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【発明の名称】 汚濁物質、雑菌付着抑制機能および耐酸性を有する人工歯根ならびに製造方法
【発明者】 【氏名】穂積 篤

【氏名】稲垣 雅彦

【氏名】西澤 かおり

【氏名】永田 夫久江

【氏名】横川 善之

【氏名】亀山 哲也

【要約】 【課題】汚濁物質、雑菌付着抑制機能および耐酸性を有する人工歯根ならびに製造方法を提供する。

【解決手段】基材と該基材表面に形成された生体親和性を有するリン酸カルシウム系セラミックス皮膜とからなる材料であって、該基材は高分子、セラミックス、金属などのいずれの材質においても、該基材表面のセラミックス皮膜表面が凸凹差を有し、化学的に修飾されていることを特徴とする人工歯根、および、基材に生体親和性を有するリン酸カルシウム系セラミックス皮膜を凸凹差を有して形成し、該セラミックス皮膜表面の生体親和性が要求される部分をマスキングして、該セラミックス皮膜表面の特定部位、すなわち、歯周ポケットの発生しやすい部位にのみシランカップ剤を固定化することを特徴とする汚濁物質、雑菌付着抑制機能および耐酸性が付与された人工歯根の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材と該基材表面に形成された生体親和性を有するリン酸カルシウム系セラミックス皮膜とからなる材料であって、該基材は高分子、セラミックス、金属などのいずれの材質においても、該基材表面のセラミックス皮膜表面が凸凹差を有し、化学的に修飾されていることを特徴とする人工歯根。
【請求項2】 該セラミックス皮膜表面の凸凹差が50nm以上あることを特徴とする請求項1記載の人工歯根。
【請求項3】 該セラミックス皮膜表面のうち、歯肉と歯冠の界面付近、すなわち、雑菌が侵入しやすく、歯肉炎の発生しやすい特定部位にシランカップリング剤が固定化されていることを特徴とする請求項1記載の人工歯根。
【請求項4】 該シランカップリング剤は、フッ化炭素鎖、長鎖アルキル鎖などの疎水性を有していることを特徴とする請求項1記載の人工歯根。
【請求項5】 基材に生体親和性を有するリン酸カルシウム系セラミックス皮膜を凸凹差を有して形成し、該セラミックス皮膜表面の生体親和性が要求される部分をマスキングして、該セラミックス皮膜表面の特定部位、すなわち、歯周ポケットの発生しやすい部位にのみシランカップ剤を固定化することを特徴とする汚濁物質、雑菌付着抑制機能および耐酸性が付与された人工歯根の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、歯周ポケットの発生しやすい部位にのみ選択的に汚濁物質、雑菌付着抑制機能および耐酸性が付与された人工歯根およびその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、生体親和性のあるリン酸カルシウム系セラミックスをコーティングした人工歯根の表面の特定部位にヤニなどの汚濁物質や雑菌が付着するのを著しく抑制し、耐酸性を付与することを可能とする歯科材料の特定部位に選択的に表面処理をする新しい表面処理技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】歯周病などは、歯と歯肉の間、すなわち、歯周ポケットからの感染によって進行する。また、治療された歯や歯冠の周囲から雑菌が進入し、再感染することが多い。春日らは、人工歯冠用結晶化ガラスの表面にイオン交換により銀イオンを導入し、抗菌性を付与した(マテリアルインテグレーション、1999年、12巻、第5号、第27ページ)。得られた表面は、大腸菌や黄色ブドウ球菌に対して高い抗菌性を示した。また、好野らは、義歯などの歯科関連材料表面の汚濁を防止するために、フッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を用いてそれらの基材表面を改質した(化学と工業、1993年、46巻、第12号、第58ページ)。得られた表面は処理した基材により異なるが、100〜115゜の高いはっ水性を有し、汚濁物質の付着が抑制された。
