| 【発明の名称】 |
音像定位制御装置および音像定位制御方式 |
| 【発明者】 |
【氏名】安田 晴剛
【氏名】春日 正男
|
| 【要約】 |
【課題】小型の音像定位フィルタを用い、Rch,Lchそれぞれについて、この小型の音像定位フィルタを1個用意するだけでの小さいハードウェア規模で、音像定位位置を滑らかに制御する。
【解決手段】各音像定位位置に対して測定された頭部伝達関数を模擬する音像定位フィルタ12,22と、係数バッファ13,23に記憶されている音像定位フィルタの係数を変更することにより音像定位フィルタ12,22の特性を操作し、音源信号の聴覚上の位置を制御する制御手段1とを有し、音像定位フィルタ12,22には、単一のIIRフィルタが用いられ、制御手段1は、頭部伝達関数を模擬する音像定位フィルタ12,22に対し、与えられた目標頭部伝達関数の周波数特性を近似する特性パラメータ値をもって音像定位フィルタの係数値を演算する係数演算手段を具備している。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 入力された音源信号をデジタル信号に変換するA/D変換手段と、各音像定位位置に対して測定された頭部伝達関数を模擬する音像定位フィルタと、音像定位フィルタの係数を記憶する係数記憶手段と、係数記憶手段に記憶されている係数を変更することにより音像定位フィルタの特性を操作し、音源信号の聴覚上の位置を制御する制御手段と、音像定位フィルタのデジタル出力信号をアナログ信号に変換するD/A変換手段とを有し、前記音像定位フィルタには、単一のIIRフィルタが用いられ、前記制御手段は、頭部伝達関数を模擬する音像定位フィルタに対し、与えられた目標頭部伝達関数の周波数特性を近似する特性パラメータ値をもって音像定位フィルタの係数値を演算する係数演算手段を具備していることを特徴とする音像定位制御装置。 【請求項2】 請求項1記載の音像定位制御装置において、前記係数演算手段は、音像定位フィルタの特性値を特性パラメータ値を変更することによって変更することを特徴とする音像定位制御装置。 【請求項3】 請求項1または請求項2記載の音像定位制御装置において、前記制御手段は、さらに、音源信号の聴覚上の位置を変更する際に、前記頭部伝達関数の周波数特性を近似する特性パラメータ値について、変更する前の位置での特性パラメータ値と変更した後の位置での特性パラメータ値との間の補間値を演算するパラメータ補間値演算手段を具備していることを特徴とする音像定位制御装置。 【請求項4】 単一の音像定位フィルタと、単一の音像定位フィルタの特性を変更するのに音像定位フィルタの係数を切り替える係数切り替え手段と、係数切り替え手段によって切り替えた係数を蓄える係数保持手段と、音源定位フィルタの入力信号となる音源信号を蓄える入力バッファ手段と、音像定位フィルタの出力信号を一定時間蓄える出力バッファ手段と、出力バッファ手段のフェードイン・フェードアウト機能を制御するフェードイン・フェードアウト制御手段とを具備し、単一の音像定位フィルタの係数を切り替える際に、単一の音像定位フィルタにおいて係数を切り替える前の出力信号と係数を切り替えた後の出力信号のクロスフェードを行なう制御がなされることを特徴とする音像定位制御方式。
|
【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、実際のスピーカの位置とは異なる所望の任意の位置に音像が定位しているように感じさせる音像定位制御装置および音像定位制御方式に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、例えば特開平2−298200号には、両耳の信号レベル(振幅)と位相を制御することによって音像を制御する音像形成方法が示されている。すなわち、この音像形成方法は、音源からの信号を周波数解析し、左右の両チャンネル信号に周波数依存したレベル差と位相差(時間差)を与えて音像の定位をデジタル的に制御するものである。 【0003】音像を定位させるためには、一般に頭部伝達関数(HRTF)をデジタルフィルタで制御する方式を用いている。図1(a),(b)には、その基本原理が示されている。この方式は、図1(a)に示すように、受聴者を模擬した擬似頭を用いて原音場に生じる音像を集音し、それを受聴者に供給する方式であり、これを実現するため、図1(b)に示すように、音波の入射角毎に測定した頭部伝達関数(HRTF−R,HRTF−L)を電気的フィルタ101,102に置き換え、原音場で収音された直接音,反射音をこのフィルタ101,102で処理することにより、図1(a)の擬似頭を用いる系と同等の音像を受聴者に提供することができる。この場合、頭部伝達関数(HRTF−R,HRTF−L)を近似するために、フィルタ101,102として音像定位フィルタを用いて制御を行なう。この際、音像定位位置を動かすためには、必要な音像定位位置すべての伝達特性を予め計測し、これを音像定位フィルタの係数セットとして保持させ、音像定位フィルタ(デジタルフィルタ)の係数をある角度単位で切り替えて用いる。 