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【発明の名称】 歯科用根管治療器具
【発明者】 【氏名】松谷 貫司

【氏名】村井 秀行

【氏名】高瀬 敏之

【要約】 【課題】根管の治療を開始するに際し、根管内に充満した歯髄等の内容物にリーマやKファイル或いはHファイル等の他の根管治療器具を導く道筋を確実つけることで、器具の消耗を軽減してコストを削減する。

【解決手段】穿通器具Aを、シャフト部1と、シャフト1に連なる作業部2と、シャフト部1を固定するハンドル3とによって構成する。作業部2の先端部2aから所定長さ範囲を穿通部4とし、該穿通部4の断面形状を円弧4aと弦4bとからなり、円弧4aと弦4bとを結ぶ線分の長さLを円弧4aを構成する円の径Dの5/8D以上とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 シャフト部とシャフト部に連なる作業部を有する歯科用根管治療器具であって、少なくとも作業部の先端から所定長さ範囲までの断面形状が、1つの円弧と1つの弦とからなり、前記弦の垂直二等分線に於ける弦と円弧とを結ぶ線分の長さが円弧を構成する円の直径の5/8以上であることを特徴とする歯科用根管治療器具。
【請求項2】シャフト部とシャフト部に連なる作業部を有する歯科用根管治療器具であって、少なくとも作業部の先端から所定長さ範囲までの断面形状が、円弧と3つ以内の弦とからなり、前記弦の垂直二等分線における弦と円弧又は弦と弦とを結ぶ線分の長さの最短のものが円弧を構成する円の直径の5/8以上であり、円弧の長さが円弧を構成する円の円周の1/2以上であることを特徴とする歯科用根管治療器具。
【請求項3】シャフト部とシャフト部に連なる作業部を有する歯科用根管治療器具であって、少なくとも作業部の先端から所定長さ範囲までの断面形状が、円弧と弦とからなる歯科用根管治療器具の製造方法において、少なくとも作業部の先端から所定長さ範囲に所定の先細テーパーの円柱を形成し、その後先端から所定長さ範囲の側面を所定平面で削除する事を特徴とする歯科用根管治療器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、歯科用根管治療器具に関し、特に、根管の治療を開始するに際し該根管内に充満している内容物を刺し通して、時には硬質な根管壁からの突起部を切削して、他の歯科用根管治療器具を導く道筋を付けるための歯科用根管治療器具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】歯科に於ける根管治療では、根尖に至るまでの石灰化した根管壁を切削すると共に、切削屑及び根管に充満した内容物を排除して根管壁の新たな面を露出させることが行なわれる。このような治療を行なう場合、医師が各種サイズが設定されたリーマやKファイル,Hファイル等の根管治療器具の中から目的の治療に最適なものを選択し、直接手で操作することで或いはハンドピースを介して間接的に手で操作することで、操作時の感触によって治療の段階を把握するのが一般的である。
【0003】リーマは断面が三角形又は四角形の棒状の材料を小さい角度で捻じって構成されており、主として回転操作されて根管壁を切削すると共に切削屑や根管に充満した内容物を排除する機能を有する。またKファイルは断面が三角形又は四角形の棒状の材料を比較的強い角度で捻じって形成されており、主として押し引き操作されて根管壁を切削すると共に切削屑や内容物を排除する機能を有する。またHファイルは棒状の材料を削り出して、半径方向の直線の一部と渦巻き状の曲線からなる断面形状に形成されており、押し引き操作されて根管壁を切削すると共に切削屑や内容物を排除する機能を有する。
【0004】根管は根尖に接近するのに従って細くなる先細形状で且つ湾曲した形状を有しており、この湾曲形状は人によって大きな差がある。このため、リーマやKファイル,Hファイル等の根管治療器具は、先細状で且つ患者毎に異なる湾曲形状を持った根管(根管壁)に追従し得るように高度な柔軟性を持って構成されている。
【0005】上記リーマやKファイル,Hファイル等の根管治療器具は、治療中に破断したり折損することがなく、且つ錆びの発生がないオーステナイト系ステンレスを用いて製造することが好ましい。本件出願人は、オーステナイト系ステンレスを冷間線引き加工することで組織をファイバー状に伸長させ、これにより高い硬度と高い曲げ強度を実現した材料を使用して各種医療用縫合針や前記根管治療器具を製造する技術を有している。
