トップ :: B 処理操作 運輸 :: B22 鋳造;粉末冶金

【発明の名称】 アルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法
【発明者】 【氏名】長海 博文
【氏名】梅田 高照
【課題】複雑な設備を用いず、簡便な方法で鋳造初期段階における割れ欠陥を確実に予防できるアルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法を提案する。

【解決手段】アルミニウム合金を所要形状のビレットに連続鋳造するに際し、係る鋳造過程における弾・塑性変形解析により得られる相当塑性歪み値(ε)を、当該アルミニウム合金の実測破断歪み値(εc)以下の範囲内とするように鋳造速度(V)等の鋳造条件を制御する、アルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法。また、アルミニウム合金を所要形状のビレットに連続鋳造するに際し、鋳造過程における弾・塑性変形解析により得られる相当塑性歪み値(ε)を、当該合金の固相率が0.8以下の温度範囲を除き実測破断歪み値(εc)以下の範囲内とするように鋳造条件を制御する、アルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法も含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】アルミニウム合金を所要形状のビレットに連続鋳造するに際し、係る鋳造過程における弾・塑性変形解析により得られる相当塑性歪み値(ε)を、当該アルミニウム合金の実測破断歪み値(εc)以下の範囲内とするように鋳造条件を制御する、ことを特徴とするアルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法。
【請求項2】アルミニウム合金を所要形状のビレットに連続鋳造するに際し、係る鋳造過程における弾・塑性変形解析により得られる相当塑性歪み値(ε)を、上記合金の固相率0.8以下に相当する温度範囲を除き、当該アルミニウム合金の実測破断歪み値(εc)以下の範囲内とするように鋳造条件を制御する、ことを特徴とするアルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法。
【請求項3】前記連続鋳造する際、その鋳造条件である鋳造速度(V)とビオ数(Bi)との積を冷却パラメータとし、該冷却パラメータ値を0.0055m/s以下とする、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法。尚、上記ビオ数(Bi)は、固体と流体中の熱流に対する抵抗を示す指標であって、ビレットの表面と冷却媒体との間における総括熱伝達係数(h)とビレットの半径(R)との積を、当該合金の熱伝導率(κ)で除した値(h×R/κ)である。
【請求項4】前記連続鋳造する際に、アルミニウム合金の溶湯を注湯する筒形の強制冷却鋳型からなる第一次冷却媒体と、この媒体の下側に配置したリング形のワイパーとを用い、上記第一次冷却媒体の内周面の下端のノズルから、ビレットの周表面を冷却する第二次冷却媒体を噴出し、該第二次冷却媒体の下部で上記ワイパーにより該第二次冷却媒体を外部に排出すると共に、上記第一次冷却媒体及びワイパーから下方に垂下したビレットの周表面に第三次冷却媒体を吹き付ける、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のアルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法。
