいて検出しているため、例えばブレーキペダルとブレーキマスタシリンダとの間を連設するロッドが破損し、或いはブレーキマスタシリンダ自体の故障によりブレーキ油圧が正常圧まで上昇しない場合には、故障を検出することができないという課題がある。
【0008】本発明は、上記事情に鑑み、ブレーキシステムの油圧系が故障した場合は勿論のこと、ブレーキペダルとブレーキマスタシリンダとの間を連設するロッドが破損し、或いはブレーキマスタシリンダ自体の故障をも検出して、適正な回生制動を行うことの可能な電動車両の制動装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため本発明による電動車両の制動装置は、ブレーキ操作量と、該ブレーキ操作量により発生したブレーキ油圧とに基づきブレーキシステムの故障を判定し、故障と判定した場合は上記ブレーキ操作量に応じた回生制動力を駆動モータにて発生させることを特徴とする。
【0010】このような構成では、ブレーキ操作量と、それによって発生するブレーキ油圧とに基づきブレーキシステムが故障か否かを判定し、故障と判定した場合は、ブレーキ操作量に応じた回生制動力を駆動モータにて発生させて、ブレーキシステム故障による制動力の不足分を補う。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づいて本発明の一実施の形態を説明する。ここで、図1は本実施の形態で採用するハイブリッド車の制御システムの構成図、図2は電子制御ブレーキシステムの全体構成図である。
【0012】本実施の形態では、電動車両の一例としてハイブリッド車を示す。このハイブリッド車は、走行駆動源としてエンジンとモータとを併用する車両であり、エンジン1と、エンジン1の起動及び発電・動力アシストを担う発電用モータAと、エンジン1の出力軸1aに、発電用モータAを介して連結されるプラネタリギヤユニット3と、このプラネタリギヤユニット3の機能を制御し、発進・後進時の駆動力源になるとともに減速エネルギーの回収を担う駆動モータBと、変速及びトルク増幅を行なって走行時の動力変換機能を担うベルト式無段変速機(CVT)4とを基本構成とする駆動系を備えている。
【0013】詳細には、プラネタリギヤユニット3は、サンギヤ3a、このサンギヤ3aに噛合するピニオン3dを回転自在に支持するキャリア3b、ピニオン3dと噛合するリングギヤ3cを有するシングルピニオン式のプラネタリギヤであり、サンギヤ3aとリングギヤ3cとを結合・開放するためのロックアップクラッチ2が併設されている。
【0014】又、CVT4は、入力軸4aに軸支されるプライマリプーリ4bと、出力軸4cに軸支されるセカンダリプーリ4dと、この両者間に巻装される駆動ベルト4eとで構成されている。
【0015】すなわち、本実施の形態におけるハイブリッド車の駆動系では、サンギヤ3aとリングギヤ3cとの間にロックアップクラッチ2を介装したプラネタリギヤユニット3がエンジン1の出力軸1aとCVT4の入力軸4aとの間に配置されており、プラネタリギヤユニット3のサンギヤ3aがエンジン1の出力軸1aに発電用モータAを介して結合されると共にキャリア3bがCVT4の入力軸4aに結合され、リングギヤ3cに駆動モータBが連結されている。そして、CVT4の出力軸4cに減速歯車列5を介してデファレンシャル機構6が連設され、このデファレンシャル機構6に駆動軸7を介して前輪或いは後輪の駆動輪8が連設されている。
【0016】ロックアップクラッチ2は、走行条件に応じてプラネタリギヤユニット3のサンギヤ3aとリングギヤ3cとを結合、解放するもので、結合された状態では、プラネタリギヤユニット3が一体回転し、間に2つのモータA,Bが配置された、エンジン1からCVT4に至るエンジン直結の駆動軸が構成される。
【0017】以上の駆動系は、ハイブリッドECU(HEV_ECU)15によって集中制御され、このHEV_ECU15はマイクロコンピュータと、マイクロコンピュータによって制御される機能回路とで構成されている。
【0018】このHEV_ECU15は、運転者の運転操作状況を検出するセンサ・スイッチ類が接続されており、この各センサ・スイッチ類からの信号に基づいて必要な車両駆動トルクを演算して駆動系のトルク配分等を決定し、駆動系に対して制御指令を送信する。
【0019】すなわち、HEV_ECU15では、発電用モータAの定回転数制御、駆動モータBの定トルク制御及び回生制御、エンジン1のトルク制御、ロックアップクラッチ2の結合・開放、CVT4へ供給するライン圧の制御及びCVT4の変速比制御等を集中的に行う。
【0020】又、本実施の形態で採用するハイブリッド車には、電子制御ブレーキシステム(EBS)20が搭載されている。
