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【発明の名称】 ハイブリッド車の出力制御装置
【発明者】 【氏名】宮本 勝彦

【要約】 【課題】ハイブリッド車の出力制御装置において、無段変速機におけるベルトのスリップを抑制してベルトの損傷や破損を防止すると共にドライバビリティの向上を図る。

【解決手段】エンジン11に電気モータ14を接続してCVT17を装着したハイブリッド車において、エンジン11及び電気モータ14により運転されているとき、CVT17における目標プライマリ回転数Npt から実際のプライマリ回転数Npr を減算して求めた偏差ΔNpの大きさによりベルト21のスリップを検出し、ベルト21のスリップが発生したら、加速時には電気モータ14の出力を低減し、減速時には電気モータ14の出力を増加する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジン及びモータから構成される駆動装置とベルト式無段変速機とを有するハイブリッド車において、前記駆動装置により前記ハイブリッド車が運転されているときの前記ベルト式無段変速機のベルトがスリップ傾向にあることを検出するベルトスリップ検出手段と、該ベルトスリップ検出手段によりベルトがスリップ傾向にあることが検出されたときに該スリップ傾向を抑制するように前記モータの出力を制御するモータ出力制御手段とを具えたことを特徴とするハイブリッド車の出力制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エンジン及びモータから構成される駆動装置とベルト式無段変速機とを有するハイブリッド車の出力制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、地球環境の問題から排気ガスの発生を抑制するような、エンジンとモータとを駆動源とするハイブリッド車が実用化されている。このようなハイブリッド車では、運転状態に応じてモータの駆動のみにより駆動輪を駆動したり、モータとエンジンの両者の駆動により駆動輪を駆動したりできるようになっており、最近では、このエンジン及びモータにCVT(Continuously Variable Transmission )などの無段変速機を組み合わせたものが提案されている。
【0003】このCVTは、入力軸に連結されたプライマリプーリと出力軸に連結されたセカンダリプーリとの間にベルトを掛け回し、各プーリのシリンダに油圧を給排することで、プライマリプーリ及びセカンダリプーリの各溝幅を相対的に変化させて変速させている。そして、このようなCVTを有するハイブリッド車にて、コントローラは、ドライバが操作するアクセル開度と車両の速度(車速)とに基づいて、車両が必要とする要求出力が設定され、この要求出力が発揮されるようにCVTの変速比が設定される。そして、コントローラが設定された変速比となるように油圧制御することでプライマリプーリ及びセカンダリプーリの各溝幅を相対的に変化させ、車両をドライバの要求通りに走行させる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、このような従来のハイブリッド車の出力制御装置にあって、CVTでは、前述したように、入力側と出力側の一対の可変V形のプライマリプーリ及びセカンダリプーリの間に無端のスチールベルトを掛け回し、各プーリとスチールベルトとの間の摩擦力により回転力を伝達し、油圧の給排により各プーリの溝幅を変更してプーリ比を変えることで変速比を無段階に調節している。そのため、例えば、ドライバが加速のためにアクセルペダルを踏み込むと、車両の加速要求トルクの増大によりCVTの変速比が大きく設定され、プライマリ回転が上昇するが、このとき、プライマリプーリの回転が急上昇するとスチールベルトとの間ですべりが発生してしまう。
【0005】図4に従来のハイブリッド車の出力制御装置の運転状態の変化を表すタイムチャートを示す。図4のタイムチャートからもわかるように、ハイブリッド車の走行中にドライバがアクセルペダルを強く踏み込むと、アクセル開度が上昇してエンジン及びモータの要求トルクが上昇し、CVTレシオ(変速比)が大きく設定される。このとき、CVTでは、摩擦力によりプライマリプーリとスチールベルトとは同期駆動して駆動力を伝達していた状態から、要求トルクの増大によるプライマリプーリの回転数の上昇により、スチールベルトに対してプライマリプーリがスリップしてしまい、目標プライマリ回転数Npt に対して実際のプライマリ回転数Npr が急上昇してしまう。
