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【発明の名称】 整合厚を利用した電磁波吸収体とその製造方法
【発明者】 【氏名】矢萩 慎一郎

【氏名】遠藤 博司

【氏名】筒井 和久

【要約】 【課題】軟磁性金属の粉末をゴムまたは合成樹脂のマトリクス中に分散してなる電磁波吸収体であってシート形状のものにおいて、電磁波の発散現象が認められる整合厚を利用し、リターンロスが35dB以上の高性能な電磁波吸収性能を有する電磁波吸収体を提供すること。また、任意の周波数において整合厚を利用し、高性能の電磁波吸収体を実現する設計手法を提供すること。

【解決手段】1GHz以上の高周波領域において、軟磁性金属の粉末の平均粒径とそのマトリクスへの体積充填率とによって決定される特定の周波数(発散周波数)で電波の吸収がピークに達する整合厚をその厚さとする。これを製造する方法は、発散周波数と電磁波吸収体に要求される厚さの範囲とを与えられた条件とし、それらに基づいて、使用すべき軟磁性金属の粉末の平均粒径とそのマトリクスへの体積充填率とを選択し、それら選択された条件において可能になる整合厚を厚さとして採用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 軟磁性金属の粉末をゴムまたは合成樹脂のマトリクス中に分散してなる電磁波吸収体であって、1GHz以上の高周波領域において、軟磁性金属の粉末の平均粒径とそのマトリクスへの体積充填率とによって決定される特定の周波数(発散周波数)で電波の吸収がピークに達する整合厚をその厚さとすること、および発散周波数におけるリターンロスが35dB以上あることを特徴とする整合厚を利用した電磁波吸収体。
【請求項2】 1GHz以上の高周波領域において実現を意図する発散周波数と電磁波吸収体に要求される厚さの範囲とを与えられた条件とし、それらに基づいて、使用すべき軟磁性金属の粉末の平均粒径とそのマトリクスへの体積充填率とを選択し、それら選択された条件において可能になる整合厚を厚さとして設計することからなる整合厚を利用した電磁波吸収体の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、整合厚を利用した電磁波吸収体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】各種の電子機器類から外部への電磁波の放射を避け、外部からの電磁波の干渉を防ぐ目的で、電磁波吸収体を用いた電磁遮蔽が行なわれる。電磁波吸収体の構成の多くは、軟磁性金属の粉末をゴムまたは合成樹脂のマトリクス中に分散固定したものであり、通常はシートの形態に加工して使用されている。
【0003】一般にこうした電磁波吸収体は、遮蔽の対象となる電子機器類に応じて、それを通る電磁波の減衰が特定の周波数領域で最大になるように設計される。減衰の程度を論じるには、一定の強度でシートの面に入射した電磁波が、シートを通過し裏面で反射して戻って来たものを測定し、両者の比を「リターンロス」と呼んでdBで表す。シート状の電磁波吸収体の周波数特性は、シート内に存在する軟磁性金属の粉末の平均粒径と体積充填率、およびシートの厚さによって決定される。そのような状況のもとで、たとえば軟磁性金属の粉末の平均粒径と体積充填率とを一定に保ってシート厚さを変動させたとすると、リターンロスがピークになる周波数は、シートが厚くなるほど低周波側にシフトする。
【0004】この、シートの厚さを変化させるにつれてリターンロスのピークがシフトして行く過程で、リターンロスの値が特異的に大きくなり、電磁波の発散現象が見られる厚さがあることが見出された。これを「整合厚」と呼んでおり、そのようなシート厚さにおいては、シート内を進行する電磁波が、往復でほぼ完全に打ち消し合うものと考えられる。一例を、図1のグラフに示す。図1は、軟磁性金属としてFe−Cr−Al合金を採用し、その平均径D50が18μmの粉末を、塩素化ポリエチレンゴムのマトリクス中に体積充填率33%の割合で混練した材料を、厚さ3.5mm、4.0mmまたは4.5mmのシートに成形したもののリターンロスをあらわす。ここで、厚さ4.0mmのシートは4GHz強の周波数において45dBを超える強い減衰を示しており、他の厚さのシートが示す30dB以下の減衰にくらべて格段に高い減衰であって、明らかに特異点である。この周波数に対して、4.0mmの厚さが整合厚である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上述の、電磁波吸収シートにおいて電磁波の発散現象が認められる整合厚を利用し、非常に高性能な電磁波吸収性能を有する電磁波吸収体を提供することにある。任意の周波数において整合厚を利用し、高性能の電磁波吸収体を実現する設計手法を提供することもまた、本発明の目的に含まれる。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の整合厚を利用した電磁波吸収体は、軟磁性金属の粉末をゴムまたは合成樹脂のマトリクス中に分散してなる電磁波吸収体であって、1GHz以上の高周波領域において、軟磁性金属の粉末の平均粒径とそのマトリクスへの体積充填率とによって決定される特定の周波数(発散周波数)で電波の吸収がピークに達する整合厚をその厚さとすること、および発散周波数におけるリターンロスが35dB以上あることを特徴とする。
