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【発明の名称】 作物栽培装置
【発明者】 【氏名】児玉 政廣

【氏名】岡部 勝美

【要約】 【課題】トマトやキュウリなどの作物を栽培する作物栽培装置において、適正な土壌水分状態を維持でき、圃場全体に均等に給水でき、過灌水となっても過湿とならず、太陽熱などによる熱殺菌処理を容易に行う。

【解決手段】ハウス土壌4上にコの字断面形の基板2を設置し、基板2上に防水シート12を敷設する。不織布からなる底面灌水マット3をその上に敷設し、底面灌水マット3上に一対の板枠5を立設して培養空間13を形成する。培養空間13に栽培土壌8を充填し、底面灌水マット3上に灌水チューブ6を配管する。これにより、灌水チューブ6から散水された水は、底面灌水マット3の全面に拡散して均一に保水された後、栽培土壌8の毛管作用でその底面から上昇する形で徐々に灌水される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 不織布からなる底面灌水マット(3)を敷設し、この底面灌水マット上に一対の板枠(5)を立設して培養空間(13)を形成し、この培養空間に栽培土壌(8)を充填し、前記底面灌水マットに給水手段(6)を添設したことを特徴とする作物栽培装置。
【請求項2】 底面灌水マットとして、平坦な中央部(3b)を有し、この中央部の両側にそれぞれ側壁部(3c)を各板枠(5)の外側で立ち上がるように連設し、各側壁部にそれぞれ排水部(3d)をその先端(3a)が前記中央部より低く位置するように垂設した底面灌水マット(3)を採用したことを特徴とする請求項1に記載の作物栽培装置。
【請求項3】 底面灌水マット(3)の下側に、当該底面灌水マットより幅広の防水シート(12)を一対の板枠(5)に着脱自在に敷設したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の作物栽培装置。
【請求項4】 底面灌水マット(3)と栽培土壌(8)との間に透水性の根切りシート(7)を介挿したことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の作物栽培装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、トマトやキュウリなどの作物の栽培に好適な作物栽培装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図3は従来の隔離ベッド栽培装置の一例を示す断面図である。
【0003】近年わが国の施設園芸は増加傾向にあり、1997年にはその総面積が52,600haに達したが、その大半は土を用いた土耕施設栽培によるものである。この土耕施設栽培では、連作による土壌伝染性病害や塩類障害が発生すること、長時間にわたる労働作業を強いられること、栽培の安定と作物の高品質化のために高度な栽培管理技術を要することなど、いくつかの問題点が指摘されていた。
【0004】こうした問題点を解決する手法として、隔離ベッド栽培(作物を栽培する土壌をハウス土壌から切り離して作物を栽培する方法)が提案され、斯界の注目を集めている。この隔離ベッド栽培では、図3に示すように、合成樹脂製のベッド9をハウス土壌4上に載置し、このベッド9に栽培土壌8を充填し、合成樹脂製の灌水チューブ6をその上に配管しておき、この灌水チューブ6から栽培土壌8に散水して作物10を栽培することになるため、汚染したハウス土壌4から作物10の根が隔離されるため連作障害が回避でき、畝立て耕起や除草などの土壌管理作業が軽減でき、灌水作業が省力化できるなど、多くの利点を備えている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この隔離ベッド栽培では次のような不都合があり、広範囲に普及するには至っていない。
【0006】第1に、ベッド9に収納する栽培土壌8の容量に自ずと限界があり、通常作物1株あたりの培地量は通常栽培に比べて大幅に少なくなる(通常の約1/3またはそれ以下)ことから、通常栽培に比べて栽培土壌8が乾きやすくなり、勢い灌水回数が多くなる。しかも、灌水チューブ6から散水された水は栽培土壌8中を主として自重によって上から下へ素早く移動するので、培地が乾いたり湿ったりして土壌水分が激しく変化し、適正な土壌水分状態を維持するのが難しい。これが作物生育を不安定にし、栽培を難しくする要因となっている。
