トップ :: A 生活必需品 :: A61 医学または獣医学;衛生学




【発明の名称】 脛骨トレイ
【発明者】 【氏名】黒坂 昌弘

【氏名】高野 恭寿

【氏名】難波 ▲吉▼雄

【要約】 【課題】回旋安定性を確保するとともに、従来困難であった術後の骨と脛骨トレイとの固定状態の確認を容易に成すことができる人工膝置換手術用脛骨トレイの提供。

【解決手段】トレイ部3、トレイ部3の下面から下方に一体に延在するステム部4、トレイ部3の下方にステム部4の側面から一体に外径方向に延在する少なくとも一つの板状のフィン5を備え、切除した脛骨近位の骨髄腔に装着する脛骨トレイ1において、フィン5に、トレイ部3下面に接する貫通穴6が設けられている。また、フィン5の投影像のステム部4中心から端部までの長さWmmが、前記投影像方向でのステム部4中心からトレイ部外周縁8までの長さLmmに対して、L/2≦W≦(L−2)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 膝関節補綴具の一部品であり、トレイ部、該トレイ部の下面から下方に一体に延在するステム部、トレイ部の下方に該ステム部の側面から一体に外径方向に延在する少なくとも一つの板状のフィンを備え、旋回抵抗性に優れた切除した脛骨近位の骨髄腔に装着する脛骨トレイにおいて、前記フィンに、トレイ部下面に接する貫通穴もしくはスリットが設けられていることを特徴とする脛骨トレイ。
【請求項2】 上記フィンの投影像のステム部中心から端部までの長さWmmが、前記投影像方向での前記ステム部中心からトレイ部外周縁までの長さLmmに対して、L/2≦W≦(L−2)である請求項1記載の脛骨トレイ。
【請求項3】 フィンに設けられている貫通穴もしくはスリットのトレイ部下面に添う長さが5mm以上である請求項1又は2に記載の脛骨トレイ。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、人工膝コンポーネントにおける脛骨トレイに関する。
【0002】
【従来の技術】膝関節の運動は複雑な動きを伴うものであって、大腿骨と脛骨の関節面には、回転力、軸力及び剪断力等の力が複雑に加わる。従って、それらの関節面を置換するために用いた人工膝関節にも同様な力が加わる。それらの力に適度に抗する人工膝関節設計にしておかなければ、骨と人工膝関節の境界面が不安定となり、人工膝の緩み、沈み込み等が生じて、膝運動に障害を来たすものであり、場合によっては人工膝を再置換しなければならなくなる。
【0003】既存の脛骨トレイにおいて、上部のトレイ部と下部のステム部とが分離できるようにした分離型脛骨トレイにおいては、回転力に抗する力が弱くて、時にはステム部が回転して外れる可能性もある。また、ステム部とトレイ部との回転止め措置として突起とこれに対応する切り欠きとを設けたものがあるが、ステム部が回転した場合、この突起と切り欠きとが衝突して、沈み込み及び緩みの要因となる金属粉等が排出される恐れがある。
【0004】上述する各力に適度に抗して人工膝関節の安定性を確保する方法として、特に回転力に抗するためには、従来の脛骨トレイは、トレイ部とステム部とを一体化するとともに、トレイ部の下方に複数の丸状の突起を設け、また、外径方向に板状のフィンを付設したり(特開昭62−139649号公報、特開平 3−267055号公報、特開平 5−269161号公報、特表平 9−511675号公報参照)、フィンを付設した上に骨侵入用の貫通穴を設けたり(特開昭64− 68256号公報参照)、またはトレイ部の裏面を一部くり抜いて骨もしくはセメントがそのくり抜き部分に侵入し、回転抵抗となるようにした人工補綴物(特開平 8−243117号公報参照)もある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】一般的に骨は、外周に硬い皮質骨、中心部に比較的軟らかい海綿骨で構成されているので、フィン方式によれば回転への抵抗力が増し、安定性の向上が図れることが知られている。図4に、従来例1の脛骨コンポーネントが示されるが、脛骨トレイ11において、フィン15はトレイ部13及びステム部14と一体化されていて、トレイ部13の下面から隙間が存しない形態で垂下し外径方向に延在して設けられている。このような脛骨トレイ11は回転に対する抵抗力が強いことが判っているが、レントゲン撮影した場合、脛骨トレイ11のステム部14中心部分において骨もしくはセメントと脛骨トレイとの固定状態が判断し難い問題があった。
