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【発明の名称】 電気自動車制御装置
【発明者】 【氏名】正木 良三

【氏名】高本 祐介

【氏名】小原 三四郎

【氏名】山村 博久

【氏名】山田 博之

【要約】 【課題】トルク及び速度を制御して、左右のタイヤの路面抵抗係数や空気圧が異なる場合にも運転者の意図する方向に安定して走行できる電気自動車を提供する。

【解決手段】左右のタイヤ2a,2bをそれぞれ独立に駆動するモータ3a,3bのモータ速度指令はアクセル7,ブレーキ8,ハンドル10などの信号を車両制御演算部15に入力して得るシステムにおいて、トルク検出器13a,13bからの出力トルク信号に基づき、左右の速度差を演算し、これに基づいて、トルク差が所定の値となるように制御する。これにより差動装置と同様に左右のトルク差を0とする制御だけでなく、トルク差を路面状態などに応じて可変することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】自動車の左右のタイヤをそれぞれ独立に駆動する少なくとも1組以上のモータ群と、前記モータにそれぞれ電圧を供給する電力変換手段と、前記自動車を運転する運転者の指示及び前記自動車の運動状態を検知する検知手段と、前記モータ群が出力する左右のトルクとが一致するように制御するための速度差指令と前記検知手段の信号により演算される車速指令とから前記モータ群の左モータ及び右モータの前記モータ速度指令を算出する速度指令演算手段と、前記モータの速度が前記モータ速度指令になるようにそれぞれの前記モータの速度をフィードバックして前記電力変換手段から供給する電圧を演算し、制御する速度制御手段とを備えたことを特徴とする電気自動車制御装置。
【請求項2】請求項1記載において、上記モータ速度指令を低減することにより、上記左出力トルクと上記右出力トルクとを一致させる様に制御することを特徴とする電気自動車制御装置。
【請求項3】請求項1記載において、上記速度制御手段はそれぞれ上記モータ速度指令と上記検知手段から得られるモータ速度との差によりモータトルク指令を演算し、該モータトルク指令から上記出力電圧指令を算出するものであって、上記モータ群の左モータと右モータに対応するそれぞれの前記モータトルク指令が一致するように制御することを特徴とする電気自動車制御装置。
【請求項4】請求項1記載において、上記モータがそれぞれ交流モータであり、かつ、上記速度制御手段はそれぞれ上記モータ速度指令と上記検知手段から与えられるモータ速度との差により得られるトルク電流指令と、前記モータ速度から得られる磁束電流指令を演算して、前記トルク電流指令と前記磁束電流指令とのベクトル和から上記出力電圧指令を算出するものであって、上記モータ群の左モータと右モータに対応するそれぞれの前記トルク電流指令が一致するように制御することを特徴とする電気自動車制御装置。
【請求項5】自動車の左右のタイヤをそれぞれ独立に駆動する少なくとも1組以上のモータ群と、前記モータにそれぞれ電圧を供給する電力変換手段と、前記自動車を運転する運転者の指示及び前記自動車の運動状態を検知する検知手段と、前記自動車の車速と前記自動車のハンドルの操舵角から与えられるトルク差指令を算出するトルク差演算手段と、前記モータ群が出力する左右のトルクとの差が前記トルク差指令に一致するように制御するための速度差指令と前記検知手段の信号により演算される車速指令とから前記モータ群の左モータ及び右モータの前記モータ速度指令を算出する速度指令演算手段と、前記モータの速度が前記モータ速度指令になるようにそれぞれ前記モータの速度をフィードバックして前記電力変換手段から供給する電圧を演算し、制御する速度制御手段とを備えたことを特徴とする電気自動車制御装置。
【請求項6】請求項5記載において、上記モータ群の左モータのモータ速度と右モータのモータ速度との差により上記トルク差指令を算出することを特徴とする電気自動車制御装置。
【請求項7】請求項5記載において、上記操舵角と直進するときの操舵角の差が増加するに従って上記トルク差指令を増加させるトルク差演算手段を備えていることを特徴とする電気自動車制御装置。
