| 【発明の名称】 |
光照射による中枢神経伝達抑制法 |
| 【発明者】 |
【氏名】片岡 洋祐
【氏名】渡辺 恭良
【氏名】前川 恭代
【氏名】伊藤 俊之
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| 【要約】 |
【課題】組織侵襲の少ない可逆的な脳内神経伝達抑制法を提供する。
【解決手段】0.1〜5.0W/cm2の光照射エネルギーを動物の脳に適用することにより、該動物の中枢神経伝達を可逆的に抑制することができる。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 0.1〜5.0W/cm2の光照射エネルギーを動物の脳に適用することからなる、該動物の中枢神経伝達を可逆的に抑制する方法。 【請求項2】 光照射エネルギーが0.8〜4.8W/cm2である請求項1の方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、一定のエネルギー範囲の光を動物の脳に照射することからなる、該動物の中枢神経伝達を可逆的に抑制する方法に関する。 【0002】 【発明が解決しようとする課題】動物の中枢神経(脳・脊髄)は複雑に統合された神経連絡により機能している。神経連絡は、細胞体・樹上突起・軸索からなる一つ一つの神経細胞(ニューロン)がシナプスを介して機能的に連結しあって構成されており、詳しくは、活動電位の軸索上の伝搬と軸索終末からの神経伝達物質の遊離および、シナプスを介して連結した隣の神経細胞樹上突起上の神経伝達物質受容体の活性化といった一連の連続した機能から成り立っている。したがって実験動物を用いた中枢神経機能の解明や、さまざまな家畜の内分泌環境のコントロールには、これら一連の中枢神経伝達機能を制御する技術がきわめて有効である。事実、これまでに中枢神経研究の分野において、脳局所の神経細胞群や神経線維を破壊・切断する方法、さらに活動電位の軸索伝搬を抑制したり、シナプスでの神経伝達物質受容体の活性化を抑制する薬物等が開発され、中枢神経系の研究が飛躍的に進んできた。しかし、神経線維や組織の破壊実験では神経機能の回復を観ることができず、また局所への薬物注入の場合はその作用開始時間や作用領域を限定できず、実験結果に不明瞭な点が多く残るという欠点があった。また、家畜の内分泌環境をコントロールするために、ホルモン剤の全身投与が試みられているが、この家畜を食した場合の人体への影響が昨今懸念されている。このように、組織侵襲の少ない可逆的な神経伝達制御法の開発は未だ十分なされておらず、その開発は、中枢神経を研究対象とする生物・医学研究者にとっての悲願であった。また、この様な非侵襲性の神経伝達制御法が開発されれば、外部からの薬物投与に頼らない家畜のホルモン環境制御が可能となり、畜産業への貢献度は計りしれないものがある。 【0003】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、組織侵襲の少ない可逆的な神経伝達制御法について検討を重ねる内、動物の脳から切り出した海馬スライス標本に光エネルギーを照射すると、低い照射エネルギー領域で神経伝達が効率よく抑制される事実を見い出した。この神経伝達の抑制は、主に神経軸索上の活動電位の伝搬への抑制効果およびシナプスでの化学伝達への抑制効果からなることが判明した。この神経伝達の抑制は、光エネルギーによる組織温度の変化や組織酸化によるものであるかも知れず、この点を確認するための実験を行った結果、神経伝達を抑制した光エネルギーは、有意な組織温度の変化および組織酸化をもたらさないことが確認できた。このことから神経伝達の抑制は、光エネルギーによるこれらの二次的な組織変化によるものでないことがわかった。 【0004】更に、上記の海馬スライス標本に替えて、完全な動物の脳表面から光エネルギーを照射するインビボ実験を行い、インビトロ実験の場合と同じ結果を得た。上に述べた光エネルギーによる神経伝達の抑制は可逆的であり、照射を止めると短時間にもとの状態に回復する。従って、この神経伝達抑制法は、動物の脳に損傷を与えることなく、種々の目的に利用することができる。