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【発明の名称】 無病種子の生産方法
【発明者】 【氏名】湊 莞爾

【氏名】茂田 勝美

【要約】 【課題】野菜や草花等の園芸生産に使用する種子の生産段階において、効率的に種子伝染性病害を防除し、無病種子をより多く生産する方法を提供する。

【解決手段】種子伝染性病害の病原体に対して拮抗性を持つ有効微生物で原種を処理する無病種子の生産方法である。該有効微生物は原種種子に処理しても、採種栽培中の植物体に処理しても、採種栽培の土壌に処理してもよい。有効微生物としては、例えば、アルタナリヤ(Alternaria)属に属する病原菌に対して拮抗性を持つバチルス(Bacillus)属細菌や、キサントモナス(Xanthomonas)属に属する病原菌に対して拮抗性を持つパントエア(Pantoea)属細菌及びレクレルシア(Leclercia)属細菌が使用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】種子伝染性病害の病原体に対して拮抗性を持つ有効微生物で原種を処理する無病種子の生産方法。
【請求項2】前記有効微生物を原種種子に処理することを特徴とする請求項1記載の無病種子の生産方法。
【請求項3】前記有効微生物を採種栽培中の植物体に処理することを特徴とする請求項1記載の無病種子の生産方法。
【請求項4】前記有効微生物を採種栽培の土壌に処理することを特徴とする請求項1記載の無病種子の生産方法。
【請求項5】前記有効微生物が、アルタナリヤ(Alternaria)属に属する病原菌に対して拮抗性を持つバチルス(Bacillus)属細菌であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無病種子の生産方法。
【請求項6】前記有効微生物が、キサントモナス(Xanthomonas)属に属する病原菌に対して拮抗性を持つパントエア(Pantoea)属細菌及び/又はレクレルシア(Leclercia)属細菌であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無病種子の生産方法。
【請求項7】生産される種子が、ユリ科、セリ科、アブラナ科、キク科、アカザ科、ナス科、ウリ科またはマメ科に属する作物の種子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の無病種子の生産方法。
【請求項8】請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により生産された種子。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は野菜や草花等の園芸生産に使用する種子の生産において、種子伝染性病害に感染していない無病種子を生産する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】野菜や草花等の園芸生産に使用する種子は、採種地と呼ばれる圃場や温室、ビニールハウス等の施設内において生産される。これらの採種地では原種と呼ばれる種子生産用の種子を使用して栽培、種子生産(以下、採種と呼ぶ)を行なっている。
【0003】野菜の採種栽培は、青果栽培、つまり市場出荷や食用を目的とした栽培とは異なる。採種栽培では、種子を着生する採種母本が花芽分化、開花、受粉した後、結実し、最終的に成熟した種子を得る。一方、青果栽培においては、例えば、キャベツ、ハクサイ、ホウレンソウ等の葉部を食用とする葉菜類や、ダイコン、カブ、ニンジン、ネギ等の根茎部を食用とする根菜類では、花芽分化、抽だい、開花させることはなく、植物学的には未成熟な生長段階で収穫されるものである。また、ブロッコリ、カリフラワー等は、未成熟な花蕾の段階で収穫されるものであり、開花させるには至らない。また、果実生産を目的とするキュウリ、ピーマン、ナス等の果菜類も未熟な果実を収穫するものである。つまり、青果栽培に比べて採種栽培は、栽培期間が長く、植物の生長としては成熟、老化段階まで継続する。