【請求項8】自動車の左右のタイヤをそれぞれ独立に駆動する少なくとも1組以上のモータ群と、前記モータにそれぞれ電圧を供給する電力変換手段と、前記自動車を運転する運転者の指示及び前記自動車の運動状態を検知する検知手段と、該検知手段の信号により算出した前記モータのそれぞれのモータトルク指令になるようにトルク制御演算を行い、出力電圧指令をそれぞれの前記電力変換手段に出力する制御手段とを備えた電気自動車制御装置において、前記モータ群の左モータのモータ速度と右モータのモータ速度との速度差が所定の速度差制限値を超えたとき、前記モータトルク指令を低減することにより、前記速度差が前記速度差制限値内となるように制御することを特徴とする電気自動車制御装置。
【請求項9】請求項8記載において、上記モータ群の中で上記モータ速度が大きいモータの上記モータトルク指令を低減することにより、上記速度差が上記速度差制限値内となるように制御することを特徴とする電気自動車制御装置。
【請求項10】請求項8記載において、上記モータがそれぞれ交流モータであり、かつ、上記トルク制御手段はそれぞれ上記モータトルク指令から得られるトルク電流指令と、前記モータのモータ速度から得られる磁束電流指令を演算して、前記トルク電流指令と前記磁束電流指令とのベクトル和から上記出力電圧指令を算出するものであって、前記トルク電流指令を低減することにより、上記速度差が上記速度差制限値内となるように制御することを特徴とする電気自動車制御装置。
【請求項11】請求項8記載において、上記自動車の車速が増加するに従って上記速度差制限値を低下させることを特徴とする電気自動車制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は左右のタイヤをそれぞれモータで独立にトルク制御する電気自動車制御装置で、特に、車両運動性能に優れた電気自動車制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、電気自動車制御装置としては、特開昭62−89403号公報,特開昭63−133804号公報,特開平1−298903 号公報等に記載のように、左右のタイヤを複数のモータでそれぞれ独立に駆動する駆動方法が知られている。これらの電気自動車において、主に、2つのモータ制御方法がある。特開昭63−133804号公報の方法はアクセル量,ブレーキ量,ハンドルの操舵角などにより、左右のモータに対するそれぞれのモータ速度指令を算出し、そのモータ速度制御演算を行うものである。この方法は、路面抵抗係数が一定の場合、操舵角に対して理想的なモータ速度を与えられるので、無理なく旋回できる特徴を備えている。
【0003】また、特開昭62−89403 号公報で示されている方法はトルク差により左右のモータを駆動するインバータ周波数を変化させるようにしたもので、機械式の差動装置と同様のシステムを電気的に達成しようとするものである。また、特開平1−298903号公報に開示された方法はアクセル量,ブレーキ量,ハンドルの操舵角などにより、左右のモータに対するそれぞれのモータトルク指令を算出し、そのモータトルク指令となるようにトルク制御演算を行うものである。後者の2つの公知例は基本的に速度制御ループを持たない方法である。この方法は左右のタイヤを1つのモータ、あるいは、エンジンで駆動する場合に用いる差動装置と同様の働きを容易に実現することができるので、左右のタイヤの路面抵抗係数が異なる場合などでも運転者が希望する方向に進行することができる特徴を備えている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記従来技術はそれぞれ下記の点で問題があった。まず、速度制御演算による方法は、左右のタイヤの路面抵抗係数や空気圧が異なる場合には、操舵角が0でも直進できないことがある。また、第2の方法はトルクをインバータ周波数だけで制御するものであるため、定常状態ではトルク制御を行うことはできるものの、過渡状態まではトルク制御を行うことができず、過渡現象による左右のトルク差で、直進時の車両の直進性、および、カーブ時の車両運動性能が低下するという問題点があった。さらに、第3の方法では、トルク制御による方法は泥道や雪道などのように、一方の路面抵抗係数だけが極端に低い場合、そのモータだけが高速回転になる可能性がある。そのような高速回転になっている状況で、その路面抵抗係数が急に高くなったとき、急旋回することもある。
