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【発明の名称】 炭素鋼へのステンレス材料のレーザ溶接方法
【発明者】 【氏名】中西 幸紀

【氏名】福澤 斉之

【要約】 【課題】溶接金属のマルテンサイト変態や融合不良を生じることなく、常に良好な溶接が行えるようにする。

【解決手段】炭素鋼表面にYAGレーザを用いてステンレス材料を溶接する方法であって、溶接入熱Q(kJ/cm)が【数1】Q=P/Vt×60P:レーザ出力(kW)
【特許請求の範囲】
【請求項1】 炭素鋼表面にYAGレーザを用いてステンレス材料を溶接する方法であって、溶接入熱Q(kJ/cm)が【数1】Q=P/Vt×60P:レーザ出力(kW)
Vt:溶接速度(cm/min)
であり、溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さW(cm/min)が【数2】W=Vw/VtVw:ワイヤ送給量(cm/min)
Vt:溶接速度(cm/min)
であるとき、溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さWを、W≒0.22Q+0.75より大きく、W≒0.40Q+0.50より小さい適正範囲で溶接することを特徴とする炭素鋼へのステンレス材料のレーザ溶接方法。
【請求項2】 第1層第1パスの溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さWを、W≒0.55Q−0.34より大きく、W≒0.65Q−0.34より小さい適正範囲で溶接し、その後請求項1記載の適正範囲で溶接することを特徴とする炭素鋼へのステンレス材料のレーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、炭素鋼へのステンレス材料のレーザ溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】炭素鋼の表面改質の手段としてステンレス鋼溶接材料(以下ステンレス材料という)のクラッド溶接がある。クラッド溶接の方法には、エレクトロスラグ溶接や爆着溶接等があるが、現地での補修溶接に用いる場合には、TIG溶接やYAGレーザ発振器と組み合わせたワイヤ送給式によるレーザ溶接が有効である。
【0003】ステンレス材料を炭素鋼に溶接する際には異材溶接であるため、次の2点が問題となる。すなわち、融合不良のない連続的で滑らかな溶接ビードが形成できること、及び、母材との希釈により溶接金属がマルテンサイト変態を起こさないことである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】例えば、局部腐食に対して優れた耐食性をもつ316型オーステナイト系ステンレス材料を炭素鋼にクラッド溶接する場合を考えると、母材との希釈が大きいTIG溶接では、309型ステンレス材料を用いて初層を溶接し、その後初層の上に、316型ステンレス材料を用いて多層溶接する手順をとっている。
【0005】しかし、TIG溶接の場合には、大きな溶接入熱が当該部に投入されるため、フランジシール面等にこの技術を適用した場合には、フランジの変形を生じてボルトが締まらなくなる等の機器の性能を損なう問題を生じる虞れがある。
【0006】これに対してレーザ溶接は、溶接入熱が小さく母材の変形が小さいので非常に有効な方法である。
【0007】しかし、レーザ溶接においても、レーザ出力、溶接速度、ワイヤ送給量を適正に制御しなければ、溶接金属が希釈されてマルテンサイト変態を生じたり、或いは融合不良を生じるといった問題がある。
【0008】本発明は、上記課題に鑑みてなしたもので、溶接金属のマルテンサイト変態や融合不良を生じることなく、常に良好な溶接が行えるようにした炭素鋼へのステンレス材料のレーザ溶接方法を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、炭素鋼表面にYAGレーザを用いてステンレス材料を溶接する方法であって、溶接入熱Q(kJ/cm)が【数3】Q=P/Vt×60P:レーザ出力(kW)
Vt:溶接速度(cm/min)
であり、溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さW(cm/min)が【数4】W=Vw/VtVw:ワイヤ送給量(cm/min)
Vt:溶接速度(cm/min)
であるとき、溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さWを、W≒0.22Q+0.75より大きく、W≒0.40Q+0.50より小さい適正範囲で溶接することを特徴とする炭素鋼へのステンレス材料のレーザ溶接方法、に係るものである。
【0010】また、請求項2記載の発明は、第1層第1パスの溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さWを、W≒0.55Q−0.34より大きく、W≒0.65Q−0.34より小さい適正範囲で溶接し、その後請求項1記載の適正範囲で溶接するようにしている。
【0011】本発明によれば、溶接入熱と溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さとの関係において、適正範囲を特定したことにより、溶接が適正範囲で行われるように、溶接入熱と溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さの関係を自動的に制御すると、マルテンサイト変態や溶融不良を起こすことなく、炭素鋼に対してステンレス材料を良好に溶接できる。