【0004】さらに、採種栽培では原種と遺伝的に同じ種子を生産するだけではなく、より均一で生産性、市場性の高い品種の種子を生産するために、遺伝的に異なる原種同士を組み合わせること(以下、交配と称する)も広く行われている。交配方法はいくつかあるが、例えば、キャベツ、ハクサイ、ブロッコリ、カリフラワー、ダイコン、カブ、ハボタン等のアブラナ科作物では、自家不和合性と称する同じ不和合性の遺伝子型を持つ原種同士では花粉の受粉、結実が行われない性質を利用して交配し、目的とする種子を生産している。また、トマト、ナス、ピーマン等のナス科作物では、開花前に雄しべを除去し、開花後に目的とする他の原種の花粉を受粉し、キュウリ、スイカ、カボチャ等のウリ科作物では、雌花、雄花に分かれて開花する性質を利用して異なる原種の交配を行っている。さらに、タマネギ、ニンジン等では、雄性不稔と呼ばれる遺伝的に花粉が不稔になる性質を利用して目的とする種子を生産している(野菜の採種技術、そ菜種子生産研究会、誠文堂新光社、1978年;ハイテクによる野菜の採種、そ菜種子生産研究会、誠文堂新光社、1988年;Seed Production Principles and Practices,M.B.McDonald,L.O.Copeland,Chapman&Hall,1997)。
【0005】また、草花種子の採種においても野菜類と同様に様々な手段を使い種子を生産している(Seeds handbook Biology Production Processing and Storage,359-396,Marcel Dekker Inc.,1997)。
【0006】上述のように様々な原種から園芸生産用の種子を生産するのであるが、生産された種子が目的とする遺伝子型を持ち、十分な発芽力を有していたとしても、病害に感染している場合がある。これらの種子に感染している病害は種子伝染性病害と呼ばれ、病害に感染した採種母本から種子に伝染したものである(農林種子学総論、161-183、中村俊一郎著、養賢堂、1985年;Seed Quality Basic Mechanisms and Agricultural Implications,160-171,Amarjit S.Basra ed.,Food Products Press,1995)。種子伝染性病害に感染した種子を園芸生産に利用すると、これらの病害感染種子から発病するのはいうまでもなく、育苗、栽培期間中に感染源となって本来無病であった作物にも病害が伝染し、園芸生産上極めて大きな損失となりやすい。また、圃場、温室、ビニールハウスの土壌や施設に病原菌や感染した作物残さが残ると、その後の栽培でも発病が見られることが多い。さらに、野菜、草花種子が海外に輸出されることも近年増加しているが、種子伝染性病害に感染していると諸外国の植物検疫により通関できず、輸出、販売ができない場合もある(Plant Pathogens and the World wide Movement of seeds,Denis C.McGee,APS Press,1997)。
【0007】以上のように種子伝染性病害が園芸生産や種子販売、流通にもたらす損失は極めて甚大であり、採種栽培や種子販売において克服するべき大きな課題となっている(種子伝染病の生態と防除、大畑貫一等編、(社)日本植物防疫協会、1999年;Seed Technology,Vol.20,2,187-197,1998)。現在、種子伝染性病害の防除としてとられている主な対策には以下のようなものがある。
【0008】(a) 採種地での薬剤防除(農薬散布、土壌消毒等)
(b) 耐病性遺伝子を持つ原種の使用(c) 採種された種子に対する消毒あるいは原種種子の消毒これらの種子伝染性病害の防除対策はある程度の効果はあるものの、それぞれ問題を有している。
【0009】例えば、(a)の薬剤防除は、採種栽培では十分な防除効果を得にくい。これは、以下のような採種栽培の性質による。すなわち、採種栽培では、目的としない交配可能な他の花粉や花粉を付着した昆虫が飛来しないように採種地は離ればなれに置かれるが、近年では採種に適した隔離地の確保が困難になり単一作物の連作を余儀なくされているため、病害発生に結びつきやすい。さらに、前述したように採種母本が植物の生長段階における成熟、老化まで続くため、草勢が低下し、病害に感染しやすくなっているので、防除は一層困難になっている。また、草花種子の採種では、開花後の花を種子が十分成熟するまで置くために、枯れた花弁等から病害が感染しやすい。
【0010】上記(b)の耐病性遺伝子を持つ原種の使用については、病害によっては耐病性育種が進んでいないものもあり、十分に防除できる技術レベルに至っていない場合が多い。
【0011】上記(c)の採種された種子に対する種子消毒は、営利的に広く実施されている。例えば、種子の農薬溶液への浸漬、農薬の粉衣、コーティングあるいは温湯浸漬、乾熱処理等がある(農林種子学総論、183-194、中村俊一郎著、養賢堂、1985年)。これらの種子消毒法は効果があるものの、大量に採種された種子を消毒するには多大の労力、コストがかかる問題がある。また、消毒効果自体が十分でない場合もある。
