トップ :: A 生活必需品 :: A61 医学または獣医学;衛生学




【発明の名称】 歯肉観察方法及び歯肉評価装置
【発明者】 【氏名】矢納 義高

【氏名】板野 守秀

【要約】 【課題】歯肉状態を客観的に信頼性高く評価できるようにする。

【解決手段】歯肉観察方法が、口腔内に温度負荷を加え、一定時間経過後の歯肉と歯冠との表面温度を測定し、双方の温度差を観察することからなる。歯肉の温度測定部位は歯間乳頭部とすることが好ましく、温度測定はサーモグラフィによることが好ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 口腔内に温度負荷を加え、一定時間経過後の歯肉と歯冠との表面温度を測定し、双方の温度差を観察することを特徴とする歯肉観察方法。
【請求項2】 歯肉と歯冠の表面温度をサーモグラフィに表示し、双方の温度差を観察する請求項1記載の歯肉観察方法。
【請求項3】 歯肉の温度測定部位を歯間乳頭部とする請求項1又は2記載の歯肉観察方法。
【請求項4】 口腔内温度を撮影するサーモカメラ、歯肉と歯冠のサーモグラフィを表示するモニタ、歯肉と歯冠の温度差に応じて統計的に歯肉状態評価値を出力する演算装置を備えた歯肉評価装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、歯肉の状態の評価のために、歯冠と歯肉との温度差を観察する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、歯科医等が歯周組織の腫れや発赤等の炎症状態を診断する方法としては、目視や触診による方法(Gingival Index(GI)、Bleeding on Probing 等)、歯肉溝から滲出してくる歯肉溝滲出液(GCF)量を測定する方法(Periotron)、歯肉溝滲出液(GCF)中の歯周病原細菌等の代謝産物を測定する方法、レントゲンにより歯槽骨を観察する方法等が知られている。
【0003】また、近年では、歯肉表面温度が歯肉毛細血管の拡張と血流量の変化により影響を受けることから、歯肉表面温度と歯肉炎との関係も研究されている(日本歯科保存学雑誌,39(1),p291(1996)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述の方法のうち、目視や触診による方法は、評価指数の判定に専門的な経験や熟練を必要とし、主観的な判定によるバラツキも生じる。プロービング等の手法は被験者に苦痛を与える。また、被験者に苦痛を与えるために繰り返し検査をすることができず、判定結果にバラツキが生じる。
【0005】これに対し、歯肉表面温度を測定する方法は、非侵襲的に行われ、客観的な測定値が得られる。しかしながら、測定値が測定環境や被験者の生理的状態(飲食、運動、日内変動等)の影響を大きく受けるのでバラツキが大きく、測定された表面温度から直ちに歯肉の炎症状態を診断することはできない。
【0006】このような問題に対し、本発明は歯肉状態を客観的に信頼性高く評価できるようにする、新たな歯肉の観察方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明は、口腔内に温度負荷を加え、一定時間経過後の歯肉と歯冠との表面温度を測定し、双方の温度差を観察することを特徴とする歯肉観察方法を提供する。
【0008】また、口腔内温度を撮影するサーモカメラ、歯肉と歯冠のサーモグラフィを表示するモニタ、歯肉と歯冠の温度差に応じて統計的に歯肉状態評価値を出力する演算装置を備えた歯肉評価装置を提供する。
【0009】本発明の歯肉観察方法によれば、歯肉と歯冠との双方の表面温度を測定し、その温度差を観察するので、歯肉のみの表面温度を測定する場合に比して、外部環境や生理的要因に起因する測定値のバラツキをなくすことができる。また、本発明の歯肉観察方法によれば、歯肉と歯冠との双方の表面温度につき、口腔内に温度負荷を加え、一定時間経過後の温度を測定するので、温度負荷による影響を直接的に受ける歯冠と、温度負荷に加えて血液やリンパ液の微小循環の影響を受ける歯肉との温度差を観察することができる。したがって、この温度差に基づいて歯肉における血液やリンパ液の循環機能の状態を評価し、現在の歯肉状態を評価することができる。また、歯肉における血液やリンパ液の循環状態から、鬱血していると判断された場合には、歯周病発生の可能性を予測することもできる。
【0010】一方、本発明の歯肉評価装置によれば、歯肉と歯冠の表面温度をサーモグラフィにより表示するので、歯肉と歯冠の双方の温度差の程度を色差によって直ちに判断することが可能となる。また、この温度差と歯肉炎指数(GI)等の歯肉状態評価値との統計的なデータから当該温度差に対応する歯肉状態評価値を出力するので、専門的な経験や熟練がなくても歯肉状態を評価することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
【0012】本発明の歯肉観察方法では、口腔内に温度負荷を加え、一定時間経過後の歯肉と歯冠との表面温度を測定するが、口腔内に温度負荷を加えるのに先立って、まず、測定環境と口腔内の温度を平衡にすることが好ましい。このためには、例えば、所定の温度及び湿度の測定室で、口を閉じた状態で5分以上安静にする。