【0006】一方、根管の内部には神経や血管更にリンパ管等からなる内容物(歯髄)が充満しており、時にはこれが硬化していることがある。このように、治療を開始する際には根管の湾曲形状や根管壁の石灰化による狭窄状態を肉眼で視認し得る状態ではない。このため、リーマやKファイル,Hファイル等の根管治療器具によって根管の治療を開始したとき、根管内の内容物に刺し通された根管治療器具の先端部分にはこの内容物を刺し通す際の抵抗が負荷として作用し、更に、内容物を通過した先端部分が根管壁に接触したとき、操作の際に付与した力に応じた負荷が作用する。
【0007】根管治療器具の先端部分が根管壁に接触する時期は根管の湾曲状態や根管壁の石灰化による狭窄状態等の条件に応じて変化するため、前記接触する瞬間に、根管治療器具を操作する際に付与する力を小さくするように調節することは困難であり、この瞬間に先端部分に大きな負荷が作用することとなる。前記負荷は根管治療器具の許容負荷以上であることが多く、先端部分が永久変形して使用に耐えなくなるという問題が生じている。また場合によっては、先端部分が折れ込んでしまうことがあり、これは根管治療器具の消耗以上に深刻な問題である。
【0008】特に、内容物が充満して根管壁を視認し得ない状態で治療するので、安全性を優先させるのが当然である。このため、折れ込みの問題を回避し得るように、本来使用し得るサイズよりも許容負荷の大きいサイズの根管治療器具を用いると、その分、根管壁にはばまれることが多くなり、道筋を付けるという目的を達し得ないという問題が生じる。また小さいサイズの器具を使うと、根管治療器具の先端部分に変形が生じることが多くなって、一度の治療に際し複数サイズの根管治療器具を消耗してしまうという問題が生じる。
【0009】上記問題は、根管治療の開始に当たって根管に充満した内容物に対し、先ず最初に根管治療器具を導くために有効な道筋を付け、この道筋に対して最適なリーマやKファイル,Hファイル等を選択することで解決することが出来る。このような機能を発揮させるには、根管治療器具の少なくとも先端部分に、根管内に充満した内容物の抵抗による負荷及び根管壁に衝突したときの負荷に耐え得る強度を持たせれば良い。
【0010】最近では、根管治療の開始に当たって根管に充満した内容物に道筋を付ける際に使用する治療器具が提供されている。この治療器具は、材料に炭素鋼を採用すると共に焼き入れ処理して構成したものである。この治療器具では、オーステナイト系ステンレスを材料としたものと比較して曲げ強度を大きくすることが出来るため、根管内に内容物が充満し且つこれが硬化している状態であっても、押し引き回転操作することによって根管に他の根管治療器具を導く道筋を付けることが出来る。
【0011】上記リーマ、ファイルを製造する場合、丸棒(線)をそのままテーパーに見合う傾斜平面で研削などして四角、三角、長方形等の断面形状の先細角線としている。またHファイルを製造する場合、丸線をそのまま一筆書き的に研削している。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】上記の如く、根管治療の開始に当たってリーマやKファイル,Hファイルを利用した場合、根管内に充満した内容物の負荷、及び根管壁に接触する際の負荷によって過大な曲がりや永久変形が生じて消耗するという問題がある。また治療に当たって必要以上の数の根管治療器具を用いたり、消耗させたりして治療時間が掛かり、治療コストが増大するという問題がある。更に、これらの治療器具では、根尖まで道筋を付けることが出来ない場合すらある。
【0013】また上記問題を解決した炭素鋼からなる治療器具では、焼き入れ処理が必須である。しかし、焼き入れ部位が極めて細く熱容量が小さいため、全体を均一な温度に上昇させることが容易ではなく、全長にわたって均一な強度を発揮させることが困難であり、更に、多数の治療器具の均一性を保持することが困難であるという問題がある。これは時として根管内で破折するようなもろいものが混入するという深刻な問題まで引き起こす。また炭素鋼という材料の特性上、錆び易く、一度使用した治療器具をオートクレーブ処理により滅菌すると、腐食して使用できなくなる。錆を取り除いても必要な強度を発揮し得なくなるという問題がある。このため、一度使用したものは廃棄処分することとなり、器具コストが高くなるという問題がある。