【0004】先ず、この音像定位フィルタの特性値の設定方法について説明する。音像定位フィルタの伝達関数は、一般に、システムに与えられた環境において白色雑音を発生させ演算処理によりそのインパルス応答を測定することによって求められる(文献「頭外音像定位伝達関数のクラスタ法の一検討:信学技報EA93−1 1993−04」)。図2には、このようにして求めた頭部伝達関数の例が示されている。この図2の特性を実現するデジタルフィルタの係数値を係数セットとして保持して、その音像定位フィルタを実現することができる。 【0005】図3は在来の音像定位制御装置の構成例を示す図である。図3を参照すると、この音像定位制御装置は、全体を制御するCPU201と、音像定位フィルタの係数セットが記憶されている係数ROM202と、位置制御信号が入力するインタフェース部203と、Rch(R−チャンネル)用の音像定位フィルタ部204と、Lch(L−チャンネル)用の音像定位フィルタ部205とを備えている。 【0006】ここで、Rch用の音像定位フィルタ部204は、Rchの音源入力信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換するA/D変換器211と、音像定位フィルタ(デジタルフィルタ)212と、音像定位フィルタ212の係数が係数ROM202からロードされて記憶される係数バッファ213と、音像定位フィルタ212からの出力信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換するD/A変換器214とを有している。 【0007】また、Lch用の音像定位フィルタ部205は、Lchの音源入力信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換するA/D変換器221と、音像定位フィルタ(デジタルフィルタ)222と、音像定位フィルタ222の係数が係数ROM202からロードされて記憶される係数バッファ223と、音像定位フィルタ222からの出力信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換するD/A変換器224とを有している。 【0008】このような構成では、音像定位フィルタ212,222の係数セットは係数ROM202に記憶されており、CPU201からの位置制御指示に従って係数ROM202から係数バッファ213,223にロードされ、音像の位置を制御している。従って、この従来の方式では、係数ROMに保存された予めある環境でのインパルス応答から求められる周波数特性を実現するデジタルフィルタの係数セットで音像定位フィルタ212,222の特性値が決定されるため、その特性値を実現する音像定位フィルタの係数セットの変更ができなかった。 【0009】また、多数の人の予め測定した空間インパルス応答と実耳ヘッドホンレスポンスを人間の聴覚特性に対応する特徴パラメータベクトルに変換した後、クラスタリングを行なって少数に縮約したデータを使って行なう方式もある(特開平5−252598号)が、この方式では、実際には、音像定位フィルタの特性値は、係数を設定した環境,個人の耳道性に依存しているため、場合によっては良好な特性が得られないことがあった。 【0010】また、音像定位フィルタとしては、図2のような複雑な周波数特性を実現する必要があり、そのためには、高次のFIRフィルタが必要で、その演算に大規模なハードウェアが必要であること、さらにそのために大量のフィルタ係数の記憶容量が必要であった。一方、この音像定位フィルタにIIRフィルタを用いれば、特性の変更も容易で汎用性もあり、係数メモリも少なくて済む利点がある。しかしながら、IIRフィルタは複雑な周波数特性を実現する設計手法が難しく、リミットサイクル発振など不安定になりがちであった。 【0011】例えば図2に示すような複合した周波数特性をもつ伝達関数をIIRフィルタで設計する場合、バイ・クワド型デジタルフィルタにより単純な任意の特性は設計できることが報告されている(春日正男による文献「デジタルイコライザの実時間処理方法電子通信学会情報システム全国大会、pp228、1979」)。この方式は、後述する2つの零点,極をもつバイ・クワド型伝達関数をカスケード接続して目的とする伝達関数を設計するものである。一方、周波数特性をサンプリングしてIIRフィルタを設計する方法もあるが(尾知博による文献「IIRフィルタの設計 Interface、206−213、(1996.11)」)、フィルタ次数が多く必要になること、また一定の次数ではないことなどの問題がある。 【0012】上述の方式は、基本的には、アナログ伝達関数を設計し、これをZ変換して設計する方法であり(米国特許第4,188.504号)、この伝達関数は次式で表される。 【0013】 【数1】
