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【発明の名称】 生分解性植生マット
【発明者】 【氏名】辻村 英之

【氏名】新倉 勝良

【要約】 【課題】安価で簡単に製造でき、運搬時あるいは作業時の取り扱い性が良好でかつ生分解性を有する育苗用の植生マットを提供する。

【解決手段】植物性粒状物と、高融点ポリ乳酸系重合体と該高融点ポリ乳酸系重合体の融点より20℃以上低い融点を有する低融点ポリ乳酸系重合体からなる複合繊維とからなり、複合繊維の表面の少なくとも一部を低融点ポリ乳酸系重合体が占めており、低融点ポリ乳酸系重合体の溶融または軟化により植物性粒状物同士を接着し、全体として一体化している生分解性植生マット。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 植物性粒状物と、高融点ポリ乳酸系重合体と該高融点ポリ乳酸系重合体の融点より15℃以上低い融点を有する低融点ポリ乳酸系重合体からなる複合繊維とからなり、複合繊維の表面の少なくとも一部を低融点ポリ乳酸系重合体が占めており、低融点ポリ乳酸系重合体の溶融または軟化により植物性粒状物同士を接着し、全体として一体化していることを特徴とする生分解性植生マット。
【請求項2】 高融点ポリ乳酸系重合体が、L体98モル%以上、D体2モル%以下からなるポリ乳酸共重合体からなり、低融点ポリ乳酸系重合体が、L体82〜95モル%、D体5〜18モル%からなるポリ乳酸共重合体からなることを特徴とする請求項1記載の生分解性植生マット。
【請求項3】 複合繊維が、芯鞘型複合繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の生分解性植生マット。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水稲などの作物の苗を育苗する苗床、あるいは緑化用植物を植生する時に用いられる生分解性植生マットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、水稲などの作物の苗や、土壌を緑化するための植物の苗を育苗する際、苗床を使用することが多く、苗床の床土としては一般的には土壌培土が用いられていた。ところがこのような土壌培土には良質の土が必要であり、比較的高価で入手が困難であった。
【0003】このような土壌培土に代わって樹皮、パルプチップ、オガクズなどを堆肥化したバーク堆肥、あるいはこれらに類似の堆肥物、もみがら、切断わらなどのような植物質培土材を親水性ウレタンプレポリマーあるいはポリビニルアルコール、デンプンなどで結合させ蒸発乾固させた苗床が提案されている(特公昭56−18165号公報)。しかしながら、このような樹脂結合剤等を使用した苗床は、蒸発乾固に時間がかかるためコストが高いという問題があった。さらに、乾固した苗床は、硬質であるため衝撃に弱く破損しやすいため、取り扱いが困難であり、また、実際の使用においては、逆に、育苗のために水分を含ませるともろくなりすぎて、保型性に劣るという欠点があった。
【0004】また、近年、育苗箱を使用しない育苗方法が提案されている。例えば、水槽の底に長尺の不織布(当業界では「ロングマット」と称呼されている。)を敷設し、不織布上に種籾を播種するという方法、あるいは土壌の上に不織布を敷設し、この不織布上に種籾を播種するという方法が提案されている。これらの方法によれば、不織布上で苗が生育し、不織布付き苗となるため、土付き苗に比べて重量が軽く、田に植え代える際の搬送が楽になるという利点がある。なお、不織布付き苗は長尺物となっているため、巻回してロール状とし、これを田植機に載せて、所定の寸法に破断しながら田に苗を移植するのである。
【0005】しかし、これらの方法を採用した場合、以下のような技術的問題点が指摘されている。(1)種籾を播種した後に覆土しないため、育苗時に根上がりが生じる。すなわち、不織布中又は不織布の裏面に根が張らずに、不織布表面に根が持ち上がった状態になる。従って、田植機によって不織布付き苗を掻き取りながら(即ち不織布を裁断しながら)、移植する際に苗を痛めてしまうということがある。(2)田植機によって苗を掻き取る際、不織布も一緒に破断されるが、不織布が田植機の掻き取りによって裁断されない場合があり、移植作業が連続して行えないということがある。