【0005】そこで、本発明の目的は、左右のタイヤをそれぞれのモータにより独立に制御する電気自動車において、左右のタイヤの駆動トルクを過渡時を含めて常に一定にして直進性、および、車両運動性能を向上させた電気自動車制御装置を提供することにある。本発明の他の目的は左右のタイヤをそれぞれのモータにより独立に制御する電気自動車において、運転者の希望する方向に高速に車両を制御することのできる電気自動車制御装置を提供することにある。本発明の左,右のタイヤをモータにより独立にトルク制御する電気自動車において、泥道や雪道などのように、一方の路面抵抗係数だけが極端に低い場合にも、モータが高速回転になることを防止する電気自動車制御装置を提供することも目的にしている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的は、自動車の左右のタイヤをそれぞれ独立に駆動する左モータと右モータから構成される1組、あるいは、複数のモータ群と、それらのモータにそれぞれ電圧を供給する電力変換手段と、自動車を運転する運転者の指示及び自動車の運動状態を検知する検知手段と、その検知手段の信号により演算される車速指令、および、左モータが出力する左出力トルクと右モータが出力する右出力トルクとが一致するように制御するための速度差指令から左モータ及び右モータのそれぞれのモータ速度指令を算出する速度指令演算手段と、それらのモータ速度がそれぞれのモータ速度指令になるようにモータ速度をそれぞれフィードバックして速度制御する速度制御手段とを備え、速度制御手段において、速度制御演算によりそれぞれのモータに印加する電圧を演算し、その結果に基づき、電力変換手段を制御することにより、達成される。
【0007】また、上記第2の目的を達成するために、自動車の左右のタイヤをそれぞれ独立に駆動する左モータと右モータからなる1組、あるいは、複数のモータ群と、それらのモータにそれぞれ電圧を供給する電力変換手段と、自動車を運転する運転者の指示及び自動車の運動状態を検知する検知手段と、自動車の車速とハンドルの操舵角から与えられるトルク差指令を算出するトルク差演算手段と、左モータが出力する左出力トルクと右モータが出力する右出力トルクとの差が算出したトルク差指令に一致するように制御するための速度差指令と検知手段の信号により演算される車速指令とから左モータ及び右モータのそれぞれのモータ速度指令を算出する速度指令演算手段と、それらのモータ速度がそれぞれのモータ速度指令になるようにモータ速度をそれぞれフィードバックして速度制御する速度制御手段とを備え、速度制御手段において、速度制御演算によりそれぞれのモータに印加する電圧を演算し、その結果に基づき、電力変換手段を制御するようにしたものである。
【0008】さらに、上記第3の目的は、自動車の左右のタイヤをそれぞれ独立に駆動する左モータと右モータから構成される1組、あるいは、複数のモータ群と、それらのモータにそれぞれ電圧を供給する電力変換手段と、自動車を運転する運転者の指示及び自動車の運動状態を検知する検知手段と、その検知手段の信号により算出したモータトルク指令となるようにトルク制御演算を行い、出力電圧指令をそれぞれの電力変換手段に出力する制御手段を備えた電気自動車制御装置において、左右のモータ速度の差が所定の速度差制限値を超えたとき、モータトルク指令を低減するように制御する手段を備えることにより、達成される。
【0009】速度指令演算手段は運転者が操作するアクセルペダルおよびブレーキペダルの踏み込み量、つまり、アクセル量,ブレーキ量,ハンドルの操舵角などを入力し、車速指令をアクセル量,ブレーキ量から演算する。また、左右のモータの基準速度指令はハンドルの操舵角に応じて車速指令をそれぞれ補正することにより算出している。また、左右のモータが出力する出力トルクの差から速度差指令を算出する。左右のモータの速度指令は基準速度指令と速度差指令から算出される。速度制御手段では、これらの速度指令に対して、単にインバータ周波数だけを制御するのではなく、それぞれのモータ速度をフィードバックして、速度指令とモータ速度の差からトルク指令を演算し、これにより速度制御を行っている。速度制御では、トルク指令に基づくトルク電流指令と、モータ速度に基づく磁束電流指令を演算し、ベクトル演算により電流指令を得ている。さらに、電流指令を基にそれぞれの電流を制御する電流制御として、電圧指令を与えている。この電圧指令となるように、制御手段から制御パルスをそれぞれ電圧変換手段に出力している。それぞれの電力変換手段では、制御パルスにより、モータに供給する出力電圧を発生している。これにより、それぞれのモータから出力トルクが発生し、左右のタイヤを駆動する。