【0014】この方式で設計する場合、目標の周波数特性に近似するには設計パラメータであるfc(中心(遮断)周波数)、Q(尖鋭度)、L(利得)の3つのパラメータを適当に変更して設計特性に近似する方法がとられている。しかし、この方法は、試行錯誤的に、目標特性と設計フィルタの周波数特性の適当な周波数ポイントにおける特性との差を最小にしながら近似する方法で、明確な指針がなく、また、多くの周波数ポイントにわたりそれらを計算していく必要があり、効率が悪いという欠点があった。さらに極が接近している場合などには、実質上、Qによるパラメータ変更が難しいなど設計上の問題も大きかった。 【0015】また、上述したように音像の定位位置を変更する場合、従来では、CPU201から位置制御信号が出され、位置を切り替えるために音像定位フィルタの係数セットを予めメモリに記憶しておき、適宜、これを呼び出して切り替えたり、係数を指定のメモリ領域にダウンロードして行なっている(特開平5−252598号)。 【0016】しかしながら、音像定位フィルタの係数を変更する際に、フィルタ特性が所望の特性値に至るまでに一定の時間を要するため、音像定位位置を切り替える際にスイッチングノイズが発生するなどの不具合を生じていた。 【0017】 【発明が解決しようとする課題】これらの不具合を回避するために、2個の音像定位フィルタを用意し、定位の角度を切り替える際に、上記フィルタの動作が安定するまでの一定時間が経過した後に切り替える方式がある。またその切り替えに際し、定位位置を滑らかに移動させるために可変アッテネータを用意し、クロスフェードを行なう方式がある(特開平6−245300号)。図4には、この回路構成例が示されている。図4を参照すると、この音像定位制御装置は、全体を制御するCPU301と、音像定位フィルタの係数セットが記憶されている係数ROM302と、位置制御信号が入力するインタフェース部303と、Rch(R−チャンネル)用の音像定位フィルタ部304と、Lch(L−チャンネル)用の音像定位フィルタ部305とを備えている。 【0018】ここで、Rch用の音像定位フィルタ部304は、Rchの音源入力信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換するA/D変換器311と、2個の音像定位フィルタ(FIRフィルタ)312a,312bと、音像定位フィルタ312a,312bの各々の係数が係数ROM302からロードされてそれぞれ記憶される係数バッファ313a,313bと、音像定位フィルタ312a,312bからの出力信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換するD/A変換器314a,314bと、フェーダ315とを有している。 【0019】また、Lch用の音像定位フィルタ部305は、Lchの音源入力信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換するA/D変換器321と、2個の音像定位フィルタ(FIRフィルタ)322a,322bと、音像定位フィルタ322a,322bの各々の係数が係数ROM302からロードされてそれぞれ記憶される係数バッファ323a,323bと、音像定位フィルタ322a,322bからの出力信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換するD/A変換器324a,324bと、フェーダ325とを有している。 【0020】なお、各フェーダ315,325は、2つの可変アッテネータと加算手段とによって、クロスフェード手段として構成されている。 【0021】このような構成では、CPU301は、音像の位置制御信号に従って必要な係数セットを係数ROM302から読み出し、Rch用の音像定位フィルタ部304の2つのFIRフィルタ312a,312bのもつ2つの係数バッファ313a,313bのうちの一方の係数バッファに入れ、また、Lch用の音像定位フィルタ部305の2つのFIRフィルタ322a,322bのもつ2つの係数バッファ323a,323bのうちの一方の係数バッファに入れる。従って、Rch用の音像定位フィルタ部304の2つのFIRフィルタ312a,312bは旧位置に関する係数と新しい位置に対する係数で動作しており、また、Lch用の音像定位フィルタ部305の2つのFIRフィルタ322a,322bは旧位置に関する係数と新しい位置に対する係数で動作しており、これらに対し、フェーダ315,325を用いてある一定時間にフェードイン(新しい位置)、フェードアウト(旧位置)処理を行なうことで、音像の位置が変更する場合にも、音像定位フィルタからの出力信号に対して旧位置から新位置へのスムーズな入れ替えが可能となる。 【0022】図5はクロスフェード処理のタイミングを説明するための図である。例えば、現在60度の位置に音像定位処理している状態から90度の位置に音像定位処理している状態へ移行する場合を考える。いま、一方のFIRフィルタ312a,322aは60度用の係数が供給されて動作中であり、他方のFIRフィルタ312b,322bは非動作中であるとする。