【0014】本発明の目的は、根管治療の開始に際し、確実に他の根管治療器具を導く道筋をつけることが出来る歯科用根管治療器具と、その器具を安価に確実に製造する方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する歯科用根管治療器具を得るために、本件発明者等は種々の実験を行なった。その結果、根管に充満した内容物にリーマやKファイル,Hファイルを導く道筋を付けるには、以下の各要素が必要であることが判明した。
【0016】第1の要素は、少なくとも先端部分は内容物に押し込む際の負荷に対抗し得る曲げ強度を発揮し得ることであり、更に、根管の湾曲状態や石灰化により根管が狭窄している場合、この部位に於ける根管壁に不意に接触した場合でもこのときの負荷に耐え得る曲げ剛性を有することである。
【0017】このように、先端部分を押し込むことで目的を達成し得ることから、同様の操作を行っているKファイルの曲げ強度を基準とし、このKファイルの強度よりも充分に大きいものであることが必要である。
【0018】曲げ強度を向上させる場合、高い強度を有する材料を選択することが必要である。しかし、熱処理を必須とする材料では熱処理に伴うバラツキを発生し易く、また錆びを発生し易い材料では前もっての滅菌ができず、又、繰り返し使用の問題や保管日数に限度がある等の問題が発生するため、錆びが発生する虞のないオーステナイト系ステンレスを使用することが好ましく、この材料を冷間線引き加工して組織をファイバー状に伸長させることで硬さと曲げに対する強さを発揮させた材料を使用することが望ましい。
【0019】そして冷間線引き加工したオーステナイト系ステンレスの材料を使用して断面形状を設定することで曲げ剛性を向上することが出来る。
【0020】第2の要素は、根管に充満した内容物を移動させ易いことである。この場合、必ずしも内容物を外部に排除する必要はなく、少なくとも根管内で移動させて道筋を付け得れば良い。内容物を根管内で移動させるには、歯科用根管治療器具の先端部分と根管壁との間に内容物が移動し得る隙間が存在することが必要である。
【0021】第3の要素は、根管に充満した内容物に刺し通す際の抵抗が可及的に小さいことである。この場合、内容物の内部に刺し通す部位の表面に凹凸が少ないことが必要である。特に、内容物中に刺し通す場合、先端部が根管壁等の異物に接触したときの微妙な感触が操作する医師に伝わることが必要である。このため、抵抗が小さいことが好ましいものの、ある程度の抵抗を医師に感じさせることが必要となる。
【0022】第4の要素は、根管の湾曲状態や石灰化による狭窄部を切削して通過できる最小限の切れ刃を有することである。そもそも道筋をつける器具であるので非常に細いことが要求され、先端部分の径は0.06mm〜0.10mmの範囲が好ましい。このため、湾曲した根管に沿って曲がるしなやかさは充分にある。従って、硬化した内容物の切削や根管壁の一部の突出部の切削が可能な強い切刃を有することが必要である。
【0023】従って、本発明に係り上記各要素を満足する歯科用根管治療器具は、シャフト部とシャフト部に連なる作業部を有する歯科用根管治療器具であって、少なくとも作業部の先端から所定長さ範囲までの断面形状が、円弧と弦とからなり、前記弦の垂直二等分線に於ける弦と円弧とを結ぶ線分の長さが円弧を構成する円の直径の5/8以上であることを特徴とするものである。
【0024】上記歯科用根管治療器具では、根管治療を開始するに当たって根管に充満した内容物に対し有効な道筋を付けることが出来る。(本発明に係る歯科用根管治療器具は根管に道筋を付けることを目的とするため以下「穿通器具」という)
【0025】上記穿通器具では、作業部の先端から所定の長さ範囲の断面形状が、円弧と弦とからなり、円弧と弦とを結ぶ線分の長さが円弧を構成する円の5/8以上とすることによって、従来根管の治療に際し最初に内容物に刺し通していた根管治療器具であるKファイルの断面積よりも大きい断面積と断面二次モーメントを持つ断面とすることが出来る。このため、前記Kファイルと比較して充分に高い曲げ強度と曲げ剛性を得ることが出来る。
