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【発明の名称】 ステンレス鋼製真空二重容器
【発明者】 【氏名】井奥 浩史

【要約】 【課題】電界研磨処理されたもので、汚れや匂いが残りにくく、また除去しやすく、保温性および外観ともに優れたものとする。

【解決手段】ステンレス鋼製の内容器1と外容器2とを間隙を設けて二重に組合せ、それら内外容器1、2の間を真空空間3とし、内容器1の内面1aが電界研磨処理され、かつその表面粗さRzが4.0μm未満とされたものとして、上記のような目的を達成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ステンレス鋼製の内容器と外容器とを間隙を設けて二重に組合せ、それら内外容器の間を真空空間としたステンレス鋼製真空二重容器において、内容器の内面が電界研磨処理され、かつその表面粗さRzが4.0μm未満とされていることを特徴とするステンレス鋼製真空二重容器。
【請求項2】 表面粗さRzが1.5μm以下である請求項1に記載のステンレス鋼製真空二重容器。
【請求項3】 表面粗さRzが0.7μm以下である請求項1に記載のステンレス鋼製真空二重容器。
【請求項4】 内容器の材料であるステンレス鋼はMd30(℃)の値が−50未満のものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のステンレス鋼製真空二重容器。
【請求項5】 内容器の材料であるステンレス鋼はニッケルの含有量が10%以上、14%以下のものである請求項1〜4のいずれか1項に記載のステンレス鋼製真空二重容器。
【請求項6】 内容器の材料であるステンレス鋼はニッケルの含有量が11%以上、13%以下のものである請求項1〜4のいずれか1項に記載のステンレス鋼製真空二重容器。
【請求項7】 内容器の材料であるステンレス鋼はニッケル+銅の含有量が10%以上、14%以下のものである請求項1〜4のいずれか1項に記載のステンレス鋼製真空二重容器。
【請求項8】 内容器の材料であるステンレス鋼はニッケル+銅の含有量が11%以上、13%以下のものである請求項1〜4のいずれか1項に記載のステンレス鋼製真空二重容器。
【請求項9】 内容器の材料であるステンレス鋼がSUS304LまたはSUSXM7である請求項1〜8のいずれか1項に記載のステンレス鋼製真空二重容器。
【発明の詳細な説明】【発明の属する技術分野】本発明はステンレス鋼製真空二重容器に関し、主として飲食用の保温容器、例えば携帯用や定置用の保温ボトル、電気ポット、ランチジャーに用いられるステンレス鋼製真空二重容器に関するものである。
【従来の技術】ステンレス鋼製真空二重容器を用いた携帯用の保温ボトルは従来、その材料であるステンレス鋼にとしてSUS304が用いられ、内容器の内面が電界研磨処理されたり、ブラスト処理の後フッ素樹脂をコーティングすることが行われている。電界研磨はリン酸と硫酸とが主成分となる電界液を用いて行われ、処理された内容器の内面は、溶接スケールなどの汚れが除去された清潔な平滑面となり見栄えがよく、耐食性も向上するので、そのまま使用されている。フッ素樹脂コーティング膜は表面の装飾となるし離型性がよく手入れが簡単になる。
【発明が解決しようとする課題】しかし、このようなステンレス鋼製真空二重容器は、飲料に限っても、緑茶、紅茶、烏龍茶、コーヒ、水、酒、スープ、清涼飲料など多くの種類のものが入れられ、広く利用される中、中性洗剤を用いて簡単に洗浄する通常の使用状態では、水垢、茶渋、色付きといった汚れの付着などが防止し切れず、匂いの残留などは異種飲料の併用の際に比較的早期に問題になっている。これにつき、本発明者等が種々に実験をし研究を重ねた結果、上記いずれの表面処理によっても表面の平滑度はあまり上がっていず、汚れや匂いが付着しやすく、残留しやすいことが判明した。従来の電界研磨処理による内容器の内面は一見平滑面に仕上げられるが、その表面粗さRzは4.0μm以上であって、顕微鏡的に観察すると図2の(a)、図5に示すように、内容器表面にクレータ状ないしはボイド状の凹部aが無数に存在する。このため、飲料中の微粒子成分が前記凹部aに入り込み、そこに付着しやすく、またこれを除去するのが困難である。内容器の内面のフッ素樹脂コーティングした表面は、その離型性、撥水性のゆえに、汚れが付着しにくく除去しやすいとされてきたが、使用初期においてそうであっても、現実的には汚れ防止、手入れ簡単にはならない。