【0021】この電子制御ブレーキシステム(EBS)20は、運転者のブレーキペダル23の操作量(ストローク量)に応じ、駆動モータBの回生制動との協調によるブレーキ油圧を電子的に制御するもので、図2に示すように、独立した2系統のブレーキラインBL1,BL2を備え、この各ブレーキラインBL1,BL2の上流が静圧ラインL1,L2と動圧ラインL3,L4とに分岐されている。
【0022】尚、以下の説明では、ブレーキラインBL1側のラインBL1,L1,L3をBL1ライン系、ブレーキラインBL2側のラインBL2,L2,L4をBL2ライン系と総称する。
【0023】又、ブレーキラインBL1の下流が前右輪FRと後左輪RLとに設けられているホイールシリンダ22に接続され、又、ブレーキラインBL2の下流が前左輪FLと後右輪RRとに設けられているホイールシリンダ22に接続されている。
【0024】又、各静圧ラインL1,L2の上流がタンデム型ブレーキマスタシリンダ21にそれぞれ独立に接続されており、このブレーキマスタシリンダ21にはブレーキペダル23が連設されていると共に、シリンダと圧縮ばねとで構成されているストロークシミュレータ24が接続されている。
【0025】尚、このブレーキペダル23に、ブレーキ操作量(ブレーキストローク量)を検出するブレーキストローク量検出センサ11が連設されている。
【0026】又、各静圧ラインL1,L2の上流側に、ブレーキマスタシリンダ21からの油圧を検出する第1、第2の油圧センサPS1,PS2が連通されており、その直下流に、静圧ラインL1,L2を連通/遮断するスイッチングバルブSV1,SV2が介装されている。一方、ブレーキラインBL1,BL2の下流に、各ホイールシリンダ22に供給されるブレーキ油圧を検出する第3、第4の油圧センサPS3,PS4が連通されている。
【0027】又、各動圧ラインL3,L4の上流が、合流された状態で調圧部25に接続されており、更に、この各動圧ラインL3,L4の上流側にスイッチングバルブSV3,SV4が介装されている。
【0028】尚、通常は、スイッチングバルブSV1,SV2は遮断状態にあり、又、スイッチングバルブSV3,SV4は開放状態にある。従って、各ホイールシリンダ22の動作は、調圧部25から供給されるブレーキ油圧によって制御される。
【0029】調圧部25は、各動圧ラインL3,L4へ供給するブレーキ油圧を調圧するもので、このブレーキ油圧は、各油圧センサPS1,PS2で検出したブレーキマスタシリンダ21からの油圧に基づきブレーキ油圧目標値を設定する。
【0030】又、調圧部25にはアキュムレータ26に畜圧されている高圧の油圧が供給される。このアキュムレータ26の圧力は圧力センサPS5により検出されており、この圧力が所定値以下になると電動ポンプ27を駆動させて、リザーバ28に貯留されているブレーキ液をアキュムレータ26に、所定圧力に達するまで供給する。
【0031】調圧部25におけるブレーキ油圧制御、電動ポンプ27のON/OFF、ブレーキライン系の液漏れ故障検出等、EBS制御に係わる各種処理は、EBS_ECU16で行われる。
【0032】例えば、スイッチングバルブSV1,SV2下流のブレーキラインの何れかに液漏れが発生した場合、調圧部25に2系統のラインが接続されているため、調圧部25にて圧力を上昇させようとしても、両油圧センサPS3,PS4の圧力が上昇しないため、EBS_ECU16では、液漏れ発生と判定し、スイッチングバルブSV3,SV4を遮断し、スイッチングバルブSV1,SV2を開放させて、人力ブレーキを可能とし、ノーブレーキ状態を回避する。
【0033】一方、HEV_ECU15では、ブレーキストローク量検出センサ11で検出したブレーキペダル23の操作量であるストローク量Bst、及びEBS_ECU16から入力される第1、第2の油圧センサPS1,PS2で検出したブレーキマスタシリンダ21の実際のブレーキ油圧P1,P2を読込み、ブレーキシステムが故障しているか否かを判定する。
【0034】上述したように、2系統のブレーキラインの一方に液漏れが発生したために、人力ブレーキに切換えた場合、ブレーキマスタシリンダ21に接続するブレーキラインの一方は液漏れしているために、液漏れしている側の油圧センサPS1或いはPS2では圧力が上昇しなくなる。
【0035】一方、スイッチングバルブSV1,SV2下流のブレーキラインに液漏れが発生していない場合であっても、ブレーキペダル23とブレーキマスタシリンダ21との間を連設するロッドが破損し、或いはブレーキマスタシリンダ21自体が故障した場合、油圧センサPS1,PS2で、ブレーキペダル23のストローク量に応じたブレーキマスタシリンダ21から、本来得ることのできる油圧を検出することができなくなる。