【0003】これらの手法により、歯科材料の耐雑菌性や耐汚染物質付着性を抑制することが可能となった。しかし、前者の方法では、優れた抗菌性を付与できるものの、汚濁物質付着抑制機能は全くなかった。また、後者の方法で処理した表面は、水滴接触角はたかだか100〜115゜であった。この程度の接触角では、水滴と表面が30%接触していることになるため、長期の使用過程で汚濁物質の付着が生じ、初期性能が低下する問題があった。また、処理過程が多く、大量の水、有機溶媒を使用するなど、決して環境に優しい処理プロセスではなかった。さらに、いずれの方法も、特定部位に選択的に表面処理をすることは困難であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】リン酸カルシウム系セラミックスは、チタン製インプラント材と比較して、早期に骨形成が行われ、直接、骨と結合するなどの優れた特性を有することから、歯科用インプラント材として、臨床での応用が進められている。しかしながら、このセラミックスは強度が低く、脆性を示すことから、インプラント材として、単独に使用することは困難である。従って、チタンやチタン合金にリン酸カルシウム系セラミックスをプラズマ溶射法などでコーティングして使用されている。しかし、チタンやチタン合金基材とコーティング膜との熱膨張係数の違いによる残留応力に基づく、基材からの剥離や、近傍でのpHの低下によるコーティング膜の溶解による皮膜の消失などが問題となっており、長期的には、チタン製インプラント材の信頼性の方が高い。pHの低下は、歯周ポケット内で生じやすく、平均で6付近まで低下することが片山らにより報告されている(補綴誌、1986年、30巻、第665ページ)。
【0005】このような状況に鑑みて、本発明者らは鋭意研究を進めた結果、インプラント材となるチタンやチタン合金に、プラズマ溶射法等により形成したリン酸カルシウム系セラミックスからなる皮膜表面の特定部位、すなわち、歯周ポケットの発生しやすい部位に、フッ化炭素鎖や長鎖アルキル鎖を導入すると、はっ水性が著しく向上し、汚濁物質や雑菌の付着が著しく抑制されるとともに、耐酸性も著しく向上することを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、インプラント材の特定部位に、優れた耐汚濁物質・耐雑菌付着性を付与すると同時に、耐酸性を付与し、歯周ポケット内の露出したリン酸カルシウム系セラミックスの溶解を著しく抑制した歯科材料として、特に有効な人工歯根およびその製造方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)基材と該基材表面に形成された生体親和性を有するリン酸カルシウム系セラミックス皮膜とからなる材料であって、該基材は高分子、セラミックス、金属などのいずれの材質においても、該基材表面のセラミックス皮膜表面が凸凹差を有し、化学的に修飾されていることを特徴とする人工歯根。
(2)該セラミックス皮膜表面の凸凹差が50nm以上あることを特徴とする前記(1)記載の人工歯根。
(3)該セラミックス皮膜表面のうち、歯肉と歯冠の界面付近、すなわち、雑菌が侵入しやすく、歯肉炎の発生しやすい特定部位にシランカップリング剤が固定化されていることを特徴とする前記(1)記載の人工歯根。
(4)該シランカップリング剤は、フッ化炭素鎖、長鎖アルキル鎖などの疎水性を有していることを特徴とする前記(1)記載の人工歯根。
(5)基材に生体親和性を有するリン酸カルシウム系セラミックス皮膜を凸凹差を有して形成し、該セラミックス皮膜表面の生体親和性が要求される部分をマスキングして、該セラミックス皮膜表面の特定部位、すなわち、歯周ポケットの発生しやすい部位にのみシランカップ剤を固定化することを特徴とする汚濁物質、雑菌付着抑制機能および耐酸性が付与された人工歯根の製造方法。
【0007】
【発明の実施の形態】次に、本発明についてさらに詳細に説明する。本発明は、チタンやチタン合金などの基材に、生体親和性を有するリン酸カルシウム系セラミックスからなる被覆層を、浸漬法、電気泳動法、フレームスプレー法、プラズマ溶射法などにより形成するとともに、該被覆層の特定部位のみ、すなわち、歯周ポケットの発生しやすい部位に、フッ化炭素鎖や長鎖アルキル鎖などの疎水性を有するシランカップリング剤を化学反応(脱水縮合反応)により強固に固定化し、耐汚濁物質、雑菌付着性、耐酸性を著しく抑制させる機能を付与する点に最大の特徴を有する。