【0006】一方、図5には、従来例2の脛骨コンポーネントが示されるが、図示の脛骨トレイ11は、トレイ部13とステム部14とがステム軸16で連結されたステム分離型脛骨トレイであって、ステム部14とフィン15とが一体化されるとともに、トレイ部13の下方に突起18が突設される一方、ステム部14の前記突起18に対応する個所に係合用の切り欠き19が凹設された構造である。このような脛骨トレイ11はトレイ部13とステム部14との間にスリット17が形成されるため、レントゲン撮影によって、脛骨トレイ11のステム部14中心寄りにおける骨もしくはセメントと脛骨トレイとの固定状態が判断できる利点があるが、突起18と切り欠き19との係合では、回旋抵抗力とインプラント自体の安定性とに限界があるのが問題である。
【0007】このような従来の各例が有する問題点に鑑みて、本発明者等は上記フィン方式による最適な脛骨トレイ形状について種々検討を重ねてきた。その結果、脛骨トレイのフィンを脛骨の硬い皮質骨付近まで延長すると回転への抵抗力が増加し、一層の安定性向上が図れることが判った。一方、術後にレントゲン撮像装置で脛骨トレイと骨もしくは骨セメントの固定状態を容易に判定できることは、脛骨トレイ緩み、沈み込み等に対する知見が速やかに得られ、臨床的に適切な処置を採らせるために重要な点であることを再認識するに至った。
【0008】しかしながら、脛骨トレイのフィンは脛骨コンポーネントの中心軸付近から外径方向に伸びているのが一般的な構造であって、このため、骨と人工補綴物の境界面における固定状態をレントゲンで確認する場合、脛骨トレイがTi合金、Co−Cr−Mo合金などの金属製もしくはアルミナ等のセラミックス製でてきていてX線を透過し難い性質のため、フィンを長くすればするほど特に、中心付近の脛骨トレイと骨もしくはセメントの固定状態を容易に確認できなかったのである。
【0009】本発明は、このような従来の脛骨トレイが有する問題点の解消を図るべく成されたものであり、従って本発明の目的は、人工膝置換手術における脛骨トレイにおいて、回旋安定性を確保するとともに、従来困難であった術後の骨と脛骨トレイとの固定状態の確認を容易に成すことができる改良された脛骨トレイを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の目的を達成するため以下に述べる構成としたものである。即ち、本発明に係る請求項1の発明は、膝関節補綴具の一部品であり、トレイ部3、トレイ部3の下面から下方に一体に延在するステム部4、トレイ部3の下方にステム部4の側面から一体に外径方向に延在する少なくとも一つの板状のフィン5を備え、旋回抵抗性に優れた切除した脛骨近位の骨髄腔に装着する脛骨トレイ1において、フィン5に、トレイ部3下面に接する貫通穴6もしくはスリット7が設けられていることを特徴とする脛骨トレイである。
【0011】また本発明に係る請求項2の発明は、上記請求項1記載の脛骨トレイにおいて、フィン5の投影像のステム部4中心から端部までの長さWmmが、前記投影像方向でのステム部4中心からトレイ部外周縁8までの長さLmmに対して、L/2≦W≦(L−2)である構成としたことを特徴とする。
【0012】また本発明に係る請求項3の発明は、上記請求項1又は2に記載の脛骨トレイにおいて、フィン5に設けられている貫通穴6もしくはスリット7のトレイ部3下面に添う長さが5mm以上である構成としたことを特徴とする。
【0013】本発明に従えば、フィン5の長さが長くて回旋抵抗力に優れるため、脛骨トレイ1と骨の固定性の向上が図れ、かつ、フィン5に貫通穴6もしくはスリット7が明けられているために、レントゲンでは従来確認し難かった脛骨トレイ1と骨との境界面の間を容易に観察することができる。そのため、骨成長、セメントと骨との接合状況等がわかり、臨床的に人工膝の緩み、沈み込み等が確認でき、適切な臨床的処置が行える。