この状態で、図5(e)に示すように、60度の位置から90度の位置への音像定位位置の切り換え命令がCPU301にあると、CPU301は、図5(b)に示すタイミングで、90度用の係数を他方のFIRフィルタ312b,322bに供給する。さらに、CPU301からは、図5(c)に示すタイミングで、クロスフェード制御信号が出力される。 【0023】そして、クロスフェード制御信号に応じて、フェーダ315,325により、一方のFIRフィルタ312a,322aの出力は、図5(d)のようにフェードアウトされ、また、他方のFIRフィルタ312b,322bの出力は、図5(e)のようにフェードインされて、一方のFIRフィルタ312a,322aから他方のFIRフィルタ312b,322bへクロスフェードしながら切り換えられる。数10m秒の時間をかけて、クロスフェードしながら切り換えれば、切換えノイズが発生することなく、係数を切り換えて音像定位位置をスムーズに変更できる。 【0024】しかしながら、この場合のFIRフィルタ312a,312b,322a,322bは、そのインパルス応答時間にもよるが、高次フィルタが必要となる同時に、その係数メモリ容量も大きく、ハードウェア規模が大きくなる。従って、音像定位フィルタを上述のように、Rch,Lchそれぞれについて複数個(Rchで2個,Lchで2個)、用意することは、回路規模が非常に大きくなる欠点があった。 【0025】本発明は、小型の音像定位フィルタを用い、Rch,Lchそれぞれについて、この小型の音像定位フィルタを1個用意するだけでの小さいハードウェア規模で、音像定位位置を滑らかに制御することの可能な音像定位制御装置および音像定位制御方式を提供することを目的としている。 【0026】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、入力された音源信号をデジタル信号に変換するA/D変換手段と、各音像定位位置に対して測定された頭部伝達関数を模擬する音像定位フィルタと、音像定位フィルタの係数を記憶する係数記憶手段と、係数記憶手段に記憶されている係数を変更することにより音像定位フィルタの特性を操作し、音源信号の聴覚上の位置を制御する制御手段と、音像定位フィルタのデジタル出力信号をアナログ信号に変換するD/A変換手段とを有し、前記音像定位フィルタには、単一のIIRフィルタが用いられ、前記制御手段は、頭部伝達関数を模擬する音像定位フィルタに対し、与えられた目標頭部伝達関数の周波数特性を近似する特性パラメータ値をもって音像定位フィルタの係数値を演算する係数演算手段を具備していることを特徴としている。 【0027】また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の音像定位制御装置において、前記係数演算手段は、音像定位フィルタの特性値を特性パラメータ値を変更することによって変更することを特徴としている。 【0028】また、請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の音像定位制御装置において、前記制御手段は、さらに、音源信号の聴覚上の位置を変更する際に、前記頭部伝達関数の周波数特性を近似する特性パラメータ値について、変更する前の位置での特性パラメータ値と変更した後の位置での特性パラメータ値との間の補間値を演算するパラメータ補間値演算手段を具備していることを特徴としている。 【0029】また、請求項4記載の発明は、単一の音像定位フィルタと、単一の音像定位フィルタの特性を変更するのに音像定位フィルタの係数を切り替える係数切り替え手段と、係数切り替え手段によって切り替えた係数を蓄える係数保持手段と、音源定位フィルタの入力信号となる音源信号を蓄える入力バッファ手段と、音像定位フィルタの出力信号を一定時間蓄える出力バッファ手段と、出力バッファ手段のフェードイン・フェードアウト機能を制御するフェードイン・フェードアウト制御手段とを具備し、単一の音像定位フィルタの係数を切り替える際に、単一の音像定位フィルタにおいて係数を切り替える前の出力信号と係数を切り替えた後の出力信号のクロスフェードを行なう制御がなされることを特徴としている。 【0030】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明では、上述の目的を達成するため、音像定位フィルタにIIRフィルタを用いて複雑な周波数特性を実現する設計手法を提供し、この手法を用いて音像定位制御装置を構成するようにしている。さらに、この音像定位フィルタの特性値の位置間の移動(変更)を行なう際、特性パラメータ(頭部伝達関数の周波数特性を近似する特性パラメータ値)をベースとし基準となる位置間の補間演算を行なうことで、位置間の移動を円滑に行なうようにしている。 【0031】図6は本発明に係る音像定位制御装置の構成例を示す図である。