【0012】近年、植物の病害防除において化学合成農薬とは別に、自然界に存在している有効微生物を利用する試みが進められている(病害防除の新戦略、141-188、駒田旦・稲葉忠興他編、全国農村教育協会、1992年;農業環境を守る微生物技術、家の光協会、1998年;Seed Technology,Vol.20,2,198-208,1998)。これらの病害防除に利用される有効微生物は病原菌に対して拮抗性を持ち病原菌の増殖を抑制するものであり、化学合成農薬とは違い、自らが増殖するので防除効果が長続きする、農薬耐性菌の発生が抑えられる、元々自然界に存在する微生物であるので環境汚染の恐れが少ない等の利点がある。
【0013】作物収穫を目的とした農園芸生産における上記有効微生物の利用技術は、広く知られている(特開平5−51305号;特開平6−253827号;特開平7−25716号;特開平7−75562号;特開平9−224655号;特開平10−203917号;特開平11−4606号;特開平11−253151号;米国特許第4886512号;Annual Review of Phytopathology 31,53-80,Cook,R.J.,1993;HortTechnology,345-349,2(3),M.B.Bennett,V.A.Fritz,N.W.Callan,1992)。しかしながら、園芸生産に使用する種子の採種段階において、無病種子を生産するための手段として有効微生物を利用しようとする技術は開発されていなかった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、野菜や草花等の園芸生産に使用する種子の生産段階において、効率的に種子伝染性病害を防除し、無病種子をより多く生産する方法を提供するものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記の課題を克服すべく鋭意検討した結果、種子伝染性病害をもたらす病原菌に対して拮抗作用を持つ有効微生物で原種を処理することで目的とする無病種子をより多く生産することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】すなわち、本発明は、種子伝染性病害の病原体に対して拮抗性を持つ有効微生物で原種を処理する無病種子の生産方法に関するものである。
【0017】ここでいう、有効微生物で原種を処理することには、(1)原種種子に対して処理すること、(2)採種栽培中の植物体に対して処理すること、及び、(3)採種栽培の土壌に対して処理することが含まれる。
【0018】上記したように、有効微生物による病害防除では、化学合成農薬とは違い、微生物自らが増殖するので防除効果が長続きする利点があり、また、採種地の土壌に定着することができれば、永年的に種子伝染性病害を防除できるので、防除作業が省力化できる。そして、本発明によれば、特に、有効微生物を採種前の原種に対して処理することから、採種栽培で生産された種子に対して有効微生物を処理する場合に比べて非常に効率的である。
【0019】
【発明の実施の形態】本発明で使用できる有効微生物としては、園芸作物の種子伝染性病害をもたらす病原菌に対して拮抗性を持ち、採種母本の病害発生を抑制できるものであれば特に限定されないが、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属、グリオクラジューム(Gliocladium)属、ペニシリウム(Penicillium)属などの糸状菌類、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、パントエア(Pantoea)属、レクレルシア(Leclercia)属などの細菌類等が挙げられる。特に好ましくは、採種された野菜や草花などの種子から分離した有効微生物である。
【0020】特定の種子伝染性病害に対して拮抗性を持つ有効微生物は以下のようにして得ることができる。すなわち、種子や土壌などから単一に分離された糸状菌および細菌(以下、候補菌という)を、防除の対象とする種子伝染性病害の病原菌と同一の培地上にて対峙もしくは交差するように塗布し、病原菌の生育適温下にて数日間培養する(対峙培養)。培養後、双方の生育を観察して、病原菌の生育が候補菌によって明らかに抑制されているものを、拮抗性を持つ有効微生物して選択する。また、有効微生物と病原菌がともに細菌である場合において、詳細に拮抗性を調査するときには、あらかじめ適度に培養しておいた候補菌をクロロホルム処理した後、病原菌を約10cfu/mlの濃度になるように調整・懸濁した培地を重層して数日間培養する。培養後、病原菌の生育が抑制されている透明な領域(阻止円)が生ずるので、その領域の大きさを測定して拮抗性の強度を検討する(植物病原性微生物研究法、459-474、脇本哲監修、ソフトサイエンス社、1993年)。
