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【発明の名称】 弁構造
【発明者】 【氏名】神徳 哲行

【氏名】脇田 朋広

【氏名】佐藤 裕史

【氏名】石川 光世

【要約】 【課題】リード弁の曲げ疲労破壊や衝撃疲労破壊に対する耐久性を向上させることができるリテーナを備えた弁構造を提供する。

【解決手段】座標原点から弁孔中心Cまでの距離をLとし、弁孔中心Cでリード弁をY軸方向に押圧して弁孔区画体(X軸に沿って存在)から離間させたときのリード弁の自由曲げ形状を座標(x,f(x))で表し、自由曲げ時のx=Lでの離間長をHとし、自由曲げ形状のy座標関数f(x)において f(x’)=H/2を充足するx座標値をx’とする。開弁時に湾曲したリード弁の背面に当接可能なリテーナの規制面のプロフィルを設定するに際し、そのプロフィルが座標(x’,f(x’)−K)(但しKは正の値)を含むようにして、部分的にリード弁の自由曲げ時の想定ラインよりもX軸に接近する側に張り出させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】弁孔を区画する区画体と、前記弁孔を開閉可能な弾性舌片状の弁部材と、前記弁部材の背面と向き合う規制面を持ったリテーナとを備え、前記リテーナに接近する方向に湾曲した弁部材の背面を該リテーナの規制面に当接させて弁部材の湾曲を制限する弁構造において、弁孔を閉じた状態の弁部材及び区画体の延在方向をX軸方向とし、前記延在方向と直交する弁部材の湾曲方向をY軸方向とし、前記弁部材の根元付近から始まる前記リテーナ規制面のプロフィルの始点を前記X軸及びY軸からなる二次元座標系(x,y)の原点とすると共に、前記原点から前記弁孔中心までの距離をLとし、前記弁孔中心に対応するx座標位置で前記弁部材をY軸方向に押圧して区画体から離間させたときの当該弁部材の自由曲げ形状を座標(x,f(x))で表し、自由曲げ時におけるx=Lでの前記弁部材と前記区画体との離間長をH(即ちf(L)=H)とし、前記原点と前記弁孔中心との間にあってf(x’)=H/2の関係を満たすx座標をx’とし、更にy軸方向へのずれ量をK(但し0<K)とするとき、前記リテーナ規制面のプロフィルは、座標(x’,f(x’)−K)を含むように設定されることで前記原点から弁孔中心までのx座標範囲において前記弁部材の自由曲げ時の想定ラインよりも前記区画体に接近する側に張り出していることを特徴とする弁構造。
【請求項2】前記リテーナ規制面のプロフィルは前記座標(x’,f(x’)−K)の他に、座標(L,f(L))をも含むように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の弁構造。
【請求項3】前記ずれ量Kは、x=Lでの弁部材と区画体との前記離間長Hの3%〜20%に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の弁構造。
【請求項4】前記原点から前記弁孔中心までのx座標範囲における前記弁部材の自由曲げ形状のy座標を示す関数f(x)は、下記数1の式:【数1】

で表されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の弁構造。
【請求項5】前記弁孔中心から前記弁部材の先端方向に向かうx座標範囲においては、前記リテーナ規制面のプロフィルは、前記弁部材の自由曲げ時の想定ラインよりも前記区画体から離れる側に後退していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の弁構造。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、弁孔を持った区画体と、弁部材と、規制面を持ったリテーナとを備え、前記リテーナに接近する方向に湾曲した弁部材の背面を該リテーナの規制面に当接させて弁部材の湾曲を制限する弁構造に関する。
【0002】