【0006】上記した(1)の問題点を解決するためには、不織布として、例えば、繊維径の大きい繊維が交絡してなる構成繊維相互間の間隙の大きい粗目のものを採用すれば良いと考えられる。このような不織布であれば、構成繊維相互間の間隙に根が侵入し、不織布中又は不織布裏面に根が張ると考えられるからである。しかしながら、繊維径の大きい繊維は、交絡性に劣るため、不織布自体の形態安定性が低下する。従って、不織布付き苗をロール状に巻回しにくくなったり、或いは巻回できたとしても田植機に載せる際に、その形態が崩れたりして、田植機による移植作業が行いにくいという憾みがあった。また、(2)の問題点を解決するためには、不織布として引張強力の弱いものを採用すれば良いと考えられる。しかし、引張強力の弱いものは、一般的に不織布自体の形態安定性にも劣り、前記したように、田植機による移植作業が行いにくいということになる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題を解決しようとするもので、安価で簡単に製造でき、運搬時あるいは作業時の取り扱い性が良好で、かつ良好な生分解性を有する育苗用の植生マットを提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を達成するものであって、以下の構成をその要旨とするものである。すなわち、本発明は、植物性粒状物と、高融点ポリ乳酸系重合体と該高融点ポリ乳酸系重合体の融点より20℃以上低い融点を有する低融点ポリ乳酸系重合体からなる複合繊維とからなり、複合繊維の表面の少なくとも一部を低融点ポリ乳酸系重合体が占めており、低融点ポリ乳酸系重合体の溶融または軟化により植物性粒状物同士を接着し、全体として一体化していることを特徴とする生分解性植生マットを要旨とするものである。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の生分解性植生マットを構成する植物性粒状物としては、籾殻、樹皮、パルプチップ、オガクズ、裁断わらなど植物由来の粒状物であれば特に限定されるものではない。
【0010】本発明に用いる複合繊維は、高融点ポリ乳酸系重合体と、該高融点ポリ乳酸系重合体の融点より20℃以上低い融点を有する低融点ポリ乳酸系重合体とからなり、繊維の表面の少なくとも一部を低融点ポリ乳酸系重合体が占めている。このような複合形態としては、低融点重合体を鞘部、高融点重合体を芯部に配した芯鞘型、低融点重合体と高融点重合体を貼り合わしてなるサイドバイサイド型、高融点重合体が多数の島部に、低融点重合体が海部に配してなる海島型、また、放射型や多葉型等の割繊型等が挙げられる。本発明では、植物性粒状物との接着性や得られる植生マットの強力等を考慮して、芯鞘型複合形態を有する複合繊維を用いることが好ましい。
【0011】ここでポリ乳酸系重合体とは、ポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との群から選ばれる重合体が挙げられる。ポリ乳酸のホモポリマーであるポリ(L−乳酸)やポリ(D−乳酸)の融点は約180℃であるが、ポリ乳酸系重合体として前記コポリマーを用いる場合には、実用性と融点等を考慮してポリマー成分の共重合量比を決定することが好ましく、D体/L体(共重合モル比)は、100未満/0を超える〜82/18、18/82〜0を超える/100未満であることが好ましい。
【0012】ポリ乳酸の融点の制御について、以下、説明する。ポリ乳酸を構成する乳酸モノマーは光学活性の炭素を有しており、D体とL体の光学異性体が存在する。L体にD体を1モル%共重合させると融点170℃以上、L体に2モル%未満のD体を共重合させると融点165℃以上、D体を8モル%共重合させると融点130℃程度、D体を12モル%共重合させると融点110℃といった具合に融点のコントロールが可能である。D体よりもL体の共重合量が多く、かつD体が18モル%以上(ただし、L体の共重合量を超えない範囲)となると明確な結晶融点は観察されず、軟化温度90℃未満の非晶性の強いポリマーとなる。また、一方が融点110℃以上のポリ乳酸系重合体、他方が軟化点90℃未満の非晶性の強いポリ乳酸系重合体といった組み合わせでも差し支えない。なお、このような非晶性の強いポリ乳酸の場合は便宜上、目視での軟化温度を融点とする。
