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【発明の名称】 磁気浮上装置及び該装置に用いる電磁石
【発明者】 【氏名】薬師 宏治

【氏名】古関 隆章

【氏名】曽根 悟

【要約】 【課題】単体で浮上体の3自由度を制御することができる磁気浮上装置提供することを目的とする。本発明の他の目的は、かかる磁気浮上装置を採用することによって、浮上構成要素の小型化・軽量化・簡略化を達成することにある。

【解決手段】強磁性体からなる支持部5と、浮上体に設けられた磁石ユニットと、該磁石ユニットの電磁石の吸引力を制御する磁気支持制御手段とを備えており、支持部5に対して該浮上体を非接触で支持させるように構成された磁気浮上装置において、該磁石ユニットは四つの磁気回路を形成するように配設された四つの極を有する4極型電磁石であり、各極における該浮上体と該支持部とのギャップ6を独立して制御することで、該浮上体の3自由度の姿勢を制御するように構成した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】強磁性体からなる支持部と、浮上体に設けられた磁石ユニットと、該磁石ユニットの電磁石の吸引力を制御する磁気支持制御手段とを備えており、該支持部に対して該浮上体を非接触で支持させるように構成された磁気浮上装置において、該磁石ユニットは四つの磁気回路を形成するように配設された四つの極を有する4極型電磁石であり、各極におけるギャップを独立して制御することで、該浮上体の3自由度の姿勢を制御するように構成したことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項2】前記3自由度は、鉛直方向、ピッチング、ヨーイングであることを特徴とする請求項1に記載の磁気浮上装置。
【請求項3】前記磁石ユニットは永久磁石を有し、該永久磁石は該電磁石と該支持部との間のギャップ中で前記電磁石の作る磁路と該永久磁石の作る磁路とが共有するように配設されていることを特徴とする請求項1,2いずれかに記載の磁気浮上装置。
【請求項4】前記磁気制御手段は、前記電磁石に流れる励磁電流の定常値を零にするように前記電磁石に流す励磁電流を制御して磁路を安定化させるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の磁気浮上装置。
【請求項5】前記磁気制御手段は、前記電磁石に印加する励磁電圧の平均値を零にするように前記電磁石に印加する励磁電圧を制御して磁路を安定化させるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の磁気浮上装置。
【請求項6】前記磁気制御手段は、該電磁石と該支持体とのギャップ長、および該電磁石に印加する励磁電圧を検出値とすると共に、該電磁石に印加する励磁電流は状態観測器を用いた推定値とするものであることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の磁気浮上装置。
【請求項7】前記磁気ユニットは、平面視方形状の基部と該基部の角部に立設された四つの柱状部からなる鉄心ヨークと、該柱状部に巻装された電磁石巻線とを有しており、四つの磁気回路を内蔵することで、各極単位で各極の吸引力を独立して制御できるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の磁気浮上装置。
【請求項8】前記柱状部には永久磁石が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の磁気浮上装置。
【請求項9】前記磁石ユニットは、前記浮上体の少なくとも一部を構成していることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の磁気浮上装置。