【請求項5】前記ビレットの直径が300mm以上の場合においては、第二次冷却帯の縦寸法(L)を45mm以下とした、ことを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造において、鋳造初期段階での割れ欠陥を確実に回避する上記ビレットの垂直連続鋳造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、アルミニウム合金のビレットの垂直連続鋳造は図11に示すように上下が開口するリング形の強制冷却鋳型1にその上方から、図示しないスパウト及びフロートを介して、アルミニウム合金の溶湯Mを注湯し、凝固した鋳塊Cをその下端を支える下型4と共に上記鋳型1の下方に引き下ろすことにより行われている。即ち、上記鋳型1の下方の開口部からその内部に下型4を挿入した状態で注湯が開始され、鋳型1と下型4に囲まれた空間内に所定量の溶湯Mが供給され且つその表面が凝固した段階で、下型4と共に鋳塊Cが鋳型1の下方に引き下ろされる。そして、鋳型1から引き下ろされた鋳塊Cは、その周表面に鋳型1内の冷却水Wがノズル2から下向き円錐状に噴射され、強制冷却されてビレットBとなる。尚、図11中の符号Fは溶湯Mと鋳塊Cとの凝固界面を示す。
【0003】ところで、上記鋳造の初期段階において、鋳型1から引き下ろされた鋳塊Cの下端部は冷却水Wにより急冷され、当該部分の温度が急降下し、鋳塊Cの垂直方向に沿う温度勾配が高くなる結果、鋳塊Cの内部に熱応力を誘発する。同時に鋳塊Cの周表面と中心部との温度勾配も高くなり、同様に熱応力を生じる。更に、鋳塊Cは下型4との接触によっても急冷され、同様に熱応力を生じる。これらの熱応力は、図11に示すように、鋳塊Cの下端部に熱間割れ6を発生させる原因になる。また、割れ6により引張り応力が生じ、鋳塊Cの内部に縦割れが生じ易くなる。更に、鋳塊Cと下型4の間に隙間8を生じると、鋳塊Cから下型4への放熱が妨げられ、鋳塊Cの下端部が再溶解する再溶解部分から割れが生じることもある。尚、鋳造の初期段階を終えた定常段階になると、上記鋳型1内に供給された溶湯Mは、鋳型1との接触により冷却され、その周表面に厚さ約10mm程の薄い凝固層を順次形成し、垂直方向に長いビレットBとなる。
【0004】以上の鋳塊の鋳造初期段階の割れ等を防止して、鋳塊品質を改善するため、次のような方法が提案されている。即ち、鋳型内の湯面レベルを低くして鋳造する低湯面レベル鋳造や、鋳造速度を減少させる鋳造方法である。しかし、これらの方法では湯漏れが発生する危険がある。更に、冷却水量を減らす方法もあるが、これによる冷却速度の調整には限界がある。従って、何れの方法によっても、鋳造初期段階における割れ等の欠陥を防ぐことは、品種によっては困難であった。
【0005】
【発明が解決すべき課題】本発明は、以上に説明した従来の技術における問題点を解決し、複雑な設備を用いず、簡便な方法で鋳造初期段階における割れ欠陥を確実に予防できるアルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法を提案することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するため、垂直連続鋳造の初期段階におけるビレットの内部歪みと実測破断歪みとを比較することに着想して得られたものである。即ち、本発明のアルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法は、アルミニウム合金を所要形状のビレットに連続鋳造するに際し、係る鋳造過程における弾・塑性変形解析により得られる相当塑性歪み値(ε)を、当該アルミニウム合金の実測破断歪み値(εc)以下の範囲内とするように鋳造条件を制御する、ことを特徴とする。これによれば、予め計算で得られる相当塑性歪み値(ε)を基準とし、これが実測破断歪み値(εc)以下になるように、鋳造速度や冷却速度等の鋳造条件を制御することにより、初期段階での割れ欠陥を確実に防止することが可能となる。尚、相当塑性歪み値(ε)は、凝固過程におけるビレット各部に生じる最大相当塑性歪み(計算値)であり、実測破断歪み値(εc)は、当該合金の固液共存域及び固相域における高温引張試験で得られた破断歪み(実測値)である。
【0007】本発明のもう一つのアルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法は、アルミニウム合金を所要形状のビレットに連続鋳造するに際し、係る鋳造過程における弾・塑性変形解析により得られる相当塑性歪み値(ε)を上記合金の固相率0.8以下に相当する温度範囲を除き、当該アルミニウム合金の実測破断歪み値(εc)以下の範囲内とするように鋳造条件を制御する、ことを特徴とする。