【0036】このようにブレーキシステムが故障した場合、HEV_ECU15では、駆動モータBの回生量を増大させて、制動力の不足分を補う制御を行う。
【0037】この駆動モータBの回生制御は、具体的には、図3に示す回生制動量設定ルーチンに従って処理される。尚、このフローチャートは、ブレーキペダル23の踏込みにより、図示しないブレーキスイッチがONした後、10msec毎に実行され、ブレーキスイッチがOFFしたとき終了する。
【0038】先ず、ステップS1でブレーキストローク量検出センサ11で検出したブレーキストローク量Bstを読込み、ステップS2で、第1、第2の油圧センサPS1,PS2で検出した実際のブレーキ油圧P1,P2を読込む。
【0039】そして、ステップS3へ進み、ブレーキストローク量Bstに基づき、図4に示す故障判定用テーブルを補完計算付きで参照して、正常時に発生するマスタシリンダ油圧Poを設定する。
【0040】そして、ステップS4ヘ進み、実際のブレーキ油圧P1,P2と正常時に発生するマスタシリンダ油圧Poとの差圧(|Po−P1|,|Po−P2|)が誤差範囲Psに収まっているか否かを判定し、両ブレーキ油圧P1,P2が誤差範囲Psに収まっている場合は(|Po−P1|≦Ps,|Po−P2|≦Ps)、ブレーキシステムは正常であると判定し、ステップS5へ分岐して、通常の回生協調ブレーキシステムによる減速処理を実行して、ルーチンを抜ける。
【0041】一方、差圧(|Po−P1|,|Po−P2|)が誤差範囲Psを越えている場合は(|Po−P1|>Ps,|Po−P2|>Ps)、ブレーキシステムの故障と判断し、ステップS6へ進み、ブレーキ故障ランプ(図示せず)を点灯させて運転者に故障を知らせ、続くステップS7で、駆動モータBの回転数(モータB回転数)NBを読込み、ステップS8で、ブレーキストローク量BstとモータB回転数NBとに基づき、図5に示す回生量設定マップを参照して、通常の油圧式ブレーキによる制動力と同等の回生量(N・m)を設定する。
【0042】そして、ステップS9へ進み、この回生量に見合ったモータB回転数NBを算出し、対応する回転数指令を、駆動モータBへ出力して、ルーチンを抜ける。
【0043】その結果、制動時においては、モータB回転数NBが、10msec毎に減速されるため、駆動モータBの回生制動力により、車両を停止させることができる。
【0044】このように、本実施の形態によれば、ブレーキペダル23のストローク量Bstに基づいて求めた、正常時のマスタシリンダ油圧Poとブレーキマスタシリンダ21の実際のブレーキ油圧P1,P2との差圧が誤差範囲Psに収まっているか否かで、ブレーキ故障を判断するようにしたので、油圧ラインに液漏れが発生した場合は勿論のこと、ブレーキペダルとブレーキマスタシリンダとの間を連設するロッドが破損し、或いはブレーキマスタシリンダ自体の故障によりブレーキ油圧が正常圧まで上昇しない場合であっても、油圧式ブレーキによる制動力の不足分を、駆動モータBの回生制動力により補うことで、通常のブレーキ操作と同等の感覚で、車両を停止させることができる。
【0045】尚、本発明は上述した実施の形態に限るものではなく、例えば、ブレーキ油圧P1,P2の一方、或いは双方の平均値とマスタシリンダ油圧Poとの差分が誤差範囲Psに収まっているか否かで、ブレーキシステムの故障を判定するようにしても良い。
【0046】又、ブレーキシステムは、電子制御ブレーキシステムに限らず、通常の機械式ブレーキシステムであっても良い。
【0047】
【発明の効果】以上、説明したように本発明によれば、ブレーキ操作量と、それによって発生するブレーキ油圧とに基づきブレーキシステムが故障したか否かを判定し、故障していると判定した場合は、ブレーキ操作量に応じた駆動モータの回生制動力を発生させることで、ブレーキシステムの故障による制動力の不足分を補うようにしたので、ブレーキシステムの油圧系が故障した場合は勿論のこと、ブレーキペダルとブレーキマスタシリンダとの間を連設するロッドが破損し、或いはブレーキマスタシリンダ自体の故障が原因で、ブレーキシステムが故障した場合であっても、駆動モータの回生制動力により、車両を停止させることができる。
【出願人】 【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
【出願日】 平成12年3月23日(2000.3.23)
【代理人】 【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
【公開番号】 特開2001−268703(P2001−268703A)
【公開日】 平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願番号】 特願2000−82779(P2000−82779)