【従来の技術】特開平7−151264号公報は、ピストン型圧縮機の排出弁組立体を開示する。その排出弁組立体は、根元が固定されると共に自由端たる先端部で排出孔を閉塞可能な排出用弁部材と、その弁部材が一定限度以上に開くのを制限すべく弁部材と向き合って設けられた弁止め(リテーナ)とを備えている。この先行技術では、ピストンシリンダからの圧縮ガスの排出時に弁部材が開いて弁止めに衝突することに起因する騒音を低減することを目的として、弁止めの形状を最大許容応力時の弁部材の湾曲形状に対応させている。即ち、弁止めのプロフィルをそのプロフィルの各接触点において弁部材が最大許容応力に達するように設計することで、弁部材の位置エネルギーが最大となる一方で運動エネルギーが最小となる瞬間に弁部材が弁止めに衝突するようにし、両者の衝突に起因する騒音を抑制している。もっと簡単に言うと、この先行技術は、弁止めのプロフィルを、弁部材の先端部を閉位置から垂直に押し上げていったときの弁部材の自由曲げ形状にほぼ一致させたものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、リテーナを併設した弁構造においては、弁とリテーナとの衝突による騒音の問題以前に基本的に解決すべき課題がある。それは、繰り返し開閉動作にさらされる弁構造の耐久性を向上させることである。弁構造の耐久性向上とは具体的には、弁部材が根元で折れるという事態を未然防止することであり、又、弁部材が閉じて排出孔(弁孔)の区画体に衝突することに起因する弁部材及び/又は区画体の欠損を極力防止することである。このような基本的技術要請の観点から見れば、前記先行技術は満足すべき耐久性を備えたものとは言えず、弁部材の曲げ疲労破壊(根元での折れ)や閉弁時の衝撃疲労破壊(欠損)に対する耐久性に不安を残していた。
【0004】本発明の目的は、従来よりも弁部材の曲げ疲労破壊や衝撃疲労破壊に対する耐久性を向上させることができる弁構造を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明(請求項1)は、弁孔を区画する区画体と、前記弁孔を開閉可能な弾性舌片状の弁部材と、前記弁部材の背面と向き合う規制面を持ったリテーナとを備え、前記リテーナに接近する方向に湾曲した弁部材の背面を該リテーナの規制面に当接させて弁部材の湾曲を制限する弁構造において、弁孔を閉じた状態の弁部材及び区画体の延在方向をX軸方向とし、前記延在方向と直交する弁部材の湾曲方向をY軸方向とし、前記弁部材の根元付近から始まる前記リテーナ規制面のプロフィルの始点を前記X軸及びY軸からなる二次元座標系(x,y)の原点とすると共に、前記原点から前記弁孔中心までの距離をLとし、前記弁孔中心に対応するx座標位置で前記弁部材をY軸方向に押圧して区画体から離間させたときの当該弁部材の自由曲げ形状を座標(x,f(x))で表し、自由曲げ時におけるx=Lでの前記弁部材と前記区画体との離間長をH(即ちf(L)=H)とし、前記原点と前記弁孔中心との間にあってf(x’)=H/2の関係を満たすx座標をx’とし、更にy軸方向へのずれ量をK(但し0<K)とするとき、前記リテーナ規制面のプロフィルは、座標(x’,f(x’)−K)を含むように設定されることで前記原点から弁孔中心までのx座標範囲において前記弁部材の自由曲げ時の想定ラインよりも前記区画体に接近する側に張り出していることを特徴とする。
【0006】この構成によれば、前記二次元座標系(x,y)の原点と弁孔中心との間にあってf(x’)=H/2の関係を満たすx座標値(x’)に対応するリテーナ規制面プロフィルのy座標値が、自由曲げ時に湾曲した弁部材のy座標値よりも正のずれ量Kだけ少なくなっている。そして、その結果、リテーナ規制面のプロフィルは、原点から弁孔中心までのx座標範囲において、弁部材の自由曲げ時の想定ラインよりも区画体に接近する側に張り出す格好となっている。このため、開弁動作時に弁部材がリテーナに向けて湾曲するに従い、弁部材がその根元付近から徐々にリテーナの規制面に接触していく。このとき、弁部材が湾曲の度合いを高めるにつれて、弁部材背面とリテーナ規制面との当接点(曲げ支点となる)が前記原点から弁部材の先端部に向けて次第に移動する。従って、この構成によれば、弁部材の開弁時に、座標原点(リテーナ規制面のプロフィル始点)に位置する弁部材の根元に対する応力の集中が回避又は緩和され、弁部材の曲げ疲労破壊や衝撃疲労破壊に対する耐久性が向上する。これに対し、仮にリテーナ規制面のプロフィルとして弁部材の自由曲げ形状に一致するプロフィルを採用した場合(つまり従来技術の場合)には、弁部材の曲げ支点は常に二次元座標系(x,y)の原点にあって移動することがないため、弁部材の根元への応力集中は避けられない。