図6を参照すると、この音像定位制御装置は、全体を制御する制御手段1と、Rch(R−チャンネル)用の音像定位フィルタ部4と、Lch(L−チャンネル)用の音像定位フィルタ部5とを備えている。 【0032】ここで、Rch用の音像定位フィルタ部4は、Rchの音源入力信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換するA/D変換器11と、音像定位フィルタ(デジタルフィルタ)12と、音像定位フィルタ12の係数が記憶される係数バッファ13と、音像定位フィルタ12からの出力信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換するD/A変換器14とを有している。 【0033】また、Lch用の音像定位フィルタ部5は、Lchの音源入力信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換するA/D変換器21と、音像定位フィルタ(デジタルフィルタ)22と、音像定位フィルタ22の係数が記憶される係数バッファ23と、音像定位フィルタ22からの出力信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換するD/A変換器24とを有している。 【0034】図7は図6の制御手段1の具体例を示す図であり、図7の例では、図6の制御手段1は、位置制御信号が入力するインタフェース部33と、CPU31と、パラメータを生成するパラメータ生成部34と、パラメータ生成部34で生成されたパラメータが初期設定される初期設定パラメータ記憶部35と、パラメータ演算部36と、パラメータ演算部36で算出されたパラメータに基づき音像定位フィルタ11,22の係数を生成演算する係数生成演算部37と、パラメータ値の補間演算を行なうパラメータ補間値演算部38とを有している。 【0035】ここで、パラメータ生成部34は、頭部伝達関数の周波数特性を測定するインパルス応答測定部41と、インパルス応答測定部41で測定された頭部伝達関数の周波数特性に基づいて初期パラメータを抽出するパラメータ抽出部42とを有している。 【0036】パラメータ抽出部42で抽出される初期パラメータは、図2に示すような予め計測された頭部伝達関数を形成する音像定位フィルタの特性値で、必要な位置単位(例えば30度単位)でパラメータ(fc、Q、L)を有している。なお、fcは音像定位フィルタの中心(遮断)周波数、Qは尖鋭度、Lは利得である。 【0037】また、この初期パラメータは、CPU31を介してパラメータ演算部36に送られ、パラメータ演算部36でパラメータ演算がなされて周波数特性が求められ、パラメータ演算部36で算出された周波数特性が係数生成演算部37に送られるようになっている。そして、係数生成演算部37は、音像定位フィルタ12,22の係数値を演算し、必要な係数セットを生成し、生成した係数セットを係数バッファ13,23に送り、音像定位フィルタ12,22を動作させるようになっている。 【0038】また、パラメータ補間値演算部38は、位置を変更する際、上述したパラメータ(fc、Q、L)について、2つの位置間をある間隔で分割した補間値を用い、その周波数特性を求めて、係数生成演算部37に与えるようになっている。 【0039】次に、このような構成の音像定位制御装置の処理動作について説明する。先ず、図6,図7の音像定位制御装置の処理動作の概要について説明する。例えばゲーム機などのメインCPUから音像定位命令(例えば、右後方120度の位置に音源を定位しろという命令)に従った位置制御信号がインタフェース部33を介して入力されると、この位置制御信号に従って、CPU31は、初期設定パラメータ記憶部35からその位置情報に対する頭部伝達特性を演算するのに必要な初期パラメータを読み出し、パラメータ演算部36に与える。パラメータ演算部36では、与えられた初期パラメータに基づいて周波数特性を算出し、係数生成演算部37に与える。係数生成演算部37では、パラメータ演算部36からの周波数特性に基づいて音像定位フィルタ12,22の係数値を演算し、係数バッファ13,23に転送する。具体的には後述するように求められたアナログ周波数特性をZ変換して設計する。この方法はアナログ伝達関数H(s)を、S−Z変換方式を用いて離散領域の伝達関数Hz(Z)に変換する方式を用いれば容易に求めることができる(春日正男による文献「AV・OA用デジタル信号処理 pp.109−113」を参照)。これにより得られたZ変換式からその係数列を求める。音像定位フィルタ12,22は、入力された音源入力信号(Rch,Lchの音源入力信号)を係数バッファ13,23に設定された係数に応じて時間軸上で畳み込み演算処理を行なう。音像定位フィルタ12,22で演算された信号は、D/A変換器14,24に送られ、一対のスピーカから再生される。この音像定位フィルタの係数は例えばゲーム機の場合には操作者の操作に応じたゲームオブジェクトの動きに対応するように、CPU31からの音像定位命令によって随時切り替えられる。 【0040】先ず、上記音像定位フィルタ(IIRフィルタ)12,22の特性値を求める方法について、より詳細に説明する。本発明においても、IIRフィルタの設計方式は、基本的には、前述した従来技術の方式と同様に、アナログ伝達関数を設計し、これをZ変換して設計する。すなわち、音源入力信号をX(s)として聴取者の左耳EL(s)および右耳ER(s)までの伝達関数をそれぞれHL(s),HR(s)とし、整理すると次式が得られる。 【0041】 【数2】
