トップ :: A 生活必需品 :: A61 医学または獣医学;衛生学




【発明の名称】 筋疲労モニタ
【発明者】 【氏名】黒野 剛弘

【氏名】竹内 恒彦

【氏名】加藤 隆仁

【要約】 【課題】光技術を用いた非侵襲で簡易な装置での被験者の筋疲労度をモニタする筋疲労モニタを提供する。

【解決手段】本発明は、被験者に所定の運動負荷を与える負荷印加装置1と、被験者が運動負荷を与えられている状態で、運動負荷が与えられている筋肉に光を照射する光照射手段と、光照射手段からの戻り光を受光する受光手段とを有し、戻り光に基づいて血中の酸素飽和度を測定する酸素飽和度測定器2と、測定中の酸素飽和度の最小値を検出する最小値検出部5と、被験者の酸素飽和度と発揮筋力との相関関係を示す相関テーブルをあらかじめ記録し、相関テーブルから測定された酸素飽和度に対応する発揮筋力を算出する変換テーブル3と、測定中の酸素飽和度と前記最小値検出部5で検出された最小酸素飽和度との差分を演算する差分演算部8と、演算された差分から筋疲労度を判断する筋疲労波形判断部9とを備えることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 被験者に所定の運動負荷を与える負荷供給手段と、前記被験者が前記運動負荷を与えられている状態で、前記運動負荷が与えられている筋肉に光を照射する光照射手段と、前記光照射手段からの戻り光を受光する受光手段とを有し、前記戻り光に基づいて血中の酸素濃度を測定する酸素濃度測定手段と、測定中の前記酸素濃度の最小値を検出する最小値検出手段と、測定中の前記酸素濃度と前記最小値検出手段で検出された最小酸素濃度との差分を演算する演算手段と、演算された前記差分から筋疲労度を判断する判断手段とを備えることを特徴とする筋疲労モニタ。
【請求項2】 前記酸素濃度が酸素飽和度であることを特徴とする請求項1記載の筋疲労モニタ。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、各生体毎の筋肉の疲労度を評価するために用いられる筋疲労モニタに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、筋肉の疲労度を把握するためには、筋組織を取り出す方法、カテーテルを挿入する血液分析方法、指に針を刺して採取した少量の血液から乳酸の量を測定する方法など、いわゆる侵襲的な方法が用いられてきた。一方で、近年、光技術を用いて筋肉血中内の酸素濃度を計測する装置により、非侵襲な方法で、筋肉中の酸素濃度をリアルタイムで計測し、その時間変化から被験者の最大負荷量や最大酸素摂取量を推測することが可能となっている(特開平6−142086号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、光技術を用いて筋肉の疲労度を計測する装置は未だ存在しない。筋肉が疲労している状態と疲労していない状態とでは、一定の負荷に対して発揮できる筋力が異なってくる。このため、筋肉の発揮筋力を測定したとき、一定の負荷に対して被験者の発揮筋力が弱いのか、疲労により発揮筋力が低下しているのかを判断することが難しかった。そのため、筋疲労度をモニタしながら、非侵襲な手法で科学的にトレーニングすることが可能な光技術応用型装置の開発要求が高まっている。
【0004】そこで本発明は、光技術を用いた非侵襲な手法により、科学的に筋疲労をモニタできる装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明に係る筋疲労モニタは、被験者に所定の運動負荷を与える負荷供給手段と、被験者が運動負荷を与えられている状態で、運動負荷が与えられている筋肉に光を照射する光照射手段と、光照射手段からの戻り光を受光する受光手段とを有し、戻り光に基づいて血中の酸素濃度を測定する酸素濃度測定手段と、測定中の酸素濃度の最小値を検出する最小値検出手段と、測定中の酸素濃度と最小値検出手段で検出された最小酸素濃度との差分を演算する演算手段と、演算された差分から筋疲労度を判断する判断手段とを備えることを特徴とする。
【0006】これにより、被験者に所定の負荷を与えながら光技術を用いて筋肉血中の酸素濃度の時間的変化を測定し、測定された酸素濃度の最小値とある時点での酸素濃度の差分を演算することにより、その時点での筋肉の疲労度を推定およびモニタすることができる。
【0007】また、本発明に係る筋疲労モニタは、測定する酸素濃度が酸素飽和度であることを特徴としてもよい。負荷を印加した状態で測定された酸素飽和度は、筋肉の運動強度に関係なく発揮筋力と相関関係を有しているため、酸素飽和度の時間的変化を測定し、その時測定された酸素飽和度の最小値とある時点での酸素飽和度の差分を直接演算することにより、その時点での筋肉の疲労度を推定およびモニタすることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】実施形態の説明に先立ち、本発明を完成するに至った経緯を説明する。本発明は、血中の酸素濃度により筋肉の疲労度を推定する筋疲労モニタに関するものであるが、本発明者は、いわゆる発揮筋力と血中の酸素濃度との相関関係に着目した。すなわち、筋肉が筋力を発揮すると酸素が消費されるため、血中の酸素濃度が減少する。したがって、血中の酸素濃度を検出することにより、筋肉が発揮している筋力が推定できる、と本発明者は考えた。
