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【発明の名称】 農作業機の姿勢制御装置
【発明者】 【氏名】十亀 治光

【要約】 【課題】苗移植機や他の農作業機の姿勢制御に用いられるセンサの出力信号に含まれる機体又は作業装置の揺れの成分を除去することにより、ハンチング等を起こさない適正な制御が行えるようにする。

【解決手段】姿勢制御用のセンサからの出力に基づいて走行車体又は作業装置の姿勢を制御する農作業機の姿勢制御装置において、前記センサからの出力信号に含まれる揺れの周波数成分を除去するフィルターを設け、該フィルターで処理した後の信号に基づいて姿勢を制御するように構成する。前記センサからの出力信号に含まれる揺れの周波数成分が所定量よりも多い場合は、姿勢制御の感度を鈍感にするのもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 姿勢制御用のセンサからの出力に基づいて走行車体又は作業装置の姿勢を制御する農作業機の姿勢制御装置において、前記センサからの出力信号に含まれる揺れの周波数成分を除去するフィルターを設け、該フィルターで処理した後の信号に基づいて姿勢を制御するように構成したことを特徴とする農作業機の姿勢制御装置。
【請求項2】 姿勢制御用のセンサからの出力に基づいて走行車体又は作業装置の姿勢を制御する農作業機の姿勢制御装置において、前記センサからの出力信号に含まれる揺れの周波数成分が所定量よりも多い場合は、姿勢制御の感度を鈍感にするように構成したことを特徴とする農作業機の姿勢制御装置。
【請求項3】 走行車体の走行速度に応じて揺れの周波数成分値を変更して制御を行うように構成した請求項1又は2に記載の農作業機の姿勢制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、農作業機に関するもので、例えば田植機等の機体や苗植付作業装置等の姿勢の制御に使用される制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】走行部(機体)に対し苗植付装置が昇降可能かつ前後方向の軸回りに回動(ローリング)可能に連結された田植機等の農作業機が広く知られている。この種の田植機苗は、苗の移植を適正に行うため、苗植付部の姿勢を圃場面に対し常に平行になるように維持する制御を行っている。
【0003】例えば特開平6−133612号公報に記載されているように、走行部に当該走行部の傾斜角速度を検出して出力する傾斜角速度センサを設けるとともに、苗植付部に当該苗植付部の圃場面に対する左右傾斜角度を検出する左右傾斜センサを設け、これら二つの姿勢制御用センサの検出値に応じて苗植付部の左右回動(ローリング)を制御する技術は公知である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】これら姿勢制御用のセンサの出力信号には、耕盤の凹凸による姿勢の変化以外に、この凹凸の変化や植付部の左右移動などによる姿勢の変化によって発生する揺れが含まれている。この揺れは、周期性があるため、姿勢が戻っているときに調節出力が行われるとハンチングを生じることがあった。
【0005】そこで、本発明は、上記農作業機の姿勢制御に用いられるセンサの出力信号に含まれる機体又は作業装置の揺れの成分を除去した信号で姿勢制御を行うことにより、上記ハンチングの問題を解消することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明中第1の発明にかかる農作業機は、姿勢制御用のセンサからの出力に基づいて走行車体又は作業装置の姿勢を制御する農作業機の姿勢制御装置において、前記センサからの出力信号に含まれる揺れの周波数成分を除去するフィルターを設け、該フィルターで処理した後の信号に基づいて姿勢を制御するように構成したことを特徴としている。
【0007】この発明によれば、姿勢制御用のセンサの出力信号から機体や作業装置の揺れの周波数成分を除去した後の信号で姿勢制御を行うので、揺れがあってもハンチングが生じないように正確な制御を行うことができる。
【0008】また、第2の発明にかかる農作業機は、姿勢制御用のセンサからの出力に基づいて走行車体又は作業装置の姿勢を制御する農作業機の姿勢制御装置において、前記センサからの出力信号に含まれる揺れの周波数成分が所定量よりも多い場合は、姿勢制御の感度を鈍感にするように構成したことを特徴としている。