【0042】なお、HR(s)/HL(s)が両耳間の特性の比である。数2にみられるように、右辺のs関数系がこれらの複雑な周波数特性をもつ空間伝達関数であり、これをデジタルフィルタで実現する。このデジタルフィルタとして、1つの型で汎用性を持たせ、乗算回数,フィルタ係数メモリ,レジスタ数などを考慮し、かつ安定したフィルタ多重を図る必要性により、IIR型デジタルフィルタを採用する。フィルタ関数は零点,極の双二次型のバイ・クワド型とし、これを連続関数系で設計し、これをZ変換しデジタルフィルタを得ることにする。これらの特性は、中心(遮断)周波数Fc,Q(尖鋭度),L(利得)で与えられ、これらの適当な変更により特性が変更できる。伝達関数H(z-1)は数1で与えられる。しかし、この設計方法は図2に示すような複合した関数系を設計する場合には、設計方法が確立しておらず、ヒューリスティックな方法で設計せざるを得ないのが現状である。 【0043】任意の特性を近似するには、Fc,Q,Lの3つの設計パラメータを変更することになる。この変更方法として、希望する特性を目標値とし、これと適当な周波数ポイントにおける設計値との差を最小にしながら近似する方法がある。しかし、この方法では多くの周波数ポイントにわたりそれらを計算していく必要があり効率が良くない。 【0044】そこで本発明では、宮内淳、目加田慶人、長谷川光司、春日正男、安田晴剛による文献「複雑な振幅周波数特性をもつIIRフィルタの設計と応用音響学会講演論文集3−3−2、571−572(1997.3)」に記載のように、関数の性質が変わる点、つまり関数の2次微分において正負が反転する点の近傍を選択すると、その境界点では関数系を連続的に接続する補間点として適切であることに着目し、その関数の変曲点を設計計算に用いる周波数ポイントとして採用する。つまり中心周波数、その前後に位置する変曲点の合計3点において設計値と希望値の差を最小とするように、fc,Q,Lの3つの設計パラメータを変更することで、任意の特性を近似する。 【0045】また、フィルタの設計方式は次のようにする。すなわち、例えば図8に示す単峰特性からなる複合関数系を設計する場合、先ず、設計するフィルタ関数を2次微分し、この2つの変曲点p,qを選ぶ。さらに、中心周波数fcを選択して、これらの3つのポイントを関数の近似設計の周波数特性を計算するためのサンプル周波数のポイントとして選択する。そして、これらの点における設計特性と目標特性との差を計算により求め、これを最小化するようにパラメータQを制御して目標の周波数特性に近似していく。 【0046】図9には、本発明によるフィルタの設計方式のフローチャートが示されている。図9を参照すると、先ず、初期化パラメータをセットする(ステップS1)。次いで、パラメータ値Qを変更し(ステップS2)、ターゲットフィルタ(目標特性)との誤差値の演算を行なう(ステップS3)。次いで、誤差値が所定の閾値よりも小さいかを判断し、(ステップS4)、小さくないときには、誤差値を閾値に設定して(ステップS5)、再びステップS2に戻りパラメータ値Qの変更を行なって、上述の処理を繰り返し、誤差値が閾値よりも小さくなったときに、最適なパラメータ値Qが設定できたので(目標の周波数特性を近似するパラメータ値Qが求まったので)、処理を終了する。 【0047】より具体的な設計フローチャートは以下に示す手順で行なう。 (1)目標の周波数特性を入力する。 (2)次いで、目標特性を実現するフィルタ段数、および大まかな設計パラメータ(fc,Q,L)を入力する。 (3)次いで、入力されたフィルタのL値の大きい順に順位付けをし、その順に以下の処理を行なう。 ・入力された設計特性の中心周波数fcを目標特性の中心周波数に合わせる。 ・入力された設計特性のL値を目標特性に合わせる。 ・周波数の高い方、低い方の2つの変曲点をそれぞれ見つける。 ・2つの変曲点での周波数特性の差異を少なくするようにQ値の変更を行なう。 (4)誤差量が収束した(例えば0.1dB以下)と判断したら、処理を終了する。 【0048】以上の手順により、目標とする音像定位フィルタに必要な特性パラメータ値を決定する。 【0049】次に、本発明の音像定位制御装置のより具体的な処理動作について説明する。初期パラメータは初期パラメータ記憶部35に保存されている。この初期パラメータは図2に示すような予め計測された頭部伝達関数を形成する音像定位フィルタの特性値で、必要な位置単位(例えば30度単位)でパラメータ(fc、Q、L)を有している。