【0010】ここで、路面抵抗係数が左右のタイヤに対して異なるときの作用について述べる。例えば、直進時に左のタイヤの路面抵抗係数が右のタイヤのそれよりも大きい場合には、左モータの出力トルクが右モータの出力トルクよりも大きくなる。制御手段において、この出力トルクの差を検知し、その差が減少するように、左モータの速度指令を低減する。速度制御では、モータ速度をフイードバックしているので、過渡時を含めて高速でトルクを制御が行われる。
【0011】また、第2の目的を達成するためには、次のように動作する。まず、トルク差演算手段において、自動車の車速とハンドルの操舵角を入力し、旋回時に自動車を旋回させるのに最適なトルク差指令を演算する。速度指令演算手段では、左右のモータの出力トルク差を算出した後、トルク差演算手段で得られたトルク差指令と出力トルク差との差に基づき、速度差指令を算出する。左右のモータの速度指令は基準速度指令と速度差指令から算出される。速度制御手段では、これらの速度指令に対して、それぞれのモータ速度をフィードバックして、速度指令とモータ速度の差からトルク指令を演算し、これにより速度制御を行っている。このような動作により、高速に左右のモータのトルク差をトルク差指令に一致させる。
【0012】さらに、第3の目的を達成させるためには、次のように作用する。制御手段において、運転者が操作するアクセルペダルおよびブレーキペダルの踏み込み量、つまり、アクセル量,ブレーキ量,ハンドルの操舵角などを入力し、車両のトルク指令をアクセル量,ブレーキ量から演算する。また、左右のモータのトルク指令はハンドルの操舵角に応じて車両のトルク指令をそれぞれ補正することにより算出することもできる。また、左右のモータが出力する出力トルクの差から速度差指令を算出する。これらのトルク指令に対して、それぞれのモータがそのトルクを発生するようにトルク制御演算を行っている。このトルク制御演算の結果、電流指令を算出し、これに基づきモータを駆動している。次に、駆動している片側のタイヤだけがぬかるみ、雪道などでスリップした場合、そのタイヤはモータにより加速され、高速に回転し始める。制御手段では、左右のモータ速度の差を比較しており、その差があらかじめ、設定した速度差制限値を超えた場合、左右の路面抵抗係数が大きく異なるとみなして、そのモータトルク指令を低減する。これにより、モータの出力トルクは減少し、そのモータ速度は抑制されるので、左右のモータ速度の差は速度差制限値内になる。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施例を図1により説明する。図1が電気自動車の前輪をそれぞれ独立に誘導モータで駆動したときの実施例である。電気自動車1における左前輪2aと右前輪2bはそれぞれ誘導モータ3a,3bに接続されており、インバータ4a,4bにより独立に駆動される。これらのインバータはPWMパルスPa,Pb(U,V,W相の各PWMパルスPa,PbはそれぞれPau,Pav,Paw,Pbu,Pbv,Pbwとする)により制御され、バッテリー5を電源としてモータに供給する電力を変換している。PWMパルスPa,Pbを発生する制御装置6は運転者の操作出力であるアクセルペダル7とブレーキペダル8からそれぞれ得られるアクセル踏み込み量xa,ブレーキ踏み込み量xbを入力している。制御装置6へのその他の入力信号としては、前進,後進,駐車を運転者が指示する運転モードレバー9のモード信号MD ,舵角センサ10により検出されるハンドル11の操舵角θs,検出するエンコーダ12c,12dによりそれぞれ検出される左後輪2c,右後輪2dの回転速度信号ωc,ωd、誘導モータ3a,3bの速度ωL,ωR、トルク検出器13a,13bによりそれぞれ検出される誘導モータ3a,3bの出力トルクτa,τb、電流制御を行うためにフィードバックするモータ電流ia,ib(U,V,W相の各モータ電流ia,ibはそれぞれiau,iav,iaw,ibu,ibv,ibwとする)がある。制御装置6は誘導モータ3a,3bの速度制御をそれぞれ行うための速度制御演算部14a,14b,アクセル踏み込み量xa,ブレーキ踏み込み量xb,操舵角θS などから車両制御演算を行い、その速度制御演算部に速度指令ωL*,ωR*を出力するための車両制御演算部15,本発明の特徴である誘導モータ3a,3bの出力トルクτa,τbを一致させるための速度差指令演算部16から構成されている。