本発明に係る神経伝達抑制法で使用する光エネルギーは0.8〜4.8W/cm2であることが望ましいが、この範囲、特に下限は絶対的なものではなく、照射時間を長くすれば0.1W/cm2以下のエネルギーでも神経伝達を緩慢に抑制することができる。また、後述する様に、脳組織のスライス標本を対象とする場合と実際の動物を対象とする場合では、好適な照射エネルギーがかなり異なっている。従って、神経伝達を抑制する目的に応じて、さらに照射対象に応じて、照射時間と照射エネルギーを適当に組合わせて本発明を実施すべきである。尚、照射エネルギーが5.0W/cm2を超えると組織温度の上昇が起こり易いので、一般には、0.1〜5.0W/cm2が照射エネルギーの臨界領域と考えるのが望ましい。 【0005】光照射は、近赤外域低出力レーザー光(波長830nm)を用いて行うのが好ましい。照射は、組織内のみならず、体外または組織外からも行うことができるので、本発明に係る神経伝達抑制法は、中枢神経組織を対象にした神経科学研究全般に役立つのみならず、家畜に於ける、中枢神経系の関与する種々の変更、例えば内分泌環境の制御、体重の調節、排卵周期の調節、乳生産量の調節、などに使用することができる。注目すべきことに、実際の動物を照射対象とした場合は、組織のスライス標本の場合より低いエネルギー範囲の光を用いるのが好ましい。以下に、本発明方法の神経科学研究への応用例および実際の動物への応用例について記載する。 【0006】実験動物へのレーザー照射による神経伝達抑制法の応用例中枢神経では様々な領域で情報が同時に平行して処理されている。このことが中枢神経機能の解明を困難にしている。例えば疲労感を感じる中枢神経システムについても、大脳皮質内のいずれかの領域に存在すると予想されてはいるものの、その他多くの領域と神経連絡があり、例えば、疲労感として認識する・行動量を減少させる・意欲を低下させる・逆に疲労感を抑制する等の関連した情報を、他の領域と神経連絡しながら同時に情報処理していると考えられる。そのため、動物がどの脳内領域で疲労感を覚え、どのようなシステムで行動を抑制しているのかといった複雑な命題について、未だ全く解決できていない。本発明に係るレーザー照射による神経伝達抑制法を用いれば、これら同時に並行して行なわれる各領域での情報処理を一つ一つ脳表面から抑制し、その詳細な機能を動物の行動や反応を通して解析することが可能である。また、複数の領域での神経活動を様々な組み合わせで同時に抑制することも容易であり、従って本発明方法は上記命題を解決するのに極めて有効な手段となる。 【0007】家畜、特に乳牛等へのレーザー照射による神経伝達抑制法の応用例乳牛をはじめ、すべての動物の乳汁分泌はその個体のホルモン環境に依存している。例えば乳汁産生量は脳下垂体前葉から分泌されるホルモン、プロラクチンによりコントロールされており、その下垂体前葉からのプロラクチン分泌は、そのさらに上位の視床下部弓状核に分布するドーパミン神経細胞によって抑制的に制御されている。したがって、光ファイバーを用いて、このドーパミン神経線維をレーザー照射し、その活動を抑制すれば、プロラクチン分泌量が上昇し、その結果、乳汁分泌量を増加させることができる。例えば、ドーパミン神経に対する24時間にわたる断続的レーザー照射により、1.5〜2倍の乳汁産生量が期待できる。また、レーザー照射時間のコントロールをとおして、乳汁産生時間や周期等も制御・調節することもできる。また、下垂体における他のホルモン分泌において、例えば乳汁分泌を促すオキシトシンや性周期を制御する性腺刺激ホルモン等の分泌制御もレーザー照射による神経伝達抑制技術によって可能となろう。本発明方法を用いたこれらの操作は、今日見られる遺伝子改変や薬物投与による操作と異なり、家畜ならびに家畜から産出された食物を摂取した人体への影響や、操作対象とした家畜個体から世代を越えてその影響を残す心配がきわめて少ないことが特徴である。本発明の神経伝達抑制法は、照射領域あるいはその目的に応じて光ファイバー径を適当に選択したり、多光源化、集光操作、あるいはスリットを用いた照射形状の調節を行うことができる。