【0026】また断面形状を円弧と弦とで構成することによって、根管内に於ける内容物の移動を容易にすることが出来る。
【0027】特に、弦と円弧との接続部位に形成されたエッジを切刃として機能させることが出来る。このため、根管内に石灰化した根管壁の一部が突起部として存在するような場合、穿通器具を回転させることでこの突起部を切除することが出来る。このように、本発明では曲げ強度の点で穿通器具の先端部分は断面が円形であることが好ましいにも関わらず、前記切刃としての機能を考慮して断面形状を弦と円弧との組み合わせとしている。
【0028】また本発明に係る他の穿通器具は、シャフト部とシャフト部に連なる作業部を有する歯科用根管治療器具であって、少なくとも作業部の先端から所定長さ範囲までの断面形状が、円弧と3つ以内の弦とからなり、前記弦の垂直二等分線における弦と円弧又は弦と弦とを結ぶ線分の長さの最短のものが円弧を構成する円の直径の5/8以上であり、円弧の長さが円弧を構成する円の円周の1/2以上であることを特徴とするものである。
【0029】上記穿通器具では、前述した第1の穿通器具と比較しても、曲げ強度を損なわないで多少切味を増加させることができると共に、1/2以上の円周を残すことで穿通しやすさも残る。
【0030】また本発明に係る製造方法は、シャフト部とシャフト部に連なる作業部を有する歯科用根管治療器具であって、少なくとも作業部の先端から所定長さ範囲までの断面形状が、円弧と弦とからなる歯科用根管治療器具の製造方法において、少なくとも作業部の先端から所定長さ範囲に所定の先細テーパーの円柱を形成し、その後先端から所定長さ範囲の側面を所定平面で削除する事を特徴とするものである。
【0031】穿通器具を上記方法によって製造することで、安価に且つ確実な品質を有するものをに提供することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】以下、上記穿通器具の好ましい実施形態について図を用いて説明する。図1は穿通器具の構成を説明する図である。図2は各種実験結果と設定値との関係を説明する図である。図3は穿通器具の他の例の断面形状を説明する図である。
【0033】図1に於いて、穿通器具Aは、シャフト部1と、このシャフト部1に連なる作業部2と、シャフト部1に固定され治療の際に医師の手に把持されて操作され、或いはハンドピースに装着されて操作されるハンドル3とを有して構成されている。
【0034】作業部2は先端部2aから所定の長さ範囲に、同図(b)に示すように断面が円弧4aと弦4bからなり、円弧4aを構成する円の径をDとし、弦4bの垂直二等分線に於ける円弧4aと弦4bとを結ぶ線分の長さをLとしたとき、この線分の長さLが5/8D以上に設定された穿通部4が形成されている。また穿通部4とシャフト部1の間には、断面形状が穿通部4に於ける断面形状に限定されることのない元部2bが形成されている。
【0035】穿通部4の長さ範囲は5mmに設定されている。この長さ範囲5mmは実験及び経験的に得られた値である。即ち、根管を治療するに際し特に大きな負荷が作用するのは先端から5mmまでの範囲であり、従って、穿通部4の長さは5mmあれば充分である。そしてこの穿通部4に対応する部分の断面形状が上記の如く、Lの長さが5/8D以上の寸法を持って形成されている。
【0036】作業部2に於ける穿通部4以外の部分、即ち、元部2bの断面形状は特に限定するものではない。このため、元部2bの断面形状は穿通部4と同様にLの長さが5/8D以上の寸法を持って形成されていても良く、5/8D以下の寸法を持って形成されていても良い。しかし、元部2bは断面積を小さくして曲げ剛性を小さくし、これにより、作業部2の長さ方向の曲げ剛性を全長にわたって穿通部4の曲げ剛性と大きく変化させることがないようにすることが好ましい。
【0037】穿通部4及び元部2bからなる作業部2は直針状であって良く、また同サイズのKファイルと同等の捩れ角を持って捻じっても良い。即ち、穿通部4を根管内に充満している内容物に刺し通して筋道を付ける場合、穿通器具Aを押し引き操作することで実現するが、このとき、穿通部4と内容物との接触摩擦を可及的に小さくすることが好ましい。従って、穿通部4は直針状であることが好ましいがリードの長い捻じりであれば特別に問題となることはない。また、押し引きと共に回転操作すればリードは短くても問題ない。また、作業部2の元部2bに行くに従って捩れ角を大きくすることで、良好なフレキシビリティを得ることが期待できる。さらに、穿通部である先端から5mmの部分の捩れ角を他の部分よりはっきりと小さくすることにより、回転操作させた際の食い込みを防止することができる。