【0008】本発明で使用しうる基材としては、例えば、チタン、チタン合金、セラミックス、高分子、ステンレスなどを任意に使用することができる。好ましくはチタン合金を使用する。基材の具体例としては、例えば、中空円形状人工歯根、スクリュータイプの人工歯根が例示される。生体親和性を有するリン酸カルシウム系セラミックスとしては、例えば、水酸化アパタイト、β−トリカルシウムホスフェイト(β−TCP)、α−TCP、テトラカルシウムホスフェイト(TeCP)などを使用することができる。また、被覆層の形成は、浸漬法、電気泳動法、フレームスプレー法、プラズマ溶射法などを任意に使用することができる。好ましくは、プラズマ溶射法が望ましい。プラズマ溶射法で使用しうる原料は、リン酸カルシウム系のセラミックス粉体を用いることができる。なお、基材との密着性を高めるために、純チタン粉体とリン酸カルシウム系セラミックス粉体を任意の割合で、混合して使用することも可能である。また、使用する粉末の粒径は任意であるが、好ましくは0.1〜300ミクロンが望ましい。さらに好ましくは、凸凹の隙間に空気の層を確保するため、被覆層の凸凹差が50nm以上の表面になることが望ましい。プラズマ溶射においては、大気圧プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法などを任意に使用することができる。好ましくは、高温を発生させることが可能な大気圧プラズマ溶射法が望ましい。また、プラズマの種類には、高周波プラズマ、DCプラズマ、マイクロ波プラズマ等があるが、好ましくは、電極材料の磨耗などによる皮膜へのコンタミネーションが発生しない高周波プラズマが望ましい。
【0009】次に、上記の通り、生体親和性を有するリン酸カルシウム系セラミックス層を形成した基材表面を、紫外線、オゾン、プラズマなどにより洗浄し、表面に付着した有機物を除去する。この場合、好ましくは、波長の短い真空紫外光(172nmのエキシマランプ)を使用する。続いて、被覆層表面の水酸基と、フッ化炭素鎖や長鎖アルキル鎖などの疎水性を有するシランカップリング剤中の水酸基間の脱水縮合反応を利用して、該被覆層表面に、これらのシランカップリング剤を強固に固定化させる。固定化させる方法は特に限定されるものではないが、好ましくは、高価な反応装置、長い処理時間、高い処理温度、有機溶剤を使用せず、非常に少量の原料で処理が可能な化学気相表面改質法を用いる。この場合、処理温度は100〜150℃、処理時間は1〜3時間であることが望ましい。
【0010】さらに、特定の部位、すなわち、歯周ポケットが発生しやすい部位以外は、生体親和性が要求されるので、その部分のみをマスキングして、シランカップリング剤を固定化させる。マスキングは、例えば、ポリイミド系樹脂を塗布した後、350〜400℃、2〜60分キュアすることにより行う。マスキング剤は、シランカップリング剤を固定化させた後、フェノール系剥離液を用いて除去する。マスキングする部分は骨の形状等により個人差はあるが、人工歯根の末端から12mmであることが望ましい。これにより、骨と接する部分(マスキング部分)は、生体親和性を示すため、骨形成が促進し、また、歯周ポケットが発生しやすい部位(非マスキング部)のみに、高い汚濁物質、雑菌付着性、耐酸性を著しく抑制させる機能を付与することが可能となる。このように、本発明によれば、簡便なプロセスで人工歯根の特定部位に選択的に表面処理をすることができる。上記の処理基材の特定部位が、高い汚濁物質、雑菌付着性、耐酸性を示す理由は、該被覆層表面に固定化されたフッ化炭素鎖や長鎖アルキル鎖による化学的な効果と、該被覆層表面に存在する凸凹による物理的な効果の相乗効果により発現するものと推定される。
【0011】