さらに、照射出力により、神経伝達の抑制程度および抑制持続時間を調整することができる。光照射のこれらの技術はよく知られており、例えば、大槻義彦著、物理学I(学術図書出版社)、1984年を参照することができる。以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明する。 【0008】 【実施例】実施例1光エネルギーを利用して動物の中枢神経機能を体外もしくは組織外から制御することが可能かどうかを調べるために、まず、齧歯類(ラット)の脳から切り出した海馬スライス標本内の興奮性神経線維を二極性タングステン電極で刺激し、さらにガラス管微小電極を用いて興奮性シナプス後電位を近傍から細胞外記録しながら(図1)、組織外から対象神経組織を目標にさまざまな出力の近赤外波長レーザー(波長830 nm)の照射を行った。そして、組織温度の上昇が起こらないような低い照射エネルギー領域の中に、スライス内の興奮性神経伝達を、数分から十数分の照射で効率よく抑制するエネルギー(0.8〜4.8W/cm2)が含まれていることを発見した(図2A-D)。さらに、抑制された神経伝達機能はレーザー照射終了後数分から数時間で完全に回復することがわかった。神経伝達の抑制は、主に神経軸索上の活動電位の伝搬への抑制効果およびシナプスでの化学伝達への抑制効果からなることがわかった。また、比較的高い出力で短時間レーザー照射すると、抑制効果が速やかに現れ、回復も早く、また低い出力での長時間照射はゆっくりとした抑制効果の出現と照射終了後のゆっくりした回復過程を見ることができた。上記のエネルギー範囲では、レーザー照射出力の調節によって、活動電位の軸索伝搬を制御し易いことがわかった(図2E)。 【0009】上記の神経伝達抑制のメカニズム検討の一環として、近赤外域波長のレーザー照射時の組織温度の変化および組織酸化効果について検討した。照射領域が微小なため、組織温度変化は照射領域内の神経伝達速度(シナプス遅延時間)により検討した(図2F)。その結果、照射によるシナプス遅延時間の短縮は10%以内であり、組織温度とシナプス遅延時間の相関関係(図2G)から、レーザー照射による組織温度上昇は1℃以内であることが判明した。この実験は30℃の組織外液中で行っており、実験に使用している脳海馬スライス標本内の神経伝達は40℃を越えないと抑制効果が現れないことから(図2H)、レーザー照射による神経伝達抑制は組織温度の上昇によるものではないことが確認できた。 【0010】さらにレーザー照射による組織酸化効果についての検討はシッフ試薬を用いた組織化学的方法で行った。すなわち、光増感色素の投与と光照射を組み合わせた光酸化法を用い、神経伝達が抑制される程度の酸化を組織に与えたとき、シッフ試薬により組織の酸化領域が染色されることを確認した後(図3A−C)、レーザー光を長時間照射し、同様にシッフ試薬により酸化程度の検討を行った。その結果、神経伝達をほぼ完全に抑制する十分な量のレーザー照射を行っても、組織は酸化されていないことが判明した(図3D)。したがって、レーザー照射による神経伝達抑制効果は組織酸化によるものではないことが確認された。 【0011】実施例2次にスライス標本で確認できた上の事実を実際の動物の脳で証明した。すなわちハロセン麻酔下のラット大脳皮質から、スライス実験同様、電気刺激により誘発された興奮性シナプス後電位を記録しながら、脳表面(硬膜外)から目的領域に向けて上記と同じ波長のレーザー照射を行った。そして、スライス実験と同じ出力範囲のレーザー照射が神経伝達を効率よく抑制することを確認することができた(図4A−D)。スライス標本を用いた実験同様、レーザー照射は神経伝達速度にほとんど影響を与えなかったことから、レーザー照射による神経伝達抑制は脳内においても組織温度の上昇によるものではないと考えられる(図4E,F)。また上記のような電気刺激による神経応答だけでなく、実際の動物への音刺激に対する、大脳皮質一次聴覚野での神経応答も、約10分のレーザー照射により完全に抑制することが確認できた(図5)。