【0007】本発明の整合厚を利用した電磁波吸収体の製造方法は、1GHz以上の高周波領域において実現を意図する発散周波数と電磁波吸収体に要求される厚さの範囲とを与えられた条件とし、それらに基づいて、使用すべき軟磁性金属の粉末の平均粒径とそのマトリクスへの体積充填率とを選択し、それら選択された条件において可能になる整合厚を厚さとして設計することからなる。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、具体例を示すことにより、本発明の実施の形態を説明する。下記4種の軟磁性金属の粉末を用意した: 名 称 組 成 粒径(μm) FeCrAl粗粉 Cr7%,Al9%,Fe残 42 FeCrAl細粉 同 上 18 SUS410L粉 Cr12%,Fe残 10 カルボニル鉄粉 純 鉄 3.4これらの粉末を、塩素化ポリエチレンのマトリクス中に、23〜45体積%の範囲内で種々の量充填し、混練物を厚さ1.0〜7.3mmのシートに成形した。それら試作シートの電磁波吸収体としての周波数特性を測定し、発散周波数を求めた。体積充填率と発散周波数との関係をプロットして、図2のグラフを得た。図2のデータは、同じ体積充填率においては、軟磁性粉末の粒径が小さいほど発散周波数が高くなること、そして体積充填率が高くなると発散周波数は一定の値に近づくこと、を示している。
【0009】各試作シートの整合厚と充填率との関係をプロットしたものは、図3に示すとおりである。図3のデータは、軟磁性金属の粒径が小さいほど整合厚が小さくなること、整合厚のもつ幅は平均粒径が小さい方が狭いこと、平均粒径があまり大きくない場合は、充填率が約30体積%以上になれば、粒径に応じて定まる、充填率にかかわりない一定の整合厚が認められること、を示している。
【0010】本発明の電磁波吸収体シートの設計に当たっては、まず、使用する軟磁性金属の粉末について、体積充填率の変化に伴う発散周波数の変化をあらかじめ知る。発明者らの経験によれば、充填される軟磁性金属の作用はほとんど平均粒径で決定され、金属の種類ないし合金組成によっては左右されない。したがって、図2に掲げたデータと粉末の平均粒径がほぼ一致する軟磁性金属粉末を使用する場合は、図2のデータを直ちに利用することができる。図2の例とは異なる平均粒径の粉末を使用する場合は、図2のデータに基づいて内挿法により意図する平均粒径に対応する曲線を描くか、必要であれば若干の実験を補うことによって、発散周波数と体積充填率との関係についてデータを得ることができる。
【0011】一方、電磁波吸収体シートの厚さには、通常その用途に従って許容される、または望ましい範囲がある。そこで、製造しようとする電磁波吸収体シートがもつべき発散周波数に、所望する厚さを考慮に入れて、使用する軟磁性金属粉末の平均粒径と、粉末のマトリクス中への体積充填率とを、図2またはそれに類するデータから選択する。つぎに、それらに従って導き出される整合厚を図3にあてはめて確認する。
【0012】
【実施例】それぞれ5GHz、10GHzおよび15GHzを発散周波数とする電磁波吸収体シートを製造した。図2のデータから、軟磁性金属粉末として適切なものは、5GHzおよび10GHzに対してはSUS410L粉(平均粒径10μm)を、また15GHzに対してはカルボニル鉄粉(平均粒径3.4μm)を、それぞれ選んだ。やはり図2のデータから、各発散周波数に対応する体積充填率を求め、その体積充填率において認められる整合厚を図3から選んで、つぎのシート製造条件を決定した。
【0013】
No. 発散周波数 軟磁性金属粉末 平均粒径 体積充填率 シート厚 1 5GHz SUS410L粉 10μm 35% 2.4mm 2 10GHz SUS410L粉 10μm 27% 1.8mm 3 15GHz カルボニル鉄粉 3.4μm 26% 1.5mmマトリクス材料に塩素化ポリエチレンゴムを使用して、電磁波吸収体シートを製造した。それぞれのリターンロスを測定して、図4に示す結果を得た。リターンロスの最大値は、No.1〜3のいずれも35dB以上であって、高いもの(No.3)では50dBに達し、高度の電磁波吸収が実現したことが確認できた。
【0014】
【発明の効果】本発明の電磁波吸収体は、シート状の吸収体において整合厚における電磁波の発散現象を利用するものであるから、リターンロスの値として35dB以上の減衰が確保され、すぐれたものでは50dBに達し、ほぼ理想的な電磁波吸収が実現する。この電磁波吸収体シートの製造は、本発明に従い、所望の発散周波数に応じて、まず適切な平均粒径の軟磁性金属の粉末とその体積充填率とを選択し、それらにもとづく整合厚のシートを設計するという手順を踏むことにより、容易に実施することができる。
【出願人】 【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
【出願日】 平成11年2月4日(1999.2.4)
【代理人】 【識別番号】100070161
【弁理士】
【氏名又は名称】須賀 総夫
【公開番号】 特開2000−228599(P2000−228599A)
【公開日】 平成12年8月15日(2000.8.15)
【出願番号】 特願平11−27643