【0007】第2に、合成樹脂製の灌水チューブ6では、広範囲に配管された灌水チューブ6に均等に水圧をかけることが難しく、場所による水圧の差によって灌水量に違いを生じることや、灌水チューブ6の小さい散水孔から栽培土壌8に向けて点滴状に灌水されるため、水の滴下部分とその周辺では、給水量に大きな差が現れること、さらに、栽培土壌8の状態によっては、灌水された水が栽培土壌8のクラックなどを契機に、いわゆる“水みち”を作り、培地内に行き渡る前に下部に流れ落ちてしまうことなどが原因で、灌水ムラを惹起しやすい。この灌水ムラは、灌水回数が多いほど顕著であり、培地容量が少なくて乾きやすい隔離ベッド栽培ほど、その傾向が強い。そして、灌水ムラが生じると、作物10の水分吸収、養分吸収にもムラができるため、作物10の生育にばらつきが生じ、収穫量や品質が低下するばかりか、収穫される作物10の大きさや形、熟度、品質もばらばらとなり、収穫作業、調整作業、袋詰作業などの能率が著しく悪化する。
【0008】第3に、灌水作業時に、多数ある灌水チューブ6の元栓バルブのどれかをうっかり閉め忘れた場合、ベッド9の排水口9aからの排水速度が限られているため、栽培土壌8は灌水過多となる。この場合、作物10が過度に養水分を吸収して過繁茂になり、果実の着果を悪くしたり、根腐れを起こすなどの問題が生じる。
【0009】第4に、一般栽培では勿論のこと隔離ベッド栽培においても、連作による土壌伝染性病害が発生するため、栽培土壌8の殺菌消毒が必要となる。その方法として、これまでは臭化メチルなどのガスを栽培土壌8に注入して殺菌を行っていたが、近年、環境保全の面から、これらガスの使用が規制されつつあり、それに代わる方法として、太陽熱や温水などを利用して栽培土壌8を熱殺菌する方法が注目されている。
【0010】本発明は、このような事情に鑑み、適正な土壌水分状態を維持でき、圃場全体にムラなく均等に給水でき、過灌水となっても過湿とならず、太陽熱や温水などによる熱殺菌処理を容易に行うことが可能な作物栽培装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明では、栽培土壌中をゆっくり上昇する毛管水を利用して作物の生育を促すことに着目した。
【0012】すなわち、本発明のうち請求項1に係る発明は、不織布からなる底面灌水マット(3)を敷設し、この底面灌水マット上に一対の板枠(5)を立設して培養空間(13)を形成し、この培養空間に栽培土壌(8)を充填し、前記底面灌水マットに給水手段(6)を添設して構成される。ここで、給水手段の一例として灌水チューブ(6)を挙げることができる。
【0013】こうした構成を採用することにより、給水手段から供給された水は、底面灌水マットの全面に拡散して均一に保水された後、栽培土壌の毛管作用によってその底面から上昇する形で徐々に灌水されるように作用する。
【0014】また、本発明のうち請求項2に係る発明は、前記底面灌水マットとして、平坦な中央部(3b)を有し、この中央部の両側にそれぞれ側壁部(3c)を前記各板枠(5)の外側で立ち上がるように連設し、各側壁部にそれぞれ排水部(3d)をその先端(3a)が前記中央部より低く位置するように垂設した底面灌水マット(3)を採用して構成される。かかる構成により、通常の栽培時には底面灌水マットの中央部および各側壁部に漏れなく保水されるとともに、栽培土壌に過剰な水が含まれた場合、底面灌水マットの排水部の先端から過剰水が排水されるように作用する。
【0015】また、本発明のうち請求項3に係る発明は、前記底面灌水マット(3)の下側に、当該底面灌水マットより幅広の防水シート(12)を前記一対の板枠(5)に着脱自在に敷設して構成される。かかる構成により、熱殺菌時(非栽培時)には、防水シートを持ち上げて板枠に固定すると、底面灌水マットの端部が包み込まれた状態となり、栽培土壌および底面灌水マットに含まれた水が防水シートの内部に保持されるように作用する。
【0016】さらに、本発明のうち請求項4に係る発明は、前記底面灌水マット(3)と前記栽培土壌(8)との間に透水性の根切りシート(7)を介挿して構成される。かかる構成により、作物(10)の根や塵埃が底面灌水マットに侵入することが根切りシートによって阻止されように作用する。