【0006】このようにハイブリッド車の急加速時には、スチールベルトに対してプライマリプーリがスリップしてしまうことがある。すると、プライマリプーリ(実際のプライマリ回転数Npr )は負荷がなくなって回転数が急上昇してしまい、ドライバの要求どおりに車両が加速せずドライバビリティを悪化させてしまうという問題がある。また、プライマリプーリとスチールベルトとがスリップすると、スチールベルトが損傷して耐久性が悪化する虞がある。
【0007】一方、ドライバが減速のためにシフトダウンすると、車両の加速要求トルクの減少によりCVTの変速比が小さく設定され、プライマリプーリの回転が急下降し、スチールベルトとの間で逆のすべりが発生する虞がある。すると、前述と同様に、ドライバの要求どおりに車両が減速せずドライバビリティを悪化させてしまうと共に、スチールベルトが損傷して耐久性が悪化する虞がある。
【0008】なお、特開平4−50440号公報には、CVTプーリにかかる油圧を検出して伝達可能トルクを算出すると共にエンジンの出力トルクを求め、この両トルクから求めたエンジンの要求低減トルクに基づいてエンジントルクを制限することで、ベルトのすべりを防止したものが開示されている。ところが、エンジン出力変化には応答遅れがあるため、すべりの発生を直ちに抑制することができず、スリップの増大によりベルトの耐久性が低下してしまうという問題がある。
【0009】本発明はこのような問題を解決するものであって、無段変速機におけるベルトのスリップを抑制してベルトの損傷や破損を防止すると共にドライバビリティの向上を図ったハイブリッド車の出力制御装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するために本発明のハイブリッド車の出力制御装置では、エンジン及びモータから構成される駆動装置によりハイブリッド車が運転されているときのベルト式無段変速機のベルトのスリップ傾向をベルトスリップ検出手段が検出し、このベルトスリップ検出手段がベルトのスリップ傾向を検出したときには、モータ出力制御手段がスリップ傾向を抑制するようにモータの出力を制御するようにしている。
【0011】従って、ベルト式無段変速機のベルトにスリップ傾向が発生したら、モータの出力を制御、つまり、車両の加速時にはモータの出力を低減するように、また、車両の減速時にはモータの出力を増加するようにすることで、ベルトのスリップ傾向は直ちに抑制されることとなり、ベルトはスリップにより損傷、破損が防止されると共に、車両はドライバの要求どおりに加速または減速してドライバビリティが向上する。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】図1に本発明の一実施形態に係るハイブリッド車の出力制御装置の概略構成、図2に本実施形態のハイブリッド車の出力制御装置による制御のフローチャート、図3に本実施形態のハイブリッド車の出力制御装置の運転状態の変化を表すタイムチャートを示す。
【0014】本実施形態のハイブリッド車の出力制御装置において、図1に示すように、エンジン11のクランク軸12は伝達クラッチ13を介して電気モータ14の出力軸15と断接可能となっており、この伝達クラッチ13は図示しない油圧駆動装置で作動するアクチュエータ16により駆動可能となっている。そして、この電気モータ14は図示しないバッテリから電力の供給を受けて駆動可能であると共に、エンジン11からの駆動力を受けて発電して電力をバッテリに充電可能となっている。
【0015】この電気モータ14の出力軸15はベルト式無段変速機としてのCVT17の入力軸(プライマリシャフト)18に接続されている。このCVT17はエンジン11側に連結されたプライマリプーリ19と車両の駆動軸側に連結されたセカンダリプーリ20と両プーリ19,20間に掛け渡されたベルト21等とから構成され、プライマリシャフト18に入力された回転が、同軸一体のプライマリプーリ19からベルト21を介してセカンダリプーリ20へ入力され、セカンダリシャフト22に出力されるようになっている。
【0016】即ち、プライマリプーリ19は固定シーブ19aと可動シーブ19bとを有し、可動シーブ19bの背面側にプライマリシリンダ19cが形成されている。従って、このプライマリシリンダ19cに油圧を給排することで固定シーブ19aに対して可動シーブ19bを移動し、プーリの溝幅を可変とすることができる。一方、同様に、セカンダリプーリ20は固定シーブ20aと可動シーブ20bとを有し、可動シーブ20bの背面側にセカンダリシリンダ20cが形成されている。従って、このセカンダリシリンダ20cに油圧を給排することで固定シーブ20aに対して可動シーブ20bを移動し、プーリの溝幅を可変とすることができる。
【0017】また、このCVT17は油圧回路により制御されるようになっている。即ち、セカンダリシリンダ20cにはレギュレータバルブ23により調圧されたセカンダリ油圧(ライン圧)が加えられ、プライマリシリンダ19cには、ライン圧が変速比制御バルブ24により調圧されたプライマリ油圧が加えられる。なお、25はオイルパン、26はオイルパン25内の油をレギュレータバルブ23側へ供給するオイルポンプである。