これはフッ素樹脂の性質として匂いを吸着しやすいこと、および、コーティング前のブラスト処理により内容器の表面にできる凹凸の影響で、顕微鏡的に観察するとフッ素樹脂表面に図2の(b)、図6に示すようなボイド状ないしはクレータ状の凹部bが無数に存在し、経時的に従来の電界研磨した表面の場合同様に汚れが付着しやすく、除去しにくい。本発明の目的は、電界研磨処理されたもので、汚れや匂いが残りにくく、また除去しやすく、保温性および外観ともに優れたステンレス鋼製真空二重容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】上記のような目的を達成するために、本発明のステンレス鋼製真空二重容器は、ステンレス鋼製の内容器と外容器とを間隙を設けて二重に組合せ、それら内外容器の間を真空空間とし、内容器の内面が電界研磨処理され、かつその表面粗さRzが4.0μm未満とされていることを主たる特徴としている。このような構成では、内容器の内面がブラスト処理なしに電界研磨処理されたなだらかな凹凸形状の平滑面で、しかも、表面粗さRzが4.0μm未満とされて顕微鏡的に見た凹と凸の高さの差が小さく抑えられているので、汚れが入りにくいし、沈着しにくく、また、たとえ凹部に入っても水洗等で除去しやすくなる。従って、汚れにくく、匂いも残りにくいものとなる。また、内容器の表面の顕微鏡的な平滑度が向上する分だけ表面の外観が向上するし、輻射熱の反射率が高くなり、電界研磨により内容器が薄肉化されて熱伝導を抑制できるのと相まって、熱が外部に逃げにくくなるので、熱伝導性の低いステンレス鋼製の真空二重容器構造による保温性のさらなる向上にもつながる。表面粗さRzが小さくなるほど表面の凹と凸の高さの差は小さくなり、内容器の内面の表面粗さRzが1.5μm以下になると、視覚的には鏡面とみなし得る外観状態になり、飲料中の微粒子の付着をほぼ確実に防止し、また付着した微粒子の水洗などによる除去を極めて容易に行うことができる。さらに、内容器の内面の表面粗さRzが0.7μm以下になると、飲料中の微粒子の付着を確実に防ぎ得るとともに、表面状態が凹凸のほとんどないほぼ平滑な面でかつ完全な鏡面となる。内容器の材料であるステンレス鋼はMd30(℃)の値が−50未満のものであると、内容器の材料であるステンレス鋼が、拡管加工や絞り加工などによって加工誘起マルテンサイトが発生しやすいSUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼であっても、内容器を深絞り加工して形成するなどの加工によって発生する加工誘起マルテンサイトの量、およびこの加工誘起マルテンサイトが内容器の表面にもたらす粗面化が抑制されているので、その後の電界研磨が従来程度に行われてさえいれば上記表面粗さRz0.4μm以下の条件を満足しており、表面処理上特に困難性はなく歩留まりよく低コストで得られる。内容器の材料であるステンレス鋼は、ニッケルまたはニッケル+銅、の含有量が10%以上、14%以下のものであると、ニッケルまたはニッケル+銅、の含有量が14%を越えて加工時に割れが発生するようなことを防止しながら、ニッケルまたはニッケル+銅、の含有量が10%を下まわってMd30(℃)が−50を越えるようなことも防止して、内容器の内面に必要な表面状態が安定して歩留まりよく得られ、このような特徴は、ニッケルまたはニッケル+銅、の含有量が11%以上、13%以下のものであるとより高まる。内容器の材料であるステンレス鋼はオーステナイト系ステンレス鋼のうちSUS304LまたはSUSXM7であるのが、加工性、表面仕上げ性において特に好適である。本発明のそれ以上の目的および特徴は、以下の詳細な説明および図面の記載によって明らかになる。本発明の各特徴は、それ単独で、あるいは種々な組み合わせで複合して用いることができる。
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、その実施例とともに図を参照しながら詳細に説明し、本発明の理解に供する。本実施の形態は、主として飲料用の携帯用保温ボトルに適用した場合の一例である。しかし、これに限られることはなく、汚れにくく、かつ汚れを除去しやすくしたい各種のステンレス鋼製真空二重容器全般に本発明は適用でき、定置して用いられるもの、あるいは加熱源を備えた電気ポット、あるいは飲料以外の食料用の保温容器でもよい。本実施の形態の真空二重容器は図1に示すように、内容器1と外容器2とを二重に組合せて、それらの間を真空断熱空間としてある。内容器1と外容器2とは共にオーステナト系ステンレス鋼であるSUS304、SUS304L、SUSXMなどで形成され、口部4において溶接接合されている。図1中Pはその口部4の溶接接合部を示す。口部4の内容器1に図示しない口部材と螺合する螺条5が形成され、口部4の外容器2には図示しない蓋体と螺合する螺条6が形成されている。