【実施例】以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の好適な例を示すものであり、本発明は該実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1リン酸カルシウム系粉末として、粒径1ミクロンの水酸化アパタイトの粉末を、12kWの印加電圧で発生した12.56MHzの高周波プラズマ中に導入し、チタン合金製の中空円柱形人工歯根上に直接プラズマ溶射を行い、厚さ約50ミクロンの被覆層を形成した。皮膜の凸凹差は約300nmであった。表面をエキシマランプにより約10分間照射し、光洗浄後、人工歯根が骨と接する部分のみをポリイミド系樹脂によりマスキングし、フッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤(信越化学製、KBM7803)の蒸気とともに、150℃の電気炉中に3時間保持した。その後、フェノール系剥離液を用いてマスキングを取り除いた。処理した試料の水滴接触角は約155°となった。この試料を約37.5℃に保持したpH6の溶液(0.9%NaCl溶液に酢酸と緩衝液を加えて調整)に200日浸漬した。200日後のCa2+の積算溶出量は約4.58mg/cm3 であり、被覆層の約0.15%にとどまった。
【0012】実施例2リン酸カルシウム系粉末として、粒径5ミクロンの水酸化アパタイトの粉末を、12kWの印加電圧で発生した12.56MHzの高周波プラズマ中に導入し、チタン合金製のスクリュータイプの人工歯根上に直接プラズマ溶射を行い、厚さ約50ミクロンの被覆層を形成した。皮膜の凸凹差は約700nmであった。表面をエキシマランプにより約10分間照射し、光洗浄後、人工歯根が骨と接する部分のみをポリイミド系樹脂によりマスキングし、長鎖アルキル鎖を有するシランカップリング剤(東京化成工業製、n−オクタデシルトリメトキシシラン)の蒸気とともに、150℃の電気炉中に3時間保持した。その後、フェノール系剥離液を用いてマスキングを取り除いた。処理した試料の水滴接触角は約145°となった。処理した試料を約37.5℃に保持したpH6の溶液(0.9%NaCl溶液に酢酸と緩衝液を加えて調整)に200日浸漬した。200日後のCa2+の積算溶出量は約7.64mg/cm3 であり、被覆層の約0.24%にとどまった。
【0013】比較例1リン酸カルシウム系粉末として、粒径1ミクロンの水酸化アパタイトの粉末を、12kWの印加電圧で発生した12.56MHzの高周波プラズマ中に導入し、チタン合金製の中空円柱形人工歯根上に直接プラズマ溶射を行い、厚さ約50ミクロンの被覆層を形成した。皮膜の凸凹差は約300nmであった。その後、処理した試料を約37.5℃に保持したpH6の溶液(0.9%NaCl溶液に酢酸と緩衝液を加えて調整)に200日浸漬した。200日後のCa2+の積算溶出量は約63.7mg/cm3 であり、被覆層の約2.01%であった。
【0014】比較例2リン酸カルシウム系粉末として、粒径5ミクロンのβ−リン酸三カルシウム粉末を、12kWの印加電圧で発生した12.56MHzの高周波プラズマ中に導入し、チタン合金製のスクリュータイプの人工歯根上に直接プラズマ溶射した後、急冷し、水熱合成によりを行い、約70ミクロンの被覆層を形成した。皮膜の凸凹差は約400nmであった。その後、処理した試料を約37.5℃に保持したpH6の溶液(0.9%NaCl溶液に酢酸と緩衝液を加えて調整)に200日浸漬した。200日後のCa2+の積算溶出量は約23.6mg/cm3 であり、被覆層の約0.75%であった。
【0015】
【発明の効果】以上詳述したとおり、本発明は、基材と該基材表面に形成された生体親和性を有するリン酸カルシウム系セラミックス皮膜とからなる材料であって、該基材は高分子、セラミックス、金属などのいずれの材質においても、該基材表面のセラミックス皮膜表面が凸凹差を有し、化学的に修飾されていることを特徴とする人工歯根、およびその製造方法に係るものであり、本発明により、1)汚濁物質、雑菌付着抑制機能および耐酸性を有する人工歯根を提供することができる、2)歯周ポケット内の露出したリン酸カルシウム系セラミックスの溶解を著しく抑制した歯科材料を提供することができる、3)優れた耐汚濁物質、耐雑菌付着性、耐酸性を付与した生体親和性の人工歯根を提供することができる、4)歯科材料の特定の部位に選択的に表面処理をすることができる、等の効果が奏される。
【出願人】 【識別番号】000001144
【氏名又は名称】工業技術院長
【出願日】 平成11年7月5日(1999.7.5)
【代理人】
【公開番号】 特開2001−17447(P2001−17447A)
【公開日】 平成13年1月23日(2001.1.23)
【出願番号】 特願平11−190163