【0021】本発明が利用できる園芸作物は、特に限定されないが、例えばタマネギ、ネギ等のユリ科作物、ニンジン、セルリー、ミツバ等のセリ科作物、キャベツ、ブロッコリ、ハクサイ、ダイコン、カブ等のアブラナ科作物、レタス、サラダナ、シュンギク、ゴボウ等のキク科作物、ホウレンソウ、フダンソウ、テンサイ等のアカザ科作物、トマト、ナス、ピーマン、トウガラシ、トルバム、アカナス、タバコ等のナス科作物、キュウリ、メロン、スイカ、カボチャ、カンピョウ等のウリ科作物、スィートコーン等のイネ科作物、及び、エンドウ、ソラマメ、インゲン、ダイズ等のマメ科作物などの食用園芸作物、並びに、パンジー、ペチュニア、アフリカホウセンカ、ユーストマ、ナデシコ、ハボタン、ストック、プリムラ、ヒマワリ、ジニア、マリーゴールド、アスター、キンギョソウ、シクラメン、バーベナ等の草花類を挙げることができる。
【0022】本発明で防除の対象とする種子伝染性病害は、特に限定されないが、例えば、キャベツの黒斑病(Alternaria brassicae)、黒すす病(Alternaria brassicicola)、べと病(Peronospora brassicae)、黒斑細菌病(Pseudomonas syringaep.v. maculicola)、黒腐病(Xanthomonas campestris p.v. campestris)、根朽病(Phoma lingam)、ダイコンの黒斑病(Alternaria japonica, Alternariabrassicicola, Alternaria brassicae)、萎黄病(Fusarium oxysporum f.sp.raphani)、黒腐病(Xanthomonas campestris p.v. campestris)、ハクサイの黒斑病(Alternaria brassicae)、黒腐病(Xanthomonas campestris p.v. campestris)、黄化病(Verticillium dahliae)、ニンジンの黒葉枯病(Alternaria dauci)、黒斑病(Alternaria radicina)、斑点細菌病(Xanthomonas campestris p.v.carotae)、セルリーの葉枯病(Septoria apii)、菌核病(Sclerotiniasclerotiorum)、葉枯細菌病(Pseudomonas syringae p.v. apii)、タマネギの黒斑病(Alternaria porri)、灰色腐敗病(Botrytis allii)、菌糸性腐敗病(Botrytis byssoidea)、乾腐病(Fusarium oxysporum f.sp.cepae)、べと病(Peronospora destructor)、ホウレンソウのべと病(Peronospora farinosa)、萎凋病(Fusarium oxysporum f.sp.spinaciae)、炭そ病(Colletotrichum dematium)、トマトの輪紋病(Alternaria solani)、かいよう病(Clavibacter michiganensis subsp. michiganensis)、斑点細菌病(Xanthomonas campestris p.v.vesicatoria)、ナスの褐斑病(Alternaria solani)、褐紋病(Phomopsis vexans)、及び、キュウリの黒斑病(Alternaria cucumerina)、斑点細菌病(Pseudomonas syringae p.v.lachrymans)、褐斑細菌病(Xanthomonas campestris p.v.cucurbitae)等が挙げられる。また、草花類では、例えばジニアの黒斑病(Alternaria zinniae)、斑点細菌病(Xanthomonas campestris p.v. zinniae)、ヒマワリの菌核病(Sclerotinia sclerotiorum)、黒斑病(Alternaria helianti)、及び、ハボタンの黒腐病(Xanthomonas campestris p.v. campestris)等が挙げられる。