【0038】穿通部4の縮径率(テーパ角度)は同サイズのKファイルのテーパ角度と略等しく設定されている。しかし、穿通部4のテーパをKファイルのテーパよりも小さくすることで、先端部2aの近傍に於ける曲げ剛性を大きくすることが可能である。
【0039】本実施例に於いて、作業部2は同サイズのKファイルと同等のサイズの材料を用いて形成され、且つKファイルと略等しい捩れ角を持って捩じられている。
【0040】穿通部4に於ける断面形状は、穿通部4によって根管内に充満した内容物を刺し通す際の抵抗による負荷を想定した実験(根管挿入抵抗比較試験)と、作業部2に対する曲げ実験(曲げ比較試験)を行なった結果から得ている。
【0041】根管挿入比較試験は、直線根管模型(#15、2/100テーパ)にイソプレン系ゴムからなる根管充填用ポイントを8mm部位まで充填し、テストピースが充填物に当接した後、3mm挿入する場合の抵抗を測定して比較した。テストピースとしては、穿通部4の断面形状とし弦と円弧を結ぶ線分の長さLを1/2D〜15/16Dの範囲内で種々設定したもの、円形、Kファイル#10とした。
【0042】尚、以下の表1,表2に於いて例えば5/8円と記載されているのは、弦4bと円弧4aを結ぶ線分の長さLが5/8Dに設定されたものを示しており、他のテストピースでも同様である。
【0043】また医師の聞き取り調査や他の調査の結果、根管に充満した内容物を刺し通す際の挿入抵抗の上限を、比較したKファイル#10に於ける抵抗値の150%として設定した。これは、現実の治療における抵抗の大きさは、内容物刺通の際ではなく石灰化や湾曲による狭窄部に突き当たった際に感じるものであり、よって内容物刺通の抵抗を150%と設定してもまだ太すぎることは無いという現場の多数の医師の意見による。この設定値を図2に挿入抵抗上限として記載した実線で示す。
【0044】根管挿入比較試験の結果得られた数値を表1及び図2の棒グラフに示す。
【0045】
【表1】

【0046】この結果、Kファイル#10の挿入抵抗値が204.1g(図2に10K挿入抵抗として記載した点線で示す)であり、設定された上限の抵抗値は306.15gとなる。この数値は、比較実験した断面が円形のものを除いた全てが満足している。ちなみに、従来の技術で説明した焼入硬化したKファイル#10であっても、挿入抵抗は当然図2に示すKファイル#10の挿入抵抗値と同じである。
【0047】曲げ比較試験は、ISO規格に準じた方法を採用してテストピースの先端(穿通部4の先端部)から3mmの部分の曲げトルクを測定して比較した。テストピースとしては、根管挿入比較試験に用いたテストピースと同一の断面を持ったものを用いた。
【0048】曲げトルクの値は充分に大きいことが好ましく、比較対象となるKファイル#10の曲げトルクの120%の値を下限として設定した。ここでトルクを120%に設定したのは、従来のKファイルの曲げ強さの20%程度強ければ、根管の内容物を充分穿通して道筋をを付け得るとの現場の多数の医師の意見によるものである。この設定値を図2に曲げトルク下限として記載した実線で示す。
【0049】曲げ比較試験の結果得られた数値を表2及び図2の折れ線グラフに示す。
【0050】
【表2】

【0051】Kファイル#10の曲げトルクの値が8.7g-cm(図2に10K曲げトルクとして記載した点線で示す)であり、設定された下限の曲げトルクは10.4g-cmとなる。この数値は断面形状が半円のテストピースを除く全てが満足している。ちなみに従来の焼入硬化したKファイル#10は12.7g-cmであるのでLが3/4Dのものに相当する。
【0052】上記各試験の結果、根管挿入抵抗試験と曲げ比較試験に夫々設定された限度を満足する断面形状は、弦4bと円弧4aを結ぶ線分の長さLが5/8D〜15/16Dの範囲である。しかし、前記長さLが15/16Dよりも長くとも、弦4bと円弧4aからなる形状であれば前記各限度を満足することが可能である。
【0053】従って、穿通部4の断面形状は、円弧4aと弦4bとからなり(円を除く)、弦4bと円弧4aとを結ぶ線分の長さLが5/8D以上である。