なお、これらレーザー照射による神経伝達抑制効果はスライス実験同様、可逆的であり、レーザー照射による組織の破壊や神経細胞の損傷は認められなかった。より具体的に述べると、5〜8週齢の雄ラットをハロセンで麻酔し、頭頂葉上の頭蓋骨(ブレグマより前方2mm、外側2mm)に直径3mmの穴をあけた。二極性タングステン電極を大脳皮質下の白質へ挿入して電気刺激し、大脳皮質層(深さ1mm)から電気刺激に対する誘発電位変化をガラス管微小電極を用いて細胞外記録した。レーザー照射用光ファイバーの出力口(直径1mm)を脳表面2mmまで近づけ、波長830nmのレーザー光を硬膜外から細胞外記録領域へ向けて照射した。このとき、脳表面(硬膜)での照射エネルギーが1.6および0.8W/cm2になるよう出力を調節した。結果、数分のレーザー照射により誘発電位変化は減弱し、照射終了後再び回復した。つまり、当エネルギーのレーザー照射が神経伝達を可逆的に抑制することを確認できた。特に比較的高い出力(1.6W/cm2)で短時間のレーザー照射を行うと、抑制効果が速やかに現れ、回復も早かった。また低い出力(0.8W/cm2)での長時間照射はゆっくりとした抑制効果の出現と照射終了後の1時間から数時間におよぶゆっくりした回復過程を見ることができた。これらのエネルギー範囲のレーザー照射は神経伝達速度にほとんど影響を与えなかったことから、レーザー照射による神経伝達抑制効果は組織温度の上昇によるものではないと考えられた。 【0012】また、さらに4〜5週齢のスナネズミを用いて、聴覚刺激に対する一次聴覚野での神経反応を対象に同レーザー照射の効果を観察した。同動物をウレタンで麻酔し、一次聴覚野上の頭蓋骨に直径4mmの穴をあけた。そして、一次聴覚野大脳皮質層(深さ1mm)から細胞外記録を行い、1420Hzの純音を聞かせた時に対応する神経活動を観察した。レーザー照射用光ファイバーの出力口(直径1mm)を脳表面2mmまで近づけ、波長830nmのレーザー光を硬膜外から細胞外記録領域へ向けて照射した。このとき、脳表面(硬膜)での照射エネルギーが0.8〜1.6W/cm2になるよう出力を調節した。音刺激に対する大脳皮質一次聴覚野での神経応答は、レーザー照射開始から数分して徐々に抑制されはじめ、約10分の照射にて完全に消失した、。その後、照射を終了したところ徐々に神経反応が回復し、照射終了後40分で完全に回復した。以上のインビトロおよびインビボ実験によって、脳内の神経伝達を効率よく、しかも可逆的に抑制するための光照射エネルギーが存在することが確認された。この光エネルギーを利用した神経伝達抑制法では、さまざまな径の光ファイバーの使用や集光技術をとおして、より正確に神経伝達抑制領域を設定でき、さらに、照射出力を調節することにより、神経伝達抑制程度や抑制持続時間をコントロールすることができる。 【0013】 【発明の効果】本発明の光照射による中枢神経抑制法は、神経科学研究全般に広く用いられ得る。また、家畜の内分泌環境を制御し、その体重や排卵周期、乳産生量等を調節するための中枢神経活動の制御にも使用可能である。
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| 【出願人】 |
【識別番号】390000745 【氏名又は名称】財団法人大阪バイオサイエンス研究所
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| 【出願日】 |
平成11年12月17日(1999.12.17) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100062144 【弁理士】 【氏名又は名称】青山 葆 (外1名)
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| 【公開番号】 |
特開2001−170089(P2001−170089A) |
| 【公開日】 |
平成13年6月26日(2001.6.26) |
| 【出願番号】 |
特願平11−358886 |
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