【0014】ここで、制御装置6に動作について、図2を用いて説明する。まず、車両を動作させる車両制御演算部15は、主に、自動車1の車速指令ω* を算出するための車速演算部17と、旋回時における左右のモータ速度差、つまり、旋回速度差指令ωS*を算出するための旋回速度演算部18からなる。車速演算部17では、アクセル踏み込み量xa,ブレーキ踏み込み量xb,モード信号MD により、車速指令ω*を演算している。車速指令ω*はアクセル踏み込み量xa が大きいほどその増加率を大きくなるように演算している。なお、その増加率はモータ速度ωL,ωR の平均値が増加するにつれて減少するものである。また、ブレーキ踏み込み量xb により、車速指令ω*の減速率を変化させている。モード信号MDが前進,後進のときは、車速指令ω* はそれぞれ正の値,負の値となるように符号を付ける。ここで、車速が0で、しかも、モード信号MD が駐車モードになっている場合には、車速指令ω*はアクセル踏み込み量xa,ブレーキ踏み込み量xb にかかわらず、常に0とするようにしている。以上の演算により、車速指令ω* を算出している。次に、旋回速度演算部18では、ハンドル11の操舵角θS により旋回速度差指令ωS* を算出している。旋回中の内輪と外輪の速度差は操舵角θSだけでなく、車速によっても変化するので、これを考慮するために非駆動輪である左後輪2c,右後輪2dの回転速度信号ωc,ωdを入力し、その平均値を車速とみなして、旋回速度差指令ωS*を補正している。左に旋回する方向を正とすれば、誘導モータ3aの基本速度指令ωLS*は車速指令ω*から旋回速度差指令ωS*を減算して得ることができる。また、誘導モータ3bの基本速度指令ωRS* は車速指令ω* に旋回速度差指令ωS*を加算して得られる。速度指令ωL*,ωR*はこれらの値からそれぞれ後述する左減速指令ωDL*,右減速指令ωDR*を減じることにより得ている。以上の方法で自動車の運動状態を検知して、誘導モータ3a,3bの速度指令ωL*,ωR*を決定している。
【0015】次に、この速度指令に基づいてモータの速度制御演算を行う速度制御演算部について、14aを用いて説明する。図2に示すように、速度制御演算部14aは速度制御部19,ベクトル演算部20,電流制御部21,PWM制御部22から構成されている。速度制御部19では、速度指令ωL*と検出したモータ速度ωLを突き合わせて誘導モータ3aのトルク指令τL*を演算する速度フィードバック制御を行っている。また、ベクトル演算部20では、そのトルク指令τL*とモータ速度ωL から、トルク電流と励磁電流を演算した後、座標変換により誘導モータ3aの3相の電流指令iau*,iav*,iaw* を出力している。電流制御部21においては、U,V,Wの各相に対応する電流指令iau*,iav*,iaw*とモータ電流iau,iav,iawをそれぞれ用いて電流フィードバック制御を行い、3相の電圧指令vau*av*,vaw* を得ている。これらの電圧指令に基づき、インバータ4aにPWMパルスPau,Pav,Pawを出力する演算を行っているのがPWM制御部22である。速度制御演算部14bについても、速度指令ωR*,モータ速度ωRなどにより同様の演算を行い、PWMパルスPbu,Pbv,Pbw を出力している。
【0016】では、本発明の特徴である速度差指令演算部16について説明する。これはトルク差制御部23,左右減速指令部24からなる。出力トルクτa,τbからその差を演算し、トルク差制御部23に入力している。ここでは、出力トルクの差から比例制御演算,積分制御演算、あるいは、それらを組み合わせた演算を行い、出力トルクを一致させるための速度差指令ωD*を得ている。また、必要な場合には、微分制御演算を組み合わせて演算してもよい。左右減速指令部24では、速度差指令ωD*を入力し、左減速指令ωDL*,右減速指令ωDR*を出力するための演算を行っている。図3において、出力トルクを一致させる原理について、左前輪2a、右前輪2bでの路面抵抗係数μL,μRが異なる例で説明する。図3(a)がタイヤのスリップ率、つまり、モータ速度と車速との差に対する路面抵抗係数のグラフである。一般的に路面抵抗係数が最大となるスリップ率以内で使用されている。ここで、自動車1が直進し、モータ速度ωL,ωRが一致しているとき、そのスリップ率が図3(a)のa点とすると、路面抵抗係数μL,μRは【0017】