【請求項10】平面視方形状の基部と該基部の角部に立設された四つの柱状部から一体的に構成された鉄心ヨークと、該柱状部に巻装された電磁石巻線と、該柱状部にそれぞれ設けられた永久磁石とから構成されることを特徴とする4極型電磁石。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気浮上装置に係り、詳しくは、単体で浮上体の3自由度を制御することができる磁気浮上装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】磁気浮上技術は、物体を磁気力により非接触で支持する技術である。磁気浮上技術は、機械的支持手段が有する摩擦・磨耗、振動・騒音、潤滑油による使用環境の制限、メンテナンス、高速回転の限界等の諸問題を解決する手段として有用である。磁気浮上手段には幾つかの方式があるが、電磁石と強磁性体間の吸引力を利用する吸引制御式(Electromagnetic suspension,EMS)は、漏れ磁束が少ない、小型で強力である、超伝導等の特殊な材料・装置が不要、静止浮上が可能等の実用上のさまざまな利点を備えていることから、磁気軸受け、搬送システム等を中心として産業界に広く普及している。
【0003】EMSシステムでは、浮上系が本来不安定であることから、フィードバック制御による安定化が必要となる。従来、EMSシステムにおいては、吸引力発生源の電磁石として、いわゆるU字型またはE字型電磁石が用いられている。このような磁石では、一つの磁石が対向する強磁性体との間で一つの磁気回路を構成する。よって、これらは2極を有するものではあるが、磁石一個に対して1自由度しか制御できない。
【0004】しかし、一般に剛体を浮上させるためには、鉛直軸を回転軸とすると、鉛直方向、ピッチング、ヨーイングの3自由度を最低限制御する必要がある。したがって、U字型電磁石単体、あるいはこれを同一直線上に配設するのみでは磁気浮上システムを構成することができない。そこで、従来のEMSシステムでは、多数のU字型電磁石(例えば4個)を平面状に配設して、これら全体の協調制御を行うことで浮上システムを構成していた。
【0005】このような構成では、浮上システムが必然的に大型化、重量化、複雑化し、特に浮上構成要素を浮上側に配置するシステムにおいては厳しい条件となる。また、浮上構成要素を浮上側に配置するシステムにおいては、電磁石が常時電力を消費するため、地上からの集電機構を必要とするため、完全非接触磁気浮上の実現が困難であるという課題もあった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる課題を解決するべく創案されたものであって、単体で浮上体の3自由度を制御することができる磁気浮上装置提供することを目的とするものである。本発明の他の目的は、かかる磁気浮上装置を採用することによって、浮上構成要素の小型化・軽量化・簡略化を達成することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】かかる課題を解決するべく本発明が採用した技術手段は、強磁性体からなる支持部と、浮上体に設けられた磁石ユニットと、該磁石ユニットの電磁石の吸引力を制御する磁気支持制御手段とを備えており、該支持部に対して該浮上体を非接触で支持させるように構成された磁気浮上装置において、該磁石ユニットは四つの磁気回路を形成するように配設された四つの極を有する4極型電磁石であり、各極における該電磁石と該支持部とのギャップを独立して制御することで、該浮上体の3自由度の姿勢を制御するように構成したことを特徴とする。好ましくは、前記磁気ユニットは、方形平板状の基部と、該基部の角部に立設された四つの柱状部(互いに等間隔を存して平面視方形状に配設される)からなる鉄心ヨークと、該柱状部に巻装された電磁石巻線とを有している。
【0008】本発明に係る4極型電磁石は浮上体に対して四つの磁気回路を内蔵することができ、一極単位で各極の吸引力を独立に制御することができる。各極の吸引力を独立に制御することによって、各極での鉛直方向ギャップを独立に制御することができ、もって、単体で浮上体を剛体と見なした場合の3自由度を制御することができる。
【0009】本発明に係る磁気浮上装置においては、電磁石に加えて永久磁石を採用することで、いわゆるゼロパワー制御が可能である。ゼロパワー制御とは、電磁石に要求される起磁力の大部分を永久磁石で付与し、無負荷時および付加積載時の電磁石の消費電力の低減化を図るようにした制御方式である。ゼロパワー制御方式自体は公知であって、ゼロパワー制御方式については、例えば、特開平6−178409号、特許第2793227号、特許第2563912号、特許第2760491号に開示されており、ゼロパワー制御方式の概念や手法等については、これらの公報の記載を参酌することができる。