【0009】この発明によれば、周波数成分が多いときは姿勢制御の感度を鈍感にするので、ハンチングが生じにくい。なお、上記いずれの場合も、走行速度に応じて揺れの周波数値を変更して制御するようにすれば、走行速度に応じて適正にノイズを除去できるので、適正な姿勢制御が行える。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1及び図2は本発明を施した農作業機の1例としての苗移植機を表し、この苗移植機1は、走行部である走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して水稲用の苗植付部4を昇降可能かつ前後方向の軸回りに回動可能に装着するとともに、走行車体2の後部上側に施肥装置5を設け、全体で施肥田植機として構成している。
【0011】走行車体2は、駆動輪である各左右一対の前輪10,10及び後輪11,11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部に配設したミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13,13を設けて、該ケースに前輪10,10を変向可能に取り付けるとともに、ミッションケース12の背面部に固着連結されているメインフレーム15の後端左右中央部に支持された前後水平な後輪ローリング軸を支点にして後輪ギヤケース18,18をローリング自在に設けて、該後輪ギヤケースに後輪11,11を取り付けている。
【0012】メインフレーム15の上に搭載されたエンジン20の回転動力が、第一ベルト伝動装置21と第二ベルト伝動装置23を介してミッションケース12に伝達され、該ミッションケース内のトランスミッションにて変速された後、一部が前輪ファイナルケース13,13に伝達されて前輪10,10を駆動し、別の一部が後輪ギヤケース18,18に伝達されて後輪11,11を駆動し、また残りの外部取出動力が植付クラッチ25に伝達され、それから植付伝動軸26によって苗植付部4へ伝動されるとともに、施肥伝動軸27によって施肥装置5へ伝動される。
【0013】エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に座席31が設置されている。座席31の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバー32があり、その上方に前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられている。エンジンカバー30及びフロントカバー32の下端左右両側は水平状のフロアステップ35になっている。フロアステップ35の後部は、後輪フェンダを兼ねるリヤステップ36となっている。走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく予備苗載台37,37が設けられている。なお、走行車体の移動速度は車速センサ38によって、また走行車体の左右傾斜角の加速度は傾斜角速度センサ39によってそれぞれ検出される。
【0014】昇降リンク装置3は平行リンク構成であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41を備えている。これらリンク40,41,41は、その基部側がメインフレーム15の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、その先端側に縦枠43が連結されている。そして、この縦枠43の下端部に、苗植付部4の後記伝動ケース60に回転自在に支承された連結軸44の前端部が挿入連結されている。メインフレーム15に固着した支持部材と上リンク40に一体形成したスイングアーム45の先端部との間に昇降油圧シリンダ46が設けられており、該シリンダを油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。昇降油圧シリンダ46は、リンクベースフレーム42の上部に設けた油圧バルブ47によって制御される。
【0015】前記連結軸44は若干後ろ下がりの略前後方向を向いており、苗植付部4はこの連結軸44を支点にして回動(ローリング)自在に支持されている。縦枠43の上部には、両ロッド型のローリング油圧シリンダ50が、シリンダ部を当該縦枠に固定して左右方向に設けられている。そして、そのシリンダの左右両ロッド50a,50aと苗植付部の後記苗載台フレーム67の左右支柱部67a,67aとがリンク51,51を介して連結されている。ローリング油圧シリンダ50は、モータ52で駆動の油圧ポンプ53によって供給される作動油で作動する。ローリング油圧シリンダ50が作動してロッド50a,50aが左右にスライドすると、苗植付部4が連結軸44回りにローリングする。苗植付部4の左右傾斜角度は、伝動ケース60の上に設置した左右傾斜センサ54によって検出される。また、ローリング油圧シリンダ50の作動量は、ストロークセンサ55によって検出される。