【0023】本発明における有効微生物の原種に対する処理方法は特に限定されないが、上記したように、(1)原種種子への処理、(2)採種栽培中の植物体への処理、(3)採種栽培の土壌中への処理などが挙げられる。
【0024】(1)の原種種子への処理方法としては、例えば、有効微生物の培養液を希釈してその中に種子を浸漬する方法、公知の方法(特開平5−207807号)で種子をペレット加工する時にタルク等の造粒材中へ目的とする有効微生物を混合する方法、公知の方法(特開平11−146707号)でフィルムコーティングする際にコーティング液中に有効微生物を混合する方法などが挙げられる。また、公知の方法(特開平9−140219号、特開平9−220002号)で播種前に種子へ吸水処理を行い発芽改善処理をする場合に、有効微生物とともに吸水処理してもよく、この場合、処理中に有効微生物が増殖して種子の表面や内部に良く付着するので、効率が良い。
【0025】(2)の採種栽培中の植物体への処理としては、育苗中の苗や栽培中の採種母本への茎葉散布処理などが挙げられ、この場合、化学合成農薬と同様に有効微生物の懸濁液を茎葉に散布すれば良い。
【0026】(3)の採種栽培の土壌中への処理としては、採種地の土壌や育苗培土への処理が挙げられ、例えば、土壌改良材や育苗培土の材料として使用されているバーミキュライト、ピートモス、パーライト、ゼオライト、ヤシ殻等に目的とする有効微生物を添加し、これらの材料を採種地の土壌や育苗培土に混合することで達成できる。また、有効微生物の懸濁液を土壌や育苗培土の表面から散布しても良い。
【0027】以上のような処理方法を用いて有効微生物を処理することによって、原種のみならず、採種した種子の表面や内部にも増殖した該有効微生物を付着させることも好ましい態様であり、このことによって、生産された種子は無病であるばかりでなく、栽培中の病害発生を防除することも可能となる。
【0028】本発明において使用する有効微生物の処理量は、対象とする野菜や草花の種類、種子伝染性病害、有効微生物の種類、処理方法、採種地の環境等によって変わるので一概には言えない。また、採種栽培は自然環境下で行われるため、気象や天候等の環境変化により有効微生物の処理方法や処理量を変化させて対応する必要もある。
【0029】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。実施例では、アルタナリヤ(Alternaria)属に属する種子伝染性病害の病原菌に対して拮抗性を持つバチルス(Bacillus)属細菌(以下、拮抗性バチルス属細菌という。)の利用と、キサントモナス(Xanthomonas)属に属する種子伝染性病害の病原菌に対して拮抗性を持つパントエア(Pantoea)属細菌(以下、拮抗性パントエア属細菌という。)及びレクレルシア(Leclercia)属細菌(以下、拮抗性レクレルシア属細菌という。)の利用による無病種子の生産技術について説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0030】(実施例1)拮抗性バチルス属細菌のスクリーニング及び培養1.スクリーニングニンジン黒斑病菌(Alternaria radicina)及び黒葉枯病菌(Alternaria dauci)に汚染されたニンジン種子(向陽二号、タキイ種苗株式会社製)を、細菌用培地(キングB培地)と糸状菌用培地(モルツアガー培地)上に並べて、アルタナリヤ属菌の発育適温(25.0℃)に保った。すると、ほとんどの種子からアルタナリヤ属菌が両培地に発生したが、中にはアルタナリヤ属菌が発生せず、細菌または糸状菌が発生した種子が特にキングB培地において低率ながら見られた。これらの発生した菌からアルタナリヤ属菌に拮抗性のある菌をスクリーニングした。すなわち、病原性アルタナリヤ属菌(ニンジン黒斑病菌、黒葉枯病菌)をそれぞれ7〜10日間25℃でモルツアガー培地に平板培養した。発育した菌そうの一部をコルクボーラーで一定量採取し、モルツアガー平板培地の中心部に置き、25℃で2日間培養した後、検定する細菌をアルタナリヤ属菌の菌そうから約3cm離して画線培養した。さらに25℃で7〜10日間培養した後、画線培養した細菌により、アルタナリヤ属菌の生育阻害帯が明確に形成された場合、その細菌を拮抗性細菌と判定した。分離細菌中に占める拮抗性細菌の比率は12%であった。
【0031】得られた拮抗性細菌は6菌株であり、これらはコロニーの性状が同一であった。この6菌株の分類学的性状は下記表1の通りである【表1】