【0008】これによれば、冷却温度域のうち固相率が0.8以下の温度範囲では相当塑性歪み値(ε)が実測破断歪み値(εc)を越え、変形による微細な割れが生じても、残留溶湯が係る割れ目内に浸入し、当該割れが治癒され得る。従って、上記固相率0.8以下に相当する温度範囲内は例外とし、且つそれ以外の温度域では原則通り相当塑性歪み値(ε)を、実測破断歪み値(εc)以下の範囲内とするように鋳造条件を制御する。これによって、アルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造の初期段階における割れ欠陥を確実で且つ精緻にして防止することが可能となる。
【0009】また、前記連続鋳造する際、その鋳造条件である鋳造速度(V)とビオ数(Bi)との積を冷却パラメータとし、該冷却パラメータ値を0.0055m/s以下とする、アルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法が含まれる。尚、上記ビオ数(Bi)は、固体と流体中の熱流に対する抵抗を示す指標であって、ビレットの表面と第一次冷却媒体、第二次冷却媒体、及び/又は、第三次冷却媒体との間における総括熱伝達係数(h)とビレットの半径(R)との積を、当該アルミニウム合金の熱伝導率(κ)で除した値(h×R/κ)である。上記のように、冷却パラメータを適切に選択することにより、前記相当塑性歪み値(ε)を実測破断歪み値(εc)以下の範囲内に保ちつつ、確実に垂直連続鋳造が行えるので、割れ欠陥のないアルミニウム合金ビレットを確実に鋳造することができる。
【0010】上記の具体的な発明態様として、特に、前記連続鋳造する際に、アルミニウム合金の溶湯を注湯する筒形状の強制冷却鋳型からなる第一次冷却媒体と、この媒体の下側に配置したリング形のワイパーとを用い、上記第一次冷却媒体における内周面の下端のノズルから、ビレットの周表面を冷却する第二次冷却媒体を噴射し、該第二次冷却媒体の下部で上記ワイパーにより該第二次冷却媒体を外部に排出すると共に、上記第一次冷却媒体及びワイパーから下方に垂下したビレットの周表面に第三次冷却媒体を吹き付ける、アルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法が含まれる。この多段冷却鋳造方法によれば、ビレット内部の相当塑性歪みを緩和できるので、ワイパーのない状態で割れを生じた鋳造速度による場合や、大径のビレットを鋳造する場合であっても、アルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造の初期段階における割れ欠陥を確実に防止することができる。
【0011】加えて、前記ビレットの直径が300mm以上の場合においては、第二次冷却帯の縦寸法(L)を45mm以下とした、アルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法が含まれる。これによれば、ビレット各部の相当塑性歪み値(ε)を、実測破断歪み値(εc)よりも小さくすることが容易にできるので、ビレットの割れ欠陥を確実に防止することができる。尚、上記第二次冷却帯の縦寸法(L)とは、前記鋳型の下端から噴出する第二次冷却媒体が、ビレット表面に当たる上端の位置からワイパーの下端(ワイパーにおける水平片の上端)までの距離を指す。
【0012】
【発明の実施の形態】以下において本発明の実施に好適な形態を図面と共に説明する。図1は、一般的なアルミニウム合金ビレットの垂直連続鋳造方法を示す。図示のように略円筒形状であり垂直断面が矩形で中空構造の強制冷却鋳型(第一次冷却媒体)1内に、その内側に立設した注湯筒10とこれにガイドされたフロート兼用の分流板12とを介してアルミニウム合金の溶湯Mを鋳込む。上記鋳型1における内周面の下端には、斜め下向きにスリット状のノズル2が形成され、ここから噴射される冷却水W(第二次冷却媒体)により鋳塊Cの周表面を冷却する。溶湯Mは鋳型1及び冷却水Wにより冷却され、凝固界面Fを経て、鋳塊Cとなる。係る鋳塊Cは、予め鋳型1中に挿入されていた下型4をその昇降軸5と共に、下降させることにより、鋳型1の下方に引き下ろされてビレットBとなる。