【0010】従来のゼロパワー制御系の入力における状態変数は、ギャップ長(ギャップセンサにより検出)、ギャップ速度(推定値)、励磁電流(電流センサにより検出)であるが、本発明が採用するゼロパワー制御方式の一つは、ギャップ長、ギャップ速度(推定値)、励磁電圧から計算される電圧指令値との偏差積分、励磁電流(推定値)から状態変数を構成することを特徴としている。励磁電圧を直接制御し、電流は状態観測器を用いて推定することで、従来のゼロパワー方式に用いられている電流検出器(電流センサ)が不要となる。ここで、電磁石巻線への励磁電圧をゼロパワーフィードバックループの入力として採用し得ることについては、特許第2793240号、特開平6−178409号に示唆されている。しかしながら、これらのものは、いずれも電流検出器を備えたものであり、巻線への励磁電圧を入力として積極的に採用することで、電流検出器を不要とするという技術思想は存在しない。尚、念のため付言するが、本発明に係る磁気浮上装置における制御系は、巻線への励磁電流を入力とすることを排除するものでは一切なく、従来のゼロパワー制御方式を採用することは任意である。
【0011】
【発明の実施の形態】図1は、磁石ユニットの平面図及び側面図であって、磁石ユニットは、中央に開口部を有する平面視正方形状の基部1と基部1の四つの各角部上面に立設した同高の四つの柱状部2からなる鉄心ヨークと、各柱状部2に巻装された電磁石巻線3とから構成されている。巻線3を励磁することで、巻線3を巻回した各柱状部2が電磁石を構成し、各柱状部の上端側が四つの極を形成するようになっている。各柱状部2の上端側には永久磁石4が設けてある。各極に永久磁石4と電磁石巻線3を配置することで、両者の磁束を浮上ギャップ中で重ね合わせることができるように構成されている。平面視において経緯方向に隣位の柱状部2の極は、互いに異なる極性を備えている。尚、鉄心ヨークは実施の形態のものでは、L字状のものを四つ組み合わせて一体化することで形成されており、基部1の中央部位に開口部を形成するようになっている。基部1は平板状のものであってもよいが、浮上体を構成する磁石の重量を低減させる点において、基部1に開口部を有するものが優れる。また、かかる開口部を他の構成部品を搭載するスペースとして利用することもできる。
【0012】図2は、磁気浮上装置を構成する実験機の概略全体構成図である。強磁性体からなる支持部として例示するトラック5と各極との間の浮上ギャップ6に臨んでギャップセンサ7が設けてあり、ギャップセンサ7からの情報をフィードバックして、電磁石巻線3に所定の電流を流すようになっている。実験機では磁石ユニットが浮上体を構成するようになっている。後述する理論モデルおよびシミュレーションは、図2に示す実験機によって実証されている。
【0013】図1,2において、柱状部2は角柱形状を有しているが、柱状部2の形状は角柱に限定されるものではなく、例えば円柱形状であってもよい。また、柱状部2は長さ方向に一様に均一な断面を有するものに限定されるものではなく、部分的に異なる断面を備えたものであってもよい。また、永久磁石4の配設位置については、図示のものでは、柱状部2の上端に設けたが、永久磁石を設ける部位はこのものには限定されず、各柱状部2の上端より若干下方部位に鉄心に介装させるように設けてもよい。また、永久磁石4を設ける部位は柱状部2に限定されるものではなく、隣位の柱状部2の間に位置して永久磁石4を四つ配設したものでもよい。
【0014】以下に、本発明に係る4極電型電磁石を用いた浮上システムに浮上制御について説明する。まず、浮上制御アルゴリズムについて説明する。図3に示すように座標軸を設定する。4極型電磁石による磁気浮上システムにおける浮上体の自由度は3つ、すなわち鉛直方向ギャップz、α軸回り姿勢角θ、β軸回り姿勢角ψである。これら3自由度をフィードバック制御し、安定浮上系を実現する。具体的な制御方向としては、各極での鉛直方向ギャップz,z,z,zから(α,β,ψ)を評価し、各極電流i,i,i,i制御する。ここで、フィードバックに用いる情報は、各極におけるギャップセンサの出力および電流センサの出力を想定する。ただし、ギャップセンサの出力においては次式の浮上体の剛体条件が成り立つ。
【数1】