【0012】また、適正範囲の溶接条件で溶接することで、溶接金属の希釈率を低くコントロールすることができ、このために1層でも充分な耐食性を備えたクラッド層を形成することができ、よって、母材の溶接による変形を少なくでき、また、溶接材料の節減と工事期間の短縮も図れる。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】本発明者等は、YAGレーザ溶接法を用いて、炭素鋼にステンレス材料をクラッド溶接する場合について、レーザ出力と、溶接速度と、ワイヤ送給量との関係について種々実験し、調査を行った。
【0015】レーザ出力Pと溶接速度Vtの関係から、溶接入熱Q(kJ/cm)は、【数5】Q=P/Vt×60P:レーザ出力(kW)
Vt:溶接速度(cm/min)
である。
【0016】また、ワイヤ送給量Vwと溶接速度Vtの関係から、溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さW(cm/min)は、【数6】W=Vw/VtVw:ワイヤ送給量(cm/min)
Vt:溶接速度(cm/min)
である。
【0017】そして、上記溶接入熱Qと溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さWとの関係について調査したところ、図1に示す結果を得た。図1は炭素鋼に、316型ステンレス材料をクラッド溶接した場合を示しており、線Aは、W=0.216Q+0.750を示しており、また線Bは、W=0.401Q+0.501を示している。
【0018】また、304型ステンレス材料を炭素鋼にクラッド溶接した場合も上記に略等しい結果が得られた。
【0019】図1の線Aは、線Aより溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さWの値が小さいと、マルテンサイト変態を起こす下限値を示しており、また線Bは、線Bより溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さWの値が大きいと、溶融不良を起こす上限値を示している。
【0020】従って、図1の線Aと線Bの間、即ち、W=0.216Q+0.750と、W=0.401Q+0.501との間が適正範囲Sであり、例えば適正範囲S内の点Xの標準条件で溶接を行えば、マルテンサイト変態や溶融不良を起こすことのない良好なクラッド溶接が可能になる。
【0021】このように、溶接入熱Qと溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さWとの関係において、適正範囲Sが特定されたことにより、溶接が適正範囲S内で行われるように、溶接入熱Qと溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さWの関係を自動的に制御すると、炭素鋼に対するステンレス材料の良好なクラッド溶接を安定して行うことができる。
【0022】また、平板に対する1層1パス目の溶接時における溶接入熱Qと溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さWとの関係について調査したところ、図2に線C及び線Dで示すように図1とは異なる結果が得られた。
【0023】図2の線Cは、W=0.545Q−0.338を示しており、線Dは、W=0.645Q−0.338を示している。
【0024】図2の線Cは、線Cより溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さWの値が小さいと、マルテンサイト変態を起こす下限値を示しており、また線Dは、線Dより溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さWの値が大きいと、溶融不良を起こす上限値を示している。
【0025】従って、図2の線Cと線Dの間、即ち、W=0.545Q−0.338と、W=0.645Q−0.338との間が適正範囲S’であり、従って、1層1パス目の溶接を行う際には、例えば適正範囲S’内の点Yの標準条件で溶接を行えば、マルテンサイト変態や溶融不良を起こすことのない良好なクラッド溶接が可能である。
【0026】また、図2に示した適正範囲S’で1層1パス目の溶接を行った後は、図1に示した適正範囲Sの溶接条件で溶接を続行すればよい。
【0027】上記したように、図1、図2に示す適正範囲S,S’の溶接条件で溶接することで、溶接金属の希釈率を低くコントロールすることができる。このため、1層でも充分な耐食性を備えたクラッド層を形成することができ、炭素鋼に対して1層目から316型ステンレス材料を用いても健全な溶接が可能になる。
【0028】上記したように、1層の溶接でクラッド層の形成が可能であり、よって、母材の溶接による変形を少なくできる。また、溶接材料の節減と工事期間の短縮も図れる。
【0029】
【発明の効果】本発明によれば、溶接入熱と溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さとの関係において、適正範囲を特定したことにより、溶接が適正範囲で行われるように、溶接入熱と溶接単位長さ当たりのワイヤ送給長さの関係を自動的に制御すると、マルテンサイト変態や溶融不良を起こすことなく、炭素鋼に対してステンレス材料を良好に溶接できる効果がある。
【0030】また、適正範囲の溶接条件で溶接することで、溶接金属の希釈率を低くコントロールすることができ、このために1層でも充分な耐食性を備えたクラッド層を形成することができ、よって、母材の溶接による変形を少なくでき、また、溶接材料の節減と工事期間の短縮も図れる効果がある。
【出願人】 【識別番号】000000099
【氏名又は名称】石川島播磨重工業株式会社
【出願日】 平成11年8月23日(1999.8.23)
【代理人】 【識別番号】100062236
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 恒光 (外1名)
【公開番号】 特開2001−58283(P2001−58283A)
【公開日】 平成13年3月6日(2001.3.6)
【出願番号】 特願平11−235567