【0016】苗植付部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース60、苗を載せて左右往復動し苗を一株づつ各条の苗取出口61a,…に供給する苗載台61、苗取出口61a,…に供給された苗を圃場に植付ける苗植付装置62,…、左右中央に1個とその両側各1個づつの整地フロート63,64,64等を備えている。各フロートを圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロートが泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置62,…により苗が植付けられる。各フロート63,64,64は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート63の前部の上下動が接地センサ65により検出され、その検出結果に応じ前記昇降油圧シリンダ46を制御する油圧バルブを切り替えて苗植付部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【0017】なお、苗載台61は、前側が上位となるよう傾斜して設けられており、伝動ケース60の上側に横向きに配した支持レール66と、伝動ケース60に基部が固着された苗載台フレーム67の上端部に設けたローラ68,68とによって左右にスライド自在に支持されている。両端が苗載台61の裏面側に連結された横移動棒69を伝動ケース60内の作動機構により左右に往復動させることにより、苗載台61が左右往復動するようになっている。苗載台61がが左右往復動すると、該苗載台の最下段の苗が苗取出口61a,…に一株づつ供給される。横一列分の苗が全て供給されると、各条ごとに設けた苗送りベルト61b,…が作動し、苗を一段下方に移送する。
【0018】施肥装置5は、各条共用の肥料タンク70内の肥料を肥料繰出部71…によって一定量づつ下方に繰り出し、その繰り出された肥料をブロア72から供給されるエアによって施肥ホース73,…を通って施肥ガイド74,…まで移送し、該施肥ガイドの前側に設けた作溝体75,…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込むようになっている。
【0019】植付作業時には、表土面の凹凸に応じて苗植付部4の対地高さを制御する昇降制御と、表土面の左右傾斜に応じて苗植付部4の連結軸44回りの姿勢を制御するローリング制御とを行い、苗の植付深さを一定に維持する。図5はその苗植付部位置制御装置のブロック図である。前記各センサ38,39,54,65からの情報がCPU、メモリ等からなるコントローラ80に入力され、その情報に基づきコントローラ80で下記の制御を行い、前記昇降用油圧バルブ47及びローリング用モータ52に出力する。
【0020】まず、昇降制御については、接地センサ65の検出値が所定の目標値の不感帯内に収まるように油圧バルブ47に出力信号を出す。例えば、センターフロート63が上動すると、昇降油圧シリンダ46が伸びる方向に油圧バルブ47を駆動して、苗植付部4を上昇させる。逆に、センターフロート63が下動すると、昇降油圧シリンダ46が縮む方向に油圧バルブ47を駆動して、苗植付部4を下降させる。これにより、苗植付部全体の対地高さを一定に維持する。
【0021】上記昇降制御に際しては、苗植付部4が一度接地してからでないと昇降制御を行わないようにし、苗植付部4の接地を検出した後は、傾斜角速度センサ39によって走行車体2の左右傾斜状況を判定し、走行車体2が急激に傾斜していない時には、現在接地センサ値に基づき昇降制御を行い、走行車体2が急激に傾斜し且つ接地センサ値が一定以上変動した時には、変動直前の接地センサ値に基づき昇降制御を行う。走行車体2が急激に傾斜しているか否かの基準は、例えば傾斜角速度センサ値で±(左右)1.1度/ミリ秒程度とする。
【0022】走行車体2が急激に傾斜するのは、車輪が耕盤の凹凸に落ち込んだり乗り上げたりした場合であり、このような場合には走行車体2に追随して苗植付部4も傾斜し、苗植付部4が表土面から浮上する等の事態が生じる。しかしながら、それは一時的なものであって、車輪が耕盤の凹凸を通過したなら直ちに元の状況に復帰するから、上記のような一時的に苗植付部4の対地関係が変化したことに対しその都度忠実に現在接地センサ値に基づき苗植付部を昇降させることは、昇降制御が不安定になるので好ましくない。そこで、一度苗植付部4の接地を検出した後は、一時的に走行車体2が急激に傾斜して接地センサ値が大きく変動しても、苗植付部4が通常接地状態のままであるとみなして、変動直前の接地センサ値に基づき昇降制御を行わせるとよい。
【0023】次に、ローリング制御について説明する。このローリング制御は、基本的には、姿勢検出センサである傾斜角速度センサ39の検出値と左右傾斜センサ54の検出値から、予め定められているルールに基づいてモータ52への出力量を決定し、左右傾斜センサ54が所定の目標値(通常は水平)の不感帯内に収まるように苗植付部4をローリングさせる。この場合、左右傾斜が急激に変化する場合は、傾斜角速度センサ39の検出結果に基づいて制御するのが好ましい。なお、傾斜角速度センサと左右傾斜センサを用いる制御の方法については、例えば上記特開平6−133612号公報に記載されている。