【0017】なお、括弧内の符号は図面において対応する要素を表す便宜的なものであり、したがって、本発明は図面上の記載に限定拘束されるものではない。このことは「特許請求の範囲」の欄についても同様である。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】図1は本発明に係る作物栽培装置の一実施形態を示す断面図、図2は図1に示す作物栽培装置の熱殺菌方法を示す断面図である。
【0020】この作物栽培装置1は、図1に示すように、ハウス土壌4上に設置されたコの字断面形の基板2を有しており、基板2上にはポリエステル長繊維製の不織布からなる底面灌水マット3が敷設されている。底面灌水マット3上には一対の板枠5がその間に培養空間13を形成する形で立設されており、培養空間13には栽培土壌8が充填されている。また、これら板枠5の外側にはそれぞれ、可撓性のあるポリエチレン製の灌水チューブ6が底面灌水マット3上に配管されている。
【0021】なお、底面灌水マット3は平坦な中央部3bを有しており、中央部3bの両側にはそれぞれ側壁部3cが各板枠5の外側で所定の高さH1まで立ち上がるように連設されている。さらに、各側壁部3cにはそれぞれ排水部3dが連設されている。ここで、排水部3dの先端3aは中央部3bより所定の高さH2だけ低く位置している。
【0022】また、基板2と底面灌水マット3との間には、遮光性の高い銀色の防水シート12が敷設されており、防水シート12の両端部は一対の板枠5に着脱自在に取り付けられている。さらに、底面灌水マット3と栽培土壌8との間には透水性の根切りシート7が介挿されている。
【0023】作物栽培装置1は以上のような構成を有するので、この作物栽培装置1を用いて作物10を栽培する際には、元栓バルブ(図示せず)を開けて灌水チューブ6から散水させる。すると、その水は、まず底面灌水マット3内をその毛管作用によって横移動し、すぐに底面灌水マット3の全面に広がって均一に保水される。同時に、その水は底面灌水マット3上で接する栽培土壌8へ移行し、栽培土壌8の毛管作用によってその底面から上昇する形で徐々に灌水され、最後には栽培土壌8全体に供給される。その結果、圃場全体にムラなく均等に給水することができる。
【0024】この際、底面灌水マット3は、その両端部が一旦高くなった後、垂れ下がっているので、灌水チューブ6から散水された水は底面灌水マット3の中央部3bおよび各側壁部3cに漏れなく保水され、もし栽培土壌8に過剰な水が含まれた場合には、防水シート12の一部が樋の役割を果たしつつ、底面灌水マット3の排水部3dの先端3aから過剰水が排水されるので、栽培土壌8を常に適正な水分状態に保つことができる。
【0025】また、底面灌水マット3と栽培土壌8との間には根切りシート7が介挿されているので、作物10の根や塵埃が底面灌水マット3に侵入することはなく、底面灌水マット3の毛管性能が低下する事態は発生しない。ここで、根切りシート7は透水性であるため、底面灌水マット3中の水分は根切りシート7を通って栽培土壌8へ支障なく移行する。
【0026】ところで、非栽培時において、栽培土壌8を熱殺菌する場合は、図2に示すように、防水シート12を持ち上げて板枠5に固定する。すると、底面灌水マット3の端部が包み込まれた状態となり、栽培土壌8および底面灌水マット3に含まれた水が防水シート12の内部に保持されるので、太陽熱や温水を利用して栽培土壌8の熱殺菌処理を容易に行うことができる。すなわち、太陽熱消毒を行う場合は、培養空間13内を水で充満させ、その上を透明フィルム(図示せず)で覆う。その状態で、高温時に栽培ハウスを密閉し、培養空間13内の温度を上昇させ、所定の温度に達したら、一定時間その温度を維持して殺菌を行う。他方、温水消毒を行う場合には、ボイラーで作成した温水を培養空間13内に流し込み、所定の温度を一定時間だけ保って殺菌する。これら太陽熱消毒、温水消毒により、栽培土壌8中の病原菌や根こぶ線虫などの害虫、さらには雑草の種などが死滅する。一例を挙げれば、温度が55℃前後に達した後、少なくともその温度を6時間以上維持すれば、代表的な病害微生物のピシウム菌は死滅する。また、栽培土壌8に水を蓄えて殺菌する方法は、副次的効果として、栽培土壌8に過剰に蓄積した肥料塩類を洗い流す効果があり、それによって連作障害が回避されるので、毎年同じ栽培土壌8を用いて同一種類の作物10を栽培すること、すなわち連作が可能となる。さらに、防水シート12は遮光性が高いので、藻の発生や紫外線による資材の劣化を防ぐこともできる。
【0027】なお、上述の実施形態においては、ポリエステル長繊維製の不織布からなる底面灌水マット3を用いた場合について説明したが、その他の不織布からなる底面灌水マット3を採用することもできる。