【0054】また穿通器具Aは、挿入抵抗の値と曲げ剛性とがバランスのとれたものであることが好ましい。この点を考慮した場合、穿通部4に於ける断面形状は、弦4bと円弧4aとを結ぶ線分の長さLが3/4D程度であることが好ましい。
【0055】次に、図3により穿通器具Aに於ける穿通部4の断面形状の他の例について説明する。図に示す各例は、弦が2つ、或いは3つと、長さが円弧を構成する円の1/2以上ある円弧との組み合わせによって構成したものである。
【0056】同図(a)は弦4bの端点を起点に弦4cを設けたものであり、同図(b)は弦4c,4dを設けたものであり、更に同図(c)は上下に平行した2つの弦4e(3/16削除した面)と、弦4f(1/16削除した面)を設けたものである。 上記各断面を持った穿通器具Aを構成してテストピースとし、夫々先端から3mm部の曲げトルクを測定したところ、同図(a)のテストピースでは 13.08g-cm、同図(b)のテストピースでは12.9g-cm、同図(c)のテストピースでは13.5g-cmであった。このように、厚さLが5/8以上あり、弧4aが半円以上である場合は大きな曲げ力の低下にならず、切味を向上できることが判明した。これは特に石灰化した根管の穿通に良い結果を示した。
【0057】即ち、弦の垂直二等分線における弦と弧、弦と弦との間の線分の内の最短のものの長さが円の直径の5/8以上であれば曲げ強さを保持し得る。また円弧が元の円の1/2以上残ることでエッジの角も90度以上となるので強さを保つことが可能である。更に、1/2以上の円周面となり凹凸が少ないので、器具を刺し通す際の抵抗も小さく、スムーズに刺し通すことが可能である。
【0058】次に、穿通器具Aを製造する際の手順について簡単に説明する。先ず、冷間線引き加工して組織をファイバー状に伸長させたオーステナイト系ステンレスの素材を目的の穿通器具Aに必要な長さに切断し、全長にわたって研削して、テーパー状円錐柱ワークを形成した後、その外側を所定平面(弦4bに相当する平面)に研削等の手段で削除して、元部2bの断面形状に形成すると共に、穿通部4の断面形状を前述した各実施例の中から選択した形状に形成する。穿通部4を直針状とする場合は、前記状態の中間製品を例えばインサート成形してハンドル3を形成することで、穿通器具Aを製造する。
【0059】本発明では穿通器具Aに於ける穿通部4を構成する際の研削手段や方法を限定するものではなく、最終製品として円弧4aと弦4b(4c〜4f)が形成されらば良いことは当然である。
【0060】先細テーパー状円錐柱を製作する場合、切削加工、研削加工、転造加工、スエージング加工などの加工法を採用することが可能であり、特に、転造加工やスエージング加工では、加工硬化を期待することが可能である。また研削加工ではセンタレス研削や他の方法を採用することが可能である。このとき、研削方向は線材に対し略直角方向に、直角以外の角度で交差する方向に、線材の長手方向の何れかとする。また、特公昭58−52782号に記載した従来の研削方法のように、溝(V、U溝等)に線材を置いて回転させながら砥石で研削する方法を用いても良い。
【0061】弦4bを構成する面は切削加工、研削加工等で加工することが可能である。研削加工では、砥石の外周に押し付けて研削した面を持った治具と砥石との間に上記円錐柱を入れて研削することが可能である。また研削方向は線材に対し略直角方向に、直角以外の角度で交差する方向に、線材の長手方向の何れかとする。また、前記した特公昭58−52782号に記載した従来の研削方法のように、溝(V、U溝等)に先細テーパー円錐柱材を入れてその上で砥石で研削する方法を用いても良い。
【0062】本実施例のように、予め設定された捩れ角を持って捩れている穿通部4を形成する場合、円弧4aと弦4bをバイスによって挟持し、この状態で捩じりを加えて穿通器具Aを製造する。このとき、穿通部4の円弧4aと弦4bをバイスによって挟持するため、製造された穿通部4の断面に於ける円弧4aは厳密な意味で円弧とはいえない可能性があり、同様に弦4bも厳密な意味で直線とはいえない可能性がある。
【0063】しかし、上記問題は捩じり加工に必然的に付随するものであり、このような製造過程で変形が発生した場合であっても、円弧4aの範疇に含まれ、同様に弦4bの範疇に含まれるものとする。同様に捩じり過程で、バイスによって挟持した以外の部分で捩じりに伴う潰れ等の変形が生じた場合であっても、この変形に関わらず穿通部4は円弧4aと弦4bとによって構成されたものとする。このことは、図3(a)〜(c)に示す断面形状を持つ例であっても同様である。