ここで、実際に電磁石コイルに流す電流は各極電流であるが、制御系を設計するときには、3自由度の運動を分解してそれぞれの運動モードに対して独立に制御系を設計する運動モード別制御法を適用する。そこで、図3に示すように鉛直方向制御電流,α軸回り姿勢制御電流,β軸回り姿勢制御電流を仮想的に設定する。このとき、実際の各極電磁石電流と仮想巻線電流に対して次式の電流変換式が成り立つ。
【数2】

また、電圧に対しても式(2)と同様な以下の変換式を設定する。
【数3】

【0015】具体的な浮上制御アルゴリズムを図4に基づいて説明する。各極ギャップセンサの出力から、浮上体位置(z,θ,ψ)を、各極電流センサの出力から各自由度制御仮想電流を計算する。(変換演算1)
【数4】

【数5】

実際には、以下に述べるように仮想系による3自由度から各極電圧が決定されているので実際に各極に流れる電流には1自由度制約がほぼ成り立っているといってよい。また、ギャップ長のみを用いる浮上制御系では式(8)、(9)、(10)の変換は不必要となる。
【0016】各自由度独立の制御器により、制御入力である各自由度制御仮想巻線印加電圧を決定する。(z軸方向制御器,α軸回り制御器,β軸回り制御器)。例えば、状態フィードバック制御系を構成する場合にはそれぞれ以下のように表される。
【数6】

【0017】式(3)の変換を行い、実際の各極電磁石巻線印加電圧を計算する。(変換演算2)。提案する手法は、各自由度制御のための仮想電流を直接重畳して実際の電流とする方法であり、3自由度間の相互干渉の影響を強く受ける事が予想されるが、適切な動作点で線形化する事により、また各自由度制御系にロバスト性を持たせる事により相互干渉の影響をフィードバックで押え込む事が可能である。また、以上の理論から提案する4極型電磁石による3自由度磁気浮上システムにおいては、以下の二つの回路系が存在する。式(2)、(3)からそれらは相互に変換する事ができる。
【数7】

【0018】次に、4極型電磁石が鉄心軌道に対して構成する磁気浮上系のプラントモデルを解析的に説明する。まず電磁力の非線形性と3自由度間の相互干渉を考慮した解析的に理想的な厳密モデルを導出し、次いで、解析的厳密モデルを3自由度独立に分解して平衡点近傍で線形化した制御系設計用の線形近似モデルを導出する。
【0019】解析の簡略化のため以下の前提条件を仮定する。■鉄心の磁気抵抗を無視する。■渦電流、ヒステリシスを無視する。■漏れ磁束、フリンジングを無視する。
【0020】解析的厳密モデルについて説明する。図5に4極型電磁石が鉄心軌道に対して構成する磁気等価回路を示す。解析は以下の手順で行う。■系の磁気エネルギーWを浮上体位置および各自由度制御電流の6変数関数として導出する。■仮想変位の原理から、Wを浮上体位置の各変数で偏微分して浮上体に加わる各自由度方向の電磁力を求める。
【0021】系の磁気エネルギーWは、鉄心の磁気抵抗を無視すると各極のギャップおよび永久磁石に蓄えられる磁気エネルギーとなり、次式で表される。
【数8】

【数9】

以上の式(15)〜(20)から浮上体である4極型電磁石に働く鉛直方向吸引力およびα、β軸回り不平衡トルクはそれぞれ次式で表される。
【数10】

【0022】3自由度間相互干渉の一例を示す曲面を図6に記載する。
【0023】次に、電気回路系の解析について説明する。(14)に示したように、4極型電磁石の電気回路系は、仮想電気回路系と実在電気回路系に分けられる。4極型電磁石の仮想電気回路系の解析的厳密式は次のようになる。
【数11】

ここで、右辺第1項は巻線抵抗による電圧降下、第2項が巻線の自己、相互インダクタンスによる誘導起電力、第3項が永久磁石の磁束による速度起電力をそれぞれ表している。ただし、式(25)における自己、相互インダクタンス、永久磁石による鎖交磁束は、それぞれで計算される各磁極パーミアンスを用いて表されるz,θ,ψの3変数関数である。
【0024】一方、実在電気回路系の解析的厳密式は次式で表される。
【数12】

ここで、式(25)と同様に右辺第1項は巻線抵抗による電圧降下、第2項が各巻線の自己、相互インダクタンスによる誘導起電力、第3項が永久磁石の磁束による速度起電力をそれぞれ表している。以上の解析結果から導出した厳密モデルのブロック線図を図7に示す。
【0025】制御系設計用線形近似モデルについて説明する。導出した解析的厳密モデルから、3自由度間の相互干渉を無視して各自由度独立に運動モードを分解し、さらに平衡動作点(z,θ,ψ)=(z,0,0)近傍で線形化する事によって制御系設計用の線形近似モデルを導出する。
【0026】鉛直方向浮上系について説明する。浮上体の鉛直方向の運動方程式は次式で表される。
【数13】