【0013】また、図2は、前記鋳型1の下側に平面視でリング形で断面略L字形のワイパー3を配置した状態を示し、その外側には冷却水Wの排水孔3aを形成している。係るワイパー3を用いて、第二次冷却媒体である冷却水Wを外部に排出し、係る冷却水Wによる冷却速度を調整し、且つその下側で鋳塊Cの周表面に例えば工業用エアa(第三次冷却媒体)を吹き付けることにより、鋳塊Cの冷却速度を制御する多段冷却鋳造を行うことができる。従って、鋳塊C内部における熱応力による歪みを緩和でき、ビレットBの初期鋳造段階における割れ欠陥を確実に防止することが可能となる。図2中の符号Lは、第二次冷却帯の縦寸法を示す。尚、第二次・第三次冷却媒体は、上記の形態に限定されず、適切な冷却パラメータが得られるような他の媒体や、それらの組合せを選定しても良い。
【0014】本発明では、図1及び図2に示した鋳造装置を用いることを前提とし、鋳造されるビレットBについて、凝固熱及び熱変形応力解析を行うことにより、ビレットB内部の相当塑性歪み(ε)を算出する。そして、この相当塑性歪み(ε)のビレットB内部における分布の推移を検討した結果、後述するように、鋳造初期段階におけるビレットBの割れ欠陥は、その鋳込み先端(下端)の中心部から発生することを見出した。尚、相当塑性歪み値(ε)は、凝固過程におけるビレットBの各部に生じる最大相当塑性歪み(計算値)である。
【0015】係る知見に基づき、鋳造速度を変えて、ビレットBの鋳込み先端の各部において、係る先端からの距離ごとに応じた相当塑性歪み(ε)と、当該合金組成を有するビレットBの破断歪み(εc)の測定値とを比較した。この結果、原則として予め解析で得られた相当塑性歪み(ε)が実測破断歪み(εc)よりも小さい場合割れ欠陥が発生しないことを見出した。尚、実測破断歪み値(εc)は、400℃から全固液共存域の温度範囲での引張試験で得られた破断歪み(実測値)である。また、アルミニウム合金において固相率が低い範囲即ち固相率が0.8以下の範囲では溶湯Mがある程度残留しているため、相当塑性歪み(ε)が実測破断歪み(εc)より大きくても割れを生じにくいことも見出した。これは、熱変形により生じた微細な割れ内に、残留する溶湯Mが浸入することによって、割れが修復されるためである。
【0016】また、上記の適正な範囲は、鋳造条件であるアルミニウム合金の鋳造速度(V)とビオ数(Bi)との積である冷却パラメータが、0.0055m/s以下となるように鋳造条件を制御することにより求められる。尚、上記ビオ数(Bi)は、固体と流体中の熱流に対する抵抗を示す指標で、ビレットの表面と第一次冷却媒体(鋳型1)、第二次冷却媒体(冷却水W)、及び/又は、第三次冷却媒体(エアa)との間における総括熱伝達係数(h)とビレットの半径(R)との積を、当該合金の熱伝導率(κ)で除した値(h×R/κ)である。従って、上記冷却パラメータが、0.0055m/s以下となる総括熱伝達係数(h)を得るべく、第一次冷却媒体、第二次冷却媒体、及び/又は、第三次冷却媒体の種類や流量の組合せ等を、事前に選択・計算することにより、ビレットの適正な鋳造条件を容易に設定することができる。
【0017】
【実施例】以下において、本発明の具体的な実施例について説明する。先ず、前記図1に示した垂直連続鋳造装置によって得られる直径325mmの6000系のアルミニウム合金のビレットBに対して、凝固熱解析と、これにて得られる温度場を温度荷重としてビレット鋳造過程の熱変形応力解析により、内部相当塑性歪み(ε)を計算した。
【0018】凝固熱解析は、上記ビレットBの鋳込み先端から600mmを対象とし、幾何学的および熱的に軸対称と仮定する軸対称モデルとした。また、解析領域は、ビレットBのメタル(溶湯M+鋳塊C)鋳型1及び下型4を含めビレットBの半径方向で165mm軸方向で675mmとし両方向共に5mm間隔で等分割した。更に、解析手法は、直接差分外節点法により鋳塊Cの凝固過程における非定常熱伝導解析を行った。上記合金の凝固潜熱は、示差走査熱量測定器(DSC)を用い、室温から720℃までの範囲で測定した。また、熱伝導率の測定は、レーザフラッシュ法を用いて、室温、300℃、及び600℃の三点で行った。係る凝固解析で使用したビレットB、鋳型1、及び下型4の各物性値を表1に示す。