【0014】ここで、フィンの長さは、長すぎると皮質骨を割ってしまうことがあり、骨折の起点となるなど問題を起こす可能性もあるため、皮質骨にかからないものが望ましい。本発明はレントゲンでの確認が容易なことからX線を透過し難いセラミックス製脛骨トレイ等にも同様に有効である。また、フィン5がトレイ部3及びステム部4と一体になっているため、強度的な安定性に優れたインプラントを提供できる。さらに、脛骨トレイ1と骨との安定性を向上させるために、フィン5の角度θを70°から180°にすることが望ましい。
【0015】また本発明に従えば、フィン5に設けられている貫通穴6もしくはスリット7のトレイ3部下面に添う長さが5mm以上であることが好ましく、これによりセメントと骨との接合具合が良好に観察できる。スリットの場合、より好ましくは、ステム部4を除いた部分にスリットが形成されている形態であり、また貫通穴の場合は、ステム部4及びフィン5の先端から2mmを除いた範囲に形成されている形態である。なお、貫通穴6をトレイ部3下面に添う方向に複数個設ける形態も旋回抵抗性を確保できるため好ましいことである。
【0016】ここで、貫通穴6もしくはスリット7の上下方向の幅は特に限定されるわけではないが、1mm以上あれば接合具合を十分に観察でき、本発明の目的を達成することができる。また、セメントを使用する手術手法の場合は、インプラント、セメント及び骨のそれぞれの接合状態ならびに骨の成長を確認するために5mm以上に設定するのが好ましい。
【0017】なお、本発明において、貫通穴6の大きさは、骨もしくはセメントと脛骨トレイとの接合状態が観察できる点で大きいほど良いが、フィン5がトレイ部3下面に接する部分を除いて、フィン5の幅を2mm以上とすることにより、課題とする回旋安定性を良好に確保でき、目的を好適に達成することができる。また、スリット7の上下方向の幅についても、接合状態が観察できる点で大きいほど良いが、スリット7の上下方向の幅が大きいとフィン5の旋回抵抗性を減少させるため両者のバランスで設定する必要がある。好ましい範囲は、フィンの大きさ、形で異なるが、1〜10mmの間で設定すると、観察の容易さと旋回抵抗性が両立でき良好な結果が得られる。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施形態を、添付図面を参照しながら具体的に説明する。図1には、本発明の第1の実施の形態に係る脛骨コンポーネントの構造の概要が示されていて、(イ)は断面で示す正面図であり、(ロ)は同じく右側面図である。
【0019】図示の脛骨コンポーネントは、主に脛骨トレイ1とこの脛骨トレイ1に組み込まれる脛骨インサート2の二つの部材により構成される。脛骨トレイ1は、耐錆性を有し、生体に優しいステンレス、チタン合金及びCo−Cr合金等で作られている。これらの金属等以外にセラミックスで作られる場合もある。一方、脛骨インサート2は耐摩耗性が高いポリエチレン材料、例えばUHMWPE材などで作られる。なお、脛骨コンポーネントは、金属製脛骨トレイを用いないでコンポーネント全体がポリエチレン材料で一体的に形成されたものもある。
【0020】脛骨トレイ1は、トレイ部3と、該トレイ部3の下面から下方に延在するステム部4と、該ステム4部の側面及びトレイ部3の下面の略中央部から該トレイ部3の外周縁に向けた外径方向に延在する板状のフィン5とを一体的に備えてなるとともに、フィン5にはトレイ部3下面に接する貫通穴6が貫設されている。この貫通穴6は、X線が容易に通過するため、この脛骨トレイ1を切除した脛骨近位の骨髄腔に装着した際、骨もしくはセメントと脛骨トレイ1との固定状況が貫通穴6を通じて容易に確認できる。
【0021】なお、貫通穴6の形態としては、トレイ部3下面に添う長さを5mm以上とすれば接合具合を良好に観察できる点で好ましいことであって、これは前述した通りである。