【0007】請求項2〜5に記載の各発明は、本発明をより好ましい構成に限定するものであり、各々の技術的意義は後述の「発明の実施の形態」の説明で明らかとなる。そこでの説明に先んじて若干付言するとすれば、請求項2の弁構造によれば、弁孔中心に対応するx座標位置(x=L)でのリテーナ規制面と区画体との離間長はH(=f(L))となって自由曲げ形状のプロフィールと一致する。請求項3は、ずれ量Kの好ましい範囲について言及したものであり、その上限値及び下限値の臨界的意義は後ほど明らかとなる。又、請求項5の弁構造によれば、座標の原点から弁孔中心までのx座標範囲におけるリテーナ規制面のプロフィルと、弁孔中心以降のx座標範囲におけるリテーナ規制面のプロフィルとの滑らかな連続性を確保し易くなる。
【0008】
【発明の実施の形態】以下に、本発明を車輌用空調装置に用いられる斜板式圧縮機に適用した一実施形態について説明する。図1は斜板式圧縮機の一例である10気筒の両頭ピストン型斜板式圧縮機を示す。図1に示すように、圧縮機を構成するフロント側のシリンダブロック1とリヤ側のシリンダブロック2とは図の中央部で接合されている。シリンダブロック1,2の各々には、複数のシリンダボア8(各五つ)がスラスト方向の中心軸の周りに等角度間隔にて貫通形成されている。フロント側シリンダブロック1の前端面には弁構成体3を介してフロントハウジングカバー5が、リヤ側シリンダブロック2の後端面には弁構成体4を介してリヤハウジングカバー6がそれぞれ接合されている。これら弁構成体3,4によって各シリンダボア8の一端が封止される。そして、前記部材1,2,3,4,5及び6は複数の通しボルト7(一つのみ図示)により互いに締付固定され、これらにより圧縮機のハウジングが構成されている。
【0009】各シリンダボア8の内部には両頭型ピストン9の片頭部が往復動可能に収容されている。ピストン9の各端面と弁構成体3又は4との間において各シリンダボア8内には、ピストン9の往復動に応じて容積変化する圧縮室が確保される。他方、両シリンダブロック1,2の接合域にはクランク室10が区画形成されている。このクランク室10内には駆動軸11が回転可能に設けられている。駆動軸11の前端部は圧縮機ハウジングの外に突出し、図示しない動力伝達機構(電磁クラッチ等)を介して外部駆動源(車輌エンジン等)に作動連結されている。クランク室10内において、駆動軸11上にはカムプレートとしての斜板12が一体回転可能に固定されている。この斜板12の外周部は前後一対のシュー13を介して各ピストン9に係留されている。この構成により、駆動軸11の回転運動が斜板12及びシュー13を介してピストン9の往復直線運動に変換される。
【0010】フロント及びリヤの各ハウジングカバー5,6内には環状隔壁14が形成されている。この環状隔壁14により、各ハウジングカバー5,6とそれに対応する弁構成体3,4とによって囲まれた空間は、その隔壁14の内側に位置する吐出室15と、その隔壁14の外側に位置する吸入室16とに区画されている。吸入室16と吐出室15とは図示しない外部冷媒回路によって接続されており、この外部冷媒回路と当該圧縮機とで車輌用空調装置の冷房回路が構成される。外部冷媒回路から吸入室16に戻された冷媒ガスは、各ピストン9の往動に伴って後述する各弁構成体3,4の吸入ポート及び吸入弁を介してシリンダボア8内に吸入される。吸入されたガスは各ピストン9の復動に伴って圧縮されると共に、後述する各弁構成体3,4の吐出ポート及び吐出弁を介して吐出室15に吐出され、その高圧冷媒ガスは前記外部冷媒回路に再び送り出される。