【0019】尚、固相率は、発明者らが提案した方法で固相率と温度との関係により計算した。これは、断熱型比熱測定装置(真空理工(株)製)を用いて、室温から973Kまでの比熱を連続的に測定し、測定した固液共存域における比熱−温度曲線から固相率を求める方法である。この場合、ある温度における固相率(fs)は、その温度を通過した際に吸収した熱量(Si)を全吸収熱量(Stotal)で割った値とする。図3に、比熱−温度曲線から計算したあるアルミニウム合金の固相率と温度の関係の一例を示す。即ち、図3中ではハッチングで示す上記熱量(Si)と全吸収熱量(Stotal)を示し且つ図3中の(注)内にこれらの算出式(※1,※2)を示した。
【0020】
【表1】

【0021】次に、熱変形応力解析を行った。これの対象もメタル(溶湯M+鋳塊C)、鋳型1、及び下型4であるが、鋳型1と下型4は剛体と仮定し熱変形を考慮しない。解析対象は、ビレットBにおける鋳込み先端から鋳造長さ300mmまでとし、幾何学的および力学的に軸対称と仮定し、二次元軸対称弾塑性モデルとした。また、解析コードは、有限要素法汎用解析プログラムANSYS Ver5.4であり、要素としてメタル領域は二次元構造ソリッド(PLANE42)を、鋳型1と下型4は二次元ポイント(CONTACT12)を用いた。
【0022】以上の各解析を基にして、弾塑性解析で計算したビレットB内部の相当塑性歪み(ε)の分布を図4に示す。図4(A)に示すように、鋳込み開始から100mmまでの範囲では、相当塑性歪み(ε)は当該ビレットB1の表層(周面)近傍で最大となっている。また、図4(B),(C)に示すように鋳込み長さの増加に伴って溶湯Mの凝固収縮により、相当塑性歪み(ε)の最大部分は該ビレットB2,B3の中心部へ移動する。特に、鋳造長さが200mmの時点において、鋳込み先端から40〜70mmの中心部の位置で相当塑性歪み(ε)の値が最大となった。
【0023】これは、鋳型1からの冷却水Wの急冷により、ビレットBにおける表層部と中心部との温度が大きくなるため、表層部及び中心部間における剛性の差も大きくなり、中心部における凝固収縮が表層部に阻害された結果、中心部に大きな引張歪みが発生したことによる。更に、図4(B),(C)に示すようにビレットB2,B3の鋳込み長さに拘わらず、相当塑性歪み(ε)の最大部分は、何れも鋳込み先端から約40〜70mmの範囲内で発生している。これにより、ビレットBの割れは、鋳込み先端の中心部から発生する危険が高いことが判る。
【0024】次いで、図5(A)に示すように、前記図1の鋳造装置及び前記アルミニウム合金を用い、鋳造速度(V)を42mm/分とし、ビレットBの中心部における鋳込み先端から30〜120mmの各位置における相当塑性歪み(ε)の計算値と、引張試験で得られたビレットBの破断歪み(εc)とを、鋳造時における温度履歴のグラフで示した。このグラフで示すように、前記解析で計算された相当塑性歪み(ε)は、各位置において全て破断歪み(εc)よりも小さかった。従って、上記鋳造速度で鋳造したビレットBには、割れが発生しないことが予測できる。
【0025】また、図5(B)に示すように、前記同様の条件で且つ鋳造速度(V)を50mm/分とし、ビレットBの前記と同じ位置における相当塑性歪み(ε)の計算値と、破断歪み(εc)の変化をグラフとした。図5(B)のグラフに示すように、鋳込み先端から50,100mmの位置における相当塑性歪み(ε)は、それぞれ611℃、614℃の時点で破断歪み(εc)よりも大きくなったが、その他の温度及びその他の位置では相当塑性歪み(ε)は全て破断歪み(εc)よりも小さくなった。ところで、破断歪み(εc)よりも相当塑性歪み(ε)が大きくなった上記50,100mmの位置では本来割れが発生する筈である。しかし、実際の鋳造では、鋳造速度50mm/分でも得られたビレットBには割れは認められなかった。