【数1】μL>μRなので、左前輪2a,右前輪2bで路面を駆動する出力トルクτa,τbは図3(b)に示すように、【0018】
【数2】τa>τbとなる。したがって、たとえ、モータ速度ωL,ωRが一致していても、出力トルクτa,τbが異なるので、右方向に旋回してしまう。そこで、左前輪2aの路面抵抗係数μLがμRに一致するように、そのスリップ率だけを図3(a)のb点に移動すればよい。つまり、左前輪2aのスリップ率を減少するために、そのモータ速度ωL を低減していく。τaとτbの差をフィードバック制御により、これを行えば、出力トルクτa,τbを一致できる。図3(c)がそのモータ速度ωL を低減したことによる減少トルクτDaのベクトルを表しており、この原理により出力トルクτa,τbを一致させることができる。
【0019】左右減速指令部24の処理内容を図4のフローチャートで示す。ステップ101で速度差指令ωD*を入力し、ステップ102においてその正負を判断する。ωD*が正の場合には、タイヤ2aの出力トルクτaがτbと比較して大きいので、出力トルクを一致するために、誘導モータ3aの出力トルクτa を小さくする必要がある。したがって、ステップ103,104において、誘導モータ3aのモータ速度ωL だけを低減するため、左減速指令ωDL*に速度差指令ωD*右減速指令ωDR* に0を代入している。また、ωD*が負のときは、同様に、ステップ105,106において、右減速指令ωDR* に速度差指令ωD*の絶対値を、左減速指令ωDL*に0を代入している。制御した結果、出力トルクτa,τbが一致すれば、ωD*が0となる。そのときは、減速する必要がないので、ステップ107,108では、左減速指令ωDL*、右減速指令ωDR*ともに0としている。ステップ109において、それらを出力している。以上の処理により、出力トルクを一致させることができるので、機械式の差動装置と同様の動作を2つのモータの速度制御で実現できる特徴がある。したがって、モータの速度制御を行いながら、運転者の意図した方向に安定して走行することができる。また、左右減速指令部24の処理方法を用いれば、常にモータ速度を減速する方向で、出力トルクを一致さられるので、ぬかるみや雪道における片側だけのタイヤの空転を防止できる。したがって、本実施例は差動装置の欠点を解消することもできる。なお、左右減速指令部24の処理は当然のことながら、ソフトウェアでなく、ハードウェアでも実現できる。
【0020】本実施例は二輪駆動車,全輪駆動あるいはそれらの組合わせのものでも有効であることは言うまでもない。
【0021】図5は図2における出力トルクτa,τbの代わりに、速度制御部19で得られたトルク指令τL*,τR*を用いた他の実施例である。速度制御演算部14a,14bでは、演算されたトルク指令τL*,τR*に対して、ベクトル演算部20,電流制御部21,PWM制御部22において、それぞれ誘導モータのベクトル制御演算,モータ電流をフィードバックして制御する演算,PWMパルスを発生するための演算を行う。これにより、誘導モータ3a,3bからの出力トルクτa,τb は制御応答の遅れ、ベクトル演算におけるモータ定数の誤差などを除いて、トルク指令τL*,τR*とほぼ一致した値となる。一般に、速度制御の応答はトルク制御の応答の遅れよりも遅いので、この実施例のように、トルクの差から速度指令ωL*,ωR*を補正する場合には、トルク制御応答の遅れは問題にならない。また、モータ定数の誤差はベクトル制御のパラメータを学習することにより、補正できる。そのため、速度制御部19で算出されたトルク指令τL*,τR*を用いても、誘導モータ3a,3bの出力トルクτa,τbをほぼ一致させることができる。また、左右減速指令部24には、モータ速度ωL,ωRと手動スイッチSMを入力している。この処理内容を図6のフローチャートに示す。図4に比べて、ステップ110,ステップ111を追加した点が異なる。ステップ110では、モータ速度ωL,ωRがいずれも0であるかを判断し、0である場合には、ステップ111にジャンプする。ステップ111では、手動スイッチSM が1か0かを判断している。