【0018】そして、CVT17のセカンダリシャフト22は発進クラッチ27を介してデファレンシャルギヤ28に接続されており、この発進クラッチ27は図示しない油圧駆動装置で作動するアクチュエータ29により駆動可能となっており、セカンダリシャフト22から左右の駆動輪30へのトルク伝達量を調整することができる。
【0019】また、車両にはエンジン11、電気モータ14、CVT17などを制御する電子制御ユニット(ECU)31が設けられ、このECU31には、入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶を行う記憶装置、中央処理装置及びタイマやカウンタ類が具備されており、このECU31によりエンジン11の総合的な制御が実施される。即ち、エンジン回転数センサ(クランク角センサ)32、車速センサ33、アクセルペダルのポジションセンサ34、プライマリ回転数センサ35、セカンダリ回転数センサ36などの各種センサ類の検出情報がECU31に入力される。そして、ECU31は各種センサ類の検出情報に基づいて、燃料噴射モードや燃料噴射量、点火時期等を決定し、図示しない点火プラグ、インジェクタ、スロットル弁を制御する。
【0020】また、ECU31にはバッテリの充電容量が入力されており、このバッテリ充電容量に応じて電気モータ14を制御している。更に、ECU31は、CVT17のレギュレータバルブ23及び変速比制御バルブ24の油圧を制御することでプーリ比を変え、変速比を設定変更することができる。なお、ECU31は伝達クラッチ13及び発進クラッチ27の各アクチュエータ16,29の制御も行う。
【0021】ところで、本実施形態のハイブリッド車の出力制御装置にあって、ECU31は、アクセルポジションセンサ34が検出したアクセル開度APSと車速センサ33が検出した車速Vとに基づいてCVT17における目標プライマリ回転数Npt を設定してCVTレシオ(変速比)を制御する一方、ハイブリッド車が走行しているときのCVT17のベルトスリップを検出(ベルトスリップ検出手段)し、ベルトスリップが検出されたときにはこのスリップを抑制するように電気モータ14の出力を制御(モータ出力制御手段)するようにしている。
【0022】ここで、上述した本実施形態のハイブリッド車の出力制御装置におけるECU31の制御を図2のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0023】図2に示すように、ステップS11において、ハイブリッド車がエンジン11と電気モータ14とで走行しているかどうかを判定し、停止していたり、電気モータ14のみで走行していれば、以下の処理を行わずにこのルーチンを抜ける一方、エンジン11と電気モータ14とで走行していれば、ステップS12に移行する。このステップS12では、まず、アクセルポジションセンサ34が検出したアクセル開度APSと、車速センサ33が検出した車速VとからCVT17の目標プライマリ回転数Npt を設定する。そして、ステップS13にて、この目標プライマリ回転数Npt に基づいてCVTレシオ(変速比)を設定してCVT17を制御する。
【0024】続いて、ステップS14において、求めた目標プライマリ回転数Npt とプライマリ回転数センサ35が検出した実際のプライマリ回転数Npr との偏差ΔNpを算出する。そして、ステップS15にて、算出したプライマリ回転数偏差ΔNpの絶対値がベルトスリップ判定値Sより大きいかどうか比較することで、プライマリプーリ19とベルト21とがスリップ状態にあることを判定する。ここで、プライマリ回転数偏差ΔNpの絶対値がベルトスリップ判定値Sより大きければ、プライマリプーリ19とベルト21とがスリップしていると判定する。そして、ステップS16で、このプライマリ回転数偏差ΔNpが0より大きいかどうかを判定する。
【0025】このステップS16にて、プライマリ回転数偏差ΔNpが0より小さい、つまり、実際のプライマリ回転数Npr が目標プライマリ回転数Npt よりも大きければ、例えば、車両の減速時にベルトスリップが発生しているとして、ステップS17にて、CVT17は電気モータ14のトルクを増加させる。一方、ステップS16にて、プライマリ回転数偏差ΔNpが0より大きい、つまり、実際のプライマリ回転数Npr よりも目標プライマリ回転数Npt が大きければ、例えば、車両の加速時にベルトスリップが発生しているとして、ステップS18にて、CVT17は電気モータ14のトルクを減少させる。
【0026】そして、このようにプライマリプーリ19とベルト21とがスリップしていると判定されたときに、電気モータ14のトルクを増減することで、両者のスリップが収束されると、CVT17はアクセル開度APSと車速Vとから設定した目標プライマリ回転数Npt に基づいて電気モータ14を制御する。