【0013】温度負荷は、歯肉と歯冠とを同時に加熱又は冷却することをいう。温度負荷を加える方法としては、例えば、口を開け、口腔内を所定の室温の測定室の雰囲気に曝露することにより冷却する。このように開口によって温度負荷を加える場合、口腔内を開口による温度負荷に馴化するため、開口状態を所定時間維持する。馴化時間は、測定値の再現性を向上させる点から、通常3分以上とすることが好ましく、5分以上とすることがより好ましい。この他、温度負荷を加える方法としては、冷風を当てる、冷水を含ませる、マウスピースを当てる等の方法によってもよい。
【0014】温度負荷を加え、所定の馴化時間を経過させた後は、歯肉と歯冠との表面温度を測定する。この場合、温度の測定方法に特に制限はなく、サーモグラフィ、熱電対温度計等によることができるが、歯肉と歯冠の双方の温度差の程度を色差によって直ちに判断することが可能となるので、サーモグラフィによることが好ましい。
【0015】また、この温度測定に際し、歯肉の測定部位は歯間乳頭部とすることが好ましい。これにより、歯冠との表面温度の差が歯肉の状態を良好に反映し、歯冠との温度差から歯肉の状態を正確に評価することができる。したがって、例えば、歯間乳頭部と歯冠との表面温度の差と歯肉炎指数との間に高い相関関係を得ることができる。
【0016】図2は、それぞれ中度歯肉炎、軽度歯肉炎、健常歯肉である被験者について、温度25℃、湿度50%の測定室環境で5分間以上安静を保持させ、次いで5分間開口状態を維持させた後に測定した口腔内のサーモグラフィの一例である。
【0017】同図から、健常歯肉の歯間乳頭部の表面温度は歯冠の表面温度に対して明らかに高いが、中度歯肉炎の歯間乳頭部の表面温度は健常歯肉の歯間乳頭部の表面温度よりも低く、歯間乳頭部の表面温度と歯冠の表面温度との温度差が小さいことがわかる。また、軽度歯肉炎の歯間乳頭部の表面温度は、健常歯肉の歯間乳頭部の表面温度と中度歯肉炎の歯間乳頭部の表面温度との中間にあることがわかる。これは、歯肉炎が軽度から中度へ進行するに伴って歯間乳頭部が鬱血し、歯間乳頭部の表面温度が歯冠の表面温度と同様に、環境温度の影響を受け易くなるためと考えられる。
【0018】図1は、上述の本発明の歯肉観察方法の実施に好適な歯肉評価装置のブロック図である。この歯肉評価装置は、歯肉と歯冠のサーモグラフィをとることができるように、口腔内温度を撮影するサーモカメラ1と、歯肉と歯冠のサーモグラフィを表示するモニタ2を備えている。また、歯肉と歯冠の温度差に応じて、歯肉炎指数(GI)等に相関した歯肉状態評価値を統計的に出力する演算装置としてパソコン(PC)3を備え、その出力がモニタ2及びプリンタ4に表示されるようになっている。
【0019】ここで、サーモカメラ1としては、測定帯域が10μ前後の遠赤外線のものが好ましく、例えば、米国FSI社製THV570、日本電子社製JTG5370、NEC三栄社製TH5202等を好ましく使用することができる。
【0020】パソコン3では、種々の歯肉状態の多数の被験者について、歯肉の表面温度(好ましくは、歯間乳頭部の表面温度)、歯冠の表面温度、歯肉と歯冠の双方の表面温度の差、専門医師の判定による歯肉炎指数(GI)等の歯肉状態評価値を記憶させ、それらの間の回帰式に基づき、当該被験者の歯間乳頭部の表面温度、歯冠の表面温度の測定値から対応する歯肉状態評価値が統計的に導出されるようにしておくことが好ましい。これにより、歯肉と歯冠の表面温度の測定値から、専門的な経験や熟練がなくても、容易に歯肉状態を評価することができる。
【0021】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0022】実施例1歯肉炎指数0〜歯肉炎指数2の間の被験者55名について、上顎前歯部唇側の歯間乳頭部3点と歯冠3点の表面温度をサーモグラフィ装置により測定し、各被験者について上顎前歯部唇側の歯間乳頭部3点の平均表面温度と歯冠3点の平均表面温度との差を求めた。この場合、各被験者は、歯冠表面温度を正確に測定するため、予め、歯冠部に付着した唾液や歯垢を除去した。また、各被験者は、測定室(温度25℃、湿度50%)で5分間安静にした後、5分間開口し、その後、サーモグラフィ装置で表面温度測定を受けた。
【0023】一方、同じ被験者55名について、表面温度を測定した上顎前歯部唇側の歯間乳頭部3点の歯肉炎指数(GI)を歯科医師から得、各被験者についてこの3点の平均値を求めた。
【0024】上述の歯間乳頭部3点の平均表面温度と歯冠3点の平均表面温度との差と、歯肉炎指数(GI)の平均値との関係を図3に示した。図3から、歯間乳頭部と歯冠との表面温度差と歯肉炎指数(GI)とに相関のあることがわかる。
【0025】
【発明の効果】本発明の歯肉観察方法によれば、温度負荷を加えた後の歯肉と歯冠との表面温度差に基づき、歯肉状態を客観的に信頼性高く評価することができる。
【出願人】 【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
【出願日】 平成11年12月17日(1999.12.17)
【代理人】 【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登 (外1名)
【公開番号】 特開2001−170087(P2001−170087A)
【公開日】 平成13年6月26日(2001.6.26)
【出願番号】 特願平11−359840