【0028】また、上述の実施形態では、給水手段としてポリエチレン製の灌水チューブ6を用いた場合について説明したが、灌水チューブ6の材質をポリエチレン以外のものとすることも可能であり、さらに灌水チューブ6以外の給水手段(例えば、硬質の合成樹脂からなる灌水パイプ、キャピラリー方式による点滴灌水チューブなど)を採用しても構わない。
【0029】
【実施例】以下、実施例として茨城県取手市の農家でのキュウリ栽培の事例について説明する。なお、ここで用いた作物栽培装置の構成部材のサイズ、材質などは次のとおりである。
【0030】基板:発泡ポリプロピレン製、厚さ20mm、幅840mm、高さ70mm(外のり)
底面灌水マット:ポリエステル長繊維製の不織布、厚さ3mm板枠:発泡ポリプロピレン製、厚さ30mm、高さ200mm、間隔600mm栽培土壌:農家の畑土壌と草炭とイソライトを容積比で4:4:2で混合して作成、深さ180mm灌水チューブ:ポリエチレン製、内径34mm防水シート:ポリエチレン製(銀色)、厚さ0.1mm根切りシート:目の細かいポリエステルタフタ【0031】まず、キュウリ(品種:アンコール10)および台木用カボチャ(品種:光パワーゴールド)を2月12日に播種した。2月25日に穂木のキュウリを台木のカボチャに接ぎ木し、直ちに直径約10cmのポリエチレン鉢に鉢上げした。その後、温床線で加温したビニールハウス内で育苗し、本葉3枚目が展開した3月17日に、以下に示す栽培ベッドに定植して栽培した。
【0032】間口5.4mのビニールハウス内に、上述した本発明に係る作物栽培装置を12m設置した。同時に、この作物栽培装置と同じ幅および深さの栽培ベッドで、土壌表面より灌水チューブ灌水を行う従来型の隔離ベッドでもキュウリを栽培し、比較検討した。さらに、同農家が従来より行っている隔離ベッドによらない土耕栽培も同時に行い、比較検討した。ここで、肥料は1m2 あたり、窒素:13.7g、リン酸:23.0g、カリ:11.7gの成分量とし、有機複合肥料(8−15−7)および複合化成(13−12−10)を用い、予め作付前に全層施肥した。なお、土耕栽培では農家ハウス土壌(黒ボク土)を用いた。
【0033】そして、定植後3週間目の生育状況を調べた。その結果をまとめて表1に示す。表1から明らかなように、従来法(隔離ベッド栽培および土耕)と比べて、本発明に係る作物栽培装置ではキュウリの生育が早く、主茎長(つるの長さ)、節の数、葉の大きさ、調査時点までに開花した雌花の数など全ての項目で優位性が確認された。
【表1】

【0034】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のうち請求項1に係る発明によれば、灌水チューブなどの給水手段から供給された水は、底面灌水マットの全面に拡散して均一に保水された後、栽培土壌の毛管作用によってその底面から上昇する形で徐々に灌水されることから、適正な土壌水分状態を維持するとともに、圃場全体にムラなく均等に給水することが可能となる。
【0035】また、本発明のうち請求項2に係る発明によれば、通常の栽培時には底面灌水マットの中央部および各側壁部に漏れなく保水されるとともに、栽培土壌に過剰な水が含まれた場合、底面灌水マットの排水部の先端から過剰水が排水されることから、過灌水となっても栽培土壌が過湿となる事態の発生を防ぐことができる。
【0036】また、本発明のうち請求項3に係る発明によれば、熱殺菌時(非栽培時)には、防水シートを持ち上げて板枠に固定すると、底面灌水マットの端部が包み込まれた状態となり、栽培土壌および底面灌水マットに含まれた水が防水シートの内部に保持されることから、太陽熱や温水によって栽培土壌を熱殺菌することが容易となる。
【0037】さらに、本発明のうち請求項4に係る発明によれば、作物の根や塵埃が底面灌水マットに侵入することが根切りシートによって阻止されることから、底面灌水マットの毛管性能が低下する事態を回避することができる。
【出願人】 【識別番号】000204099
【氏名又は名称】太洋興業株式会社
【出願日】 平成12年4月14日(2000.4.14)
【代理人】 【識別番号】100067046
【弁理士】
【氏名又は名称】尾股 行雄
【公開番号】 特開2001−292643(P2001−292643A)
【公開日】 平成13年10月23日(2001.10.23)
【出願番号】 特願2000−112987(P2000−112987)