この初期パラメータはインパルス応答測定部41で計測された頭部伝達関数の周波数特性に基づいてパラメータ抽出部42で求められたものである【0050】このようにして、パラメータ記憶部35に初期パラメータが記憶された後、初期パラメータは、CPU31を介してパラメータ演算部36に送られ、パラメータ演算部36でパラメータ演算を行なって周波数特性が求められ、係数生成演算部37に与えられる。係数生成演算部37では、前述したように求められたアナログ周波数特性値からZ変換により離散領域の伝達関数に変換され、必要な係数セットが得られる。得られた係数セットは係数バッファ13,23に送られ、音像定位フィルタ12,22を動作させる。 【0051】次に、位置を変更する際の位置間の頭部伝達関数の補間演算方法について説明する。本発明では位置を変更する際、例えば30度単位で有しているパラメータ値の補間演算をパラメータ補間値演算部38で行なう。具体的には、上述したパラメータ(fc、Q、L)について2つの位置間をある間隔で分割した補間値を用い、その周波数特性を求める。すなわち、この周波数特性は、図7に示すパラメータ補間値演算部38でパラメータ(fc、Q、L)の各々の補間値を求めることによって求まり、ある時間間隔での各々の周波数特性に対する音像定位フィルタの係数を係数生成演算部37で演算する。そして、生成演算された係数は、その都度、係数バッファ13,23に送られる。 【0052】このように、パラメータ補間値演算部38で2つの位置間をある間隔で分割した補間値を用いて、その周波数特性を求め、係数を算出することにより、位置を変更する際の音像を滑らかに移動させることが可能になる。この時の分割された位置間の係数セットの変更時に対するフィルタの問題については、後述するフェードイン・フェードアウト機能を用いれば、さらに円滑に位置を切り替えることが可能となる。 【0053】図10はフェードイン・フェードアウト機能を備えた音像定位制御装置の構成例を示す図であり、図10の音像定位制御装置は、Rch,Lchのそれぞれについて、単一の音像フィルタを用いて係数を切り替える際のクロスフェードを実現する機能を有している。図10を参照すると、この音像定位制御装置は、全体を制御するCPU51と、音像定位フィルタの係数セットが記憶されている係数ROM52と、位置制御信号が入力するインタフェース部53と、Rch(R−チャンネル)用の音像定位フィルタ部54と、Lch(L−チャンネル)用の音像定位フィルタ部55とを備えている。 【0054】ここで、Rch用の音像定位フィルタ部54は、Rchの音源入力信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換するA/D変換器61と、1個の音像定位フィルタ(FIRフィルタ)12と、音像定位フィルタ12の各々の係数が係数ROM52からロードされてそれぞれ記憶される係数バッファ64と、セレクタSELと、音源定位フィルタ12の入力信号となる音源信号を蓄える入力バッファ62と、音像定位フィルタ12の出力信号を一定時間蓄える出力バッファ65,66と、入力バッファ62,出力バッファ65,66,セレクタSELの制御を行なうバッファ制御部63と、フェーダ67と、音像定位フィルタ12からの出力信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換するD/A変換器68とを有している。 【0055】また、Lch用の音像定位フィルタ部55は、Rchの音源入力信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換するA/D変換器71と、1個の音像定位フィルタ(FIRフィルタ)22と、音像定位フィルタ22の各々の係数が係数ROM52からロードされてそれぞれ記憶される係数バッファ74と、セレクタSELと、音源定位フィルタ22の入力信号となる音源信号を蓄える入力バッファ72と、音像定位フィルタ22の出力信号を一定時間蓄える出力バッファ75,76と、入力バッファ72,出力バッファ75,76,セレクタSELの制御を行なうバッファ制御部73と、フェーダ77と、音像定位フィルタ22からの出力信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換するD/A変換器78とを有している。 【0056】なお、各フェーダ67,77は、2つの可変アッテネータと加算手段とによって、クロスフェード手段として構成されている。 【0057】このような構成では、通常の場合、セレクタSELは、音像定位フィルタ12,22側,出力バッファ65,75側に設定されており、サンプル周期に従ったA/D変換器61,71から出力されるデジタル信号列は、上述の音像定位フィルタ12,22で処理され、出力バッファ65,75に送られる。出力バッファ65,75は、FIFO形式のレジスタ列であり、ある一定時間(フェードアウト時間)分のサンプル周期に従った遅延を有して、音像定位フィルタ12,22からの信号が出力される。