【0009】一方、発揮筋力と筋肉の疲労度合との相関関係に着目すると、筋肉に対して一定の負荷を印加した場合には、その負荷に対応した筋力が発揮されるが、筋肉が疲労してくると負荷に応じた筋力が発揮できなくなると考えられる。したがって、上記した二通りの相関関係を考慮すれば、酸素濃度の変化を測定することにより、筋肉の疲労度を推定できる、と本発明者は考えた。
【0010】ここで、血中の酸素濃度を示す要素にはHbO2,Hb,t−Hb,SO2等が知られているが、本発明においてはSO2(酸素飽和度)を用いるのが最も望ましい。なぜなら、酸素飽和度は運動強度の変化に影響されず、筋肉の運動量に対応して変化するため、酸素飽和度を測定することにより正確に発揮筋力を推定でき、したがって正確な筋疲労を推定できるからであり、しかも、酸素飽和度は簡便かつ非侵襲な光学的手法により、正確に測定することが可能だからである。
【0011】これに対し、他の要素であるHbO2,Hb,t−Hb等については、例えばt−Hbは運動強度により変化し、t−Hbが変化するとHbO2,Hbも影響を受けるため、酸素飽和度を用いた推定手法に比べて劣る。しかし、後述のように測定値を補正処理することにより、酸素飽和度を用いた手法と同程度の正確な筋疲労をモニタできる。
【0012】以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】図1に、本実施形態にかかる筋疲労モニタの概略図を示す。本実施形態の筋疲労モニタは、負荷印加装置1と、酸素飽和度測定器2と、発揮筋力推定部と筋疲労測定部とから構成されている。
【0014】発揮筋力測定部は、後述する被験者の酸素飽和度と発揮筋力の関係である相関テーブルを記憶し、相関テーブルをもとに酸素飽和度測定器2で測定された酸素飽和度を発揮筋力に変換する変換テーブル3と、推定した発揮筋力を表示する発揮筋力推定値表示部4とを備えている。
【0015】筋疲労測定部は、酸素飽和度測定器2で測定された酸素飽和度の最小値を検出する最小値検出部5と、最小値検出部5で検出された酸素飽和度の最小値を記録すると共に、被験者の性別、体格などの個人データが記憶されている個人ID6の情報を記録する記録部7とを備えている。更に、酸素飽和度測定器2で測定された酸素飽和度と最小値検出器5で検出された最小酸素飽和度との差分を演算する差分演算器8と、差分演算器8で演算した差分により筋疲労度を判断する筋疲労波形判断部9と、筋疲労波形判断部9で筋肉に疲労が生じていると判断した場合にセットされる疲労状態ゲート10と、後述するように差分演算部8で演算した差分を疲労度として疲労度レベルを表示する疲労度レベル表示部11とを備えている。
【0016】次に、図1に示す筋疲労モニタの作用を説明する。あらかじめ、相関テーブルは変換テーブル8に入力され、また、個人ID6に記憶されている情報は記録部7に記録されているとする。まず、負荷印加装置1が被験者の筋肉に所定の負荷を印加するように設定する。次に、近赤外線による酸素飽和度測定器2の光源および検出器のプローブ(図示せず)を、計測の対象である筋肉(本実施形態では上腕二頭筋)に光が伝播する適当な距離(本実施形態では3cm)で装着する。その後、酸素飽和度測定器2を動作させ、最小値検出器5のスタートスイッチ5aをONにする。
【0017】次に、負荷印加装置1によりアイソメトリック(等尺性)の所定の負荷を被験者の上腕二等筋に印加する。具体的には固定して動かない棒を中心として手前に引くように上腕二頭筋に力を発揮させる。そして、その状態で酸素飽和度測定器2により測定された酸素飽和度は、変換テーブル3、最小値検出器5および差分演算部8に送られる。
【0018】図1に示すように、変換テーブル3では、あらかじめ入力されていた被験者の相関テーブルにより、測定された酸素飽和度に対応した発揮筋力を推定する。推定した発揮筋力は発揮筋力推定値表示部4に送られ、表示される。
【0019】ここで、相関テーブルから発揮筋力を推定する方法を説明する。前述したように、筋肉がある一定の負荷を与えられ、それに対応した筋力を発揮すると、筋肉血中の酸素が消費されるために筋肉血中の酸素飽和度がその筋肉の発揮筋力に対応して減少する。つまり、筋力を発揮していないときの酸素飽和度に対して、発揮筋力が大きければ酸素飽和度は大きく減少し、発揮筋力が小さければ酸素飽和度の減少率も小さい。この様に、発揮筋力と酸素飽和度は、ある一定の相関関係を示しており、その関係をグラフにすると図2のようになる。
【0020】図2に示されるように、発揮筋力が増大すると、酸素飽和度が減少する。このグラフを酸素飽和度と発揮筋力の相関テーブルと呼ぶことにする。酸素飽和度と発揮筋力の関係は、各被験者の持っている運動能力によって異なるため、各被験者毎に対応する相関テーブルが作成される。この相関テーブルを利用すれば、被験者から測定した酸素飽和度から対応する発揮筋力を推定することができ、この方法を利用して、図1における変換テーブル3では、発揮筋力を推定している。