表1より、これら6菌株はいずれもバチルス属細菌(Bacillus sp.)と同定された。
【0032】これらの細菌に各種アルタナリヤ属菌(トマトアルターナリヤ茎枯病菌:Alternaria alternata tomato pathotype、アブラナ科野菜の黒斑病菌:Alternariabrassicae、ダイコン黒斑病菌:Alternaria japonica、ネギ黒斑病菌:Alternaria porri、ジニア黒斑病菌:Alternaria zinniaeおよび腐生繁殖性のAlternariaalternata)を供試したところ、すべてに対し拮抗性が認められた。
【0033】なお、公知の植物病原糸状菌拮抗性バチルス属細菌(特開平2−209803号;特開平3−213564号;特開平6−133763号;特開平6−253827号;特開平10−146185号;特開平10−146187号)は、土壌、堆肥、下水汚泥、植物根面・根圏から分離される多種の細菌から選抜された菌株であり、植物の微生物環境に定着している微生物とは考えられないが、本発明者らがスクリーニングした上記バチルス属細菌は、病原性アルタナリヤ属菌が高密度で生息するニンジンの種子から、拮抗性微生物としては異例の高頻度で選抜された細菌であり、アルタナリヤ属菌汚染種子の微生物相の中に定着していると判断される。
【0034】上記拮抗性細菌6菌株を、バチルス sp. 3K−2、バチルス sp. 3K−5、バチルス sp. 3K−6、バチルス sp. 3K−7、バチルス sp. 3K−10、バチルス sp. 3K−11と、それぞれ命名し、バチルス sp. 3K−11については工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した(FERM P-17874)。なお、下記の実施例ではこれら6菌株をそれぞれ単独で使用しているが、2種以上併用して使用することもできる。
【0035】2.培養25℃の各種液体培地で上記拮抗性細菌6菌株を振とう培養した結果、通常の細菌用培地であるYDC、キングB、ペプトン蔗糖の各培地よりも、通常は糸状菌培養に用いられるV8ジュース液体培地(野菜のジュース培地)で増殖が早く、培養開始後2日で細菌濃度が7×10/mlに達し、芽胞化細胞が多く認められたが、他の培地では濃度が5〜6×10/ml以下で芽胞化細胞はほとんど認められなかった。増殖温度は25〜30℃が適温で、20℃では不良、15℃ではほとんど増殖しなかった。
【0036】(実施例2)拮抗性バチルス属細菌によるニンジン黒斑病の発病抑制効果ニンジン黒斑病が発生した原種採種圃場から採種したニンジン品種(陽明五寸、タキイ種苗株式会社製)の原種種子(A系、雄性不稔系統)を、実施例1のV8ジュース液体培地で培養した拮抗性バチルス属細菌6菌株の菌液(菌濃度1〜2×10/ml)に2時間浸漬した後、通風乾燥した。得られた種子を25℃の恒温室内で土壌に100粒ずつ播種して、発芽率と発芽後の立枯率を調べた。また、比較例として、市販薬剤であるロブラール水和剤(商品名、武田薬品株式会社製)の1000倍希釈液に浸漬処理した種子と、無処理の種子についても、同様に播種して、発芽率と発芽後の立枯率を調べた。結果を表2に示す。
【0037】表2に示すように、拮抗性バチルス属細菌を付着させた実施例のニンジン種子は、発芽率が高く、また、健全株率(発芽した種子の中で健全に生育した苗(株)の比率)も化学農薬であるロブラール水和剤と同程度に高く、従って、病害発生が明らかに抑制されていた。
【0038】
【表2】

(実施例3)拮抗性バチルス属細菌によるキャベツ黒すす病の発病抑制効果キャベツ黒すす病が発生した原種採種圃場から採種したキャベツ品種(秋徳、タキイ種苗株式会社製)の原種種子(B系)を、実施例1のV8ジュース液体培地で培養した拮抗性バチルス属細菌6菌株の菌液(3.5〜3.7×10/ml)に15分間浸漬した後、35℃で通風乾燥した。得られた種子を25℃の恒温室内で土壌に100粒ずつ播種して、発芽率と黒すす病の発生率を調べた。また、比較例として、市販薬剤であるロブラール水和剤(商品名、武田薬品株式会社製)の1000倍希釈液に浸漬処理した種子と、無処理の種子についても、同様に播種して、発芽率と黒すす病の発生率を調べた。結果を表3に示す。
【0039】表3に示すように、拮抗性バチルス属細菌を付着させた実施例のキャベツ種子は、発芽率が高く、また、黒すす病の発生株率が化学農薬であるロブラール水和剤処理以上に低下した。