【0011】前記二つの弁構成体3,4は構造も機能も等価な組立て体である。図1及び図4に示すように、各弁構成体は、内側ガスケット21と、吸入弁形成板22と、区画体としての中央バルブプレート23と、吐出弁形成板24と、外側ガスケットを兼ねるリテーナプレート25とからなり、この順にシリンダボア側から重ね合わせて構成されている。
【0012】中央バルブプレート23には、各シリンダボア8に対応して吸入ポート17及び吐出ポート(弁孔)18がそれぞれ形成されている。吸入ポート17は吸入室16を各シリンダボア8内の圧縮室に連通させる。又、吐出ポート18は各シリンダボア8内の圧縮室を吐出室15に連通させる。内側ガスケット21にも、中央バルブプレート23の吸入ポート17及び吐出ポート18に対応して各シリンダボア毎に透孔が形成されている。吸入弁形成板22には、中央バルブプレート23の各吸入ポート17を開閉可能な吸入弁22aが形成されている。他方、吐出弁形成板24には、中央バルブプレート23の各吐出ポート(弁孔)18を開閉可能な吐出弁24aが形成されている。吸入弁22aも吐出弁24aも、各々に対応するポートを開閉可能な弾性舌片状の弁部材であり、より好ましくはフラッパ型のリード弁である。
【0013】各弁構成体において吐出弁形成板24の外側に隣接配置された外側ガスケット兼用のリテーナプレート25は、図2に示すような全体形状を持つ。このリテーナプレート25は、吐出弁形成板24に設けられた各吐出弁24aに対応して略放射状に延びる複数のリテーナ26(本例では5つ)を有している。リテーナ26は、それに対応する吐出弁24aの湾曲の最大限度を定めて吐出弁の最大開度を規制することにより吐出弁24aの保護を図るための部位又は要素である。このため各リテーナ26は、吐出弁24aの背面と向き合うと共にそのリテーナに向かって湾曲してきた吐出弁24aの背面を受け止め(当接)可能な規制面27を有している(図2及び図4参照)。尚、リテーナプレート25の外形状は金属母材を加工した時点で得られるものであるが、その付形加工後のプレート表面には、膜厚が数十〜数百ミクロンのゴム製コーティング層(図示略)が形成され、リテーナプレート25がガスケットの役目をも兼ねるようにしている。
【0014】図1,図3及び図4に示すように、各リテーナ26の根元(基端部)は、ハウジングカバー5,6の一部(吐出室15の区画壁部)と、吐出弁形成板24以下の弁構成体及びシリンダブロック1,2との間に挟圧状態で介在されている。また、各リテーナ26の先端部は、前記隔壁14と中央バルブプレート23以下の弁構成体との間に挟圧状態で介在されている。各リテーナ26は概して、その基端部から先端部に向かうにつれて(つまり図4の左から右に向かうにつれて)中央バルブプレート23から次第に離れるように反った形状をなしており、規制面27のプロフィルもその反りにほぼ対応している。そして、各リテーナ26の規制面27の長手方向中央付近は、吐出弁24aを挟んで吐出ポート18と対向している。
【0015】本件の特徴点は、吐出弁24aの背面と対向するリテーナ規制面27のプロフィル(輪郭)の設定にある。この点を図4及び図5を参照して説明する。図5では、X軸及びY軸からなる二次元座標系(x,y)を用いてリテーナ規制面27のプロフィル(実線で示す)を数学的に記述している。該座標系のX軸は、吐出ポート(弁孔)18を閉じた状態の吐出弁(弁部材)24a及び中央バルブプレート(区画体)23の延在方向と一致している。又、座標系のY軸は、前記X軸と直交して吐出弁24aの湾曲方向に向かっている。尚、この二次元座標系では数学的記述を容易にするために、吐出弁24aの根元付近から始まるリテーナ規制面27のプロフィルの始点を当該座標系(x,y)の原点(0,0)とみなしている。更に原点から吐出ポート18の中心Cまでの距離をLとしている。