なお、このときにも、入力バッファ62,72には、A/D変換器61,71からのデジタル信号列が蓄えられる。 【0058】次に、音像定位位置変更の信号(位置制御信号)がインタフェース部53に入力した場合、先ず、係数バッファ64,74の係数が入れ替えられる。その後、セレクタSELが切り替えられ、それまでに蓄えられている入力バッファ62,72のデジタル信号列を用いて高速に、音像定位フィルタ12,22で音像定位の出力が計算され、その演算結果は出力バッファ66,76に蓄えられる。この音像定位フィルタの演算は、サンプル周期に依存せず、入力バッファ62,72の既知のデータをそのまま用いることができるため、高速演算が可能となる。 【0059】このようにして得られた出力バッファ65,75の内容と出力バッファ66,76の内容とは、旧係数での出力データと新係数での出力データになり、フェーダ67,77において、これらの2つのデータを用いて図11に示すようにフェードイン・フェードアウト処理を行なえば、係数切り替え時の問題を起こすことなく、円滑に音像を動かすことが可能になる。 【0060】 【発明の効果】以上に説明したように、請求項1記載の発明によれば、入力された音源信号をデジタル信号に変換するA/D変換手段と、各音像定位位置に対して測定された頭部伝達関数を模擬する音像定位フィルタと、音像定位フィルタの係数を記憶する係数記憶手段と、係数記憶手段に記憶されている係数を変更することにより音像定位フィルタの特性を操作し、音源信号の聴覚上の位置を制御する制御手段と、音像定位フィルタのデジタル出力信号をアナログ信号に変換するD/A変換手段とを有し、前記音像定位フィルタには、単一のIIRフィルタが用いられ、前記制御手段は、頭部伝達関数を模擬する音像定位フィルタに対し、与えられた目標頭部伝達関数の周波数特性を近似する特性パラメータ値をもって音像定位フィルタの係数値を演算する係数演算手段を具備しており、音像定位フィルタに、従来、大規模なハードウェアが必要であったFIRフィルタではなく、単一のIIRフィルタを用いることにより、簡素なハードウェアで、音像定位制御を行なうことが可能となる。特に、本発明によれば、ゲーム機やパーソナルコンピュータ等にも搭載可能な回路規模の小さく、音像定位感に優れた音像定位装置を提供できる。 【0061】また、請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の音像定位制御装置において、前記係数演算手段は、音像定位フィルタの特性値を特性パラメータ値を変更することによって変更するので、従来、予め計測したインパルス応答に対する係数セットを保持していたため容易に変更できなかった音像定位フィルタの特性値が、周波数特性を代表する特性パラメータ(中心周波数、遮断周波数、尖鋭度、利得)を変更することにより容易に変更できる。 【0062】また、請求項3記載の発明によれば、請求項1または請求項2記載の音像定位制御装置において、前記制御手段は、さらに、音源信号の聴覚上の位置を変更する際に、前記頭部伝達関数の周波数特性を近似する特性パラメータ値について、変更する前の位置での特性パラメータ値と変更した後の位置での特性パラメータ値との間の補間値を演算するパラメータ補間値演算手段を具備しているので、音像定位フィルタの2つの位置間のパラメータの補間値が容易に演算でき、円滑に音像の移動を行なうことが可能となる。 【0063】また、請求項4記載の発明によれば、単一の音像定位フィルタと、単一の音像定位フィルタの特性を変更するのに音像定位フィルタの係数を切り替える係数切り替え手段と、係数切り替え手段によって切り替えた係数を蓄える係数保持手段と、音源定位フィルタの入力信号となる音源信号を蓄える入力バッファ手段と、音像定位フィルタの出力信号を一定時間蓄える出力バッファ手段と、出力バッファ手段のフェードイン・フェードアウト機能を制御するフェードイン・フェードアウト制御手段とを具備し、単一の音像定位フィルタの係数を切り替える際に、単一の音像定位フィルタにおいて係数を切り替える前の出力信号と係数を切り替えた後の出力信号のクロスフェードを行なう制御がなされるので、従来、音像定位フィルタの切り替える際に大規模なFIRフィルタを複数個用いてフェードイン・アウトの機能を、単一の音像定位フィルタで行なうことが可能となる。またIIRフィルタについてもフィルタ特性が安定するまでの時間は短いが同様な効果を得ることができる。
|
| 【出願人】 |
【識別番号】000006747 【氏名又は名称】株式会社リコー
|
| 【出願日】 |
平成10年7月1日(1998.7.1) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100090240 【弁理士】 【氏名又は名称】植本 雅治
|
| 【公開番号】 |
特開2000−23299(P2000−23299A) |
| 【公開日】 |
平成12年1月21日(2000.1.21) |
| 【出願番号】 |
特願平10−201190 |
|