【0026】上記相当塑性歪み(ε)が破断歪み(εc)よりも大きくなった状態が生じた温度範囲は固相率0.8以下(具体的には612℃〜620℃)の範囲にある。このため、変形によりビレットBに微細な割れが生じても、上記温度範囲では固相率が低く、残留する溶湯Mがある程度存在しているので、係る溶湯Mが上記割れ内に浸入するため、割れが修復されたものである。換言すれば、固相率が0.8以下となる温度範囲では、例外として相当塑性歪み(ε)が破断歪み(εc)よりも大きくなっても割れの修復は可能である。しかし、これ以下の温度域では原則通り相当塑性歪み(ε)を破断歪み(εc)よりも小さくなるように、鋳造速度等を選択することによって、ビレットBの割れ欠陥を確実に予防することが可能となる。
【0027】更に、図6に示すように、前記同様の条件で且つ鋳造速度(V)を55mm/分とし、ビレットBの前記と同じ位置における相当塑性歪み(ε)の計算値と、ビレットBの破断歪み(εc)の変化をグラフとした。図6のグラフに示すように鋳込み先端から30,50,70,100mmの位置における相当塑性歪み(ε)はそれぞれ615℃614℃594℃613℃の時点で破断歪み(εc)よりも大きくなったが、その他の温度及びその他の位置では相当塑性歪み(ε)は全て破断歪み(εc)よりも小さかった。
【0028】さて、破断歪み(εc)よりも相当塑性歪み(ε)が大きくなった上記30,50,100mmの位置における温度では固相率が0.8以下であるため、本来発生する割れが治癒され得ると予測できる。一方、上記70mmの位置での相当塑性歪み(ε)が破断歪み(εc)よりも大きくなった温度域は対応する固相率が0.88と高いため、割れの治癒は不可能になると予測できる。そして、実際の鋳造において、鋳造速度55mm/分で得られたビレットBの上記位置付近には割れ欠陥が認められ、上記予測の正確さが裏付けられた。また、割れを有する上記ビレットBの破断面を観察した結果、この割れは固液共存域で発生していたことが判明し、上述の予測通りであった。
【0029】図7は、前記図1の鋳造装置と前記アルミニウム合金を用いた場合において、鋳造条件である鋳造速度(V)とビオ数(Bi)との積である冷却パラメータを変化させた際、ビレットBの中心部における相当塑性歪み(ε)と実測破断歪み(εc)の比(ε/εc)の変化を示すグラフである。尚、ビオ数(Bi)は、固体と流体中の熱流に対する抵抗を示す指標で、ビレットの表面と第一次冷却媒体、第二次冷却媒体及び/又は第三次冷却媒体との間における総括熱伝達係数(h)とビレットの半径(R)との積を当該合金の熱伝導率(κ)で除した値(h×R/κ)である。
【0030】図7のグラフに示すように、冷却パラメータ(V×Bi)の増加に伴って、上記比(ε/εc)も増加する。そして、比(ε/εc)が1である冷却パラメータ(V×Bi)は上記グラフ中に破線で示す0.0055m/sである。従って、係るパラメータ(V×Bi)を0.0055m/s以下とするよう鋳造速度等の条件を制御することにより、垂直連続鋳造方法において、アルミニウム合金のビレットBの割れ欠陥を確実に予防することができる。尚、図5(A),(B)及び図6に示した各グラフを含め、前記図1の鋳造装置とアルミニウム合金を用い、鋳造速度(V)及び冷却パラメータ(V×Bi)を変化させた実施例1〜3及び比較例1〜3を表2に示す。表2の結果においても、前述した鋳造速度(V)と割れの関係や上述した冷却パラメータ(V×Bi)と割れの関係が裏付けられる。
【0031】
【表2】

【0032】前記図2のワイパー3を併有する鋳造装置及び前記と同じアルミニウム合金を用い第二次冷却帯の縦寸法L(前記鋳型1の下端から噴出する第二次冷却媒体たる冷却水WがビレットB表面に当たる上端の位置からワイパー3における水平片の上端までの距離)と冷却パラメータ(V×Bi)を変化させた多段冷却鋳造方法を行った。図8〜図10は係る鋳造方法において、ビレットBの中心部における鋳込み先端から20〜140mmの各位置における相当塑性歪み(ε)の計算値と、実際に鋳造したビレットBにおける破断歪み(εc)の、鋳造時における温度履歴のグラフで示す。