【0022】図2には、本発明の第2の実施の形態に係る脛骨コンポーネントの構造の概要が示され、(イ)は断面で示す正面図、(ロ)は同じく右側面図である。この図2に示される実施形態において、前記第1実施形態に類似し、対応する部材については同一の参照符号を付して説明を省略する。この第2の実施形態においては、前記貫通穴6に替えてスリット7が開けられている構造が第1実施形態と異なる点であって、このスリット7が成す作用については、貫通穴6と同様であり、骨もしくはセメントと脛骨トレイ1との固定状況が容易に確認できる。なお、スリット7のサイズに関しても貫通穴6における条件と同じである。
【0023】図3に本発明の実施の形態に係る脛骨コンポーネントの底面図が示される。図3は、脛骨トレイ1が脛骨骨切り面に装着された状態を示すものであって、この状態においてフィン5の長さは長ければ長いほど脛骨への回転抵抗力が大きくなるが、長過ぎると皮質骨9に切り欠きをつけなければならず、これが骨折の起点となる恐れがあり好ましくない。そのため、フィン5の先端は、トレイ部外周縁8から少なくとも2mm以上離した内側にする必要がある。また、フィン5の長さが短いと回転抵抗力が小さいことから、トレイ部3下面に対するフィン5の投影像のステム部4中心から端部までの長さWmmが、前記投影像方向のステム部4中心からトレイ部外周縁8までの長さLmmに対して、短くともL/2以上であることが望ましい。以上のことから、L/2≦W≦(L−2)の関係式が成立する。
【0024】更に、脛骨トレイと骨との間の安定性を向上させる観点から、フィン5が複数設けられる場合、ステム部4中心に対しフィン相互が成す交差角度が70°乃至180°の範囲内であることが望ましい。即ち、交差角度が70°を下回ったのでは、回転抵抗力が低下するからに他ならないからである。
【0025】以上、説明した両実施形態において、ステム部4は軸直角の横断面形状が丸形のものであるが、四角形、多角形等の非円形のステム部に対してフィンが付設されてなるものでも良く、これによっても同等の効果が奏されることは言うまでもなく、従って、かかる変形もまた本発明の範囲に包含される。
【0026】また、本発明において、スリット7がトレイ部3下面に接していることが重要であるが、図2(イ)、(ロ)に示されるように、トレイ部3下面に高さ0.5mm以下の予備フィン10を設けると旋回抵抗性が増す構造となって好ましい。この場合、高さが0.5mm以下であれば、レントゲン観察においても実質的に支障なく、本発明の目的を達成することができる。より好ましくは、0.1mm〜0.3mmの予備フィン10を設ける構造とすることである。貫通穴6の場合も同様に穴とトレイ部下面との間に0.5mm以下のフィンを残すことで、旋回抵抗性が増して好ましい。より好ましくは0.1mm〜0.3mmのフィンを残す構造とすることである。
【0027】なお、本発明では、トレイ部3下方に延在するステム部4とフィン5が見掛け上、区別できない形状で備えられてあっても良い。この場合、貫通穴6もしくはスリット7は、脛骨トレイに対して旋回抵抗性を与える部分、即ち、外径方向に延在してなる部位に設けるものである。
【0028】
【発明の効果】本発明は、以上説明したような形態で実施され、以下に記載されるような効果を奏する。即ち、本発明によれば、トレイ部に一体化されてなるステム部に対してフィンを一体に設けるとともに、このフィンを適切かつ十分な長さに形成してういるため、回旋抵抗力が大きくて強度面での安定性に優れたインプラントを提供できる。
【0029】更に本発明は、フィンのトレイ部下面に接する個所に貫通穴もしくはスリットが設けられているために、レントゲンにより従来確認し難かった脛骨トレイと骨界面との間を容易に観察することができる。そのため、骨成長、セメントと骨との接合状況等が容易に判り、臨床的に人工膝の緩みや沈み込み等が確認でき、適切な臨床的処置が行える医療的に優れた効果が奏される。
【出願人】 【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
【出願日】 平成11年9月27日(1999.9.27)
【代理人】 【識別番号】100105692
【弁理士】
【氏名又は名称】明田 莞
【公開番号】 特開2001−87292(P2001−87292A)
【公開日】 平成13年4月3日(2001.4.3)
【出願番号】 特願平11−272172