【0024】姿勢制御用のセンサ(傾斜センサ、傾斜角速度センサ等)の出力信号には、耕盤の凹凸による姿勢の変化以外に、この凹凸の変化や植付部の左右移動等による姿勢の変化によって発生する揺れが含まれている。図6は角速度センサと傾斜センサの出力信号を表すもので、図6(a)は植付作業を行っている場合、同図(b)は植付を行わずに走行している場合をそれぞれ表す。図6(a)中の矢印で示すピークは植付による揺れを示す。上記姿勢の変化による揺れは、周期性があるため、姿勢が戻った状態で傾斜を調節する出力がなされると、ハンチングを生じる場合がある。このため、適正な姿勢制御を行うためには、この種の周期的な揺れの成分を除去する必要がある。
【0025】図7は、傾斜センサの出力電圧の時間変化を表すもので、この出力信号には種々の周波数の信号が含まれているが、Fで示すものが上記姿勢の変化による低周波成分である。また、縦軸の上側は「右上り」を、下側は「左上り」を示す。この図からわかるように、この出力には周期性があり、この信号に基づいて姿勢を制御すると、反対側に傾き過ぎることになる。本発明では、この低周波成分をフィルターで除去した信号で姿勢制御を行う。すなわち、姿勢検出センサである傾斜センサからの出力信号は、フィルター回路を通してCPUに入力され、この信号に基づいて傾斜用のアクチュエータ(モータ52)に出力される。このため、ハンチングが生じない適正な制御を行うことができるのである。なお、このフィルターは、ハードのフィルターでもよく、ソフトで処理するものでもよい。
【0026】つぎに、機体の揺れは、圃場の硬さ、苗載台61に載せられている苗の量、車体2の走行速度等によって変化する。図9(a),(b)は、作業条件によって揺れの状態が変化することを示すもので、これらの図におけるBとCは、植付による揺れを表す。このように、同じ植付による揺れでも他の作業条件によって変化する。したがって、姿勢制御の調節状態が同一のままでは、姿勢の調節と機体の動きが逆になり、揺れを増幅する不具合を生じることがある。このような問題は、前記センサからの出力信号に含まれる揺れの周波数成分が所定量よりも多い場合には、姿勢制御の感度を鈍感にすることにより解決される。具体的には、例えば姿勢制御のニュートラル(不感帯)の幅、姿勢制御信号の出力時間、油圧アクチュエータへの流量(デューティ比)等を変更すればよい。このように、揺れの状態に応じて姿勢制御の調節状態を変更することにより、作業条件に左右されることなく安定した制御を行うことができるのである。
【0027】図8は、その姿勢制御の調節状態を変更するためのフローチャートであって、姿勢検出センサ(傾斜センサ、角速度センサ等)の出力を測定し、周波数分析(特定周波数帯によるセンサ信号を用いてもよい)を行い、揺れの周波数の大きさが設定値よりも大きいか否か判断する。揺れの周波数が大きい場合は、姿勢調節感度を鈍感にし、そうでない場合は調節量を標準のままとする。
【0028】また、上記いずれの姿勢制御法においても、車速に応じて揺れの周波数値を変更して制御するのが好ましい。具体的には、姿勢検出信号に含まれるノイズを除去するための周波数特性の異なる複数のフィルターを設けておき、車速(変速レバーの位置、計算速度、対地速度等による)に応じて使用するフィルターを変更するようにすればよい。このフィルターの構成としては、ハードでもソフトでもよい。
【0029】図10はこの制御のためのブロック図、図11は制御のフローチャートであり、車速設定部(実際の対地速度を検出してもよい)の車速検出信号と設定値aとを比較して、a以下ならフィルターAを使用し、aとbの間ならフィルターBを使用し、b以上であればフィルターCを使用する。機体の揺れは、圃場の凹凸が同じでも車速によって異なるが、車速に応じたフィルターを選択して姿勢制御を行うことにより、安定した姿勢制御を行うことができるのである。
【0030】
【発明の効果】以上に説明した如く、本発明にかかる農作業機の姿勢制御装置によれば、姿勢センサの出力信号から機体や作業装置の揺れの周波数成分等のノイズを除去した後の信号で姿勢制御を行うので、ハンチング等が生じず、作業条件に応じた適正な制御を行うことが可能となった。
【出願人】 【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
【出願日】 平成11年11月19日(1999.11.19)
【代理人】 【識別番号】100083611
【弁理士】
【氏名又は名称】菅原 弘志
【公開番号】 特開2001−145402(P2001−145402A)
【公開日】 平成13年5月29日(2001.5.29)
【出願番号】 特願平11−330538