手動スイッチSM が1のときには、ステップ107以降の処理を行う。つまり、左減速指令ωDL*,右減速指令ωDR*を0としている。このことは運転者が手動スイッチを1とした場合には、トルク差制御を行わないことを意味する。そのため、運転者が手動スイッチによりトルク差制御を行うか否かを自由に選択でき、路面状態に適したほうの制御を行えるという特徴がある。なお、モータ速度が0でないとき、つまり、自動車が走行しているときには、切り替えられないようなフローチャートになっているので、誤って操作しても無視され、安全性を考慮している。したがって、本実施例を用いれば、トルク検出器13a,13bを用いることなく、左右のタイヤの出力トルクを一致させることができるとともに、運転者の意志により運転方法を選択できる。
【0022】図7は自動車の運転状態により出力の差を制御するための他の実施例を示す制御装置の構成図である。図2に対して、図7は速度指令演算部16内のトルク差指令部25を追加した点、モータ速度ωL,ωRによる速度差指令ωD*の制御をトルク差制御部23において行う点が異なる。トルク差指令演算部25には操舵角θs,左後輪2c,右後輪2dの回転速度ωc,ωdを入力し、それらに基づき、トルク差指令τD*を演算している。このトルク差指令演算部25は図8のブロック図に示すように、操舵トルク差演算部26,車速演算部27,車速感応制御部28から構成されている。この処理方法について以下述べる。操舵トルク差演算部26は操舵角θsから比例制御,微分制御、あるいは、それらを組み合わせた制御演算を行うことにより、操舵トルク差指令τS*を算出する。次に、車速演算部27では、非駆動輪である左後輪2c,右後輪2dの回転速度ωc,ωdの平均を求めることで、車速Vとしている。車速感応制御部28においては、この車速Vにより操舵トルク差指令τS*の大きさを図8に示すように補償し、トルク差指令τD*としている。これは車両の運動制御が必要である高速時にトルク差制御の効果をより高めるためである。ここで、操舵トルク差演算部26における比例制御は旋回中の車両における内側の出力トルクを外側のそれよりも減少させることにより、自動車の旋回性を高めることができる効果がある。例えば、図9に示すように、車速がVのとき、ハンドル11を左に操舵すれば、左の誘導モータ3aの出力トルクτaが右の誘導モータ3bの出力トルクτbよりも減少し、左方向に旋回しやすくなることがわかる。また、微分制御はハンドルの操作に対する出力トルクの応答性を改善する効果がある。そのため、これらを組み合わせることにより、最適な運転性を得ることができる。
【0023】トルク差制御部23の処理は図10に示す。トルク差制御部23は速度差演算部29,速度差制限部30,外部制限部31,速度差ゲイン演算部32からなる。速度差演算部29は図2の実施例で説明した比例・積分制御を行うもので、基準速度差指令ωD0*を出力する。この基準速度差指令ωD0*に対して、速度差制限部30,外部制限部31でそれぞれ速度差ゲインkω,外部ゲインkoとの積を算出することにより、速度差指令ωD*を得ている。速度差ゲインkωは速度差ゲイン演算部32において、モータ速度ωL,ωRの差から決定しており、モータ速度差が0付近では1、所定の値以上に増加したときに0となるようにしてある。また、外部ゲインkoは運転者が外部からそのゲインを0から1の範囲で設定できるようにしたものである。したがって、速度差ゲインkω,外部ゲインkoともに、その値が1のときは出力トルクの差を所定の値にする制御を行うことになり、また、そのいずれかの値が0のときには、出力トルクの差の制御を行わないことになる。そのため、片側のタイヤがぬかるみなどでスリップしているときには、誘導モータ3a,3bのモータ速度ωL,ωRの差が増加するので、出力トルクの差の制御を自動的に停止し、通常の速度制御だけが行われる。これにより、ぬかるみに入っていないほうのタイヤの出力トルクを最大限利用してぬかるみから脱出できる。したがって、従来の機械式の差動制限装置よりも制御性のよいシステムを提供できる。また、ぬかるみや雪道の特性は一定でないので、自動的に行う方法だけでは、ぬかるみなどから脱出できない場合がある。そこで、運転者がそのトルク差制御の影響力を調整することにより、ぬかるみからのより簡単に脱出できる。