【0027】このように本実施形態では、CVT17のプライマリプーリ19とベルト21とのスリップが発生したら、エンジン11ではなくて応答性のよい電気モータ14の出力を制御、つまり、加速時には電気モータ14の出力を低減するように、減速時には電気モータ14の出力を増加するようにすることで、ベルト21のスリップは直ちに抑制されることとなり、スリップによるベルト21が損傷して耐久性が悪化するのを防止できると共に、ハイブリッド車はドライバの要求どおりに加速または減速してドライバビリティが向上する。
【0028】ここで、本実施形態のハイブリッド車の出力制御装置において、加速によるベルトスリップ発生時の運転状態の変化を説明する。図3に示すように、ハイブリッド車の走行中にドライバがアクセルペダルを強く踏み込むと、アクセル開度が上昇してエンジン11及び電気モータ14の要求トルクが上昇し、CVTレシオ(変速比)が大きく設定される。このとき、CVT17では、摩擦力によりプライマリプーリ19とベルト21とが同期駆動して駆動力を伝達していた状態から、要求トルクの増大によるプライマリプーリ19の回転数の上昇する。そのため、ベルト21に対してプライマリプーリ19が一瞬スリップするが、前述したように、ECU31が目標プライマリ回転数Npt と実際のプライマリ回転数Npr との偏差ΔNpの大きさを常時把握しており、この場合、このプライマリ回転数偏差ΔNpがベルトスリップ判定値Sより小さくなるため、ここで電気モータ14のトルクを一時的に低減する。すると、ベルト21とプライマリプーリ19とのスリップが収束され、実際のプライマリ回転数Npr が低下して目標プライマリ回転数Npt とほぼ同様となり、従来のように、プライマリ回転数Np0 が急上昇することはない。
【0029】つまり、このように瞬間的に発生するスリップに対してエンジン11の出力を制御していたのでは、エンジン11の応答遅れによってスリップ収束後にエンジン出力が制御されることとなり、スリップ収束に対して何ら寄与しないばかりか、ドライバの要求通りに加速や減速することができずにドライバビリティが悪化する虞を生じる。しかしながら、電気モータ14を制御すれば、応答遅れがエンジン11より小さいため、瞬間的に発生するスリップに対してそのスリップを効果的に収束することが可能となり、且つ、スリップ収束後に不必要に出力が制御されてドライバビリティが悪化する虞もない。
【0030】なお、上述の実施形態では、CVT17でのベルト21のスリップを検出するベルトスリップ検出を、目標プライマリ回転数Npt から実際のプライマリ回転数Npr を減算して求めた偏差ΔNpの絶対値とベルトスリップ判定値Sとの比較により行ったが、セカンダリ回転数センサ36が検出したセカンダリ回転数に応じて検出してもよい。また、ベルトスリップ判定値Sはベルト21が完全にスリップしている状態を直接検出するものでなくてもよく、例えば、ベルト21に生じる引張応力等のスリップ発生の元となる応力や要因等を検出し、これらに基づいてスリップ発生を予測してその状態となった時点で電気モータ14による出力制御を開始してもよい。更に、上述した実施形態では、ベルト式無段変速機としてベルト式CVT17を用いたが、トロイダル式CVTなど他の方式の無段変速機を用いてもよい。
【0031】
【発明の効果】以上、実施形態において詳細に説明したように本発明のハイブリッド車の出力制御装置によれば、エンジン及びモータから構成される駆動装置によりハイブリッド車が運転されているときのベルト式無段変速機のベルトのスリップ傾向を検出するベルトスリップ検出手段を設け、このベルトスリップ検出手段はベルトがスリップ傾向にあることを検出したときにモータ出力制御手段がスリップ傾向を抑制するようにモータの出力を制御するようにしたので、ベルト式無段変速機にベルトのスリップ傾向が発生すると、加速時にはモータの出力を低減、減速時にはモータの出力を増加することで、ベルトのスリップ傾向は直ちに抑制されることとなり、スリップによるベルトの損傷、破損を防止することができると共に、車両をドライバの要求どおりに加速または減速することでドライバビリティを向上することができる。
【出願人】 【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
【出願日】 平成12年1月12日(2000.1.12)
【代理人】 【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎 (外2名)
【公開番号】 特開2001−197615(P2001−197615A)
【公開日】 平成13年7月19日(2001.7.19)
【出願番号】 特願2000−6272(P2000−6272)