【0040】
【表3】

(実施例4)ニンジン採種母本への拮抗性バチルス属細菌の散布処理試験根部が十分肥大した抽だい前のニンジン品種(陽明五寸、タキイ種苗株式会社製)の原種種子(C系)を素焼鉢に1株ずつ移植し、ガラス室内に置いた。実施例1のV8ジュース液体培地で培養したバチルス属細菌の2菌株(3K−73K−11)の菌液(原液を水で2倍希釈。細菌濃度2.5〜3.7×10/ml)を、採種母本の茎葉に対し、噴霧器で1株あたり300ml散布した。散布は、後記する病原菌接種の8日前、1日前の各時期に行った。1区あたり100株を供試した。期間中のガラス室内温度は13〜24℃であった。次に、ニンジン株を24℃の定温室内に入れ、ニンジン黒斑病菌の分生子を噴霧接種して1日間飽和湿度に保った後、ガラス室に戻した。病原菌接種4日後に発病程度(葉の病斑面積比率)を調査した。また、比較例として、バチルス属細菌を処理しなかった種子についても、同様に病原菌を接種して発病程度を調査した。結果を表4に示す。
【0041】表4に示すように、拮抗性バチルス属細菌を葉面散布した実施例のニンジン採種母本においては黒斑病発生率が明らかに低下していた。
【0042】
【表4】

(実施例5)ニンジンF1種子の採種ニンジン黒斑病が発生した原種採種圃場から採種したニンジン品種(陽明五寸、タキイ種苗株式会社製)の原種種子A系(採種母本;雄性不稔系)とC系(花粉親系)の種子を、実施例2と同様にして拮抗性バチルス属細菌6菌株の菌液に浸漬処理した後、乾燥させた。得られた種子を用いて採種栽培を行い、採種したF1種子(A×C)について黒斑病感染の有無を実施例2と同様に調査した。また、比較例として、A系及びC系ともにバチルス属細菌で処理していない無処理の種子を用いて、同様に採種栽培し、F1種子(A×C)を得た。結果を表5に示す。
【0043】表5に示すように、本発明によって採種した実施例のF1種子は、比較例のF1種子に比べて、発芽率が高く、発芽株の立枯率も低く、種子伝染性病害に感染していないか、発病が抑えられていることは明らかであった。
【0044】
【表5】

(実施例6)キャベツF1種子の採種キャベツ黒すす病が発生した原種採種圃場から採種したキャベツ品種(秋徳、タキイ種苗株式会社製)の原種種子B系(自家不和合性系統)とD系(自家不和合性系統)の種子を、実施例3と同様にして拮抗性バチルス属細菌6菌株の菌液に浸漬処理した後、乾燥させた。得られた種子を用いて採種栽培を行い、採種したF1種子(B×D)について黒すす病感染の有無を実施例3と同様に調査した。また、比較例として、B系及びD系ともにバチルス属細菌で処理していない無処理の種子を用いて、同様に採種栽培し、F1種子(B×D)を得た。結果を表6に示す。
【0045】表6に示すように、本発明によって採種した実施例のF1種子は、比較例のF1種子に比べて、発芽率が高く、黒すす病発生株の率も低く、種子伝染性病害に感染していないか、発病が抑えられていることは明らかであった。
【0046】
【表6】

(実施例7)拮抗性バチルス属細菌を利用したジニアの採種実施例1のV8ジュース液体培地で培養した拮抗性バチルス属細菌6菌株の菌液をそれぞれ含んだ6種のコーティング液(酸化チタン30重量部、メチルセルロース1重量部、菌液69重量部)を、特開平11−146707号の記載の方法にしたがって作成し、黒斑病(Alternaria zinniae)に感染しているジニア品種(ドリームランド・ピンク、タキイ種苗株式会社製)の原種種子の表面に処理した。処理した原種種子を用いて採種栽培を行い、原種種子の発芽率、採種栽培期間中の黒斑病発生率および採種した次世代種子の黒斑病感染状態を調査した。また、比較例として、無処理の原種種子も同時に採種栽培し、次世代の種子を得た。結果を表7に示す。
【0047】表7に示すように、本発明によって採種栽培した実施例の場合、比較例に対し、原種種子の発芽率が高く、また、黒斑病の発生も少なかった。また、採種、生産した次世代種子も、無処理の原種から得られた種子に比べて、発芽率が高く、種子伝染性病害の発生が抑えられていることは明らかであった。
【0048】
【表7】