【0016】図5のグラフには、本件のリテーナ規制面27のプロフィル(実線)の他に、参考例たる従来技術に従ったリテーナのプロフィル(破線)も示されている。この参考例は、前記従来技術(特開平7−151264号)に開示された弁止めと等価なものと考えて良い。即ち、図5の参考例は、図4の構成からリテーナ26を除いた状況下で、弁孔中心Cに対応するx座標位置(つまり吐出ポート18の中心位置)で吐出弁24aをY軸方向(つまりボア8側から吐出室15側に向かう方向)に押圧して中央バルブプレート23から離間させたときの当該吐出弁24aの自由曲げ形状を座標(x,f(x))で表し、グラフ上にプロットしたものである。このときの吐出弁24aの自由曲げ形状のy座標を示す関数f(x)は、原点から弁孔中心Cまでのx座標範囲においてはほぼ下記数2の式で表すことができる。
【0017】
【数2】

但し、弁孔中心Cよりも先のx座標範囲においては、y座標関数f(x)は必ずしも上記数2の式に一致するとは限らない。なお、図5に示すように、自由曲げ時における押圧位置(x=L)での吐出弁24aと中央バルブプレート23との離間長をHとすると、f(L)=Hとなる。
【0018】このような自由曲げ形状に対し、本件のリテーナ規制面27のプロフィルは、原点から弁孔中心Cまでのx座標範囲において、吐出弁24aの自由曲げ時の想定ライン(図5の破線)よりも中央バルブプレート23に接近する側に張り出すように設定されている。より具体的には、前記自由曲げ関数曲線f(x)上において吐出弁24aの押圧点と中央バルブプレート23との離間長Hの半分の距離(H/2)にあたる位置[つまり座標(x’,f(x’))]を基準とし、それよりもリテーナ規制面27の位置をずれ量K(但し0<K)だけ中央バルブプレート23寄りに接近させている。換言すれば、原点と弁孔中心Cとの間にあってf(x’)=H/2の関係を満たすx座標値をx’とした場合、座標(x’,f(x’)−K)を通過するような曲線に沿って、リテーナ規制面27のプロフィルが設定されている。このプロフィルは、原点及び前記座標(x’,f(x’)−K)の他に、座標(L,f(L))=(L,H)をも含むものとなっている。尚、Y軸方向への前記ずれ量Kは、前記離間長Hの3%〜20%(より好ましくは5%〜18%)程度に設定されている。ずれ量Kが離間長Hの3%未満では、自由曲げ形状曲線との差が少なく、ずれ量Kだけ意図して接近させることの意味合いが薄れる。他方、ずれ量Kが離間長Hの20%を超えると、開弁時に吐出弁24aに却って無理な応力がかかるおそれがある。
【0019】弁孔中心Cから更に吐出弁の先端方向に向かうx座標範囲では、本件のリテーナ規制面27のプロフィルは特に限定されるものではない。しかしながら、原点から弁孔中心Cまでのx座標範囲において中央バルブプレート23寄りに張り出したプロフィルとの滑らかな連続性を担保するためには、図5のように、吐出弁24aの自由曲げ時の想定ライン(図5の破線)よりも中央バルブプレート(区画体)23から離れる側に後退したプロフィルを設定することが好ましいであろう。ちなみに、原点から弁孔中心Cまでのx座標範囲におけるプロフィルを基準として、それに対する座標(L,H)での接線を描くことで、弁孔中心Cから先のx座標範囲における本件のプロフィル(図5の実線)を容易に設定することができる。
【0020】本件と参考例とのプロフィルの違いがリテーナの機能面に与える影響は、吐出弁24aの開閉動作時における弁の曲げ支点の移動の有無として現われる。図6は、参考例において弁孔中心Cでの吐出弁のリフト量を前記離間長Hの5/8及び7/8とした場合の吐出弁の反り状況を概念的に示す。同様に図7は、本件において弁孔中心Cでの吐出弁のリフト量を前記離間長Hの5/8及び7/8とした場合の吐出弁の反り状況を概念的に示す。図6(参考例)の場合には、吐出弁のリフト量をいかように変化させても、吐出弁の曲げ支点Pは常にx−y座標系の原点にありこれが移動することはない。これに対し図7(本件)の場合には、吐出弁のリフト量を増大させるに従い、吐出弁の実質的な曲げ支点がP0→P1→P2と弁孔中心Cに次第に近づいていく。このような使用時特性の違いが、吐出弁24aにおける曲げ応力や、吐出弁24aが弁孔18を再閉塞するときに中央バルブプレート23に衝突する速度の違いを生み出す。