また、底部7の外容器2には真空排気用の開口8があり、この開口8を通じて真空断熱空間3が真空排気され、その状態で蓋板9を外容器2にろう接やその他の方法で気密な状態で接合して開口8を封止することにより前記真空状態が維持されるようにしている。開口8の封止は蓋板9なしに封止材を開口8に溶融充填させた後固化させることだけでも行える。特に、本実施の形態では、内容器1の内面1aが電界研磨処理され、かつその表面粗さRzが4.0μm未満とされている。なお、表面粗さRzは、周知のように「JIS B 0601」において定められた「十点平均粗さ」を示すものである。このように構成されたものは、内容器1の内面1aがブラスト処理なしに電界研磨処理されていることによりなだらかな凹凸形状の平滑面になっている。しかも、電界研磨処理により表面粗さRzが4.0μm未満とされて顕微鏡的に見た凹と凸の高さの差が小さく抑えられている。従って、内容器1の内面1aは、従来の電界研磨やフッ素樹脂コーティングの表面処理で生じていた大きな凹部はなく、汚れが入りにくいし、沈着しにくく、また、たとえ凹部に入っても水洗等で除去しやすくなる。また、フッ素樹脂のような匂いを吸着する働きはしない。これにより、長期に亘って汚れにくく、匂いも残りにくいものとなる。また、内容器1の内面1a表面の顕微鏡的な平滑度が向上する分だけ表面の外観が向上するし、輻射熱の反射率が高くなり、電界研磨の高い研磨効果により内容器1が薄肉化されて熱伝導を抑制できるのと相まって、熱が外部に逃げにくくなるので、熱伝導性の低いステンレス鋼製の真空二重容器構造による保温性のさらなる向上にもつながる。電界研磨による高い研磨効果は真空二重容器の軽量化にも貢献する。表面粗さRzが小さくなるほど表面の凹と凸の高さの差は小さくなり、内容器1の内面1aの表面粗さRzが1.5μm以下になると、視覚的には鏡面とみなし得る外観状態になり、飲料中の微粒子の付着をほぼ確実に防止し、また付着した微粒子の水洗などによる除去を極めて容易に行うことができる。さらに、内容器1の内面1aの表面粗さRzが0.7μm以下になると、飲料中の微粒子の付着を確実に防ぎ得るとともに、表面状態が凹凸のほとんどないほぼ平滑な面でかつ完全な鏡面となる。本発明者等が電界研磨によって上記のような表面粗さを満足する研究で、電界研磨処理する前の内容器1の内面1a表面の面粗度が大きく影響し、これを所定の面粗度以下に抑えられたときに従来程度の電界研磨によって必要な表面粗さRz=4.0μm未満を容易に、かつ安定して得られることを知見した。特に、内容器1の材料であるステンレス鋼につきMd30(℃)の値の設定により電界研磨前の内容器1の内面1a表面の面粗度を必要範囲になるように容易にかつ安定して操作できた。これは、オーステナイト系ステンレス鋼の拡管や絞り加工の際に発生する加工誘起マルテンサイトが内容器1の表面を粗面化するのを、加工誘起マルテンサイトの発生度を判定するMd30(℃)法から、加工誘起マルテンサイトの発生量を所定量以下に抑える操作であり、Md30(℃)=551−462(C+N)−9.2(Si)−8.1(Mn)−13.7(Cr)−29(Ni+Cu)−18.5(Mo)−68(Nb)
に従って操作する。本発明者等の実験によると、Md30(℃)の値が−50未満となるように条件設定しておくことにより、内容器1の材料であるステンレス鋼が、拡管加工や絞り加工などによって加工誘起マルテンサイトが発生しやすいSUS304、SUS304S、SUS304L、SUSXM7などのオーステナイト系ステンレス鋼であっても、内容器1を深絞り加工して形成するなどの加工によって発生する加工誘起マルテンサイトの量、およびこの加工誘起マルテンサイトが内容器1の表面にもたらす粗面化、ないしは梨地化が抑制されているので、その後の電界研磨が従来程度に行われてさえいれば上記表面粗さRz0.4μm以下の条件を満足している。そして、表面処理上特に困難性はなく歩留まりよく低コストで得られた。Md30(℃)の操作で、何かを添加することによりMd30(℃)の値が下がる。主元素であるNiを多く加えるとMd30(℃)の値を低下させやすい。さらに、CuもNiと同じ係数であるので同様な傾向を示す。図2にNiとMd30(℃)の値との関係を示し、図4にNi+CuとMd30(℃)の値との関係を示している。一方、Ni、Cu以外の成分はもともとの含有量が少ないため含有%を変化させにくいし、変化させると加工性や耐久性に影響を与えたりするので操作しにくい。例えば、Cの含有量が増えると粒界腐食が起きやすくなり実用に耐えないものとなる。また、Niも余り含有量が増えると加工性に影響するので、SUS304Lの最大値ぐらいまでにするのが好適である。