(実施例8)拮抗性パントエア属細菌及び拮抗性レクレルシア属細菌のスクリーニングキャベツ種子(一号、早秋、春ひかり七号、若峰、ウィナーおよび1488、いずれもタキイ種苗株式会社製)、ブロッコリ種子(アンフリー747およびドシコ、ともにタキイ種苗株式会社製)、カリフラワー種子(バイオレットクィーンおよびスノーミスティーク、ともにタキイ種苗株式会社製)、ハクサイ種子(耐病六十日、ともにタキイ種苗株式会社製)、ダイコン種子(耐病総太り、タキイ種苗株式会社製)およびカブ種子(スワンおよび耐病ひかり、ともにタキイ種苗株式会社製)をそれぞれ種子重量当り2.5倍量の生理食塩水(蒸留水にNaClを0.85重量%溶解)中で2.5時間振盪した。振盪後の溶液をアルブミン寒天培地に均一に塗抹した。塗抹後約6日後に、出現したコロニーを単分離して各々ポテト・デキストロース・ブロス寒天培地(Difco社製)上にて黒腐病菌(Xanthomonascampestris p.v. campestris)と交差するように塗抹し、25℃で培養した。培養3日後に黒腐病菌の生育を抑制しているものを拮抗性細菌として選抜した。
【0049】その結果、TK−12、TK−151、TK−185の3菌株が得られた。これらの分類学的性状は下記表8に示す通りである【表8】

表8より、TK−12株とTK−185株はパントエア属細菌(Pantoea sp.)と同定され、TK−151株はレクレルシア アデカルボキシラータ(Leclercia adecarboxylata)と同定された。そこで、これらをパントエア sp. TK−12、パントエア sp. TK−185(FERM P-17885)、レクレルシア アデカルボキシラータ TK−151(FERM P-17875)と、それぞれ命名し、後二者については工業技術院生命工学工業技術研究所に上記番号で寄託した。なお、下記の実施例ではこれら3菌株をそれぞれ単独で使用しているが、併用することもできる。
【0050】(実施例9)拮抗性パントエア属細菌及び拮抗性レクレルシア属細菌によるキャベツ黒腐病の発病抑制効果あらかじめ黒腐病に汚染されていないことを確認したキャベツ種子(若峰、タキイ種苗株式会社製)に、黒腐病菌(Xanthomonas campestris p.v. campestris)を種子浸漬接種して人工汚染種子を作成した。この汚染種子をYPG液体培地で培養した拮抗性パントエア属細菌TK−12、TK−185及び拮抗性レクレルシア属細菌TK−151の各菌液(細菌濃度約1.0×10/ml)に10分間浸漬した後、通風乾燥した。このようにして処理した種子を、処理直後に播種したものと、処理から2ヶ月間20℃冷暗下で貯蔵した後に播種したものとについて、正常発芽率と育苗1ヶ月後の黒腐病発病率を調べた。また、比較例として、拮抗性細菌で処理しなかった人工汚染種子について、同様に播種して発芽率と黒腐病発病率を調べた。結果を表9に示す。なお、播種は育苗トレイに200粒/区で行った。
【0051】表9に示すように、拮抗性細菌で処理した実施例のキャベツ種子では黒腐病発生が明らかに抑制されており、育苗中の病害の二次伝染が防除できることは明らかであった。
【0052】
【表9】

(実施例10)キャベツF1種子の採種あらかじめ黒腐病に汚染されていないことを確認したキャベツ品種(おきな、タキイ種苗株式会社製)の原種種子E系(自家不和合性系統)とF系(自家不和合性系統)に、黒腐病菌を種子浸漬接種して人工汚染種子を作成した。この汚染種子を実施例9と同様にして拮抗性細菌3菌株(TK−12、TK−185、TK−151)の各菌液に浸漬処理後、乾燥させ、得られた種子を用いて採種栽培を行い、採種したF1種子(E×F)について黒腐病感染の有無を実施例9と同様に調査した。また、比較例として、E系及びF系ともに拮抗性細菌で処理していない種子を用いて、同様に採種栽培し、F1種子(E×F)を得た。結果を表10に示す。
【0053】表10に示すように、本発明によって採種した実施例のF1種子は、比較例のF1種子に比べて、黒腐病発生株の率が低く、種子伝染性病害に感染していないか、発病が抑えられていることは明らかであった。
【0054】
【表10】

【0055】
【発明の効果】本発明によれば、種子伝染性病害の病原体に対して拮抗性を持つ有効微生物で原種を処理することにより、園芸生産に使用する種子の生産段階において効率的に種子伝染性病害を防除することができ、無病種子をより多く生産することができる。
【出願人】 【識別番号】594003104
【氏名又は名称】株式会社テイエス植物研究所
【出願日】 平成12年6月8日(2000.6.8)
【代理人】 【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子 (外1名)
【公開番号】 特開2001−346407(P2001−346407A)
【公開日】 平成13年12月18日(2001.12.18)
【出願番号】 特願2000−172313(P2000−172313)