【0027】平衡点近傍での線形化について説明する。
【数14】

【数15】

鉛直方向浮上系の線形モデルおよび重心軸回り姿勢系の線形モデルを、図8にそれぞれ示す。図8または式(32)と(33)を見ると、伝達関数の型は鉛直方向と重心軸回りで等しくなることがわかる。
【0028】前記制御系設計用線形近似モデルから浮上制御系を設計しシミュレーションにより3自由度磁気浮上の検証を行う。浮上系設計は、ギャップ長制御系およびゼロパワー制御系それぞれについて行う。特に、ギャップ長のみを計測出力とした状態観測器の設計、制御入力であるコイル電圧の時間積分を状態変数に加えて拡大系を構成する電圧指令0型ゼロパワー浮上系について行う。なお、ここでは基本的に3自由度の中で鉛直方向浮上系についてのみ言及するが、α,β重心軸回り姿勢系についても同様に設計する。
【0029】線形近似モデルから浮上制御系を設計する方法としては、PID制御による古典制御理論の手法と状態フィードバックによる現代制御理論の手法が一般的である。本論文では、後者の状態フィードバック制御を基本とする制御系を構築する。
【0030】ギャップ長指令浮上制御系について説明する。浮上体の位置指令に対して定常偏差なく応答するギャップ長指令型浮上制御系は、鉛直方向浮上系の場合ギャップ長偏差積分を状態変数に加えた次の4次元拡大系(34)に対して、評価関数(35)を最小化する状態フィードバック則(36)を求める最適レギュレータ理論を適用して設計する。
【数16】

拡大系(34)は可制御システムであり、状態フィードバックにより閉ループ系の極を任意に配置する事ができる。所定のシミュレーションパラメータに対して浮上系を設計する。各重み係数Q、Rは比較的速い応答を得る事を重視して適宜設定される。参考として、制御系設計の一つの例を図9に示す。
【0031】シミュレーションによる3自由度磁気浮上の検証を行う。前記制御系に対して、シミュレーションを行った結果を示す。プラントモデルには解析的厳密モデルを適用している。
【0032】ギャップ長指令型浮上制御系について説明する。シミュレーション条件は以下のとおりである。(z,θ,ψ)=(0.005,0,0)で安定浮上時、1[s]後に不平衡荷重Fdz=5[N]、Tdα=−0.02[N・m]、Tdβ=−0.02[N・m]がステップ状に加わったとした。姿勢指令値は常に(0.005,0,0)とする。図10に示すように、ステップ状外乱が加わってから0.2[s]程度で定常状態となり、各自由度制御電流が(iz,iα,iβ)=(5,−0.8,−0.4)で姿勢指令値通りに安定浮上が実現できている事がわかる。【0033】ゼロパワー浮上制御系について説明する。シミュレーション条件は、ギャップ長指令型と同様である。図11に示すように、ステップ状外乱が加わってから0.5[s]程度で(z,θ,ψ)=(0.0032,0.005,0.0025)となって定常状態となり、不平衡荷重に対してアクティブに浮上姿勢を傾けて不平衡ゼロパワー浮上が実現できていることがわかる。図10,11の比較から、重心軸回り姿勢制御電流0.8[A]と等価な不平衡吸引力を発生させるための傾き姿勢角はわずか0.29°程度である事がわかる。
【0034】状態観測器を用いた制御系について説明する。状態フィードバック制御系を構築し、提案する3自由度磁気浮上の制御アルゴリズムの妥当性をシミュレーションにより検証した。ここでの状態変数としては、ギャップ長、ギャップ速度、コイル電流を用いているが、これらはすべて計測できるとして理想的な状態フィードバック制御を考えた。しかし一般的には実際に直接計測できる量は、ギャップセンサによるギャップ長と電流センサによるコイル電流であり、ギャップ速度は直接計測できないので何らかの方法で推定する必要がある。ギャップ速度を推定する手法としては、疑似微分と状態観測器が考えられるが、ここでは状態観測器を積極的に用いる制御系を提案する。
【0035】疑似微分と状態観測器について説明する。ギャップ速度を推定する方法としてはギャップ長信号を疑似微分する方法が最も一般的である。疑似微分は次式で表される。
【数17】