【0024】以上のことから、この実施例を用いれば、自動車の旋回性,ハンドルの操舵性を改善できるとともに、ぬかるみや雪道における空転を防止し、簡単にそこから脱出できる。
【0025】図11は図1と異なり、速度制御でなく、トルク制御により誘導モータを制御した場合の他の実施例である。図11における入力信号としては、図1と比較してトルク検出器13a,13bがない点が異なる。また、制御装置6はトルク型車両制御演算部33,トルク制御演算部34a,34b,トルク差指令演算部35から構成されており、その処理内容を表すブロック図を図12に示す。まず、トルク制御演算部34a,34bは図2の実施例における速度制御演算部14a,14bの速度制御部19を取り除いて、誘導モータ3a,3bのトルク指令τL*,τR*を直接入力したものである。したがって、トルク指令τL*,τR*に対しては、誘導モータ3a,3bの制御は開ループとなっている。また、トルク型車両制御演算部33では、基準トルク指令演算部36でアクセル踏み込み量xa,ブレーキ踏み込み量xb ,左後輪2c,右後輪2dの回転速度ωc,ωdの平均である車速Vから基準トルク指令τ*を算出した後、左トルク制限指令τDL*,右トルク制限指令τDR* を減算することにより、それぞれ、誘導モータ3a,3bのトルク指令τL*,τR*としている。左トルク制限指令τDL*,右トルク制限指令τDR*がともに0であれば、誘導モータ3a,3bはいずれもトルク指令τL*となるように制御されるので、機械式の差動装置と同様の動作が行われる。
【0026】ここで、この実施例の特徴であるトルク差指令演算部35、つまり、左トルク制限指令τDL*,右トルク制限指令τDR*の演算方法について説明する。トルク差指令演算部35には、モータ速度の差を得るためのモータ速度ωL,ωRと、車速Vを得るための回転速度ωc,ωdが入力される。これらから得られたモータ速度の差と車速Vはトルク差演算部37に入力される。図12に示すように、モータ速度の差が所定の値以上になったとき、トルク差指令τD*が発生するようになっている。また、車速Vが高速になるに従って、トルク差指令τD*も増加するようにしてある。これは高速のときモータ速度の差が増加し過ぎることなく、安全に、しかも、安定に走行するようにするためのものである。トルク制限指令演算部38では、トルク差指令τD*から誘導モータ3a,3bのいずれの出力トルクを低減するかを判断している。図4のフローチャートと同様に、トルク差指令τD*が正のときには、左トルク制限指令τDL* をトルク差指令τD*の値に、右トルク制限指令τDR* を0にして出力する。また、それが負であれば、左トルク制限指令τDL*を0に、右トルク制限指令τDR*をトルク差指令τD*の絶対値にして出力するものである。この方法により、常に、出力トルクを制限する方向で、モータ速度の差による制御を行っていることになり、安全性を高められる。
【0027】本実施例によれば、トルク制御を基本とする誘導モータ駆動の電気自動車においても、ぬかるみなどでの空転を防止することができる特徴を持つ。
【0028】以上が本発明の一実施例であり、2つのモータで前輪を独立に駆動する場合について述べたが、四輪を独立に駆動する場合に適用してもよい。また、モータの種類についても、誘導モータだけでなく、他のモータでも適用できる。さらに、制御装置の構成方法については、マイクロコンピュータによるソフトウェア処理でも、同様の機能を有するハードウェアでも制御できることは言までもない。
【0029】
【発明の効果】本発明によれば、左右のモータの速度差について速度指令を減少させる方向で制御し、そのトルク差を所定の値にすることにより、駆動輪の路面抵抗係数が左右で異なる場合にも、運転者が意図する方向に走行させることができ、ぬかるみなどの場所でも容易に脱出できる効果がある。
【出願人】 【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【識別番号】000232999
【氏名又は名称】株式会社日立カーエンジニアリング
【出願日】 平成3年3月25日(1991.3.25)
【代理人】 【識別番号】100075096
【弁理士】
【氏名又は名称】作田 康夫
【公開番号】 特開2001−177906(P2001−177906A)
【公開日】 平成13年6月29日(2001.6.29)
【出願番号】 特願2000−333521(P2000−333521)