【0021】図8のグラフは、弁孔中心C位置での吐出弁24aのリフト量と、リフト時に吐出弁に生じた曲げ応力の実測値との関係を示す。曲げ応力は、リテーナ26の根元付近(図3に一点鎖線で示す)にゲージを設定して測定した。図8からわかるように、参考例の場合には、リフト量の増大にほぼ比例して曲げ応力が増大している。これに対し、本件の場合にはリフト量を増大していったときでも、リフト量が0.3Hを超える辺りから曲げ応力の増大傾向が非常に緩やかになっている。従って、例えば吐出弁24aの構成材料等の事情によりその疲労限界が仮に1000MPaであるとするならば、最大リフト量が0.7H以上の場合には参考例では弁折れの可能性が高いのに対し、その場合でも本件では弁の曲げ応力が弁折れレベルにまで達しない。このように本件構成によれば、リフト量の増大に伴う吐出弁の曲げ応力の上昇が抑制され、結果として曲げ疲労に起因する弁部材の折れが生じ難くなる。
【0022】図9は、本件リテーナにおいてプロフィールの前記ずれ量Kを0、0.05H及び0.10Hとした各場合における、弁孔18の再閉塞時に吐出弁24aが中央バルブプレート23に衝突するときの速度を示したものである。図9のグラフの黒丸は、シリンダボア8から吐出室15へ吐出されるガス圧(吐出圧Pd)が1.9MPaのときのデータである。又、黒三角は吐出圧Pdが2.5MPa、白丸は吐出圧Pdが3.1MPaのときのデータである。なお、K=0の場合とは参考例に他ならない。図9からわかるように、いずれの吐出圧Pdの場合も、本件構成での衝突速度が参考例の場合よりも低下している。更に一般的傾向として、ずれ量Kを大きくするほど衝突速度が低下している。このように本件構成によれば、吐出弁24aの中央バルブプレート23に対する衝突速度が低下して、衝撃疲労に起因する弁部材の欠けが生じ難くなる。
【0023】本件構成の方が参考例の構成よりも前記衝突速度が低下傾向にあることは、図10のグラフを参酌して合理的な説明が可能である。図10は、本件と参考例の各場合における吐出弁24aのリフト量の時間的変化を表している。
【0024】吐出弁24aの開閉動作(つまりリフト量変化)は、ピストン9が下死点位置から上死点位置(弁構成体に最接近する位置)に向かって復動する圧縮行程の末期に起きる。具体的に説明すると、ピストンの復動に基づいてシリンダボア内圧が吐出室内圧を超えようとする時点t1で吐出弁が開き始める。吐出弁のリフト量の増大に伴って吐出弁の反発弾性力(元の閉位置に復帰しようとするバネ弾性力)も次第に増大するが、シリンダボアからの吐出噴流の勢いが優っている限り吐出弁のリフト量は増え続ける。他方、シリンダボアからの吐出噴流の勢いが次第に低下し、吐出弁に蓄えられた反発弾性力が相対的に優勢になると、吐出弁が閉じ方向に戻り始めリフト量が次第に減少する。そして、シリンダボア内圧と吐出室内圧とが均衡した時点t5で吐出弁が閉じ切ると共に、反発弾性力もゼロとなる。このように、吐出弁の開き始め及び開き終わりの事情は、本件と参考例とで特に異なる点はない。しかし、吐出弁が開き切る前後でのリフト量の挙動が微妙に異なるために、吐出弁が閉じ切るときの衝突速度に違いがでる。
【0025】つまり、図10に実線で示す本件の場合には、時点t3でリフト量がピークに達すると共にそのリフト量曲線自体が正規分布的に整った形状となっている。特に本件の場合には、リテーナプロフィルが自由曲げの想定ラインよりも中央バルブプレート23寄りに張り出すことで大きく反っているので、リフト量増大に伴う吐出弁の蓄力もそれだけ早い。従って、その反発弾性力が吐出噴流の勢いを上回ることになるや否や、その反発弾性力に基づいて直ちに吐出弁が閉じ方向に向かい始める。即ち、時点t3でのピークリフト量(実測0.93mm)を閉じ切るための所要時間T1(=t5−t3)の実測値は約0.0003秒であり、その間の弁の平均閉じ速度は約3.1m/秒である。