疑似微分は、ギャップ速度を算出する最も容易な方法であるが、高周波ノイズの影響を抑圧するためにLPFの時定数τをやや大きめに設定する必要がある。一方でτを大きくする事は高い周波数のダイナミクスも犠牲にする事を意味し、制御性能を劣化させるためトレードオフを考慮しなければならない。
【0036】ギャップ長のみを用いる状態観測器について説明する。状態観測器を用いると擬似微分より高周波ノイズに強いギャップ速度の推定信号が得られるが、状態観測器を用いた制御をさらに発展させると、ギャップ長のみを検出してもプラントが可観測である事を利用して、ギャップセンサ出力のみを用いる状態オブザーバを構築できる。電流センサを使わずギャップセンサ出力のみを用いる事で、通常の電圧操作形のPID制御と計測に関する負担は全く等しくなり、ソフトウエアのみによって浮上系を高性能化できる事になる。また、電流センサを使わない事でそれによるノイズやドリフトの影響も除去する事ができる。
【0037】電圧指令型ゼロパワー制御系について説明する。ギャップ長のみを用いる状態観測器を利用して、制御入力であるコイル電圧ezとその目標値0との偏差を積分器を介して再び制御入力ezに帰還する。これを電圧指令型ゼロパワー制御系として提案する。提案制御系は、制御入力の偏差積分を状態変数に組み込んだ拡大系(式38)を構成し、これに対して状態フィードバック制御器+状態観測器を構成する事で実現できる。
【数18】

拡大系(38)は可制御システムであり、フィードバックゲイン行列により任意の極配置が可能である。一方(38)は拡大系全体としては可観測行列のランクは3であり可観測性が成り立っていないが、新たに加えられた状態変数は制御入力の偏差積分であり直接計算できる。よって、プラント本来の3つの状態変数をギャップ長のみを用いる状態観測器で推定する事により制御系を構築できる(図12)。
【0038】電圧指令型ゼロパワー浮上制御系は、制御入力である電圧と目標値0の偏差積分を再び状態変数に組み込んだ拡大系を構成するものである。このシステムでは、電流センサが不要であり、センサ誤差によらずコイル電流を完全に0にすることが保証される。物理的に言うと、電圧指令型ゼロパワー浮上制御は一種の磁束制御であると言える。
【0039】
【発明の効果】本発明は、以下に述べるような有利な効果を奏するものである。
■鉄心軌道に対して4つの磁気回路を1つの制約条件のもとで効率的に内蔵することができ、各極の磁束を3自由度で制御する事ができる。すなわち、一般の剛体を浮上させるために必要最小限の3自由度を単独で制御する事ができ、単体での浮上が理論的に可能である。言い換えると、4極型電磁石は磁気浮上システムを構成するための必要最小限構造となっている。また、本発明に係る浮上装置は、リニアモータを用いた二次元駆動にも適合性が良いものであり、分岐を積極的に活用した柔軟な輸送システムに適している。
■4極型電磁石は、各極に永久磁石と電磁石巻線を配置して両者の磁束を浮上ギャップ中で重ね合わせる構成とする事でいわゆるゼロパワー制御を可能とする。ゼロパワー制御により理想的な省エネルギー浮上システムが実現できる。
■4極型電磁石は、また浮上姿勢をアクティブに傾ける事によって不平衡吸引力を発生させる事ができる。この性質と■のゼロパワー制御を組み合わせる事により、浮上体に不平衡に荷重が加わった場合でも、浮上姿勢をアクティブに傾ける事で不平衡荷重を補償する不平衡ゼロパワー浮上が可能となる。
【出願人】 【識別番号】500070617
【氏名又は名称】薬師 宏治
【識別番号】500070606
【氏名又は名称】古関 隆章
【識別番号】500070592
【氏名又は名称】曽根 悟
【出願日】 平成12年2月16日(2000.2.16)
【代理人】 【識別番号】100103137
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 滋
【公開番号】 特開2001−231111(P2001−231111A)
【公開日】 平成13年8月24日(2001.8.24)
【出願番号】 特願2000−38895(P2000−38895)