【0013】本発明においては、高融点ポリ乳酸系重合体としては、融点170℃以上のポリ乳酸(L体98モル%以上、D体2モル%未満)、低融点ポリ乳酸系重合体としては、融点155〜110℃のポリ乳酸(L体82〜95モル%、D体5〜18モル%)の組み合わせからなる複合繊維を用いることが好ましい。
【0014】乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体である場合におけるヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの中でも特に、ヒドロキシカプロン酸またはグリコール酸を用いることが低コストの点から好ましい。
【0015】本発明において高融点ポリ乳酸系重合体と低融点ポリ乳酸系重合体との融点(融点を有しないものについては軟化点を融点とみなす。)差が15℃以上である。両者の融点差が15℃未満であると、熱処理工程において高融点ポリ乳酸系重合体までが軟化または分解変性して繊維形態を維持できないものとなり、その結果、得られる植生マットは、柔軟性・耐衝撃性に乏しいものとなるため、運搬あるいは作業時に破損したりするという問題が生じる。両者の融点差を20℃以上に設定することにより、熱処理により低融点ポリ乳酸系重合体のみを溶融させて、植物性粒状物同士を接着させ、一方、高融点ポリ乳酸系重合体は、熱による影響を受けることなく繊維形態を維持させているため、乾燥状態および湿潤状態の両方において、植生マットの保型性、機械的強力、柔軟性を向上させることができる。
【0016】本発明における複合繊維の混合比率は特に限定されるものではないが、1%〜50%(質量比)程度の範囲が好ましい。1%未満であると、植物性粒状物同士が十分に接着されず、形態保持性に劣るものとなり、一方、混合比率が50%を超えると、植生マットが固くなりすぎ、マットの空隙内に根が入りにくくなり、根上がりの現象が発生しやすく、苗の育成が悪くなる。
【0017】本発明における複合繊維の単糸繊度は、特に限定されるものではないが、1〜20デシテックス程度の範囲が好ましい。1デシテックス未満になると植物性粒状物とが均一に混合できず、植生マットの強度が弱くなることがある。一方、単糸繊度が20デシテックスを超えると、複合繊維と植物性粒状物との接触面積が相対的に減少するため、場合によっては十分な接着強力が発揮できなくなることがある。
【0018】本発明の生分解性植生マットは、植物性粒状物と複合繊維とを所定の割合で攪拌混合し堆積させ、低融点ポリ乳酸系重合体のみが溶融または軟化する温度で熱処理することで、容易に得ることができる。
【0019】
【実施例】以下、実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例に記述した諸物性の評価法は、次のとおりである。
(1)植生マットの作業・運搬性(湿潤状態)
1:良好(両手で植生マットを把持しても崩れない。)
2:やや不良(かなり慎重に取り扱わないと崩れる。)
3:不良(支持体を用いないと崩れる。)
【0020】(2)土中埋設による生分解性1:良好(処理日数1年以内で分解する)。
2:やや不良(分解必要日数1年以上3年以下)。
3:不良(分解必要日数3年以上、あるいは全く分解しない)。
【0021】実施例1籾殻を98質量%、複合繊維として融点を異にする2種のポリ乳酸からなる芯鞘型複合繊維(芯部:融点170℃、D体/L体(共重合モル比)=2/98、鞘部:融点130℃、D体/L体(共重合モル比)=8/92、芯/鞘(質量比)=1/1)2.2デシテックス(以下、dtexと記す。)×5mmを2質量%の割合で攪拌混合し、堆積させてエアスルー型熱処理装置により140℃×2分間の条件で熱処理を行ない、目付5kg/m2の実施例1の植生マットを得た。
【0022】比較例1実施例1において、複合繊維としてユニチカファイバー(株)製ポリエステルバインダー繊維「メルティ」2.2dtex×5mmを用い、160℃×2分間の条件で熱処理したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の植生マットを得た。
【0023】比較例2実施例1において、複合繊維に代えて、接着樹脂として親水性ウレタンプレポリマーを用い、70℃で乾燥処理を行った以外は実施例1と同様にして、比較例2の植生マットを得た。