【0026】これに対し、図10に一点鎖線で示す参考例の場合には、時点t2でリフト量がピークに達するものの、その後、時点t4まではやや躊躇しながらのリフト量減少となり、時点t4以後は時点t5まで一挙にリフト量を減少させる。このような二段階のリフト量減少となるのは、リテーナプロフィールが吐出弁の自由曲げ形状に沿っているため、リフト量の絶対値が同じならば本件構成の場合よりも反発弾性力の蓄積量が相対的に少なくなることに起因する。つまり、リフト量がピークに達した直後の一定期間(t4−t2)は、シリンダボアからの吐出噴流の勢いを強引に打ち負かすだけの反発弾性力を吐出弁が持ち合せていないのである。故に吐出噴流の勢いがやや弱まるまでの期間(t4−t2)はやや躊躇しながらのリフト量減少となる。そして、吐出噴流の勢いを吐出弁の反発弾性力が明確に凌駕することになる時点t4以後は、弁の反発弾性力と弁内外の差圧とに基づいて吐出弁は一挙に閉じ動作を完了する。従って、参考例の場合において、吐出弁が実質的な閉じ動作を行う期間は(t5−t2)というよりもむしろ、T2(=t5−t4)と理解すべきである。そして、時点t4でのリフト量の実測値は0.80mm、所要時間T2の実測値は約0.00023秒であり、その間の弁の平均閉じ速度は約3.5m/秒である。この値は、本件の場合の平均閉じ速度(約3.1m/秒)よりも大きい。
【0027】(効果)本実施形態に特有の効果は次の通りである。
〇 本件のリテーナプロフィルによれば、開弁時において弁部材24aの曲げ応力の上昇が抑制される傾向にあるため、参考例に比して曲げ疲労破壊に対する耐久性が格段に優れている。
【0028】〇 本件のリテーナプロフィルによれば、弁部材24aが弁孔18を再閉塞する際の中央バルブプレート23に対する衝突速度が低下する傾向にあるため、参考例に比して衝撃疲労破壊に対する耐久性が格段に優れている。
【0029】〇 圧縮機の連続運転により高温高圧の吐出ガスの影響を受けてリテーナ表面のゴムコーティングが劣化し、そのゴムが、ハウジングカバー5又は6の隔壁部と中央バルブプレート23との境界の基準位置からはみ出し、その結果、リテーナプロフィルの始点が二次元座標系の原点からずれてX軸方向に見掛け上移動するという困った事態が起こり得る。この点、本件構成によれば、前述のように吐出弁のリフト量に応じて弁の曲げ支点が移動し得るため、ゴム劣化によってリテーナプロフィル始点の予期しない変位が生じたとしても、その変位の影響を吸収できる。そして、何等の不都合も生じることなく当該弁構造は所期の性能を発揮することができる。
【0030】(変更例)本発明の実施形態を以下のように変更してもよい。
〇 リテーナプレート25の表面へのゴムコーティングを省略してもよい。
〇 本件発明は、その適用対象を斜板式圧縮機に限定されるものではなく、リード弁とリテーナとを併設する全ての装置に適用可能である。
【0031】(付記)前記実施形態及び変更例から把握できる各請求項に記載した発明以外の技術的思想の要点を以下に記載する。
(付1)請求項1〜5のいずれか一項に記載の弁構造を、前記弁孔としての吐出ポート、前記区画体としての中央バルブプレート及び前記弁部材としての吐出用リード弁を備えてなるピストン型圧縮機の弁構成体に適用すること。
【0032】(付2)請求項1〜5のいずれか一項に記載の弁構造において、前記リテーナの表面にはゴム製コーティングが施されて当該リテーナがガスケットを兼ねていること。
【0033】
【発明の効果】以上詳述したように本発明の弁構造によれば、従来よりも弁部材の曲げ疲労破壊や衝撃疲労破壊に対する耐久性を向上させることができる。
【出願人】 【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機製作所
【出願日】 平成11年4月16日(1999.4.16)
【代理人】 【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
【公開番号】 特開2000−304143(P2000−304143A)
【公開日】 平成12年11月2日(2000.11.2)
【出願番号】 特願平11−109494