一例として、内容器1の材料であるステンレス鋼は、ニッケルまたはニッケル+銅、の含有量が10%以上、14%以下のものであると、ニッケルまたはニッケル+銅、の含有量が14%を越えて加工時に割れが発生するようなことを防止しながら、ニッケルまたはニッケル+銅、の含有量が10%を下まわってMd30(℃)が−50を越えるようなことも防止して、内容器の内面に必要な表面状態が安定して歩留まりよく得られ、このような特徴は、ニッケルまたはニッケル+銅、の含有量が11%以上、13%以下のものであるとより高まる。また、銅はステンレス鋼に対する固溶限度が4〜5%程度とされているが限度一杯の範囲でMd30(℃)の値の操作に用いて有効である。一例として、18.2Cr−11.3Ni−低Cの高NiSUS304Lに設定すると、Md30(℃)の値は−70となり、18.2Cr−8.9Ni−3.2CuのSUSXM7に設定すると、Md30(℃)の値は−100となり好適である。
(実施例1)上記のような真空二重容器は、図8に示すよう過程で製作されている。以下説明する。上記高NiSUS304Lを材料とする、内容器胴1b、内容器底1c、外容器胴2b、外容器底2cが構成部材になっている。内容器胴1bと内容器底1cとは予め溶接接合してアッセンブリ化されて、内容器1とされている。内容器1はまた予め銅鍍金が施されている。このような内容器1と前記外容器胴2bとが二重に組合されて口部4で溶接接合されることにより準二重容器Aに一体化されている。このような準二重容器Aは前記外容器底2cと溶接接合して一体化され二重容器Bとされている。この二重容器Bは真空加熱炉内で開口8を通じた真空排気により真空断熱空間3が真空状態にされた状態で開口8を封止されることで、真空二重容器Cとされている。真空二重容器Cの状態で内容器1の内面1aの電界研磨処理によるミラー加工が施されている。このミラー加工は図9に示すように真空二重容器Cを口部4を下にして、肩部10の上方近傍位置まで電界液12に沈み込む浸潰状態にて、電極11を内容器1内に挿入し、その先端から電界液12を噴出させる状態で電界研磨されており、内容器1の内面1a全体、口部4および肩部10における外容器2の表面が電界研磨処理されたものになっている。なお、電界研磨はリン酸主体の電界液12が用いられている。ミラー加工の後、真空二重容器Cは保温性能の検査が行われ、必要に応じて胴部外面の研磨や塗装などの外観処理が行われている。本実施例1では、NiまたはNi+Cuの含有量が14%を越えて加工時に割れが発生するようなことを防止しながら、Md30(℃)が−70と−50を大きく下回っていることにより内容器1の内面1aに必要な表面状態が安定して歩留まりよく得られる。前記電界研磨により、内容器1の内面1aの全体および外容器2の電界研磨が施された表面は、図2の(c)に示すように、視覚的には鏡面とみなし得る程度の表面状態になった。このときの表面粗さRzは0.13μm程度であった。
(実施例2)Md30(℃)の値が−100となる上記SUSXM7の材料よりなる真空二重容器Cとした点で実施例1の場合と異なる。他の構成は特に変わるところはなく重複する図示および説明は省略する。本実施例で前記電界研磨により、内容器1の内面1aの全体および外容器2の電界研磨が施された表面は、図2の(d)、図5に示すように、内容器1の内面状態が凹凸のほとんどない平滑な面で、かつ完全な鏡面となり、その表面粗さRzが0.25μm程度となった。以下に示す表1は、従来の電界研磨により表面処理をしたもの(従来例1)、従来のフッ素樹脂コーティングにより表面処理をしたもの(従来例2)、および前記実施例1、2のそれぞれにつき、内容器の内面の表面粗さを測定した結果を示している。なお、表面粗さRz、表面粗さRmaxは、それぞれ「JIS B 0601」において定められた「中心線平均粗さ」、「最大高さ」である。
【表1】

【発明の効果】本発明によれば、上記説明で明らかなように、水垢や茶渋などの汚れや匂いが残りにくく、また、汚れや匂いを水洗など通常の洗浄により容易に除去できるとともに、保温性に優れ、美観上も優れたステンレス鋼製真空二重容器を提供することができる。
【出願人】 【識別番号】000003702
【氏名又は名称】タイガー魔法瓶株式会社
【出願日】 平成11年8月12日(1999.8.12)
【代理人】 【識別番号】100080827
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 勝
【公開番号】 特開2001−46248(P2001−46248A)
【公開日】 平成13年2月20日(2001.2.20)
【出願番号】 特願平11−264293