【0024】比較例3実施例1において、複合繊維に代えて、ポリ乳酸単一成分ポリマー(融点170℃、D体/L体(共重合モル比)=2/98)からなる繊維1.7dtex×5mmを用い、180℃×2分間の条件で熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして比較例3の植生マットを得た。
【0025】実施例2木材チップを90質量%、複合繊維として融点を異にする2種のポリ乳酸からなる芯鞘型複合繊維(芯部:融点170℃、D体/L体(共重合モル比)=2/98、鞘部:融点130℃、D体/L体(共重合モル比)=8/92、芯/鞘(質量比)=1/1)4.4dtex×51mmを10質量%の割合で攪拌混合し、堆積させてエアスルー型熱処理装置により140℃×2分間の条件で熱処理を行ない目付5kg/m2の実施例2の植生マットを得た。
【0026】比較例4実施例2において、複合繊維に代えて、接着樹脂としてポリビニルアルコール樹脂を用い、70℃で乾燥処理を行った以外は実施例2と同様にして、比較例4の植生マットを得た。
【0027】比較例5実施例2において、複合繊維として融点を異にする2種のポリ乳酸からなる芯鞘型複合繊維(芯部:融点170℃、D体/L体(共重合モル比)=2/98、鞘部:融点165℃、D体/L体(共重合モル比)=3/97、芯/鞘(質量比)=1/1)2.2dtex×5mmを用い、170℃×2分間の条件で熱処理をを行った以外は、実施例2と同様にして比較例5の植生マットを得た。
【0028】
【表1】

【0029】表1より明らかなように、実施例1、2で得られたいずれの植生マットも、乾燥時および湿潤時の両者において、適度な強力を有しており、運搬時・作業時においても型くずれすることなく、かつ土中埋設による生分解性が良好であった。
【0030】一方、比較例1では、植生マットは得られ、乾燥時および湿潤時の運搬性・作業性は良好であるが、複合繊維が生分解性を有しないものであったため、土中で微生物により分解されるものではなかった。
【0031】比較例2では、植生マットは得られたが、湿潤時の保型性が悪く、運搬性・作業性に劣り、また接着樹脂が生分解性を有しないものであったため、土中で微生物により分解されるものではなかった。
【0032】比較例3では、成型できなかった。すなわち、180℃×2分の熱処理条件では、ポリ乳酸単一ポリマーからなる繊維は、籾殻を接着するのに十分に溶融せず、また、溶融させるために、より高温で熱処理を行うと、籾殻が熱による影響を受けて焦げ付いてしまう等の問題が発生するものであった。
【0033】比較例4では、植生マットは得られたが、湿潤時の保型性が悪く、運搬性・作業性に劣るものであった。
【0034】比較例5では、植生マットは得られたが、湿潤時の運搬・作業において、かなり慎重に取り扱わないと型くずれが起こすものであり、作業効率が悪いものであった。
【0035】
【発明の効果】本発明の生分解性植生マットは、植物性粒状物とポリ乳酸系重合体からなる複合繊維とから構成されており、複合繊維を表面の少なくとも一部を構成する低融点ポリ乳酸系重合体が溶融することにより、植物性粒状物同士を接着し、高融点ポリ乳酸系重合体は、熱の影響を受けずに、繊維形態を維持しているため、植生マットは、乾燥時および湿潤時の両者において、適度な保型性・機械的強力・柔軟性を有しているため、運搬時に型くずれせず、作業する際に、何ら差し支えなく、作業効率を向上させるものである。
【0036】また、植物性粒状物同士は、溶融してなる低融点ポリ乳酸系重合体によって接着されているものの、植物性粒状物は粒状のものであり、絡みあっているものではなく、単に堆積された状態で、接着されているため、苗の根は粒状物間に入りこむため、育苗時に根上り等の問題が発生することなく、良好に苗の育成が可能である。
【0037】また、複合繊維は、ポリ乳酸系重合体から構成されているため、嫌気状態および好気状態の両方において、微生物によって良好に生分解が可能である。また、ポリ乳酸系重合体は、抗菌・抗黴性を有していることから、育苗時に、マットに黴等が生えて苗の育成に影響を与えたり、見栄えを損なうという問題がない。
【出願人】 【識別番号】399065497
【氏名又は名称】ユニチカファイバー株式会社
【出願日】 平成12年5月29日(2000.5.29)
【代理人】
【公開番号】 特開2001−333636(P2001−333636A)
【公開日】 平成13年12月4日(2001.12.4)
【出願番号】 特願2000−158406(P2000−158406)