【0064】特に、複数の弦4b,4cを接続して構成して穿通部4を構成する場合、穿通器具Aの製造過程で設定される加工公差によって前記弦4b,4cの接続点が円周上の位置から円弧の内側にずれてしまうことがあり、この場合、4b,4cは厳密には弦とはいえない。しかし、これは加工上半ば必然的に発生し得るものであり、本発明では、このような場合であっても弦と見做すものとする。また、弦が外に折れた二直線や、多少のふくらみを持った曲線になったとしても、実質的に本発明と同様の効果があれば、弦と見做すものとする。
【0065】前述の実施例では、材料としてオーステナイト系ステンレスを用いた場合を説明したが、材料としては形状記憶機能を有するニッケル−チタン合金を用いても良い。この場合、加工工程と、熱処理工程を選択的に設定することで、シャフト部1及び作業部2を超弾性範囲を使用することも可能である。
【0066】刺し通す際の抵抗を低減させるために、円弧4aの表面を鏡面に仕上げることが好ましい。また円弧4aと弦4b〜4f、或いは弦4b,4cの接続点が複数形成される場合、選択された接続点を潰しておくことが好ましい。この場合、残された接続点が切刃として機能し、他の接続点は切刃としての機能を有することがない。
【0067】またシャフト部1に接続するハンドル3は必ずしも必要なものではなく、ハンドピースやエンジン等の機械に装着する場合には、対応する機械にチャッキングし得るように構成することが必要である。
【0068】また、穿通部4の全長にわたって曲げ強度或いは曲げ剛性の均一化をはかるために、穿通部4に於けるLの値を変化させることが好ましく、且つテーパを変化させることが好ましい。これらの変化率は一義的に限定するものではなく、穿通器具Aの太さやテーパ角等の条件によって選択的に設定することが好ましい。なお、通常のファイルは2/100テーパー率で製作されているが、本発明の器具は、2/100テーパー率又はそれより大小のテーパー率で製作して差し支えない。
【0069】また、これまで、本発明の器具は穿通器具として述べてきたが、本発明の器具は、主に回転・ツイスト運動を行う機械式切削等に用いても効果を発揮する。即ち、従来の機械用根管拡大器具は切れすぎて食い込んでしまうため、様々な方法で対処しているが、本発明の器具はエッジが鈍く(90度以上)切れ刃が少ないので、食い込みにくく好適である。さらに、本発明のものを機械用切削に用いる場合、やや太目の先端径(0.15mm以上)のものを使用することが好ましい。径が太いと円周面が多くなるので、安定した切削が可能になるからである。
【0070】
【発明の効果】以上詳細に説明したように本発明に係る穿通器具では、根管治療を開始するに際し、根管に充満した歯髄等の内容物に差し込まれ、他の根管治療器具であるリーマやKファイル,Hファイルを導くために有効な道筋を付けることが出来る。そして、内容物に挿入したときの抵抗による負荷や先端が根管壁に接触したときの負荷が作用しても、曲げ強度が大きく、且つ曲げ剛性が大きいため、曲げ変形を小さくすることが出来る。このため、操作する医師に抵抗の変化を敏感に伝達することが可能となり、医師の操作性が向上して消耗の度合いを軽減することが出来る。従って、器具のコストを低減することが出来る。
【0071】また根管内の内容物に道筋を付けることを目的とし、必要最小限の凹凸であるため、根管刺通の抵抗は小さくそれでいて石灰化壁突起部等の切削も可能である。このため、内容物の内部に必要な深さの道筋を容易に付けることが出来、根管治療の際に余分な手間を掛けることなく円滑な治療を実現することが出来る。このため、治療コストを軽減することが出来る。
【出願人】 【識別番号】390003229
【氏名又は名称】マニー株式会社
【出願日】 平成11年12月16日(1999.12.16)
【代理人】 【識別番号】100066784
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 周吉 (外1名)
【公開番号】 特開2001−170076(P2001−170076A)
【公開日】 平成13年6月26日(2001.6.26)
【出願番号】 特願平11−357927