【0021】図1に示すように、筋疲労測定部の最小値検出部5では、酸素飽和度測定器2で測定された時間経過によって変化する酸素飽和度の最小値を検出する。検出された最小値は記録部7において記憶されるが、更なる最小値が検出された場合、その値は書き直されて新たな最小値が記録される。記録された最小値は差分演算器8に送られ、酸素飽和度測定器2より測定された酸素飽和度との差分を演算する。
【0022】演算された差分は筋疲労波形判断部9に送られ、測定された酸素飽和度が記録されている最小値より小さければ疲労は生じておらず、大きければ疲労が生じていると判断する。疲労が生じていないと判断された場合は、そのまま酸素飽和度の測定を継続する。疲労が生じていると判断された場合は、疲労状態ゲート10をセットし、差分演算器8で演算された差分を筋疲労度として疲労度レベル表示部11で表示する。
【0023】所定時間経過後、被験者に加えていた負荷を取り除く。その後、酸素飽和度測定器2の測定を終了し、最小検出器5のストップスイッチ5bにより検出をストップする。このとき、疲労状態ゲート10はリセットされる。
【0024】ここで、酸素飽和度の最小値と疲労時の酸素飽和度との差分から疲労度を推定する方法について説明する。前述したように、一定の負荷を筋肉に与えると、それに対応した筋力が発揮され、一定の酸素飽和度が測定される。ところが、負荷を与えた状態が継続すると、筋肉に疲労が生じてくる。その様子を図3に示す。
【0025】図3(a)に示すように、負荷を印加した状態が継続すると筋肉が疲労し、筋肉疲労時に発生する乳酸の量が増加していく。これに伴い、酸素飽和度も増加しており(図3(b))、これに対応して発揮筋力が減少している(図3(c))。この図より、本来与えられている負荷に対応した筋力が発揮できていれば、酸素飽和度は最小値を示すが、筋肉が疲労して本来の筋力が発揮できなくなると、それに対応して酸素飽和度が増加することが分かる。つまり、負荷印加状態で酸素飽和度を測定し、測定された最小酸素飽和度よりもある時点での酸素飽和度が大きければ、筋肉に疲労が生じていると判断でき、最小酸素飽和度と疲労状態における酸素飽和度の差分により、筋肉の疲労度を推定することができる。
【0026】図1に、発揮筋力推定値表示部4および疲労度レベル表示部11で表示された発揮筋力および疲労度の時間変化を図1(a)および(b)に示す。負荷印加時間が経過するに連れて筋力が疲労し、発揮筋力が減少するのと同時に疲労度が大きくなっていく様子がわかる。
【0027】以上のように、本実施形態の筋疲労モニタでは、光技術を用いた非侵襲な方法で被験者に負荷を印加した状態での発揮筋力および疲労度を測定することができる。但し、発揮筋力測定において、被験者の運動能力が変化することによって相関テーブルも変化するので、より正確に発揮筋力を推定するには随時相関テーブルを測定し直す必要がある。
【0028】なお、本実施形態はこれに限られるものではない。例えば、図1の筋疲労モニタにおいて、発揮筋力推定部は設けなくてもよい。また、疲労度の表示方法において、負荷をかけていない状態での酸素飽和度と、最小酸素飽和度との差分を100%とし、疲労の時間経過をパーセント表示してもよい。また、本実施形態では上腕二頭筋についての筋疲労をモニタしたが、その他の筋肉に本実施形態の筋疲労モニタを応用することはもちろん可能である。
【0029】また、血中酸素濃度の要素であるt−Hb,HbO2およびHbは、運動強度によりt−Hbが変動する影響を受けるためにt−Hb,HbO2およびHbの測定値からは正確に発揮筋力を推定できないと前述した。しかし、t−Hbの変動分を補正処理し、それに応じてHbO2およびHbの測定値を補正することにより、その補正値と発揮筋力との正確な相関関係、つまり相関テーブルを得ることができる。そのため、本実施形態では測定対象を酸素飽和度としたが、t−Hb,HbO2およびHbの値を測定し、補正することによっても、被験者の発揮筋力や疲労度を求めることも可能である。
【0030】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明の筋疲労モニタは、所定の負荷を印加した状態で、光技術を用いて血中の酸素飽和度を測定し、負荷印加時の最小酸素飽和度と時間経過にともない変化する酸素飽和度の差分を演算することにより、筋疲労度をリアルタイムに推定することが可能である。これを利用すれば、時間経過による疲労度レベルの変化や被験者の積極的な疲労回復の効果をチェックすることもでき、科学的な運動トレーニングを非侵襲な方法で且つ簡易な装置によって実現することができる。
【出願人】 【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
【出願日】 平成11年10月12日(1999.10.12)
【代理人】 【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹 (外2名)
【公開番号】 特開2001−104288(P2001−104288A)
【公開日】 平成13年4月17日(2001.4.17)
【出願番号】 特願平11−289754