【0033】図8のグラフに示すように、鋳造速度が55mm/分でも、第二次冷却帯の縦寸法Lを30mmとした徐冷の連続鋳造方法では相当塑性歪み(ε)は各位置において全て破断歪み(εc)よりも小さくなり冷却パラメータも0.0051m/sで、0.0055m/s未満となっている。そして、実際に上記と同じ条件で鋳造したビレットBに割れは生じなかった。即ち第二次冷却帯の縦寸法L(ワイプオフ位置)を30mmとすると、鋳型1からの冷却水Wによる急冷が緩和されるため、ビレットBの中心部における相当塑性歪み(ε)が破断歪み(εc)よりかなり小さくなったため、割れなかったものである。
【0034】一方、図9のグラフに示すように、鋳造速度が55mm/分で且つ第二次冷却帯の縦寸法Lを45mmとした弱冷の連続鋳造方法では冷却パラメータ(V×Bi)が0.0054m/sとなり、相当塑性歪み(ε)は、鋳込み先端から30mm〜140mmの各位置で破断歪み(εc)よりも全て小さくなった。しかも、実際に上記と同じ条件で鋳造したビレットBでは、割れは生じなかった。これは、ワイパー3の縦寸法Lが45mmでは冷却水Wによる急冷がかなり抑制されるため、ビレットB中心部の相当塑性歪み(ε)が破断歪み(εc)より大きくなっても割れなかったものである。
【0035】更に、図10のグラフに示すように、鋳造速度が55mm/分で且つ第二次冷却帯の縦寸法Lを50mmとした弱冷の連続鋳造方法では冷却パラメータ(V×Bi)が0.0061m/sとなり、相当塑性歪み(ε)は鋳込み先端から120mmと140mmの位置で破断歪み(εc)よりも大きくなった。また、実際に上記と同じ条件で鋳造したビレットBには、割れが生じていた。これは、上記縦寸法Lが50mmでは冷却水Wによる急冷があまり緩和されないため、ビレットB中心部の相当塑性歪み(ε)が破断歪み(εc)より大きくなり割れたものである。以上のように、前記図6のグラフの場合と同じ鋳造速度55mm/分で鋳造したビレットBでも、第二次冷却帯の縦寸法Lを調整する等によって冷却パラメータを制御することにより、ビレットBの割れ発生を予防し得ることが判る。割れを防ぐための係る第二次冷却帯の縦寸法Lは、ビレットBのサイズにもよるが、直径300mm以上のビレットBに対し第二次冷却媒体として冷却水Wを使用する場合は、45mm以下にすることが望ましい。
【0036】尚、本発明の垂直連続鋳造方法は、前記合金以外の6000系や7000系等のアルミニウム合金を適用する場合にも、その高温引張試験での破断歪みを実測することにより可能である。また、冷却パラメータ値を0.0055m/s以下の範囲に設定すればこれを構成する鋳造速度(V)を鋳込み開始以降にて適宜変化させることも可能である。例えば、ビレットBの径、鋳造速度(V)、或いは冷却水量等を変化させた場合でも、冷却パラメータを上記値以下の範囲に設定すれば、鋳造割れを防止し得る。
【0037】
【発明の効果】以上において説明したように、本発明の垂直連続鋳造方法によれば、実測破断歪み値(εc)を基準とし、予め計算により得られる相当塑性歪み値(ε)が実測破断歪み値(εc)を上回らない範囲で、鋳造速度や冷却速度等の鋳造条件を制御することにより、割れの主原因である初期段階でのビレットの割れ欠陥を確実に防止することが可能となる。従って、既存のアルミニウム合金は勿論、種々の用途に応じた開発アルミニウム合金についても、割れのないビレットとして、効率良く垂直連続鋳造を行うことができる。
【出願人】 【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
【出願日】 平成11年12月28日(1999.12.28)
【代理人】 【識別番号】100098615
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
【公開番号】 特開2001−191150(P2001−191150A)
【公開日】 平成13年7月17日(2001.7.17)
【出願番号】 特願平11−375128